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[22521] ※お知らせ ネギま・クロス31 【ネギま・多重クロス】 第三部《修学旅行編》
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/11/10 18:30
 現在。原因不明ですが、投稿が出来ない状態です。

 自宅だけでなく、大学や知人のPCも借りてみましたが、無理でした。恐らく、PCでは無く、理想郷内の問題だと思われます。

 管理人である舞様が、業者と便乗犯への対策を取り終わり、何とか以前の様に復帰するまで、申し訳ありませんが、更新はお待ち下さい。




・「境界恋物語」も完結したので、まずは此方の更新を再開します。

・この話は、作者の過去作品「ネギま・クロス31」の続編にして、第三部《修学旅行》編。狂乱と騒乱の京都の物語です。勢いが続けば、第四部《過去の記憶》編まで行くかもしれません。

・この話から読んでも、さっぱり話が理解出来ないと思うので、出来れば前レスの方を先にお読みください。『大停電』終了後からこの話はスタートします。

・世界融合型多重クロス。「転校生」に加え3-Aは原作以上に魔窟。そして敵も容赦が有りません。そんな中で、頑張るネギ君の成長物語です。

・原作以上に何でも有りの世界。例え「闇の魔法」で雷天2を使用しても絶対に勝てないレベルの怪物から、各作品に出て来る“あんな人”や“こんな人”まで、無駄に細かい世界設定ですが、スーパーロボット大戦みたいなノリで楽しんでくれると嬉しいです。

・今作だけでなく、前作の感想も頂けると、もっと嬉しいです。




 10月14日 序章その一
   15日 序章その二
   17日 第三部その一・前編
   18日 序章その三
   20日 序章その四
   23日 第三部その一・後編
   24日 登場人物辞典・上
   30日 第三部その二・表
   31日 登場人物事典・中

 11月1日 序章その四
   2日 第三部その二・裏
   



 クロス作品・現在29作品

 
 『R・O・D』(原作)
 『終わりのクロニクル』
 『戦闘城塞マスラヲ』及び『レイセン』『お・り・が・み』
 『Fate/stay night』及びシリーズ全般
 『ラブひな』
 『消閑の挑戦者』
 『スパイラル~推理の絆~』
 『ブギーポップ』シリーズ
 『戯言』シリーズ及び『人間』シリーズ
 『とある魔術の禁書目録』
 『コードギアス』及び『ナイトメア・オブ・ナナリー』
 『魔法少女リリカルなのはStrikerS』
 『Missing』及び『断章のグリム』
 『されど罪人は竜と踊る』
 『Rozen Maiden』 
 『封神演義』(WJ版)
 『EME』シリーズ
 『BLACK BLOOD BROTHERS』
 『吸血鬼のおしごと』及び『吸血鬼のひめごと』
 『薬屋探偵妖奇談』
 『レンタルマギカ』
 『D-Grayman』
 『ウィザーズ・ブレイン』
 『ハヤテの如く』
 『RAGNAROK』(ザ・スニーカー)
 『サクラ大戦』
 『夜桜四重奏』
 『東方project』
 『Get Backers』



[22521] 登場人物事典(上)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/11/02 22:49

 登場人物紹介です。上中下に分割して投稿します。
 ネタばれを非常に多く含む上、非常に多いので、“覚悟して”お進みください。






 ●『R.O.D』からの登場




 読子・リードマン


 言わずと知れた《紙使い》。ザ・ペーパーの異名を持つ大英図書館のエージェント。そこそこ強い。あらゆる紙が味方であるので、図書館や本屋では本気のタカミチでも苦戦する。

 亡き恋人の形見である黒縁眼鏡に、防弾防刃防火絶縁体のコート、そして大量に持ち歩く紙と本という出で立ちで、顔の造詣もスタイルもかなり良いのに、生活全てを本に捧げているが故に無造作。宝の持ち腐れ。勿体ない。
 今現在は図書館島の司書をしており、宮崎のどかとは親しい友人。神保町で数年前に出会って以来、彼女に《紙使い》の才能があることを発見した。しかし、のどかを大英博物館に関わらせるつもりは無い様である。のどか繋がりで図書館島の面々とは知り合いになった。

 大英博物館から派遣された、司書達の指揮官兼隊長。大司書長のアルビレオと接触した経験もあるようである。ただ、どうやら彼女と《赤き翼》の間には抗争は無かったように「見える」ので、彼女の先代・ドニーとの間のことなのかもしれない。
 大英博物館が組織として暗躍を続ける中で、いったい彼女は何を選んで行動していくのか……。




 Mrジョーカー


 現在の大英図書館の代表者。原作では本篇が終了していないので困ったけれども、一番最近に出た話では、彼は責任者なのでここに居座ってもらっている。

 読子の上司で、話し方は軽いが意外と執念深くて、ついでにかなりの策略家。言い換えれば腹黒い。ネギの来訪にも良い顔をしなかった。
 特別に悪い人では無く、私人として見ればそれなりに良い人だけれども、この話では悪者扱いが多い。常に中立で動く大英博物館の立ち位置があるため、良くも悪くも公人の姿が多いから。

 宮崎のどかに《紙使い》の才能があることを知って、彼女をそれとなく『大英博物館』に勧誘しようと考えているらしいが、今の処は読子に防がれている。
 謎の秘密結社『ミュージアム』という組織と関係を結び、“知識の収集”という理念を実行している。






 ●『終わりのクロニクル』からの登場


 佐山御言


 元『全竜交渉部隊』隊長にして、現在『UCAT』の本部長。年を経たら大城至みたいになりそうだ。
 麻帆良とは『UCAT』の協力組織として友好関係を結んでおり、同じ立場にある組織達の纏め役である。ネギの来訪に反発する面々を説得し、一年間の監視と見極めと言う名目で、ネギを滞在させる事を呑み込ませた男でも有る。

 勿論、善意では無く、その裏には組織としての計画も存在する。
 ヒオと原川を真帆良に送り込んだ張本人。ネギ・スプリングフィールドを取り巻く状況が予想よりも大きな問題であると知り、麻帆良に協力する組織の中で友好関係を結べそうな物を探り始めた様子だ。

 世界の中心にいる男。少なくとも本人はそれを信じている。傲岸不遜の変態で、人間として間違っているかもしれないが、人として間違ったことはしていないと言う存在。
 頭脳・格闘・交渉術に優れているが、彼の真骨頂は軍勢を鼓舞する事。戦力も何も関係が無い。彼がそこにいるだけで一兵卒に至るまでの全ての戦力が通常以上の力を出し、そして敵を怯ませるほどの熱と勢いと強さを持って相手に向かっていく軍団となりえる。
 カリスマAとかは普通に持っているに違いない。




 新庄運切


 『全竜交渉部隊』の一員。現在は『UCAT』本部長補佐官。
 佐山の相方にして突っ込み役。ストッパーに成りきれていないストッパーで女房。そしてその為には意外と手段を選ばない娘。
 『全竜交渉』においては色々な意味で物語に大きく関わっていたが、今現在は佐山の補佐官として仕事をしている。ちなみに常識人に見えて以外と現代常識に疎い。

 なお、彼女の尻は後の世(この話には一切関わらない……かもしれない『境界線上のホライゾン』)において尻神信仰(佐山発案)の、どうやら祭神に祭り上げられている。不憫だ。




 ヒオ・サンダーソン


 麻帆良の航空技術研究会所属、現在は大停電で損傷した《雷の眷属(サンダーフェロウ)》修復の為、アメリカに行っている。
 『UCAT』所属元『全竜交渉部隊』の対機竜戦力。金髪のアメリカ人。よく脱ぐ。何故か脱ぐ。原川の前では妙に脱ぐ。そのまま布団に入って圧し掛かって来た事もある。ちょっと問題だと思う。

 陸上競技が得意であり、才能あり。後半に入ってから加速するタイプらしい。
 機竜《雷の眷属》は彼女に何かがあると直ぐに飛んでくる。それで銃砲向ける。知らず知らずのうちに脅しになっている。
 原川とは結構深い仲。




 ダン・原川


 ヒオと同じく『UCAT』所属の青年。黒のサングラスに長身細身、クールな男で、ヒオの相棒。公私ともに相棒。機竜を稼働させるのがヒオ、操縦するのが原川である。
 原川は母親の名字であり、父親の姓はノースウィンド。ヒオが雷(サンダーソン)で原川が北風(ノースウインド)なわけだ。

 『UCAT』の常識人なのだが、周囲に振り回されて変態扱いされることが多い。
 冷静に見えるが結構熱い男。




 戸田命刻


 元『ノア』の主人にして、現在は『UCAT』の一員。佐山の部下の扱い。常識人。その戦闘能力は佐山以上であるが、今は常識人故に苦労を重ねているようである。

 かつて『全竜交渉部隊』と戦った女性。上位世界『TOP-G』の住人の生き残り。佐山と対になる存在であり、「もう一人の佐山」とも言うべき存在だった。
 双刀を操る冷静な女性だが、意外と感情的で人情家。同郷の新庄とは、仲の良い友人である。




 月詠史弦


 『UCAT』開発部室長。元2nd-Gの王族。外見は優しいお婆さん。
 馬鹿と変態がかなりの比率を占める開発部を、苦労しながらも取り持っている。

 当然、大河内アキラも顔見知り。アキラのメイン武装である概念槍『P-rz』は、アキラの両親と彼女、序に開発主任によって生み出された、かなりの特注品らしい。
 因みに、遥か先祖に当る初代の王族は、“本物の月”に築かれた都で月夜見と呼ばれて生きている。




 八号


 『UCAT』本部長秘書官。極一部に非常に毒舌な、万能メイド。
 自動人形で、書類仕事から重力制御による近接での銃格闘まで、何でもこなすメイド。
 なんかもう、この話に出てくる中に、まともなメイドは、多分いない。




 大城一夫


 UCATの元全部長。立場的には凄いのだが、しかし敵味方含めあらゆる生物から邪魔者扱いされる、エロと煩悩に塗れた変態ジジイ。かつて戦場で特攻させられた時、敵も味方も戦闘を中断し万歳三唱を唱えた位の、嫌な方に凄い存在。
 概念戦争中に特攻して消滅。誰もが其のまま消えている事を望んでいる。
 でも、出て来ないと断言が出来無いのが、この爺だ。




 出雲覚


 『全竜交渉部隊』の前線。武器は大剣。無駄に高い防御力をもつ。ヒオと原川の会話に出て来た「暴力カップル」の旦那の方。10th-G神族(北欧神話)の血を引く、クウォーター。
 女房共々、多分、何処かで出る。




 飛場竜司


 『全竜交渉部隊』の対武神(簡単にいえば巨大なロボットで、操作方法はモーションキャプチャー)戦力。美影という彼女がいるものの、出雲と共に煩悩に従った行動をすることが多い。
 物語の進行と共に、扱いが徐々に適当になって行った。




 ホライゾン・アリアダスト


 未来において、全長十キロを超える巨大戦艦『武蔵』に搭乗する姫。
 絶対に出るとだけ言っておきます。






 ●『戦闘城塞マスラヲ』及び『お・り・が・み』『レイセン』からの登場




 川村ヒデオ


 本名を川村英雄。言わずと知れた『戦闘城塞マスラヲ』及び『レイセン』の主人公。現在は麻帆良学園の公民講師。教員免許は持っていないが、宮内庁の役人と言う事で偽造されている。

 体力も並、頭脳も並みだが、眼光だけは歴戦の軍人や吸血鬼すらも退かせる。つまり外見だけは非常に怖い。当初はその眼光から、やくざだのマフィアだの殺し屋だの噂されてきたが、そこは麻帆良の生徒達。極普通の青年であり、どうやら無口だが親切な人間であると知ったそうだ。

 その頭脳は主に閃きと推理能力であり、相手の盲点を突く行動は変わらない。普段はさえない青年だが、元々が弱者なので、英雄だとか勇者とかの存在には、結構、心の鬱憤を出すこともある(ネギとか長谷部翔希とか)。
 特に、こと勝負になるとその頭脳は恐ろしい閃きを発揮し、敵のフィールドで勝ちを収めることが出来る冴えを見せる。それゆえに、聖魔杯では非常に注目を浴びていた。自分の描いた未来を掴むために努力する――――その姿を見た《闇》は、彼が確かに未来を見る魔眼の持ち主であると認めた。
 《闇》に認められたため、いつでも彼(性別はないが)を呼び出すことが出来る。闇を呼ぶ要領で、精霊を呼ぶことも可能。




 ウィル子


 《億千万の電脳》とも呼ばれる最新の神。情報世界の担い手となることを聖魔杯でヒデオに諭され、現在は地上と天界を往復しながら楽しく生活している。電脳に対する人々の想いが集まり、形に成った神。

 元々が超愉快型極悪感染ウイルスで、要は悪戯好きのコンピューターウイルス。悪戯で好き勝手に過ごしていたら、ハードごと捨てられてヒデオに拾われた。彼に取り憑いた当初は、ヒデオを道具扱いしていたが、聖魔杯を通じて相棒と認め、唯一の自分の眷属として後の世まで伝える事となる。
 その基盤は、玖渚友以下の『チーム』によって構成された。麻帆良大停電では、玖渚友とチームに“MAKUBEX”を加えた連中を相手取り、電子戦を繰り広げる。結果は引き分け。麻帆良学園祭で再戦する事を約束して別れた。

 全てをデータに構築し再構成させることが出来るので、理論上は開闢から終焉までのあらゆる物を造ることが可能。エネルギーと情報さえあれば、何でも生み出せる。そして実際、アレイスター・クロウリーから『アンダーライン』の技術を盗んでいる。
 過去に、みーこの魔力に当てられた影響で胃がある。データだけでなく食物を食べると美味しい。




 北大路美奈子


 現在は古典の教師をしている警察官。正義感も強く、良い人なのだが、少々早とちりがある。その為、ヒデオは、聖魔杯で出会って早々に岡丸で殴られ、引っ越しで隣人になった瞬間に薬物中毒扱いされた。

 何かどこかでフラグを立ててしまったらしく、ヒデオを相当に意識している。食事を造りに行くならまだしも、実家に合わせに行くとか聖魔杯終了後に言っていた。
 近頃は、ヒデオの周りに色んな女性の影が見えてきて、気が気では無い様子。




 岡丸


 北大路美奈子の持つ十手。インテリジェント十手。人間であった頃は北大路岡丸という名。この話では祖先と言う設定である。美奈子が古典の授業を行えるのは、彼が居るから。

 元は江戸の奉行所に勤めていた人格者だったそうだ。義理人情に厚く、丁寧で礼儀正しく、常に冷静で寡黙、背中で語る仕事人……なのだが、酒が入ると途端にボケる。何故か酒が飲める。色んな意味で変だ。
 なんでも、江戸時代に日本を襲った『千年伯爵』という存在の事も知っているとか……。




 《億千万の闇》


 アンリ・マンユ・ロソ・ノアレ。

 この物語における最強。あらゆる面において、他の追随を許さない正真正銘の最強。この前では、例え《真祖混沌》や『世界の意思』であろうとも、月人やスキマ妖怪であろうとも、ロストロギアで世界ごとふっ飛ばそうとも勝ちようがない。
 この世に存在する全ての闇であり、あらゆる闇の象徴。人間の暗黒面を統べてもいるし、大宇宙の漆黒も、光と共に現れる影もこいつの眷属。天使達の住む『天界』ですらも、《闇》を消すことは出来ない。人間の心に感情がある限り、そこに《闇》は存在するからである。だから最強。
 ――――なのだが、その力が余りにも大き過ぎるが故に《億千万の闇》自身も、自分で自力で表に出て来る事が出来無いという欠点がある。

 かつて聖魔杯において召喚され、川村ヒデオとウィル子に送り返された。人間の様に、自分より身上の存在であろうと(良い意味で)喧嘩を売れる人間の――――ナギ・スプリングフィールド辺りが全力で、死ぬ気でやれば、気合いで送り返せる――――かもしれない。出来そうで怖い。
 今現在はヒデオの『後ろ向きにまっすぐ』な部分や、ましてや《闇》に感謝する性格を気に入り、彼に助力することを約束。闇理ノアレや神野陰之を彼に派遣している。

 内部には色々と存在する様である。《名付けられし暗黒》《魔女》《神隠し》《影の人》《首括りの魔術師》。《宵闇》や《この世の全ての悪》など。




 闇理ノアレ


 《闇》から派遣されたヒデオへの使い。
 ゴシックドレスに身を包んだ、小悪魔のような外見の、悪魔的な性格の少女。実際、ヒデオを困らせて遊ぶ事が多い。しかし、真剣なヒデオに対しては協力的で、彼の意志に応えてくれる。

 基本、ヒデオの人生を面白く見れれば良いらしい。あっちこっちで勝手に表れて、茶々を入れては事件を引っ掻き廻す。その一方で、重要な案件は、しっかりと手を打っている。
 当の本人は精霊程度の力(初期のウィル子位)の力しかないらしいが、《闇》の端末である為、その状態でも一目置かれており、みーこやリップルラップル達とも交流していた。




 長谷部翔香


 宮内庁神霊班の副長。《鬼姫》と異名を持つ剣士であり、人間としては最高クラス。多分、青山鶴子と互角とか、そんなレベルの実力を持っている。アウター並み。並みの魔人じゃまず勝てない。
 ヒデオを扱き使い、傍若無人に生きている女性であるが、嫁ぎ先は決まっていることが原作で判明した。
 どこかって?……伊織貴瀬である。




 名護屋河鈴蘭


 初代『聖魔王』にして今現在は『魔殺商会』影の総帥・神殿教会の聖女・ゼピルム総長という恐ろしい肩書を持つ女性。二十歳ちょっと。体の起伏はちょっと足りない。

 伊織を「ご主人さま」と呼ぶが、実際権限を握っているのは彼女の方。一応、過去に受けた恩義は覚えているらしい。恩義と同時に恨み辛みも覚えているけれども。

 『聖魔杯』においてヒデオやリュータを破った女性。重火器の扱いだけでなく、実は名護屋河の血に流れる能力も使用出来る上に、常に来ているメイド服は防弾防刃防火防水防電の超高性能服。おまけに常に護衛に親友・ヴィゼータが張り付いているので喧嘩を売ってはいけない相手である。
 聖魔王の座が他者に譲られたとは言うものの、『億千万の眷属』や神殿教会からの信頼は厚く、魔神からの信頼も厚い。実際、世界の命運を握っている人物である。




 名護屋河睡蓮


 名護屋河鈴蘭の妹で、ヒデオの同僚。宮内長のエース。

 外見は清楚だが、基本的に冷静で頑固。あと天然。意外と常識を知らないところがある。それでも姉思いで、彼女に何かあったら駆け付けるタイプの良い子である。因みに酒には弱い。

 その実力はまさに凄まじく、おそらく生身でサーヴァントやアウターとやり合える数少ない人間の一人。実際過去には、ほむら鬼すらも打ち破っている。
 一飛びでビルを駆け上がり、普通の弓で戦闘用ヘリコプターを、発射されたミサイルごと墜落させることが出来る人間。その射程は数キロ。色々とおかしい。
 なんか、ヒデオがフラグ立てていた。




 みーこ


 《億千万の眷属》にして、初代魔王の側近たる魔神。通称を《億千万の口》。今は名護屋河鈴蘭の友としてふらふらとニートに生活している。和装姿からは想像もできないが、その実力は凄まじい。あらゆる物を喰らい、天すらも飲み干す。

 その正体は、スサノオの娘。ミスラオノミコトノヒメ。人間は愚か、妖怪でも勝てない。同じ神を持って来ないと太刀打ちがまず不可能な存在。かつて翔香が、貴瀬、沙穂と戦いを挑んだが、普通に負けた。
 肉体の欠損はダメージに成らず、直ぐに修復してしまう。しかし、神であるが故に生者の意志に敗北を喫する事も有る。精神的なダメージに弱い部分は妖怪と一緒だ。
 かつて『魔法世界』で暴れまわった過去を持つ。そして、《赤き翼》と戦争を繰り広げ、決着が付かなかったそうだ。相性も有ったそうだが、この場合、ナギ達を凄いと褒めるべきなのだろう。




 リップルラップル


 外見だけは少女の、元初代魔王。アトランティスとムーを沈めて、眠っていたクトゥルーも含めた当時の円卓全員から「一気に人間の数を減らしすぎだ」と言われて三日で退いた。三日とはいえ、初代魔王だった事は確か。ノエシス・プログラムを制定したのも彼女である。

 知能はドクターと同程度以上。実力は強いが未知数。正真正銘の幻想としての『龍』を召喚することも出来る。そして、実は、上位世界《天》の住人でもある。
 普段の武器は、なぜかミズノのバット。殴る、打つ、叩くの三つが簡単に可能で気に入っているそうだ。




 エルシア


 妙に出番が多い魔神の姫。二代目魔王フィエルの娘。外見だけは非常に良い。本当に生粋のお嬢様。そのせいで面倒くさがり屋で、雑種には興味が無いらしい。ただし、人間の魂の輝きを興味深く思っており、リュータやヒデオなど聖魔杯での幾人かを気に入ってはいる様子。
 『魔法世界』で暴れた過去も持っており、アルビレオやガトウとは喧嘩仲間として仲が良かったようだ。

 その魔法の実力は非常に高く、保有魔力量も非常に大きいが、それを魔本型の神器『獣の書』によって制御しているため、失うと焦点が合わなくなってしまう。過去には、それで山を消した事も有る。
 因みに『獣の書』は元々、魔界王立図書館に保管されていたのだが、この『獣の書』の隣には、『グリモワール』と呼ばれる魔本が置かれていて、後に侵入者を撃退する為、魔界神の娘が使用したとか何とか。

 魔法のプリンセス、トワイライト・エルシオンという存在が――――過去に魔法少女カレイドルビーを見た影響なのかは不明である。もしもそうだったら、きっと遠坂凛は証拠隠滅に動くだろう。




 伊織貴瀬


 悪の組織『伊織魔殺商会』を率いる精悍な男。みーこの眷属(と言う名の下僕)。天涯孤独だが、幼馴染にフェリオールと、現在《神殿協会》トップの甲斐律子。そして妹的な立場の白井沙穂がいる。

 鈴蘭が聖魔王になる切欠の始めを作った男。借金の形に体を闇ルートで販売されるよりは、多少はマシだったかもしれない。しかし、所詮は結果論なのだろう。
 商売人であり、しかも非合法。交渉に銃を用いるのも当たり前。大体は指揮官だが、実は本人もかなり強い。少なくともドライビングテクニックは世界レベル。ヒデオのランボルギーニは彼が送りつけたもの。
 麻帆良への非合法品は、彼が社長を務める城塞都市の『伊織魔殺商会』が供給している。

 もっとも最近は、世界情勢の変化によって、唯の商売人では無く、もっと別の意味で動き始めた様子。




 ドクター


 城塞都市に住む医者。鈴蘭の配下の変態。腕は確かなのだが、患者を実験材料と思っている節があり(女子には優しい)ヒデオもかつては両手にドリルを装着されかけた。
 ただしこれでも本名は《葉月の雫》というアウター。馬鹿と天才は紙一重というやつだ。

 検体である白井沙穂の事は可愛がっているらしい。ロケットパンチを付けたり、目の下にレーザーを仕込んだり、義眼として透視装置を付けたり(未来では確実に付いている)、サイボーグっぽく改造されたりと、愛情の方向が間違っている気もするが。
 人間に興味を覚えている事、そして人間を観察する事に、己の立ち位置を見出している。言動と行動さえ気にしなければ、アウターの中でも真っ当で、付き合い易い存在。




 VZ(ヴィゼータ)


 鈴蘭の親友。かなり上位の魔人。

 ギリギリ何とか、アウターの領域。「お・り・が・み」の最終決戦で彼の領域に足を踏み入れた。しかし勿論、底辺。後に『億千万の刃』とまで呼ばれる程に強大に成長するが、今はまだ発展途上である。
 魔人組織ゼピルムの幹部でも有り、現在は鈴蘭の護衛を務めてもいる。その剣技は、一振りで数百振りへと分裂し、1024本くらい一回で振られると人間どころか魔人も塵に成る。

 おそらく、『ミスマルカ皇国物語』に登場するパリエルの先祖なのだろう。




 ラトゼリカ


 通称をラティ。聖魔杯の受付のお姉さん。眼鏡を懸けた穏和な魔人で、サブカルチャーが好き。
 ゼピルム保有の戦闘艦《ヘルズゲート・アタッカー》のオペレーターだった事も有る。




 リッチ


 死を超越した存在。外見は紳士なスケルトンだが、その力は凄まじい。腐食と崩壊を統べる闇の大魔導師である。体内には億を超える無数の魂が幽閉されているとか。
 元々は愛妻を蘇らせようとしただけらしいが、それは自分が髑髏になるまで努力しても成功する事は無かった。最後は優秀な弟子にも先立たれ、長い年月を研究に打ち込んできた努力は徒労に終わった。
 その後『円卓』の一員として認められ、伊織家に住む。鈴蘭と出会った後は『関東機関』にいる。

 実は奥さんの設定を考えてあるんだけど、奥さんの名前を出したら物凄い反響が来そうだ……。




 ほむら


 名護屋河睡蓮の使い魔として顕現している鬼。正真正銘の鬼。その正体は『炎雷(ホノイカヅチ)』。坂上田村麻呂の討伐からも逃げ切った、かつてイザナギを追ってやって来た鬼神。イザナミに纏わり着いていた地獄の雷の八柱の一。伊吹萃香や勇儀よりも格が上。遥かに上。だって神だもん。

 この話では、月面で綿月依姫に呼ばれて、十六夜咲夜を倒した事もある(『東方儚月抄』の中巻を参照の事)。最も、今現在は、長い間に現世に居た為に神力が減っていて、嘗ての力は出せないらしい。

 みーこやリップルラップルの友人で、歴とした化け物。外見は気流しに不精髭の冴えない、細身のおっさんだが、眼光は鋭く牙は恐ろしい。人間を食らい、大酒を飲み、豪快な存在。さっぱりしていて、暴れるだけ暴れて満足すれば帰って行く。その力は凄まじく、拳銃の弾なんぞ其のまま口に入れてバリバリ食べる。やっぱり鬼なのだ。
 少し前にヒデオに、主人・睡蓮を殺すことに協力させようと持ちかけ、その剛力を持って脅したが彼は屈服せず、それ以来ヒデオを気に入って認めている。




 リュータ・サリンジャー


 聖魔杯においてエルシアのパートナーだった青年。ヒデオとはかなり仲が良く、出会って直ぐに友人となり、開催当初からの顔見知りだった。結構かっこいい二枚目で、友人にいて欲しいタイプ。
 実力は確かだったが大会で鈴蘭に敗退。魔神アーチェスを家族の敵として憎んでいたが、聖魔杯終了後は憎むことは止め、アメリカに帰国した。
 現在は特殊部隊エンジェルセイバーの一員で、今でも時々メールが届くようである。

 ジョンソン魔法学校に起きた「魔人襲来の悲劇」の際に佐倉愛衣と出会い、彼女の師匠的な立場になっていることが判明した。
 エルシアと言い、愛衣と言い、何か特殊な趣味でも持っているのかもしれない(もちろん冗談である)。




 マリーチ


 《神殿教会》の預言者。嘗てみーこと並び、魔王の側近を務めた《億千万の目》と呼ばれる視姦魔神。
 正体は、ヒンドゥー教の神マリーチ。陽炎の化身で、日光と月光を統べる神である摩利支天である。

 みーことは良い意味でも悪い意味でも長い付き合い。みーこが堕ちていた最中も、変わらずに世界を眺め、人間達を予言で自在に操って、様々な事件を演出していた。それは『魔法世界』の大戦期から変わらず、相変わらず、今も読めない笑顔の裏で、画策している。
 運命を知る「ラプラスの眷属」を持っており『運命は普遍である』ことが彼女の拠り所であった。
 尚「ラプラスの眷属」は幾つか種類が有る様で、彼女が独占している訳ではないらしい。人形師ローゼンや八雲紫も使用している、

 未来を知り、自分の見た未来の通りに世界を動かそうとしていたが、鈴蘭が聖魔王になった戦いにおいて(『お・り・が・み』のこと)リップルラップルによる不確定性理論によって論破され敗北。
 原作では、それによって堕ち、数世紀を過ぎるまで復活しないのだが――何故か、この世界では普通に預言者として活動をしている。実はそこには、大きな理由が隠されていて……。




 セリアーナ


 アウター。かつてドイツ帝国とナチスの裏で策動し、第二次世界大戦の引き金を引いた少女。
 元々『黒の森』に身を潜めていたらしく、その邸宅は、現在のイリヤスフィールの住居になっている。

 母親は白面金毛九尾狐。この話に出て来る九尾は、一応全て関係が有る。故に、妲己とも八雲藍とも関係が有る。しかし、具体的にどの様に関係しているのかは秘密。外見に似合わない怪物であると理解できていれば結構である。
 魔神一歩手前、最高ランクに届かない程度の魔人であるので、非常に強い。故に、“襲われて怪我をした”といっても微々たるもの。肉体的なダメージ云々より、突然強襲された事に対するダメージだったそうだ。
 現在は、クーガーと一緒に行動中。




 クーガー


 《神殿協会》聖騎士長にして、マリーチの眷属。通称をキリング・クーガーと呼ばれる狂戦士。

 元々は勇者だったが、その実力の高さに拘束。第二次世界大戦中に《神殿教会》に命じられ、現伊織貴瀬邸宅地下に広がるダンジョン攻略と、その奥にある《天の門》開放に挑んだ過去を持つ。しかし、帰還した彼が得たのは、勇者としての称号でも無く、世界の真実と、自分を慕う狐の娘だけ。両目を犠牲に、せめてセリアーナを母親と再開させようと動いたが、その努力も徒労に終わった。
 その後、彼は長い間《神殿教会》に拘束。幽閉。鈴蘭を巡る物語に巻き込まれていく。過去と今との全ての間、自分がマリーチと魔神の掌の中である事を知った。何よりも人間の意志を認めない彼らに一矢報いる為、反乱。最後は鈴蘭に理想を託して、逝った。

 ……が、最終回の最後で生き返った。しかもその後、なんだかんだでマリーチの眷属として、数世紀以上は生きる事となる。
 その実力は圧倒的。エーテル結晶(ドクター作)と呼ばれる神器を用いる事で、魔人すらも容易く屠る。




 クラリカ


 元《神殿協会》第二部所属の異端審問官。ヒデオの知人で『魔殺商会』の殴り込み役。美空の元上司で旧友。先輩。ついでに師匠でもある。

 アンタ本当にシスターか? とか言いたくなる位の性格で、銃を乱射するわ、改造車で敵のアジトに突っ込むわ、天使相手に啖呵を切るわ、もうトンデモナイ人。

 ただし目上の人間と、自分が認めた人間にはキチンと接する。逆らってはいけない人間もすぐに見抜く。勘の良さとしぶとさはかなりの物。
 今現在は鈴蘭の元で、部下として活動中。




 マリアクレセル


 天界に住む天使。司る力は『存在』。リップルラップルの妹。城塞都市を造ったのは彼女。外見は高校生。
 今現在のウィル子の監督役であり、ヒデオや城塞都市の面々に助言を与える役でもある。

 『魔法世界』の大戦期の末期に、必死にかき集めた魔力で接触してきた、魔導師・プレシアの願いを聞き届けて、複数の厳しい条件を突きつけた上で娘・アリシアを生き返らせたのは彼女。

 聖魔杯を鈴蘭に渡し、大会の開催のきっかけと、行く末を与えた存在。



 桃条千景


 内閣調査局の一員で、外見は高校生ほどの女性。

 川村ヒデオとは知人、もしくは依頼人、あるいは仕事仲間な関係。鈴蘭や貴瀬とも顔見知り。銀色のフェラーリに乗っている。
 作者もしばらく気が付かなかったが、そう言えば「お・り・が・み」に出て来た人だと気が付いた。具体的には原作で『関東機関』が反乱を起こしたときに、一人だけ参加しなかった、旧コード『E3』ことコード『E2』。

 最終話でハブられた悲しい過去を持つ。
 レイセン初登場時はカラー絵で描かれている。




 霧島レナ


 聖魔杯の司会者。ヒデオとは仲が良かったが、結局色々あって、それだけの関係だった。
 気の良い美人で、ヒデオも焦がれていた部分もあったようだ。しかし、ヒデオに見せていた姿は、全て養父・アーチェスへの想いが形に成っただけの演技。演技とはいえヒデオを気に入っていた様だが、しかし身内への依存心が強すぎた。
 今は大会中の振る舞いを神妙に反省し、仲間と共に城塞都市で再出発している。




 長谷部翔希


 現『関東機関』所属・《神殿教会》勇者。

 就職活動に失敗して『聖魔杯』の大会に出場。そこでは良い感じにヒデオ達に利用されるが、最後には鈴蘭をパートナー・エリーゼと共に打ち破った(が、結局美味しい所はヒデオに持っていかれた)。

 強いんだけど。強いんだけれども。でも、要するに中二病の体現者が現実世界でも上手に出来る訳では無い、とはヒデオの言葉。『全世界にいる勇者を羨む連中の恨みを見るがいい……』とか、思っている。

 年齢制限付きゲームを購入し、ヒデオの家に預けて行く、とかそんな事をして、姉に折檻されてもいた。
 昔は『関東機関』トップの飛騨真琴と恋人同士だったが、破局。
 今は、鈴蘭と付き合っているとか、いないとか。




 白井沙穂


 元『関東機関』所属『E1』。階級は軍曹。持つ得物は、神器『今月今夜』という漆黒の日本刀。
 長谷部翔香の弟子にして、伊織貴瀬の妹分である。
 未来における『ミスマルカ皇国物語』世界でも普通に生きてる剣士。きっとドクターに改造されたからだろう。酒場でオイルを飲んでいるし、将来的に人間を捨てる事は間違いない。

 その実力は高い。最初は“強い一般人”のレベルで、長谷部翔希にも敗北した。
 クーガーには軽くあしらわれ、魔人レベルの剣士に敗北して死んだことも有る。
 しかし、最終的には戦いと刃と血に狂いつつも、ドクターに弄られた体と、内蔵された武装によって、《円卓》の一角でもあるアウター、剣神《水無月の時雨》をも倒している。




 アーチェス・マルホランド


 別名を《暗黒司祭》バーチェス・アルザンデ。二代目魔王フィエルの部下で有り、エルシアとも知人。
 アウターにしては珍しく、人間には非常に友好的。自分の目的の為ならば人間を殺す事も厭わないが、享楽や自分の為でなく、人間や他人の為に力を奮う点で、他とは一線を画している。
 聖魔杯を巡る一連の戦いの裏で、暗躍。鈴蘭と翔希の対決の終了後、聖杯を奪い《億千万の闇》を顕現させようとした。しかし、ヒデオに阻止されて失敗に終わる。
 今現在は、城塞都市にて仲間と共に再出発の最中。

 しかし、彼を語る際に、何よりも重要な事実は――――聖魔杯を調整した張本人であると言う事だろう。
 要するに、この物語の原因の一角なのである。




 七瀬葉多恵


 アウター。鬼喰いの二十重蜘蛛。最近になって宮内庁神霊班へとやって来て、ヒデオ達を容赦なく鍛えている。和風の美女。そのまま《幻想郷》にいても不思議じゃない人。
 昔は好き勝手に暴れ回っていたが、ある時に八瀬童子(護法童子)に罰せられ、それ以降、鬼のみを喰らって生きる様になった。吸血鬼を呼び寄せて餌にする毎日を繰り返すうちに、仏の教えを忘れてもう一回暴れようとしたところを、翔香に敗北した。

 その性質《鬼喰らい》――――いやいや、折角なのでこう語ろう。
 『鬼を食す程度の能力』は、そのままの力。土蜘蛛と鬼ならば普通は鬼の方が強いのが摂理。しかし彼女の場合は、その法則を覆す事が出来る。別に日本の鬼に限った話では無く、吸血鬼でもOKである。
 因みに、黒谷ヤマメという娘が居るとか。




 ジョージ・レッドフィールド


 『聖魔杯』における最初の脱落者で、ヒデオの最初の対戦相手。
 大会後はエンジェルセイバーで指導教官となり、愛犬のロッキーと共にリュータ達を鍛えているらしい。
 佐倉愛衣の師匠の一人。






 ●『Fate / stay night』及び型月世界からの人物




 アルトリア・エミヤ・ペンドラゴン


 《紅き翼》の一員。第三席《千剣姫》。

 ジャック・ラカンと並ぶ《赤き翼》のアタッカーで、最前線で働く切り込み役。第三席の名に恥じず、 “戦場の片翼”と呼ばれ恐れられた『魔法世界』最強と名高い騎士である。
 その正体は、かの有名なアーサー王。世界最高峰の剣技を持ち、体に流れる『龍』の血によって莫大な魔力を誇る美少女である。表向きはナギが《妖精郷》の中に迷い込んだ後、湖で遭遇した……云々、という理由を付けているが、勿論これは大嘘。
 凛、桜と共にこの世界に召喚された、『呼ばれし八人』という特殊な英霊の「セイバー」である。

 彼女達を呼び寄せた《世界の意志》こと妲己の加護も有り、その実力は、かつて異なる世界で「聖杯戦争」に参加した時以上に高まっている。
 普段は『魔法世界』を放浪しながら、フリーランスの何でも屋的な仕事をしている。南方に旅行に行った際、同じ様な行動をしていたらしい(真偽不明)上条当麻と関わったそうだ。

 英国からの『禁書目録』の護衛も兼ねて、日本から麻帆良に来訪。大停電の最中、幾度と無く戦った吸血鬼・ツィツェーリエを撃退するも取り逃がし、その後、大橋にて「もう一人のネギ」を倒す。
 その後、停電で彼女に協力した面々と共に、エヴァンジェリンの封印解除に一役買ったそうだ。

 京都でも活躍して貰う予定。
 尚、名前のEはエミヤのE。あの“正義の味方”の名前である。今現在、アルトリアは鞘を保有しており、しかし『投影』などの、彼の保有スキルも使用できる。一体、どんな理屈であるのか、それは秘密だ。




 遠坂凛


 《紅き翼》の一員。第七席《千煌姫》。
 現在は学術都市アリアドネーで教鞭をとる女性。人気は高い。年齢的にはだいぶ……なのだが、見た目は若い。二十代で楽勝に通じる。年を取らないらしい。
 宝石を毎月少量、魔法が使えないタカミチに送っている。その金が何処から出ているのかは不明。色々とやっているそうだ。
 彼女の真価は戦闘能力よりは研究者・学者としての性質にある。《紅き翼》の頭脳面を率いていた女性である。まあ、それでもガトウと同じくらいには強い。

 そこまで強い理由というのが、『世界の意志』に招かれた『呼ばれし八人』の「キャスター」と言う立場であるから。

 リン・遠坂と呼ばれるのは、身分登録をする際にお得意の「うっかり」で、姓と名前を逆に登録してしまったため。その為に、中華系の血だと誤解されていたりする。
 その内に出てきます。




 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン


 《紅き翼》の一員。詳細不明。
 ドイツの『黒の森』で引き籠り、研究をしている少女。少女のはず。年齢の事は、他の女性陣と同様に尋ねてはいけない。
 かつてセリアーナが住んでいた屋敷で隠居中。エヴァンジェリンとは研究仲間であり、ナギが消えた数年後、共に別荘と図書館島に引き籠り、好き勝手に研究に打ち込んでいた時期があった。
 その時の名残で、ドイツの家とエヴァンジェリンとの家の間に転移陣が繋がっているとか。
 作者によれば「超チートキャラ。ある意味でこの世界最強レベルの能力」らしい。




 間桐桜


 《紅き翼》の一員。詳細不明。
 ナギの話では「ゼクトと共に消えた~」ということを言っているが、どうやらナギの杖をネギに渡す際に秘密裏に行動していたらしいことが判明した。
 エヴァンジェリンと戦って勝ちかけた事も有る。
 停電時に現れたようだが……。




 衛宮士郎


 出る。出るというか、出さなくちゃどうにもならない設定なのだけれど、でも殆ど出番は無い。精々一話、二話程度で、後は回想シーン程度で仄めかされるだけだと思う。
 世の中には衛宮士郎が『ネギま』世界に行く話は山の様にあるので、敢えて彼はギリギリまで出番を減らしてみる。




 両儀式


 出る。
 予定では無く、しっかりと出ると断言する。
 もう暫く先だけど。






 ●『ラブひな』からの人物




 浦島景太郎


 東大生で美人の奥さんがいて、しかも好きな研究に存分に打ちこめる、自分の趣味が勉強に成った、羨ましい事この上ない人。去り気にスペックが高い。
 流石に教職(というか講師)の今では、セクハラのスキルを表すことがないが、家では相変わらずドジを踏んで怒られるようだ。
 日常担当で、サラと並んで非常に貴重な常識人尚だが、良く考えてみれば彼も常識と離れている。普通の青年だけれども、瀬田に鍛えられたために結構強い。
 具体的には、青山素子と勝負して十回に三、四回は勝てる程度。
 修学旅行編では、妻のなる共々、京都に行くことになる。




 浦島(成瀬川)なる


 ご存じ『ラブひな』ヒロイン。時系列的にはまだ結婚をしていないが、もはや結婚までは時間の問題の為、皆浦島で呼んでいる。住んでいる家も一緒。景太郎と並んで、サラの保護者である。現在は高校教師となる為、教育実習を麻帆良で行っている。
 修学旅行では京都に行くのだが、出番は少ないはず。
 彼女が仮に活躍するとすれば、恐らく第五部《学園祭》編になるだろう。




 サラ・マグドゥガル


 麻帆良学園女子中等部3-A所属・出席番号二十八番。
 十二歳。実の父、瀬田記康は海外に渡航中なので、現在の保護者は浦島景太郎である。
 彼女の来訪には、浦島ひなたと学園長の何らかの密約が存在する。浦島ひなたは、如何やら世界の動乱を感じ取っているらしく、何かしら巻き込まれる事を予見していたようである。
 基本的に日常担当。学園長の語る「数少ない一般人」の範疇に入る少女。
 とは言う物の、その経験は並みの学生以上の物を有しており、「邪魔に成らない」「何も見ていない振りをする」「自衛は自分で行う」等など、アクシデントへの対処方法や、関わり方は知っている。




 青山鶴子


 現在の京都神鳴流の師範代。勿論裏の世界を知る、神鳴流でもトップクラスの実力者。アウターのレベル。かつての全盛期の兄弟子・詠春には劣るものの、現在の彼とは互角(逆に、今の詠春も実力はある)。
 原作の様な、神鳴流(笑)等と言う真似はしません。真剣に動いて貰います。
 《赤き翼》の親類縁者と言う事で、『魔法世界』のアリアドネーに定期的に来訪し、日本の陰陽道に関する講義を実習付きで行っている。遠坂とも友人。その容姿から以外と人気があるそうだ。
 修学旅行編で必ず登場。活躍に期待。




 青山素子


 現在、東京大学一年生。京都神鳴流の次期師範。
 本家・青山の家系であり、詠春とも当然ながら親戚。元々、家業に不向きの性格で(鶴子曰く『優しすぎる』とのこと)家を飛び出すも同然に東へ。その後、神奈川県の日向荘に辿り着き、そこで過ごす。
 才能は、長い神鳴流の歴史の中でも随一。刹那以上の才覚を有し、将来的には最強の剣士になれる、らしい。しかし、性根が未熟、と鶴子に言われている。
 大学に入学後も、友人達に顔を見せに、時々、日向荘に足を運んでいるそうだ。
 因みに、封印されている“妖刀「ひな」”。これは実は、厄神・鍵山雛に関係があったり……。




 前原しのぶ


 普通の高校生。麻帆良女学院に通う少女。東大進学を目指して勉強中。
 なるがいることを知っていて、それでも浦島景太郎に惚れている。不倫には成らない、筈。
 日常の人なので、必然的にシリアスな話では影が薄い。その代わり、要所要所で、日常の象徴として出させて貰うつもり。




 瀬田記康


 サラの父親で、煙草に白衣、メガネがトレードマークの地質学者、古代文化学者。遺跡発掘や古代遺跡についてのプロ。明日菜が好きそうな、渋いおじさん。
 色々な意味で浦島景太郎の師匠であり、その実力は鶴子と互角だという噂まである。
 現在はサラを麻帆良の浦島一家に預け、世界中を妻・はるかと共に放浪、発掘しているらしい。




 瀬田(浦島)はるか


 瀬田の妻。景太郎の叔母に当たる人物で、過去にはサラの母親と親友だった。
 サラの母親が死んだ後、瀬田の前から姿を消したが、結局サラの母親になる意味も込めて結婚。今は夫と共に世界中の遺跡発掘に同行している。
 ちなみに、かなり強い。




 浦島ひなた


 近衛近右衛門の同級生にして、相坂さよの(生前の)友人。
 ラブひな勢の中で、最も何をしているのか怪しく、最も腹の内が読めない人。サラを麻帆良に通わせたり、景太郎となるを麻帆良に関わらせたり、と何やら企んでいる。
 悪人ではない、と断言出来るのが幸いと言えば幸いか。






 ●『消閑の挑戦者』からの人物




 鈴藤小槙


 果須田裕杜の幼馴染にして、世界最高の頭脳を持つ、現在は大学生の少女。世界中をあっちこっちに放浪中。『ER3』に行ったら即座にそのまま《七愚人》になれる実力を持つ。実際、『ER3』だけでなく西東天からも『十三階段に入らないか?』と勧誘されてもいる。
 果須田裕杜の研究の成功例《パーフェクト・キング》であり、人類の至宝ともいわれる怪物の一人。
 世界の全てが数字と情報で認識出来、それらを自在に掌握し、操る事が出来る。
 魔力等の特殊な力を持たない存在の中では、間違い無く最強の人。ミクロは細胞一つ一つの動きから、マクロは天体までが、彼女の認識の範疇である。故に、普通の人間が行える動作はトレースが可能。木原神拳とか、《少女趣味(ボルトキープ)》とかの完璧なる模倣も可能である。
 勝負は基本的にしないが、仮にしたなら最強クラス。上手くやれば《一方通行》にも勝てる。
 修学旅行編で登場。




 果須田裕杜


 故人。鈴藤小槙の幼馴染にして、《パーフェクト・キング》へと昇華させた存在。
 あらゆる方面に突出した才能を持つ天才であり、鳴海清孝や『ER3』など、世界に名立たる天才たちの中でも特に有名な一人だった。現在の小槙の様に《七愚人》に勧誘された事も有る。
 彼が唱えた理論の中に『人類の進化』というテーマが存在し、これは物語に大きく関わっていく。




 鈴藤いるる


 小槙の従姉妹。果須田祐杜が開発したウォリスランド共和国所属の研究員。
 滅茶苦茶頭が良いが、飛び抜けた天才と言う訳では無く、『ER3』の通常研究者レベルである。
 朝倉和美の出生の意味と、その彼女が有する特殊な才能を知っているらしい。






 ●『スパイラル~推理の絆~』からの人物




 鳴海歩


 『スパイラル~推理の絆~』の主人公。
 兄の才能(本人は劣化コピーと蔑んでいたが)を受け継ぐ鳴海家の二男。
 しかし実は兄妹では無く、鳴海清孝のクローンだった事が作中で判明した。新陳代謝機能の低下による衰弱死という運命を抱えていた。しかし、《ブレードチルドレン》達の運命を変える為にも体の治療を目指し、現在は麻帆良にいる。

 鳴海清孝の知人『冥界返し』という医者から麻帆良に伝手を取り、入院と共に体質改善を始めたのが物語の始まる一年ほど前の事である。
 現在は様子見の状態。一応、支障は無い、という判断。激しい運動は自粛しているが、それなりに日常生活が可能になっており、入院費用や治療費を学園が負担する代わりに、麻帆良で音楽教師をしている。
 《ブレードチルドレン》からは、『彼が生き続ける限り自分達の運命も覆す事が可能だ』と、思われている。故に、運命を打ち破り、神の法則を覆す為にも、彼が死ぬことは許されない。

 一番原作のネギと近い立場の人間であり、才色兼備ではあるが一般人。別名を巻き込まれ体質。原作時の様な、清隆からの束縛も無いので、何かあった時に一番自由に行動できる人物かもしれない。
 結崎ひよのとの関係は……はてさて、どうなることやら。




 鳴海清隆


 世界で暗躍する、通称を《神》と呼ばれる天才。この世界で知らないことはほぼ、無い。
 「世界から外れた存在」であり、同時に傍観者。自分の物語は、既に歩によって答えを出され、敗北を認めている。しかし、続いて行く世界を面白くしたいが為に、彼方此方で各組織と接触している。
 物語を嫌でも狂わせる、戯言使いの《無為式》を期待しており、どうやら西東天と協力関係にある模様。ただし、それに歩を利用する魂胆はない。
 悪人ではないが、非常に気に障る存在であることは間違いない。




 結崎ひよの


 身分不明・年齢不詳のお姉さん。現在は、麻帆良中央駅前のアクセサリーショップ《ブラウニー》兼、非合法密売店の店長。そして、鳴海歩の同居人である。
 清隆の知人で、昔から彼の依頼を、様々な形で引きうけている。今回の麻帆良来訪もその一環だが、ひよのの内心の中に、歩へ対する感情が皆無だった、という訳でもない。
 何年か前は、歩とは先輩後輩の仲だった。新聞部として他人の弱みを握り、学園を裏から掌握していたそうだ。彼のサポート役だが、要するに見事に歩の手綱を握っていたとも言える。




 竹内理緒


 麻帆良学園女子中等部3-A組・出席番号十八番。
 ――――と、成っているが、正真正銘《ブレードチルドレン》の一人であり、他と同じく大学生である。
 その才能は、爆発物や危険物取扱、あるいは重火器の扱いに突出しており、中学生の時に既に、警察機動隊を手玉に取る程の実力だった。生まれが生まれであるが故に、しっかりと殺人も犯しており、歩を殺しかけた事も結構ある。
 歩と清隆の戦いが終わった後には、その技術を生かしてNGOの一員として地雷撤去へと携わっていたが、再度、清隆に呼び出され、そのまま麻帆良中学校に転入させられる事になる。不憫な娘だ。
 《ブラウニー》でアルバイトと称して、銃火器の手入れ・販売をしている。品物の卸し先は伊織魔殺商会で、中にはドクター製の怪しい物品も並んでいる、との事。
 何年か前に零崎一賊の爆弾魔・零崎常識《寸鉄殺人(ペリルポイント)》と接触し、その技術を教わったそうだ。
 魔法や魔術等には全く縁が無いが、頭脳と武器で戦う少女である。




 浅月香介


 《ブレードチルドレン》の一人。それなりに何でもこなせるが、理緒や亮子のような、突出した技能は無い。要は器用貧乏。野生のオオアリクイを倒した、とかいう逸話も有るのだが、なんか地味。
 現在は麻帆良大の建築課に所属。大学生として真面目に勉学に打ち込む傍ら、理緒のサポートをしている。大学生と言う立場で様々なイベントに潜り込み、各組織に関係有りそうな面々と接触しているらしい。
 常に不機嫌そうな顔の眼鏡の青年で、割と常識的な人間。メンバーでの突っ込み役。歩とも殺し合った関係だが、今では其れなりに良好な関係である。
 亮子とは幼馴染。彼女に危害が行かぬように、彼女の分まで人を殺している。




 高町亮子


 《ブレードチルドレン》の一人。運動能力は非常に高く、陸上では高校記録を保有してもいる。
 現在は麻帆良の体育課に所属。腹違いの兄妹である香介とは、交際中だと周囲に誤解されているそうだ。
 『殺すくらいなら殺される方がマシ』がモットーだったが、香介が彼女を只管に庇って、彼女の分まで人を殺していた為、結局直接的な攻撃にあった事は殆ど無い。
 話の中では常識人故に、香介と並び、苦労しつつも麻帆良での生活を楽しんでいる様だ。




 アイズ・ラザフォード


 《ブレードチルドレン》の一人。世界的に有名なプロピアニスト。長髪の美男子。
 何やら鳴海清隆を始め、世界の動きを追っているらしいことが判明した。
 土屋キリエに清隆からの情報を任せ、今現在は《金曜日の雨》九連内朱巳や白峰サユカと言った、アウトローな面々と共に策動し始めている。




 カノン・ヒルベルト


 故人。《ブレードチルドレン》の一人。アイズの親友。
 元々は鳴海清隆の命令で動く暗殺者で、その才能は理緒、亮子、香介が束になっても叶わない程だった。
 ある時アイズ達の殺害を計画し、実行。三人に重傷を負わせるが、最後には駆け付けた歩達に敗北。その後軟禁され、大人しくしていたが、最終的には水城火澄に殺された。
 暗殺者として活動中に、石凪萌太、霧間凪と出会ったことがある。




 土屋キリエ


 《ブレードチルドレン》の監視役。通称をウォッチャーと呼ばれる立場の人間。
 ウォッチャーとは、水城刃の死後、三つに分かれた彼のシンパの中で、子供達を監視に留め、成長を見届ける方針を立てた人々。大半は長年の他勢力との抗争で既に陰に葬り去られているが、彼女は鳴海清孝の配下に付いた為に、今でも生き延びている。
 物語が終わって以降は、生き残った《ブレードチルドレン》達を繋ぐ連絡員の様な仕事をしている。
 諜報能力・情報収集能力や、公権力への根回し。交渉や腕っ節も優れており、かなり優秀な人材なのだが、周囲に居る連中が揃って彼女以上に異常なお陰で、余り凄いと思われていない。




 鳴海まどか


 警視庁捜査一課。階級は警部。
 鳴海清隆の妻にして、歩の義理の姉である。警視庁に勤めていた頃に清孝が見初め、そのまま結婚した。
 勿論、その清隆の脳内に、彼女に対する利用心が皆無だった訳では無い。実際、自分と歩の対決に、彼女を盛大に巻き込んでいる。しかし、多少、愛する“方法”は変だが、しっかり愛情を持っている事も確かなのである。色々言いつつも、別れていないのだから、夫婦仲は良いのだろう。
 因みに、北大路美奈子とは一緒に酒を飲む仲で有る。




 水城刃


 故人。《ブレードチルドレン》達の父親。意味の通り、ブレード(=刃)のチルドレンである。鳴海清隆と同じく、「世界から外れた存在」であり、その異名を《神》に対して《悪魔》と呼称された。
 その能力は清隆と同等であり、鳴海清隆以外の存在には、決して殺されなかったという。
 その才覚・才能は他者を卓越しており、間違いなく世界有数の人材だった。しかし、何よりも彼が他者と違った点は、その技量を全て“自分の血族以外の人間の全滅”に奮ったと言う事実である。
 巧妙な事は、その技量が世界的に認められ、自分に対する信用が完璧に成った時に“初めて”人類抹殺に行動した点。それ故に、彼が鳴海清隆に殺害されなかった場合、彼の血族以外の人類は滅んでいたかもしれない。
 その彼の性質は、彼の子供達《ブレードチルドレン》全員に受け継がれている。チルドレンの共通点は、刃と同じく、胸の肋骨が一本欠けているのだ。




 水城火澄


 故人。水城刃の弟。《ブレードチルドレン》では無いが、彼の才能を色濃く受け継いだ少年。鳴海清隆と水城刃が正反対の存在であったように、彼は歩の正反対の存在だった。
 歩とは親しい友人に成ったが、最終的に対決。そして敗北。《ブレードチルドレン》の運命を託された歩を救う為、やはり刃のクローン体であった己の体を提供し、数多くの実験の末に死亡した。
 彼が居たからこそ、歩は現在、まあ人並と言っても良い状態に戻っている、のだが――――果たして、そんなに都合良く話が進むのだろうか?






 ●『ブギーポップ』シリーズからの人物




 ブギーポップ


 《不気味な泡》。

 現在は麻帆良学園女子中等部3-A・出席番号十一番、釘宮円の体の中に潜んでいる。
 マントと帽子に包まれた、電柱みたいなシルエット。登場する際には必ず口笛でワーグナー作曲のニュルンベルグのマイスタージンガーを吹きながら現れる。
 『人間が最も美しい時に、それ以上醜くなる前に殺してくれる死神』として女子中・高校生の中で名が知られているが、本来は『世界の敵』を始末することが目的。
 その正体は、《集合無意識(アラヤ)》から生み出された存在であり、型月世界で言う『抑止力の行使者(カウンターガーディアン)』に近いものがある。
 『世界の敵』に対しては問答無用、理屈抜きでの殺害権を保有している。つまり『世界の敵』は、どんな存在、能力を有していようと《不気味な泡》には「絶対に」勝てない、という理論が適応される。
 基本武装は絃。しかし、潜伏している人間の肉体の枷を外す事が可能な為、意外に俊敏で怪力。




 霧間凪


 《炎の魔女》。
 現在は麻帆良学園女子中等部の体育教師。学園広域指導員も兼任している。
 女優顔負けの美貌に、苛烈な燃え盛る輝きを見せ、態度、性格、実力、口調と、その全てに炎を幻視する。異性よりも同性に持てるタイプのカッコイイ女性である。
 生徒からの人気も高く、また素行不良の生徒達からもカリスマ的に信奉されているらしい。
 その体内に“斥力”を司る《炎の魔女》ヴァルプルギスを宿し、宿敵である“引力”を司る《氷の魔女》アルケスティスと、戦う運命を背負っている。この二対の魔女の戦いには《不気味な泡》も介入はしない。二対の魔女は、時間・並行世界、果ては次元をも超え、宿主を変えて永遠と戦い続けている。
 《炎の魔女》はMPLS能力者の始祖であり、「全てを支配下に置いて単一化を促進させる」性質を持つ。対する《氷の魔女》は「多様性を促進させる」性質を保有しており――――要するに「この世界で、人間以外の怪物が跋扈している理由」の一つに関わっているのだ。
 『人間の進化』。あるいは『人間や魔人の多様性』を始め、物語の中核を成す存在である。
 現在は二対の魔女の戦いは膠着状態。今すぐに戦争が再開されると言う訳ではない。だから、今は頼れるお姉さんで、ネギの信頼のおける戦力、という認識で構わない。
 しかし何れ、物語に大きく関わって来る事も、間違いないのだ。




 末間和子


 《博士》。
 『統和機構』の次期『中枢』になる存在。霧間凪の友人。一見すれば普通の優等生。しかし凪曰く「俺が知る中で最も頭の良い人物だ」との事。羽川翼みたいな存在と言えば解りやすいかもしれない。
 《不気味な泡》を巡る全ての物語に、近くも遠くも無く、知る事が出来るのに巻き込まれない、絶妙の位置に、自然と存在する才能を有する。その才能と、彼女の精神を、《酸素》に見こまれたようだ。




 九連内朱巳



 《金曜日の雨(レイン・オン・フライデイ)》。
 『統和機構』のエージェント。霧間凪の高校の同級生であり、彼女を初めて《炎の魔女》と呼んだ女性である。友人と言うよりも、ライバルとか腐れ縁と言う表現がしっくり来る関係。
 『統和機構』の中で、珍しく私利私欲が少なく、しかも非常に有能な為、『中枢』からも信頼されている――――が、その実態は“大嘘つき”であり、『統和機構』は愚か霧間凪ですらも簡単に騙し通す。
 彼女の最も大きな嘘は、「実は何の変哲もない、正真正銘の一般人」と言う事実を隠している事である。
 最近は、アイズ・ラザフォード達と協力して、世界の動きを探っている、らしい。




 柊


 《酸素(オキシジェン)》。
 『統和機構』の現『中枢』。しかし、彼が『中枢』である事実を知る者は少ない。
 「見えない物質」を体現する様に、非常に存在感が希薄で、彼と会うべき存在以外は、彼を認識する事が出来ない。話し方も空気の様で、ごく一部にしか通用しない会話を行う。
 同時に「生命を生み出す劇薬」の性質を示し、世界に結ばれる全ての運命を読む事が出来る。彼自身で運命を操作する事は出来ず、また百発百中と言う訳でもない。しかし、世界全てを見ているが故に『統和機構』は、世界の裏で存在し続ける事が可能なのだ。
 自分の運命は既に終わりかけ、存在意義だけで動いている。
 《不気味な泡》の存在は承知しているが、対面した事はない、らしい。




 高代亨


 《イナズマ》。
 「死線」「隙」「弱点」等を視認する《イナズマ》の力を持つ、侍風の青年。霧間凪の友人。
 『統和機構』のブラックリスト筆頭。最強と言われるエージェント《フォルテッシモ》を持ってしても決着が付いていない相手であり、今現在は世界を放浪している様である。
 かつて《不気味な泡》の物語に関わった際に、イナズマの力とは即ち「因果律や、死に関わる因果」を認識する能力である、と言われた。その性質だけで言うのならば、『直死の魔眼』以上の能力だと言える。
 作者として活躍させたいキャラ。
 出します。




 ピート・ビート


 どこかで出したいなあ、と思っているのだけれども、珍しく出番も決まっていない。
 あるいは、全然出ないかもしれない。












 ああ、長かった……。

 さて、そんな訳で人物紹介・上です。これで三分の一だ。

 次回は、戯言シリーズとか、時空管理局とか、断章騎士団とか、上条当麻と愉快な仲間達とかです。

 後半が、され竜とか、EMEとか、薔薇乙女とか、ウィザーズ・ブレインとか、封神演義とか、その辺。

 最後にはサプライズも有るので、お楽しみに。

 では、また次回。



[22521] 登場人物事典(中)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/31 21:45
 ネギま・クロス31
 登場人物事典その2 登場人物編(中)






 かなり量が多かったですが、頑張りました。

 良く読むと、なんか色々他作品との関係が示されているので、楽しんでくれれば良いなぁ、と思います。






  ●『戯言』及び『人間』シリーズからの人物。




 戯言使い(いーちゃん)


 麻帆良学園女子中等部、物理&科学教師。井伊入識(偽名)。
 本名不明の『戯言使い』。作者も一時間位、名前を考察してみたのだが、結局不明だった。多分この先で彼の名前が明らかにされる事は無いのだろう。
 名前の由来は、彼の妹である“井伊遥奈”の苗字。鏡の反対側である“零崎人識”を、鏡と言う事で「人」と「入」に入れ替えた名前。いいいりしき、と読む。母音が全てiだったのは嬉しい誤算。因みに、井伊入識ならぬ零崎入識を「ぜろざきはいしき」と読むと、子荻ちゃんとの会話の条件を満たせたりする(が、これがいーちゃんの名前だとは作者も思っていない)。

 元々は京都で請負人として動いているのだが、零崎人識に「麻帆良の妹を助けて欲しい」と頼まれ、妻の友と一緒に、教師として赴任した。教員免許は持っていないが、『ER3』在籍という過去を利用して、玖渚の権力で取得したそうだ。
 綾瀬夕映が、《零崎》である事を知っている。しかし、実際、綾瀬夕映は友人や姉に守られていて、彼が手出しをする程の問題では無かったのだ。それよりも重大な問題、即ち宿敵・西東天が絡んできている事を知り、依頼の中で並行して対策を立て始めた。
 幸いにして、妻・友はその筋では有名な電脳技術者だったので、警備員として介入出来ている。

 “なるようにならない最悪”。通称を“無為式”と呼ばれる異能を有する存在。彼が物語に介入すると「あらゆる方向で予想外に転がる」という結果を齎す。ハッピーエンドは何処かに消え、バッドエンドも姿を消す。残るのは、予想外に過ぎる、如何してそんな結果に成ったのか、過程が解らない答えのみだ。
 彼のこの性質は、若かりし頃程の力では無い。しかし、他者の思惑が全く別の結果を齎す、と言う点は同じ。その影響で、図書館島では、危うく、綾瀬夕映が零崎としての性質を奮う所だった。
 鳴海清孝と西東天が手を組んだ様に、今現在は鳴海歩と協力体勢にある。鳴海清孝の動向を玖渚友が探り、各種の“手掛かり”を歩が確保する、と分担しているようだ。
 『戯言使い』が手足として使っているのが、暗殺一族出身の闇口崩子。玖渚友と電神ウィル子の戦いを有利に進める為、彼女をヒデオに派遣して、現実でのアベレージを入手しようとしたのも彼の策略である。
 彼自身は「無為式」以外に特別な才を有しておらず、怪物達に話を運び、交渉するだけである。




 西東天


 《人類最悪》。
 戯言使いの宿敵。哀川潤の父親。通称を狐面の男。諦めの悪い人間。
 元『ER3』の研究者。幼い頃から英才教育を施され、僅か八歳で大学へ。二人の姉と両親の死を契機に、若干十三歳にして『ER3』に入る。その後、十九歳で二人の親友、メイド、娘と共に帰還。
 その後、事故で死亡した事に成っている――が、勿論生きている。この世界では、死亡偽装など特に珍しい事でもない。因みに、この時彼が一緒にいた赤子が、後の哀川潤である。

 「世界の終わり」「物語の終わり」を見ることを目的とする人物。言うなれば、『盤上の世界の行き着く先』を見る事に精力を注いでいる。かつて『戯言使い』と対立し、敗北したが、諦め悪く、何回でも終わりを見ようと頑張っている。
 その執念と、物語に興味を覚えた鳴海清隆が繋がるのは、其れほど珍しい事でもなかったのだろう。
 彼と協力して「世界の終わり」に必要な物として『戯言使い』の持つ「無為式」や、川村ヒデオの《闇》など、数多くの対象を物語に引っ張り込んでいる。
 《十三階段》と呼ばれる部下を率いている。




 玖渚友


 《青色》。又は《蒼色》。
 現在の『戯言使い』の妻。麻帆良学園・情報中央制御室責任者。
 左目だけが青い、嘗ての天才。その昔は、その才能は人間の最高に位置していた。

 元世界最高の電脳集団《チーム》のトップ。《チーム》は、電脳に関わる全ての文化を、強制的に叩きのばした、と言われる天才集団で、彼らが居たからこそ、今現在、電脳世界はこれ程に発展した、とまで言われている。彼らに出来ない事は無く、彼らが行わない事は無かった。宇宙開発や国連G8のファイヤーウォールから、一会社のアドバイザーまで。兎に角、適当に、好き勝手に暴れ続けて、ある時にぷっつりと姿は消えた。その原因は、『戯言使い』に有るらしい。
 百以上の機械を一度に操るような人間以上の才能は、いーちゃんと共に生きるために捨てたものの、過去の技術力や経験は未だに普通に有能な技術者のレベル。世界各国に潜む《チーム》の元メンバーに接触出来るだけでなく、“MAKUBEX”と呼ばれる電子存在と交流してもいる。
 実はウィル子の母親。その昔、《チーム》のメンバーが面白半分に生み出したIAが、ウィル子の起源であり、原型である。故に、ウィル子の情報に関するアプローチは《チーム》の誰かに酷似している。
 色々有ったが、夫婦仲は良好なので、良いのではないだろうか。




 哀川潤


 《赤色》。《人類最強》。
 真っ赤な髪に、赤で統一した衣裳を纏い、コブラとドゥカティに乗る美女。
 その通り名の如く、《人類最強の請負人》。値段は張るが、彼女に頼めば何でもやってくれる。

 最強にして『世界の法則から外れた存在』。生まれながらの主人公にして、絶対のヒーロー。しかしそれ故に、他者の仕事を請け負う事でしか、物語に介入出来ないと言う性質を持つ。
 その逸話は凄まじい。数十階建ての高層ビルから飛び降りて無傷で着地。走っている列車を蹴りで止める。老婆に成っても数百キロを背負った状態で天井を走れる、などなど。本人曰く、核ミサイルでも死ぬとは思えない、とか、一人で少子高齢化を覆せる、だそうだ。

 世界の法則から外れている為、気・魔法・魔術を初め、世界に関わる異能は一切が使用不可能。しかしそれでも、間違いなく人間としては最強である。少なくとも《赤き翼》レベルの実力は有るだろう。
 誰もが認める英雄で、美味しい所で登場する、一番、格好良い人。いーちゃんの知人で、最も頼りにしている人物の一人。西東天の実の娘であり、彼の死んだ姉の片方が、彼女の母親。彼の親友が、彼女の育ての親である。
 因みに、数世紀の後に、未来で人類最強の形容詞を得る《夢幻伝説》岡崎夢美とは血縁関係がある。衣服も赤色だしね。

 修学旅行に出ます。登場で、滅茶苦茶に美味しい場所を奪っていきます。




 零崎人識


 《人間失格》。殺人鬼。
 京都で十三人を殺した通り魔の犯人にして、殺人一賊《零崎》ファミリーの鬼子。顔面に入れ墨を入れた小柄な青年。『戯言使い』の鏡の反対側の存在。過去には汀目俊希と名乗っていたこともある。
 父・母共に零崎というサラブレッドであり、唯一、零崎同士の血から生まれた存在である。今は兄・双識から任された「妹達」の面倒を見るお兄ちゃんである。いーちゃんに良くからかわれている。
 かつて京都で彼と対峙した哀川潤が曰く『人殺しの天才』。その技量や身体能力は未熟だが、『他者を殺す』という性質だけは専門家顔負けであり、勝ち負けの理屈が通用しないそうだ。
 妹達だけでなく、親しい人間に対しても意外と面倒見が良い。いーちゃんも命を助けられている。
 綾瀬夕映の最後の兄であり、零崎舞織にとっての最後の兄でもある。




 零崎舞織


 殺人鬼。
 麻帆良学園の大学に通う学生で、かつては無桐伊織と名乗っていた少女。ある時に《零崎》に覚醒し、殺人一賊へと加わった。得物は、義兄・双識から譲られた大鋏《自殺願望(マインドレンデル)》。
 笑みを浮かべた無害そうな少女だが、実は頭も良く、狂いっぷりも結構な物。覚醒して間もないと言うのに、自分を襲ってきた暗殺者に両手首を落とされたと言うのに、それでも笑って、兄とのコンビネーションで見事に相手を殺し返した怪物である。

 無関係だから殺されない、という理屈は零崎に通用しない。何かしらの取引があるか、あるいは凄く仲が良いか、その場合ならば、彼女に殺される事は無いようである。
 過去に、人識共々、哀川潤に敗北している。その時に、見逃して貰う条件として『自分から殺しをする事は無い』と約束をした。以来、確かに其れを守っているのだが、正当防衛が適応される場合ならば別である。実際、停電の裏でも何人か始末している。
 家族の敵に容赦はしない。兄と同じく面倒見は良く、妹にして末娘の夕映とは仲良くしている。




 零崎軋識


 殺人鬼。
 《零崎一賊》の殺人鬼にして、双識、曲識と並ぶ有名人。本名を式岸軋騎。
 その得物は《愚神礼讃(シーレムスバイアス)》と名付けられた釘バット。その技量は高く、遠距離狙撃のライフル弾を、確立六割とはいえノックする事が出来るレベルである。
 実は《チーム》所属の技術者《街》であり、零崎一賊の中で、唯一家族以外の繋がりを持つ存在である。
 現在は植物人間状態であり、まともに行動できる状態では無い。彼も含めた零崎の有名陣が消えてしまったが故に、残りの零崎も排除しようと、《呪い名》連合が動き始めたのである。




 闇口崩子


 暗殺者。麻帆良学園女子中等部3-A・出席番号三十一番。
 本来は高校生だが、年齢を良い感じに誤魔化して中学生。中学生にしてはスタイルがかなり良いが、3-Aの生徒達の中では余り目立たない。それに、外見も幼く見えるのでなんとかなっている。らしい。
 日本人形のような雰囲気の、黒髪の少女。一見すれば大人しそうだが、趣味は小動物の殺戮だとか、常にナイフを持ち歩いているとか、並みの女子では無い。
 その正体は、《殺し名》七家系の第二位《闇口衆》本家直系の血を引く生粋の暗殺者。生家は北海道・大厄島。母親は闇口憑依。父親は六花我樹丸。《十三階段》の闇口濡衣は叔父である。

 《闇口衆》は、各個人、生涯に唯一人使えるべき主人を探す風習なのだが、闇口崩子は井伊入識こと『戯言使い』に忠誠を誓った。彼の命令は何でも聞かねばならず、一生の奴隷として過ごさねばならない。
 兄・石凪萌太の死を契機に、彼女の実力は衰え始め、今では精々が一般人の相手が出来る程度。大厄島を訪れて独り立ちして以降、全く戦えないと言う訳でもないが、実力は弱い。『戯言使い』も、それを承知しているので、脅しや脅迫、潜入捜査や情報収集を基本に使用している。
 この物語では主人『戯言使い』が麻帆良に加わることとなったので、その手伝いとして編入した。




 石丸小唄


 大泥棒。
 泥棒であって、間違っても怪盗では無い。プロとしての意識は有るが、美学は無い。得物を盗むのに他者を利用する事や、邪魔ものを排除する事もかなり多い。ルパンというよりも怪人二十面相に近く、実際『戯言使い』も過去に虐められている。哀川潤が“性格が悪い”のに対し、彼女は性悪なのだ。
 《人類最強》と張り合える、という異名を持つ。確かに間違っている訳ではない。しかし、小唄自身も、哀川潤と戦って勝てるとは思っていない。精々が得物を横取りして逃げる程度である。
 それでも凄いか。




 裏切連合


 《呪い名》によって構成された集団。その規模、黒幕、背後関係など一切が不明。
 嘗て萩原子荻が構成させた《裏切同盟》とほぼ同じ。時宮病院・罪口商会・拭森動物園・死吹製作所・奇野師団・咎凪党の六氏族で構成されている。違うのは、その規模だけである。
 《零崎》全滅という名目で動いているが、その詳細は不明である。
 停電に時宮病院の一人が潜入。霧間凪と高町なのはを苦しめるが、レイジングハートに想操術が通用する筈も無く、敗北。その後、逃走中に零崎舞織に殺害される。




 玖渚直


 第二世界『政治力』を統べる《玖渚機関》の機関長。
 出番はかなり少ないが、この物語の世界観を語る為には、絶対に必要な人材なので、今の内に紹介する。
 玖渚友の兄にして、『戯言使い』の頭の上がらない人。昔から色々と世話に成っていて、今でも、何かと助けて貰っている。何かと面倒事に巻き込まれる事の多い『戯言使い』が、未だに消されない理由の一つ。
 重度のシスコンであり、勘当されていた玖渚友を『玖渚機関』に呼び戻したのも彼。友を巡り、機関で邪魔者扱いされていた過去の『戯言使い』を、命を救う為に『ER3』に追放した張本人でもある。
 その才能は、かつての妹程でもないが、十分に神童と呼ばれるに相応しい。今現在、天才で無くなった友では太刀打ち出来ないレベルに有り、彼が居る限り『玖渚機関』は崩れないと言われている。
 因みに、彼の陰には、直木七人岬という決して表に出ない部下が存在したりするが、彼の出番は無い。






 ●『とある魔術の禁書目録』からの人物




 上条当麻


 《幻想殺し(イマジンブレイカー)》。

 彼に付いてを、敢えて語る必要もないだろう。
 本格的にネギと絡むのは第六章《魔法世界》での話なので、それまで我慢して貰います。




 《禁書目録》


 イギリス清教《必要悪の教会》所属《Dedicatus545(献身的な子羊は強者の知恵を守る)》。

 本名不明。通称をインデックス。『とある魔術~』のメインヒロイン。
 上条当麻とその仲間達(通称を上条勢力)においては、優秀なブレインである。

 『読めば魂まで穢れる』魔導書を十万三千冊、その頭の中に記憶しており、その為、世界各国の魔術結社衰残の的になっている。浚われたり、操られたり、守られたり、とヒロインの要素には事欠かないのでが、何故か本人より他の女性陣の方が目立ち、しかも話に絡んでくるので、影が薄い。
 とは言う物の、本当に影の薄い人は別にいるし、色々言いつつも上条当麻にとっての『守るべき大事な人間』であるので、重要人物である事は間違いない。原作ロシア編で、やっと本格的に、当麻との関係も変化し始めるかな……と思ったのだが、結局、また離れ離れだ。

 《必要悪の教会》と遠坂凛の約束により、麻帆良学園へ。飛行機の離発着が遅れた為、大停電の渦中に、アルトリア、御坂妹、五和の三人に護衛されながらも来訪する事と成る。とはいっても彼女が騒動に巻き込まれる事は無かった。
 停電の終了後、エヴァンジェリンを封じていた『学園結界』の仕組みを完全に見抜き、解除に一役買う。
 その後、関西国際空港で他の仲間と合流する予定、らしいが……。




 姫神秋沙


 《吸血殺し(ディープブラッド)》。

 上条勢力の一員で、上条に攻略させられた一人。かつて『学園都市』三沢塾で、魔術師アウレオルス・イザードによって実験体にさせられていた所を、上条、ステイルの二人に救出される。
 《世界の意志》によって出現した『原石』と呼ばれる異能者で、「あらゆる吸血鬼に対する絶対の血」を有している。魔術的にその身を封印していないと、吸血鬼を呼び寄せ、消滅させてしまう。

 この《吸血殺し》は、吸血鬼達に「例え飲むと死ぬと理解していても尚、魅力的に過ぎる」代物。概念的に吸血鬼に対して殺害権を有しているのだろう。どんな《始祖》だろうと、一吸いで死ぬ。上弦だろうと、《真祖混沌》だろうと、レミリア&フランドールだろうと、レディ・メーヴェだろうと、逃れる事は出来ない。恐らく《真銀》と同じ効力を有していると推測されている。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだけは、その「絶対の不老不死」という特性が《吸血殺し》の力を上回るので、ダメージを受けても死なず、何れ復活する。また、所詮は吸血鬼“もどき”でしかない《王国》ツィツェーリエ等も、殺す事が出来ない。

 作中では、停電前まで、城塞都市のドクターにその体質を診療して貰っていたらしい。その後、彼女の力が治ったのか、もっと悪い方向に行ってしまったのかは、まだ不明である。

 修学旅行編で登場。




 御坂美琴


 元学園都市第三位《超電磁砲(レールガン)》。

 『とある魔術~』の科学サイドのヒロイン。元々、自分の能力が通用しない上条当麻に注目していたが、《妹達》を巡る《一方通行》との事件から、上条当麻と本格的に関わる事と成る。
 上条当麻が裏で何をしているのか知らないまま、自分を助けてくれた時と同じ様に、誰かの為に動いている事を知り、時には対立しながらも事件を解決する事も多かった。しかし、肝心の話の“肝”については、他の《超能力者(レベル5)》と違って、むしろ排斥されていた節すらある。
 それは『学園都市』の暗部への関わりが、《妹達》に比較しても尚、非常に少なかったと言う意味と同じなのであるが――結果として彼女は、話の中核を知らないままに動き、故に、全てが後手に回っていたのだろう。彼女の想いが幾ら強くとも、中心に成り得なかった。
 結果、上条当麻は、御坂美琴が伸ばした手を掴む事無く、より大切なやるべき事の為に、関係を切り離し、ロシアで消息を絶つのだが……さて、如何なる事やら。結果は原作を待つばかりである。

 その実力は一国の軍・大隊に匹敵するともいわれ、人間の範疇で彼女以上の電撃の使い手は、この世界には存在しない。放電現象や電子機器の天敵であり、操者である。
 現在は世界各国に散った《妹達》を巡りながら、上条当麻の仲間として活動をしている様子。

 修学旅行で出る。




 ミサカ


 《欠陥電気(レディオノイズ)》。

 御坂美琴量産型クローン《妹達》の通称。大体の場合は、製造番号10032番の事を指す。
 感情の起伏が少なく、未成熟。それ故に上条当麻に対するアピールはストレートで、姉・美琴には出来ない真似をやってのける。中々に手強い相手であると言えるだろう。
 戦闘能力は少ないが、非常に有能。その最たる例が《妹達》の脳内リンク(通称をミサカネットワーク)。個人個人は電磁波・微弱電流程度の操作しか出来ない。しかし、一万人の姉妹の脳が独自の周波数を持つ電磁波で繋がっており、遠く離れた状態での意志の疎通や、人間には困難な計算機能を発揮出来る。
 全世界に散る事が多い、上条当麻の仲間達にとっては非常に有り難いスキルである。

 ミサカ10032番は、大停電前に《禁書目録》の護衛として、五和、アルトリアと共に来訪。学園内の非常事態を、玖渚友とウィル子に教える為、その能力を駆使して彼女達に接触。間接的では有るが、事件の解決に貢献していた。




 神裂火熾


 イギリス清教《必要悪の教会》所属《Salvere000(救われぬ者に救いの手を)》。

 元天草式十字清教の《女教皇》にして《聖人》。多角融合型魔術の使い手。
 《聖人》と呼ばれる特殊な立場の魔術師であり、その実力は高い。世界でも上から数えた方が早いレベルで有り、上位百人の中には確実に名を連ねる存在である。何かと敗北を喫する事が多かったり、より上位の実力者の計りになったりすることも多い気もするが、本当に強いんです。

 上条当麻とは《禁書目録》を巡る事件で知り合い、その後、幾度と無く共闘。対魔術結社、対ローマ正教、対英国内乱、対学園都市と、愛刀《唯閃》と共に潜り抜ける。
 尚、律儀な神裂は、その都度、彼にお礼をしようとするのだが、何時も機を逃してしまい、土御門に弄られ、五和に美味しい所を持っていかれる事に成る。まあ、お礼の方法にも多少問題が有る。因みに、上条当麻とは殆ど同じ年なのだが……態度も性格も体つきも、とてもそうは見えない。

 現在は、世界各国を巡り、上条当麻の知人・友人達を集めている。実質的な上条グループの纏め役を兼ねており、『魔法世界』グラニクスでアルトリアと接触して、《禁書目録》の交渉をしたのも彼女。
 同時、古くからの知人である土御門に、何かしらの調査を依頼しているようだ。




 ステイル・マグヌス


 イギリス清教《必要悪の教会》所属《Fortis903(我が名が最強である事を此処に証明する)》

 炎を操る天才ルーン魔術師で上条当麻の喧嘩仲間。《禁書目録》や学園都市を巡る戦いの中、共に喧嘩をしつつも、事件を解決する為に奔走する事が多かった。なんだかんだ言いつつも《禁書目録》を守ろうとする思いは同じな為、上条当麻とは仲良く(周囲が言うには)やっている。

 専門は拠点防衛や拠点攻略。炎のルーンを使用し、カードとして展開する事で効果を生み出す。使用する枚数が多いほど威力や術は上がり、切り札《魔女狩りの王(イノケンティウス)》ともなると魔術結社の壊滅も十分に可能に成る。
 発動が遅い、柔軟性に欠けると言う魔術の点で弱く思われがちだが、かつてローマ正教の手に堕ちた《禁書目録》を単身で救いだし、解放するという大役も完遂しており、実はとても強い。

 今現在は、上条当麻の一向と行動を共にしている。




 土御門元春


 イギリス清教《必要悪の教会》所属《Fallere825(背中刺す刃)》兼『学園都市』生徒。

 上条勢力の情報担当。イギリス清教と上条当麻のパイプ役にして、同時にアレイスター・クロウリーとも通じていた多重スパイ。また、彼ら以外の魔術結社とも深く関わりを持ち、その顔は非常に広い。
 《一方通行》等の科学サイドにも関わっており、飽く迄も裏方に徹しながら、数多くの事件で奔走していた。確実に成果を上げた彼の動きで救われた命は多い。

 学園都市で能力者として開発を受けている為、その魔術の使用は困難だが、実は世界有数の陰陽術師。上条当麻以上に鍛え上げた身体での戦闘が基本だが、魔術の使用を躊躇う事は無く、己を厭わない。
 似通った性質の為か、上条当麻の親友と言っても良いポジションに居る男である。

 現在は『魔法世界』の辺境の地で、旧《完全なる世界》研究施設の探索中。




 ローラ・スチュアート


 イギリス清教の最大主教。兼《必要悪の教会(ネサセリウス)》のトップ。

 英国本土において五本の指に数えられる世界最高峰の魔術師。その実力は当然高いが、それ以上に打算的で狡猾。聡明さと腹黒さを抱える女性。その本性を示す事は少なく、普段は馬鹿っぽい雰囲気である。
 人間の精神に痛烈な一打と与えると共に、無意味な善行もする。その為か不思議と人望は途切れず、神裂やステイルも、不満を抱えつつも命令に従う事が多い。

 魔術と魔法の統合が進んでいる事により、イギリス清教の宗教的立場は其のままだが、一方の《必要悪の教会》は『魔法世界』と、その下部組織《協会》に組み込まれている。
 その立場を利用し、魔術結社はイギリス清教の立場で、魔法結社は《必要悪の教会》の立場で顔を出す。魔法の隠匿は《協会》に任せる事も多いのだが、魔術の隠匿に関しては完全に彼女の掌の上。英国に犇めく多くの魔術結社も、ローラ・スチュアートの名を恐れている。

 今現在は上条勢力の保護者の一人。唯の気まぐれでは無く、その裏には深い考えが有る様だが、それは上条当麻ら本人達にも見えていない。
 《必要悪の教会》として、『魔法世界』の裏に潜む魔術組織を隠蔽・討伐するとともに、かつて《完全なる世界》と、其処に助力した組織達を狙い、陰ながらもネギ達の助けとなる行動を起こしている。

 二十年ほど前、身分を隠して魔法学校に忍び込み、ナギ・スプリングフィールドと出会い、なにやら楽しい経験した過去を持つ。その関係で《赤き翼》の何人かとも顔見知り。エヴァンジェリンも対面した事は有るらしい。




 アレイスター・クロウリー


 元『学園都市』統括理事長。

 かつての黒幕その二。上条当麻、《一方通行》を初めとする能力者や、イギリス清教などの各組織を己の計画に利用し、魔術師を滅ぼす一歩手前まで行った。しかし最後には上条当麻らに敗北。現在は『学園都市』の権利を親船最中ら理事会に譲って退き、《必要悪の教会》に隠居している。

 本名をエドワード・アレクサンダー・クロウリー。魔術的実力は世界最高。『黄金夜明』と呼ばれる魔術結社を設立したり『法の書』を記述したりと、彼の活動70年で、魔術の歴史が書き変わったとまで言われている。しかし、それ故に彼が魔術を捨てた事は、最大の汚点と記された。
 現在も世界最高峰の魔術師であり、同時に科学者である事は違いない。仮に魔術を知らなかった場合、その才能は『ER3』のヒューレット助教授すらも凌駕した可能性があると言われている。

 その処分については各国から多くの反発が有ったようだが、最後には呑み込ませたあたり、何か裏工作をしたのだろう。しかし本人も、もう表に出るつもりは無い。現在は、過去と同じく、聖ジョージ大聖堂の地下で逆さまの状態。ローラとは話し相手。
 かつて学園都市で利用していた監視技術“アンダーライン”をウィル子に伝授してもいる。




 五和


 天草式十字清教所属の魔術師。

 表向きは天草式~からの出向と言う形に成っているが、実際はその実力と上条当麻との関係を見込まれ、神裂によって合流を果たした、かつての上条勢力の一員。同時に原作のヒロインの一人である。
 身体強化魔術や剣での戦闘が多く、実力は中々高い。とは言う物の、平均的な魔術師の実力の領域を出る訳でもない。ただ、魔術の特性上、応用能力は高く、どんな相手とも組む事が出来る利点を持つ。

 特徴的な二重瞼に、天然な性格で家庭的と、数少ない常識的な女性。しかし一方で上条当麻に対する思いは強く、神裂を恋敵と認識してもいる様である。
 
停電の渦中に《禁書目録》の護衛として、アルトリア、ミサカと共に来訪。詰め所に到着後は、「もう一人のネギ」によって倒れた警備員達を介抱した。また、停電終了後のエヴァンジェリンの封印解除のサポートもした。




 オルソラ・アクィナス


 イギリス清教所属の魔術師。

 《必要悪の教会》に所属している訳ではない、純粋なイギリス清教出身のシスター兼魔術師であり、神裂によって合流を果たした、嘗ての上条勢力の一員。原作のヒロインの一人でもある。

 その専門は暗号解読であり、魔術書や魔術媒体の取り扱いが大きな仕事。言語や文化、世界各国の雑学にも優れており、その戦闘能力こそ低いが、上条勢力の外交方面の担当をしている事が多い。

 いわゆる“お婆ちゃん思考”であり、会話にやや難があるが、非常に優しく、性格的にも肉体的にも母性溢れる女性。自分を救ってくれた上条当麻には恩義以上の感情を持っており、天然か策士か不明なまま、さり気無くアタックをしかけている。




 アニェーゼ・サンクティス


 ローマ正教イギリス清教派の魔術師。

 イギリス清教に在籍してこそいるが、ローマ正教から改宗する気は無く、一種の宗派として成立している。名目上はローマ正教なので、その名前をローラに十分に利用されていると言う訳である。
 嘗てはローマ正教とオルソラを巡り、上条当麻達と対立。しかし、その後“アドリア海の女王”と呼ばれるローマ正教の魔術艦隊のパーツとして利用され、今度は彼女が上条当麻に救出される。ただ、他の女性陣と違い、上条当麻に惚れていると言う訳ではないらしい。

 集団指揮的な仕事が多く、言いかえれば軍勢を効率的に行動させ、運用する術に長けている。ローマ正教イギリス清教派のシスター二百人を確固たる意志統一の元で運用したスキルを使用し、物資や人材の輸送、運搬等の仕事を取り仕切っている事が多い。

 本人の戦闘能力も中々高く《蓮の杖》と呼ばれる武装を使用して戦う。長柄武器として《蓮の杖》を扱い、また空間座標に打撃を与える魔術を持つ。発動までのタイムラグも含め、野外での戦闘に不向きな所が難点かかもしれない。




 サーシャ・クロイツェフ


 ロシア成教《殲滅白書》所属の魔術師。

 イギリス清教との友好の証明として、クランス・R・ツァールスキーとローラ・スチュアートの間の協定によって派遣された。そしてローラは彼女を、そのまま上条勢力に合流させた。
 嘗て上条当麻の父・刀夜が引き起こした《御使堕し》事件から上条当麻に関わり始め、天使と非常に相性の良い肉体の特性を狙われ、物語に巻き込まれていく。

 《殲滅白書》は幽霊退治に特化した集団であり、魔力の残滓を解消する事や、土地に流れる霊脈・気脈等の問題解決が上手い。宗教は違うが、所謂“お祓い”に近い面が有る。その一員であるサーシャも当然ながら相応の技術は有している。
 どことなく小動物を感じさせる愛らしい少女だが、戦う際の獲物は拷問器具。様々な用具を使用し、問題解決には手段を選ばない面も持っている。対人戦・対集団戦と、どんな相手にも相応の戦いが可能。
 
現在は上条当麻の一向に加わり、シスター勢と交流を深めている様子。




 オリアナ・トムソン


 フリーランスの魔術師。《Basis104(礎を背負いし者)》。

 魔術業界では名の知れた、凄腕の運び屋。その手段を選ばず仕事を完遂する態度から《追跡封じ》の異名を有し、振り切られた追手は数多い。
 嘗て『学園都市』で、ローマ正教の仕事を請け負い、上条当麻らと対立。速記魔術と知力で、上条とステイルを苦しめるが、最後には二人の“凄く悪い連携”を攻略する事が出来ず、敗北。イギリス清教に捕縛され、幽閉されていた。その後、ローマ正教との戦いの途中で、上条当麻と共闘した。

 神裂に協力を頼まれ、現在は上条勢力に在籍。その経験を生かし、作戦時の侵攻や効率の良い行軍の方法。侵入・逃走経路。敵戦力の活動範囲や、相手への対処方法など、戦略上の現場参謀を担う事が多い。

 包容力のある、溺れそうな雰囲気を持った妖艶な美女。別に上条当麻に惚れている訳ではないが、興味深く思っている事も確かなようで、嫌々に助力している訳ではないらしい。




 吹寄制理


 『学園都市』出身の女性。

 上条当麻のクラスメイトであり、委員長。当然の如く当麻のフラグ能力に引っ掛かっているが、それを粉砕し続けた為に、対上条当麻用兵器として扱われる事も多くない。

 元々、何か怪しげに動いていた彼の動向を気にしては居たのだが、最後にはそれを嗅ぎつけ、力を貸す。といっても戦闘能力は大した実力を持っていないので、もっぱら雑務と事務処理が多い。書類仕事とか。
 しかし、上条勢力で雑務処理が出来る人材は、意外なほど少ないので、非常に重宝されている。




 《一方通行》


 元『学園都市』第一位《一方通行(アクセラレータ)》。

 此方も敢えて詳しく語る必要はないだろう。
 上条当麻と違い、結構裏で目撃されているのだが、はっきりと登場するのは相当に後の予定である。




 《打ち止め》


 御坂美琴量産型クローン《妹達》の製造番号20001番。

 《妹達》全員の思考制御と統率を目的に生み出された最終クローンで上位固体。――なのだが、《一方通行》と上条当麻の対決の煽りを受け、急遽、製造途中で培養漕から出されてしまった。故に《妹達》の中で外見は一番若く、外見や口調も小学生低学年以下に見える。

 《一方通行》の本心を見抜く明晰さと、彼を支える優しさを持つ、実は凄く優秀な幼女。
 現在は《一方通行》や“グループ”と共に旧《完全なる世界》研究施設探索をしている様子。




 《番外固体》


 元学園都市第三位《超電磁砲》の量産型クローン《妹達(シスターズ)》の《番外固体》。もっと正確にいえば、第三次製造計画(サードシーズン)によって生み出された番号外のクローンである。
 対《一方通行》用に調整された、負の感情に付加を懸けるミサカであり、大能力者相等の電撃使いでもある。かつては《一方通行》を相手に、その精神破壊を目論んで『学園都市』から破壊されたが、敗北。

 一命を取り留めた後は、取引の後に共闘。今現在は、《打ち止め》を護衛している。




 垣根提督


 元学園都市第二位《未元物質》。

 かつて己が所詮はアレイスターの道具でしか無い事に逆らい、《一方通行》に戦いを挑むも敗北する。
 死亡したかと思われていたが、辛うじてだが一命を取り留めていた。脳を三つに分割し、冷蔵庫程の補助機械を組みこんで命を繋いでいる状態だった、らしいが……。

 今現在は、《裏新宿・無限城》と呼ばれる場所にいるらしい。
 因みに、そんな地名は、“この世界”には存在しない。




 麦野沈利


 元学園都市第四位《原子崩し》。

 完璧主義者。しかし、その性格故に格下と侮っていた不良少年に敗北。《冥界返し》の『負の遺産』によって復活した。作者は原作十九巻での登場を見て、サイボーグむぎのん、とかいう言葉を受信した。
 その後、幾度と無く相手を追い続けるが、何れも敗北。最後にはロシアの大地で和解してしまった。作者はてっきり、死ぬと思っていたんだけど。

 今現在は『ER3』にいるらしい。




 《冥界返し》


 『学園都市』在籍の医者。カエル顔の初老の男性。
 ある意味一番にチートな人間で、あらゆる手段を用いても人間の命を救う事に全てを掛けている。その技能は確かだが、局部麻酔で心臓手術を行ったり、法的に危険な薬物・新技術を使用したりと、その伝説は数知れず。上条当麻が有る意味、一番お世話になった。
 嘗て、魔術結社に追われ死に懸けていたアレイスターを救い、彼が浮かぶ水槽を与えたのもこの人物。言い方を変えれば、『学園都市』の始まる切欠を生み出した諸悪の根源、でもある。

 その才能は高く評価されており、鳴海清孝や果須田祐杜、赤羽蔵人を初め、交友関係は広い。
 鳴海歩を麻帆良に行かせたのも彼である。




 風斬氷華


 どこかで出す。

 「いや性質上無理じゃない?」とか思わなくもないけれど、出す方法は考えてあったりする。




 エイワス


 こっちも出る。

 第六部《魔法世界》編まで続けば、だけれど。






 ●『コード・ギアス』世界からの人物




 ルルーシュ・ランぺルージ


 麻帆良学園女子中等部3-A組・副担任、数学教師。

 遠い並行世界からやってきた青年。元神聖ブリタニア帝国王子にして、後に皇帝。そして世界の半分を口先と頭脳と演技と行動で、正体不明のまま統率した希代のカリスマ「ゼロ」でもある。
 波乱万丈の人生の最後には親友に刺殺されたのだが、二百年の後にC.C.と共に麻帆良の地に来訪した。

 複数の世界の記憶を引き継いでいる為に知識が所々変だが、一番の基本知識は皇帝になった世界(アニメ版)である。だからガウェインを召喚出来ても自分での操作が不可能。ハドロン砲やスラッシュハーケンの使用は可能だが、殆どスタンドの扱いである。

 その正体は《世界の意志》妲己に召喚された『呼ばれし八人』たる特殊な英霊「ライダー」。



 しかし、その召喚過程には、かなり複雑な問題が有る。

 本来は『ナイトメア・オブ・ナナリー』世界(以下、ナナナと略す)の《ブリタニアの魔女》ゼロを「ライダー」として召喚する筈だったのだが、しかしナナナ世界のゼロは、“ルルーシュでもC.C.でもない《ブリタニアの魔女》と呼ばれる存在”だった。其処で、ルルーシュとC.C.の両方を召喚し、融合させることでゼロを再現させよう、と妲己は考えたのだ。この為に、麻帆良に魔王&魔女の両方が出現したのである。

 言いかえれば、二人は《ブリタニアの魔王》ゼロの状態が本来の姿で、同時に「ライダー」なのである。

 しかし、ここでもう一つ誤算、というか予想外の出来事が有った。

 『集合無意識』から呼び出された為、並行世界も含めた“ルルーシュ・ランペルージ”という生命が呼ばれる事となり、結果として召喚されたルルーシュは、並行世界の記憶が混ざった状態に成ったのだ。
 この辺は、型月世界の“座”のシステムに近い物が有る。特定の世界のルルーシュでは無く、ルルーシュ・ランペルージという人間の集合体が、形になったと言うべきだろう。
 ルルーシュであると同時に、ゼロ(ナナナ世界)の性質を抱えてもいる為に、不老不死。シャルルやC.C.からコードを受け継いで、不老不死になっている、という訳ではないのだ。



 学園での人気は高い。女子よりも美しい男子という呼称は真実のままである。あの傾国の美貌が壊れる事はこの先に無いと言う事であり、この点だけは、早くに死んで幸いだったかもしれない。無論、都市を取らないし変化をしないので、同様に、体力等の欠点も、この先に伸びないと思われる。

 絶対遵守のギアスは両目で制御可能になっている。一人に一回、という制約は変化していないが、その使い所の見極めが非常に上手くなっている。麻帆良の中で使われた人間は、葛葉刀子他、数人のみ。
 現在はエヴァンジェリンの家でC.C.共々生活している。C.C.とは婚約者という立場。彼本人もそこは納得しているようだ。




 C.C.


 麻帆良学園女子中等部3-A・出席番号三十四番。クライン・ランペルージ(偽名)。

 嘗てルルーシュにギアスを与えた魔女。当初は利用しているだけだったが、ルルーシュの人生を見て、彼と共にいる内に心が変化。最後には彼を見守り、彼の残した者を見続ける事に成った。

 エヴァンジェリンとは実は同郷と言う設定。C.C.(に成る前の奴隷だった少女)と、当時のエヴァンジェリン(一城の姫)とは天と地ほどの立場の差が有ったが、それでも同じ土地で育った事には違いない。
 この物語では、エヴァンジェリンと同じ、大体600歳位をイメージしている。当時の故郷・レーベンシュスルト城の光景は、風化しては居るが、記憶に残っているそうだ。

 故に、不死者同士という事も相まって、中々仲が良い。自分をC.C.と呼ぶ事も許している。
 ただ、他の不老不死と違うのは、彼女のその不死性は“コード”と呼ばれる特殊な性質を宿している為だから。コードは、条件が整えば他者に引き渡す事が可能なので、その不死性は絶対と保障された物では無い。ナナナ世界では実際に、ルルーシュに世界を託して消えていった。



 その正体は、《世界の意志》妲己によって召喚された『呼ばれし八人』の英霊「ライダー」の片割れ。

 ナナナ世界のゼロが「ライダー」として呼ばれる筈だったのだが、ゼロは、“ルルーシュでもC.C.でもない状態”だった為、二人揃って呼ばれる事と成った。
 その真実を知るのは大停電の最中だが、ルルーシュと違って、魔女は如何やら、無意識の内に自分の立場を理解してもいたらしい。自分が英霊と教えられる前から、そんな雰囲気が節々に見えている。



 ルルーシュの人生を知っている為に、『誰かを守る事』や『世界を変える事』に対する意見は非常に厳しい。ルルーシュを全肯定している訳ではないが、彼の覚悟は理解を示し、共に有ろうとしている。

 特に、近衛木乃香を守ると言いながらも、中途半端だった桜咲刹那に対しては、同族嫌悪にも似た怒りを覚えた。其処には、守ろうとして傍に居る事から逃げた過去の己を重ねている部分もあったのだろう。
 エヴァンジェリンとネギが戦う中、停電中の桜通りで激突。死闘の果てに彼女を破る。

 その後、ゲリラ戦によって倒れたルルーシュと共に、息絶え、「ライダー」ゼロとなって大橋の決戦に参戦。発揮された本来の力を存分に使用し、「もう一人のネギ」の撃退に成功する。




 ゼロ


 《魔王》ゼロ。

 『ナイトメア・オブ・ナナリー』の世界のゼロにして、《ブリタニアの魔女》ゼロ。『集合無意識』の停滞を防ぐ為、エデンバイタルを利用し戦乱と混乱を巻き起こす不死の怪物。
 素手でKF(ナイトメアフレーム。ギアス世界のロボット)に勝てたり、相手のエネルギーを吸収したり、炸裂したクレイモアを空中で止めたり、虚空から専用機ガウェインを召喚出来たりと、明らかに常識外の存在。運動能力もありえない程高く、KFの蹴りを受けてもピンピンしている。

 その正体は、《世界の意志》妲己が呼び寄せた特別な英霊『呼ばれし八人』の「ライダー」たる真の姿。

 最も、その事実を“本人”が知ったのは、大停電において《魔女》と《魔王》の、両者が同時に死亡状態に成っている、という条件を満たした時。其処で初めて、封じられた記憶を戻され、「ライダー」の知識を与えられた。その後、真実に不満を言いつつも、しかし同じ立場の「セイバー」アルトリアと、「アーチャー」高町なのはと協力し、大停電において「もう一人のネギ」を撃退した。
 自分を呼び寄せた『世界の意志』妲己には逆らえない。しかし、向こうも大きな干渉はするつもりは無いらしく、他の隠された真実を教える気も無い様子である。

 ルルーシュとC.C.の両者の融合状態である。不老不死に加え、《ブリタニアの魔女》という立場。故に結界型ギアス(ザ・スピード、ザ・ランドなど)は、エデンバイタルの力の影響で、自由に使用可能という、超反則キャラである。
 ただしマーク・ネモを操ることだけは出来ない。




 シャーリー・フェネット


 ルルーシュを愛した、ごく普通の、だからこそ大切だった少女。
 役目が確定した。

 絶対に“出ざるを得ない役目”を背負っている。

 秘密が多くて、ここでは言えない。
 彼女ははたして、ルルーシュ達に何を齎すのか……。




 『妹』


 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
 ルルーシュが何よりも徹底して隠し、行動したために、彼の死においてようやっと全て自分の為、世界の為だと知った。その後の彼女がどうなったのか、語られることは無い。語るものでもないと思う。
 二人の結末は、ナナリーにも、ルルーシュにも、責が有った。

 絶対に登場しない。




 『親友』


 枢木スザク。
 ルルーシュの最悪の敵にして親友。殺し合い、裏切り合い、騙し合い、憎悪と怨恨の果てに、しかし最後は手を組んだ青年。彼がどうなったのかも、また不明である。

 こちらもまた、絶対に登場しない。




 『義妹』


 初恋の女性。ユーフェミア・リ・ブリタニア。集合無意識で出会った後、消えて行った。
 彼女の存在が、良くも悪くもルルーシュとスザクを変え、そして世界を変える切欠となった。
 世界によっては皇帝にも成り得た。彼女の不幸は、皇族の出生であり、現実に抗うには運命との相性が悪かったこと。姉・コーネリアに守られ過ぎていた事である。
 それさえなければ優しい世界で過ごせた筈、だと思っている。

 彼女も登場しない。




 『父親』


 ルルーシュの父。シャルル・ジ・ブリタニア。元ブリタニア皇帝。
 妻・マリアンヌの事は勿論、ルルーシュもナナリーも親として愛していた。愛していたが、しかしその愛し方を徹底的に間違えてしまい、結果的にはルルーシュを捨てていまい、その復讐として殺された。
 集合無意識で割と長くルルーシュと共にいたらしく、ルルーシュの中では決着が付いているようである。

 彼も登場しない。




 『母親』


 ルルーシュの母。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
 ギアス世界最強の人(だと個人的には思っている)。

 出ます。






 ●『魔法少女リリカルなのはStrikerS』からの人物




 高町なのは


 現・麻帆良学園中等部女子寮管理人。

 高町ヴィヴィオの義理の母。その正体は、時空管理局本局武装隊航空戦技教導官・高町なのは一等空尉である。名前が妙に長いのは役所の宿命みたいなものだ。
 時空管理局で《管理局の白い悪魔》《エース・オブ・エース》とも呼ばれる一流の魔導師。《闇の書》事件やJS事件を初め、難事件を幾つも解決してきた有名人である。
 防御を鍛えた、基本的な後衛型。しかし、空中での移動能力や、近接戦闘への対処方法も有しており、普通の後衛型魔法使いよりも堕ちにくく、耐久力が有る。親友のフェイトとコンビを組むと、多分一番強いのではないかと思っている。
 学園警備員の一員であり、娘のヴィヴィオを鍛える意味も込めて活動している。

 その正体は《世界の意志》妲己によって、この世界に召喚された、特殊な英霊『呼ばれし八人』の「アーチャー」の立場にある存在。



 実は彼女の召喚にも非常に大きな問題が隠されている。

 高町なのはが娘と共に麻帆良に来た理由は、管理外世界で発見されたロストロギア。通称《聖杯》が原因である。
 このロストロギアは、本来、魔力災害や戦争時に使用される道具であり、大きな魔力を感知し、吸収すると言う性質を有している。しかし、文明が滅んだ為、回収されずに放っておかれたのだ。そして、休眠し続けていた。
 しかし、ある時、その土地が――――微生物しか存在せず、管理外世界と言う事で、時空管理局の訓練プログラムの一つに指定されたのだ。度重なる訓練による魔力を感知したロストロギアは、徐々に活動を開始。
 そして高町なのはの砲撃の一撃で、完全に目を覚まし、その魔力を吸収に動いたのである。

 莫大な量の魔力を吸収する《聖杯》は、その後、転位する様に設定されていた。恐らく二次災害を防ぐ為に設定されたのであり、次元を越えて転位し、其処で消滅する様に予めプログラムが組まれていた。
 しかしここで、大きな問題が発生する。
 それが《聖杯》が、高町なのはの砲撃のみならず、その“彼女本人”も吸収してしまったと言う事だ。



 《聖杯》に取り込まれた高町なのはは、《闇の書》事件の時と同様、その魔力を奪われた。嘗てと違うのは、その吸収量が莫大であり、なのはの生命すらも全て吸い取る分量だったと言う事である。

 《聖杯》の中で死ぬ寸前だった高町なのはを、妲己が見つけ、《聖杯》に吸収された魔力を逆利用し、彼女を「アーチャー」として召喚した、というのが彼女の来訪の真実である。

 しかし、妲己の力を持ってしても、その全てを召喚する事は不可能だった。正確に言えば召喚が遅すぎた。なのはの肉体は《聖杯》に吸収された事で衰弱していて、英霊の器として使い物に成らず、また唐突に《聖杯》から肉体を奪うと、どの様な反応を行うのかが不明だった。

 其処で妲己は、“高町なのはの精神”だけを保存し、自分の世界に英霊として呼び出したのだ。



 故に、時空管理局で回収された《聖杯》の中で、全てを吸い取られて生命活動を停止した「高町なのはの肉体」が保管されている。
 一方で、その精神や実力は其のままに「アーチャー」として麻帆良に有る、のである。



 この真実を知っているのは、上層部の一部を除けば、《聖杯》解析を行っているマリエル・アテンザ。事後処理に当たるクロノ・ハラオウンと八神はやて。彼女達から伝えられたフェイト・T・ハラオウン。高町なのは本人と、彼女から語られたアルフ、ユーノだけ。

 高町なのはは、麻帆良の地にて生存しているが、次元を越えて戻って来る事は非常に困難である。その感情は、母親としてのなのはに結び付き、幾つかの行動を取らせた。警備員として高町ヴィヴィオを鍛え、停電で彼女がエヴァンジェリンに協力したのも、その内の一つだったのである。無意識の内に自分の立場を自覚していたようで、この世界に居るテスタロッサ母娘をヴィヴィオの関係や、自分の消えた後の娘を思ってが、根底には流れていた。

 その話題の重さに他者に抱える事を良しとしなかったが、停電の最中、自分の懸念が的中してしまったことで限界を迎える。アルフに指摘され、ユーノに事情を話し……其処で、ユーなの風になったりした。

 今も尚、麻帆良で管理人の仕事をし、ヴィヴィオに事情を隠したままであるが、『呼ばれし八人』の一人である彼女が、今後も動乱に巻き込まれない筈が無い。




 高町ヴィヴィオ


 麻帆良学園小等部所属の魔導師。

 高町なのはの養女。理由は不明だが、母と共に麻帆良に飛ばされ、今は麻帆良学園小等部に通っている。母親がやってきた理由は「アーチャー」だったから。同じ時期に来訪したルルーシュ&C.C.は二人で「ライダー」だったから、なのだが……。

 無限書庫の司書のライセンスを生かして、図書館探検部に所属。のどか、夕映、ハルナ、木乃香達と仲良く日々を過ごしている。なのはとしても、自分の寮の生徒が帰宅に同行してくれるので助かっている。
 その明るい性格故に、寮の皆にも人気。確かに幼いが、あの明日菜でも可愛いと認める位、しっかりしている。外見が近い風香と史伽。母親繋がりでエヴァンジェリンとも其れなりに交流が多く、実は現時点では、ネギよりも遥かに優秀な交友関係を構成しているかもしれない。

 裏では警備員の仕事もしている。訓練も兼ねて、なのはの目の届く範囲で活動させている。幼いと思えるが、なのはとフェイト。両方の母親から教育を受けている事も有って、かなり優秀な実力。
 普段はぬいぐるみに偽造しているデバイス、クリス(セイクリッド・ハートを略してクリス)を使用すると、魔法少女に変身して戦う事が可能。嘗てJS事件にて発動した『聖王』モードになれ、勿論あの反則的な防御鎧『聖王の鎧』も纏う事が出来る。しかし一方で、他者を守る広範囲防御魔法は苦手。そのサポート役に、ユーノとアルフを、なのは、フェイトから其々付けられている。

 大停電の最中、母親に似たアリシア・テスタロッサを目撃し、衝撃を受ける。長谷川千雨の助力で何とか乗り越えた物の、彼女が自分の越えるべき壁であると認識した様だ。
 実はかなり重要な役目。




 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン


 時空管理局所属の嘱託魔導師。本局所属の執務官。

 高町なのはの親友で、高町ヴィヴィオの義理の母親。アリシア・テスタロッサの妹でもある。
 嘗てアリシア・テスタロッサの代用品として『プロジェクト・フェイト』によって生み出され、道具として使われ、プレシアに捨てられた過去を持つ。当初は廃人寸前だったが、その後、なのはやアルフの手によって、精神的に自己を取り戻す。
 『時の庭園』における最終決戦時、それでもプレシアを母と慕って手を伸ばすが、その手が握り返される事は最後まで無かった。その後、ハラオウン家に引き取られる。

 なのはと共に多くの事件を解決した有名人。特にJS事件解決の評価は大きい。執務官としての能力は高く、多くの事件を手がけている。そんな中でエリオやキャロといった子供達も保護しており、将来に期待されるエリートと評されている。

 現在は、高町なのはの現状を知り、それでも何とか彼女を救おうと奮戦している。本来なのはが行うべき仕事を八神はやてと分担して受け持ち、アルフから送られる情報をマリエル・アテンザに渡し、元機動六課の面々にさり気無く根回しをして、クロノから公私混同に注意するようにと言われている。

 プレシアとアリシアがいるので、心配しないでも、彼女もしっかり出て来ます。
 ご安心を。




 ユーノ・スクライア


 時空管理局所属・無限書庫司書長。

 高町なのはが魔導師の道を歩む様に成った、《ジュエルシード事件》の発端にいた少年。今現在は、立派な青年であり、その持前の頭脳を利用して、未整理資料に埋もれる無限書庫の司書をしている。

 スクライア一族の特徴としてオコジョに変身する事が可能であり、最初になのはに出会った時は獣形態だった。当時は人間に戻れる事を話していなかった為、そのままお風呂に入ったりもしたのだが、当時の彼は子供なので問題無い筈、である。
 人間時でもオコジョ時でも魔法技能に変化は無く、なのはのサポートをする事が多かった。

 直接戦闘能力こそ高くないが、各種補助魔法に非常に優れており、なのはの砲撃や、はやての広範囲魔法も簡単に防ぐ障壁を展開出来る実力の持ち主。通信、索敵、妨害、捕縛など得意分野は幅広い。
 JS事件後も、相変わらずなのはと付かず離れずの関係を保っている。周囲からは“普通の関係ねぇ……”と言う表情をされるが、両者の認識では、とても中の良い友人同士なのだそうだ。しかし、言わせてもらえば、普通は中の良い友人と言うだけで、養女の様子を伺ったり、授業参観みたく顔を出したりしない。

 実質的にはヴィヴィオの父親みたいな物である。

 現在はフェイトに頼まれ、なのはのサポート役として麻帆良に来訪している。アルフと共に転位してきており、寮の中でも人気を博しているお陰で、カモがキャラ被りを心配していたりするが、ユーノは眼中に全くない。
 その能力を見こまれて、停電中はヴィヴィオと行動を共にしていた。しかし、不測の事態によって人間形態に戻ってしまい、彼女達と分断され、脱落する。

 ユーノ負傷の報は、なのはの精神に大きなダメージを与えた。と言うのも、なのはは、この世界に居るだろうテスタロッサ親子の影響から、アリシアを守る為に鍛えているつもりだった。自分一人で問題を抱えて、敢えて事情を告げなかった事が、彼の負傷に通じたのではないか、という自責の念である。
 無論、なのはが一概に悪いと言える訳ではない。しかし、ユーノの負傷が、この世界での彼女達の立場を明確にした事は事実である。更に、自分が「アーチャー」であり、既に肉体は死んでいるという事実も、なのはの精神に拍車を懸け、結果、ユーノへ頼る行動に移らせる事と成る。

 作者としても、そろそろ二人の関係は進歩して欲しいので。物語の中で少しずつ進展させていくつもりである。




 アルフ


 フェイトの信頼する相棒。元々は死病に罹った狼の一種で、群れから追放された所を、幼いフェイトが拾い、使い魔とした。フェイトから魔力供給を受けている為、彼女が魔力を消費すればするほど、フェイトに負担が懸かる。故に最近は子供形態で居る事が多い。
 格闘戦だけでなく魔法も十分にこなせる有能な存在。ただ、フェイトと共に《闇の書》事件を解決した後は、彼女の家を守る事を命題とし、あまり積極的に戦う様子は見せない。フェイトの仕事が忙しく成り、負担を少しでも減らそうと言う事なのだろう。

 ヴィヴィオの保母的な立場でもある。フェイト出て慣れているお陰か、かなり子供の扱いは上手い。
 現在は、時空管理局から転位して高町母娘の元に居る。転位行動が可能であるという事実が、高町なのは救出が決して不可能では無いという事実の証明に成っている。

 ヴィヴィオと一緒に居る事も多く、停電では共に警備員として戦っていた。しかしその途中、『感じ慣れたフェイトの様な、しかし明らかに違う気配』を察知し、ヴィヴィオを庇って負傷する。
 フェイトの姉にしてオリジナル、アリシアの存在を検知した辺り、流石と言うべきだろう。




 八神はやて


 時空管理局所属の魔導師。階級は二佐。

 高町なのは、フェイト・T・ハラオウンの親友で、ヴォルケンリッターの主人である。
 嘗て《闇の書》事件に置いてなのは達と対立をしたが、最後には協力して解決。その後は時空管理局に席を起き、やはり数々の事件を解決する。現場で仕事をこなすフェイトやなのは等と違い、時空管理局の組織そのものを、より良くしようと動いている。結果、彼女達よりも階級は上である。
 指揮能力や人を見抜く目も有しており、細部に渡って優秀な人材が集められ、設立された『機動六課』は、結果としてJS事件の解決に成功した。

 その実力は高く、遠距離魔法に置いて彼女に勝る者は無いと言われるほど。最も、その理由である、古代ベルカ式魔法の行使能力や、使用しているユニゾンデバイス。果てはレアスキル「蒐集行使」と、その特殊性故に本局内でも色物に見られているらしい。
 現在は、なのはの身を案じつつも、自分に出来る事をするしかない、と言い聞かせ、信頼するクロノやフェイトに任せて仕事に没頭している。その懸命さは、己の感じている不安の裏返しである。

 時空管理局が話しに絡んだ時に、出てきます。




 クロノ・ハラオウン


 時空管理局所属の魔導師。階級は執務官。提督。

 XV型戦艦クラウディアの艦長。一種の単身赴任中。整備点検も兼ねて、久しぶりに管理局本局に戻ってきた時になのはの事件に遭遇し、エイミィや子供に会う時間を削られながら、解決に奔走することになる。
 生真面目ながらも世話焼きな所が有り、義理の妹のフェイトだけでなく、なのはやはやても頼れる兄として慕っている。本局付きの提督という難しい立場ながらも、ついつい面倒を見てしまうそうだ。
 その実力は未だに顕在だが、最近は第一線に出る事はめっきり少なく成ったそうである。

 現在は、高町なのは一等空尉の転位と、それに纏わる諸問題の解決を、上層部から命じられている。




 ヴォルケンリッター


 はやてを守る四人の騎士のこと。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。

 出てくるとは思うが、未だ出番はない。




 プレシア・テスタロッサ


 元ミッドチルダ中央技術開発局第三局長。後、高域次元犯罪者。
 《完全なる世界(コズモエンテレケイア)》幹部・技術開発主任。

 フェイトとアリシアの母親。元々はエリート技術者で非常に優秀な魔導師だった。しかし開発の利権を巡る上層部と、その末に引き起こされた事故によって愛娘と社会的地位を奪われ、最後には自ら姿を消す。
 その後、自らの人生を賭け、アリシアを蘇らせようとしたが失敗。生まれたのはアリシアと似ても似つかないフェイトだった。世界に絶望した彼女は、フェイトを道具として利用し、失われし魔術が残る楽園《アルハザード》を目指す為にジュエルシードの収集を開始する。

 高町なのはが魔法少女に成り、フェイトと友情を結ぶ物語のラスボスとして登場し、『時の庭園』での決戦終了後、フェイトの手を振り払って何処とも知れぬ時空に消えた。



 ……と思われていたが、実はこの世界の『魔法世界』大戦期に、辿り着いていた事が判明する。

 《完全なる世界》首領の《造物主》から死者蘇生の情報を得たプレシアは、アリシアを復活させる為に彼らに助力。また手持ちのジュエルシードと、自分も持つ科学理論を提供し、その代わりに保護と情報隠匿を求めた。
 大戦期末期。オスティア崩落のエネルギーを使用して天界のマリアクレセルに接触し、娘を復活させる事には成功するものの、その代償にアリシアとの一切の接触を絶たれる。その後、駆け付けたエヴァンジェリンとの最終決戦で敗北。現在は『魔法世界』の何処かで幽閉されていると言う。

 それは即ち、彼女は未だに生きていると言う事。研究が密かに引き継がれ、『魔法世界』でプロジェクト・フェイトとして稼働している痕跡が残っている辺り、彼女の影響は大きかったのだろう。

 C.C.曰く、「彼女はキャスターの可能性が高い」そうである。

 第六部《魔法世界》編で登場予定。




 アリシア・テスタロッサ


 《完全なる世界》幹部・魔導師。

 プレシアによって蘇った、フェイト・テスタロッサの姉。同時にフェイト・テスタロッサ・アーウェルンクスと共に育った幼馴染にして相方である。当然、物語には敵として登場する。
 『何処までもフェイトに縛られているとは実に皮肉が効いているわ』、と彼女は時折、自嘲する程だ。とは言いつつも、兄妹同然に育ったフェイト・T・アーウェルンクスの事は信頼しており、彼の望みを知っている為、離れるつもりは毛頭、無いらしい。
 また、フェイトガールズにも慕われており、さながら一つの家族の様に見えなくもない、状態である。



 マリアクレセルに復活させて貰う代価として、プレシアは複数の条件を飲んだ。一つは、アリシアとは二度と会う事が出来ないと言う事。もう一つが、今迄プレシが行ってきた事を、全てアリシアに伝えると言う事だ。つまり彼女は、母親の罪と、妹を知っているのである。
 自分を蘇らせてくれた母親・プレシアの事は愛している。感謝もしている。しかし、自分の為に母親がした所業を知り、自分の存在を後悔している面も有している。その中での折り合いは、付いていない。

 停電中に、転位してきた高町なのはとヴィヴィオを知り、彼女達と接触。自分なりの答えを探して動き始めたようである。
 外見は、フェイトの丁寧さを、プレシアの持つ気高さに置き換えたイメージの女性。気品と優雅さを示すのがアリシア。落ち着いた親しみやすさを示すのがフェイトである。顔立ち、体型などは当前だが非常に酷似しており、ヴィヴィオが見間違えるほどである。

 その実力は非常に高い。基本の武器は、母から受け継いだストレージデバイスを、バルディッシュの様な剣タイプに改造し、鞭と杖への変形機構を組み込ませてある。
 魔法の才能は元々少なかったのだが、マリアクレセルが肉体を再構成した際、リンカーコアも一緒に付けてしまった為、今ではミッドチルダ式魔法を使用出来る。直接は教わっていない物の、アリシアの為に、プレシアが残して行った資料によって魔法を習得。
 大停電では電磁波障害によって通信を妨害し、高町母娘を会話をし、最後は長谷川千雨がギリギリで撤退させた。


 因みに、母親を倒して牢獄へ送ったエヴァンジェリンとも対面しており、怨み辛みは有していない。プレシアは自分を救う為に其れだけの事をしたと自覚している為である。
 大戦が終結した後、自分も母と同じ扱いになるだろう、と予想をしていたが、アリシアはあっさりと見逃された。フェイト共々、当時まだ子供だった彼女を救う為に手を回したのはエヴァンジェリンで、しかも、一時では有るが彼女達を助けて面倒を見てくれたのである。

 エヴァンジェリンの教育が、彼女の人格形成に影響を与えたのは間違いないだろう。






 ●『Missing』及び『断章のグリム』からの人物




 神野陰之


 《名付けられし暗黒》。

 《億千万の闇》の一角でもある端末の一つ。端末の纏め役を兼任してもいて、《億千万の闇》本人にもかなり近い、闇夜の魔神。人間の形を有しているが故に、その身を縛る事ならば、何とか可能。しかし、彼を消滅させる事は、根本的に不可能である。

 変化を好むが、己の願望を持たない(というのも、その感情は他の《闇》の端末が抱えているから)。故に、彼の思考は他者に見えず、善悪の概念も通用しない。
 かつては人間であり、神野三郎陰之という魔法使いだった。小崎摩津方が弟子だった事も有る。しかし、《闇》と魔法の研究を探求した結果、彼本人が《闇》へと変異してしまった過去を持つ。「深淵を覗く者は深淵に覗かれている」……ではないが、今の彼は《闇》を知り過ぎた結果なのだ。

 外見に限って言えば非常に耽美的な青年。夜色の外套を纏い、怪しい美貌と耳触りな声で他者を惑わせる。普通の人間ならば、其処にいるだけで発狂しかねない存在であり、過去には幾人も精神を病んでいる。

 司る《闇》は、人間が認識し、名前を付ける前の《闇》。《闇》と“定義される前”の闇。始まりの混沌に極限まで近い存在“そのもの”である。
 《億千万の闇》の中でも、確固たる形を持った存在で、同時に恐れられる怪物。

 川村ヒデオを見極める為に時折顔を見せ、気紛れに彼を助けている。




 十叶詠子


 《魔女》

 《億千万の闇》の中に潜む存在。嘗て空目恭一達と対立した学園の魔女。
 優しい態度だが、その裏に有るのは何処までも純粋な無邪気さ。余りにも無邪気で逆に狂っている異端者である。邪悪さが欠如しており、己での善悪の判断基準を有さない。「みんな」を幸せにしようと本気で考え、手段を選ばず本気で実行する怪物である。

 原作の最後で命を散らすが、しかし“都市伝説”としてその存在を保ち続け、古くからの知人である神野陰之に手を引かれて、《闇》の中に潜んでいる。

 司る《闇》は、包み込む闇。受け入れ、全てを許容し、受諾し、そして行動を停止させる、甘い毒。

 停電の最中、川村ヒデオに接触して、間桐桜との会談を設けた。その態度が異常に親切だったのは、彼が何れ、自分達と同じ領域にやって来る事を見越しているからだろう。




 空目恭一


 《影》。

 《億千万の闇》の中に住む存在。近藤武己の高校時代の友人であり、魔王陛下と呼ばれていた。
 眉目秀麗な美青年だが、非常に目付きは悪い。また、人間味が薄い。己の欲望がかなり希薄であり、他者に何かを期待する事も無い。頭は良いが思いやりは欠如しており、知識は多いが伝達は苦手である。

 原作の物語の最後で、“向こう側”へと消え、今現在は《闇》の中で、あやめと共に静かに生活しているらしい。其れだけ聞くと、なんか少し、ほのぼのする。

 司る《闇》は《影》。何かが障害にぶつかった時に、その裏に生み出される実態の無い存在。常に対象に付き纏う黒いモノであり、決して消えない物である。

 大停電の裏で、あやめと共に静かに騒乱を眺めていた。




 (空目)あやめ


 《神隠し》。

 《億千万の闇》の中に住む存在。空目恭一が欲した“向こう側”の住人。近藤武己の知人だった。
 常に控えめな、気弱な少女。臙脂色のケープに、儚げな雰囲気の美少女。己の立場が、彼女自身で如何にもならないと諦めており、それが微笑に成って現れる。常に寂しさを感じさせる存在である。

 “向こう側”に効果を有する詩を歌い、自分の仲間を求めている。それは言いかえれば、彼女の孤独から生まれる欲求であり、仲間を呼ぶ歌声である。否応なしに他者を引き摺りこむ為、彼女自身に悪意は無くとも、関わった物は狂い、異界へと消えていく事に成る。性質が悪いのだ。
 元々は人間だったが、明治期に、“向こう側”に供物として捧げられ、《闇》の一部となった。この儀式は、美しく着飾られ、目隠しをされ、手を引かれ、山に置き去りにされ、最後には八雲紫の手で“向こう側”に送られると言う物。空目の祖母が若い頃の生贄が、彼女であるらしい。

 司る《闇》は誘いと衝動。全てを滅ぼす破滅への誘惑と、苦しみから逃れる為の手招き。闇へ到る入口の一つであり、崩壊への侵入を防ぐ物でもある。

 大停電の裏で顕現し、麻帆良学園を眠りで包む事で、無関係な一般人達を守っていた。




 近藤武巳


 《追憶者》。麻帆良学園女子中等部社会科学教師。

 かつての物語の主人公にして、ごく普通な青年。何の変哲もない一般人であり、しかし《闇》や“向こう側”に関わっても尚、狂わずに生き続けた、非常に珍しい存在である。
 高校卒業後は進路を、歴史や民俗学に取り、都市伝説や“向こう側”の研究を始める。大学卒業後は、その研究を見込まれ、麻帆良で教鞭を取る様になった。自分と同じく、“向こう側”の物語を知った日下部稜子と結婚し、今は平和に過ごしている……のだが。

 彼の耳には、また、聞こえ始めたのだ。
 かつて神野陰之から貰った「見えない鈴」の音色が。




 近藤(日下部)稜子


 《鏡》。

 近藤武己の妻。空目恭一、近藤武己などと同じ部活にいた普通の少女。
 他人と感情を共有する才能に長け過ぎていた為に“向こう側”の物語に巻き込まれる。親戚や、死んだ姉や、友人達が巻き込まれ消えて行く中、それでも最後まで関わり続けた。

 現在は結婚して近藤稜子。お腹の中に武己との子供がいるそうである。




 木戸野亜紀


 《硝子の獣》。

 かつての近藤武己、日下部亮子、空目恭一、あやめの知人で友人。才色兼備の美女。
 強いまま歪んだ精神と頭脳で、幾度と無く“向こう側”を巡る事件で活躍した。元々犬神筋だった影響も有り、“向こう側”には多少の耐性を有している様である。

 物語の最後。空目やあやめの消失を機に、武己や稜子に最後の助言を渡し、自ら姿を消す。
 しかし、そんな彼女が平凡な生活を置かれる筈が無く、今現在、何をしているのかと言えば……。

 直に出るので、登場に期待して下さい。




 《雪の女王》&《寝覚めのアリス》


 《泡禍》と呼ばれる《神の悪夢》を対処とする、断章騎士団の一員。
 出るはず。……というか、作者的に凄く出したい。
 修学旅行後に、二人セットで登場させたい。












 長い。……何が長いって、いわゆる組織や勢力図として絡んで来るから、異常に人数が増える事です。まあ、自分の頭の中の情報整理も兼ねているんですが。
 さて、これにて中編も終わり。次回は最後の人々です。
 本編を進めつつ頑張ろう。

 ではまた次回!



[22521] 序章その一 ~老魔法教師と壮年魔法教師の場合~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/14 23:02


 ネギま・クロス31 第三章《修学旅行》編 






 序章その一 ~老魔法教師と壮年魔法教師の場合~






 「失礼します、学園長」

 一声を掛けて室内に足を踏み入れると、特徴的な瓢箪頭が視界に入る。これはもう、毎回の事なので気にしない。気にしたら負けだと思っている。

 「良く来てくれた、高畑君。……ま、座ると良い」

 ふぉふぉふぉ、という特徴的なバルタン笑いをしながら、学園長は席を促した。着席して話をするという事は、簡単に済む話ではないと言う事だ。数ヶ月前、ネギ・スプリングフィールドの来訪に関して相談を行った時も、同じ様に席に着いていた。

 あの時より、麻帆良における少年の環境は幾分、マシに成ったと言える。

 昨日の大停電に置いて、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルとの戦いを経験し――それを乗り越えた。少なくとも、エヴァンジェリンに(辛うじてだが)合格した影響は、この学園で優位に働くだろう。大抵の関係者は、未だに静観しているが、僅かに出始めた感心の声も密やかに届いている。勿論、少年の耳に入らない様に注意をしているが。

 源しずなが机の上に置いた緑茶を一口飲み、学園長を見る。対岸に座った近衛近右衛門は、よっこらせ、と腰を下ろす所だった。

 「さて……まずは、一つ尋ねよう。調子は如何かの? エルシア嬢と引き分けたようじゃが」

 机で向かい合う老人の瞳は、長い眉に隠れて伺えない。この老人が、恐らく、自分とあの『魔界』の王女との対決を設定した事は気が付けている。その真意もだ。

 「引き分けた、程では有りませんよ」

 言葉を訂正した。

 「相手が全力を出しきる前に、此方が全力に成って……何とか、隙を付いてドローに持ち込みました」

 「しかし、気絶をさせる事は出来たのじゃろう?」

 「気絶をさせただけです。仮に気絶をしていたとしても、今の僕ではエルシアさんは倒せません。倒す前に目覚められて返り討ちですよ。……それに気絶させるだけで精一杯でしたから」

 「結構、結構。――引き分け以上に価値のある物を得たのじゃ。その上で勝利を得る必要も有るまい?」

 「……ええ」

 やはりか、とタカミチは思った。

 魔神と言う存在は、渇望している。
 長い時を生きる種族だからこそ、儚い人間が、どれ程に輝くかを、見たがっている。
 だから、其れが出来ない人間に興味を持つ事は無い。
 そして、過去に有していたくせに、其れを失う相手には――――容赦が無い。
 例えば、世間の荒波で嘗ての理想を手放しかけていた、タカミチであってもだ。

 「――感謝します。学園長」

 「なんの。ワシは唯、場を拵えただけじゃよ」

 学園大停電の裏で、タカミチ・T・高畑は、麻帆良図書館の地下でエルシアと激戦を繰り広げた。

 勿論、その理由は、彼女達が持っている情報だったが、――――学園長の深面は違う。学園長が態々、この大停電に託けて危険な(それも世界クラスで危ない)相手と向かい合わせたのは、己を見失いかけていたタカミチを、もう一度、呼び戻す為だ。

 ネギ・スプリングフィールドの来訪と、彼への見えない劣等感。大人の社会で有るが故の足枷と、自由に動けない拘束。そして、ともすれば残酷にも成り得る正義と言う言葉。

 幾らタカミチ・T・高畑が有能だからと言って、気が付かずに積み上がれば、何時かは致命的になる。それを見越した学園長は、今この時期だからこそ――これからますます、間違い無く困難に直面するだろう彼を思って――そして、その意志を魔神ならば組み取れるだろうと予想して、敢えて、地下に向かわせた。

 結果として彼は、ナギ・スプリングフィールドとネギを繋ぐ事を、己の意志で定める事が出来た。

 大停電の間の中心戦力にこそ成らなかったが、彼の存在は、これ以降、より重要になるに違いない。

 「アルビレオも気にしておったしの。……ま、年長者の責務と言う奴じゃわい」

 まあ、魔神に期待した結果、今度同じ事をしたら殺す、と近右衛門は釘を刺されてしまったが、これは仕方が無い。初めから予想していた事だ。相手には何も伝えていなかったし、学園長とて絶対に地下で戦闘に成るとは思っていなかった。予期していただけだ。

 老い先短い自分の命を懸けたって、正直、余り惜しくは無い。

 それよりも、次の希望へとつなげる事の方が、もっとずっと有意義なのだ。

 内心は勿論、おくびにも出さず、ふぉふぉふぉ、と笑い、学園長は、さて、と言葉を区切る。

 「挨拶は此処までにして――本題に、入ろうかの」

 伝えるべき仕事は山ほど存在するのだ。



     ●



 「さて、まずは後始末の事からじゃな。エヴァンジェリンが暴れた事への反応は様々じゃが、外部に関しては――動かない様に話は付けておる。少なくとも、暴れた事に関しては、文句こそ出たとしても強硬な行動をする者はおらんし、麻帆良が責められる状態でも無い。今迄通り、彼女は此処の生徒で、ネギ君のクラスのままじゃ」

 「……色々と、手を回したようで」

 「いや、其れほど面倒でも無いわい。学園が停電になる事は事実じゃし、停電の最中はセキュリティの代わりに警備員や巡回の教師を増やす事も当然じゃ。こっそり内部に入り込もうとする不埒な輩が現れる事ものう。警備員が少々、特殊な人材と言うだけの話だからのう……。学校故の治外法権もある。だから、エヴァンジェリンが動いた事に関してのみを、気を付ければ良い」

 まず初めに、本国とも繋がりが深い《協会》に関してじゃ――と、学園長は語り始める。

 「エヴァンジェリンに関しての通達は無い。『魔法世界』の関係では《必要悪の教会(ネサセリウス)》も含めて、文句は出ておらん。麻帆良で暴れた事については、殆ど無視の状態に近いじゃろうな。『魔法使い』としての行動理念に反している訳ではないし、《協会》に被害を与える可能性も――エヴァンジェリンが『吸血鬼』である以上、低いわい。《カンパニー》との問題も有るでのう。……最も、学園に襲来した、別の吸血鬼については、情報を与える様に要請が有ったがのう」

 「もう一体、ですか」

 「そちらの話は、少々長いから、後で纏めよう。――ともあれ、魔法世界本国からのエヴァンジェリンに関する注文は無いし、その意を受けて動く《協会》や《必要悪の教会》でも、彼女の行動が問われる事は無いと言う事じゃ。……ま、多少の世論の変化と、波紋が広がりはするかもしれないがのう」

 白い髭を撫でつけながら、学園長は話を先に進める。

 「政府機関の方も、問題は無い。……麻帆良の土地に被害は無いし、神木・幡桃にも、霊脈(レイライン)にも影響は無い。無論、一般生徒にもじゃ。文句を言われる様な隙も、付け込まれる隙も、残しておらんよ」

 それに、と学園長は付け加える。

 「余り良い言い方ではないが……この地は少々、特別だからのう。頭の固い役人どもも、エヴァンジェリンに関する不満よりは、国家と利益を取る位の分別は有るし……それに、大神の大老も、何かと気にかけてくれておる。御大が生きている限り、早々に麻帆良への国家権力の介入は無いわい」

 麻帆良と言う土地を語り始めると、成立や歴史に始まり、膨大な情報となる。故に、全てを語る事は難しい。働いているタカミチとて、かなり深い部分を知っているが、全てを知っている訳ではない。知る程の余裕も無いし、知っても現状に何処まで役に立つかは微妙な情報も多いからだ。

 しかし、例えば。

 麻帆良という土地が、重要視される霊脈地の上に築かれている事。

 『世界樹』と呼び親しまれている、本国からも重要視される神木が聳えている事。

 その成立が、動乱の明治期であり、当時設立された、他の組織――――『神州世界対応論』を唱えた《出雲技研》であったり、帝都防衛の秘密組織《帝国歌劇団》であったり――――そんな、謂れ有る、“特殊な組織”と、ほぼ同時期に開校したとなれば……その中に多くの問題を抱えている事が、十分に判るだろう。

 そして、問題と同時に、相応の権力を有していると言う事も。

 彼の内心を知ってか知らずか、学園長は飄々とした態度のまま、話を進めていく。

 「エヴァンジェリンも、あれで自分の行動に対する後始末の準備はしておる。基本の助力は《カンパニー》に請うておるし、彼女の行動は『調停員』に監視されておる。最も、だからこそ、彼女――確か、レレナ・パプリカ・ツォルドルフ、君じゃったか――彼女が停電で倒れた時は危なかったが……それは主のお陰で、解決した」

 「ええ」

 これはタカミチも把握していた。

 人間から脅威とみなされる吸血鬼。怪異の代表とも言われる彼らを相手に、交渉するだけの力を持った組織が有る。
 横浜海上沖の人工島に築かれた『特区』を起点とする《セカンド・オーダー・コフィン・カンパニー》。
 その社長、葛城ミミコを麻帆良に呼び、『調停員』の派遣を初めとした各種取り決めを、エヴァンジェリンは停電で暴れる前に結んでいた。
 吸血鬼と人間の間を取り持つ『調停員』が居ると言う事実を持って、『自分は最低限のラインは守る』と言う事を、内外に示していたのだ。言いかえれば、周囲の安全と、彼女の不自由を保証していた。
 しかし、その『調停員』レレナが、外部からの攻撃で倒れてしまった。
 故に、エヴァンジェリンの停電中の行動を証明する為の『記録』を、タカミチが地下まで取りに行く事に成ったのだ。

 「主の努力に免じて、と言う事で、地下で観戦していた魔神が、ウィル子ちゃんを通じて、あの停電で発生していた事件、事象は、ほぼ全て映像として送ってくれおった。多少欠落している部分は有るが、問題無いレベルじゃ。今度、ヒデオ先生にも礼を送っておくべきじゃな」

 「ええ。伝えておきます」

 「《カンパニー》の方も、レレナ君が直接話を付けたようじゃ。彼女の怪我の責任は麻帆良に有るが、エヴァンジェリンに有る訳ではない、と言う事でのう。それに、此方も尋常では無い被害を受けていたからのう。大きく責められる事も無かった。……《乙女(メイデン)》からも苦言を呈されただけで、文句は無かったよ。……ともあれ、もう少しレレナ君は、麻帆良に滞在する事に成った。表向きは麻帆良教会のシスター・レレナじゃから、シャークティ君の同僚、じゃな」

 「……なるほど」

 一通り、エヴァンジェリンの話を聞いたタカミチは、頷いた。
 如何やら、外部から彼女に対して攻撃が加えられる事は――少なくとも、今は無いらしい。

 勿論、彼女を警戒する組織は有るだろうし、不満を持っている者もいるだろう。しかし、彼らが動くにも多少の猶予は有ると言う事だ。この辺り、学園長は抜け目が無い。
 流石、エヴァンジェリンの行動を、全て承知の上で見逃していただけの事は有る。

 《赤き翼》として共に戦ったタカミチは、エヴァンジェリンを信じても当然だろう。しかし、幾ら彼女を預けたのがナギ・スプリングフィールドだからと言って、悪名高い《闇の福音》を受け入れるには、相応の器が必要だ。
 そして、其れを周囲に示す為の、外交手腕と権力の上手な振い方も。

 やはり、タカミチは、まだ、この学園長には及ばないのだ。



     ●



 「外の組織に関しては、そんな感じじゃが……内部の方も、概ね、問題は無いわい」

 そう言って、話題を変えた機会に、学園長はもう一回、緑茶を呑む。タカミチも呑む事にした。
 ずず、と温かい一杯を呑んで、気分を一新する。

 そうして、今度は麻帆良と繋がる組織の話だ。

 「《UCAT》の機竜『雷の眷属(サンダーフェロウ)』の墜落は侵入者の仕業じゃ。乗員の二人、ヒオ君とダン君にも大きな怪我は無い。佐山君に話した結果『心配は無用』と返されたよ」

 ダン・原川とヒオ・サンダ―ソン。

 両者共に《UCAT》から、ネギ・スプリングフィールドの来訪に合わせて送られてきた戦力だ。無論、その真意が、ネギよりも“他の組織”への牽制の意味を持っている事は言うまでも無い。

 《UCAT》の代表、佐山御言も、その本音を隠す為だろう。『存分に麻帆良の一戦力として使用してくれて構わない』という趣旨の連絡を学園長にしていた。結果、彼らは日々、アルバイトの様に警備員の仕事を行い、同じ様に大停電の最中も働いていたのだ。

 しかし、彼らは撃墜された。

 全長十メートルを軽く超える、機竜『雷の眷属』と一緒に。

 高度、数百メートルの場所で。

 一撃で。

 とんでも無い、――と思う。

 乗っていた二人は無事だったが、機竜は大破したそうだ。

 停電中。彼らの撃墜を聞いて、隙を見てタカミチは二人と接触している。図書館に潜る前の事だ。その際、被害状況などを聞き、治療用の装備を与えて置いた。その影響か、停電の翌日には二人とも、揃って元気になっていた。

 機竜の修復の為『停電が終わった後は出立する』……と言っていたが、此方に責任を被せる気は無いようだった。相手にしても、まさか機竜を落とせる怪物が来るとは思っていなかったのだろう。

 機竜の撃墜は両方に責任がある、と言う結論で落ち着いたようだった。

 UCATは慈善組織ではないが、一本芯が通った組織でもある。

 やるべき事を確実に、其々の立場からやっていけば、性質的に、敵に回る可能性は少ないだろう。




 「次じゃ。大英図書館の関わる『麻帆良図書館島』には被害は一切、無い。故に、Mrジョーカーから何かを言われる筋合いは無い。……まあ、個人のレベルで動こうとしているようじゃが、読子・リードマンは信頼のおける女性じゃしのう」

 話題が変わった。

 タカミチは、読子・リードマンという女性を思い浮かべる。

 大英博物館所属・大英図書館から派遣されたエージェント《紙使い》。その立場故に、必ずしも味方であるとは限らないが、それでも他に比較すると普通の女性である。生徒に被害を出す可能性も低いし、被害を与える可能性も低い。特異な性質さえ除けば、普通の図書館司書の女性である。

 宮崎のどかとも交流が深いらしいし、図書館探検部でも有名だ。

 確かに大英図書館の動向には注意が必要だが、彼女が動く際には、何かしらのアクションが有る。此方に何も見せないまま、彼女が行動すると言う事は――読子・リードマンの性格や実力からしても、難しい。

 故に、問題無いという結論だった。




 「次じゃ。エヴァンジェリンに協力した、麻帆良所属の警備員達の処分について。具体的に言えば、ルルーシュ先生と、C.C.君。あとは寮監の高町さん。三名については、しっかりと報告書を提出する様に命じてある。停電終了後に、しっかりと対面して釈明をさせてもおる」

 更に話題が変わる。

 今度は、麻帆良学園に在籍していながらも、エヴァンジェリンに協力した三名に関してだった。

 半年ほど前、エヴァンジェリンが警備中に発見した、不死の魔女C,C,と、その相棒のルルーシュ。

 同じ時期に転位して来た、高町なのは。

 三名は、学園の警備員の一員だ。そして、警備員の仕事は大停電がメインである。

 問題は、“エヴァンジェリンへの協力”以上に、己の責務を優先させるべきである、という部分だ。エヴァンジェリンの行動は、最初から不干渉ということで学園長が黙認している。しかし、他の警備員に関しては――――例えエヴァンジェリンが引っ張り込んだとしても、許可を出していない。

 「彼ら三名が、エヴァンジェリンに協力していた事は事実じゃ。ただ、三名とも、言われた仕事は十分にこなしておる事も事実でのう。……C.C.が刹那君を相手に喧嘩した部分を除けば、警備員として動いていた、と見る事も出来るのじゃよ。高町さんは、霧間先生と協力して侵入者を抑えていたし、ルルーシュ先生は大橋に援軍として向かい、相手の撃破に貢献した。その真意がどうであれ、そしてエヴァンジェリンの為であれ……事実だけを捉えると、そう解釈出来る。だからまあ、今回は多めに見る事にした。次は無い、と警告もして置いたわい」

 「なるほど」

 頷いたタカミチは、頭の中で情報を整理する。

 エヴァンジェリンの停電での目的は“己の封印解放”では無かった。真実を伝えるつもりが無かった為に、その言葉を「建て前」として宣言していた様だが、本音は違う。

 もっと別の――――《赤き翼》の血を引くネギ・スプリングフィールドを見る為の――――序に言えば惚れた男の息子を知る為の、敢えて架された“試練”に近い。

 エヴァンジェリンは、交渉で巧みに協力者を生み出したが、彼らへ頼んだ事も“ネギと戦う戦場の調整”という意味合いが強かった。

 エヴァンジェリンとネギを一対一の戦いへ運ぶ事。
 ネギが全力で戦えるように成長を促す事。
 更には、自分が警備員を抜ける事へのフォローも有ったか。

 彼女は極力、麻帆良という土地に被害を出さない様に行動していた節が有る。

 事実、高町なのははエヴァンジェリンに助力していたと言っても、限定されたレベルだ。なのは自身は娘を思っての行動だったようであるし、その娘・ヴィヴィオは、『使い魔』の犬とオコジョと共に警備員として動いていた。

 ルルーシュとC.C.が、真っ当な善人であるとは学園長は、微塵も思っていない。しかし、分別をわきまえた、無辜の存在に無作為に危害を加える程の外道でも無いことは十分に判る。そして、彼らが学園警備員を壊滅させた相手に奮戦した事は確かだ。

 故に学園長は、彼らに関しては恩赦と言う事で、お咎め無しにした。

 何らかの措置を取る事で生じるデメリットよりも、手元に置いて置くメリットの方が大きいと学園長は判断をしたのだ。

 まして、修学旅行が間近に控えている今、手持ちの戦力を減らす事は得策ではないのだから。

 「川村先生は――――此方は、エヴァンジェリンの手回しで、殆ど関与を隠されておる。彼も見逃すよ。注意をするとすれば、ウィル子君に、もう少し自粛を促す程度じゃな」

 「……それはそれで、難しそう、ですね」

 「じゃな。まあ、何とかするわい。……で、その他の。民間からの協力者は、自己責任じゃな。勝手に動いていた生徒や、大学生の殺人鬼やら。麻帆良で騒乱を引き起こした事への対処はするにせよ、良くも悪くも個人の意志で動いておる連中に関しては、忠告で済ませることにした。最低限の仕事はしてくれておるし、今後に協力をすることを条件に、のう。……今回は見逃そう」

 喰えない笑みを見せながら、ふぉふぉ、と真意の見えない笑い声を上げる。
 さらに、学園長は続ける。

 「そんな中でも最も“要注意”の――――超鈴音に対しては、しっかりと釘を指しておいたわい。彼女は確かに、何を考えているのか見えない部分も有る。しかし、クラスを壊すつもりも、麻帆良に敵対するつもりも無い事は、確認しておいた。……それに、ネギ君もおる」

 “今”は余り、心配はしておらんよ、と学園長は静かに告げた。

 一区切りが付いた事を機会に、タカミチは一歩、話題を進める事にした。

 「処で、学園長。《完全なる世界(コズモエンテレケイア)》の動きですが……」

 停電での彼らの動きは――――? と訊ねた。

 長年後を追っている彼としては、この先の彼らへと通じる情報は非常に重要だ。

 「まだ映像を確認した訳では有りませんが、何人かが姿を見せていた事は、聞き及んでいます」

 「そうじゃな。その話に行こうかのう」

 空気を立て直す様に、学園長は、再度、真剣な目をした。



     ●



 「……はっきり《完全なる世界》として確認出来たのは三名じゃな。フェイト・T・アーウェルンクスと、その従者の焔。そして、彼に助力する、アリシアという少女じゃ」

 その言葉に、タカミチは渋い顔に成る。

 フェイト・T・アーウェルンクスと、アリシア・テスタロッサ。この二人に関しては、タカミチも承知している。本人達と深い関わりが有る訳ではないが、《赤き翼》として、あの二十年前の『大戦』では接触した事が有った。

 進む道が違っている事は理解していたが、それでも多少の感情の乱れは有る。

 恐らく、エヴァンジェリンの方が、思う所は大きいだろうが。

 「……すいません。――続きをお願いします」

 心に走った動揺を押し殺し、先へと進める。
 今、大切なことは、正しい状況の把握だ。

 「断定できる訳ではないが、フェイトの来訪した目的は、恐らく四つじゃ。一つ目が、エヴァンジェリンと接触する事で、彼女の信頼性について、周囲に疑念を抱かせる。……自分達の味方へと引き入れる為の算段じゃな。二つ目が、ネギ君の確認。何れ自分の敵に成る事を予見しておるのじゃろう。そのような事を言っておる。……三つ目が、此方の戦力の確認。ネギ君の来訪に前後し、麻帆良学園に新たにやって来た人材は多い。彼らを見る為じゃろう」

 そこで一端、学園長は言葉を切った。まあ、この辺の事情は、大きな問題では無い。決して小さな問題でもないが、今現在、早急に対処する程の問題では無いのだ。

 エヴァンジェリンを《完全なる世界》に引き入れる事は、まず不可能だ。それは相手も承知の上だろう。ただ、周囲から懐疑的な目線を与えることで、自由な行動を阻害する位の効果は見込める。

 ネギの実力を観察する事や、此方の戦力を確認する事。これは、今後の彼らの活動に関わって来る事だ。今現在の、麻帆良学園――――と言うよりも、ネギを中心とした勢力へのアプローチだ。冷静に対処すれば其れほど、脅威ではない。

 唇を緑茶で湿らせて、しかし、と学園長は続ける。

 最も大きな脅威は、別にあった、と最初に告げる。

 それだけで、四つ目の目的は把握が出来た。

 「最後じゃが、これは恐らく、同盟を組んだ相手の実力を見る意味があった。この場合は《螺旋なる蛇(オピオン)》のツィツェーリエや、大橋で新たに名乗った『セイバー』という青年。……そして――」




 「――――“もう一人”の、ネギ君の事じゃな」




 学園長の空気は、先程までと違い、固かった。
 数秒前までの柔らかな空気が引き締まり、タカミチですらも圧迫感に息を乱しかけた。
 その鎮められた部屋の中で、学園長は、停電の喧騒を思い出す様に語る。

 「完全に、此方の予想以上の相手じゃった。幾ら停電で、主やエヴァンジェリンが、普段通りの警備の仕事が難しいと言っても……、それを補うだけの戦力は確保しておいた」

 「しかし、其れは破られた」

 「そうじゃ。刀子君や、シスター・シャークティは、負けて不甲斐ない、と思っているようじゃが、アレは相手が悪すぎたわい。……はっきり言ってしまえば、あ奴が、全てを狂わせた、とも言える」

 さて、と言いながら、学園長は腕を組んだ。
 その表情は、固い。

 「奴がいなければ、何も問題は無かったのじゃ。……エヴァンジェリンとネギ君の対決。警備員の奮闘。停電に本来発生する筈だった騒動”以上“を、生み出しおった。……それも、かなりの被害を伴って、の」

 今回の侵入者で、最も注目するべき相手が、『もう一人のネギ』だった。

 もう一方の。『王国(マルクト)』ツィツェーリエの存在は置いておこう。彼女の本来の相手は麻帆良学園では無いのだ。アルトリアに撃退され、逃亡してもいる。ただ単に、フェイト・アーウェルンクス――――ひいては《完全なる世界》との顔見せに現れただけであり、好き勝手に暴れて帰って行ったのだ。

 京都における《協会》との一大決戦の傷跡も癒えていないだろうに、ご苦労な事である。

 話がずれた。戻そう。

 「……結局、彼は何者、なのでしょう?」

 タカミチの言葉に、ふむ、と学園長は黙考する。

 学園の停電中に出現した『もう一人のネギ』。

 当初は『アーチャー』と名乗っていた彼の実力は、非常に高かった。

 組織だった行動を防ぐ為に情報室と『雷の眷属』を抑えた後、光速戦闘を軸にゲリラ戦を展開。
 レレナ・P・ツォルドルフを初め、『雷の眷属』。弐十院満。ルルーシュ・ランペルージ。シャークティとココネ、春日美空。更には、神楽坂明日菜と空繰茶々丸までもが、簡単に堕ちたのだ。

 最終的には、大橋で、アルトリア・E・ペンドラゴン、高町なのは、《ゼロ》の連合に倒されたが……しかし、其れでも尚、死んではいない。
 後詰めに様子を伺っていた焔・アーウェルンクスと、その従者らしき『セイバー』と名乗った青年に救出され、逃亡してしまった。

 「断定は出来ないが。多分、主の師匠らと、関わりが有る、と思うのじゃ」

 「……やはり、そうですか?」

 「うむ、恐らくは、じゃが。……判断材料が少なすぎるのでのう。直接、本人に聞ければ良いのじゃが……」

 学園長は、ナギ・スプリングフィールドに言われた事が有る。

 その時の言葉は、『身分を証明する手段は無いが、俺の信頼出来る仲間だから、安心して欲しい』だった。

 もう二十年近くも昔の話だ。そして、その時から、彼女達が年を取った様子は見られない。

 勿論、緊急事態と言う事で学園長が訊ねるべきなのだろう。恐らく、向こうも聞けば教えてくれるだろう。今迄、尋ねなかったのは、純粋に、ナギの言葉を守っていたからに他ならない。

 しかし……それも、そろそろ、限界なのかもしれなかった。

 反省をしながら、学園長は口を開く。

 「あの『もう一人のネギ』は、『アーチャー』と名乗っておった。そして、正体不明の仮面の青年が『セイバー』じゃった」

 実際は、霧間凪と森の中で激闘を繰り広げた『アサシン』なる女性もいるのだが、此処で学園長は、敢えて彼女の存在を無視した。話を複雑にしてもいけない。

 「ええ」

 「一方で、アルトリア君達――――この場合は学園の味方として動いてくれた面々の事じゃが――は三人。アルトリア君が『セイバー』。高町先生が『アーチャー』。ルルーシュ先生、本人かどうかは微妙じゃが、あのゼロと名乗った存在が『ライダー』じゃ」

 重複しているが、何らかの関係が有ると見て、間違いは無いだろう。

 ただ、この問題の本質は、其処では無いのだ。

 「まだ、詳しい事は解らんよ。だが……あの『もう一人のネギ』は非常に高い実力を有しておった。恐らく、主が本気になったとして、引き分けや撤退ならば兎も角、勝つのは難しいじゃろう。そして一方、アルトリア君達の実力もまた、十分に認知されておるが……あ奴は、張り合っていた。――――如何いう意味かは、判るの?」

 「判ります」

 真剣な瞳で、タカミチ・T・高畑は頷いた。




 「つまり。《完全なる世界》は、下手をすれば師匠達に比肩しうる戦力を、有し始めている、と」




 今迄『もう一人のネギ』の存在が現れた事は、噂のレベルでも無かった。だから、彼が加わったのはごく最近の筈だ。何処から来たのか、正体は何者なのか、其れは全くの不明だが、彼がフェイト・アーウェルンクスと行動を共にしている事は間違いない。
 それも、ここ数カ月から。

 「そうじゃ。無論、多少の差はあるじゃろう。《赤き翼》の方が、実力的には上じゃろ。しかし、同盟を結んだ《螺旋なる蛇》を除いたとしても。――あちら側は、確かに、戦力を確保している。それも、非常に強力な……言いかえれば、主の本気で倒せぬ様な。ワシやエヴァンジェリンでも容易く勝てぬ様な相手が、のう」

 「……僕が下部組織を叩いている間に、僕以上の速度で復活していた、と言う訳ですか」

 「人数、と言う意味では、確実に減少しておるじゃろ。主が叩いて壊滅させた関係組織は、十や二十では効かんし、検挙された連中も二百では効かぬ。お主の活動は確かに成果が有ったし、ダメージを与えて折った。――しかし、残っている面子、主でも捕まえられぬ中心戦力の質が、非常に高く成り始めておることも事実じゃな」

 率直な言葉に、タカミチは臍を噛む。無論、自分の責任ではない事も承知しているが、感情を割り切る事は簡単ではない。

 《完全なる世界》。
 かつて『魔法世界』で起きた大戦争を演出した黒幕。
 《赤き翼》が立ち向かい、ゼクトと間桐桜の犠牲の上に壊滅させた秘密結社。

 戦争終結後も、残党たちはしぶとく活動を続けていた。その残党を刈っていたのがタカミチだ。
 執拗に狙い、草の根を刈る様に叩き、立ち上がれぬ様にしていたが……如何やら、彼の努力の空しく、確実に再興している。それも、今度は少年を狙って。

 「しかし……どうやって、でしょうね。高い実力が有る者は、大抵、有名です。しかし僕は、今迄一回も、噂すらも聞いた事が有りません」

 「ふむ。……不明じゃな。こればかりは。まさか何処からか呼ばれて飛び出た訳でもあるまいし。――――早急に、アルトリア殿に聞いてみるべきじゃな。あるいは、アリアドネーの遠坂殿か。……彼女達ならば、多分、知っているじゃろう」

 「……判りました」



     ●



 「ところで。学園長。修学旅行、ですが」

 「うむ、勿論、実行するよ」

 「――この状態で、ですか」

 「この状況だからこそ、じゃな」

 学園長は言った。

 ネギ・スプリングフィールドは、爆弾だ。それも、その辺の小さな爆弾では無い。使い方を誤れば――それこそ、世界を揺らがす程に大きな爆弾へと成りかねない。近衛近右衛門は。いや、彼だけでは無い。『魔法世界』を知る者、《赤き翼》を知る者、そしてナギ・スプリングフィールドを知る者ならば、これ以上無く、知っている。

 『日本で先生をやる事』。

 そのネギ・スプリングフィールドの試練に偽りは無い。
 しかし、その彼が引っ張られた、見えざる運命の糸が――――世界に波紋を広げた事も、また、事実だ。
 そして、その影響の大きさを知る者達は、少年を見極めようと動いている。

 「無論、言われずとも承知しておる。修学旅行でも《完全なる世界》は動くじゃろうし、ネギ君と、彼の生徒達と、麻帆良とを巡る、幾多の勢力が跋扈するじゃろう。一般人に手を出さないのがプロの流儀、とはいえ、3-Aの生徒達に、“一般人”はおらん。危険が有る事も承知しておる」

 「しかしそれでも、実行する」

 「そうじゃ」

 「……敵をあぶり出す、為ですか?」

 「それも有る。ネギ君達が集団で旅行に行くとなれば、何処かの組織は必ず動く。まして、古来より歴史を受け継ぐ京の都じゃ。間違い無くアクションを起こすじゃろう。……しかし、そのデメリットは、別に京都に限った話では無いよ」

 ネギ・スプリングフィールドの修学旅行が『何処で有ろうと関係無く』、彼を狙う組織は動くだろう。

 ならば《赤き翼》近衛永春が居座る京都が、一番マシだと、学園長は考えた。

 京都が安全なのではない。他の――其れこそ、自分達が容易に手出しが出来ない、“海外である事”の方が、もっと危険なのだ。

 「婿殿も、ネギ君に注目しておる様でな。……修学旅行の際に、一目、会いたい、と言って来た。大停電がエヴァンジェリンからネギ君への試練とするならば、今回の修学旅行は、《赤き翼》が《侍》からの、ネギ君への試練、なのかもしれん」

 「……学園長」

 言っている口調は軽いが、中身はそんな簡単な話では無い。

 京都は複雑怪奇な情勢の上に平穏が成り立っている。《協会》の意を受ける《関西呪術協会》を筆頭に、京都神鳴流、民間企業EMEなど、古くからの歴史を持つが故の、軋轢や領土争いが存在してもいる。

 そして、それ以上に、外部から入り込める者が多すぎる。

 実際に実行が出来るかは別としても、観光客を装えば、何者であろうとも、現地に潜り込む事が出来る。

 「生徒の身が、危険になります」

 「……ワシも、それが一番、心配じゃな」

 ゆっくりと椅子から立ち上がり、学園長は静かに室内を徘徊する。
 その中には、大人としての苦労と、公人としての責任に加え、限界を知る老人の懊悩があった。

 「旅行を中止には出来ん。麻帆良に協力している各組織との協議の末、ネギ君の対処能力と資質を見極める事が大事だとされた。旅行中のトラブルに、何処までネギ君が奮戦するかを、彼らは見極めようとしておる。……麻帆良が教育機関である以上、修学旅行は実施するべき行事でも有る」

 ゆっくりと歩く学園長を追う様に、タカミチも立ち上がり、そのまま窓際へと歩いて行く。

 二人は大きな硝子の前に、並んだ。

 「婿殿。……近衛永春とも、相談しておっての。――《関西呪術協会》内でも、不穏な動きが動き始めている。今回の騒動で、身内の膿を一網打尽にするつもりじゃ。そして、恐らく彼らが狙うだろうネギ君の為に、旅行中は人材を派遣してもくれる。無論、此方からも人材を同行させる。……ただ、それでも万全と言えるかは、判らぬ」

 しかし、と学園長は告げた。
 その中に、何かしらの言い様の無い、迷う様な感情が含まれていた。

 「これは、勘、なのじゃがな。……この旅行は、するべきだと、思うのじゃ」

 訝しげなタカミチの目線に応える様に、学園長は続ける。

 「危険が有る。ネギ君は、間違いなく騒動に巻き込まれる。一般人である一部を除き、3-Aの生徒とて、平穏無事に旅行を終える事が出来ると思わん。当の彼女達自身も思っておらんじゃろう。だから、生徒の安全を第一に考えるのならば、今からでも中止にするべきだと、ワシも思う……。しかし、じゃ」

 何かしら、長い間の経験なのだろうか。
 その中で、同時に、行かせるべきだと、心が騒いでもいるのだ。

 「この旅行は、何かを齎す。あるいは、何かを明白にする、そんな気がするのじゃ。ネギ君だけでは無い。あの3-Aの問題児達や、麻帆良学園や、あるいは過去に繋がる因縁や……。大きな世界の“うねり”が、形になる。そして、それは――ネギ君や、明日菜君や、他の皆にとっても、重要になる。彼らを取り巻く世界の情勢が―― 一つの大きな形になる予感が有るのじゃ。味方か、敵か、傍観か、相互依存か、あるいは無関係を貫くのか。それは分からぬ。けれどもじゃ。恐らく京都で、ネギ君に今後関わるだろう“殆ど”が、顔を見せる――――気がするのじゃ」

 「それが、学園長が旅行を許可する理由ですか」

 「そうじゃ。……ネギ君には話さぬ。彼には飽く迄も、西との交流正常化の特使として向かって貰う。裏で動くのは大人の仕事じゃ。そして、彼を助けるのも――――ワシらの仕事じゃ。……ネギ君を英雄にするつもりは無い。けれども、あの子の父親は英雄じゃ。それ故の苦労は多く、彼が解決せねばならない問題は、必ずや存在する。そして、ネギ君があのクラスにいる事は、偶然以上の何かが有る。旅行に行くことで――ネギ君が、己の置かれた環境を知り、そして己を取り巻く世界を、知ること。そして知る以上の何かを、得る事を……ワシは、期待したい、のじゃ」

 そう言って、タカミチと共に窓から、麻帆良学園を見下ろした。




 視線の先には、屋上で体育の授業をしている、3-Aの女生徒35人の姿が有った。







[22521] 序章その二 ~『伊織魔殺商会』の上司と部下の場合~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/15 21:40
 東京都・奥多摩に、とある秘密都市が有る。なんか、怪しげな施設=奥多摩なのか、とか思われそうだが、ある物はあるのだから仕方がない。建てた天使と、命じた娘に文句を言うべきであり、そして彼女達の文句を言える相手はそうはいない。

 地理的には、UCAT本部もそう遠くは無い。

 しかし、そのUCAT本部が壊滅しても無関係を決め込んだ、天使によって生み出された城塞が、此処だ。

 世界の趨勢を決するUCATの大決戦を、むしろこれ以上無い娯楽として魔神が眺めていた都。
 そして、次なる魔王を決める戦いを生み出した、聖魔杯の開催地。
 当初は名前が存在しなかったこの都を、誰が名付けたか、戦闘城塞と呼称され始め――――気が付いたらそれが、都市の名前に成っていた。

 大会開催期間は多数の参加者で賑わっていたこの都市も、今では人が減っている。参加者の大半は既に故郷に帰っているのだ。今尚も残留している者と言えば、この街に本拠地を持つ者達が大半で、そしてその内の八割以上が、とある組織の一員だった。

 都市の一角に大きく聳えるビルが有る。灰色の長方形な、強化硝子張り。会社前は清潔で、ロビーは高級感あふれる建物であり、一目で一流企業と示している。霞ヶ関に築かれていても違和感がない建物だろう。都市の中でも頭一つ抜き出ているビルと、肩を並べる相手はいない。

 しかし、この建物は、まず絶対に、外部の、それも普通の人間社会では、動かない会社だった。
 建物には、デカデカと悪目立ちしている看板が有って、其処には社の名前が漢字でこう書かれていた。

 『伊織魔殺商会』

 そのポリシーは、『鉛玉一発でフェラーリ一台分』。
 そして大凡、この都市の経済の大半を手中に収めるこの悪徳商社の扱う品は、平和的な代物以上に、物騒な代物が多い。それこそ、銃や重火器を初め、戦争を起こすのに必要な道具まで。

 つまり、この組織は、武器商人も兼ねているのである。






 ネギま・クロス31 第三章《修学旅行》編

 序章その二 ~『伊織魔殺商会』の上司と部下の場合~






 「《福音》エヴァンジェリンが、麻帆良の学園で大暴れ、とねえ」

 そのビルの中の一角で、一人のシスターが、一枚の報告書に目を通していた。いや、シスターの雰囲気を有しているだけで、実際は既にシスターでは無い。かつて《神殿協会》の異端審問官第二部に所属していたが、今はこの『魔殺商会』所属の戦闘員で、更に言えば『聖魔王』鈴蘭の部下でも有る。

 名前を、クラリカ。

 『魔殺商会』での荒事専門の社員である。

 「ま、内外における反響は抑えたようですが……」

 ペラリ、と送られてきた書類を捲り、内容を確認する。既にコピーをして、同じ物を上には提出済みだ。あの電子精霊が記録していたと言うデータと合わせて、今頃は今後についてを検討している最中だろう。

 この『伊織魔殺商会』は、麻帆良へと重火器を提供・販売している。元々の交流は少なかったようだが、二十年ほど前から、売買が始まっているのだ。
 何でも『魔法世界』での大戦争期に、麻帆良の学園長・近衛近右衛門が、当時まだ《関東機関》に出向前の伊織貴瀬に接触した様である。詳しい話は知らない。余り良い話でも無さそうだ。

 当時の状況は不明だが、大戦期を機として、麻帆良学園は『伊織魔殺商会』のお得意様になった。殆ど個人契約に近いらしく、中にはドクター性の怪しげな代物まで出回っているのだとか。
 商人としては利益が上がればそれでいいのだが、ここ最近は、如何もそれだけでは、難しい。

 来訪したネギ・スプリングフィールドの影響で、『魔殺商会』だけでなく、“神殺し四家”の伊織家として……あるいは、《神殿協会》やゼピルムとしても、行動をせざるを得なくなってきている、らしい。
 そんな事を、上司達は語っていた。

 「ま、私には関係のねー話っすね」

 自分が《神殿協会》のシスターだったのは、もう何年も昔の話だ。
 名護屋河鈴蘭を巡る、大きな物語の中で、彼女は今迄自分が信じて来た神に逆らった。

 信仰心を捨てた訳ではない。
 目の前に現れた神を、自分が信じて来た神であると認めなかっただけだ。
 自分が悪と判断した存在すら、天に昇っている等と語った神が、間違いと告げただけだ。
 やり直された正しい世界よりも、今のままの間違った世界を良くしていく方が良いと、叫んだだけだ。
 そして、その言葉を機会に生み出された、天との戦争によって、名護屋河鈴蘭は『聖魔王』へと成った。

 今は引退しているが、彼女のカリスマ性は今尚も健在だ。まあ、その分、女性としての魅力は少ないらしいが、多分、適当な相手が見つかるだろう。長谷部翔希とかと、なんか良い雰囲気らしいし。

 元々仲の良かった魔人や、あるいは人外離れした人間の面々ならば兎も角。それ以外の――魔神の最高位《億千万の眷属(インフィニティ・シリーズ)》すら味方に引き入れる辺り、凄まじい。

 そして、その鈴蘭に、自分も又、従っている。

 「そんな彼女達が、一体、何を困っているのやら……」

 そんな風に呟いて、クラリカはバサ、と書類を机の上に放り投げた。
 はー、と溜め息を吐き、凝りをほぐす様に肩を回す。

 「お教えしましょうか?」

 そんな彼女に、声を懸けた相手が居る。
 唐突に現れた声に、閉じた目を開くと、其処には一人の男が立っていた。

 「へ? ……って、え!?」

 「元気そうですね、クラリカさん」

 「ふぇ、フェリオール、副社長?」

 目の前に居たのは、今も昔も上司である事は変わらない、一人の男性。

 元《神殿協会》異端審問第二部の部長にして、『伊織魔殺商会』副社長――――フェリオール・アズハ・シュレズフェル。通称を「ふぇりっ君」だった。



     ●



 「何から話しましょうか」

 手近な応接室のソファに腰掛けたフェリオールは、クラリカにそうやって話し始めた。

 丁度、向かい合う格好で座る二人の間に、クラリカが先程に読んでいた報告書が置かれ、其処に付け加えるように幾つかの書類が乗っている。フェリオールの個人資料らしい。

 「……その前に、一つ質問ですが」

 「なんでしょう?」

 「副社長、今迄、何処に居たんですか? 大会に始まって、さっぱり姿が見えなかったんですが」

 「ああ、その事ですか」

 静かに微笑んだままのフェリオールは、静かに目線を反らし、静かに呟く。
 何処となく、哀愁が漂っているのは気のせいでは有るまい。

 「クラリカさん。どうせ私は、有能である代価に、引き立て役でしか無いのですよ」

 「すいません。私が悪かったっす」

 その言葉だけで予想が付いた。

 大方、表で好き勝手に暴れていた伊織貴瀬の裏で、『魔殺商会』の実質的な運営を任されていたに違いない。アレだけの、……参加者である鈴蘭やみーこは兎も角、貴瀬やクラリカや社員も暴れた『聖魔杯』だ。会社の実質的な雑務は全て彼が一手に引き受け、動かしていたのだろう。

 そう言えば、有能である事は間違いないくせに、妙に、何処か影が薄いと言うか。……こう、順番に名前を並べられて言った時に、うっかり飛ばされて、最後に思い出される様な、そんな感じが有る。

 なんというか、全てに渡って有能であるが故に、妙に、扱いが悪いと言うか……無難すぎると言うか。
 灰汁が無く、非常に常識人であるが故に、周りにキャラを喰われていると言うか。

 彼は、そんな感じの人なのだ。

 「まあ、試合の観戦はしていたので、退屈はしませんでしたがね……」

 何処となく捻くれた様な口調で、かつて日本の女子高生に流行を巻き起こしたフェリオールは、苦笑を浮かべた。とは言っても、言葉の中に不満は見えない。なんだかんだ言いつつも、伊織貴瀬とは幼馴染らしいし、昔からサポート役として動く事が多かったのだろう。

 悪徳商社を経営している今でも、同じだ。

 「……さて。私の話はこの位にしましょう。――クラリカさん。貴方が訊いて、私が答える、というやり方でも良いですか? そちらの方が、多分、判り易いでしょう」

 「え、ああ。……そうっすね。……判りました。――じゃあ、早速ですけど、良いっすか?」

 「ええ。どうぞ」

 《神殿協会》時代からフェリオールは優秀だった。伊達に十六人の司祭の一人で、枢機卿にも成り上がっただけある。伊織貴瀬も以外と各種技能に秀でているが、フェリオールも非常に優秀だ。

 彼の事務処理能力が『魔殺商会』を支えている、という言葉は、多分、嘘では無いだろう。実際、社員から一番に慕われている人材である。クラリカだって、彼が伊織貴瀬と共に行くと言うから、態々《神殿協会》を抜けたのだ。

 対談の空気を、其れなりに真剣な物に変えながら、クラリカは置かれた幾つかの書類を取った。別に上司に訊ねよう、とまで真剣に考えていた訳ではないが、多少、気に成った部分はある。

 「ええと、じゃ、『魔法世界と魔神の、詳しい関係について』を、お願いします。――――概要は、まあ、多少聞き及んではいますが、細部を知らないんで」

 『魔法世界』で大戦争が発生した時、その大戦争を終結させた《赤き翼》という集団が居た事。
 そして《赤き翼》に注目した最高位の魔神達が、意気軒昂と大戦争に“参加した”事。
 そして、彼らの動向を、以降も気にしている、と言う事だけだ。

 「……私も、直接、見た訳では有りませんが」

 そう前置きをして、彼は語り始めた。






 「クラリカさんも十分に知っているでしょうが、魔神――――即ち《常識の外に住む者(アウター)》や、それ以上に立つ《億千万の眷属》という存在は、基本的に傍観者です。こちらが余計な手を出さなければ、人間に手を出す事は、非常に少ないともいえます。――――ああ、これは勿論、“個人としての人間”が被害に遭う事は有っても、“生命体としての人間”が、被害に遭う事は少ない、と言う意味ですよ? 彼らは基本的に、快楽主義者で、享楽主義者です。中には人間を殺戮する事が好きだったり、泣き叫ぶ悲鳴を聞かないと眠れない者もいるでしょうが……。しかし、そんな彼らでも、決して、人間を全滅させる事はしません。何故ならば――」

 「人間を滅ぼしたら詰まらないから、ですよね」

 「そうです。人間を滅ぼす事は簡単です。しかし、それを実行しない。何故ならば、人間を滅ぼしてしまっては、この先、何で遊んだら良いのか判らないから。人間を滅ぼすなんて言う楽しい所業は、簡単に実行してはいけないから。面白い玩具は、長く、大切に使用して、最後に捨てる。それが、彼らの人間に関するスタンスです。だから、好き勝手に行動したら、周りから責められる訳です。『一人だけ楽しい事しやがって、この野郎』とね。勿論、中には友好的な存在もいますが……。現在『魔殺商会』と共に“居てくれている”みーこさんでも、決して『安全』では有りません。鈴蘭さんが居るから、彼女の道具である貴瀬が居るから、彼女の眼に楽しい世界が映っているから、仲良くしてくれている、だけの話です。――――強いて友好的なアウターと言えば……言えば…………、……居る筈、です。多分」

 頭の中に浮かんだ顔は、礼儀正しいが、しかし本質は怪物しかいなかった。
 気を取りなおしたように、彼は続ける。

 「先程も言いましたが……彼らは、飽いています。だから、何が楽しいかと、考える。何をすれば、“どの程度ならば”、“何処までやれば”、同族から責められる事無く、楽しく世界で遊ぶ事が出来るのか。其れを念密に計画し、人間を駒の様に動かし、彼らの一挙一動を見る訳です。――――鈴蘭さんが『聖魔王』に成る前は、そうやって動いていたのですよ。――丁度、二十年、程には昔。貴瀬がみーこさんの眷属と成り、そして『魔法世界』で大戦争が勃発した頃の話です」

 伊織貴瀬を眷属に引き入れたのが先か、『魔法世界』に行ったのが先かは、フェリオールも知らない。
 しかし、二十年前は、みーこも、ここ数百年の間で、かなり邪悪に動いていた時期だそうだ。

 「『魔法世界』ですか……。もしかして」

 「ええ。『魔法世界』。この世界とは違う、隔離世にも似た、しかし確実に存在する世界。言い換えれば――――好き勝手に暴れても、何も言われない世界です。……最高クラスの魔人達は、人間界の戦争に口を出す事は、滅多に有りません。彼らは自覚していますから。……リップルラップルの話では確か、火竜の本気が人間の核兵器と同レベル、でしたか? 核兵器以上の被害を、簡単に発生させる事が出来ると――彼らは自覚しています。そして、それ以上の被害を齎すと危ない、と言う事もね。しかし、その人間達の戦争が――――幾ら暴れても、現実に被害を与えないレベルで構築された世界ならば、別でしょう」

 「……だから、っすか」

 幾ら暴れても問題が無い世界。
 好き勝手に、傍若無人な魔神の力を奮う事の出来る世界。
 世界に飽いていた彼らの眼には、これ以上の無い、格別の餌に見えた事に違いない。

 「そうです。彼らは。――――だからこそ、乗り込みました」

 魔人達は、乗り込んだのだ。

 人間達の戦争が続く世界に。
 身内以外は全て敵と言う、彼らが待ち望んでいた、これ以上無い程の戦場に。
 かつて人間を支配していた頃と同じ様に、圧倒的な蹂躙を実行する為に。
 溜まりに溜まった欲求を洗い流す程に、喧嘩をした。

 「《神殿教会》……いまは《神殿教団》と名を変えてしまいましたが。其処に居た頃、当時の映像を見ました。数えるほどしか有りませんが……。彼女達は、まさに『災害』で、災厄でしたよ。ヘラス帝国とメセンブリーナ連合。その“両方”から敵と認識され、そしてその上で、両者をも蹂躙して戦場を制して行ったのです。無論、ただの第三者としてではなく……連合に付く者が居て、同様に、帝国に付く物が居ました。みーこさんは、どちらでも無かったようですがね。故に、戦禍の炎は、人間同士の戦争以上の物に成りました」

 魔神。カミの名を冠するに相応しく、彼らこそは歩く理不尽で有り、如何にも出来ない災害だった。

 戦場に登場すれば、其処は二軍に別れた魔神達が衝突する、地獄絵図に変貌した。
 壊し過ぎないように、適当に遊んでいたお陰で、両者共に完全に滅ぶ事は無かった。
 しかし、戦争を続ける気力を残し続けていたからこそ――――彼らは、戦争を止めなかった。

 魔神達の演出の上で、『魔法使い』達は争ったのだ。

 そして、彼らの助力する形で、魔神達も暴れまくった。
 戦場などと言う場所では無い。
 地獄すらも生温い、屍の山が築かれたらしい。

 『魔法世界』の大戦争で生じた被害の、約七割は、魔神達だったとまで、伝えられる程である。

 「ところが、有る時。魔神達は、揃って手を引くことを決定します。散々に楽しんだ戦争に飽きた訳では有りません。まだまだ蹂躙出来ていない場所は多く有った。やろうと思えば、もっと長く戦争を続けられた。『魔法世界』を徹底的に壊して、いたぶる事が出来た筈です。しかし、彼らは止めました。何故か? ――――見つけたからです。戦争をやる以上に、もっと面白い『対象』を」

 フェリオールは、まるで物語を語るような口調で、後輩に告げた。




 「後に《赤き翼》と呼ばれる様になる、人間達の姿をね」




 政治的な側面を詳しく知らないクラリカであっても、知っている。

 『魔法世界』の英雄にして、最強とも呼ばれる集団の事を。
 そして、その大将たる、ナギ・スプリングフィールドという男の事を。

 「破天荒な性格だったせいでしょう。辺境アルヴァレーに送られていた彼らの事を、魔神たちは知りませんでした。マリーチさんは《神殿教団》の預言者として活動し始めた頃でしたし、リップルラップルは傍観していました。天界も、積極的に介入はしなかった。……だから、魔神達は、《赤き翼》を知らなかった。同時に、《赤き翼》も、戦場での魔神を、噂以上の事は、知らなかった」

 そして、有る時、彼らは遭遇したのだ。
 戦場で、敵と味方と言う立場に成って。
 当然の様に、激突した。







 「……マジッすか」

 「マジです」

 「――あの、決着は」

 「付きませんでした」

 「……因みに、最初に遭遇したのは」

 「みーこさんです」

 「……それで、《赤き翼》の戦力は」

 「ナギ・スプリングフィールドを筆頭に、ジャック・ラカン、ゼクト、間桐桜の四名です」

 「……待って下さい」

 クラリカは、聞いた情報を、頭の中で反芻して、もう一回尋ねた。

 「みーこさんと、《赤き翼》が戦場で出会ったんすよね」

 「そうです」

 「――それで“決着が付かなかった”んですか? あの、みーこさんを相手に、ですよ!?」

 大きな声に成ってしまったとしても、無理は無いだろう。
 むしろ、大きな声に成らない方が奇妙なほど、フェリオールの語った言葉は非常識だった。

 「ええ。掛け値なしに本当の事ですよ。あの魔の最高位。アウターの筆頭。《億千万の眷属》にして魔王の片腕に数えられる《食欲魔神》みーこ。世界の中でもトップクラスの怪物。……彼女を相手に、たった四人で喧嘩を売って、純粋なる戦争の末に、引き分けました」

 「……んな、馬鹿な」

 あの魔神の実力は、良く知っている。

 クラリカが逆立ちしても勝てない魔人がいる。
 その魔人を簡単に殺せる高位魔人が《常識の外側(アウター)》だ。
 そして、アウター本気を、小指を捻る様に蹴散らす事が出来るのが、あの、みーこという、存在だ。
 人間のレベルで計れる筈が無い、存在なのだ。
 嘘か真か、正体は、スサノオノミコトの実娘、なのだとまで言われている。

 呆然と呟いたクラリカに、事実です、とさらりと言って、フェリオールは話しを続けた。

 「最も、相性的な面もあったようです。みーこさんに引き分けた、と言っても、《赤き翼》が圧倒的に不利だった事には違い有りませんよ。……さて、クラリカさん。戻ってきなさい。この程度で驚いていては、これから先、《赤き翼》の非常識さは理解出来ないでしょうから」

 此処まで唖然としたのは何時以来か。指摘されて、慌てて姿勢を正した。
 勿論、頭の中には先程の驚愕が渦を巻いている。

 「さて。みーこさんと分けた、という噂を聞いて、《赤き翼》を直接に見ようとする魔神が増加しました。エルシアさんとアルビレオ・イマが激突したり、近衛永春と剣神・水無月が接触したり、とね。表に出ている情報は統制されている為に非常に少ないですが、伝説に相応しい逸話がごろごろ転がっていますよ。後にも先にも、純粋な戦闘能力で、彼らに対抗できたのは《赤き翼》だけでしょう。……そんな彼らが、『魔法世界』の戦争に介入し、同時に黒幕を倒そうと動き始めた事を知って――――」

 一端、言葉を区切り。




 「――――魔神達は、《赤き翼》を眺める事を、決定します」




 フェリオールは、まるで教える様な口調で告げた。
 口調だけは過去と同じ、しかし中身は、規模が違う。

 「詳しくは不明ですが、如何やらマリーチさんが告げたようです。――――『《赤き翼》を泳がせた方が、もっと楽しい世界を見る事が出来るわよ?』、とね。――――みーこさんも、彼らを始末するには、余りにも惜しいと思っていたようです。そして、それは彼女だけでは無く、《赤き翼》と関わった他の皆も同じでした。エルシア嬢然り、ドクター然り、リップルラップル然り……。当時の彼女らの心情を代弁すれば、きっとこうなるのでしょう」




 『魔法世界』からは手を引こう。
 この大戦争で、これ以上に暴れはしない。
 その代わり、我らを引かせた主らを、見せてみるが良い。
 戦争を、其れを生みだす黒幕を、倒し歩む、理想へと至る物語を。
 英雄と成る《赤き翼》の軌跡を、綴って見せよ。
 我らが満足する程の、輝きを。




 「格好良く言えば、魔神達が、戯れに殺さない程の、立派な形を人間の力で生みだして見せよ……、と言った感じでしょうかね?」

 「いえ、多分それは、楽して世界を楽しもう、とか言う本音を、格式高く覆った、だけじゃないっすか?」

 「かもしれませんね。しかし、怪物達に“そう思わせた”という点で既に、《赤き翼》はアウター以上の怪物だと、私は思いますよ」

 やれやれ、と言いたげな表情で、彼は肩を竦めた。
 話をしているだけで、次元の違いを認識させられていた。

 「……かくして。魔神の皆さまは、『魔法世界』への介入を停止しました。そして《赤き翼》は苦労の末、戦争を引き起こした秘密結社《完全なる世界(コズモエンテレケイア)》を打ち倒し、大戦争は終結……。彼らは、英雄と呼ばれる様になったと言う訳です」

 戦争を操る秘密結社に加え、魔神も撤退させたのだ。
 英雄と呼ばれて、当然かもしれなかった。



     ●


 その他、色々な情報を得た後に。

 「……なんか、凄い、っすね」

 話が一区切りついた時、クラリカの口を付いたのは、そんな言葉だった。

 《常識の外側に住む者(アウター)》に認められる事は、決して珍しくは無い。

 名護屋河鈴蘭や伊織貴瀬もそうだが、例えば宮内庁神霊班に努めている名護屋河睡蓮と川村ヒデオ、その上司の鬼姫・長谷部翔香。元勇者の長谷部翔希。『聖魔杯』の際のリュータ・サリンジャー。白井沙穂や狂戦士のクーガー・レヴァールもそうだろう。

 しかし、大凡、戦場で相対して、その力を見出されるとは。
 桁外れという形容詞が、これほどに似合う集団も無い。

 《赤き翼》への驚愕が、感心へと変化したクラリカだった。
 伝聞の状態の彼女で、此処まで「凄い」と思わされるのだ。当時、彼らの活躍を直接に見た『魔法世界』の住人が、彼らを英雄と読んで祀りあげた気持ちが良く分かる。

 「ええ。しかし、此処までは過去の話です。ここからは、現在、直面している話」

 余韻に浸っているクラリカに、フェリオールは続けた。その言葉で再度彼女は、引き戻される。

 「現在の、話、っすか」

 「ええ。過去は過去として、今は過去から連なる、現在と未来の話ですよ。――――さて、このような経験を『魔法世界』は有している為、彼らは魔神を恐れています。当たり前ですね。二十年経った今でも、復興の兆しが見えない土地が至る所にあるそうですし。……『魔法世界』の戦争は終結し、魔神達が好き勝手に暴れる場所としての価値は無くなりました。勿論、秘境でこっそり生活し続けているアウターもいらっしゃるようですが、八割がたは現実世界へと帰ってきました。そして、ここ二十年の間、彼らは此方の世界で過ごしていた訳です。彼らがどの様に生きて来たかは、貴方も多少は知っている筈ですので、割愛しますよ」

 その通りだった。
 クラリカも、多少は彼らに関わった身だ。知っている部分が有る。

 故郷に帰った者、堕ちかけた神となって日々を過ごした者、人間社会に紛れていた者、崇められていた者と様々だ。共通する部分と言えば、やっぱりその本質が、怪物だと言う事だろうか。

 名護屋河鈴蘭という少女が、その頂点に立って律しているお陰で、大きな害は減っている、筈だ。
 納得する彼女に、副社長が告げる。




 「しかし、ここ半年。具体的に言えば――――麻帆良の土地に、ネギ・スプリングフィールドが来訪する事が決定した頃から。その動きが、徐々に変わり始めたのですよ」




 気が付けば、彼の視線は真剣みを帯びていた。

 柔和な笑顔を崩さない彼にしてみれば、珍しい、射抜くような鋭い瞳になっている。

 「二十年前の戦争以降、『魔法世界』は、魔神達に触れようとすら思いませんでした。まさに『触らぬ神に祟り無し』という言葉の通りです。しかし、ここ半年ほどの間、その行動が、徐々に変わっています。それも、急激に良く無い方向に、です。……私達に触れないまでも、周囲には『魔法世界』の影が見え隠れしている。間接的に繋がり始めている。そして恐らく、率直に言えば、『野心』を持ち始めている。そして、あまつさえ。何処から聞き付けたのか、『ノエシス・プログラム』等と言う目的まで、抱き始めた」

 そして、僅かでは有るが、被害も出始めている。
 その筆頭が、三か月ほど前の、名護屋河鈴蘭への攻撃だった。
 かすり傷だったが、この騒動で、いよいよもって魔神達が、本格的に対処を考え始めたといえる。

 「……『魔法世界』は馬鹿になった、んすか?」

 クラリカには、はっきりと世界の危機だと理解出来ていた。

 そしてもう一つ。

 「ノエシス・プログラム」が、そんな大層な物では無い事を、知らないのだろうか。

 ……知らないのだろう。恐らく。

 「ええ、馬鹿ですね、本当に。……指示を出しているのは『魔法世界』の上層部の様ですが、彼らは喉元を過ぎた熱さを忘れ、無謀を始めている。何を考えているのかは知りませんが、彼らが如何なろうと知った事では有りませんが、それは事実なのですよ。――――ああ、因みに。ここ最近、アウターの皆さまが動いているのは、そんな理由が有るからです。みーこさんやリップルラップルが、各地の友人・知人と会談をしている様です」

 その内の一会場が、麻帆良地下のアルビレオ・イマの居住区とは、流石に知る由も無い、クラリカやフェリオールだ。その事実を握っているのは、学園長やタカミチなど、ごく一握りに限られるだろう。

 「……じゃあ、すいません。もう一つ、序に質問ですが」

 「ええ」

 「散々話に出ている、『麻帆良という組織について』を、教えて欲しいです」



     ●



 「……ええ。成る程。では、ごく簡単に説明しましょうか。……麻帆良は、教育機関です。しかし、本質は其処では有りません」

 最初は、そんな風に語り始める。

 「まず、色々と特殊な場所と言う事を知って下さい。政治的な面で言えば、宮内庁や政府機関の影響が有る。施設や土地と言う観点では、旧八百万機関や《神殿教会》や大英図書館やUCATの影響が有る。経営の側面でも無数の利権が絡まっています。そしてその上で、現実世界における学校と、裏の側面である魔法関係と……。――――全てが絡む箱庭、という揶揄される事も、決して間違いでは有りません。実際、麻帆良という『組織』に一切の関係を持たない事の方が難しい、とまで言われています」

 麻帆良の本質。
 麻帆良という土地の脅威は、其処に有った。

 歴史・背景・過程・設備・立地――――要因こそある。

 しかし、結果が集まったのは“何の意志でも無い”のだ。
 言い代えよう。




 気が付いたら、麻帆良と言う土地が、全てに関わる箱庭のようになっていた。




 理由なく、唯普通に、全ての要素が集まる舞台へと変貌していた。
 魔郷、魔窟、伏魔殿――そんな形容詞も、正し過ぎる程に、的を射ている。
 火薬庫では生温い程に危険なくせに、より危険物ばかり呑みこんでいくのが、あの麻帆良という土地だ。

 その原因は、判らない。

 「トップに立つ、今の学園長、近衛近右衛門は、立派な人物ですよ。外からは狸と呼ばれていますが」

 苦笑いを浮かべるフェリオールは、そう語った。
 私もそう思いますが、と付け加える事も忘れなかった。

 「組織の責任者として、呆れるほどに危険な綱渡りを、完璧に渡っている。同じ事が出来る人間は、そうはいません。一歩間違えたら、群がる利権に喰い尽くされますよ。経験や本人の実力もさることながら、先見の明が非常に高い。そして、肝心な所で手を抜く事は一切しない、との事です」

 《神殿協会》を初め、各組織も同じ事をしている、と思うかもしれない。
 しかし、決定的に麻帆良と違うのは――麻帆良は“教育機関”なのだ。それも『学園都市』の様な、超能力者が闊歩する世界では無い。ごく普通の生徒が、ごく普通に学校に行き、ごく普通に青春を送り、ごく普通に成長する世界なのだ。一般人の比率が圧倒的に多いのだ。

 確かに戦力は有している。警備員と言う名目で特殊な人材を確保してもいる。しかし、麻帆良という『組織』は他組織に大きな介入をする事も無ければ、武力に訴える事も無い。発生する事件は、全て“個人”の範囲で括られるレベルの物だ。

 「私も教会に居た頃、ランディル枢機卿から僅かに話されただけなので、立派な事は言えません。ですが……学園長は、気が付いています。麻帆良という土地が、何かしらの宿命を有している事を。個人の力では、まず解決が出来ない――――何をどうしようとも、火薬庫に成ってしまうという性質が有ると言う事をね。そして、その上で、動いている。より良い結果を出そうと必死に動いているのですよ。重圧や責任は、私の比では無いでしょう。――さて、そんな学園長ですから、魔神のような爆弾に、余計な手出しをしない、と言う事は十二分に理解出来ますね?」

 「ええ」

 「クラリカさん。《福音》が動いた大停電で、何が有ったのか。“元後輩”から聞いていますね?」

 「まあ。……一応」

 「結構です。――――先程も言いましたが、麻帆良と言う土地は異常です。そして、近衛近右衛門はそれに気が付いている。そして、気が付いているからこそ、状況が整う前に、事前に動いて形を造る事が出来る」

 フェリオールは、静かに、クラリカと目線を合わせながら語る。

 「あの地においては、緊急事態に備える、という言葉は、何が有っても大丈夫、と言う意味では無いのですよ。麻帆良という場所は、“緊急時に備える”、程度では間に合わなくなる危険が有るからです」

 通常、何かしらの事件が発生する事を予見したとして、それに備える事は当然の行動だ。
 しかし、麻帆良という土地は、事件の来訪を身構えて待機しているだけでは、到底、守りきれないのだ。
 取り巻く環境が、ただ守りに徹するだけの状況を許さない。

 「学園を防衛する戦力は有ります。各組織の僅かな介入を条件に、戦力を招いている。しかし、其処に頼り過ぎる事は出来ない。貸し借りを生むには危ういのが、麻帆良です。故に、極力、相手からの攻撃を――――相手が攻撃するというアクションに出ること自体を、防ぐ必要が有る。あの御老人が各組織と接触する事や、あるいは内部侵害に成らない程度に顔を突っ込むには、そんな意味があるのです」

 「初耳、っすね」

 「ええ。私も一回しか話された事が有りません」

 そんなやり取りをしながらも、クラリカは納得していた。

 ある意味、麻帆良と言う土地性を最大に利用した行動といえるだろう。

 放っておいても何れは何処かに、関わらざるを得ない。
 ならば、自分から相手を招き入れ、相手の準備が整わない内に牽制をして、一定以上の介入を防ぐ。
 それも、文句が出ない程の政治的交渉や、立場や、歴史を最大限に、使用してだ。
 なまじ受身で行動するよりも、遥かに有効かもしれない。

 「そして、それを可能にするのが、学園長である、と」

 「そうです。そして、その為には何よりも、相手を掴む必要が有る。――――だから、影も形も見えない、“存在を予想すら出来ない相手”には、如何しても苦手なのですよ、麻帆良は」

 「あ、そういう風に関係するんすか」

 再度、彼女は頷いた。






 麻帆良学園で発生した大停電は、まさにその『予想の範囲外』だった。

 予想が出来ていた部分は多い。

 学園への侵入者を初め、エヴァンジェリンとネギ・スプリングフィールドの対決。更には、《完全なる世界》に属する幾人かの来訪も、十分に学園長の予想の範疇にあった。

 奇しくも遠く離れた麻帆良の土地で、学園長も又、同じ事を言っていた。




 『あの『アーチャー』ネギという存在が、全てを狂わせた』――と。



     ●



 「丁度今、世界は――――自分の行動を決めかねている時でしょう。唯でさえ厄介な麻帆良と言う土地に、あの《赤き翼》の息子がやって来た。そして、大きく動いた。今迄、巻き込まれる事を嫌っていた相手であろうと、嫌でも舞台の上に引っ張り上げられるでしょう。学門・政治・経済・宗教・暴力に分割される五つの世界。表から第三世界に澱の神まで――――恐らく、今後、関わる事は間違いありません」

 既に、種は巻かれていた。
 少年の来訪が種だとするのならば、大停電のカーニバルが、発芽だった。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの行動は、良くも悪くも波紋を投げいれた。

 もしかしたら、とクラリカは思う。

 (今迄の麻帆良の騒動は、序章に過ぎなかったかもしれねっす、ね)

 クラリカには、たった一人の少年の存在が、世界を巻き込むと言う事実は、納得出来た。
 格好の見本である名護屋河鈴蘭がいるからだ。

 彼女と同じ程の、主人公という性質をネギ・スプリングフィールドが抱えているのならば。
 それが、麻帆良と言う土地で始まるのならば。
 その物語は、世界に響く事は、間違いない。

 「タイミング良く、ネギ少年が率いる3-A組には、修学旅行が控えています。学園長さんは、中止も計画に入れておいたようですが、周囲からの束縛によって難しい。ならば、毒を食らわば皿まで、という方針を決定した上で、どうせ実行するならば同じリスクで多くのメリットを、と動いています」

 淡々と話す、フェリオール。




 「……私達も、動くのですよ? クラリカさん」




 その時。

 クラリカは、一瞬、確かにゾクリとした気配を感じ取った。
 話していたフェリオールの瞳の中に、燃えるような感情を、確かに見ていた。

 (……そう、すね)

 今迄、丁寧な言葉遣いだったから、すっかり忘れていたが――――この目の前の存在は、この会社の副社長なのだ。
 魔神達を率いる名護屋河鈴蘭と、悪の組織を生んだ伊織貴瀬との、同程度の精神を抱えているのだ。

 「――――楽しみっすね」

 上司に返答しながら。

 (……さて)

 自分の感じている、湧きあがる、震えるような感覚は。

 きっと予見に対する武者震いなのだろうと、クラリカは思った。














 因みに。

 「そう言えば最近、社員達にアンケートを取ってみたいっすけど、中身は具体的には、何なんですか?」

 「ええ。――――そうですね。折角ですので、お話しましょうか。実質的に経営を握る私ですから、貴瀬の裁量を得なくて済む問題も有るんですよ。……それで、ですが、ね」

 フェリオールは、其処で、珍しい事に、悪戯が成功した子供の様な顔で、怪しげに微笑んだ。
 その笑みに、何か危なそうな物を感じ取る。

 クラリカの心情を読み取ったのか、フェリオールは、この対話の中で一番に楽しそうな声で。




 「今年の社員旅行は、イギリスと京都の二種類にしました」




 そんな事を語った。





[22521] 第三部《修学旅行編》 その一(前編)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/23 22:28
 [今日の日誌 記述者・超鈴音


 麻帆良学園の、大停電の日。
 ほんの数時間だった筈だが、やけに長く感じられたヨ。
 主役や従者、警備員等は兎も角、委員長もそうだが、運動部の四人組みまで関わるとは、いやいや。
 かくいう私も、かなり苦労をしたが――まあ、それでも、大停電が終わって、クラスのメンバー全員が無事に登校して来た事は、喜ぶべきことネ。
 これも皆の努力の成果と言う奴ネ。


 停電でこの規模と言う事は、恐らく、修学旅行はそれ以上になるだろう。
 中止に出来ない以上、なるべく手を尽くすのが学園長の有り方だが、しかし、それでも――唯で済むとは、思えない。
 委員長が停電時に那波さんを護衛に出歩いて、“彼女”を救ったのも、其れを予感してのことだろう?
 クラス会議で決まった時から、十分に把握できていたが。私以外にも、色々と準備を始めている者が居る。クラスとしても、覚悟を決めて行った方が良いのかもしれないネ。

 ……ああ、そうだ。
 実は気になっている事が、もう一つだけある。

 真剣な話だ。



 委員長には教えていたが、私は『魔法士』だ。頭の中に、特殊なコンピューターを搭載している、科学的な魔法使いだと、思っていてくれれば良いのが……私には弱点が有る。
 それは、電磁波――― ―一定の周波数を持つ、特殊な電磁波を放射されると、頭の働きが非常に悪くなるという物だ。
 しかし、私を妨害する程に、精巧な電磁波を放射する事は、今の科学力では、出来ない筈なのだ。
 麻帆良は愚か、『ER3』や学園都市でも、生みだす事は、到底、不可能な筈なのだ。

 ところが、だ。
 大停電の時に、その現象が、現れていた。

 大泥棒・石丸小唄と戦っている最中に感じていたが、明らかに私の頭が、妨害されていたのだ。



 ジャミングを実行したのは、あのアリシア・テスタロッサという少女だと思う。彼女ほどの雷電系魔法の使い手ならば、十分に可能だろう。しかし、その波長は。……明らかに、特定の指方向性を持って放たれた電磁波だった。
 それは言いかえれば、その周波数を、アリシアに教えた存在が居ると言う事だ。
 ――――勿論、この私でも、教えた存在が、何者なのかは、判らない。
 しかし、恐らく、《完全なる世界》の中に、『魔法士』の知識を有する者が居る事は、間違いないだろう。


 願わくば、我が親愛なる育ての親『賢人会議』や、あるいは幾度と無く助けられた『空賊』に、縁の無い者で有らん事を、望もう]






 ネギま・クロス31 第三部《修学旅行編》 その一






 大停電の翌日の事である。

 「明日菜さん。昨日は有難うございました」

 「お礼を言われる筋合いは無いわよ。ネギ。――――私も、結局、ネギを助ける事が出来なかったじゃない」

 麻帆良学園女子中等部の一角に位置する、スターブックスカフェの前で、歩きながら話をしていた二人が居た。

 紅茶色の髪に眼鏡を懸けた、スーツを着た少年が、ネギ・スプリングフィールド。
 ツインテールの女子中学生が、神楽坂明日菜。

 一見すれば姉弟にも見えるこの二人だが、実は教師と生徒という関係であり――――そして昨夜の大停電では、共に戦った『主人』と『従者』という関係でも有る。

 最も、神楽坂明日菜は、相手方の従者、クラスメイトである絡繰茶々丸と共に他の戦場に加わっていた為、大橋の戦いに介入できなかった。故に、正確に肩を並べた時間は精々が二時間である。

 「いえ、でも、明日菜さんに助けられた部分もありましたし。お風呂場の事とか」

 「そう? ……じゃ、コーヒーでも奢って貰おっかな? 眠気覚ましに、良いでしょ?」

 「はい!」

 今は朝だ。
 昨晩の大停電の終了したのが、丁度、午前零時の事である。

 神楽坂明日菜は、大橋に向かう途中。ネギ・スプリングフィールドは大橋の最終決戦が終了した時に、其々、気を失ってしまい、そのまま眠りに落ちてしまった。
 体を酷使した影響も有って、少し眠いのだ。

 「エスプレッソで良いですか?」

 「うん。……ふぁ――良い天気。……いつも通りの平和な日常ね」

 レジへ駆けていくネギの後ろ姿を見ながら欠伸をして、今度は周囲を眺める。

 停電終了後に、どれ程に急速なスピードで、証拠の隠滅が行われたのかは知らなかったが――明日菜の見る範囲では、昨晩の痕跡は何処にも見えない。よくも此処まで、立派に隠蔽していると思う。

 「どうぞ」

 「ん」

 器を受け取って、呑みながら歩く。今日はこれから学校が有った。水曜日だから、五時限で終わるのが幸いだろうか。
 昨晩のショックは消えている訳ではない。しかし、耐える事が出来ている。それに、気になっている事も有るのだ。例えば、昨晩に遭遇した運動部のメンバーとか、壊されてた茶々丸の様子とか。

 それに、エヴァンエリンに訊ねたい事も、ある。

 その明日菜の願いが、通じた訳ではないだろうが――――ネギの肩に乗っているオコジョ、アルベール・カモミールが何やら、昨日の仮契約に関して何かを話しかけようとした時だった。

 「あ」

 「え」

 偶然、なのだろうか。

 「……ふん」

 不機嫌そうな顔が、目の前に会った。




 その昨晩の喧嘩相手。

 《赤き翼》の一員。

 《闇の福音》と語られる吸血鬼。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、本人だ。




 「お早うございます、エヴァンジェリンさん!」

 元気に挨拶をするネギ。昨晩、散々に彼女の実力を見た筈だが、以前の様な怯えは無い。
 停電を通して、彼女の真意をかなり詳細に知った今、怯える必要が無いと理解出来た様だ。

 「ああ。お早うだな、ネギ先生。――――元気そうで何よりだ」

 ネギの態度に、乱暴だがそう返した彼女は、傍らの机にカップを置き、腰掛ける。

 「昨晩の話だが」

 「はい」

 言いながら、机の上の砂糖を取り、器に。マドラーで掻き混ぜてから一口飲んで。

 「詳しい事は学園長に聞け。説明は面倒だ。――ボーヤが心配せずとも、私達が後始末をしたよ。ま、お陰で少々眠いが……まあ、それは私に限ったことでは無い」

 ぶっきらぼうに言う。口調だけを聞けば、停電前と変化が無い様に見える。
 しかし、彼女も、本音を覗かれて、曲がりなりとも敗北を認めてしまったからだろう。無駄な威圧感を振りまく事は無いし、言葉の端々に楽しそうな感情が見えていた。

 明日菜は、背後に控える友人に声を懸ける。

 「茶々丸さん、体は大丈夫?」

 「ええ。昨晩、葉加瀬やマスターが、急ピッチで仕上げてくれました。まだ再駆動から時間が経っていないので、余り滑らかな挙動では有りませんが、日常生活に支障は有りません。……明日菜さんも、大丈夫そう、ですね」

 「まあね」

 結局、昨晩に明日菜がした事と言えば、先程ネギが語った、風呂場での一軒を除けば、少ない。茶々丸を抑えた事と、北大路美奈子を加えた三人で侵入者のザリガニ怪人と戦った事くらいだ。その後は、もう一人のネギにあっさりと意識を刈られてしまった。

 最後は、遥か上空から落とされた気もするのだが、覚えていない。
 最後に、何か懐かしい感覚を得た気もするのだが……。

 「ねえ、エヴァちゃん。少し、聞きたい事があるんだけどさ」

 丁度目の前に、その“懐かしさ”に関して、色々と知っていそうな人が居る。

 「何だ」

 「……昨日の夜、途中で謎のネギに気絶させられて、ずっと眠ってた訳だけど」

 「ああ」

 「――今朝、夢を、見たの」

 「……ふん?」

 明日菜の言葉に、机に座り、肘を付いて此方を眺めていた吸血鬼の瞳が、スウ、と深く成った。
 金色の小柄な少女の存在感が、増したような錯覚を受けた。

 けれども、恐れは無い。

 「昔の夢、だと思う。……大きなエヴァちゃんが、小さい頃の私を、見ている夢だった」

 「続けろ」

 加減はされている。敵意や悪意は含まれていない。しかし、圧力だけが増え、周囲にふりまかれている。ネギとカモが冷や汗を浮かべる程度には強い圧力だ。にも関わらず、明日菜は何も感じない。

 怖くないのだ。
 目の前の少女が、自分に何かをしようと等、一切、思わない。

 それが分かる。

 「続けられるほど覚えている訳じゃないわ。でも、何か『魔法使い』みたいな人が、エヴァちゃん達に何かを叫んでいる光景だけは、覚えている。……ねえ、エヴァちゃんは」

 「知っているぞ。お前が知りたい事は、恐らく、ほぼ全てな」

 言葉と共に、威圧感が消える。蹈鞴を踏むネギに、席に座るように促す。

 「ボーヤ。明日菜も座ると良い。……丁度私も、言いたい事が有る」

 不敵な笑みを浮かべてそう言うと、クイ、と指を動かす。
 二人の目の前、整えられていた椅子が動き、座るのに丁度良い位置に惹かれた。
 音もたてず、手を触れた訳でもない。
 《人形遣い》エヴァンエジェリンの持つ糸による遠隔操作だった。

 「茶々丸。一時間目は?」

 有無を言わせず二人に着席を促した齢六百年の吸血鬼は、そのまま背後の従者に一声。

 「数学、だったと記憶をしていますが」

 「そうか。……先に行って、ルルーシュの奴に伝えておいてくれ。一時間目の授業は、個人的な用事で遅刻をする、とな」

 エヴァンジェリンの家に、不死の魔女共々居候をしているルルーシュ・ランペルージは、現在、麻帆良学園で数学教師をしている。大停電でも共犯関係を結んでいた。
 契約者で慣れているのか、エヴァンジェリンの無理難題も、渋々ながらも呑みこむ事が多い。

 「え……」

 「ちょ……!」

 驚く二人を尻目に、勝手に話を進めていく。

 「良いので?」

 「良い。どうせルルーシュの奴も、昨晩の騒動で疲れているし、準備も真っ当に出来ていまい。教科書も進まないだろう。ただプリントを消費する授業で眠っているよりは、遥かに有意義に使用出来る」

 「マスターとネギ先生は良いとしても、明日菜さんは授業に出ないのは、困るのでは?」

 「私が後で対策を取るよ。中学の数学など程度が知れているしな。真面目にやれば誰にでも出来る。あんなレベル」

 「了解いたしました。――では」

 主人とのやり取りの後、絡繰茶々丸はクラスへと去っていく。
 後に残されたのは、展開の速さに呆然とする二人と、不敵に笑う吸血鬼が一体だった。




     ●




 温かな湯気の立つコーヒーを一口飲む。

 「……もう、じゃあ、諦めて聞くけど」

 我に返って、取りあえず頭を抱えてみたが、目の前の少女が、今から学校に行く事を許してくれるとは思わなかった。
 成績が悪くとも真面目な女子中学生である明日菜にしてみれば、勝手に学校をさぼるのは良心がとがめるのだ。元々学費は学校持ちで、学園長や高畑先生に世話になっているのだし。

 しかし、エヴァンジェリンから話を聞く数少ない機会である事も事実だった。
 後で謝ろう、と思い。

 一息を付いた後に、真剣な表情で訊ねる。

 「エヴァちゃんは、私の知らない、私の過去を、知ってるのね?」

 「ああ。お前の生まれも、お前の過去も、お前の育っていく光景も、知っているな」

 返答は簡潔で、明白だった。

 「もう一つ。……私の見た夢の中に出て来たのは、エヴァちゃんで良いのね?」

 「ああ。そうだ」

 エヴァンジェリンの言葉は、淡々と事実を述べるに留まっている。
 恐らく、敢えて感情を見せない様にしているのだろう。

 「最後。――――エヴァちゃんが、私の事を“明日菜”って呼び捨てにし続けているのは、だから?」

 「そうだ」

 にや、と言う笑みの中に、やっぱり気が付くか、と言いたげな空気を宿して、彼女は頷いた。
 その雰囲気の中に、何時か感じ取った、優しさを見る。

 「お前も、薄々気が付き始めている様だから、言っておくが。……神楽坂、という名前は偽りでな。お前が麻帆良に入って来る時に準備をした名前なんだ。しかし、アスナは違う。お前の名前で、幼いお前が何時も呼ばれていた名前だ。……お前の本名を知る者が少ない以上、私が呼んでやるしか有るまい?」

 「……そう」

 明日菜は、その中に、確かにエヴァンジェリンの本音を感じた。

 正直に言えば、不安だった。自分の過去に何が有ったのかは、さっぱり解らない。思い出したくても思い出せない。そして、それを覆い隠して日々を生きるしか出来無かった。

 しかし――――決して表には出さなかったが、少なくとも、この目の前の同級生は、自分を知っている様だ。

 何かしらの理由が有る。
 そして、それは言えない程に重いらしい。
 厳しい彼女が、事実を付き付けない程に。

 「――――お礼を、言うべき?」

 明日菜の言葉に、まさか、と少女は返す。

 「言うべきは、礼の代わりに怨嗟の声だろうな? お前は私を責める権利が有る。如何して私の過去を教えてくれなかった。如何して私の記憶を封じていた……。ま、他にも色々有るだろう。普通は怒る所だ」

 其れだけの事を、私はお前達にしている、と付け加える。

 「……怒らないわよ」

 いや、怒れない、と言うべきか。

 彼女もそうだが、学園長も、タカミチ・T・高畑も、自分に対して隠し事をしている節が有るのは判っていた。自分の保護者が彼らで、そして何かと世話を焼いてくれている事を考えれば、その位は判る。
 確かに、色々と、思う所は有る。

 しかし、同時に――彼らが、自分を大事に思っている事も、分かるのだ。

 だから、感情が揺れはしない。
 ただ、そうか、と納得するだけだ。

 「質問はそれだけで良いのか?」

 「……色々と――――話してくれるの?」

 「質問に質問で返すのは、ルール違反、と言いたい所だが……。その通りだな」

 その言葉にも、やっぱりか、と明日菜は思った。

 別に彼女の事を知っている、と言う訳ではない。ただ、一緒のクラスで過ごして来た時から、なんとなく彼女の有り方が、分かる様な気がしているだけだ。

 自分から手を差し伸べる事は無く、しかし必ずその有り方を見続ける。
 他者の選択を責める事はしない。
 他者の有り方を貶す事はしない。
 その代わり、現実を自分自身で直視させる事だけは、徹底させる。

 「エヴァちゃん。意地悪だもんね。……教えてくれないもん」

 思わず、小さく笑みがこぼれた。

 「ああ、私は意地悪だぞ? 人から真実は、自分で知った真実より遥かに劣ると言うしな。――――私はな、明日菜。お前の人生を不幸にするつもりは無い。お前が逃げたいならば逃がしてやるし、守ってやることもできるだろうよ。ただ、私がそれをする為には――――お前は自力で、自分を知れと言うだけの話だ」

 多分、彼女は。
 昔から、そうだったのではないだろうか。
 自分が幼い頃、彼女と出会っていた事は事実だろう。
 もしかしたら、色々と世話を焼かれていたのかもしれない。
 その時の無意識の記憶、ではないだろうが、分かるのだ。
 きっと――彼女は自分を、厳しく、優しく、見ていてくれていたのだろうと。

 「……エヴァンジェリンさん」

 「何だ。ボーヤ?」

 ずっと背景に成っていたネギが、今度は声を懸けた。
 その瞳の中には、小さな炎が灯っている。

 「父さんとの関係を、教えてくれませんか?」




     ●




 場所が変わって、此処は3-Aの教室である。

 「さて、エヴァンジェリンさんと明日菜さんの二人は、所要によって欠席ですが」

 教壇の上に立ち、クラスを眺める委員長・雪広あやかである。

 「来週から私達は、京都・奈良へと修学旅行へ向かいます」

 教育に力を入れる麻帆良は、生徒の自主性を重んじる風紀がある。
 例えば、修学旅行の旅行先も、複数の候補を提示し、その中で生徒達が自主的に決める、と言う方針だ。
 勿論、生徒達の要望を聞き、それが“色々な条件”で実行可能だった場合、学園長から許可が下りる。
 問題児ばかりの3-Aであっても、それは同じ事だ。

 「皆さん、“ネギ先生の為に”京都・奈良を選んで下さって、非常に感謝しています」

 聞き様によっては、どの様にも取れる言葉を使用し、彼女は皆に言う。

 「準備は、済みましたか?」

 途端に上がる、元気の良い返事の声。
 色々と考えて京都・奈良を選んだ者も、何も知らずに京都・奈良を選んだ者も、混ざっている。
 しかし、楽しみな事には違いないのだ。

 「他のクラスが海外や沖縄・北海道等を選ぶ中、私達は京都・奈良という、非常にメジャーな場所を選択しました。海外からの留学生も多いですし、義務教育である以上、やはり古都に行くのが良い、というクラスでの総意ですが……」

 そこで、全員を見回して、告げる。

 「しかし、幾ら日本とは言え、旅行先では何が起きるのか、全く予想が出来ません。繰り返しますが……各々、“個人で”責任を自覚し、“入念なる準備”と、“いざという時の対処方法”を確認しておきましょう。――宜しいですわね?」

 返事は、やはり大きかった。



 3-Aの事を知らない人間が見れば、それは普通の中学校の光景にしか、見えなかっただろう。




     ●




 「……ナギとの関係か」

 「はい」

 明日菜とエヴァンジェリンの会話が一段落をした事を見て、今度は少年が割り込んだ。
 入れ替わる様に、明日菜は一歩引いた姿勢に成る。

 「まあ、ボーヤの勝ちでは有るから、答えられる範囲で答えてやろう。――――それで、何が知りたい」

 「その。停電前に聞きました。エヴァンジェリンさんは、父さんの事を、好いている訳では、無かったと、言っていましたよね?」

 「違うな」

 間違っているぞ、と、同居中の魔王っぽい雰囲気を身に纏って語る。
 ふん、と鼻を鳴らし、身を乗り出して目線を合わせながら。

 「ボーヤにはまだ解らんだろう。……私は『好きだなどと簡単な言葉では言えない』と言ったんだ。好きか嫌いかで言えば、好きが七で嫌いが三、と言ったところか? 恋愛的な意味で好いていたのか、少女の夢的に憧れていたのか、あるいは共に戦場を懸けた信頼か、あるいはその全てか……。簡単に言葉に出来ない感情が有った、と言ったんだ。奴への想いについて否定をした覚えは、毛頭無い」

 「…………」

 ネギは頭が良いが、如何せん、人生経験が不足していた。
 百戦錬磨のエヴァンジェリンの語る――『真実ではないが嘘でも無い』という理屈に、見事に引っ掛かったのも無理は無いだろう。

 「女性の感情を理解するには修行が足らんな」

 まだ十歳。いや、数えで十歳なので、実際は九歳だ。
 この麻帆良の土地で教師を行うのは、人生経験の意味も込められているから、子供としての未熟さは大目に見る。しかし、男女間の感覚は、もう少し頑張ってほしいと思う吸血鬼だった。

 「――で。他にも言いたい事が有る様だな。何を思いついた」

 明日菜とエヴァンジェリン。
 その会話の中で、何か琴線に触れる物が有ったようだ。
 それを、流石に目敏く捉えている。

 「……聞いていて思いました。明日菜さんは、エヴァンジェリンさんと昔に交流が有った。ならば、明日菜さんと父さんも、交流が有った。そして、今の僕は、明日菜さんと仮契約をしている」

 「……ああ」

 「――――妙に、整っているのは、偶然ですか?」

 疑っている訳ではない。ただ、知りたい、という感情が有るだけだ。
 全てが他者の掌の上、と言って、良い気分で居られる者は少ない。
 エヴァンジェリンの本音を、有る程度見抜いた少年だからこそ、疑いに成らないでいるのだ。

 「運命だろうな」

 冷めかけたコーヒーを一口飲むと、人間より遥かに長生きをしている少女は、口元を歪めた。

 「まあ、私は運命を『断定された物』と捉える事は嫌いだから、言い代えるが……。ボーヤが麻帆良に来た事は偶然ではないが、ボーヤの卒業証書に『日本で先生をやること』と出たのは世界の意志だ。ボーヤが神楽坂明日菜と出会った事は必然ではないが、ボーヤと明日菜が契約したのは、ボーヤ達の意志だ。確かに、お前達の過去や、此処に至るまでの過程に、私達が関わっている事は事実だが――――」

 まるで子供に言い聞かせるような口調で。

 「――――《赤き翼》の誰も。ボーヤと明日菜、お前達の歩みを、お膳立てするつもりは無いよ」

 そう語った。

 「……まあ、密かに助けはしているし、支えてはいる。だが――――その辺りの見極めは、上手い奴が多い。ナギの奴も多分、私達の事に文句は言わんだろう」

 消えたきり、姿を一切見せない、あの最強の男。
 自分で問題に蹴りを付けに行ったのだろうが、本当に馬鹿な奴だと思う。
 息子と明日菜。その二人を任された以上、自分の仕事を全うするだけだが――――それでも、思うのだ。
 自分じゃなくても良い。他の誰でも良いから、消える前に一言位、残して欲しかった、と。

 「今、奴が何処で何をしているのかは、分からんが。――――ま、生きてはいるだろうよ」

 その言葉に、少年が再度反応する。過去に聞きそびれた事を、聞く様な反応だった。

 「――――あの。如何して、そう思うんですか? 疑っている訳では無いですが。……やっぱり、信頼とか? ですか?」

 少年は、父の姿を見た事は、一度しか無い。
 村が悪魔に襲われた時ではない。
 杖を譲り受けた時だ。
 そして、その杖を渡してくれた相手が、本当に父親なのかすら、不明なのだ。

 それゆえに、彼は伝説でも有る父親を知ろうとしている。
 憧れや、羨望と共に、まず「知る」事から始まるのだ。

 「いや。もっと直接的な理由だ」

 言いながら、エヴァンジェリンは、懐から一枚のカードを取り出す。
 丈夫な台紙に、色彩豊かに記号や絵が表示された、契約の証。
 《仮契約》のカードだ。

 「あ、それ」

 「ああ。明日菜。お前も手に入れたか。これは私とナギの仮契約のカードだ。――今でも十分に使用出来る。使用出来るから、アイツは死んでいない、と言う事だ。単純だろう?」

 昨晩の夕方に、オコジョから説明を受けていた。詳しい理屈は不明だが、「主人」と「従者」の結びつきが強い場合、《仮契約》の証としてカードが出現するそうだ。

 納得する。

 カードが未だに機能しているから、ネギの父親は生きている。
 そして、ネギの父とエヴァンジェリンの絆は、強かったと言う事だ。

 「……やっぱり、エヴァンジェリンさん。本気じゃ無かった、んですね?」

 大きな効力を有する《巧みが作りし物(アーティファクト)》をエヴァンジェリンが有していた事を知って、少年はそう語る。戦いの場で使用されなかった事を見れば、まあ、そう思うのも無理は無いだろう。

 「いや。本気だったぞ? 殺意は無かったし、自分に制限を懸けた上での本気だったがな」

 「……そう、ですか」

 何やらショックを受けているが、今の少年と彼女の間には、其れほどの実力差が有った。

 実際、エヴァンジェリンはアーティファクト以外に、まだ『切り札』を複数抱えている。従者・茶々丸もそうだし、禁術『闇の魔法』も有している。言い換えれば、自分に大きく制限を付けて、殺意を除いて、その状態でやっとネギが、何とか“勝利条件を満たす事が出来る”レベル差なのだ。

 しかし、言いかえれば――その手加減が有っても、勝利した事は事実なのだ。
 態度は悪いが、自分の試練を越えたネギを、虐めながらも認めつつあることは、間違いない。

 ネギからの質問を、返しているのがその証拠だった。

 「今のエヴァンジェリンさんは、全体の六割から五割、の力でしたよね?」

 停電時の時は、完全に封印から解放されていた事を、思い出したのだろう。
 そんな発言をする。

 「何だ、気が付かないのか、ボーヤ?」

 くく、と得物を見つけた様な笑みで、エヴァンジェリンは笑った。

 確かに、二日前までは、彼女の力は全盛期の六割にも満たない実力だった。
 かつてナギに全てを封印されたが、友人達――アルトリアや、アルビレオや、遠坂凛や、イリヤスフィールの助力によって、何とか半分は、解放出来たのだ。

 しかし、今は、その状態ですら無い。




 ネギの麻帆良への来訪は、敵以上に、味方も動かしていた。

 その筆頭が、『魔法世界』の学術都市アリアドネーで教鞭を奮う、《赤き翼》の第七席・遠坂凛だ。

 英国で《ゲーティア》の首領、アディリシアから下着泥棒を敢行した、オコジョ。即ちアルベール・カモミールを釈放させて、保護観察の名目の元にネギに助言者として付けたのも彼女。

 《必要悪の教会》と交渉し、十万三千冊の魔導書『禁書目録』を護衛付きで派遣させたもの彼女だった。

 「イギリスからの客人と、アルトリアと私。更に、高町や、C.C.、果ては《闇》の眷属まで揃っているんだ。大体の事は出来る。例えば――完全なる、封印からの解放、もな?」

 刹那。
 ほんの一瞬だが、確かに、明日菜とネギは感じた。
 大停電で初めて知った、あのエヴァンジェリンの魔力。莫大な量の波動が、放出される。
 息を呑む二人に、くくく、と獰猛な瞳を見せて、彼女は笑った。






 「昨晩。全てが片付いた後、皆の力もあって、私はナギの封印から解放されたよ。……修学旅行前の心強い味方に、歓喜すると良い」






 その波動に驚いた『調停員』のレレナ・P・ツォルドルフが跳んできたり、散歩をしていたアルトリアが何かと思って飛んできたりするのだが、まあ、それは別のお話。






 その日の午後。

 少年は学園長から、修学旅行での任務を託される事となる。



[22521] 序章その三 ~鳴海歩とウォッチャーの場合~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/18 01:00


 ネギま・クロス31 第三章《修学旅行》編

 序章その三 ~鳴海歩とウォッチャーの場合~




 電話ばかりで会話をするのも何なので、久しぶりに車を運転して目的地に向かう事にした――――のは良いのだが。

 「……なんか、イライラするわね」

 高速道路を下りて、麻帆良へと向かう国道を抜けた所までは順調だったのだ。
 しかし、メインストリートの一本である麻帆良大橋は、何やら整備点検で通行止め。工事をしていた現場の人間には、ぐるっと回って他の入口から入って下さい、と言われる。仕方が無いから車を走らせ、何とか別の入口に到達したが、今度は其処から目的地までが面倒だった。

 まず、敷地が広い。大学部から小等部。その他の研究施設や宿泊施設。福利衛生施設。職員棟に売店。喫茶店。コンビニ。その他、雑貨店に嗜好品店。膨大な生徒を抱えるだけあって、地図が無ければ目的地に行く事すら難しい。
 そして、妙に迷い易いのだ。欧州風の街並みは、小さな路地が多い。ビルや近代的な建物の中に、古臭い物も混ざっているせいだろうか。生徒や教師など、この地で過ごしていれば感覚で生活出来るのだろうが、彼女は面会に来ただけだった。

 備え付けのカーナビも、敷地に入ってから妙に調子が悪い。街のあちこちに置かれている案内板に、警備員の詰め所等を利用して、何とか目的地へと向かっていく。
 結局、麻帆良学園女子中等部の近辺に来るだけで、予定より一時間以上も浪費してしまった。

 「全く……」

 言いながら、車を回す。
 目の前に見える優雅な建物が、きっと女子中等部の校舎だろう。
 竹内理緒からの話では、確か、目の前の通りをずっと駅の方に下って行った途中に有ると言っていたか。

 周囲に気を払いながら慎重に進めること、十分後。

 「……あれか」

 駅前のアクセサリーショップ《ブラウニー》。
 ようやっと目的地に、土屋キリエは辿り着いたのである。




     ●




 「あ、お久しぶりです」

 「ええ。アンタも元気そうね。結崎ひよの(仮)さん」

 近場の駐車場に車を止め、中に入った途端に、懐かしい声を聞く。

 「酷いですねぇ。仮にも生徒と監察官だった関係じゃないですか」

 「アンタが生徒だなんて、何の冗談よ。年齢不詳め」

 悪態を付きながらも、出されたコーヒーを呑む。このアクセショップは、小さな喫茶店も兼ねている。メニューは多くないが、値段と量がお得で、軽食もあり、女子生徒からは人気を誇っているそうだ。

 その席の一角に座る、スーツにコートの女性が、土屋キリエ。

 『刃の子供達(ブレードチルドレン)』達を繋ぐ監察官。通称をウォッチャーと呼ばれる存在である。
 《ブラウニー》の店主、結崎ひよのや、この建物に同居中の鳴海歩。あるいは麻帆良に通うチルドレン達とは顔見知りだ。過去に色々と、鳴海清孝の引き起こした事件に巻き込まれた。

 「それで。直接顔を見せた理由は?」

 言いながら、ひよのから陶器を受け取って口を付ける鳴海歩。
 眠そうな表情に、ラフな私服と言う格好だった。麻帆良の大学病院で体質治癒を促す傍ら、教鞭を取っていたと聞いたが、今日は授業が無いのだろうか。

 「昨日の騒動で音楽室周辺が破損しててな。危険だから、って事で臨時休校にしたんだよ。……誰だかは知らないが、屋根の上から人間大の塊を壁に叩きつけた、みたいな状態になってる」

 で? と不機嫌そうな顔(と言っても彼の場合はこれがデフォルトだが)で訊ねられ、キリエは息を吐いた。こういう嫌な部分は、流石は兄弟。よく似ている。

 「アイズから、アンタ宛てに連絡よ。聞きたい事も有ったし、丁度、こっちの方に来る用事が有った序に顔を出したわけ」

 ほれ、と懐から封筒に入った書類を渡す。
 郵送するよりも、直接に手渡した方が確実な内容だった。

 「……中身は?」

 その言葉に、周囲を伺う。一応、キリエの来訪と共に、『臨時閉店』という看板を出して貰ってあるが、安全に気を使うに越した事は無い。まあ、この店に入って来る相手は普通の女子学生が大半。

 普通じゃない学生の場合、裏通りから裏口に入り、そのまま地下の非合法店へと入る。つまり、此方も心配は無い、のだが……。

 「――大丈夫です。地下のお客さんも、理緒さんが応対してますから」

 「……そう。じゃあ、話すけれど」

 ひよのの事は一切、信用していないが、彼女の能力は折り紙つきだ。
 鳴海清孝が認めたと言う時点で、それ以上の保証は無い。

 「清孝が、西東天っていう男と手を組んだ事は知ってるわね? その西東天には、部下が居るのよ。名前を『十三階段』。何でも、数年前に一回、解散しかけたらしいけれど……。その時のメンバーの残りが、今でも手足の様に従っている、らしい。――――で、その何人かの動向、ってのが一つ」

 西東天。
 アメリカ・ヒューストンの『ER3』出身の、元学者。
 公的には死亡した、とされているが、そんなのこの世界では珍しくもなんともない。
 詳しい事は分からないが、あの鳴海清孝が接触する様な男だ。録な男で無い事と、その癖に異常な男なのだろうと言う事は分かる。そして、それが分かれば十分だ。

 「で、清孝自身の、ここ最近の動向を、探れるだけ探った奴が一つ。音楽家としての名声を利用して、秘密裏に旅行してるみたい。勿論、簡単には捕まらないんだけど」

 アイズの言葉を借りれば、捕まらない、と言うよりも、足が出ない、なのだそうだ。
 何処にいるかは分かる。表向きは何をしているのかも分かる。しかし、その裏で何をしているのかが、分からない。余り良い事ではなさそうだと言う事しか。

 「その他、色々と。ま、自分で確認して。――――割と危険な情報もあるみたいだしね」

 「……ようだな」

 封筒から取り出した書類を、手早く捲り、確認する。かなりの分量だ。しかも、入手が難しいレベルの情報も多い。
 背後から覗く結崎ひよのも、結構に細かく記された情報に、感心の声を上げていた。

 「……しかし、アイズ一人でこれだけを?」

 「いえ。何人か協力者を募った、って言ってたわね」

 「名前は?」

 以外と鋭い歩の声に、返事が割に愛用の手帳を取り出す。
 勿論、控えて有る。該当ページに記された名前を見つけ出して。

 「ん、――読むわよ?」

 「ああ」

 名前が記されていた、幾人かの名前を上げる。
 キリエの情報網を使用したとしても、正体が掴めない連中が多かったが――アイズが協力関係を結んでいると言う事は、其れなりに信用のおける相手なのだろう。幾人かには、所属組織も乗っている。

 テンポ良く、順番に、読む。

 「まず、九蓮内朱巳。所属は『統和機構』。コードネーム《金曜日の雨(レイン・オン・フライディ)》」

 「……いきなり凄いな。俺でも、何処かで聞いた事のある」

 「そうね。でも、割と信頼が置ける相手らしいわ。口調の端々にそんな雰囲気が有った」

 「……そうか」

 静かに反応を返す歩に、キリエは話を続行。

 「次。白峰サユカ。恐らく『カンパニー』と関係有り。吸血鬼っぽい」

 「――――どうやって接触したんだ?」

 「さあ? 嘘か本当か、旅行中に偶然関わった、とか言ってたわね。……彼女については、私の方から『カンパニー』に接触して、探っている所よ」

 「ああ、任せる」

 相変わらず、淡々としているが、これでも此方の話に興味を持っている事は分かる。
 伊達に数年来の付き合いでは無いのだ。彼の感情は読める。

 「最後。その白峰さんの友人だ、っていう“クイナ”っていう女性の人。こっちは、はっきりと吸血鬼」

 「本名じゃないな」

 「ええ。私もそう思う。何でも昔は小さな、対吸血鬼組織に属していたらしいわね。で、組織が壊滅後、難を逃れた彼女は世界を放浪しているらしいわ」

 まあ、設定だけならば、此方も余り珍しくは無いだろう。
 其処まで語って、キリエは手帳から顔を上げた。

 「ま、今上げた三人が、大体、アイズが接触している人物。後半の二人に、人間じゃ不味い領域を任せて、アイズと《金曜日の雨》で、政治・経済・学問の三領域を調べている、って感じね。勿論、清孝とか西東天の情報は、割と難しいみたいだけれど……」

 キリエは、アイズから言われた言葉を伝えることにした。

 「『多分、キヨタカからの接触は、アユムに直接行くだろう。アイツから直接、話を聞いてみろ』――――だってさ」

 「俺の所に顔を出したのは、そう言う理由か」

 「それも有るわね。――で、教えてくれない?」

 伊達に、長年彼らと付き合っている訳ではない。
 どの範囲までならば関わっても大丈夫なのかは、見極める事は出来る。
 それに、歩の場合――――キリエが正面から打算抜きで行けば、大抵の質問には答えてくれるだろう。
 それを、相手も理解している。

 「……分かった。まあ、程程にな」

 そんな風に、頷いてくれた。




     ●




 物語は、言うなれば一つの盤上で綴られる物である。




 それが、鳴海清孝の信じていた理念だった。
 自分は所詮、世界に操られる駒であり、対となる悪魔を殺す為だけの存在でしか無い。
 そして、悪魔から生まれた子供達も又、何れは消え行く運命から逃れる事は出来ない。
 かつて悪魔と呼ばれた男は、鳴海清孝が殺した。
 そして、彼を殺す為に、鳴海歩という存在を造り出した。


 しかし、その結果は、覆された。
 鳴海歩は、兄を殺す事は無く、物語を終わらせない道を選択した。
 盤上の駒を排除するのではない。
 盤をいくつも重ね、螺旋を築き、終着を遠ざけるのが、鳴海歩の選択だった。




 螺旋の物語。
 それは言うなれば、その物語が、終わらない事を意味している。
 世界と言う名の舞台で展開された、自分の物語が、途切れる事が無いと言う事実を、露わしている。
 それが、何処まで真実であるのかは、分からない。
 自分の物語は、確かに螺旋だろう。
 自分の物語が終わらない事は、鳴海歩が証明するだろう。




 ならば、他の物語は――――?




 終わりを齎すつもりは無い。
 自分は既に、敗北を喫した人間だ。
 しかし、無いと言われた終わりに、酷く興味が惹かれている存在が居る事も、知っていた。
 故に。




 『終わりの無い物語』を認めた鳴海清孝は。
 『終わりの物語』を望む、人類最悪の遊び人・西東天と接触をした。




     ●




 「凄まじく適当に、簡単に言えば、そう言う事らしい。……兄貴は、俺を巻き込むつもりは無いらしい。麻帆良に入れたのも、関わらせる、というよりも、最後まで見物して貰いたい、ようだしな」

 「悪趣味ね」

 「ああ」

 キリエの言葉に、全くだ、と同意を返す。
 背後で静かにしていた結崎ひよのも、其処だけは頷いていた。

 「ただ、確かに……今のところ、俺に回って来る面倒事は、多く無い。危険さが無いわけじゃないが、困難という訳でも無い。体の調子も悪くは無いし、仕事も……退屈はしない。だから、まあ、此処に居てやってるわけだ」

 「……そ、――――う?」

 キリエは一瞬、目を疑った。
 常に不機嫌そうな顔がデフォルトの歩が、苦笑では有るが、浮かべていたからだ。
 如何やら、面倒だ、と言いながらも――――日々を楽しく過ごしてはいるらしい。
 最初は、彼に教師など可能なのか、とも思ったが、以外と上手くやれているのだろう。

 「……まあ、良いわ。あちらの動きや、世界の動きは、私が何とか、抑えて教える事にする。アンタは平和に過ごしなさい。体の休憩がてらね。……さて、私は帰るわね」

 其処まで言って切りが良く成ったので、席から立った。
 珍しい自分の励ましの言葉に、変な顔をしていた鳴海歩だったが。

 「良いのか? 浅月香介とか高町亮子とかも時期に顔を出す。顔くらい見せて行ったらどうだ」

 そんな風に、返す。
 ますます珍しい。気遣う言葉が出る等、昔は滅多に無い事だったのに。
 これも、変化と言う奴だろうか。
 本質は其のままにせよ、抱えていた棘が、明らかに丸く成っている。
 まあ、悪い変化では無いので、何も言わない。

 「良いわ。鳴海歩。アンタみたいな人間の、変わった顔が見れただけで十分。あの子達に、元気でやんなさい、って伝えといて」

 ひらひら、と手を振って、コートを片手に足を出口に向ける。
 実はこの後も、色々と仕事が重なっているのだ。無駄な時間を過ごしはしなかったが、余計な無駄を消費する事は良くない。切り替えは大切だ。
 煙草を口に加えながら、店から出ようとして――――。

 「あ、そうだ。最後に一つだけ」

 もう一つだけ、聞き損ねていた情報が有った。
 思い出して良かった、と思いながら、振り向いて、尋ねる。




 「鳴海歩、それに結崎ひよの。アンタら――――《パーフェクト・キング》って、知ってる?」




 「……名前だけなら」

 「私もですね」

 そんな言葉が返ってきた。
 キリエの視線に答える様に、簡単な説明が、歩から流れる。

 「兄貴の友人の、果須田祐杜――――まあ、もう死んでるんだが――――っていう天才学者が唱えた、人類の完成品の事だ。生物学的に言えば、人類の進化の過程で発生した、突然変異体の親玉、みたいなものらしいな」

 続けて、ひよのも告げる。

 「何でも、その才能ゆえに、『ER3』からも勧誘されているそうです。《七愚人》の座を提供するから来てくれ、という言葉にも耳を貸さず、勝手に放浪しているらしいですが……。その人が何か?」

 「ええ。……今、日本にいるらしいわ」

 軽く肩を竦めて。

 「清孝の奴、彼女を“物語”に勧誘したみたい。……注意しなさい」

 そう言って、彼女は店を出た。






 パーフェクト・キング。
 直訳すれば、完全なる王。
 人間の完成品にして、到達点たる存在。
 


 個体名を、鈴藤小槙。
 彼女は今、京都にいるらしい。




 土屋キリエは、麻帆良から敷地外へと、次なる仕事の為に車を走らせながら、思った。


 まだまだ、京都での物語の登場人物は、増えそうだ、と。



[22521] 序章その四 ~《グループ》の場合~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/20 00:28


 ネギま・クロス31 第三章《修学旅行》編

 序章その四 ~《グループ》の場合~




 少し話を聞きたい? ……ああ、三日位前に行った、良く分からん遺跡の事か。遺跡と言うよりかは、遺跡にカモフラージュされた何かの設備、っぽかったな。大方、大戦期に使用された帝国か連合の拠点の一つだと思うんだが……。あ、それでも良いって?

 大した物も無かったから、そんなに面白い話でも無いと思うけどな。あ、でも気が付けなかっただけの可能性も有るのか。もう一回行けば、何か見つかるかもしれないな。

 実際、俺達の後に遺跡に向かった奴らは、何か見つけたみたいだし。

 ……ああ、その話を聞きたいのか?

 ……分かった。まあ、じゃあ今日は実入りも良かったし、話してやるよ。

 あ、マスター。酒追加で。

 一杯は俺のおごりって事で頼む。



     ●



 小さな酒場で会話をする二人の男が居る。

 片方は、如何にも冒険慣れしているといった雰囲気の青年。
 片方は、ローブに身を包んだ、如何にも魔法使い、といった雰囲気の青年だ。

 酔って気分良く話す青年の言葉を、静かに、しかし確実に、もう一人の青年は聞いている。



     ●



 まず簡単に、今回の行動過程を話すか。

 『魔法世界』の北方は、小さな村が点在する自然豊かな地方だ。住人達は皆、自然の中で生きている。勿論、野生の魔獣を初め危険は多いが、住めば都、っていう言葉の通り、以外と人口も多いんだ。

 今回、俺達が足を踏み入れたのは、そんな一地方に隠されていた、遺跡と思しき建築物だった。

 一見すれば草木に覆われた石山だったんだが、草木の配置が作為的だ、って情報をメンバーの一人が得た。それで、岩山に見せかけた遺跡じゃないか、と疑ってみたところ、どうやら、本当に隠された遺跡らしい、――――って訳だ。遠目で確認して、核心を持った。

 周辺の村に聞き込みをしてみたんだが、詳しい事は不明だった。と言うのもだ。大戦争の檻に『魔神』とかいうのが暴れまわった影響で、周辺の地形や生態系が狂ってしまって、詳しい事は不明だったからだ。

 大きめの竜族でさえ、語られた程にデカイ被害は出せない。だから、本物の『魔神』っていう存在には、俺は半信半疑なんだが……まあ、要するに大戦争の混乱で、情報が消えちまった、ってことなんだろうな。で、知っていた古参の人間も、年月と共に消えて行ってしまった、と。

 村自体は大戦前より存在していたみたいだが、生態系の崩壊や地形変化もあって、幾つかの集落と合併してしまっていた。そして、既に廃村となった土地から少し言った所に、例の遺跡が有ったんだ。

 幸いなことに、合併したお陰か、其れなりに大きめの集落になっていてな。旅行者とか、俺達みたいな冒険者達が、時々利用する規模の村だった。村人たちも、慣れっこ、って雰囲気だった。

 俺達は、集落に拠点を構えて、何日かを懸けて周辺情報を集めた。遺跡の内部は不明にせよ、危険な生物や、役に立つ動植物の確認は大事だからな。そうやって準備をした。情報が不足したままで活動する事も、この世界じゃ結構多い。とはいっても、生存確率はなるべく上げるのが筋ってもんだ。

 集落に拠点を構えて、……確か、二日後か。一通りの情報を集め終わったんで、取りあえずマッピングも兼ねて遺跡までのルートを確保する事にした。
 遺跡までは、歩いて二時間、懸からない位だった。直線距離にすれば其れほどでもないんだが、地面の高低差が大きかったんだ。大きく抉れたり、明らかに自然災害でもこうはならない、っていう痕跡が有ったりで――戦争の爪痕、って奴なんだろうな。

 途中で休憩を挟みつつ、何時間か道を行ったり来たりを繰り返して、遺跡に到達した。

 で、到達してみて、俺達が見ていた物は、遺跡じゃない事に気が付いたんだ。

 いや、正確にいえば――――遺跡だったが、遺跡で無く成っていた、と言うべきかな。



 岩山と雑木に覆われた遺跡の入口には、認証カードを利用した警備システムが付いていたんだ。



 最初は、多分、本当に古代の遺跡だったんだと思う。ただ、それを誰かが利用して、一つの施設に造り変えていたんだ。元々、見つけ難い場所に築かれていた遺跡を誰かが発見して、其処に機材とかを運びこんで、使用してたんだろう。

 周囲に人の気配は無く、打ち棄てられてから随分と時間が経っていたようだった。警備システム自体も、とっくに沈黙していた。自然の遺跡を利用した上での設備だ、って解って、正直、俺達は落胆した。

 ただ、内部に何も無い、とも思えなかった。……というか、そんな風に思う事で、自分達を慰めたんだけどな。結局その日は、村に戻って、今後を考える、って事で落ち着いた。

 苦労して目的地に着いたが、骨折り損に成るかもしれない……って事は、宝探しには良く有る事だ。まあ、互いに慰めつつ、歩きやすい道を探して村まで戻ったんだ。

 村に到着した俺達は――――其処で、別の集団が、やって来た事を知った。




     ●




 「別の集団、ね」

 「……お、反応したね」

 カウンター席で隣り合った赤毛の男が反応した事に、クレイグ・コールドウェルは気が付く。

 自分達の話を聞かせて欲しい、と言われて困惑したのは最初の事。

 この目の前の男が、如何やら結構な実力者である事と、以外と修羅場を潜っている事は、話している内に把握出来た。

 訊ねてみたところ、自分達が足を踏み入れた遺跡の一連の情報を売って欲しい、と言う事だった。

 自分達のパーティーは明日の午後にはこの地を経つ。そして、目ぼしい物は確保出来ている。

 ならば良いか、と言う事で、こうして酒場に並びつつ、話をしているのだった。

 「……クレイグ。君の話は面白い。――続きを頼む」

 「ああ。それじゃ、そいつらの話から、だな」



     ●



 正直言って、変な奴らだった。

 人数は六人。男女の比率は、男が三人、女が三人。その内、年端もいかない少女が一人。旅行者には見えなかったし、かといって熟練の冒険者にも見えなかった。その癖、妙に実力派の雰囲気を有していた。

 会話から聞くに、如何も、俺達が向かった遺跡が目的地だったらしい。

 何の用事が有ったのかは知らないけどな、流石に。

 リーダーは……金髪に派手な格好の男。笑顔の優男が参謀っぽかったな。で、サポート役が、やさぐれた雰囲気の女。それに、年端もいかないちっこい女が一人。で、多分、その幼女の護衛として、これまた若い、茶髪の女が付いていた。

 そして戦闘の中心となるだろう男が、白い――貧弱そうな学生風の男だった。他に適役がいなかったから、そう辺りを付けたんだ。派手な男も優男も、不良風の女も、皆、強そうな感じはしたんだが……そんな中で、妙に口調と態度が悪かった。だから、実力は有るんだと思った。

 それに、色々言いつつも、白髪の男は、仲間内では信頼されていたようだな。さっき言った幼女が、妙に懐いていたから、それが分かったんだ。

 年齢は皆若く、パーティーとしては違和感が有る。

 装備や武器なんかはかなりの物だが、衣裳や雰囲気が、俺達とは随分違っていた。

 なんつーか……アレだ。学校とかの、サークルやクラブみたいな雰囲気だったんだ。最も、外見に似合わず実力は確からしくって、村まで普通に到達していたから、最後は信用された。風変わりな冒険者の一向だな、って事で納得したらしい。

 連中が悪人には見えなかったし、資金も豊富で村の中でもかなり良い値段の部屋を、取ったからな。

 そうこうしている内に、その日は太陽が沈んでいった。

 ――――さて、困ったのは俺達だ。

 連中が、俺達の探った遺跡に向かうのは間違いない。

 この期に及んで、自分達の獲物を横取りされるのは嫌だった。

 無論、中にどれ程の宝が眠っているかは分からない。人の手が入っている以上、遺跡本来の宝は手に入りにくいかもしれないが――――その分、危険は少ないとも言える。

 夜間に相談した結果、俺達は朝一番で出発して、内部を探索して、一日で探索を終える事に決めた。

 外見から内部面積を大雑把に計った結果、一日有れば一通り見て回る事が出来る核心を得た、と言うのが一つ。で、やってきた別集団の奴らも、最低でも明日一日は準備に使用するだろうと踏んでの事だった。

 夕食時、離れたテーブルで、奴らの会話を聞いていた訳だが……。

 なんというか、本当に、変な奴らだったよ。

 友情って言うには、互いに許し合う空気が無かった。

 一時の契約って言うには、息が合いすぎていた。

 チームとしてのまとまりは有るくせに、互いに己の目的の為に協力しあっているだけに見えた。

 そしてその中に、天真爛漫な少女が同行してるんだ。

 俺じゃなくても気になるだろうよ。最も、アイシャやリンなんかは、少女の可愛さに注目していたみたいだけどな。



     ●



 「奴らの正体は解らん。ただ、宿泊名簿には《グループ》って記入してあったんだよ。まあ、変わったチーム名だと思ったけど、それは気にしても仕方が無い」

 ぐい、と大きめの硝子コップに満たされた酒を呑み乾して、クレイグはふう、と一息を付く。

 赤い顔に、徐々に焦点がぶれ始めた瞳。随分と酔っ払っている様だ。

 「……楽しそうだね」

 「ああ。結局、遺跡でお宝も発見出来たしなあ。期待、以上だったんだ」

 「それで。……折角だ。その集団に関して、もう少し、話してくれないか?」

 青年の言葉に、気分が高揚しているクレイグは、ああ、と頷いた。

 目の前の魔術師を信用している訳ではない。しかし、今は酒場で、周囲には人の気配が有る。目の前のマスターも通常運転だ。何かしらの危害を受ける可能性は低かった。

 「ああ。良いぞ。……と言っても、そいつらとそれ以上、関わらなかったんだが……」

 クレイグは、話を続行する。



     ●




 さて、朝早くに村を出発して、意気軒昂と遺跡に乗り込んだ俺達だった。マッピングの準備や事前調査のお陰で、意外と簡単に入口まで来れたんだ。

 認証扉の先は、大分荒れてはいたが、それでも人間が生活していた痕跡が有った。天井こそ岩盤だったが、地面は成らされていたし、壁には機械のコードが走っていた。勿論、既に沈黙していたけどな。

 入口から入ってすぐの所に、警備員か見張りの詰め所が有った。其処から、内部の地図を拝借してみた。遺跡の半分は開発済み。残りの半分は、まだ開発途中、と書かれていた。地図の表記が二十年以上昔の物だったから、既に開発されている可能性もあった。けれど、取りあえず俺達は、未開発と成っている部分まで足を進めることにした。

 遺跡の、開発されていた部分は――――なんというか、本格的な造りだった。二十年は経過している筈なんだが、劣化も少ないし、今でも整備すれば十分に使用可能な施設を残していた。大戦の渦中に建造された物なんだろうが、資金もきっと豊富に掛けられたんだろう。

 ただ、奇妙な事に、帝国と連合の、どちらの所属だったのかは今一、掴めなかった。例えば、帝国と連合の国旗が両方並んでいたり、その癖、どちらの国旗も扱いがぞんざいだったりした。

 連合の雰囲気も有れば、帝国の雰囲気も有る。……まるで、どちらにも所属して、しかし所属をしていない、そんな雰囲気が感じ取れたんだ。

 まあ、俺達トレジャーハンターには、瑣末なことだったから、余り気にしないで進んで行ったんだ。

 内部を歩いて、十分……位、だったか。

 奥に奥にと足を進めるほど、施設の中も徐々に荒れ始めた。床も舗装されない。壁のケーブルも少ない。天井から下がる灯も、粗末な物に成って行った。

 地図の通りに足を進めていた俺達の先に、一つの看板が見えて来たんだ。

 『此れより先、未開発。資材置き場や倉庫を兼ねる。小型の魔獣も確認されている。入る際は必ず複数で行動し、十分に注意する事』

 古ぼけて読みにくかったが、そんな風に、警告看板には書いてあった。掠れて見えない部分も有ったから大体の訳だが、そんなに間違っている内容では無いと思う。

 遺跡の深部、って事で俺達は俄然張り切った。

 其処からが、本格的な冒険の始まりだった、って訳だ。




 「いや、魔術師さん。アンタが遺跡に行くんなら、ちょっとアドバイスをしてやるよ。まず魔獣。中に住みついているのは、泥から進化した様な魔獣が大半だ。口に牙だけが映えている感じの、簡単に吹っ飛ばせる奴。で、それ以外には殆どいない……ああ、一体だけ、蜘蛛っぽいのが居た。リン曰く“禍蜘蛛”とか言う種族で、昆虫系統。単純な仕組みのお陰で、かなり昔から居る。人間も捕食するらしい」

 「……へえ」

 「――――ま、そんな奴らも、俺とクリスティンの二人で何とか出来た。遺跡に有りがちな、期待した宝物は少なかった。が、その分、二十年前の戦争備品の色々を回収出来たのも良かった。武器や弾薬は旧式だったんだが、今では入手が難しい希少金属の装飾品とか、年代物の魔放道具とか、掘り出し物も多かった。まあ、俺達の前にも何人か来た奴らが居たらしくて、既に荒らされた部屋も有ったんだが、それでも、まだ完全に踏破されてる訳じゃない。最奥部まで頑張れば、何かあるかもな。俺らは魔獣のレベル的に危なそうだったから、帰って来たんだが……」

 酔っ払った影響で、話の脈絡が無くなってきたクレイグに、青年は何も言わない。唯静かに、話を聞いているだけだ。

 「成る程。それで、この街に、と」

 「そうだ。品物の買い取りと、山分け。それに相場の確認も兼ねて、何日か滞在して、今日が最終日、って訳だな。明日は別の街へと出発だ」

 「……羨ましいね。僕は、役所勤めだ。――ああ、そうだ。それで、話は終わりかい? 僕としては、君達の後に来たっていう集団の情報も、欲しいんだけど」

 「何だ、兄さん裏の人間なのか? ……まあ良いか。相応の料金は貰ってるし。――俺達の後に村に来た《グループ》とか言う奴ら。あいつらの事だな?」

 「そうだ」




 俺達の中で、あの集団に一番接近したのは、多分、俺だと思う。

 遺跡の内部を探索している内に、途中で、情けない事に罠に引っ掛かった。

 遺跡からの帰り道で気を抜いていたつもりは無いんだが……重量の関係で動くタイプの罠だった。侵入者の帰還を防ぐ為のトラップだったんだ。目の前の道が崩れて、その時、俺は運が悪い事に――他の三人と分断される事に成った。

 ただ、幸か不幸か、帰りの方向は分かっていた。それに、最初に手に入れた地図にも、出口が書いてあったんだ。それに、罠が有るってことは、設置した奴らが抜ける為の出入り口も何処かに有るってことだからな。余り困りはしなかった。

 アイシャは俺を魔法で運ぼうとしたんだが、道中で疲労も重なっていたし、それに遺跡内部に何らかの妨害装置があったようでな。攻撃魔法の威力も低下したんだ。箒での運搬は危険だった。

 で、遺跡の出口で会おう、っていう約束をして、俺は一人で出口へ向かったんだよ。

 ――――その時だったな。

 俺が、あの《グループ》っていう連中に会ったのは。いや、遭遇した、っていうのも変か。俺は遠目にあいつらを見ただけだし、奴らも気が付いてはいなかった、と思う。

 最初に話声が聞こえて、其処で俺は足音を殺して、様子を伺う事にしたんだ。これでも気配を殺す事くらいは出来るしな。折よく、壁に罅が有ったんで、其処から覗く様にして、奴らを見たんだ。

 居たのはその内の三人だけ――――やさぐれた女と、金髪の派手な奴と、白いのだったけどな。

 驚くべき事に、俺達が何日か消費して安全に辿り着いた遺跡までの道中を、奴らは簡単に踏破していたらしかった。いや、本当に踏破していたのかはわからん。もしかしたら転位術の様な物を使用したのかもしれない。しかし、奴らは疲労も少なく、汗も殆ど流していなかった。

 其れだけで、奴らの実力は分かったよ。

 ……俺が一人で向かっていた出口は、施設の幹部とかが使用する場所だったらしい。妙に整備されていて、僅かだが動力反応もあった。もっとも、気が付いた所で手を出せる程、簡単な場所にも、見えなかったけどな。

 三人は、壁の周りを適当に調べていた。で、白いのが壁に手を当てて――何かをしたんだろう。

 何をしたかは分からない。

 ただ、隠されていた扉が、一気に開いた、事だけは分かった。

 巧妙に隠されていた壁が、まるで、何か大きな力を受けた様に、開いたんだ。

 息を呑む俺に気が付かず、そして、開いた扉の中に、三人は消えて行った。多分、扉の先には――階段があって、地下空間に通じていたんだろう。

 ご丁寧に、扉を閉めて行った。五分静かに待機して、連中が戻って来る気配が無い事を確認して、俺は素早く遺跡の外へと抜け出た……って訳だ。

 通り過ぎる一瞬、壁を確認してみたが、俺の目にも隠し扉が有るなんて見えなかったな。

 こりゃ、いよいよもって危なそうだ、って勘が騒ぐもんで、とっとと尻尾を巻いて逃げた、って訳だ。

 連中が俺に危害を加えるとも思わなかったが、だからって好き好んで藪を突く趣味は無いよ。



     ●



 「……それで。其処まで解っていて、何故、僕に、その話を?」

 「兄さん、俺に前払いで料金を払ってくれたしな。俺に危害を加えるつもりは無いってことだ」

 「――――確かにそうだね。……それで、連中の名前は分かるかい?」

 「いや。殆ど分かんないな。なんか聞きなれない発音だったし。……白い奴。そいつの名前だけ、他と印象が違ったんだ。えと……なんか名前っぽく無い事は、覚えてるんだけどな」

 「もしかして《一方通行(アクセラレータ)》かな?」

 「そう。それだ。確かそんな風に、呼んでた。…………アレ? なんでお前、その名前」

 「有難う。Mrクレイグ。……とても有益な情報だった」






 ぽう、と、ルーン文字で刻まれたカードから、赤い炎が立ち上った。






 「――――っ ! ――――っと! 起き、さ……――起きなさいってば!」

 「んあ!?」

 突如感じた衝撃に、彼は目を開ける。

 目を開ければ、其処には昨晩酒を飲んでいた木目の美しいカウンターと、見慣れた仕事仲間の顔。

 そして、店の外に見えるのは清々しい朝の陽ざし。

 「クレイグ。貴方、昨晩ずっと飲んでたの?」

 アイシャ・コリエルの言葉に、頭を起こす。
 途端、飲み過ぎを実感した。頭が痛い。二日酔いだ。

 「……あー」

 何やら、記憶が曖昧だった。

 確か、遺跡から帰って来て、戦利品と利益を分け合って、得た金で宴会をして――――。
 その後で、もう少し飲もうとこの酒場に入って――――。

 それで……。

 それ、で。

 ……どうしたんだっけか。

 寝ぼけているのか、意識がはっきりとしない。

 誰かと話をした様な気が――――。

 そうだ。確か、偶然隣に座った男に、今回の武勇伝を、酔った勢いで語って……。

 それで、最後は眠ってしまったんだ。

 記憶は曖昧だが、そうやって繋がっている。

 何も違和感は無い。

 『面白い話のお礼に、此処の料金は払っておこう。お釣りはマスターから受け取ってくれ』

 そんな声を聞いた気もする。

 「クレイグ。聞いてるの?」

 「ああ。……すまん、起きる」

 言いながら、目を瞬かせて立ち上がる。今から急いで宿に帰って、せめてシャワーと着替え位は済ませたい。一晩中飲んで、しかもカウンターで寝ていたお陰で、随分と節々が痛んだ。

 立ち上がって、店の外に出る。お代は本当に払われていたようだった。

 今度会った時は、礼を言おう、と思いながら――其処で、クレイグは気が付いた。

 名前を知らない。

 外見は覚えている。魔術師風の……赤い髪の、目の下に入れ墨をした、煙草を吸う青年。

 しかし、名前を聞いた気もするのだが……覚えていない。
 参ったな、と思いながらも、仲間に手を引かれて、クレイグは宿へと歩いて行った。



     ●



 そんな彼を見下ろす影が有る。

 影は二つ。

 「ご苦労さまでした、ステイル。――――首尾は」

 背後から声を懸ける同僚に、魔術師は答えた。

 「ああ。言われた通り、完全に記憶を消して来たよ。彼らは遺跡に潜り、適当な得物を見つける事が出来た。そして、“誰とも会わなかった”。……そういう風に、真実をすり替えて置いた」

 ふう、と煙草の煙を吐き出して、ステイル・マグヌスは答える。

 あのクレイグという男が、チームを含めた誰にも、遺跡で出会った連中について、話していなかったのが幸いだった。いや、恐らく彼らがやって来た事は話したのだろう。

 しかし『彼らが地下に潜って行った』事は、教えていなかったようだ。

 これは幸運だった。別に話されて困る情報でもないが、一応、手は打っておくべき情報が、彼らの先に合ったし、下手に表に出ればセンセーションを巻き起こしかねない情報が地下に隠れていたからだ。

 「土御門とその友人達が遺跡に行ったこと。そして、内部を探索したこと。そんな事は些細な情報だ。地下に行ったことも――別に隠すまでも無い。……けれど、彼らが地下に行って見つけた“情報”に関しては、門外不出だ。下手に地下の存在を気が付かれて、腕ききに乗り込まれても困る」

 「ええ」

 だから、ステイルは後始末にやって来たのだ。

 土御門達《グループ》は、クレイグ・コールドウェルの存在に気が付いていた。

 けれども、彼の記憶を消せる人間はいなかったし、下手に手を出しても余計に警戒心を煽るだけだ。

 だから、知らないふりをしたのである。

 「……それで。やっぱり遺跡と言うのは」

 「ええ。《完全なる世界》の、過去の拠点だった用です。――完全に沈黙していた
表と違い、地下空間に限って言えば、暫く前まで稼働していた可能性も有る、との事。……しかも」

 「しかも?」

 「土御門の言葉では――正直、かなり危険な設備が、地下に存在したそうです」
 私は詳しい事を知りませんが……、と前置きをした上で、神裂火熾は語る。

 「何でも、『学園都市』の様な、人工的に人間を生む設備だった、と。――それが科学では無く、魔法的なシステムも使用して動いている、と言っていました」

 「……へえ」

 それは、余り宜しく無い情報だ。

 確か『学園都市』ではクローンの製造は、武器を持って兵隊として育成させるまで、三か月だった筈だ。人工的に知識を上付け、急速に成長させる。

 その結果が、世界に散らばる御坂シスターズだった。

 剣呑な瞳に成るステイルに、神裂は内心の感情を出す事無く冷静に伝える。

 「処分された情報も多かったようですが、『学園都市』最強が、データを集めて組み合わせて再構成して、何とか形にはしたそうです。――かつての名を『第××支部』。計画統括における最高責任者の名は、《完全なる世界》幹部のプレシア・テスタロッサ」

 そして――――。


 「地下で動いていた人工培養施設を含む、一連の計画。その名を……『プロジェクト・フェイト』。そう言うようです」








 異なる世界で、かつてその計画が実行された事を、彼女達が知る由も無い。

 《完全なる世界》は、徐々に世界を巡っている。





[22521] 第三部《修学旅行編》 その一(後編)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/10/23 22:45


 ネギま・クロス31

 第三章《修学旅行》編 その一(後編)




 エヴァンジェリンさんから、父さん達の話を聞いた僕と明日菜さんは、学校に向かった。多少遅れても、今からならば二時間目の授業に間に合うだろう。

 自分の封印解放で、少しテンションが高いエヴァンジェリンさんは、久しぶりに外出をするそうだ。魔力に驚いて跳んで来たアルトリアさん(彼女とも久しぶりに挨拶をした)と一緒に、歩いて行った。
 また学校で、と挨拶をして別れた僕達は、校舎へ向かっている。

 「ネギ。さっきの金髪の女の人は、知り合い?」

 明日菜さんの質問に、返事を返す。

 「はい。父さんの仲間だった人で、アルトリアさんです。小さい頃から僕に会いに来てくれて、タカミチと同じくらいに仲が良いんです。……カモ君は、少し苦手にしていますけど」

 昔、カモ君は、アルトリアさんの夕飯に成りかけた事が有る。
 罠に掛かっていたカモ君が無事だったのは、僕が助けたからに他ならない。
 ……あの時、助けて置いて良かった。

 「それで、アルトリアさんが、何か?」

 「ううん。何処か、見覚えが有ったから。――エヴァちゃんの話では、私はネギのお父さんと関わりが有るみたいだし、アルトリアさんとも昔に出会っているのかも」

 「……あるかも、しれないですね」

 正直、明日菜さんの事については、本当に驚いた。

 明日菜さんが、父さん達と出会っていた事。
 その小さな頃の記憶が、父さん達の戦いに関わっていた事。
 そして、エヴァンジェリンさんが、明日菜さんを常に見守っていた事。

 僕の事だけでなく、彼女の事も有ったからこそ、エヴァンジェリンさんは、停電での戦いで、幾度と無く僕に覚悟を解いたのだろう。

 「――ネギ。私ね、エヴァちゃんに、停電前に、言われたんだ」

 明日菜さんは、何処か遠い目をして語った。

 「お前の人生だ。お前が決めろ。――その選択を無かった事にするな。間違えても良い。後悔しても良い。けれど、後ろに下がる事だけはするな、って」

 格好を付けすぎよね、と、明日菜さんは笑いながら言った。
 その意味は、今ならば良く分かる。
 踏み入れるのならば覚悟を持てよ、と彼女は言った。
 それは、戦う事だとか、傷つく事だとか、そういう事に対しての覚悟を持つ事では無い。
 この先、自分に襲い掛かる事象から、目を反らすなと言う事だ。

 「……不器用よね、エヴァちゃんは」

 泣きそうな、けれどもとても温かい感情を、其処には浮かべていた。
 簡潔な、陳腐な言葉で言うのならば――きっとそれは、愛されていた、という事実なのだろう。
 そして、僕を見る。

 「ネギ。アンタは、如何、思った?」

 「……優しい人だと」

 そう思った。
 彼女にされた事に対して、負の想いは湧いてこない。
 分かるからだ。
 優しい事と甘い事は違う、と言う事が。
 昔、ネカネお姉ちゃんに対して、アルトリアさんが短く告げた言葉だった。

 「やり方は厳しいですけれど。エヴァンジェリンさんは――――本当は、凄く、優しい人なんだと」

 「まあ、そうなんでしょうね」

 本当に、と頷きながら、明日菜さんは軽く息を吐く。
 何か、自分の重荷を確認した様な、そんな態度だった。

 「これから、きっと。大変ね」

 「はい」

 何に対してなのかは、解らない。
 けれども、停電で出会った、あのフェイトという少年の事も有る。

 「……ネギ。私は、貴方のパートナーよ。何よりも、私が、其れを選んだ。――まだ、完全に自分と向き合える訳じゃない。きっと、辛い事が有る。苦しい事も有る。……でも、ネギ。貴方の傍にいれば、きっと自分も成長できるから。……だから、これからも」

 にこ、と、思わず僕が固まる様な、燦爛として笑顔で、彼女は言った。

 「宜しく」

 はい、と、手が差し出された。
 少し、その顔に見とれてしまったけれども、僕は、明日菜さんの目を見て、握り返す。

 「はい!」

 彼女に何が有るのかは分からない。
 けれども、彼女の人生は、僕と、大きく繋がっているのだろう。
 彼女との関係は、まだ仮初の物でしか無い。
 関係が、どんな風に成るのかも、全然分からない。
 エヴァンジェリンさんに言われた通り、僕は未熟で、まだまだ学ぶべきことが多いのだろう。
 けれども、彼女とこうして、信頼関係を結べたことは、良い事だと思った。




 学校に行った僕は、学園長から修学旅行の話を聞く事となる。




     ●




 「エヴァンジェリン。余り魔力を周囲に放出する物では有りません。幾ら貴方が実力が高く、強いとはいえ、周囲からの悪意が皆無で無い事は承知の筈です」

 「分かっている。……まだ加減が効かなくてな。普段の通りに生活すると、余分に魔力が散ってしまうんだ。気を付けよう」

 街中を歩きながら、会話をする二人がいる。

 アルトリア・E・ペンドラゴン。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 『魔法世界』の大戦期、共に肩を並べて戦った《赤き翼》の戦友同士である。

 「お願いしますね。私としても、友人が悪意の籠った眼で見られる事は、良い気分では有りませんから」

 「……ああ。まあ、その言葉には感謝しよう」

 エヴァンジェリンの封印は、解除されている。
 つい昨日。
 多くの助力によって、完璧に、その封印から解かれていた。

 イギリス精教の『禁書目録』に結界の解析を頼み。
 解除に必要となる膨大な魔力を、《闇》を介したヒデオをケーブルに、高町なのはとデバイスが制御。
 そのエネルギーを利用し、電神ウィル子とアルトリアの共同作業によって結界破壊の道具を顕現。
 エヴァンジェリン自身の解析と、結界からの干渉妨害を防ぐ為、C.C.や五和や学園長が手を貸し。
 最後には、エヴァンジェリンが封印を強引に壊したのだ。

 (……あの馬鹿め)

 此処まで頑張って、ようやっと解除が出来たのだ。
 ナギが馬鹿で不器用だと言う事は重々承知していたが、束縛から解放されてみると、その常識外れっぷりがよく分かる。無限の魔力を保有する《闇》と、其処に関わる川村ヒデオと言う存在が無ければ、結界破壊の武器は造り出せなかっただろう。逆にいえば、《闇》まで借りて、何とか成ったのだ。

 あの馬鹿め、と、もう一回、悪態を内心で付いて、エヴァンジェリンは話題を変えた。姿を見せない相手に何時までも文句を言っても仕方が無いのだ。内心で、今度会ったら殴る、と心に決めて置く。

 「そう言えばアルトリア。お前、この後はどんな予定だ? 直ぐに帰るのか?」

 フリーランスとはいえ、自由気ままに過ごせる程、予定が詰まっていない訳は無い。
 逼迫している、とも言わないが、無駄な時間も少ないだろう。
 名前と顔が売れている有名人は、その辺りが辛いのだ。

 「いえ。取りあえず、リンからの頼みも有りますので……幾つか、此方で解決していきます」

 「ふむ。……京都か?」

 「流石に解りますか。――ええ。京都の詠春に幾つか託を、頼まれています」

 アルトリアも承知している。
 自分達が大戦期に戦い、壊滅に追い込んだ《完全なる世界》が、復活し始めている事。
 そして、今度は次世代の戦いに、移行し始めている事が、だ。

 「詠春の方も、色々と動いている様で。……取りあえず、懸案事項に対処する事となりますね」

 「それは良いが。……お前が護衛して来た、『禁書目録』とか、その辺りの連中はどうするんだ? 放っておくわけにもいかんだろう。迎えが来るのか?」

 「ええ。関西国際空港の方にですがね。明日か、明後日か。少し休息を取って、一段落したら、私と一緒に西に向かいます。確か――ええと、上条当麻の仲間達の何人かが、折良く日本で合流出来るそうなので……。そちらに引き渡す算段になっていますね」

 このご時世に、態々関西の空港で引き渡す理由は何なのだろう、というエヴァンジェリンは思ったが、直ぐにその答えに行きついたので、黙っている事にした。
 大方、あの腹黒い最大主教の計画なのだろう。
 その名前を、とアルトリアは呟く。




 「確か、《吸血殺し》と《超電磁砲》、と言っていましたか?」




     ●




 「さてネギ君。修学旅行の行き先は、京都じゃ。――知っておったかのう?」

 授業が終わった後、僕を呼び出した学園長は、そんな風に告げる。

 「はい。雪広さんに聞いています」

 なんでも、麻帆良の修学旅行は選択式で、海外へ向かうクラスも多いそうだ。
 しかし、委員長さんは、僕にこう教えてくれた。

 『このクラスには、ネギ先生も始め、留学生も多いので……クラスの相談と、学園長先生や高畑先生との話し合いも経て、京都・奈良への旅行と決定いたしました』

 詳しい仮定は話してくれなかったが、海外旅行は不思議と生きたいと言う人が少なく、むしろ京都・奈良に行きたい、という人が多かったのだそうだ。
 怪しい笑みを浮かべてそう語った委員長さんに、学園長先生も了承したのだという。

 「結構。実は、その事に関して、幾つか説明をしよう」

 穏和な態度のまま、学園長先生は僕に簡単に説明をしてくれた。

 「実はのう。ネギ君。……君に、京都で会いたい、と言っている人がおる」

 「会いたい人、ですか? 僕に?」

 「そうじゃ。――そうじゃな、何処から話そうかのう」

 ふむ、と僕に解り易く説明をするように、数秒ほど学園長先生は考えて。

 「ネギ君。君のお父さん……つまり、ナギ・スプリングフィールドには、仲間がおった。ナギを筆頭に、十二人。《赤き翼》という名を持つ、魔法使いの集団じゃ」

 「はい」

 アルトリアさんが、第三席エヴァンジェリンさんが、第十二席。遠坂さんが。確か、第七席。そして、タカミチが十一席、だった。……気がする。
 狙いすぎ、とアーニャは言っていたかもしれない。けれど、その話を聞いた時、英国叙事詩の『円卓の騎士』を思い浮かべたのは、僕だけでは無いだろう。カッコイイと思った記憶が有る。

 「その中に、青山詠春、という剣士がおってのう。第五席《侍(サムライマスター)》という名前で呼ばれた彼が、今回、京都でネギ君に会いたい、と言っておる人物じゃ」

 「はあ。……そんな人が、日本に居るんですか?」

 「うむ。関西呪術協会、という組織のトップに属しておる」

 簡単に説明して貰った所、関西呪術協会、とは日本古来の魔術を伝える組織なのだそうだ。

 江戸時代以前。首都が江戸に移るまでは、京都が日本の中心だった。今現在、文化財として保存されている建物が築かれた、当時の都と人々を守護していたのが、関西呪術協会の前身と成った組織らしい。
 しかし、江戸時代が終わったのとほぼ同時に、西洋魔法が流入。京に住居を構えていた日本の皇帝様も東京に移ってしまった。この麻帆良学園も、そんな時期に創立された、と学園長は語った。

 「そんな訳で、じゃ。実は、関西呪術協会と、関東魔術協会――――要するに、西方から入って来た魔法組織と、統括組織の麻帆良学園は、余り仲が良くなかった」

 「あ、わかりました」

 頭の中に、学園長先生の、次に続くだろう言葉が閃いた。

 「僕に、仲良くして欲しい、っていう言葉を告げに、行って欲しいんですね?」

 僕の父さんと、その青山詠春さんが、一緒に戦った仲間ならば、僕が橋渡しになれるかもしれない。
 そう思ったら、苦笑いと共に返される。

 「残念。ネギ君。――――“良くなかった”んじゃ。過去形じゃよ。個人レベルでの蟠りは兎も角、今は組織としての関係は、悪くは無い。それにな、そんな仕事を主に任せようとは思わんよ。そう言う事は、大人の仕事じゃ」

 僕の考えは、あっさりと否定されてしまった。

 「それに、個人で仲良くしよう、と言っても中々難しいわい。組織のトップの仲が良くても、下に居る人材の不満が解消される訳ではない。関係改善には、多少の時間と、相応の交流が不可欠じゃ。――――ただ、其れを上手くやったのが詠春殿での」

 長く成らない様に言葉を選びながら、学園長は僕に語った。

 「《赤き翼》の一員として名をあげたことで、彼が実力を培った“日本の魔術”に注目が集まったんじゃ。『魔法世界』に関係のある西洋魔術師も、一目置く様になったのじゃな。其れを利用して、詠春殿は、関西呪術協会の立場を高めたと言う訳じゃ。良い評価を渡されて不満を持つ者は少ない。そして、和睦というものの切欠に成るには、それで十分じゃった。今現在、西と東の関係は良好じゃよ」

 「じゃあ、なんで僕を……?」

 「ふむ。実はな、ネギ君」

 一拍置いて、学園長は僕に爆弾を落とした。



 「青山詠春というのは、旧姓での。――――今は、近衛詠春、というのじゃ」



 「……へ?」

 呆気に取られる僕に、学園長先生は言う。

 「いやのう。実は、ワシの娘が惚れてしまってのう。……関西呪術協会のトップに就任した詠春殿と夫婦に成ってしまったんじゃ。立場が立場なだけに、結婚までは色々と紛糾してしまったんじゃが、最後には周囲に認めさせてしまった。……要するに、ワシは詠春殿の舅なんじゃな。そして、更にもう一つ。――――件の詠春殿は、木乃香の父親でもある」

 その、さらなる衝撃的な情報に。

 「――――へええっ!?」

 呆然と、変な声を上げる事しか出来ない僕だった。
 学園長先生の娘さんと結婚したのが、父さんの仲間の詠春さん。
 そして、木乃香さんの父親でもある。
 意外過ぎる人間関係、余りにも唐突な情報に、思わずよろけてしまった。

 「ネギ君。話はまだ終わっておらんよ?」

 苦笑しながらも言われた学園長先生の言葉に、体勢を立て直した僕は、更に続く言葉を聞く。
 内心では、これ以上、意外な情報を貰わないかと怯えている位だ。
 明日菜さんの事だけでも、色々と考えていたのに――――この期に及んで、其処に木乃香さんの問題まで絡むなんて。

 「木乃香は。……あの子も、しっかりと才能を受け継いでおる。魔法の事だけは教えておらんが、それ以外には非常に厳しく躾けられておる。生まれ育った環境以外にも、少々、色々と“特殊な要因”が有るのじゃがな。――――まあ、それは置いておこう。ネギ君、君が自分で見抜くべき事じゃ」

 木乃香さんの話を終えて、学園長は僕に言い聞かせるように頷いた。

 「ネギ君。雪広君から聞いてもいるじゃろうが、今回の旅行でワシが京都・奈良へ行く事を許可したのには、そう言う意味も有るんじゃな。詠春殿と、関西呪術協会は、良く出来た組織じゃ。ネギ君が生徒と共に行っても、他の場所との安全性が格段に違う。それに、停電の様に、危害を加える連中も、プロじゃからな。“一般人”に手は出さんし」

 そして、と付け加える。

 「婿殿は、ナギの息子であるネギ君と会いたがっておる。その序に、木乃香の今後の事についても、彼女の担当教師であるネギ君と話し合いたいらしい」

 ふぉふぉふぉ、と学園長は笑って、僕に言ってくれた。

 「向こうからも、主に幾人か人材を派遣すると言っておる。ナギの話を聞いてくると良い。この度の旅行は、きっと主に取って良い物になるじゃろう」

 学園長の説明は、筋が通っていた。
 だから僕は、特に何も疑問に思う事無く、返事をしたのだった。




     ●




 「しかし、近衛木乃香、でしたか。詠春の娘は?」

 「ああ、私と同じクラスだな」

 エヴァンジェリンの気に入りだという、小さな喫茶店で一息を付きながら、二人は話をしている。
 勿論、会話は高度に偽装してあるので、他人に盗聴される心配は無い。

 「……エヴァンジェリン。貴方の目から見て、どうですか?」

 詠春の娘、と言う事は、ナギの息子のネギの様に、この先、色々と面倒な事に巻き込まれるだろう。
 それなりに厳しく育てた、と言う話を詠春から聞いてはいるが……。

 「化物だな」

 アルトリアの疑問に、ふん、と軽く鼻を鳴らして、吸血鬼は返した。

 「化物、ですか」

 「ああ。……いや、勿論、殺せるか否か、と言う観点では楽勝だぞ? そもそも、多少の護身術を嗜んでいる程度の実力だしな。保有する魔力は極東一かもしれんが、扱い方が未熟だから意味は無い。普段は呆けている事が多いから、その間に手を出せば簡単に始末できる」

 しかし、と吸血鬼の少女は語った。

 「近衛木乃香は、本気になると、怪物の本性が見える。いや、言い方が悪いな。人間だが、その性根が、誰にも手を出せないレベルに成る、と言うべきか。――実は停電の前に、一回、襲った事があってな」

 詠春の娘が、どんなレベルの存在であるのか。
 それを確かめる意味も込めて、図書館島の探検部と一緒に行動していた夕暮れを見計らって、襲撃した。
 その危機に際して綾瀬夕映が“覚醒”し、殺人鬼としての本性を表に出したのだが、それは置いておこう。結局彼女は誰も殺さす、そして彼女には《薔薇人形》達の手で、枷が掛けられたのだから。

 「その時に――――木乃香は、一回、本気に成った」

 「……如何なったのです?」

 「私の、血を吸う気が無くなった。……吸う事が脅威と思えた」

 「それは――――」

 あの天然そうな少女に、そんな力が有ったのか、と思う。
 力が有ると言っても、それは魔法に関してのことだと思っていたが――――違うのか。
 尋ねると、目の前の戦友は、違う、と言った。

 「近衛家は、藤原北家から連なる家系だ。間には天皇家の血も混ざっているし、伊達に脈々と受け継がれてきた訳じゃない。その魔力保有量は莫大だ。私の知人にも、藤原不比等の血を引く“不老不死の同僚”が居るから分かる。近衛木乃香は、間違いなく、ここ数百年間の近衛家の集大成と成る逸材だろう」

 「知人……?」

 「何処かの隔離世に住む不死鳥さ、今度紹介しよう。……話を戻すぞ」

 しかし、と彼女は続ける。
 その目の中に、僅かな不安が有った事を、アルトリアは見逃さなかった。
 不死の吸血鬼ですらも、血を吸う事に不安を覚える等、一体、何だと言うのか。

 「だが、それとは無関係で、多分、近衛木乃香の中には“何か”がある。私が、血を吸う事を躊躇わせるような、何かが、だ。そして其れは、彼女が本気に成った時に、本来の力を発揮する。そして、本気に成った時は、私にも脅威に成り得る、と言う事だ」

 目の前の紅茶に手を伸ばした彼女は、静かに告げた。

 「修学旅行は――――ネギだけでなく、近衛木乃香の面倒も、見る必要が有りそうだな、アルトリア」




     ●




 「なー、明日菜」

 「んー? ……あ、御免。少しぼーっとしてた」

 木乃香の声に、現実に引き戻される。ホームルームの時間も、今日は呆けている事が多かった。そのままHRも終了して、今は帰宅時間、あるいは部活の時間だ。今日は美術の部活は無い。

 美術……。そう言えば、元々は顧問の高畑先生に憧れて、入ったのだった。
 エヴァちゃんが私の過去を知っていて、彼女はネギのお父さん(ナギさん、と言う名前らしい)の仲間だった。そして、高畑先生はそのナギさんに世話に成った人……。
 つまり、高畑先生も、私の過去を知っていて、此処まで育ててくれたと言う事だ。
 前にも思った事だが、怨みは愚か、感謝の方が強い。

 しかし、同時に――――思ってしまったのだ。
 果たして、自分の思うこの感情は、憧れなのか、父性を見ているのか、それとも好きなのか、と。
 神楽坂明日菜は、これでも中学生。華も恥じらう乙女である。

 「明日菜?」

 「あ、御免。……それで、ええと。――何だっけ?」

 「もう、ちゃんと聞いててや。ネギ君の修学旅行の服、一緒に買いに行く予定やろ?」

 「あ、……うん。そうだったわね」

 頷いて、席を立つ。あのネギ坊主は、身の回りの物は多く持ってきたが、嗜好品と言う点では紅茶くらいが精々だ。まだ小学生だから仕方が無いとは言え、衣服に拘る事は余り無い。
 普段のスーツは学校から渡されている物らしいが、年相応の服は多く無いのだ。だから、同室の私達が服選びに付き合う事を、決めたのだ。学校から外に歩きながらも、そんな風に考える。

 「なあ、明日菜。大丈夫? 調子が良くないなら、明日にする方が良い?」

 気遣ってくれる木乃香だが、その心配は無い。
 唯少し、自分の近況の変化に、心が追い付いていないだけだ。
 齎された情報に、理性と感情がズレてしまっている、というか。

 「……大丈夫よ。うん」

 「――――なあ、昨晩、何かあったん?」

 私の煮え切らない態度に、木乃香は鋭く突っ込みを入れる。
 流石に、気が付くか、と思った。昨日の夜は、確かに自分が、何時部屋に戻ったのかも怪しいのだ。

 同室の敏い彼女が、私の挙動不審な態度に気が付かない筈が無い。

 「悩みを相談してくれへんの?」

 「……そう言う訳じゃ、ないけど」

 けれども、私は答えられなかった。
 魔法の事実を表に出してはいけない、その忠告を、肌で理解した、今だ。
 木乃香を巻き込む、というその恐れに、迷う。

 そう、言葉を濁していると、今度は木乃香が、暫く黙ってしまった。

 「……?」

 何か、と思ってみると、その雰囲気は固い。少し考えて、気が付く。自分にも覚えが有った。
 何かを踏み出す時の、覚悟を決めた一歩の、寸前の停滞だ。
 まずい、と思うよりも早く。
 意志表示をはっきりとするべきだた、と後悔するよりも早く。




 「誤魔化しは、無しやで。明日菜」




 ゾワ、と肌を指す様な気配が立ち上る。
 殺意の様な、邪悪な物では無い。
 強いて言うのならば――――気迫。
 3-Aの誰を持ってしても負けると言われる、其れこそ委員長やエヴァンジェリンや転校生ですらも、感心する程の、その性根が見える。

 「―――――っ」

 何を、言い出すのか、と言おうとした明日菜だったが、その目力に黙る事しか出来ない。
 勿論、彼女は怒っている訳ではない。
 真剣に成っているだけだ。
 真剣に成る。唯それだけで、周囲が軋むのだ。

 近衛木乃香という存在が――あのクラスにいる、その理由が、此処にある。

 普段はほわほわとしている、あの天然な彼女は、周囲に被害を出さない為に、敢えて気を抜いている。
 実力だとか、戦闘能力だとか、そう言う物を除いた、別の次元で、彼女は強い。
 そして、その強さを、自分の為でなく、人の為に振るえるから、彼女は明日菜の親友なのだ。

 「明日菜。ウチ、其処まで何も見えん愚か者じゃ、あらへんよ?」

 明日菜でも滅多に見ない、真剣な瞳だ。

 見た事が有る。

 例えば――――そう、例えばだ。自分と彼女が初めて同室に成って、初めて喧嘩をした時に見せた気迫。
 あるいは、自分と委員長・雪広あやかの喧嘩を止めようとした、その時の気迫。
 騒がしいクラスを、一瞬で黙らせる、その精神の強さ。

 そう言えば、何時だったか委員長が言っていたか。

 『近衛木乃香さんは、……やんごとなき家系の出身だけは、ありますわね』――と。

 いわば、風格なのだ。血筋と言い代えても良い。他にも理由が有るのかもしれないが、それは彼女の有り方に関係は無いだろう。

 ただの、目の前の友人が――――これ程に、強いのだと感心したのは、何時だったか。

 自分の親友が、紛れもない、大きな器の人間だと確信させる程の、鬼気が有った。
 けれども。

 「御免。木乃香。言えない」

 此方も、真剣に一声だけ返す。
 言わない、のでは無く、言えない。
 其れだけで、彼女には十分に意味が通じるだろう。

 「……ほか。……じゃ、ええよ」

 ふ、と圧力が消えた。

 「そうならそうと、言うてくれれば良いのに。……明日菜にも言えん事は有るんやな。親友としては、ちょっと悲しいけれど、明日菜が言えんー、ゆうなら、ウチは聞かへんよ。……ま、何時かや。言えるようになったら、言って欲しいけどな」

 ほわほわ、とした空気を“敢えて”纏って、彼女は歩いて行く。

 明日菜には、その姿が、妙に遠く見えた。

 今迄ならば、例え木乃香の“本気”を見ても、普通に直ぐに動けていたのだろう。
 けれども、今は違う。エヴァンジェリンを初め、自分のクラスの中のメンバーが、普通で無い事を実感した今では、違ってしまっている。

 近衛木乃香が自分に危害を加えない事は知っている。
 あのクラスを大切に思っている事も、良く分かっている。
 そして自分の大事な親友である事も、十分に――――心から、解っている。

 「明日菜? 行くよ?」

 けれども、木乃香の中にあるモノが、一体何であるのか。
 彼女の本音が、一体何を感じているのか。
 彼女の見ている世界が、一体、何であるのか。
 彼女は、何を抱えているのか。




 それが、明日菜には見えなかった。






[22521] 第三部《修学旅行編》 その二(表)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/11/02 22:03

 ネギま クロス31
 第三章《修学旅行》編 その二(前編)




 [今日の日誌 記述者・長瀬楓




 停電の名残も消えつつある中、外に出た所で刹那を見かけた。
 あの魔女ことクライン殿に敗北して、良い具合に折れた事は承知であったが、まさかアレほどに変化するとは思っていなかったでござる。何せ、木乃香殿と一緒にいたのでござるからな。
 無論、刹那は緊張していたし、態度もぎこちなかった。
 間にネギ坊主が居たから、何とか成っていたのかもしれぬ。
 しかし、彼女が、長年の幼馴染である木乃香殿と、関係が修復できるのならば、それは良い事であるな。


 因みに刹那は、如何やら拙者とも幼馴染であったことも、思い出してくれていた。
 有り難い事だ。
 勿論、拙者と刹那の関係は、精々が数カ月。一年も存在しないのだが、それでも過去を知る存在が居ると言う事は、感謝に値する物である、と思う。
 拙者が彼女と初めて出会ったのは、京の都の『EME』であった。家庭の事情で、一時だけだが預けられていた拙者は、刹那と友人に成った。別れるまで、共に遊んだ経験はある。
 拙者が家に戻って暫くした頃、『EME』本部で大規模な抗争が有ったと聞いた。その犯人が『統和機構』と呼ばれる組織であり、彼らは『EME』保有の異能者の中でも、特に特別な連中を目的としていたそうだ。
 幸い、刹那は標的では無かった。
 しかし、闘争の最中、相手方の一人に彼女は精神を乱され、枷を組みこまれた。
 拙者は後に、それを知ったが、しかし――――自身では、何も出来なかった。
 唯の一人の友人すらも、救う事は難しい、と痛感したのは、その時であったな。


 なんでも、木乃香殿とネギ坊主は、修学旅行の自由行動中、刹那殿も誘って、三人で買い物に行く予定を立てたのだそうだ。明日はその予行演習と言っていたか。
 ……そう言えば、明日菜殿の誕生日が近い、と何日か前に木乃香殿は言っていたきがするでござるな。委員長も、しっかりと餞別を選んでいたのでは無かったかな?
 ひょっとしたら、彼女達はその贈物を買いに行くのかもしれぬ。さて、明日は休日。拙者も特にするべき事は無いので、風香や史伽と何処かに出かけようか、と思ってもいたのだが――――。
 拙者も何か、贈呈する方が良いかもしれん。
 なにせ、この平穏が何時まで続くのかは――予想が出来ないので、あるからな]




     ●




 「う~ん! 良い天気!」

 「ホント。絶好の遊び日和」

 東京都・渋谷・ハチ公口前。休日には、若者で賑わうこの空間に、三人は居る。

 「それじゃあ! 九時間耐久カラオケに行こう!」

 「よーっし! 幾らでも歌っちゃうよお!」

 ノリ良く笑顔でボケる、明るい笑顔の少女が椎名桜子。
 そのボケに続く、大人びた少女が柿崎美砂。

 「こら違うだろ其処!」

 最後に鋭い突っ込みを入れたボーイッシュな少女が、釘宮円。
 麻帆良学園3-A組、チア部所属の三人娘である。

 彼女達は、出席番号が近いと言う事も有り、良く一緒に行動している事が多い。
 今日もそうだった。修学旅行の自由行動時に着る私服を選びに、態々麻帆良の敷地から都内まで、電車を乗り継いで出て来たのである。
 麻帆良の店が悪い訳ではないが、年頃の少女達にしてみれば、やはり流行や最新のトレンドと言った物は押さえたい。オシャレをしたい、着飾りたい、と思うのが常なのだ。

 「資金も多くないし、余り無駄遣いも出来ないんだよ。解ってるでしょ?」

 そんな発言に対して、残った二人は。

 「あ、ゴーヤクレープ一つ」

 「私も。くぎみーは?」

 「あ、私も同じで。……って、話を聞け!」

 話し半分に聞き流し、ゴーヤクレープを購入していた。因みに店は『IAI』提供だった。
 ……全く、もう、という呆れた内心を出さず、円も一口。味は苦い。けれども、苦みが肩の力を抜いて行く。
 他にも食べようか、と一瞬思ったが止めた。あのメニューの中で、ゴーヤが一番、無難そうだった。他の品物を食べて、食べきれなくなっても不味い。
 大体IAIの商品はニッチ過ぎるのだ。絶対に離れないファンが居ると同時に、一般人全員に受けるとも言えない食品が並ぶのである。

 カラオケの売り子や、怪しい出店や、安売りの看板や、店頭に並ぶ衣裳を横目に、街を歩く。

 「あーん、楽しいよう!」

 心から楽しんでいる声で、桜子が言った。

 麻帆良学園の生徒達は、基本的に学園から出ない。学園内部に全てが揃っているが故に、余分な外出が必要無いのだ。休日でも部活動の練習は有るし、外に出て無暗に時間を消費するのも非効率。
 それこそ、自分で予定を調節し、目的と時間を造って外に出る必要が有る。
 こうして、休日に、都会の中をぶらぶらする、という事自体が珍しいのだ。

 「……まあね」

 息を吐く。
 本当に良い天気だ。
 隣を歩く友人達に、行き交う人々。誰もが日常の中に生きている。平和そのものの光景だ。

 失って初めて気が付く世界が、この場には存在する。

 それは、紛れもない事実だ。
 過去の自分は、この世界が、どんなに良い世界である事かを、知らなかった。
 知らないままの子供が、癇癪を起したような、物だった。
 それを、あの死神に諭されたのだったか。
 自分が、かつて滅ぼしかけた世界が、この場には存在する。
 かつて『世界の敵』に成り得た自分が――――。

 「……あ、見て、あれ」

 前を歩いている美砂が、立ち止まって正面を指差した。
 頭に浮かんでいた過去の残滓を、今は考えないようにしよう、と追い払い、円はその先の方向を見る。




 ネギ・スプリングフィールド(十歳・教師)と、近衛木乃香(十四歳・生徒)がデートをしていた。




     ●




 修学旅行の準備をしているのは、何もチアリーダー三人娘だけでは無い。

 彼女達の場合はごく普通に――――いや、少なくとも今現在は健全な買い物に出ている。しかし、他の生徒が全員、同じ様に動いている、と言う訳でもなかった。
 言いかえれば、かなり危ない準備をしている者達も、結構な数がいた。

 「お邪魔するよ」

 「あ、いらっしゃい、龍宮さん、……と」

 麻帆良女子中等部の駅前アクセサリーショップ《ブラウニー》地下一階。
 鳴海歩と《ブレード・チルドレン》の活動拠点にして、銃火器販売を兼ねる裏の店で。
 連日の用に、『伊織魔殺商会』から卸される、非合法な品々に囲まれて整備と調整をしていた竹内理緒は、来訪した客の以外さに、言葉を一瞬失った。

 「……美空、か」

 「御苦労っすね、りおっち」

 「その呼び方は止めてって」

 龍宮真名に続き、地下へと続く階段から防音扉を開けて顔を出したのは春日美空だった。非常に珍しい組み合わせだ。これが春日美空では無く、例えば長瀬楓とかならば、まだ話は通じるのだが。
 常の如く愛称を否定して、促す。

 「……まあ、取りあえず、中にどうぞ」

 カウンターに座ったまま指示を出す。しっかりと扉を閉めて貰うのも忘れない。
 オートロックで、開閉には学園警備員の保有する特殊カードが必要で、その他幾つかの開閉条件も存在するから、内部に誰かが入り込む可能性は低い。しかし、こういう小さな部分は大切だ。
 下手に一般人に入り込まれて、記憶消去の魔法を懸ける手間暇を考えると、予防が何よりなのだ。

 「それで、今日は何を? 新作も入荷したけれど」

 自分の背後にずらり、と並ぶ木箱と大棚を振り返った。
 頑丈な木と鉄のロッカー。その中に入る物は、大中小と様々な銃器だ。全て理緒が完璧に手入れをしてある。余りマニアックな品は常駐していないが、注文を受ければ手配は出来る。
 そんな棚の中に佇む鉄扉の奥、厳重に隔離された一際大きな空間の中には、手榴弾を初めとする爆発物が所狭しと保管されている。

 「……こりゃまた、話には聞いていましたけど」

 凄いっすねぇ、と美空は感心した声を上げた。
 壁に造られた棚の中には、再梱包された防弾服や、外敵から身を守る補助器具が仕舞われている。
 さり気無く店の隅に置かれているのは、ひょっとして機関銃と呼ばれる品では無いだろうか。

 「感心するのは結構だけど。此処は博物館じゃないの。お客で無いなら、お帰り下さいな」

 理緒も暇ではないのだ。
 クラスメイトの修学旅行の準備(敢えて具体的には言わないが)を手伝う必要が有るし、大停電で消費してしまった自分の武器の補充も残っている。

 「ああ。……実は、客と言うか、個人的な頼みなんですが」

 指摘されて、美空は理緒を見た。
 すわ、唯で品を譲ってくれ、とかいう問題かと思ったが、瞳の色を見るに、全く別の問題らしい。

 「何が?」

 「あー。……この店、魔殺商会から仕入れてますよね。で、当然、向こうとは回線通じてるっすよね? 良ければ、少し電話を貸してほしいんですが」

 「なんですか、それ」

 そりゃ確かに、あの悪徳商会と回線は確保してある。
 しかし、此方から掛けたとしても、手配をしてくれる有能そうな人間に通じるだけだ。
 売り手と買い手という関係を崩す訳ではないし、それ以上はあちらとしても望んでいないだろう。
 そんな事くらい、仮に美空が普通の女子中学生でも理解出来ると思うが……。
 理緒の顔に、その内心が現れた事を読み取ったのだろう。事情を話す。

 「いえ。実はっすね。私も独自の、かなり大きめのルートは持ってるんすが、停電で侵入者を撃退していた時、携帯を壊しちゃったんすよ。お陰で、番号も内部情報も、確保された回線もおじゃん。外の適当な電話で連絡してみたんですが、なんか本社で色々あったようで、繋がんないんすよね。――――で、此処を頼ろうと」

 「……あ、そう。そう言う理由か。……ん、良いよ」

 カウンターの横に備え付けられた、一見すれば唯の、実際は専門家の手が入った固定電話を取りだす。
 受話器を取り上げ、番号を押し、最後のボタンを離す前に手渡す。

 「これ使って。……でも、理解出来ていると思うけど、会話は全部、私達に筒抜け。美空が、どれくらい向こうに影響を持っているかも、全部推測されるけど、それでも良いね?」

 「しゃーないっすね。背に腹は代えられないってもんです。私の情報と危険となら、前者を取るっす。――――ま、今迄、隠せただけでも良いとしましょうか」

 どうせ、この先、嫌が応にも、クラスの皆の内部事情を知る事に成るんでしょうし――――と、彼女は付け加えて、その受話器を取った。
 ダイヤル音。相手の取る音。理緒も聞きなれた、魔殺商会です、という言葉。
 そうして、彼女は話し始める。

 「……ところで龍宮さん。貴方は?」

 「ああ」

 あ、どうも。元第二部所属の美空っす、――――と、相手方と会話をする美空を横目に、二人は会話をする。顧客と売人という関係とは言え、付き合いは其れなりに長い。何か用事が有ったのだろう。

 「停電前に頼んでおいた、修学旅行用の装備の受け取りと。……あと、少々の注文をな」

 「ええ。――――それじゃあ、そっちから行きましょう。何が欲しいんです?」

 そういって会話をする二人の表情は、其れだけを見れば、普通の女子学生にしか見えなかった。
 無論、会話は物騒に過ぎるのだが。




     ●




 「ネギ君と、木乃香だよね」

 「……買い物、にしては――――こんな所まで出て来る、普通?」

 「生徒に手を出す教師か。十歳の子供に手を出す中学生か。どっちにしても不味いよ、アレ」

 ヒソヒソヒソ、と道の隅っこに集まって雑談をする三人。

 もわもわと頭に浮かぶのは、妖艶な笑みの木乃香と、涙目のネギだった。毎日面倒をみる木乃香は、幼いながらも愛らしい同居する少年に欲求を募らせ、そしてある昼下がり……と、昼ドラ並みに有りがちな想像が頭を過る。

 色々変な過去を抱えていても、年齢相応の思考回路は消えないものだ。
 都会の中学生女子が、全員、清廉潔白など、迷信も良い所である。

 「……ま、それはそれとして」

 脳内のピンク色を払いのけて、円は二人に訊ねた。冗談も程程にしよう。

 「如何する? 別に放っておいても問題は無いだろうし、伝えた所で、年齢が年齢だし」

 例えあの二人がデートをしていたも、正直、何も問題は無い。
 学園長を初めとする教師達も、十歳の子供と中学校三年生の女子の交流が、不健全とは思わない筈だ。

 「あ、でもほら。仮にネギ君と木乃香が仲良くなったとして、クラスで贔屓する事とかも……。――――いや御免、ないわ、それ」

 途中で語った美砂が、自分で否定をした。そんな風な性格ならば教師になれないだろう。そもそも常日頃、同室の明日菜に対する授業中の扱いが、良い、とはお世辞にも言えないのだ。
 まあ、神楽坂明日菜が、勉強が得意で無いという理由も有るが。

 「……どうする?」

 桜子の言葉に、少し考えて、円は答えた。

 「――――ん。私は、取りあえず、委員長に相談するべきだと思う」

 「相談? なんで」

 「ほら。普段、一緒に居る筈の明日菜が居ないじゃん。……まあ、明日菜が寝ているからだろうけれど」

 しかし、それならば、麻帆良の敷地外に出て来る理由にはならないだろう。
 麻帆良の外に出ている。
 しかし、明日菜は一緒に居ない。
 確かに良い雰囲気だが、年齢的にデートというのも、ネギの性格もあって難しい。

 「……じゃ、ちょっと待ってね」

 一連の説明を受けて、美砂が携帯で連絡を取りだした。素早くアドレスから呼び出し、一押し。
 休日だが、雪広あやかならば、この時間には既に起きている筈だった。

 「あ、いいんちょ? 今、時間ある?」

 美砂の言葉に、電話の向こうで何やら声が返って来る。一人では無い様子だった。如何やら、那波さんや夏美と一緒らしい。室内だろうか。
 修学旅行前ということで、色々な雑務が有る、と言っていたが、そんなに忙しいのだろうか。
 あるいは、もっと別の――――自分達のクラスの“裏”に関わる問題を、解決しているのかもしれない。
 そう言えば停電中に出歩いていたらしいし、どんな暗躍をしたのか、其処までは見通せていないが――――しかし、彼女の事だ。悪い事ではないだろう。

 「……うん。明日菜の事で。――――そう、近い予定で」

 立派だな、と思う。
 そうやって、努力の出来る人間を、素直に凄いと、円は思っている。
 釘宮円は、別に日常の裏に顔を持っている訳ではない。
 非日常と日常で、態度や性格が変化する者は、クラスメイトも含めて、存在する様だが、円は違う。
 自分の中に眠る、あの《不気味な泡》は、語っていたか。

 『君は、何時までも止まったままだ』と。

 止まったまま。フラットにもシャープにも成らない、常に平らなままの性格。
 己の抱える、釘宮円という故人の性格から、逸脱する事も、外れる事も無い。
 それは、退化も劣化もしない代わりに、変化もしない、進化もしない。成長すらも困難であると、そういう事実の証明だ。過去よりは幾分、マシに成った自覚はあるが、それでも、過去を引き摺っている。

 故に、自分の『異能』もそれに近い。

 こうして、友人達と一緒に居ると言うのに、自分の内面は、変わらずに穏やかだ。変化が無さ過ぎる。
 間違いなく、異常な精神なのだろう。

 「――――ああ! そっか。……うん、ありがと。明日菜には秘密にしておくよ」

 美砂の話が終わった。

 「何だって?」

 桜子の声に、美砂が答えた。
 自分も、普段と同じ態度で、話に乗っかる。

 「言われて思い出したけれど、明日菜の誕生日なんだよ、もう時期。……で、多分、秘密にプレゼントを買いに来たんじゃないか、って委員長は予想してた」

 「あ、四月だっけ、明日菜の誕生日」

 桜子がそう言えば、と付け加える。クラス全員の誕生日を覚えている訳ではないが、彼女は明日菜や委員長とも、幼稚園の頃からの長い付き合いだった。今迄もお祝いをした事が有る。

 「じゃ、序に買ってく? ネギ君達を一々見て無くても良いんじゃない?」

 「そうしよっか」

 円の提案に、美砂は、うんと頷いた。
 気が付けば、ネギと木乃香は見えなくなっていた。
 まあ、何か騒動に巻き込まれる心配は無いだろう、と《不気味な泡》を寄生させる少女は思う。

 陰から、忠義者の侍少女が見ているのだし。




     ●




 休日。故に、通常の授業が行われている女子中等部校舎に人影は少ない。
 幾つかのクラスでは補修が実施されていたり、屋上でサークルが活動していたりと、決して人気が無い訳ではないが、日頃の喧騒に比較すれば微々たるものだろう。

 「さて」

 そんな、静かな校舎の3-A組で。

 「出て来い、相坂」

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはそう声に出した。
 誰もいない教室の中で有る。
 その声は、小さく響き、消える。
 ガランとした室内の中で音を経てるのは、エヴァンジェリンと、背後に佇む人形の従者の稼働音。
 そして――――。

 「はい!」

 そんな声と共に現れる、一人の少女だ。
 そう、まさに現れた。唐突にその場に出現をしたという表現が、何よりも正しいだろう。
 古めかしい黒地のセーラー服に、揃えられた長い髪。奥床しく礼儀正しい、日本の淑女を形にしたような雰囲気を持つ、少女。美少女だ。
 唯一問題が有るとするのならば、その身体が透けている事だろうか。

 「久しぶりです、エヴァンジェリンさん!」

 「ああ。悪いな。ボーヤが来てから放って置きっぱなしで」

 ふ、と皮肉気な笑みを浮かべて、吸血鬼は目の前の少女を見た。




 相坂さよ。
 麻帆良学園女子中等部3-A・出席番号一番。
 1925年生まれ。享年十五歳。
 教室に潜む、正真正銘の亡霊である。




 「で、どうだった最近は?」

 「いえ。結構退屈しないで居られましたよ?」

 エヴァンジェリンが始めてこの教室に足を踏み入れたのは、二年前――――即ち、自分が神楽坂明日菜と共に、中学一年生に入った時の事だった。それまでは、麻帆良の自宅で常に準備だった。
 勿論、神楽坂明日菜の面倒は、まだ修業途中だったタカミチや学園長、地下で休息を取るアルビレオや、転位魔方陣の先のイリヤスフィールと共に、さり気無く見ていたが。しかし、無駄に広い麻帆良の敷地内。相坂さよの隠密性も相まって、女子中学校の校舎の一角に、亡霊がいる事には全く気が付かなかった。

 入学式の前。自分がクラスメイトとして入り込む教室に、下見に訪れた時。
 エヴァンジェリンはこの地味な幽霊の存在を見抜いたのだ。

 「相変わらず皆さんは賑やかですし。転校生の皆さんも面白いですし。ネギ先生は可愛いですし」

 そう言って薄く微笑む彼女からは、とても危険な匂いは感じられない。
 出合った当初は――――当時の彼女は、まさに亡霊、悪霊一歩手前だった。エヴァンジェリンが強引に除霊しようかと思った程で、事実、かなり真剣に排除の準備をした程だ。
 しかし成仏させる為に、相坂さよ本人を調べている過程で、その考えを止め――話し相手になる事にしたのだ。その代わり、人間を決して襲わない事と、目立たない事を約束させた。

 さよの事情に同情したのか、と問われれば、恐らくエヴァンジェリンはイエスと答えるだろう。
 だが、エヴァンジェリンも、理解されない事の辛さと、孤独の痛さは十分に知っている。
 故に、少々結びつきは弱いが、友情らしき物を、育んでいるのだ。

 「ま、そのボーヤのせいで、こうして四カ月以上も、会話が出来なかった訳だが」

 少年の来訪に合わせて、エヴァンジェリンはさよとの接触を止めた。

 教室内で接触して下手に感付かれても不味いし、自分を“悪人”だと思わせておいた方が何かと楽だからだ。まさか未練がましい幽霊と、毎日、話しこんでいるとなったら、其れだけで勘違いされるだろう。

 そう言う経験は、今迄、かなり多い。

 お陰で、クラスの中でも、エヴァンジェリンは、悪役(?)という扱いに成りつつある。自分の今迄の過去の行いを恐れたり、実力を畏怖していたりする点では同じなのだが、『頼れる師匠』的な空気なのだ。
 この前の停電でますます、そう思われてしまった節があって、かなり困っている。
 自分が吸血鬼だとか、犯罪者だとか、化物だとか、そう言う事実は知られずとも――――彼女が、相当深い裏の存在である事は、少し関われば理解出来るだろう。しかし、その理解の上で、『エヴァンジェリンは実は良い人疑惑』が持ち上がり始め、そんな評価を下し始めたのだ。

 本当に、面倒な連中だ、とエヴァンジェリンは思う。

 「――――まあ、元気そうだな」

 「ええ。亡霊ですし」

 肉体に縛られていない分、何も問題が無いですよ、とにこやかに笑う。
 その笑顔だけを見れば、何を心配する必要があるのか、と思うエヴァンジェリンだった。

 クラスの中で相坂さよを知っているのは、エヴァンジェリンと、彼女が教えたC.C.と、自力で気が付いた龍宮真名くらいだ。早乙女ハルナや、那波千鶴や、四葉五月辺りは――――恐らく、彼女達が、幽霊か亡霊か悪霊か怨霊か御霊かは知らないが、それに類する存在に、関わっていた事が有るからだろう。無意識の内に感じ取っているようだが、それでも認知していない。

 逆に、桜咲刹那の場合。今度は、完璧に隠しておいた。停電後の刹那ならば兎も角、過去の彼女ならば、顔を見せただけで木乃香の害に成ると斬られていた可能性が高い。
 例えその程度では死なないと知っていたとしても、隠しておいて正解だったと思う。

 「ふむ。……そう言えば、あの変な神父の幽霊は如何した? セクハラされていないか?」

 「リィンさんですか? ……大丈夫、です。時々暴走しますけど、まあ悪い幽霊では有りませんし。それに、最近は色々と教えてくれますから。鷺ノ宮家と『神殺し四家』の関係とか。幽霊とオカルトの認識の話とか」

 「そうか」

 相坂さよの友人にはリィン・レジオスターという幽霊がいる。
 鷺ノ宮から麻帆良に通じる霊脈を道路に、顔を見にやって来ているらしい。少々変態の気が有る事を除けば、美形で有能だから色々と助かっているそうだ。

 「……あ、でも」

 「ん? 何か問題が有るか? 手を貸してやらん事も無いぞ?」

 エヴァンジェリンが言うと、さよが自分でもよく分かっていないのか、曖昧な態度になる。

 「ええ。いえ、リィンさんの事じゃないんです。自分の感じている事で。……大したことじゃないんですが――――ここ最近、と言うか、何週間か前から、少し変な感じがするんですよね」

 本当に曖昧な言葉で、彼女が何が言いたいのか、エヴァンジェリンは懐疑的になる。
 さよ自信も、言葉に出来ない雰囲気を感じ取っているのだろう。もどかしそうに言葉を選んだ。

 「ほら、私、幽霊……というか、亡霊じゃないですか。既に死んでいるお陰で、色々と、こう……《闇》とか、黄泉とか、“あちら側”とか、が、少し感じられるんですが、その中に、違和感が有るんです」

 「違和感……?」

 「ええ。何か、こう――――引っ張られる? と言いますか。イメージとするとあれです。お風呂とかプールの栓を抜いた時に、流れる水に体が引っ張られる感覚みたいな。自分は大丈夫だけれど、何か他の周囲の物が、外に流れる感じで。私の住む領域が領域なだけに、気に成るんですよね」

 ふむ、とエヴァンジェリンは考える。
 《赤き翼》の中で《闇》に関して最も詳しいのは、間桐桜だ。しかし彼女は居ない。もしも居れば、多少の助言をくれたかもしれないが、生憎、今の彼女は実態化すらも難しい状態だ。
 生きてはいるが、此方側に出て来る事は不可能。まあ、停電の渦中に川村ヒデオを通じて、少しだけ顕現した様だが、すぐに気配も消えてしまった。

 「他に何か気に成る点は?」

 「ええと。――――あ、そう言えばですね」

 うーん、と頭を悩ませた後に、さよは、気に成る事を、告げた。




     ●




 「如何しようか、この後」

 昼も過ぎた頃、柿崎美砂が言った。両腕に懸かる荷重は戦利品だ。各人、紙袋を上に釣っている。値段と品物の折り合いも中々に上手く行ったといえるだろう。久しぶりの外出に満足できた。
 お昼御飯も終わり、午後に周辺を回る時間は残っている。

 「明日菜のプレゼント、買いに行く?」

 自分達の買い物は、終わらせた。となれば、話を聞いた明日菜への誕生日プレゼントを買って帰っても良いかもしれない。

 「因みに、ネギ君達は何を?」

 「ん。委員長の話では、多分、オルゴールじゃないか、って。この前、委員長の家に来た時、カタログを貰って行ったとか話してたし」

 「相変わらずの観察眼だねぇ、いいんちょは」

 「そうじゃなければウチのクラス纏まんないっしょ」

 そんな風に、軽口を叩きながら、取りあえず駅の方向に歩く。相変わらず人間の数が多い。三人で横並びになると少し迷惑なので、適当に順番を入れ替えつつ、話を繋げていく。

 「明日菜に贈る物ねえ。……なんか良い案ある? 個人的には、普通の物より少し凝った物の方が良いかと思うんだけど。――――ほら、最近、“色々”と大変みたいだし」

 桜子が言った。その中に含まれる微妙なニュアンスに、円も気が付く。
 そう言えば彼女は、何やら妖怪化した猫を身内に飼っていた。表向きは猫で通しているが、しっかりと妖怪の類である事は、多少詳しい人間ならば把握出来るだろう。エヴァンジェリンとか。
 まあ、円の場合は《不気味な泡》が居るからこそ、何とかなっている。仮に円だけだとしたら、絶対に気が付かないし、気が付けもしないだろう。それは多分、美砂も同じだ。

 柿崎美砂も、椎名桜子も、自分も――――そしてクラスの九割は、飽く迄も人間の範疇に有る。ただ、特殊な武装を持っていたり、性質を抱えていたり、才能を宿しているだけ。あの道化師はそう語っていた。
 何でも、人外と呼べるのは、エヴァンジェリン(吸血鬼)と、ザジ・レイニーデイ(魔族)。クライン・ランペルージ(不死者)と絡繰茶々丸(ロボ)くらい。ハーフまで含めて良いのなら、桜咲刹那を始め、何人かいるようだが。……いや、結構いるのか、人間じゃない連中も。

 「ん……、あ、そう言えば」

 「何、美砂? 何処か良い場所知ってる?」

 「新宿の、ね……。駅前から少し裏路地に入った所に、一軒のオカルト系ショップがあるよ。割と品ぞろえも良いし、店長さんも気さくなお姉さんだし、贈り物を選ぶには良いかもしんない。値段もそこそこで、なにより“御利益”がしっかり有る。この身で経験済みだからね」

 でもね、と美砂は付け加えた。

 「大抵が留守で、開店休業も同然なんだよね。――――元々、趣味で始めた様な店らしいけどさ」

 そのまま、二人に語る様に、柿崎美砂は告げる。
 その女性の名前を。




 「マリーア・ノーチェス、っていうんだけど」




     ●




 「――――ええ。そう言う訳で、幾つかの手配をお願いしようと」

 電話を続ける美空を横目に、龍宮と竹内の二人は、変わらず商売を続けていく。
 外見は学生に見えても、これでも両者共に専門家だ。その口調は流暢だった。

 「……で、整備を頼まれた訳ですが、このレミントン700のカスタムは如何します?」

 「多分、野外での直接視認での狙撃がメインになるからな……。ストックは自前が有るし必要ない。ドットサイトは頑丈で着脱可能な奴を適当に身繕ってくれ。修理と調整だが、銃身の摩耗と、少し命中が右寄りに成るのを直しておいて欲しい。あとは……調整後に、もう一回注文しよう」

 「はいはい。では、その通りに。月曜日の夕方にでも取りに来て下さい」

 「ああ。……それと、IMIデザートイーグルを一丁頼む」

 そう言った龍宮の注文に、ん? という顔をする。

 「良いですけど……。ああ、そう言えば歩さんに売ってましたっけ」

 「停電の最中にな。まあ、十三万円で売れたから元手は取れたし、良いんだが――――近接銃器が少ないのはな、少々困る」

 その言葉に、また冗談を、と言いたくなった理緒だった。

 正直に言おう。龍宮真名という女性は、確かに銃火器の扱いも手慣れているが、それ以上に身体能力が非常に高い。銃火器を使用しなくても、とても強いのだ。
 以前、古非が言っていたか。

 『あの体裁きは、何か特殊な格闘技術を持つ者の動きアル。私の中国拳法とは相性が悪そうアルね』と。

 あの古非が言うのだ。其れだけで彼女の実力は読みとれるという物だ。
 が、しかし利用してくれるのならば商売人としては有り難い。

 「そうですか。……では取りあえず7.62x39弾を四箱分。7.62mm NATO弾を、40発分。日頃のサービスも込めて10発分オマケしておきます。で、デザートイーグル一丁と、レミントン700の調整で良いですね?」

 「ああ。確かに」

 頷いた龍宮に、では、と素早く電卓を叩く。
 無論、料金を確かめる為――――既に終えている、頭の中の計算と、合致しているのかを確認する為だ。計算は得意だった。

 「しめて七十三万円。料金は指定の口座に振り込んで下さい。10日以内に振り込まない場合、利子が増えますので、御了承を」

 別に無駄な儲けをだすつもりはないが、此方も商売なのだ。あの悪名高い伊織魔殺商会から卸されている以上、此方も少々割高になるのは致し方が無い。それでも利用者が多いのは、理緒のカスタム技術が優秀である事と、あの組織から流れる弾薬の性能が桁外れだからだった。

 ドクターとかいう科学者によって生み出された弾丸は、魔導皮膜(理屈は不明だが、要するに魔力によるコートが懸かっているのだろう)に覆われている為、人間以外の生物にも効果を発揮できる。

 その分、銃自身の消耗が激しかったり、無駄弾を打つと本体より金が掛かったりするのだ。

 「ああ。――――解った」

 無駄金にうるさい龍宮真名だが、決して財布の紐は固くない。むしろ必要経費にはしっかりと金を出す。確かに、趣味や自分に金を出す事が少ないが、ケチでは無いのだ。

 そんなやり取りをしていると、ガチャ、と電話が置かれた。

 「やー、参ったっすねえ」

 やれやれ、という口調で受話器を置き、はー、と美空は溜め息を吐いた。

 「連絡は付いたのか?」

 領収書にサインをする龍宮が、手元から目を反らさないまま訊ねる。

 「ええ。何とか。――――ま、こっちの手配も何とかなりました。ただ、向こうに予想外の事態が起きたようでしてね。起きたと言うか、判明したと言うか」

 今やっと、私も知った所なんですが……と、美空は、とある一言を告げた。




     ●





 時刻は夕時である。昇っていた太陽も沈みかけ、空は赤かった。
 歩く三人の手元には、昼頃よりも数を増した袋がある。何れも紙袋で、中身を伺う事は出来ない。

 「いやー、しかし。なんか面白い店だったね」

 新宿から麻帆良に向かう駅に乗り換えた所で、若干トーンの下がった声で桜子が言った。流石に一日中出歩いていれば疲れるだろう。
 その言葉に、そうでしょ? と美砂が言う。

 「独特の雰囲気があってね。嫌いな人もいるみたいだけど」

 うんうん、と頷き合う友人達に同意する裏で、円は冷静に考えていた。
 いや、あの店が面白かった部分は本当だ。確かに、シルバーアクセサリに目が無い円には魅力的な店だったし、値段も質も上々だった。また行きたいと思った。

 しかし――――。

 「だから、寄り付く人と、そうでない人がいる。あの店に気が付く人と、気が付かない人がいる。なんて言うのかな、一種の保護色なんだよね」

 「わかるなあ、それ」

 歩きながら、美砂と桜子の会話に、その通りだ、と同意する。美砂も桜子も、何とはなしに語っている。裏は見えない。それは言いかえれば、目の前の二人が、あの店に付いての本質を知らないと言う事だ、
 黒魔術師の住居をそのまま店にした様な、独特の雰囲気。それは、確かに特徴的で済む問題だ。

 だが、あの店の立地条件は、そんな問題を越えている。

 保護色と美砂が言っていたが、まさにそうだった。保護色。それは言いかえれば、周囲に溶け込み、何も奇妙な所は無いと錯覚させていると言う事だ。即ち、感覚誤認と認識阻害である。
 其処に店が存在しても、それを当然と思って、それで済ませてしまう性質を有していると言う事だ。
 言いかえれば、その場所にあの店が有る事を知っていて、始めて到達出来るだろう立地条件なのだ。

 「…………」

 「あ、くぎみー如何した? 疲れた?」

 「え? あ、御免。少し考え事をね。それと、くぎみー言うな」

 軽口を返す。熟考していて気が付かなかったが、見れば駅のホームだった。
 そのまま折良く到着した列車に乗り込む。席に余裕は無く、三人分を取るのも悪いだろうと考え、扉近くに立つ事にした。鉄棒に寄りかかると、肩に感じたのは疲労だ。やはり思った以上に疲れたらしい。
 夕暮れに照らされる車内の中、流れ行く都会の街並みを何と無く見つめながら、店の店主だという女性の事を、円は考えた。

 マリーア・ノーチェス。
 外見は褐色の肌に、陽気な笑顔のお姉さんだった。しかし脳裏で《不気味な泡》が囁いた言葉によれば、相当に高位の魔法使いで、学園長よりも年上。実力も、学園長以上かもしれないそうだ。

 彼女が構える店は、新宿に程近い裏通り。店には非常に高度な認識阻害が展開されており、商売として繁盛している訳ではない。しかし、売り物の質は良く、値段もそれなりである。
 神楽坂明日菜への誕生日プレゼントも、三人の手持ちのお金で購入出来た。
 しかし……。
 釘宮円には、気に成っている点が有る。



 柿崎美砂は、どうやって、あの店を知ったのだろう?



 クラスの不文律も持ち出すまでも無く、円はそれを美砂に訊ねようとは思わない。
 彼女には彼女の事情があって、彼女があの店に関わるまでの物語も存在するのだろう。無暗に立ち入る事は、御法度なのだ。そう決まっている。
 しかし、如何やら。
 覚悟はしていた事だが、自分の友人も――――やはり、一般人では無かったと言う事だろう。
 美砂が、マリーアを『魔法使い』と知っている様子は無い。何かしらの関係者の雰囲気も、余り見えない。しかし、それでも彼女は、あの店を知っていたし、顔を出す事が出来ているという。
 ごく普通の、一般人では無いのだ。



 奇妙な猫の妖を連れる椎名桜子。
 都市伝説《不気味な泡》を演じる釘宮円。
 そして、今初めて確認した、柿崎美砂の異質。



 (……ま、良いか)

 頭の中で、軽く流す事にした。
 自分も相手も、友人同士だと思っている。

 自分の内に眠る道化師が何も言わない所を見るに、『世界の敵』と成る可能性は無いのだろう。
 僅かな助言を与えてくれるだけだと言う事は、自分にとって危険という事でもないのだろう。

 だから、何も問題は無い。

 例え互いが異常で、互いが狂っていて、歪んでいるとしても、それを受け入れるのが、あのクラスだ。
 絶対に壊れない。互いが壊したくない日常こそが、あのクラスなのだ。

 それは、35人の共通認識だろう。

 「あ、あれ?」

 ふと、美砂が頓狂な声を上げる。
 その言葉に視線を向ける。見えるのは当たり前だが、麻帆良に向かう列車の、車内だ。其処には、少し遠い、隣の車両の連結近く、その座席に、仲良く座っている二人組がいた。

 片方がもう片方に倒れ込んでいる格好で――――それは、ネギと木乃香だった。
 静かに眠る少年は、ぼんやりと外を眺める近衛木乃香の膝に頭を載せている。

 「歩き疲れて寝ちゃうなんて、やっぱり子供だね、ネギ君は」

 「ま、良い気分転換に成ったんじゃない? 何時も頑張ってるしねえ」

 「まだまだ、子供だけどね。でも、……うん、修学旅行も控えている事だし」

 ふ、と円は珍しく、自然な笑顔で告げていた。




 「休息は、誰にとっても、何にとっても、大切だよね」




 列車は、麻帆良へと向かっていく。
 その穏やかさは、嵐の前の静けさだと告げていた。




     ●




 その夜。


 新宿裏通りの、名もなき一軒の店。
 暗い店内。僅かに灯された光源は、小さな蝋燭の炎だけだ。
 揺らめく光に照らされ、『魔法使い』マリーア・ノーチェスは一枚の札を捲る。
 それは『神の記述』と呼ばれるカード。
 『世界』の運命を占う事も叶える神器だ。

 「…………」

 魔女は無言で、机の上に、そのカードを放る。
 其処には、精緻な絵でこう記されていた。

 『奴隷と成る英雄』と。








 相坂さよは告げた。

 「なんか、死んだ人を呼び出すアイテムが見つかったとか、黄泉で噂されてましたよ?」








 春日美空は報告した。

 「聖魔杯が盗まれたそうっす」









 遠い遠い、遥かな世界で起きた、一つの大きな物語。
 それは形と品を変え、登場人物を変えて、再度紡がれる。


 空前絶後の動乱が幕を開ける。


















 作者です。さあ、こっから本格的に物語が混ざります。消えた聖魔杯に、呼ばれる英雄達。それがどんな意味なのか、是非とも予想して、楽しみにしてくれると有り難いです。
 化物揃いの敵を相手に、否応なしに巻き込まれるネギ君と、クラスの明日はどっちだ?

 厳しい感想でも良いので、何か一言あれば、お願いします。

 ではまた次回!



[22521] 序章その五 ~《人類最強の請負人》の場合~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/11/01 18:48

 「聖杯、という物を御存知でしょうか?」

 目の前の嫌な相手にそう言われたので、哀川潤は、取りあえず適当に返す事にした。

 「キリストの血を受けた杯の事か?」

 その言葉に、石丸小唄は、ええ、と頷いた。
 二人が居る場所は、東京某所のレストランである。
 小じんまりした内装に、二十か三十のテーブルが置かれ、座席とメニューが付随している。何の変哲もない、ごく普通の、何処にでもある様なレストランだった。

 「では、聖魔杯、は御存じですか?」

 「……大会優勝者に渡される器の方だな?」

 「ええ。やはりご存知ですか」

 しかし、その客はレストランの雰囲気とは違う。
 座っている影が二つ。
 何処にでもいそうで、逆に何処にもいない様な、個性を消した女性が一人。
 何処にもいないだろう、圧倒的な個性をまき散らす女性が一人。
 麻帆良の教壇に立つ『戯言使い』ならば、間違いなく顔を顰める様な問題人が揃っていた。

 「で、そいつが如何したんだ?」

 「ええ。……盗まれたそうです」

 そう、軽い口調で大泥棒は語った。






 ネギま・クロス31 第三章《修学旅行》編

 序章その五 ~人類最強の請負人の場合~






 水を運んで来た女性のウェイターが離れるまで見送って、大泥棒は口を開く。

 「哀川潤。貴方は聖魔杯に出場しなかったのですよね?」

 「ああ。世界の覇権なんざどーでも良かったしな。興味無いし。……それにアレだ。一緒に出てくれる人外のパートナーを見つけんのも大変でよ。ぜろりんもオレンジも人間だし。春日井春日から軍用犬を借りようかとも思ったが、面倒なんで止めたんだ」

 それは実に、彼女らしい理由ではないか、と大泥棒は思った。
 そもそも、自力で大抵の事は出来る哀川潤だ。《人類最強》の異名は比喩では無い。人間に実行可能な全てが、彼女には可能に成るという事なのだ。そして、人間以上を求める性格ではない。

 「ま、一応説明いたしましょう。聖魔杯の優勝賞品であった聖魔杯は、――――ヤヤコシイですわね。聖魔大会の優勝賞品であった聖魔の杯は、誰の手にも渡らず保管されていました。それこそ、二代目の聖魔王、優勝者である長谷部翔希の手に渡る事も無く、川村ヒデオの手に渡る事も無く、です」

 長谷部翔希は無用な力を欲するほど愚かでは無いし、川村ヒデオは、既に《闇》という存在と繋がっているらしい。
 彼らは、聖魔杯で何か大きな望みを叶える事は無かったのだ。
 いや、聖魔杯で手に入れられる力等、自分で手に入れる、という心積りなのかもしれない。
 それはそれで、とても人間らしい選択だと思う。

 「聖魔杯は、主催者である名護屋河鈴蘭が、開発者であるアーチェス・マルホランドに渡しました。彼が不当に力を使う筈が無い、という確信を得ていたからでもあるでしょう。その通り、彼は確かに使用しなかった。大会中に地下に掘ったと言う空間の最奥部で、厳重に封印した訳です」

 しかし――――と、石丸小唄は告げる。

 「しかし、それが盗まれた」

 「……盗めるもんなのか?」

 「ええ。可能か不可能かで言えば可能でしょう。実行したいとは思いませんが」

 プロであると自負が有る自分でも、――――いや、プロであるからこそ。喧嘩を売って良い相手と、いけない相手の区別は付いている。

 アウターという存在は、売ってはいけないタイプの相手だ。
 無論、仕事として盗もうとする時は、盗みを実行するが……態々、藪を突いて蛇を出す趣味は無い。それこそ虎児を得る為以外の理由で、虎穴に入る理由を持ち合わせてはいないのだ。

 「で?」

 「まあ、そう話を急かさず……。哀川潤、この写真を見て下さい」

 小唄は言いながら、一枚の写真をテーブルの上に置く。
 戦闘城塞の地下空間。秘密裏に仕掛けられていた監視カメラの中で、盗んだ犯人を捉えていた映像を、印刷したものだ。
 泥棒の面目躍如と言ったところか。変装をして城塞都市に潜り込み、こっそりと無断で拝借して来た代物である。

 「聖魔杯の周辺には、幾つもの罠や防御装置が設置されていたようです。科学的な意味でも、魔術的な意味でも。……通常の人間ならば侵入は不可能。魔人でも滅多な事では接近しない、そんな空間の奥に、安置されていたのですわ」

 「…………!――――へえ、こいつは」

 写真に映っていた犯人を見て、赤色は、感心した様な顔をした。
 滅多な事では動じない哀川潤でも、少々、意外だったらしい。

 「盗んだ相手が、それらのトラップに引っ掛かった形跡は無し。しかし、不思議な事に――――監視カメラという、一番単純なシステムには、くっきりと犯人の姿が映っていたのですわ」

 そう、まるで自分が犯人です、と見せつけるかのように。
 相手方を、挑発するかのように、映っていたのだ。
 それが、一番の問題だった。

 「で、だ。小唄。……お前がやったのか?」

 「まさかですわね、お友達(ディアフレンド)」

 写真を見た請負人に、当然の様に否定を返す。




 画像には、如何見ても石丸小唄にしか見えない女性が映り込んでいた。




     ●




 テーブルの上に置かれた、印刷された写真を見る。

 長いみつあみに、眼鏡。長ズボンと、紫の上着。髪形を隠す帽子。スタイルに、背格好まで、何処からどう見ても、その画像に映っているのは、彼女の仕事人姿だ。

 しかし、これは彼女では無い。
 自分自身で、これが自分では無いと知っている。

 「まず初めに。……私は一切、聖魔杯の盗難に関与していません。プロの矜持として言いますわ」

 石丸小唄は、その辺の泥棒では無い。大泥棒だ。
 適当な言葉で煙に巻いたり、敢えて相手を勘違いさせたりする事は有る。
 しかし、盗んで無い物を盗んだとは言わないし、その逆も同じだ。盗んだ事を隠すつもりも無い。

 「……けれどもだ、この写真はどっからどんな風に見ても、客観的に見れば、お前だよな?」

 「そう。だから困っているのですよ。態々、相手を挑発するかのような状態で、写真に身を晒している。……確かにまあ、私ならば、する事も有り得る行為ですが、しかしこれは私では無いのです」

 「証明――――」

 よっこらせ、と姿勢を変え、足を組みかえて哀川潤は聞く。
 その目が真剣に光っている。自分の話の重大さを把握してくれたようだった。

 「――――出来んのか?」

 「其処、ですね」

 まさに、それが問題だった。
 死活問題と言っても良い。

 「私は聖魔杯の泥棒を実行していません。それは私が自分で知っています。そして、この写真の女性は、私に良く似ている……いえ、似ているどころでは有りませんね。瓜二つよりも近い、間違いなく“同じ”でしょう。……しかし、似てこそいますが、コレは私では有り得ない」

 何処からどう見ても、石丸小唄にしか見えない。
 機械に撮られ、印刷されたと言う点を差し引いたとしても――有り得ない程に、精度が高い。
 多分、この写真の相手と自分と、どちらが本物か、と言われれば……同じ様にしか見えないだろう。相当の眼力を持った相手でも、見分ける事は困難ではないか、と思う。

 「アリバイの証明は出来ません。この写真が撮影された時は、丁度、東京で他の仕事をしていましたのでね。……仕事の裏付けは取れても、他に何をしていたのか、自分が城塞都市に入り込めないか、と言えば、そんな事は無いからです」

 むしろ可能だ。ちょっと暇を見つけて城塞都市に入り込み、聖魔杯を盗み、他の仕事を完遂する。
 自分ならば出来ると、言える。
 確信を持って言う事が出来てしまうからこそ、困っている。

 「つまりこれは、お前にそっくりな誰かだと」

 「ええ。……其処で、哀川潤。貴方にお尋ねしますが」

 泥棒は、自分に誰も注目していない事を確認した後で、言葉を紡ぐ。




 「これ、貴方では有りませんよね?」




 哀川潤は、今、目の前に有る姿を、容易く変える事が出来る。
 変える必要のない時は、自分の姿をアピールするかのように赤色に身を包んでいるが、時々は違う事も有る。具体的に言えば、かなり昔の事に成るが、斜道卿一郎研究施設に入った時とかだ。
 そのスキルは、機械ですらも騙し通す声帯模写技術や、警備システムを潜り抜ける事が可能。
 彼女が、そんな力を使う事が少ないだけで――――使わなくても十分に仕事を完遂が可能な故に、使う機会に恵まれないだけで。
 人類最強の名の如く、人類トップクラスの才能を発揮し、実行出来るだろう。

 哀川潤は、自分に変装する事が出来るのだ。
 そして、自分と同じ仕事を終わらせる事が出来る。

 「違うな」

 「……でしょうね」

 「そんな面倒な真似はしねえよ。正面から行く」

 「ええ。理解しています」

 石丸小唄も、別に本気で、彼女が盗んだとは思っていない。
 自分と同じ事を実行可能な人材で、尚且つ近くに居たから、今後の事も兼ねて確認を取っただけである。

 そもそも、仮に哀川潤が泥棒をしたとして、監視カメラに映ったとしよう。そんなへまをする可能性は零に近いが、それでも仮定の話でするのならば。
 堂々と素顔を晒し、得物を片手にポーズを決めて不敵に笑って映る、位までして、それで彼女だ。

 だから、断定できる。

 こんな如何にも、自分に罪を被せようとする写真に映っている相手が、目の前の赤い請負人の仕業で有る筈が無いのだ。

 「と、致しますと……。これは中々、困った事態でございますわね」

 「ああ。……だから、私を呼んだんだろう?」

 「ええ」

 そう、正直に言うと、結構に困った事態だ。自分一人で解決出来る事態だとは、全く思っていない。
 事象の見極めは、スペシャリストには必要不可欠。出来ない事を出来ないと認めないと、あっさりと死んでしまうのが裏の業界なのだ。

 「貴方に頼るのは癪ですが、背に腹は代えられません。私からの依頼を請け負って下さいます?」




     ●




 状況を整理しようか、と請負人は言った。
 テーブルの上に置かれた写真を摘み、ひらひらと示す様に振る。

 「これは……。この写真の女は、何処からどう見てもお前だ。私だってココまで見事に変装するには、ちいっとだけだが、間違いなく苦労する。準備も含めて、二、三日は必要だろう。しかも変装だけじゃない。口調、態度、挙動、行動倫理、更には見に纏う雰囲気まで――――全てをお前と“同じ”に変えるなんてのは、難易度が中々高い」

 不可能じゃない、と言う辺りが哀川潤だった。

 「で、だ。そうなると、純粋な変装よりも、確実な方法が有る。幻術や身体変化。……所謂、魔法や魔術的技能による変身だ。こっちを使えば、随分と難易度は低くなる。侵入に特殊技能が必須、ってことは間違いないけどな」

 そちらの方面でも、多分、相当なレベルの存在なのだろう。人間ではない可能性もある。
 アーチェス・マルホランドを初めとする高位のアウターが、しっかりと封印する為に築いた堅牢な砦から、対象を盗み出すのだ。身体能力が優れているだけでは如何にも成らないだろう。

 「個人では無い、可能性が高いですわね」

 「ああ。最低でもお前と同等以上の身体能力を有し、尚且つ魔法・魔術技能に精通し、――――面倒な事に、“盗み出す”なんて事を実行する奴だ。……結果だけを見れば、十中八九、個人じゃない。トラップを解除する奴と、盗む奴の、最低でも二人以上。もしかしたら変装している奴も含めて三人かもしれねーな」

 例えば、哀川潤の上げた「条件」を満たす事が可能な存在は居る。

 アウター ――アーチェス・マルホランド以上の実力を有する存在ならば、盗む事は可能だろう。
 しかし、聖魔杯の存在を知る魔人や魔神が、泥棒に入るとは思えない。何か目的が有るのならば、直接本人か名護屋河鈴蘭か、あるいは勇者に頼めばいいのだ。

 頼む事をしなかった。それは即ち、魔神や魔人では無い、別勢力による奪取と言う事実を示している。

 さらに、請負人と大泥棒は話す。

 「この世界。言いかえれば『暴力の世界』じゃ、お前も相当な有名人だ。そして、お前と同じ事が実行できる存在、となると其れだけで実行犯が絞られちまう。……しかし、それでもこの相手は、態々、泥棒をした。御丁寧に証拠まで残して」

 実力の高い存在ほど、その絶対数が少ないのは当然だ。
 グループで結果を出したと見込んでも尚、石丸小唄以上のレベルの者は、哀川潤とて多くを知らない。

 「要するに、裏は裏でも、恐らく――――直接、この世界に関わりの無い者。“此方側”で暴れても問題が無い者。……そう、例えば『魔法世界』に本拠地を持つ者である、と言う事ですわね?」

 「其処までの断定は出来ねえが。……ま、そんなところだろうな。『魔法世界』か、『学園都市』か、隔離世から知らねえが。――――で、如何する?」

 私に何を頼むんだ? と請負人は聞く。
 石丸小唄は、そうですわね、と言いながらも、何を頼むかは決定していた。




 「哀川潤。……悪魔の証明を、お願いしても宜しいですか?」




 別に、何処で何が盗まれようが、自分の伝説が独り歩きしようが、全く構わないが――――自分に濡れ衣を被せ、あまつさえ利用するのは、これはちょっと、許せない。

 自分に対する侮辱は、自分の手で報復をさせて貰おう。
 売られた喧嘩だ。プロとして買わせて貰おう。

 だから、侵入した犯人。
 盗んだ相手は、自分が蹴りを付ける。

 何時、誰が、何の為に、あの聖魔杯を盗んだのかは解らないが。
 それでも、大泥棒の矜持に懸けて、少し本気で動く。




 「――――ああ、良いぜ。請け負ってやる」




 その大泥棒の空気を感じ取り、赤色の請負人は獰猛な笑みを浮かべた。
 猛々しく、シニカルな、全てを塗り替える深紅の態度で、牙をむいた。

 悪魔の証明。それは即ち、不可能の証明だ。
 石丸小唄が、あの泥棒を実行していない事を、証明する。
 彼女が行ったと証明するよりも、事実無根の証明という、遥かな難問を――――彼女は軽く請け負った。


 だからこその、最強。
 だからこそ彼女は、誰よりも物語に必要な、ヒーローなのだ。
 誰もが憧れる、熱く輝く、存在なのだ。
 彼女に任せておけば、大丈夫だろう。
 それは、信頼や確信では無い。
 事実だ。

 石丸小唄は、現状を認識しつつも尚、くすり、と笑みを浮かべた。








 「ところで、当にお気づきかと思いますが、周囲が危ないですわね」

 「ああ。入った時の客層から店の関係者まで、全部が全部、綺麗に入れ変わってるな。……具体的に言やあ、血と硝煙の匂い、って奴だ。敢えて放っておいたけどよ」

 「厨房の料理人からウェイターまで、揃って銃火器の携帯とは。……狙いは私でしょうね。全く、アウターのくせに、人間兵力動員からの動きが早いと言いますか」

 「あるいは、お前と関わった、私への牽制かも含むかもな? ……ま、あれだろ。何れにせよ」

 この状況を楽しむかのように、上機嫌で、哀川潤は言った。

 「逃げるか」

 「ええ」






 その日の東京の夕刊に、国道沿いの24時間営業のレストランで、謎の爆発が発生し、店が全焼したという記事が掲載された。
 警察は出火原因を調べるとともに、直前に店の周辺に集まっていた怪しい集団が、事件に関与している可能性が有ると見て調査を進めている、と書かれていた。


 店の一角で話し込んでいた、二人の女性の存在は、何処にも記されていなかった。






 《人類最強の請負人》。

 哀川潤。

 参戦。















 大活躍予定の哀川さん。歩く理不尽とも言われる、その怪物的な実力を奮うのはまだ先ですが、これで彼女も登場です。京都最終決戦が、怪獣大戦争というか、凄い事になるでしょう。

 作中で推測しているので丸解りかと思いますが、犯人は、原作で株が絶賛大暴落中の彼女。でも、実力や性格は補正されています。他のガールズ同様、かなり手強いですよ。

 京都への伏線と言う事で危険なフラグばっかり乱立していますが、盛り上がる前には準備を入念に行う必要があるので、辛抱をお願いします。

 ではまた次回!



[22521] 第三部《修学旅行編》 その二(裏)
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34
Date: 2010/11/02 22:27


 ネギま クロス31
 第三章《修学旅行》編 その二(裏)




 密やかに、しかし確実に、世界の裏で動乱の種が捲かれていた。
 種は、麻帆良の停電を機に、発芽を初め、大きな混乱の花を咲かせていく。
 深く暗い、何処かで。
 神達も又、世界を伺っていた。






 「由々しき事態です」

 周囲に並ぶ魔神達に臆する事無く、黒服の少女は告げた。
 大広間の様な空間。宙に浮かび、周囲を見回しながら、深刻そうな表情で、闇理ノアレが言う。
 否、深刻そうな、では無い。深刻な話だった。

 「皆さま、既に耳にされていると思いますが……」

 ともすれば小学生にしか見えない少女が、場を取り仕切る様に語る姿は、不釣り合いだった。
 しかし、其れを指摘する者はいない。周囲にいる者たちは皆、目の前の少女が、どれ程に“とんでもない”存在の一つであるのかを、承知しているのだ。

 其処は、まさに魔城だった。
 中央に入る、闇理ノアレを除いたとしても、その場には怪物しかいなかった。
 『魔法世界』の伝説に語られ、古き神達と呼ばれる、最高位のアウター達が並んでいた。
 さながら、かつて魔王の周囲に集った『円卓』と呼ばれる状態を示すかのように。

 「聖魔杯が、消えました」

 その一言に、周囲の空気が動く。
 深く、暗く、畏怖を周囲に知らしめるかのように。

 ――――聖魔杯。

 世界の命運を握る、二代目聖魔王を決める戦いにおいて、優勝者の証と示された器。
 そして同時に《億千万の闇》を呼び起こす神器として使用される、召喚媒体。
 それが、消えた。

 「正確に言えば、盗まれました」

 かつて“聖魔杯”において。
 アーチェス・マルホランド――――かつて魔王の側近を務めた《暗黒司祭》バーチェス・アルザンデは、『聖魔杯』を利用する事で、最強最古の神《億千万の闇》を召喚して、望みを叶えようとした。
 しかし最終的に、彼は川村ヒデオに敗北を喫し、《億千万の闇》もウィル子に帰された。
 其れほどの神器は、今、管理者達の手元に存在しない。

 「……御安心を。《闇》は、動きません」

 《闇》を送り返した時、川村ヒデオは死んだ。そして、《闇》に蘇生させられた。同時に彼は《闇》に見込まれ、眷属として生きる事を望まれている。
 その監視役たる《億千万の闇》の端末・闇理ノアレがこの場に居る。
 そして《億千万の闇》が契約した、川村ヒデオも、未だに存命中だ。

 故に、《闇》は動かない。

 ざわり、という空気が鳴動する。
 其処に有ったのは、安堵と緊張だった。
 しかし。

 「聖魔杯は、何も《闇》だけを呼び出す道具では有りません。アレほどの神器。使い方を変えれば、何か別の――――もっと“他の存在”を、呼ぶ事も可能になるでしょう」

 ノアレは、ぐるり、と周囲を見た。
 其処には、世界を滅ぼせる怪物達と、関係者が揃っている。

 《億千万の眷属》たる、口が、指が、鱗が、腕が、瞳が、喉が、電脳がいる。

 アウターたる、鬼が、蜘蛛が、魔導師が、学者が、狐が、氷帝が、姫が、剣神が、いる。

 リップルラップルとマリアクレセルの姉妹が揃っている。

 長谷部翔香とクーガーと名護屋河鈴蘭が、静かに傾聴している。

 「盗まれたこと自体は、私達の不手際です。アレほどの神器、人間や魔法使いが目を付けぬ筈は、有りませんもの。盗まれた我々が悪い、としておきましょう」

 しかし、と闇の少女は、周囲に告げる。
 その態度は飽く迄も優雅に、しかし酷く不安を煽った。
 その背後に居る《億千万の闇》の意志を、示しているかのようだった。

 「――――聖魔杯が奪われ、使用される以上……我々に介入されても、文句は言えないと言う事ですよね?」




     ●




 所変わって、東京都某所。

 セレブや金持ち、果ては政治家達も御用達の高級ホテルを、ウィル子のナビで探し出し、乗り入れる。
 一応、適当では有るが、マナーと言う物を那多蒼一郎から聞いている。自分に不釣り合いな外車を建物の外に止め、出て来た案内係に鍵を渡して、駐車を頼んでおく。自分の姿を見た途端に、フロントにいた女性が一瞬、顔をひきつらせたが、其れほどに自分は迫力が有るのだろうか、と川村ヒデオは思った。

 「ほ、本日はどの様な御用件でしょうか?」

 多分、あるのだろう。
 無理も無い、と思う。何せ今の自分は、『魔殺商会』に属していた時と同じ、黒スーツにサングラスという、マフィア顔負けの姿。目つきが悪い事は自覚しているし、真っ当な人間に見えない事も承知の上だ。

 「……話が、通っていると思いますが」

 良く見れば、その手がカウンターの下に伸びていて、何時でも警備員を呼べる状態に成っていた。
 しかし、ヒデオの一言で、客だと考え直したのだろう。直ぐに取り繕い、女性は言う。

 「はい。お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」

 自分の背後に、今は同僚である北大路美奈子はいない。彼女は麻帆良で仕事が残っている。だから、特に何も言わず、大事な要件です、とだけ語って出てきてしまった。

 嘘は言っていない。しかし、嘘では無いだけだ。
 その事実に、僅かに心が引っ張られるが、顔には出さない。

 どうやら相当に重要な話らしく、如何しても自分に話したい、と言って相手は連絡をくれたのだ。その真剣さと剣幕に、ウィル子も思わず了承し、他者への口外厳禁も約束してくれた。
 何よりも自分に、話を持ちかけたというその事実が――――事の重要さを、露わしている。

 ヒデオは自分を呼び付けた女性の名前を出す。




 「――――霧島レナ、という女性から、聞いていないでしょうか」




     ●




 遥か神代の時代より、世界を見ていた魔神達は知っている。
 どれ程に時が移ろうとも、人間という生命は愚かであると言う事を。
 しかし同時に、十分に知っている。
 そんな人間の中にも、自分達が認める存在が生まれ出ると言う事も。
 故に、彼らは互いに問うた。
 何処まで我らが、口を挟もうか、と。






 初代魔王のリップルラップルが告げた。

 「今は、状況Dなの。何も問題は無いの。……でも、仮に聖魔杯や、それに連なる問題が発生すれば、嘗ての様に。天の介入を招く事にも成りかねないの」

 ノアレの語った通り、《闇》が表に出て来る事は、まず、あるまい。
 仮に顕現したとしても、川村ヒデオの周囲だけ。彼の身を殺さない様に、守ったり、補ったりが精々だ。
 だから、本格的に天の介入が早々に発生するとは、思っていない。

 「それは、可能性の話なのかな?」

 はい、と手を挙げた上で発言をしたのは、名護屋河鈴蘭だった。
 かつて人間として聖魔王の位階に付き、世界を造り変える天の兵器《ユグドラシル・システム》を壊した経験を持つ彼女だ。
 言葉を信じるのならば。自分が生きて居る限り、天が世界を、再度造り変えるとは思わないが……基本的に、彼らも魔神。人間の頼みなど簡単に無視して、自分の意見を翻す事も考えられる。

 「……まあ、現状は静観、で納まっていますが」

 天の代表。リップルラップルの妹・マリアクレセルが答えた。

 「仮に、この場に居る皆様か、あるいは消えていないアウターか。そんな方々と同じレベルの物が、あの聖魔杯から“呼ばれ”、そして暴れた場合、状況Aに匹敵する可能性は有るでしょう。少しならば見逃しますが、仮に恒常的となると……。まあ、再考の余地は生まれるでしょうね」

 「――――そっか」

 そうなっちゃうか、と鈴蘭は息を吐く。
 聖魔杯が盗まれたという事実で、最も大きなダメージを受けているのは彼女だった。
 人間と人間以外の全てが、等しく楽しく生きていける世界を望む。
 その理想を突き詰め、形へと変えて来た彼女だからこそ、目に見えない反乱は大きなダメージだ。
 その身には殆ど危害は加えられていない。だが、精神的な衝撃と、重なる疲労が確実に蓄積していた。

 「……動く?」

 いや、と。違うか、と鈴蘭は言い代える。

 「皆は。動く事に、躊躇いは無い。……そんな認識で、良いかな」

 周囲に向かって、声を放つ。
 その地位を他に譲ったとしても、その身に秘めた資質は存在する。
 魔神に認められ、天を倒し、己の物語を、自分自身で造り上げた彼女だからこそ、見抜いている。

 「――――楽しむのに、良い口実が出来た、かな」

 前々から承知はしていたのだ。
 あの《神殿教会》のマリーチが、世界の行く末を何よりも楽しんでいる事。
 川村ヒデオや、その他の出会った人々が、妙に他と絡んでいる事。
 徐々に徐々に、得も言われぬ、何か見えない危機が存在している事に。
 鈴蘭は肌で感じ取っていた。

 「現状を。何よりも正しい認識を。世界で動く流れを。――――確認した後で、決めようね? 皆? 私も、動きたいんだ」




     ●




 東京・霞ヶ関の一角に、宮内庁神霊班のオフィスビルがある。

 人間社会に害を成す悪霊討伐や、負の想念の祓い。果ては隠れ潜む魔人への対抗など、日本の裏で頑張る、宮内庁のオカルト部署である。
 その中の、大きな一室。川村ヒデオ、名護屋河睡蓮、《鬼姫》長谷部翔香に、ほむら鬼。最近加わったアウターの七瀬葉多恵等、色々な意味で問題あるメンバーが集まる事が多い、その部屋の中で。
 目の前の電話が鳴った。

 「……ふむ」

 誰かが取ってくれるだろうか、と思ったが、部屋の中を見ると、彼しか受話器を取れる者がいない。

 川村ヒデオは麻帆良に出向中で、名護屋河睡蓮は姉の為に色々と動いている。
 長谷部翔香と七瀬葉多恵、ほむらの三者は、《闇》の精霊と一緒に、何やら深刻な話に出向いている。

 直接、自分のデスクに懸かって来た、と言う事は――最近出向して来た面々では、役不足だろう。
 仕方が無い、と息を吐き、愛妻弁当の箸を置いて、那多蒼一郎は受話器を取った。

 「はい、宮内庁神霊班の班長、那多蒼一郎ですが」

 「あ、ええと……初めまして。那多さん――――で宜しいですか?」

 受話器の向こうから聞こえて来たのは、聞き覚えの無い男の声だった。
 那多はプロだ。これでもアウターを相手に張り合った時期も有るし、辣腕ぶりを鈍らせた覚えは無い。

 「――――ふむ。そうですが?」

 無難な返事をした那多の、訝しげな声色を聞きとったのだろう。電話の向こうの相手は、なにやら説明する様な口調で、付け加える。

 「ええと、伊織貴瀬さんと、鈴蘭さんの妹さんから、番号を伺いまして。それで、少し重要な話なので、そちらにも話を付けようと思ったのですが、川村ヒデオ君は、不在、と言う事で。……ええと、それで上司である宮内庁の班長さんにも伝えようかと」

 変な言葉遣いだが、言葉の中に、嘘を言っている雰囲気は無い。
 鈴蘭と睡蓮、名護屋河の二人が今現在、一緒に行動している事は承知の上だ。
 確か揃って、奥多摩山中の本社ビルで重要な話をしていた筈だ。伊織貴瀬から情報が回ってきている。

 「――――ふむ、了解した。――――で、其方は、どなたかな?」

 声だけすれば、優男。しかし、この部屋に連絡を入れると言う事は、生半可な人材では無いだろう。
 言葉に注意をしながら、彼は相手の出方を伺う。




 「あ、御挨拶が遅れました。すいません。私、《アルハザン》首領。アーチェス・マルホランドです」




     ●




 世界の運命を見る者がいたとしたら、きっと彼らはこう告げただろう。



 ――――赤い糸が、世界中を巡っているわ。

 《幻想》世界の紅い月は、喜悦を瞳に言うだろう。



 ――――運命は……全て、同じ形を……。同じ、物語を……。

 見えない《酸素》は誰にも届かない声で囁くのだろう。



 ――――さあ、観客も主演も一つの舞台に集まっているわよ?

 視姦の魔神は、笑顔のままで残酷に告げるのだろう。



 ――――観察しよう。娘達よ、君達の眼で見ていなさい。

 《薔薇人形》を生んだ人形師は、ただ静かに呟くのだろう。






 「今頃は、恐らく。……アーチェスを初めとする、外に顔を効く者が動いておろう」

 みーこが語る。傲岸不遜を形にした魔神は、周囲より一つ格上の空気を示しながら。

 「聖魔杯を奪った者を追うと同時に、大会の関係者や、我らに関わる者達に話を繋げておる。あ奴らも愚かでは無いよ。むしろ、人間社会に直接に被害が与えられた場合、色々と面倒を受けるからのう」

 その内の一環として、監視カメラに記録されていた人間の行方を追っているらしい。
 伊織魔殺商会やゼピルムやらの関係で使われた、傭兵や歩兵戦力が展開しているようだ。




 盗まれた当時の、詳しい状況の説明をしよう。

 気が付いたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、麻帆良の地で一騒動を起こした頃だ。
 城塞都市で、ウィル子から通信でお祭り騒ぎ(カーニバル)を観戦していた時だった。

 唐突に、地下で一つの魔力を感知した。
 もっと正確にいえば、地下で感知していた魔力が、乱れたのだ。
 地下深い、かつて川村ヒデオ一向が採掘仕事をされた、聖魔杯が保管されていた場所からだった。

 何かあったのか、とアーチェスが、配下を引き連れて確認に向かった所、聖魔杯が、消失していたのだ。
 その直前までは、確かに科学的に存在が感知されていた聖魔杯が、消えていた。

 だが――――其れだけならば、此処まで大きな問題では無かった。

 その後の調査で、判明した事。
 それは。



 聖魔杯が盗まれたのは、大凡、三ヶ月以上も昔の事だった、と言う事実だ。



 詳しい調査で既に判明している事だが、その直前まで、皆が聖魔杯と思っていたアイテムは、実は偽物で、レプリカ未満のものだったのだ。

 情けない事に。
 三カ月の間、誰も、聖魔杯が盗まれていた事に、気が付かなかったのだ。
 都市に住んでいた面々は愚か、アウターまでも、気が付かなかった。
 気が付かぬ内に侵入し、対象を掏り替えられていた事に、誰も気が付かなかった。

 簡単に侵入し。
 聖魔杯と見分けが付かない、しかし空の器と入れ替え。
 とうの昔に本物が交換されていた事に、誰も気が付けなかったのだ。

 魔力の乱れは、複製された偽物の聖魔杯が、顕現限界を越えて消失した時の物だと判明している。
 そして、魔力の消失した際の波長や、僅かに残った空気中の残滓から、大凡数カ月単位で顕現していた事も、判明した。

 其れを念頭に置いて、周辺の警備システムを、《億千万の電脳》の力も借りて組まなく探した所――――監視カメラにだけ、聖魔杯を抱える人物が映っていたのだ。
 聖魔杯が盗まれ、本格的に調査をしなければ決して発見出来ないような、そんな僅かな記録の中に、画像は残っていた。

 それは、まるで、自分が盗んだと挑発しているかのようだった。
 映っていた人影が、大泥棒・石丸小唄であると調べが付いた事は、言わずとも良いだろう。




 「あの人物が、本当に盗んだかは、後じゃ。捕まえてから話を聞けば良いからの」

 こんな時に最も役に立つだろう《神殿教会》の預言者は、一切動いていない。
 マリーチのみは、この状況を悟っていた様子も有るが、面白そうだという理由で見逃したのだろう。逐一、顔を出して訊ねなくても想像が付く。無論、犯人についても教えてくれていない。

 「しかし、判明している事が一つ」

 くく、と含み笑いをしながら、みーこは告げた。

 「ノアレの言う通りじゃ。……何かは知らぬが、我らに手を出した、と言う事だよ」

 くく、と、日本神話最高の英雄の娘は、笑みを浮かべる。

 不謹慎な事に、彼女は心が躍っていた。
 現状を認識すればするほどに、心が高揚してしまう。
 だから、どうしようもなく、彼女は《常識の外側(アウター)》なのだ。

 「全て。全てが繋がっておったのだよ」

 今ならば、これ以上無く、明白だった。

 三カ月ほど前、名護屋河鈴蘭とセリアーナが、『魔法世界』のメガロメセンブリア元老院からの刺客に、凶刃を向けられた時。
 麻帆良地下で、アルビレオ・イマの元に出向き、簡単な会合を開いた原因ともなった事件。
 ここ最近で方針を変え始めた、『魔法世界』メガロメセンブリア元老院の態度も、それで説明が付く。

 あの時既に、相手の攻撃は始まっていた。

 恐らく、アレは隠れ蓑だったのだ。
 あの自害した犯人達は、ヴィゼータで賽にした後で喰らってやったが、あの時、既に、聖魔杯を奪取するシナリオは開始されていた。
 混乱の僅かな隙を付いて聖魔杯を偽物と入れ替え、三月の機関で、準備をしていたのだ。
 より大きな計画を、実行に移す為に。

 「さて、此れまでを聞いて……お主らは如何する?」

 ニイイ、と唇を歪め、みーこは周囲に告げた。
 反対の声は、上がらなかった。




     ●




 同時刻、麻帆良の職員棟を訊ねていた人間が居た。
 嫌でも人目を引く巫女服に身を包んだ、凛とした美貌の日本風美女である。

 「川村ヒデオの居場所は、何処でしょう」

 礼儀を弁えつつも、何処か威丈高な口調。眼光は鋭く、生まれ育った家の厳粛さを示す様な振舞いだ。

 休日と言う事もあって、室内にいた教師は多くない。応対にやや難が出たが、取りあえず隣接する応接室に彼女を通し、近くに居るヒデオの関係者に収集を懸ける事になった。
 待つこと十数分。慌ててやってきたのは、ヒデオでは無く、その同僚の婦警である。

 「すいません。ヒデオさん、今、少し出ているんですが」

 その姿に(この場合は、姿と言うよりも、こんな格好で出歩いている事に対してだったが)、やはり呆気に取られつつも、来客の応対をしたのは、北大路美奈子だった。
 偶然、裁かなければいけない教師としての仕事が残っていて、休日出勤だったのだ。

 警察庁心霊班に所属する美奈子は、目の前の相手がヒデオの同僚の――――宮内庁神霊班の人間である事は知っている。職員室に直接顔を見せに来るとは、かなり大きな要件が有るのだろう。そう思い、多少の事情を知っている美奈子が、睡蓮の相手をする事を申し出たのだ。

 美奈子は応接室に腰をおろし、出された緑茶を真面目に飲んでいる相手と対面する。ヒデオを訊ねて来た女性と、向かい合う様に。

 美奈子が優秀である事は、睡蓮も承知している。だから、この場にヒデオが居ないという情報を聞き、幾つか簡単な話をすれば、それで終わる……筈だったのだ。

 唯一点。
 普段通りの言葉遣いで。



 「……そうですか。――――ところで今。川村ヒデオの事を、“さん”と呼称しましたか?」



 彼女が、つい、そう呼んでしまった言葉に、睡蓮が訝しんだ事を、除けば、の話である。

 ……仮に。もしも。仮定の話として。

 この場に川村ヒデオが居たら、実に面白い光景に成ったに違いないのだが、残念ながら彼は今、霧島レナに呼び出されて高級ホテルで会談中である。
 余計な茶々を入れるメンバーも、この場にはいない。

 ……。

 …………。

 空気が重くなった。

 「ええ。ヒデオ“さん”と呼びました。何か問題が?」

 睡蓮の表情は変化せず、美奈子の表情は笑顔のままである。
 しかし、何処と無く周囲の空気が冷たくなっているのは、間違いでは有るまい。

 この時、両者共に、なんとなくでは有るが、譲れない感情が有る事を、心の中で感じ取っていた。
 見る人が見れば、“修羅場”と表現したかもしれない。

 この時、職員棟にいた教師全員が、背筋に寒気を感じたのだが、話の本筋とは関係無い。

 …………。

 ………………。

 沈黙が部屋を支配した後、口を開いたのは睡蓮だった。

 「……まあ、良いでしょう。それで北大路美奈子。今現在、川村ヒデオは何処に居ますか」

 「解りません。本日は休日。ヒデオさんは、用事が有ると言って外出しました」

 「外出先は?」

 「不明です。何か重要な仕事だと思いますが」

 「なるほど。聞かされていないと。――――余り役には立ちませんか」

 「本来ならば、知らなければいけないのは、貴方ではないでしょうか?」 

 「数か月も一緒にいて休日の予定も聞いていないのですか、常識知らずな」

 「失礼ですね。休日に職員棟に巫女服で来る人間に言われたくは有りません」

 ――――ピッシャアアン!

 稲光と共に特大の雷が落ちた。
 と、音楽室前の廊下を歩いていた鳴海歩は錯覚したそうだが、関係は無い、筈だ。

 「――――美奈子殿も、睡蓮殿も、少し落ち着かれたほうが」

 「岡丸。少し静かにしていなさい」

 「十手。少し口を閉じていなさい」

 常識的な発言を封じ、両者共に、正面から見つめ合う。
 ここに、川村ヒデオを巡る戦いが、幕を開けたそうである。




 因みに、名護屋河睡蓮が本来の目的を思い出すのは、一時間後の事である。




     ●




 形へと繋がっていく。
 決して抗う事が不可能な、怪物の会話が。
 世界という玩具で遊ぶ、この世に成らざる異形達の歓談が。
 全てを滅ぼすカミ達の、その行動の結びが。
 この時、世界の命運が決まりかけていた事を、その場に居た者たち以外は、誰も知らなかった。
 ほんの気紛れで、この世界を壊せる連中が、動きかけた事を、知る者はいなかった。




 彼らを止めたのは、唯の一柱の、発言だ。




 手が上がる。

 「ねえ、少し言いたい事が有るの。良い?」

 「なんじゃ。《腕》。――――主がか? 珍しいの」

 みーこの視線の先には、同じ《億千万の眷属》である、《腕》と呼ばれる存在がいた。

 遥かな過去に置いて天との戦争に敗北し、その身体を封じられている彼女は――――故に、現在は『円卓』程の力を有してはいない。
 しかし、紛れもない神族であり、彼女が有する存在価値は、誰もが認めていた。
 何せ、創造神の血を持っているのだから。

 「ええと。……今回の出動に関して、お願いがあるの」

 「反対、を唱える気かのう?」

 「ううん」

 否定をしながら、立ち上がった。
 《腕》の背後に控えていたメイド兼護衛が、素早く椅子を支える。

 「まさか。基本方針は、皆の言う通りで良いわ。私も、外にも人間にも興味無いし。……でも」

 赤い服に、六枚の黒い翼をもった彼女。
 魔界の最奥部に城を構える、魔王とは“違う意味”での、魔界の最高権力者。
 《億千万の腕》は、言葉を選んで、続ける。

 「でもね、――――ちょっと時間が欲しいのよね。猶予、っていうの? 待機しておいて欲しい、っていうのかしら」

 ほんわか、とした余裕を崩さないまま、彼女は両手を合わせて、お願いしたいわ? と言う。
 顔付きと態度だけを見れば、幼い子供が其のまま成長した様だが、見掛けだけだ。

 「……何を……いや。――――詳しく話す事じゃな」

 水を指されたみーこは、しかし、その相手の態度の中に、何か他の存在の意志を見る。
 《口》の言葉に、そうねえ、と指を顎に当てながら、《腕》は言う。

 「実はね。私達が動くのは構わないけれど、その前に、出来るだけの準備をしておきたい、って言った人がいるの。それで、私から話題に出して欲しい、ってね」

 「……もしやとは思うが」

 彼女に頼みごとをした存在に、心辺りが有ったのだろう。珍しくもその表情を僅かに顰める。彼女のその態度だけで、その場に居た面々にも理解出来たらしい。

 「あやつか」

 みーこの言葉に。

 「ええ、そうよ」

 と簡潔に、笑顔のまま頷く。
 釣られて、彼女の頭のアホ毛がぴょこんと揺れた。

 熱気に包まれていた周囲に、溜め息とも呆れ声とも取れる、ざわめきが広がる。
 “その人物”に対する評価を思い出し、相対した時の雰囲気を思い出し、知らず知らずに溜め息を吐いたのだ。

 “その存在”は、戦闘能力のみに限定して言えば《億千万の眷属》には、全く及ばない。
 しかし“彼女”の有り方は、余りにも異質で、特異だった。
 ここに居る面子とは確かにズレテいるが……一目置かれている存在、という表現が正しいだろう。
 魔神を持ってしても「本当に変な奴だ」という表現が生まれる、胡散臭い存在だ。

 周囲に己の言葉が行き渡った事を確認して、《腕》は再度口を開いた。

 「ええとね、ほら。私達が暴れると、割と簡単に災害以上の被害が出ちゃうでしょ?」

 「……まあ、そうじゃな」

 みーこは、腕組みをして肯定する。

 「そうすると、昔みたいに喧嘩をする事に成るわよね。まあ、面白半分に人間側に付くのもいると思うけど、結果として凄い被害が出ちゃう」

 「ま、確かに、そうなの」

 リップルラップルも頷く。
 過去に伝説のアトランティスを、病魔メドゥーサや古代文明と諸共に葬った経歴は伊達では無い。

 「でも、そうすると、私達は良いとしても――――無関係な仲間も、ダメージ受けちゃうじゃない。『魔法世界』で隠居している皆とか。人間社会で隠れている皆とか。後、何処かに封印されているアウターとか」

 最後だけを妙に具体的に仄めかす。
 それで、大体の言いたい事は伝わった。

 「……成る程。まあ“あの人”らしい言葉ですね。そう言う物を気にするとは」

 時々顔を見せているという土蜘蛛・七瀬葉多恵が、苦笑する様に微笑んだ。

 自分の好きな行動をする時に、其れを自制して、他者を考える事が出来る者は、この場所にはいない。
 けれども、渦中の存在は違う。
 何よりも、己よりも大切な物を抱える異形だ。

 だからこそ、この場の面々とは一線を引いている。
 他のアウターと比較して見れば有り得ない言動だが、“あの妖怪”の、そんな態度や行動が紛れもない本気で有る事は承知している。

 だから、誰も消さない。
 その有り方が、とても珍しい、希少な物だと知っているからだ。

 「それで、もう少し。……ええと、一カ月? だったかしら。その位だけ、待機して欲しい、って言ってたわ。その後は、まあ、お好きにどうぞ、って。『最低限、それだけの期間が有れば、隠れ潜む異端者や、消えるべき異邦人を初めとする、境界等の“此方側”の問題は、解決出来るでしょう……』って、言っていたもの」

 「ふむ、怪しく笑って、かな?」

 「怪しく笑って、ね」

 茶化す様なリッチの言葉をそっくり反芻し、因みに、と彼女は続けた。

 「私は提案に賛成したわ。可愛いアリスちゃんにも、少しだけ関わる話題でも有ったから」

 其処まで行って、《億千万の腕》は腰を下ろす。

 先程までの、唯の熱狂に任せた会談とは形が変わっていた。
 《腕》と、彼女の裏に有る者の意志は、単純だ。自分達が受けるデメリットやリスクを、最小限に抑え込む為、事前に手配した上で行動すれば良い、と言っているだけだ。

 その言葉は、彼らの感情を僅かに冷やす。

 自分達ならば兎も角、闘争から見を隠す、古くからの仲間に無駄な被害を出すのは、少し迷う。
 神世の時代からの顔馴染みは、もう数が少ないのだ。戦って消すならばまだしも、見ず知らずの場所で消えて貰うのは――――少し、嫌だ。
 喧嘩相手が消えるのは、勘弁してほしいという、自己満足の為だが、躊躇する事は確かだった。
 どうする? という空気が、漂った。

 「……ところで、魔界神。訊ねるわ」

 その隙を付いて、静かに話を聞いていたエルシアが声を上げる。
 魔王の娘であるエルシアは、当然、魔界神である《億千万の腕》とも交流が深い。
 静かに佇む金髪メイドや、魔界神の娘、アリスとも知人だった。

 「そのスキマ妖怪は、当座の所、一体何をするつもりなのかしら?」

 「ああ、そういえば、言ってなかったわね」

 パン、と軽く両手を合わせて。






 「京都に封印されている飛騨の大鬼を、解放しに行くって、言ってたわ」






 《億千万の腕》と呼ばれる、魔界の創造神。

 神綺と呼ばれる魔神は、微笑んだ。








 古の都に、全ての役者が揃うまで、後、少しである。
















 修学旅行の爆弾・その三。八雲家参戦フラグが成立しました。

 神綺ママ。この話では《億千万の腕》という怪物です。名前の由来はその内に出します。
 相性・精神力・立場・能力差等も有るので一概には言えませんが、名護屋河睡蓮と博麗霊夢が、ほぼ互角だと考えれば良いかなと思います。詳しくは、また彼らが出て来た時に。
 誤字やミスは逐一修正しますので、御了承下さい。
 伏線を全て出し終わるまで、もう少しです。
 ではまた次回。


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