……何をやっているのだろうか、あの騎士は。確かに自己再生能力は強力だけどそれ以外は魔力を持った魔獣程度の力だ。
私ならあのジュエルシードの暴走体、という名前だったっけ。とにかくあの怪物が突っ込んできた所をプロテクションで迎え撃って一瞬で封印し終わらせられる。
いや、そもそも最初に破壊した時になんで封印しなかったんだろ? 何やら仇がどうとか言ってたけど。
そして何でデバイスを投げた? わからない、アイツの行動が読める気がしない……。
そのせいで今ピンチっぽいし――――ふふふ! いい気味ね! ことある毎に私に抱きついたり頭に乗せたり撫でたり、挙句の果てには私のだ、大事なと、所を……!
い、いくら猫状態だっていってもやっていいことと悪いことがあるわよ! お嫁にいけなくなったらどうするの! 別に嫁ぐ気はないけど!
――こほん。ま、とにかくこれであの怪物に殺されるようなら私の監視のお役目も晴れて御免ね。これでアリアと一緒に八神はやての監視だけに力を注げる……。
……そう、アイツが、死んだら…………あの馬鹿みたいに、明るい、アイツが、死んだら――。
――何を悩む必要がある私は! 元々あいつはお父様の計画の不確定要素! ここで消えてくれた方が都合がいいんだ! それにどの道ここで生き残っても計画が成功すればアイツは消える!
……っ、でも……。
「うわああああああああああぁ!? グレゴールさああああああああん!? 誰か、誰か助けてええええええ!」
悲鳴を上げたのは駄目騎士と一緒にいた小動物――あ! そ、そうよ! 私は管理局員として例え小動物と言えど助ける義務があるわ!
あの小動物を助けたら必然的にあの駄目騎士も助かることになるけど、しょうがないわよね! 人助け、もとい獣助け第一優先よ!
勘違いしないでよね! 貴方を助けるんじゃないんだから! 私が『偶然』小動物を助けたら貴方が『勝手』に助かるだけよ!
そうと決まれば、変身!
■■■
僕が悲鳴を上げた瞬間、ジュエルシードの暴走体が吹き飛ばされた。な、なにが起きたんだ!?
……っ! 何時の間に!? 青い髪で長身の――男性? 仮面を被っている為断言は出来ないけど、とにかく仮面の戦士がそこに突如として現れた。
「はぁ!」
仮面の戦士が声を上げて暴走体を蹴り上げる ――な!? 蹴りだけで暴走体の一部を消し飛ばしただって!?
怒涛の様な攻撃は終わらない。高速の連続蹴りが暴走体を確実に潰していく。暴走体の核が露になった所で、仮面の戦士は腰のホルスターから一枚のカードを取り出し、核に投げつける。
「封印」
その言葉と共に暴走したジュエルシードは元の小さい宝石に戻り、静かに地面に落ちた。
――す、凄い。グレゴールさんでも苦戦したあの暴走体をいとも簡単に……。
……いや、グレゴールさんもデバイスを投げ飛ばさなければ楽勝だったと思うけど……。
「あ、貴方は一体……」
「俺の事などどうでもいい。それよりそこで寝ている男の事を気にした方がいいんじゃないか?」
そ、そうだ! グレゴールさんが!? いくらバリアジャケットを着ているといっても凄い勢いで潰されてたし――!
僕は仮面の戦士にお辞儀してグレゴールさんの元に駆け寄る。
「グレゴールさん! グレゴールさん! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「むにゃむにゃ――わーい……ケーキで出来た野球ドームだー……」
「グレゴールさーん!? どんな寝言なんですかそれー!?」
「…… はっ!? うおおおお!? しまった、気絶してた!? ユーノ、大丈夫だった!? あの暴走体は!?」
ガバッ! っと起き上がり僕をガクガクゆするグレゴールさん。よっ、良かったぁ……酷い怪我はなさそうだ。
「はい! 僕は大丈夫です! 暴走体はあの人が封印してくれたんですよ!」
「あの人――?」
仮面の戦士とグレゴールさんが見つめ合う。しばらく見つめ合ったあと、グレゴールさんはヨロヨロと立ち上がり、仮面の戦士に近づいていった。
「そっか! あんたがユーノと俺を助けてくれたのか! すまん、助かったよ! この恩は騎士として必ず返す! もし良かったら名前を教えてくれないか?」
「……ふん、勘違いするな。お前を助けたわけじゃない――受け取れ」
そう言って封印したジュエルシードをグレゴールさんに投げつけた。受け取るのを見届けると、仮面の騎士は魔法陣を発現させ、空中に浮かぶ。どうやら立ち去る気らしい。あ! ちょ、ちょっと待って!
「待ってください! 僕からもちゃんとお礼を――!」
「そうだよ! それにまだ名前も聞いてない!」
僕とグレゴールさんが立ち去ろうとしている仮面の戦士を呼び止める。すると仮面の騎士はグレゴールさんの方に振り向いて、呟いた。
「――騎士よ、俺達はいずれまた出会う事になるだろう。それまで精々生き延びるがいい」
腰のホルスターから再びカードを取り出し仮面の戦士はそれを掲げると、再び別の魔方陣が現れる。これは、転送魔法?
「最後に一つ言っておく……猫を大事にしろ。じゃれつくのは良いが優しく撫でるか膝に置くくらいにしておけ」
そういって、仮面の戦士は虚空に消えた――え、最後のセリフの意味は一体……?
……後に残ったのは僕とグレゴールさんとジュエルシード。
「……行っちゃいましたね」
「行っちゃったな。ああもう、名前も聞けなかったよ。騎士は恩義を重んじるものだってのにー……いずれ出会う、か。
なら恩を返すのはその時だな……結界解除っと」
グレゴールさんの結界が解除され、暴走体に破壊された部分が元の姿へと戻って行く。結界魔法が無かったら大惨事だったな、最初に空間保存の結界を張っておいて本当に良かった……。
……ふぅ、取りあえず終わったけど、グレゴールさんの拾った3つのジュエルシードとこの1個を合わせて4つ。残り17個、まだ先は長いや。
それにあの謎の仮面の戦士。彼は味方なのだろうか? 僕達を助けてくれたし封印したジュエルシードは置いてってくれたのを見ると敵ではなさそうだけど。
――もし良ければ協力してほしいな。グレゴールさんと彼が協力してくれれば百人力だ。
「さて、帰ろうかユーノ。あと17個もあるんだ、ゆっくり体を休めようぜ」
「あ、はい。お世話になります」
「うん、今日はちょっと居ないんだけど俺のマスターの料理は最高だからな! 明日のご飯は楽しみにしてくれよ! ……それと、ごめんなユーノ……」
え? なんでグレゴールさんが僕に謝るんだろう?
「俺がユーノの親友の仇を討とうと思ったのに、出来なかった」
……親友!? だ、誰それ!? そ、そういえばあの暴走体に攻撃してた時もなんかそんなこと言ってたような……も、もしかしてグレゴールさんなにかとてつもない勘違いをしているのでは!?
「あの! 僕に死んだ親友なんていませんよ!? 皆スクライアの所に元気で暮らしているはずですから!」
「――ユーノ! 認めたくないのはわかるよ! でも現実なんだ! あの少年から受け継いだレイジングハートが何よりの証拠じゃないか!」
『The meaning is not understood(意味がわかりません)』
レイジングハートがそう伝える。うん、僕も意味がわからない。レイジングハートは恩師から貰った物で……ん? ひょっとして、グレゴールさんが言ってる少年って……。
「ひょっとして、その少年って僕のことですか?」
僕はフェレット形態から人間形態へと元に戻る。そういえばグレゴールさんには言ってなかったっけ? フェレット状態だと魔力の消費が抑えられて、怪我の治りも早いから戻らなかっただけなんだけど……。
あれ? グレゴールさん? なんでそんな幽霊でも見たような顔をしてるんですか?
「……い」
「い?」
「生きてたああああああああああああああぁ!?」
「ふぇっ!?」
■■■
「グレゴールさん、もう泣かないでくださいよー」
うう、ひっぐ、良かった、生きてて本当に良かった! 俺はてっきりあの暴走体に骨も残さず食べられたものだとばかり――!
そうかそうか! あの少年はユーノが変身した姿だったんだな! その発想はなかった!
「ぐすっ……でも、誰も死んだ人が居ないってわかったし、文句無しだ! これで気持ちよくはやてに報告できるよ!」
はやてにどう説明しようかと必死に考えてたけど、暗い話になんなくて良かったー!
「しゃあ! なら今度こそ帰ろうかユーノ!」
「はい!」
俺はユーノを頭に乗せて走りだす。明日からはジュエルシード探しだ。
今回は俺の勘違いだったから良かったものの、似たような惨劇がいつ起こってもおかしくない。
それに今度ピンチになっても仮面の戦士が助けてくれるとは限らないからな……しかし、ユーノも気になっているがあいつは何者なんだろうか?
意味ありげなことを言ったり、猫を大事にしろといったり……。
ひょっとしてあの仮面の戦士の正体はよく家の庭にいる猫だったりして――なんてな!
――あれ? なんか忘れてるような気がする……ま、いっか! その内思い出すさ。
今日は疲れたし、早く帰って寝よーっと!
■■■
大穴が空いた道場の天井を見つめながら、高町恭也はこの惨状を作り出した床に突き刺さっている槍を恐る恐る引き抜く。
『Schei?e(くそったれ)』
「……槍が喋った」
それが、高町恭也と、魔槍グングニルとの不思議な出会いだった。
■■■
何気なく商店街で見つけたアクセサリーが気に入り、それを買って俺の恋人である月村忍にプレゼントしたら『恭也がプレゼントなんて珍しいわね。明日は槍が降るのかしら?』と何気に失礼な事を言われたが、あれは壮絶な前振りだったらしい。
……振ってくるもんなんだな、槍って。
『Dank(感謝を)』
しかも喋るし。だんけ? あー、確かドイツ語でありがとうだったかな……。床から抜いてくれてありがとうってことか?
しかしどうやらこの槍、というか槍っぽい物はドイツ産らしい。ドイツからここまで飛んで来たのだろうかこの槍は。
確か日本と9000キロくらい離れてたよな、ドイツって……凄い飛距離だ。次のオリンピックの槍投げ種目はドイツ人選手がメダルを占領することだろう。
……いかん、混乱してる。落ち着け、冷静になるんだ高町恭也。御神流の師範代なんだから、俺は。……今は関係ないか。
とりあえず、会話を試みてみよう。喋ったり感謝が出来るということはおそらく人口知能の様な物が積まれているはずだ。会話くらい出来るはず。
「グーテンモルゲン!」
まずは挨拶だ。挨拶は全世界共通の社交礼儀。というか知ってるドイツ語がこれくらいしかないのだが。
『Guten Morgen. Es ist jetzt mitterna"chtlich(おはようございます。と言っても現在真夜中ですが)』
おお、挨拶を返してきてくれた。後半はなんと言っていたかわからんが多分『おはよう、今日はいい天気ですね』とかそんな感じの日常会話だろう。
次は自己紹介だ。ドイツ語で名前を教える時は確か……。
「マインナーメイスト、タカマチキョーヤ?」
『ho"flich. Fruet mich, Sie kennenzulernen. Mein Name ist Gungnir. (ご丁寧に。初めまして、私の名前はグングニルと申します)』
「……」
『……』
「え?」
『Wie bitte?(え?)』
■■■
「そっかー、あの夢の子がこのフェレットさんやったんやね。私の名前は兄ちゃんから聞いてると思うけど八神はやてやで」
「はい、はやてさん。この度はグレゴールさんに助けてもらって本当に感謝しています」
「あ、呼び捨てでえーって。それとそんな硬い口調もできれば止めてほしいな、兄ちゃんの友達は私にとっても友達や!」
翌日、俺とユーノは病院まではやてを迎えに出向き、そしてユーノを紹介して昨夜の出来事を報告。
最初は「イタチが喋ったー!?」と大慌てだったはやてだが、次第に落ち着きを取り戻してくれた。
でもイタチが喋るってそこまで驚くことかな? 地球にだって普通に喋る鳥とかいるのに不思議だね。
なんにせよユーノとはやてが仲良くやってくれそうで嬉しいな。
「わかった、じゃはやてって呼ばして貰うよ。改めてよろしくね」
「うん! よろしくな!」
がっちりと握手を交わすユーノとはやて。まあ握手といってもフェレット状態だからはやては小さいユーノの手をつまんでる感じだが。
「しっかしユーノくん可愛えなぁ。毛とかさらさらやね」
そういってユーノを摘みあげ膝の上に乗せてはやてはユーノの首筋辺りを撫でる――気持ちよさそうなユーノ……。
べ、別に羨ましくなんてないんだからな! ……後でこっそり変身魔法を教えて貰おう。出来れば猫とかになれるのを。
「それにしても願いが叶う宝石かー。兄ちゃんから魔法の存在は聞いてたけど、本当に何でもありなんやなー」
「うん……だからこそ危険でもあるんだ。ジュエルシードはどんな願いでも〝無理やり〟叶えてしまう。それが願った本人と望まない形だったとしても……僕がもっとしっかりしてればこんな危険な物をこの街に落とさせはしなかったのに……」
「もう、そんなのユーノのせいじゃないって言ってるのにー。輸送中の事故だろ? そんなの誰も予想なんて出来ないし、防げないって。過去を悔やむより今をどうするか考えようよ!」
幸い怪我人とか酷い被害もまだ出てないし。俺以外。
「そうやでユーノくん。何事もポジティブにいかんとな! 私も探すの手伝うから!」
「……ありがとう、2人とも……」
「ええってええって。困った時はお互いさまや! なあ兄ちゃん、魔法でその宝石をパパっと全部探されへんの?」
「うーん、無理。発動したときには魔力反応が出るんだけど、普段は普通の宝石みたいなものだからなー。くそー、こんな時に〝シャマル〟がいれば……」
「シャマルさん? グレゴールさんのお仲間ですか?」
「兄ちゃんが前に言ってたおっとりしたお姉ちゃんやんな」
「うん。サポートに特化したあの魔法は凄いよ! 俺のサーチ魔法に比べたら天と地どころか太陽系と銀河系って感じ」
といっても、実際に会ったことはないけどね。夜天の書の中でデータ見ただけだから……。
本当に、こんなときみんながいてくれたらどれだけ力強いか……いや、こんな情けないこと思ってたら駄目だな!
俺だって守護騎士の1人なんだ。まだ一人前とはいえないけど、これくらい難なくこなしてみせなきゃ守護騎士失格だよ!
ふむ、何か良い方法がないかな……むむむ……。
「なあユーノ、ジュエルシードって近づいても危険なのか?」
「いえ、近づくだけなら平気です。身に着けた状態で強い願望を願わなければ普通の宝石と変わりませんから」
「そっか……だったら行けるかも……」
「お? 兄ちゃんなんか思いついたん!?」
ああ! 閃いた! 名づけて、『皆の街は皆で守ろう作戦』!
■■■
「あ、グレゴールだ~!」
公園の砂場で遊んでいた1人の少年がそう叫ぶと、それを聞いた子供達が一斉にグレゴールの元へ集まり始めた。
「わーい! グーちゃん! 遊ぼ遊ぼ!」
「グレ! いつもの手品やってー! あの電気バチバチするのとか空中に浮くやつ!」
「遊○王カードやろー! バ○ルスピ○ッツでもいいよ!」
「はやてちゃんもいるー! うわあ!? なにそれイタチさん!? 可愛いー! さわらせて!」
「ええでー、優しくしてあげてな?」
次々と集まってくる子供達にもみくちゃにされ悪戦苦闘しつつ、ユーノは念話でグレゴールに問いかけた。
『ぐ、グレゴールさん。この子供達は?』
『ん? ああ、みんなこの公園で知り合った俺の友達だよ。公園で魔法の練習とかしてたらなんか懐かれちゃって』
『人前で魔法の練習してたんですか!? この世界って魔法が認識されてないんでしょ!?』
『いやー、鍛えないと駄目だと思って、手ごろな場所さがしてたらこの公園があってね。
まあ今は手品ってことでみんな納得してるから大丈夫。今じゃ『海鳴の引田天功』って呼ばれてるし』
天然というか、馬鹿というべきか、魔法の存在が知られていないこの世界でついつい魔法を連発してしまうグレゴールはテレビでマジックショーを見て『そうだ! 俺もマジックって言えば誤魔化せる!』と考え付いた結果、魔法を使ったら『グレゴールの大魔術でしたー!』と宣伝したのだ。
それは電撃を放ちながら空を華麗に飛んだりと実際いくら手品と言ってもありえない光景ばかりだったが、基本的に大らかな海鳴市の住人たちからは『マジックなら仕方ない』と簡単に騙されていたりする。もちろんはやてにはこってり怒られた。
ちなみにそれを監視していたリーゼ姉妹は絶句し、グレアムはめまいを起こしていたのは余談である。
『大丈夫じゃないでしょうそれ!? って、さっき思いついた作戦と何か関係があるんですか?』
『まあ見てなって』
「みんな注目ー! 今日はみんなにお願いがあるんだ!」
子供達の視線がグレゴールに集中する。するとグレゴールは懐から昨日封印したジュエルシードを取り出す。
「綺麗ー。グーちゃん、なにそれ? 宝石?」
「残念ながら、ガラス玉だ」
「ええーつまんなーい」と子供達は残念がった。もちろんガラス玉などではなく実際に価値ある宝石だが。
「それでグレ、お願いってなに? そのガラス玉と何か関係あるの?」
「ああ、実はこれ、ただのガラス玉じゃない。とある悪の秘密結社が作った兵器なんだよ!」
「な、なんだってー!?」とMMRさながらの驚きっぷりで子供達は悲鳴を上げた。ちなみにその中にはユーノとはやても混じっている。『一体何を言うつもりなんだろうと』顔を引きつらせながら。
「グレゴ!? それさわって大丈夫なの!?」
「うん、この宝石はしっかり封印が施されているから大丈夫。しかし……現在この兵器は18個もこの海鳴市にばら撒かれているんだ!
封印のされていないこの兵器をさわった者は……将来『禿げ』る! 確実にハゲる! 波平さんみたいになること間違いなし!」
絶叫。その瞬間子供達は先ほどの非ではない悲鳴を上げる。『ハゲ嫌ー!』『波平さん嫌ー!』と阿鼻叫喚。いつの時代だって子供にとって将来ハゲるということは死亡宣告に近いことだ。好きで禿げている人達にとっては失礼極まりないが。
「あっ! わかった! グーちゃんのお願いってその兵器を私たちに探して欲しいんだね!」
「そう、その通り! ぐみ子ちゃん賢い! 今、この大変な危機を知っているのは俺達だけだ! この街を守れるのは俺達しか居ない!」
グレゴールは叫ぶ。拳を高々と振り上げ、まるで何かの演説のように。
「みんな、ハゲは嫌か!?」
「「「嫌だ!」」」
「友達や家族がハゲるのは嫌か!?」
「「「嫌だ!」」」
「なら、やろう! 俺達がこの街を救うんだ!」
「「「おおー!」」」
「よーし! みんな携帯電話は持ってるな!? それでこの兵器を撮って、知り合いや家族にもメールしてみて!
沢山の人と協力して、一日も早くこの悪魔のようなこの兵器を集めるんだ! 見つけたり情報が入ってきたら俺の携帯に連絡して! 絶対にさわったら駄目だよ! ハゲるから!」
ほとんどの子供が自分の携帯電話を取り出し、ジュエルシードを撮っていく。幼稚園児や小学生が全員携帯電話を持っているのは実に近代的な光景だった。
「よーし、探すぞー! 俺がみんなをハゲから守るよ! グレ!」
「私お兄ちゃんに聞いてみる!」
「俺も隣街の友達に聞く!」
そういってジュエルシードを見つける為に、子供達は街へと繰り出していった。それを見つめながらグレゴールは感慨深く首を立てに振りながら「大成功」と呟く。
はやてとユーノは唖然としながら、理解した。『皆の街は皆で守ろう作戦』の全貌を。
「に、兄ちゃん……大丈夫なんこれ? もしジュエルシードが暴走してもたら大変なことに……」
「大丈夫! みんな純粋な子ばっかりだから、ハゲると信じてるしさわらないよ。身につけさえしなければ大丈夫なんでしょ? ユーノ」
「え、ええ……」
「それに、知らずにほっておく方が逆に危ないってもんだぜ。ジュエルシードが暴走してから封印しに行ってたら被害が大きくなるばかりだし。それに俺はきっとやってくれると信じてる! この街の人達をさ! よーし、はやて、ユーノ! 俺達も探しに行くよ! 皆の街は皆で守るんだ!」
■■■
――とある学校。
「お、メールだ……はっ?」
「ん? どうした?」
「いや、妹からメールが来てな……この画像のガラス玉をどこかで見なかったかってさ」
「ふーん、探し物? 綺麗な細工してあんなこれ」
「なんかグレゴールさんが探してるって書いてあるけど……さわるとハゲるってなんだ?」
「グレゴールさん? 誰それ?」
「え、お前知らないのか? あのいつも手品やってる人だよ。ほら、空飛んだり電気放電するあれ」
「あー! 海鳴の引田天功な! 見たことあるよ。へー、名前グレゴールっていうんだ、知らなかった。というかやっぱ外人だったんだなあの人。白髪だし顔の作りも日本人離れしてるし」
「あれで男ってんだから驚きだよ……なあ、お前この後暇か?」
「そりゃ暇だけど……探すの手伝えってか? つーか探すのか? わざわざ?」
「……俺、あの人にちょっと借りがあるからな」
「初耳だぞ。どんなだよ?」
「いや、大したことじゃねーけどさ。結構前に俺、元カノに振られたじゃん? すっげー落ち込んでたときに公園であの人のマジックショーを見かけてな。
しばらく見てたらあの人が近づいてきて『なに暗い顔してんだよ! そんな顔してたら人生損するぜー! ほら、初公開電撃リンボーダンス見せてやるからもっと近くに来い!』ってそのまま最前線でマジックみせられて」
「……いや、慣れなれしすぎね、それ」
「俺も最初はちょっとムカついたけどなー。なんか笑顔でリンボーダンスやって大失敗して感電して痺れてるあの人見てたらなんか落ち込んでるのが馬鹿らしくなってさ。
気分が楽になったつーか……まあそんな感じで、あの人はどうとも思ってないだろうけど……暇だしこのくらいはお礼の代わりにやってやってやんのもいいだろ」
「ふーん……しゃあねえなぁ。後で何か奢れよー?」
「おう、美味しい喫茶店知ってるから探したあとそこ行こうぜ。あ、他の奴にも聞いてみるか……」
■■■
――とある集会場。
「おや……メールじゃ。孫からじゃの」
「おお、助さんケータイ持ってるのかい。ハイテクだのう」
「ふむふむ……」
「なんじゃって?」
「グレゴールちゃんが探し物しとるから手伝って欲しいんじゃと」
「へえ、グレゴールちゃんが。それは探してやらなあかんの。あの子にはいつも世話になっとるからなぁ」
「そうじゃな。この前も荷物を運んでもらったし、その前の前は孫と一日中遊んでもらったからの」
「この集会場でマジックショーを開いて貰ったこともあったのう。あれは凄かった……」
「失敗してグレゴールちゃんが血まみれになったのも今じゃいい思い出じゃな。演出かと思ったらマジじゃったからの」
「それでも笑って『失敗、失敗! 次は成功させるからね!』とふらふらで手品を続けたのは感動物じゃったな。警察沙汰になったが」
「どれ、ちょっと散歩がてら行ってくる」
「ワシも行くぞ。というかみんなにも聞いてみるか。暇人ばっかりじゃから手伝ってくれるじゃろ。枯れ木も山の賑わいだの」
「そうするか。あ、あとくれぐれもさわってはいかんと書いてあったの。なんでもハゲるらしい」
「ほっほ。それは困るの。ワシの頭には最後の一兵が残っとるからな」
■■■
――とあるネット掲示板。
191 名前:海鳴の名無しさん
だからこの街絶対忍者いるって。俺見たもん屋根の上走ってる人影。
192 名前:海鳴の名無しさん
それ海鳴の方の引田天功じゃね? よく空飛んでるしあの人。
193 名前:海鳴の名無しさん
いや、テンコーじゃねーって。日本刀とか持ってたし。あの人が持ってんの槍だろ?
194 名前:海鳴の名無しさん
>>192
そういや飛んでるなーって思っちまったが、冷静に考えると空飛んでるって絶対おかしいよなwww
195 名前:海鳴の名無しさん
確かにwwwしかも槍持って手品するもんなあの人www突っ込みどころが多すぎて逆に突っ込めなくなってたwww
196 名前:海鳴の名無しさん
※あの人実は女。マジ情報。
197 名前:海鳴の名無しさん
あんな可愛い子が女の子のわけがない
198 名前:海鳴の名無しさん
おまえらテンコー好きだなwwそんなおまえらに朗報だ。
http://○○○.jpg
なんでもテンコーがこの画像の石を探しているらしい。見たことある奴いたら情報書き込んでくれ。
ああ、あとさわったらハゲるらしいからさわんなと。
199 名前:海鳴の名無しさん
さわったらハゲるとかどう考えても放射能漏れです本当にありがとうござい(ry
つーかその石、○○公園のどっかで見たな。やべえ! 放射能で近所の俺ん家がやべえ!
■■■
「うわお。一気にメールが70通も来たぜ! よっしゃ! 早速しらみつぶしに探すよ!」
「海鳴ネットワークハンパない! というか兄ちゃんネットワークが凄いんやろか……?」
「まさかこんなめちゃくちゃな方法で情報がどんどん集まってくるなんて……でもこれで一気にジュエルシードが集まるかもしれないですね!」
「おう! グングニル出番だぜ! 最速で一気に……あれ? 指輪がない……あれ! あれ!? あれぇ!? ない、ないぞ!? グングニル!? どこいった!?」
「え!? 無くしたんですかデバイス!? ……ん? ってグレゴールさん! 昨日グングニル投げ飛ばしてませんでしたっけ!?」
昨日? ――昨日はあのジュエルシードの暴走体と戦って……。
「……わ、忘れてたああああぁ!?」