2010年11月11日15時12分
俳優・光石研が多くの映画に出演しているのは今に始まったことではない。しかし、この秋の彼の活躍は特筆してもよいだろう。「悪人」「十三人の刺客」「ヘヴンズストーリー」など、年末の映画賞を争う秀作群で、印象に残る仕事をしている。
中でも、最も彼らしいキャラクターは、松本佳奈監督の「マザーウォーター」のオトメ氏だろう。ゆったり時間が流れる京都の一角で、淡々と生きる人々の群像劇。銭湯の主人であるオトメも、映画の中でとりたてて何もしない。
「事前にもらった役のプロフィルには『静かに見つめている人』とあって、どう演じたらよいか書いていない。どう演じても正解なようで、やっぱり正解じゃないようで。こういう映画は一番難しいですね」
光石のオトメは、京都の風景によくなじんでおり、映画の本質を捕らえているように見える。しかし、本人はそうじゃないという。
「本質が分かっているに越したことはないが、分かっていればいいというものでもない。僕が深読みして勝手に変な芝居をしたりしない方が良いと思えるんです。『解釈』よりももっと大切なものがあるような気がします」
小泉今日子が演じる喫茶店主が入れたコーヒーを飲む場面では、何となく彼女への恋心を感じさせるシャイな演技を見せる。しかし、彼は「ただコーヒーを飲んでいるだけのつもりだった」と話す。
「小泉さんと共演するのが初めてなんです。私の世代のスターで、身近で見られてうれしかった。でも、その緊張感のせいで、意図以上のものが出ちゃっているんですね、きっと。光石研本人の心持ちが如実に出ている恐ろしい映画なんですよ」
「マザーウォーター」は東京、札幌、名古屋、福岡など各地で上映中。(石飛徳樹)