2010年11月11日
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、大学4年だった9年前、悪化するアトピー性皮膚炎に悩んでいた。ステロイドの塗り薬でも良くならず、次第に薬を使わなくなっていった。
大学4年の2月、インターネットで見つけた漢方を専門にする診療所を家族と一緒に訪ねた。待合室に「ステロイドは出しません」という張り紙があった。「いつかは分からないけれど、絶対に治る」と話す院長の言葉が心強かった。
ステロイドを完全にやめ、自宅での漢方治療が始まった。煎(せん)じ薬を入れた風呂に1日2時間つかる。上がったら、漢方薬の軟膏(なんこう)を全身に塗った。3カ月目ごろからは朝晩、「根っこの味」がする煎じ薬を飲んだ。
肌は、みるみる悪化した。
全身がたまらなくかゆい。体中にひっかき傷とあかぎれができた。皮膚がつっぱり、布団の中でひざを伸ばすのに10分かかった。顔や首から体液がしみ出して、1日に何十枚もタオルをぬらした。
太陽の下で自分の肌を見つめるのが怖くて、一日中カーテンを閉めてベッドに横たわった。夏でも寒く、空気に触れると刺されるように痛い。企業の内定はすべて辞退した。
肌は、表面のバリアが壊れた状態で外から刺激を受けると内側に炎症を起こす司令塔の細胞が集まり、かゆみの指令を出す。かくことでさらにかゆくなる悪循環が起きていた。
診療所は遠方のため通えず、診察は電話だった。いつも同じ薬が届いた。母の裕子(ゆうこ)さん(62)は「肌も見ないで、治療と呼べるのかな」と感じた。でも娘に「病院、変えてみない?」と促すと、「私の信じている治療を否定するの」と、すごい剣幕で返された。もう何も言えなかった。
それから2年余り。改善の兆しは見えず、荻野さんも悩み始めていた。自宅は自営業で、家族の働く気配も伝わってくる。ずっと家にいることに罪悪感が募った。
改めて面接を受け、事務職の仕事を始めた。全身の炎症は続いていた。出勤前に1時間早く起きて肌をかき尽くし、「今日は行けるかな」と毎朝考えた。仕事中にどうしてもかゆくなったときは、トイレでかいた。
漢方を始めて5年半が過ぎた2006年。もう一度、家族から都内の病院の受診を促された。「うん、行ってみる」。今度はそう答えた。もう疲れていた。
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