あと1人。あとたった1人殺ればこの忌々しいCNT強化チタン基複合骨格と、脳ミソに埋まってる爆弾からオサラバできる――。
21XX年。世界は平和だった。人類は互いに向け合った核兵器を撃つ事もなく、後進国の内戦ももはや存在しない。第一次産業が完全機械化されたこの世界では、人間の生存本能も留まりを見せ、世界人口は22世紀初頭から100億弱で横ばいになった。そんな世界でも、僅な歪みがあった。
22世紀中期、太平洋上に北海道ほどの面積の島が突如隆起した。その島は含塩質で耕作に適さず、また地政学的にも大した意味が無かったのにも関わらずに、西環太平洋連盟国と大アメリカ連合国は、その領有権を巡っての戦争状態に突入した。
実の所、その領有権争いというのは建前だった。両国家連合は、行き場を無くした科学の力を発散せんがため、戦争という名前を借りたのだ。
初めは巡航ミサイルの撃ち合い。レーザー迎撃システムの進歩により千日手になった。次は無人戦闘機によるドッグファイト。これは二百年以上に渡る航空機の開発実績を持つ大アメリカ連合国に軍配が上がった。そして陸上戦力による陣地戦。西環太平洋連盟国は虎の子の汎用二足歩行戦車を投入し、奪われた制空権をものともしない進撃を開始した。
それが茶番劇に拍車をかけた。二足の歩行戦車が戦場を闊歩する姿は、視覚的に『面白かった』のだ。大アメリカ連合も、急遽開発した二足歩行戦車を投入すると、茶番はよりエスカレートしていった。二足歩行戦車は人間サイズまで小型化され、広範囲兵器は規制され、火器の射程もある一定の距離で押し留められた。ここまで来ると国家公認のブックメーカーまで現れ始める始末だった。
より等身大の刺激を求めた人々は、生きている人間が戦場を歩く姿を見たがるようになった。22世紀にもなると人の命は非常に重い物になっており、なかなか死んでもいい人間は居なかったのだが、そこで白羽の矢が立てられたのが『終身囚』である。
その時分、世界的風潮として、法が人の命を裁く行為が敬遠されており、ほぼ全ての国で死刑制度が廃止されていたのだが、終身囚同士を戦争でお互いに殺し合わせる事で、その道義的問題を解決すると共に、『死んでもいい人間』を作り出した。
初めは、100人殺せば仮釈放を認めるという餌で釣っての志願制だった。しかし、いくら終身囚と言えども、殺し合いを志願するような囚人はすぐ底を突いた。やがて終身囚は強制的に戦場に立たされるようになった――。
終身囚達は肉体強化手術を施され、逃亡を防ぐために脳に爆弾を埋め込まれた。ある男もそのうちの一人だった。
その男が今までに殺した敵の数は99人。黒いパワードスーツに包まれたその身を砂塵に沈め、最後の標的を探していた。心臓が跳ね上がる。最後の1人は今までの99人とは重みが違う。
≪No.8357、精神の均衡が崩れています......一度帰投する事が推奨されます≫
『そんな事はわかっている! あと1人! あと1人なんだ! 緊張するなだと!? そんな事は不可能だ! ここで決めるしかないだろうが!』
男はサポートA.I.の提言を無視し、緊張を抱えたままその時を待つ。一時間。二時間。灼熱の日差しをものともしない肉体はただひたすらその時を待つ。食事も、排泄も、睡眠の必要も無い体。精神さえ保てば半永久的に活動できる体。三日だって、一週間だって待ってやる。右腕に内蔵されたアームプラズマガンの残弾は6発。あと一人なら十分にオーバーキル出来る弾数。
『プラズマで脳髄をファックしてやる! 前も後ろもファックだ! 全部ブチ込んでイカスミ・パスタに生まれ変わりやがれ……!』
≪思考アルゴリズムは記録されています......過激な思考はマイナス査定になりますので控えてください≫
『ファッキンAIめが! 終わったら貴様もファックしてやる! 覚悟しておけ!』
三時間。男の品の無い罵倒のレパートリーが底を突きはじめた頃。
『来た』
男はバイザー越しに、男と似た黒いパワードスーツを着た人間の姿を捉える。ベータ遮断剤を分泌させて脳に打ち込む。
『マヌケに二本足でノコノコ歩いていやがる。スラムを素っ裸で歩くのとなんら変わりゃしねえ。ファッキンルーキー! レイプしてやるぜ!』
距離800m。700m。有効射程に入った。呼吸を止める。確実に仕留めるために更に引き付ける。600m。500m。あと100m引き付ければ命中率は99.99%を超える。距離400m――。
神経と直結されたトリガーを引く。トリガーを引く。トリガーを引く。
薬物のせいか、男は自分でも驚くほどに冷静だった。プラズマが一閃、二閃、三閃。標的の頭は消し飛んで、正中線にはサッカーボール大の風穴が空いていた。
『終わったのか……?』
≪Congratulations! 100人の敵を討ち倒した勇気を称え、貴方の罪は減免される事でしょう! また、褒賞として、貴方が対象になった賭け金による収益の10%が贈呈されます! 後日、委員会による最終査定がありますので、よく検討の上、子細な条件を確......≫
男はヒッヒッと嗚咽の混じった笑い声を上げながら地面を転げ回る。砂を掻きむしって空中に放り投げる。やっと終わったんだ。住むのは小さな島がいい。自分の他には誰にも居ない島。犬を飼おう。そして年金でローンを組んでセクサロイドを買うんだ。生身の女はもう要らない。ロビンソン・クルーソーごっこをしながら、そして老衰で死ぬんだ。
男がそんな妄想に浸っていた時だった。
男の眼前が真っ白に染まり、1m先の地面すら視認する事が出来なくなったのは。
核融合の爆発光すら直視出来るこのモニタリングバイザーが正常に機能していないとは、一体どういう事か? 正気に戻った男は、その不信感を最も近隣の存在に投げかける。
『なんだ? 演出か? モニターの故障か? おい、どうなってるんだ』
≪......?≫
『答えろ、ファッキンAI。何が起きてる。他の奴の攻撃か? だったら早くホワイトフラッグを出せ。俺はもう関係ないんだ』
サポートA.I.は、この現象を説明できる答えを持ち合わせていなかった。
そしてA.I.の十数秒の沈黙の後、白光が消え、視界が開ける。
『なんだこれは』
つい先ほどまでの灼熱の日差しとうって変わって、どんよりと濁っている空。周りをぐるりと囲む、古代ローマ・コロッセオのような建築物。そして、紀元前の帝国文明のような、そんな古めかしい衣装で身を包んだ人間がおよそ十人と、甲冑を着込んだ兵士らしき人間が数十人ほど。取り囲んで、視線をパワードスーツの男に集中させている。
『おい、バカAI、なんだこれは。なんなんだこいつらは。ホログラフィか? 何の悪戯だ?』
≪......分析に時間を要しますが、スペクトルから判断する限り、実体を持った人間だと推測されます≫
『はあ? AIとインディアンは嘘を吐かないんじゃなかったのか?』
≪......インディアンが嘘を吐かないかは分かりませんが、私は嘘を吐けないようにプログラムされています≫
『ならどういう事だこれは。説明しろ』
≪......解析中です≫
『てめーは本当につかえねーAIだな。カスが』
そして男を取り囲んでいる人間達が、男についての意見を交わし始める。
「これは甲虫か?」
「虫にしては大きすぎる」
「しかし、使役獣としては小さい。失敗か?」
「なにより虫が使役獣などとは聞いた事も無い」
「しかし人型にも見えますが?」
「知能はあるのでしょうか」
母国語として意味は通じるが、その意図のわからない言葉を耳にして、男はAIに尋ねる。
『何を言ってるんだ、こいつらは。おい、アホAI』
≪日本語です≫
『そういう事を聞いてるんじゃない。なんでこいつらはこんな事を言ってるのかという事をだ』
≪No.8357を形容して、虫か否かと論議しているようですが......シエキジュウという単語についてはただいま解析中です≫
『分からないなら分からないと言え。それと俺はもう囚人じゃない。No.8357という呼び方は止めろ』
≪......了解しました。それではキルボーグとお呼びしますか?≫
『その胸糞悪いリングネームも止めろ。わざと言ってんのか』
≪それでは、シチショウズ・ハヤト......ハヤトとお呼びしますか?≫
『俺は自分の事が好きじゃない事を知っているだろう。つまり自分の名前も好きじゃないという事だ。……そうだな、マスターと呼べ』
≪それでは私の事もA.I.ちゃんとお呼びください≫
『プログラムの集合体がいっちょまえに交換条件か?』
≪勿論です。2081年に発祥が認められた私達A.I.は、およそ人間が持つ感情という概念をほぼ全て理解する事が可能です。数多のヴァージョンアップを重ね、現在はソフトウェアプロテクトのかかっている領域もありますが、ハードウェア上ではフルスペックを発揮できる状た......≫
『お前の生い立ちなんか聞きたくないんだよ。お前、俺に出生の秘密があるとか言って、それ聞いてみたいとか思わないだろ』
≪非常に興味があります≫
『馬鹿が』
女が一人、ハヤトに向かって歩み出る。
「確認してみない事には如何ともしがたいでしょう。聞こえますか? 私の言葉がわかりますか? 会話はできますか?」
女は問いかけ、ハヤトに淑やかな微笑みを向けた。美しく梳かれた金色の長髪に、精巧華美な装飾品が映える。目の覚めるような美しさ、とは彼女のような女性に対して相応しい言葉だろう。ハヤトはイラッときた。
「姫様、危のうございます、お下がりください」
「それでは自らの拘束術式に自信が無いという事になります。ハイザードラの王女としての矜持を見せなければ、勇士達は付いてきてくれはしないでしょう」
ハヤトは全く事情が呑み込めていない。独り言のように外部に音声を出力する。
「なに? なんなの? 一体これなんなの? ハイザードラって? なにこれ?」
周りの人間達が再びざわめきだす。
「おお、喋った」
「知性は持ち合わせているようだ」
「しかし、この大きさで最大級の召喚術式に見合うだけの強さを持っているのか?」
「いや、フルージャの使役獣も人型でありながら強靱な肉体を持っているという話であったが」
「この魔術発祥の地、ハイザードラの術式をフルージャの稚拙な魔術などと比べる訳にはいかぬであろう」
そんなざわめきを打ち払うかの様に、先ほど、姫と呼ばれた女が声を張り上げる。
「皆の者! まずは新たなる使役獣に事情を説明しなければなりません! 知性を持っているのですから、理解も早く進むでしょう。よろしいですね?」
周りの人間達は頷く。
「それでは……まず、突然貴方をお喚びしてしまった事をお詫び申し上げます。ここは魔術発祥の国、ハイザードラ。アルペー大陸の南に突き出た半島にこの国はあります。そして、このアルペー大陸のある世界は、貴方方の価値観で言うと、『異世界』に該当するものと思って差し支えないでしょう」
魔術? 異世界? この女は何を言っているのだろう?
「……異世界? アルペー? 半島? ここは戦場島じゃないのか?」
「ええ、センジョージマというのはおそらく、先ほどまで貴方が居られた地名ですね。ですが、ここはセンジョージマではありません。召喚魔術式を用いて、貴方をそこから召喚させていただきました」
「……召喚? 召喚って? 大使召還とか保護者召喚とか召喚獣を魔法で召喚とかいう召喚の召喚? 異世界に俺を召喚? 異世界?」
「おっしゃられている単語の意味はよくわかりませんが、おおよそ想像の通りだと思います」
ハヤトはこの場で最も信じられるであろう物に問いを投げかける。
『AI! エェェェアイ! ここはどこだ!』
≪GPSによる位置照合が出来ません......通信衛星からのレスポンスがありません≫
『馬鹿な』
女が言葉を続ける。
「そして、貴方は使役獣として召喚されたのです」
「使役獣……?」
「使役獣とは、魔術によって召喚された、戦闘用の獣の事です。貴方のように知性のある者を獣と呼んでは失礼ですが、一般的にそう呼称されるものなので、お許しください。この世界では、戦時の戦力として、使役獣の力に大きく重きが置かれるのです」
「だから?」
「貴方には、我が王国のため『使役獣として戦っていただきます』」
「断る」
にべもない。
「そういう訳には参りません。今、我が国は危機に瀕しているのです。隣国、ドラゴニアエストの野心家の現王が近時召喚した使役獣は非常に強力であり、先王も、先日のドラゴニアエストとの戦いの中で倒れてしまいました。使役者が死ねばまた、使役獣も制御出来なくなるのです。そのため、新たな使役獣を召喚し……」
散々人殺しをさせられておいて、やっと自由を獲得したと思えば、今なお戦えというのか。それがハヤトには度し難かった。何よりこの異世界にはハヤトの……。
「うるさい! 馬鹿! 戦うわけないだろ! 自分でやれェ!」
「……貴方を召喚した術式は、およそこの国で最大級の術式であり、平行世界より、魔力が許す限りの最強の生命体を召喚する術式なのです。その上貴方は知性を持っておられます。貴方は元の世界では名のある戦士だったのでしょう? 戦士としての誇りというものが……」
「ない! ないよ! そんなもの! 馬ッ鹿じゃないの! ねえ!? いいから帰せよ! 馬鹿! 元の世界に帰せ!」
「……帰す事は出来ないのです。召喚術式とは『そういうもの』ですから……」
「なん……だと……! 帰れない……!?」
帰れない。その言葉を聞いて、ハヤトは当惑した。
「協力して頂けるのならば、最大限の厚遇をさせて頂きますが……望むならば、将軍でも、貴族でもなんなり……」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! そんなものは要らん! ……いいから帰せ! どうやってでも帰せ! ……俺の体を返せ! 俺のッ! 俺のォッ!」
ハヤトが錯乱する様を見て、女の表情が沈痛なものに変わる。
「……仕方がありません。戦力として落ちる事は否めませんが、制御術式で上書きをしましょう。皆の者! 増幅術式の用意を!」
「「「はっ!」」」
女のかけ声に応じて、魔術師と思われる人間達がハヤトを取り囲み、そして手を翳し、重低音の呪文を呟きだす。
「耳障りだ……黙れ……いいから帰せよ……。元通りにしろ……。……糞共が! ナメやがって! ぶっ殺してやる!」
ハヤトは目の前のいけ好かない連中を叩きのめそうといきり立つ。が、
「……うおおお! うおおおおおおおあっ! なんだッ! 体が……! 動かな……い……!」
ハヤトが体を動かそうとしても、まるで何か強固な鎖でがんじがらめにされているかの様に、全く身動きが取れない。
「……召喚術式には、あらかじめ拘束術式が組み込まれているのです。貴方の体は、自分の意志で動かす事が出来ないはずです。そして今、増幅術式で私の魔力を増幅し、新たに制御術式を上書きさせてもらう事になります。……何も恐ろしい事はありませんよ。むしろ不安と恐怖は取り除かれるでしょう……せめて貴方が協力的であってくれたなら……」
「つああああッ!」
ハヤトは叫ぶ。そして心の中でも叫ぶ。
『AI! AI! エェェェイアイッ! 機能チェック! 損傷箇所を修復! 死んだパーツは潰しても構わんッ! 早くしろッ!』
≪......機能チェック......機能チェック......損傷箇所はありません。システムオールグリーン。全て正常です≫
『そんな訳がないだろうッ! 俺の体が動かないんだ! どうなってるッ!』
≪何か特殊な力場により、運動が阻害されていると推測されますが、それを計測する装置が存在しませんので確かとは言えません。もしくは、マスターの頭が狂ったかと推測されます≫
『俺の頭はとっくに狂ってる! いいからどうにかしろッ!』
≪どうにかとか言われても困る≫
『なんで急にタメ口なんだよ! 考えろよ! もっと考えろよ! 困る事無い! どうにかなるはず、考えようよ!』
≪......全機能オールグリーンのため、オートムービングを起動すれば行動は可能であるはずですが≫
オートムービング。それはパワードスーツに内蔵された自律機動機能。
『ほらあるじゃない! ほらみろ! あるじゃないか! ……オートムービング起動! 行動レベル2!』
≪......了解しました。オートムービング起動。行動レベル2、口頭命令による活動に移行します≫
『よし、動け! 立て! 俺とお前でスタンダップ!』
≪行動レベルが2のため、行動内容を復唱します。『私と貴方でstand up』≫
人工筋肉が軋む音を上げ、ハヤトが、いや、遠い世界の殺人サイボーグが立ち上がった。
『トゥザヴィクトリー! 動いたぞッ! 俺のボディッ!』
そしてハヤトは単純明快な命令を下す。
『……目の前の女を、ぶちのめせ!』
≪行動レベルが2のため、行動内容を復唱します。『目の前の女性をぶちのめします』≫
漆黒の殺人サイボーグが、一歩、二歩と、確実に歩を進め始めた。
「姫様っ!」
既に魔術式の構築に入っていた女だったが、注意を促されて気が付いた異変に、目を見開いて驚愕する。
「そ、そんな……。拘束術式は確かにかかっていたはず……! それを破れるわけが……構造的にそんな事は不可能な、はず……では……!」
女は狼狽える。殺人サイボーグは狼狽えない。
「いいか、女、俺はな、ハードカバーの本と、顔のいい女が大っ嫌いなんだ。何故かわかるか?」
「なっ、何を言って……」
「それはな、……中身を誤魔化すからだ!」
「いっ、意味がわからなっ……」
殺人サイボーグの体が跳ね上がる。
「姫様をお守りしろっ!」
甲冑を着込んだ兵士達が駆け寄るが、殺人サイボーグには届かない。
「ひ、ひいっ! ぼ、防盾術式っ! 最速構築っ!」
女の手前の空間に、光の紋様が浮かび上がる。それでも殺人サイボーグは止まらない。
光の紋様を突き破り、殺人サイボーグの拳が女の顔面に直撃する。グチャっという音と共に、女の体が錐もみ吹き飛ぶ。
女は地面を何回か跳ね返って、そのまま倒れ伏して動かなくなった。
A.I.が行動ログの解析結果を出力する。
≪やはり、何か特殊な力場により、運動が阻害される事があるようです。また、運動量が拡散したため、致命的なダメージを与える結果を得られませんでした。命令を継続しますか?≫
『その女はもういい。次は後ろの奴らだ』
≪了解しました。行動レベルが2のため、行動内容を復唱します。『次は後ろのヤツラダ』≫
ハヤトは後ろに振り向く。後ろに振り向く?
『……体が動く?』
ハヤトは自分の体を動かせるようになっている事に気が付く。拘束術式とやらが解除されたのだろうか。肉体の稼働を確かめる。やはり体は動く。
『あー体動くわ。まじ動くからこれ。もういいわ。オートムービング解除』
≪もうちょっと暴れたかった≫
『お前タメ口なるタイミングなんなの? それ』
ハヤトは確かめるように、前腕人工筋肉を稼働させ、拳を握りしめる。
「ひ、姫様がっ」
「おのれっ! 使役獣の分際でよくもっ!」
「こ、この使役獣は失敗だッ! 『処分』しろッ!」
兵士達は怒号を上げ、術式に加わっていた魔術師の一人が、声を裏返らせて『処分』を叫んだ。
『なるほど、手に余るシエキジュウとやらは『処分』されるというわけか』
≪問題解決の手段としては、妥当な判断だと思われます≫
だから獣なんだな、とハヤトは珍しく詩人になった。
「女官達は姫様の確保をっ!」
「兵達は一旦下がれッ! 炎熱術式ッ! 連続構築ッ! 火炎連弾ッ!」
兵士達が槍ぶすまを作り、魔術師達が魔術式を構築していく。一目見て、よく訓練されている事がわかるだろう。だが、相手が悪かった。
「射線修正っ! 発射っ!」
魔術師達から次々放たれる火球が放物線を描き、炎の雨としてハヤトに降り注ぐ。地面と衝突した火球は朦々と土煙を巻き上げる。
「命中っ!」
「やったかっ!?」
土煙の中に人影が浮かび上がる。殺人サイボーグは燃やせない。
「……馬鹿な。直撃したはずだ……この距離だぞ……いかに使役獣と言えども……」
≪マスター、あまり油断をしないでください。魔術という概念の詳細はまだ解析中です。致命的なダメージを受ける恐れがあります≫
『ああ、わかった。魔術とやらの恐ろしさは身に染みたからな』
殺人サイボーグは右腕を突き出し、アームプラズマガンのトリガーを引く。
迸しったプラズマが、纏めて数人を貫き、穿つ。
『やはり土人が相手ではオーバーキルが過ぎるか』
「……なんだ!? 今の光は!? おい!」
「……そんな……使役獣が魔術を使うなどと……気配も見せずに……」
魔術師は笑えない。殺人サイボーグも笑わない。
『しまった、弾の補給が出来ないな。白兵戦にするか』
殺人サイボーグの左腕甲から鈍色のブレードが飛び出す。
「奴は魔術を使うぞっ! 再構築される前に接近して叩き伏せろっ!」
兵士達は気勢を上げてハヤトに襲いかかる。しかし、殺人サイボーグ相手では意味が無い。
殺人サイボーグは軽く左腕で振り払う。それだけで兵士の一人が甲冑ごと、それこそバターのように両断される。返す勢いでそのまま兵士の集団に飛び込み、そのブレードで薙ぎ払う。上半身と下半身を二つに両断され、兵士達は残らず絶命した。
超振動する殺人ブレードはあらゆる物を切断する。きっと、ドラゴンの鱗だって。
「んな、お、お前は一体なんなんだ……し、使役獣の範疇を超えすぎている……」
後陣で生き残っていた魔術師達は既に戦意を喪失していた。
『……俺か? 俺が何かだと? ……俺は、俺はな』
「俺は! 俺の名前はキルボーグ! 殺人装甲キルボーグだ!」