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かっちゃん
かっちゃん
福井で似顔絵師を目指して、頑張ってます♪ リクエスト受け付けてます(^-^)コメント貰って、素材があればいつでも描きますよー(*^_^*)

2010年11月07日

似顔絵描きに行ってきました(*^_^*)

フェニックスプラザにて開催されていたファッションショー「LR」
福井のオシャレな人がみんな来てるんじゃ無いかなってくらい、カッコいい、可愛い人ばっかりでした。

みなさんとっても優しくて、またまた一杯良い笑顔描くことが出来ました!

↑まだまだ準備中!なんとなく祭りの準備ってドキドキしますね♪

ではでは、描かせて頂きた方々を載せていきます☆


みんなホントイケメンばっかでみっくりしました!

この方々は明日誕生日なので、ハッピーバースデイと入れると、とっても喜んで
くれました!!

まだまだ、描く時間が長いので、少しお待ちさせてしまったりするのですが、やっぱり
この似顔絵は楽しいですね!



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この記事へのコメント
おかえりなさーい!!!
まってました★
私も機会があったら描いてほしいな♪SN
Posted by ソフトバンク四ツ井 at 2010年11月07日 17:26
益々の活躍・・・喜ばしいかと存知まする。
暫くの充電で、成長致しましたかな?
あ・・・拙者も描いて貰いたいものじゃww
Posted by 越前蟹佐衛門越前蟹佐衛門 at 2010年11月07日 17:29
ソフトバンク四ツ井
SNさんおひさしぶりです☆
最近はお仕事を始めましたので、前のように無料では描けなくなってしましました(*_*)
ごめんなさい(>_<)
もし、ご依頼頂けるなら、いつでもまってます!
Posted by かっちゃんかっちゃん at 2010年11月07日 22:29
越前蟹佐衛門さん
充電めちゃくちゃしたので、すんごい進化しました!
上にも描きましたが、無料では描けなくなってしまったんです(>_<)
もし、有料でもご依頼頂けるならいつでもお待ちしております!
Posted by かっちゃんかっちゃん at 2010年11月07日 22:32
お久しぶりです。良き充電期間
で、ワンステップ上がっての
復活。。おめでとうございます。
わたしも、お手すきの時に書いて
いただきたいです。温もりのある
似顔絵。。。。いいですね(*^.^*)
Posted by ニシカンニシカン at 2010年11月07日 23:44
ニシカンさん
おひさしぶりです。
おほめのお言葉有難うございます。
イベント活動の際、ブログに事前にアップ致しますので、是非来て下さい☆
もちろん、お写真送って頂ければお描きいたしますよん♪
Posted by かっちゃんかっちゃん at 2010年11月08日 22:04
知らないで、仕事でやったことでしょ?
ネラーは、そういう発想ができない、
バカものの集団ですよ。
いままでどおり、淡々と似顔絵を描
いてください。リンクルの住民たち
の、無言の総意を信じて、よりそっくり
にみんなの絵を描いてください。
Posted by 絵師さんがんばれ at 2010年11月10日 21:09
ズルいオトコ
作者:真坂たま
「いつ電話かけてもいないし、全然連絡くれないし……。たまに会ったと思ったら、そんな、気合いのはいっていない服で……」
 彼女にそう言われて俺は自分の服装を見下ろした。薄汚れたトレーナーには贋物のミッキーマウス。ジーンズはすりきれ、おまけにはがし忘れたガムテープまでついていた。
「いや、これは……現場から直行しちゃったから。だって君に会うのも一か月ぶりだし」
「そうよ、あたしのこと一か月も放っておいたのよ! なんで? あたしのこともう好きじゃないの?」
「そんなことないよ!」
 俺は必死にくいさがった。でもなぜか彼女の顔は、スリガラス越しに見るようにぼんやりしている。
「君のことは毎晩夢に見るよ。でも、仕事がどうしても忙しくて。俺だって毎晩睡眠時間三時間でがんばっているんだ」
「どうして? テレビ局なんでしょう? なんでそんなに忙しいのよ。どうせ女優といちゃいちゃして、あたしのことなんか忘れてた
んでしょう。そうよね、きれいな人、いつでも見られるんだから」
「誤解だ!」
 第一俺はアシスタント・ディレクターなんだ。女優にとって俺たちADは人間じゃないんだから。
 しかし、一般の人にとっては、テレビ局に勤めている、というだけでタレントと仲がいいと思うらしい。それを説明するのも大変なので、一言だけ言った。
「俺はいまでも君だけだよ!」
「そう。でもあたしはもうあなたには愛想がつきたのよ!」
 そう言って彼女は立ち上がった。いつも待ち合わせに使う喫茶店。店内は奇妙に明るく音がない。
「待ってくれ!」
「いやよ! ついてこないで。そんな変な格好の人と一緒に歩きたくないわ!」
 おおっ、俺はいつの間にかカッパのぬいぐるみを着ているではないか。
「俺だってこんなの着たくないよ! でも、先輩がどうしてもカッパが必要だっていうから……」
「そうだ! このシーンではカッパが必要なんだよ。ぐずぐず言わずに早く川へ飛び込め!」
 怒鳴られておそるおそる振り向くと、そこにはチーフADで俺の大学の先輩でもある山岸且文が立っていた。
「先輩! なんでここに……」
「なんでもいいから早く飛び込むんだ!」
 先輩が指さしているのは地上二十メートルはあろうかという断崖絶壁。下からヒューヒュー風が吹き上げている。
「で、でも彼女が……早く追いかけないと彼女が……」
「やかましい、早く飛び込むんだ」
「でででも、彼女が……待って、待ってくれ~~~!」


「やかましい!」

 怒鳴られた後、頭に衝撃がきた。目の前がぐらぐらする。後頭部への痛みはそのあとだ。
「な、何をするんですか~~~」
 蹴られた、と分かったのは、目の前に足があったからだ。35センチの大足の持ち主は、山岸先輩しかありえない。
「何が待ってくれ~だ。大方振られた女の夢でも見てやがったんだろう」
 体を起こすとそこは局の仮眠室。俺は二段ベッドの下段から、冷たいビニール貼りの床に転げ落ちていた。
「まだあの女に未練があるのか?」
 俺の前で腕を組んで見下ろしていたのは予想にたがわず山岸先輩だった。一メートル八二の長身の彼が、この仮眠室に入ると、部屋
が急に狭く感じられる。
「未練なんてないですけどぉ……」
 ぶつぶつ口の中で呟く。大学の時から一年半もつきあったのに、FTVに入社して半年目で、俺は彼女に見限られてしまった。未練
がないはずがない。
「いつまでもぐたぐたしやがって。女の腐ったようなやつだな」
「そういうこと言うと、女性差別だって言われますよ」
「やかましい、さっさと顔を洗ってこい」
 先輩の大きな手が俺の頭をぐしゃぐしゃとかきまわす。俺はあくびをしながら仮眠室を出た。

 俺の名前は井上穂積。新米のADだ。
 ADってわかる? テレビ局で作られる映像にはなくてはならない存在だ。はっきり言ってADがいなければドラマだってバラエティだって報道だって成り立たない。でもその実態はただの雑用係、奴隷と言ってもいいかもしんない。
 番組を作りたい人々───タレントやディレクターや監督や、果ては美術やメイクさんたちが仕事がしやすいように働くのが俺たちの役目。
 俺は大学でマスメディアを学んだ後、このテレビ局に入社した。ドラマを作るのが昔からの夢だった。いつかはこの手で名作と言われるドラマを作りたい! そう思って希望に燃えてテレビ局に入ったのだが……。
 今現在はこうやって休みもなく、彼女にもふられて、家へ帰ることもできずに仮眠室にいたりする。
「…………」
 俺は歯をみがきながら鏡の中の不健康そうな顔色の男を見つめた。着ている服は昨日と同じだ。昨日もそう思ったんだからもう三日着ているのだろう。……四日かもしれない。
(家へ帰れないんだから仕方ないよな)
 これでも大学の時はヒロミチ・ナカノの服にビンテージのジーンズなんかで、渋谷の街ではメンズ雑誌に写真を撮られたこともあるのに。
 髪も切りにいってないから目の上にかかり、耳の後ろも伸びた。ひげはあんまり濃くないからいいけどさ。
(今日は帰りたいな……)
 ため息をうがいと一緒に吐き出して俺はADルームに行った。俺たちの私物や制作用の荷物が置いてある、ようはロッカールームのようなものだ。
 ドアの隙間から先輩の威勢のいい声が聞こえてくる。
「……だからっ、そこをなんとかすんのがてめえの仕事だろうが。本番になって揃いませんでしたですむかよ! 死ぬ気でやれ、死ぬ気で!」
 あいかわらずタフで無茶な人だ。俺と同じように家にも帰ってないだろうし、睡眠時間だって少ないはずなのに、このパワーはどこから出てくるんだろう。心底仕事が好きなんだな。
「やっと起きてきたな」
 先輩は電話を切って俺を見た。日に灼けた顔の中の大きな目がじろりと睨む。
「今日の撮影は十二時からだからな。弁当の手配はすんでんのか?」
「はい。昨日頼んでおきました」
「麻美と葉月の控え室は離しておけよ、仲が悪いって話だからな」
「はあ……」
 先輩は俺の腕を引っ張った。
「しけた面、しやがって。そんなに逃げた女に未練があんのか、ええ?」
「ちょ、ちょっと先輩……」
 俺だって一応170センチはある。だが、先輩に抱き寄せられるとちょうど俺が彼女を抱いた時と同じくらいの身長差だ。
「やめてくださいよ、朝っぱらから」
「やかましい」
 口癖を飛ばして先輩は俺のあごを持ち上げた。くしくも俺が彼女にキスする時と同じ形で。
「せんぱ……んぅ」
 たっぷりと厚い先輩の唇が俺を覆う。舌が忙しく口中を動き回ると、ゴールデンバットの香りが鼻を刺激した。
 そう。俺と先輩はこういう関係。俺が彼女と別れた三か月前から。

 あの夜。

 会えなくなったことに腹を立てた彼女に俺は一方的に振られ、ADルームで涙にくれながらビールを飲んでいた。一人でしみじみとバーにでも行きたかったのだが、仕事がつまっていてそれすらできなかったのだ。
(なんでADなんかになっちゃったんだろう)
 繰り言を言ってもしかたがない。制作側の人間になるには、だれでもADを経るしかなんだから。
 そんな時に先輩がビデオテープを山ほど抱えて戻ってきた。
「何やってんだ、お前」
「せんぱ~い……」
 俺は先輩に泣きついた。大学で同じマスメディアの講座をとっていた山岸さんは、俺の三学年上で、ここに入社するきっかけとなった人だった。
 先輩は俺を自宅へ誘い、酒につきあってくれたのだが。
「振られちゃったんですよぉ」
「やかましい」
「一年半もつきあっていたのにぃ~~~」
「よくもったもんだ」
「一か月会えないってだけで~~~」
「情けねえな」
 先輩は俺の襟首を掴むと、畳の上にあおむけにした。
「いつまでもグズグズ言うな。俺が女よりいいモン教えてやるよ」
「ちょ、ちょっと、先輩! な、何をする……あっ、どこさわってんですか! ちょ、ちょっと服脱がさないで……あっ、ジーパンを……せ、せんぱいっ、目がマジっすよ! ぎ、ぎゃあああああっ!」

 てな調子で俺は先輩にカマを掘られてしまったのだ。
 そんでなんでそんなひどい人とつきあっているかと言うと。
 気持ちよかったのだ、先輩の腕の中で目覚めたのが。
 朝、すっきりと俺は目を覚ました。体は痛かったが暖かく、優しく抱き締められていて。その胸に寄りかかって、腕に守られているのが気持ちよかったのだ。まるで女の子のように。
 その朝、目覚めにまたやられて。今度は先輩も俺を感じさせてくれた。前の彼女は俺に奉仕させるだけで、くわえてくれたこともなかったので、それはそれは新鮮でした。そしておしりも……無理さえしなければ気持ちよくなるまでに時間はかからなかった。
 こうして俺はずるずると、先輩との関係を続けているというわけ。それに---どうしても先輩を嫌いになれないんだ。
 人使いは荒いし無神経なとこもあるけど、豪快で男らしくて仕事ができるんだもの。ちくしょう、得なキャラクターだよな。

「……ん、んん……」
 先輩の手が俺の腰をまさぐる。大きな手に俺のウエストなんてスッポリはいってしまう。その手が下がって俺のケツをぐいっとえぐった。
「まだちょっと時間あるな……」
「え、で、でももう30分もしたらみんな来てしまいますよ」
「30分あれば子供だって作れるぜ」
 先輩は俺をひょいと持ち上げ、テーブルの上に乗せた。
「下だけでいいからよ」
 スルスルとジーンズを脱がされる。ひざにからめた恥ずかしい格好で。俺は片足を大きく持ち上げられ、そのまま先輩の腰に引き寄せられた。
「せ、せんぱい、まずいっすよ、まずいって……あ、ああ、せ、せめてクリームつかってくださいよぉっ」
 熱く固くなったものが俺のケツの入り口に当たった。強引な挿入がもたらす痛みを知っている俺の体が怯える。
 わめき続ける俺に先輩はちっと舌打ちすると、ロッカーにあるハンドクリームを手のひらに出した。
「おまえのおかげで最近手がきれいだよ」
 そんなこと言いながら指先でクリームを塗り込める。
「あっ、ああ……ん…っ」
 開かされた足の間から先輩の指が入り込んで、俺は分厚い胸に顔をこすりつけて声を殺した。
「いい声出すようになったな」
 耳元で囁かれかーっと顔が熱くなる。俺だって好きでこんな声出してんじゃない。ただ先輩の指が俺のいいとこを擦っていくから……、
「あっ……くぅ……」
 前の方をつままれた。くちゅくちゅと後ろをいじられていると前の方が立ってくるのは男の生理。
「もういいだろ?」
 先輩はそう言うと「よっこらせ」とかけ声をかけて俺の腰を引き寄せた。
「あうっ!」
 何度目でも最初の一突きはキく。ケツが焼ける程の痛み。それが全身に広がって、その後をじわじわと快感が追いかける。
「ううっ、締まるなあ……、ちくしょう」
 先輩は俺の体をガクカグ揺すった。俺は頭を先輩の肩に押しつけて体がバラバラになりそうな痛みと快感に耐えている。
「あっ、あっ、あっ、………」
 先輩が俺の尻を潰すかと思われるほどの力で握り---
「ぅあっ!」
 ドクン、と内臓の奥に先輩が逆流した。
「ようし、ジャスト30分。穂積、トイレ行って来い。ちゃんと出してこいよ、撮影中にハラ壊されたらたまらんからな」
「……はあい……」
 俺はぐちょぐちょする感じの尻にジーンズをはいた。先輩はすっきりとさわやかな顔をしている。なんだかこういう時は自分が便器になった気がする。
 まあ、先輩には俺に愛情なんてないんだろうし、俺だって一瞬の快感のためにつきあってるんだから御互い様だけど。
 でもちょっと。
 さびしいよな…………。


 ADの朝が始まる。
 今日はまだ撮影が午後からだからいいけど、朝四時五時って時もある。もちろん俺たちだけでなく、役者さんもカメラさんもそうなんだから文句は言えないんだけどさ。
 午後から世田谷の代沢へ行き、ロケ開始。今日の俺の仕事は人止めと車止め。どういうのかというと、撮影をしている場所に、余計な人間やモノが映らないように通行止めすること。
 もちろん法的な効力はないので、ただひたすらお願いをするのだ。
「ちょっと、なんでここ通行禁止なのよ!」
 でた! この世で一番理屈の通らないおばさんが。
「すみません。この先でロケやってるもんで、ちょっとの間、お願いします」
「ロケですって? 何のロケよ」
「木曜の九時からやっている『たとえばそれが恋なら』ってやつなんですけど……」
「知らないわよ、そんなもの! いいかげんなこと言うんじゃないわよ」
 ああああ。
 それでもなんとかなだめてすかしていると、携帯が鳴って「カット」だと言う。急いでおばさんを通す。
 ほっとしたのもつかの間、今度はじいさんとばあさんの集団だ。
「わたしらこの先の老人会館に用があるんですがのお。ここ通ったらいかんのかい?」
「あ、ちょっとだけ待っててくださいね。すぐすみますから」
「何かの工事ですかいのお」
「いえ、あの、ドラマのロケなんですよ」
 じいさんばあさんは顔を見合わせた。
「ドラマ……ちゅうと、『日雇い侍』とか『将軍大暴れ』とか……」
「いや、そうじゃなくて『たとえばそれが恋なら』って言う……しらないだろうけど」
「え? そんなら杉たか子とか出てるんかい? どこ、どこに出てるんじゃい」
「草町拓也も来てるんかの、サインが欲しいの」
 きゃっきゃ、きゃっきゃと騒ぎ出す。色気づくんじゃねえよっ、じじばばがっ。
「こらっ、年寄りを粗末にすると罰があたるぞっ」
 俺の広げた腕の下をくぐって道に出ようとする。元気な老人というのは、自分が年をとっているということを武器にするから始末が悪い。
 場所を移ると今度は女子校生の集団だ。こっちの方は男優のおっかけで、通行人じゃないので俺たちも強気だ。
「ほらほら、さがってさがって!」
「なによぉっ、拓也が見えないじゃないよ」
「テレビで見てくれよ」
「いやよお! たくやぁっ、たくやぁっ!」
「しーっ、しーっ!」
「拓也呼んできてくんなきゃ騒いでやるーっ」
「てめーらっ、いいかげんにしろっ!」

 ロケの日はひがな一日こうした戦いが続く。女子高生とおしあいへしあいしながら、俺はいったい何をやってるんだろう、と思うこともある。何だか情けない。ひょっとしたら一生ADで終わってしまうんじゃないだろうか。本当に俺にドラマなんて作れるのだろうか。
「ぼーっとしてんじゃねえよ、穂積」
 バシッと後頭部をぶたれて振り向くと先輩だ。
「ちゃんと見張ってないと車がきちまうぞ」
「はあい」
 先輩は俺の頭をぶった台本を口にくわえると、両手に石油缶をガランガランぶらさげていく。十一月の秋風が吹くというのに半袖で。ほんとにタフな人だ。
 撮影は夕方に入った。駒沢公園に場所を移し、夕日のカットを取る。カメラが場所を捜している間に役者さんたちの弁当タイム。俺は『上松』から取った幕の内弁当を配ってあるいた。
「やだあ。これまつたけごはんじゃない。あたし、きのこだめなのよぉ」
 主演女優が泣き声を上げる。とたんに俺の後頭部に台本がたたきつけられた。振り向かなくてもわかる。先輩だ。
「ばかやろう、ちゃんと言っておいただろうが。杉さんはきのこだめだって。っとにバカなんだから」
 聞いてませんよお、と言う声は胸の奥にしまいこんで。
「ほんっと、ごめんなさい。杉さん、何がいい? こいつにすぐに買いにいかせますから」
 先輩はにこにこ愛想のいい笑顔をふりまいている。杉たか子は俺に向かってちょっと気の毒そうな笑顔を向けた。
「じゃあ、あたし、サンドイッチ買ってきてもらおうかしら。コンビニのでいいわ。でもマーガリン使ってあるのはいやなの。マヨネーズかバターで、レタスと卵とハムが入っているの、お願いね。あ、ツナはきらいなの、匂いもだめ。だからツナが隣になってるのもやめてくださいね」
 言葉尻は柔らかいがわがままな注文だ。俺は駒沢の町を走り出した。ローソン、セブンイレブン、サンクス、ファミリーマート、スリーエフ、AmPm……。俺は杉さんの注文のサンドイッチを求めて走り出した。しかし、どの店で扱っているのもマーガリン使用で、ようやく普通のパン屋でバターを使っているサンドイッチを見つけた時には、もう四五分もたっている。
「た、ただいま戻りました」
「おせーよ、バカッ」
 蹴りを入れられる。すでに弁当タイムは終わって撮影に入っていた。
「杉さん、食事抜いたんですか?」
「いや、おなかがすいたからって……」
 先輩が示した先には空になった幕の内。なんだ、食えるんならさっさと食えよ。
「サンドイッチ、どうしましょう」
「あとで食いたくなるかもしれねーからな。とっておけ」
「俺の飯は……」
「あとだ」
 やっぱり。

 なんとか時間を見つけて固くなった弁当をむさぼり食う。朝から数えて実に六時間ぶりの食事だ。急いで食べないとすぐに及びがかかってしまう。
 俺はロケバスの陰で必死に箸を運んだ。口に詰め込みすぎてごほごほやっていたらすっとお茶が差し出された。
「あ……ありが……」
 俺はそのまま固まった。お茶をさし出してくれた子が、別れた彼女に見えたからだ。
「あの、どうしたんんですか?」
 いや。彼女じゃない。髪型と化粧の感じが似ていただけだ。でも。
「あ、ありがとう」
 紙コップを受け取って礼を言うと、赤い髪を揺らしてにっこり笑う。
「えっと……君、エキストラの……」
「ええ。真下エリです。通行人その2」
 真下エリちゃんはそう言って笑った。遠くで撮影を照らしている照明が、彼女の頬も淡く照らし出す。
「今日は呼んでもらってありがとうございます」
「あ、いや……キャスティングはアシスタント・プロデューサーの片山さんが……」
 俺は急いでお茶を飲んで、口の中のごはんを飲み下した。それでちょっと落ち着けた。
 エリちゃんはそんな俺を優しい目で見つめている。俺は少しばかり業界人の顔を作って彼女に話しかけた。
「ま、真下さん、ドラマは何回目くらい?」
「あたし、これで八回目くらいですよ。呼んでもらうことは多いんですけど、まだセリフもらったことないんです」
 エリちゃんはかわいらしく肩をすくめた。ああ、いいなあ、女の子って。そこにいてくれるだけで雰囲気明るいもんな。そういえば最近俺のそばって先輩しかいなかったからな。サツバツとしていたはずだ。
「君みたいに美人なら、もうセリフ付きの役もらってもいいのにね」
 エリちゃんは「きゃあ」と言って頬を押さえた。
「やだ、うれしい。嘘でもそんなに言ってもらって」
「嘘じゃないって……君、か、彼氏いる?」
 前の彼女にちょっとだけ似ていたことが俺を積極的にする。やっぱりつきあうなら女の子がいいよな。
「いませんよぉ。井上さんは?」
「いない、いない、いたこともない」
 俺はぶるぶると首を振った。
「うっそ~。井上さんかわいいのに~」
 かわいい? かっこいいって言ってくれどうせなら。
「じゃ、じゃあ、俺たち恋人いない同士だね~。気があうね~」
 エリちゃんは肩をすくめてくすっと笑った。
「恋人同士になりましょうか……」
「え?」
 ドキリとする。こんなに話がうまくいっていいのか?
 エリちゃんは俺を下から見上げるような目で見て唇を持ち上げた。
「つきあってあげてもいいわよ。そのかわり、あたしにセリフのある役もらえない?」
「え……」
 手にしていた紙コップが落ちそうになる。
「寝てあげてもいいわよ。あたし、どうしても役が欲しいのよ……」
 エリちゃんは俺のそばに体を寄せた。ひじに彼女の胸が当たる。さっきまでのかわいいコの面影は消え、照明が彼女の瞳をキラキラとなまめかしく飾った。
「あたし、からだイイわよ」
「いや、それは……」
 俺はうろたえて立ち上がった。弁当はまだ少し残っていたが、食欲が失せている。
「俺は下っぱだし、そんな権限はないよ」
「わかってるわよ。でも上の人に紹介してくれるくらいはできるでしょう?」
「ちょ、ちょっと……」
 ぐいっとエリちゃんの手が俺のシャツを掴んで引き寄せた。
「ねえ……」
 女の甘い体臭が俺の鼻をくすぐる。前の俺ならすぐにでもくらっときたかもしれないが
、今はなんだか気持ちが悪いだけだ。
「あの、俺……」
 と、今度はいきなり後ろにひっぱられた。肩に大きな手がのっかっている。太い腕が俺の胸の前に回った。
「わりぃな、エリちゃん。こいつは俺のものだから、あんたの色仕掛けはきかねえんだよ」
「せ、せんぱいっ」
 先輩の厚い胸にもたれれ俺は妙に安心してしまった。エリちゃんは一瞬赤くなり、次には白くなった。
「なによっ、あんたホモだったの? やだっ、信じられない!」
 そう罵ると赤い髪を翻し、背を向けた。
「せ、先輩……」
「ばかやろうっ」
 俺を腕の中にいれたまま、先輩は俺の頭をぐりぐりとかき回した。
「TV局を追い出されたいのか! NFTのディレクターのことを思い出せ」
 NFTのディレクターは人気のある歌手に会わせてやると言って女子高生をホテルに誘い、新聞沙汰になって局をやめさせられたのだ。どっちが誘ったのかはわからないが、この業界ではよくあることだ。
「そうだ。よくあることだからこそ、落とし穴も多い。お前なんか女に利用されるだけ利用されて、あとで訴えられてむしりとられるのがオチだぞ」
「……すいません」
 俺はうなだれた。先輩の腕はまだ俺の前に回っている。体温がじわじわと俺の胸に落ちた。
「まだ前の女に未練があるんだな」
「え?」
 ぐっときつく抱かれる。肋骨が折れそうな勢いだ。先輩の唇が俺の耳を噛んだ。
「まったくしょうがねえな。朝のアレじゃ足りなかったとみえる」
「え、ちょ、ちょっと、先輩……」
 先輩は俺を腕に抱えたまま、ズルズルとロケバスの中にひきずっていった。
「ちょっと、やめてくださいよ、こんなとこで。現場ですよ、現場!」
「こんなとこだってどこだって同じだろ。女なんかに鼻の下伸ばしやがって、まったくあ
ぶなっかしくて見ちゃいられねえよっ」
 先輩は俺をリクライニングにした後部座席に押し倒すと、ちゃっちゃとジーンズのフロントを割り、引き下げた。
「や、やめてくださいよぉっ」
「やかましい」
 これが出てしまったらもうこの人は他人の言うことなんか聞きやしない。
 獣のように下腹にかみつかれてしまった。
「あっ、先輩っ……」
 いきなり熱い口中にくわえられ、全身がピン、と伸びた。先輩の舌は俺をとらえ、のどの奥まで深く入る。
「せ、先輩……だめです、だめ……っ」
 聞いちゃいねえ。
 俺は先輩の頭を押さえてその快感の深さと勢いに、のみこまれないように、流されない様に、耐えているのがやっとだった。
「ああっ」
 ダラダラと先輩の唾液だが、俺のアレだかわかんないものがケツの方にまで流れる。なまあったかいそれが気持ち悪い。
「うう……」
 それを追いかけて先輩の舌が伸びてくる。いつもはこんなことまでしてくんないのに、ロケバスって状況が先輩まで興奮させてんのか。俺は足を高く持ち上げられ、尻を先輩の顔の方に突き出して、先輩は肉の間に鼻先をつっこんで。
 カーテンをしめたバスの窓に、時折ライトがあたる。他のADたちの「カットですー」と言う声が長く響いた。
 ああ、みんな仕事してるのに。
「うわっ」
くるっと裏返されて腰を掴まれた。
「うわあっ、先輩、タンマタンマ! クリーム使ってくださいってば!」
「もうぐちょぐちょだぜ」
 がばっと大きな手が俺の口をふさぐ。腰に熱いものがあたった。いつの間にこんなにでかくしてやがったのか。
「うっ、ん、ぐ……っ」
 はいってきた。
 悲鳴は手のひらで押し殺された。でもそんなに痛かったわけじゃない。
 いっぱいにされて、逆に充足感が胸に満ちた。俺は、はあっと息を吐いた。
 内臓の底の方に先輩のあれが当たってる気がする。腰の上の部分、そこを擦られるとたまらない。
「んん、ん……」
 指が口の中に入ってくる。舌をはさんでかきまわす。俺はそんな乱暴な指にすがりついた。そうしないと押さえられていても声がでちまうくらいに気持ちよかったから。
 バスの外では人がうろうろしている気配。今にも誰かが入ってきそうで、俺はシートに爪をたててしがみついた。このスリルが俺の体をより感じさせているのか。
「は、あ───」
 先輩の長いのが出たり入ったりして俺の気持ちいいとこを擦っていく。今朝もやられたのに何でこんなに感じるんだろう。
 先輩の勢いでロケバスがギシギシ動く。外から見てわかっちまうんじゃないか、と不安が頭をかすめた。
「うっ!」
 先輩が低い声を上げた。が、いつもの熱いしぶきは俺の中にはじけてこなかった。先輩は体を引き、俺の背中の上に飛ばしたのだ。
「はあ……っ」
 それを感じて俺も先輩の手の中でいった。いつのまに持っていたのか、先輩は俺をタオルでくるんでいたのだが。
「…………」
 俺はぐったりと座席に顔をうずめた。ロケバスの中が、現場がこんなに気持ちいいなんて思わなかった。くせになりそうで怖い。
「三分たったら服を着ておりてこいよ」
 冷たい声に目を上げると、先輩はもう服を直して立っている。俺の濡れた背中にタオルをぽいっと捨てて。
「いいか、二度と女なんかにデレデレすんじゃねえぞ」
 ロケバスのドアを開けると、一瞬まぶしいライトが車内を照らした。先輩の男らしい鼻にその光が当たる。横顔がかっこいいことに、俺はいまさら気づいた。
(まさか、先輩、妬いたんじゃ……)
 俺は快感の余韻のせいかとんでもないことを思い付いた。
───こいつは俺のものだから───
 さっき先輩はそう言った。それは俺が先輩に手軽に肉体を提供できる玩具として? それとも他にも意味がある?
 いや、意味なんかない。意味なんかあってたまるか。そしたら本当にホモじゃねえか。先輩は俺の体が気にいっているだけ。男に恋されるなんてそんなの、そんなの……。
「気持ち悪いだけだ」
 呟いてみたが勢いがない。
 ただの行為だったから受け止められたのに、そこに感情がはいっちゃまずいよ、先輩。
 でも本当にそうだろうか? わからない、俺には先輩の考えていることなんて。
 三分たった。俺は服を着てバスから下りた。四方から照らす照明が、風景を別な世界のように見せている。光の中にみんなが溶けていた。
 先輩が俺を振り向く。その輪郭もぼんやりと崩れていた。ああ……気を失うんだな、と思ったのが、俺の最後の思考だった。

 目をさましたらずいぶん懐かしいものが見えた。自分のアパートの天井だ。
「なんで俺、ここに……」
 呟いて体を起こすと、服を着替えてパジャマを来ている。しかも自分のベッドの上。
 わけはすぐにわかった。床の上に先輩が長々と伸びている。
 俺は現場で失神し、その俺を先輩が自宅へ運んでくれたのだろう。
 先輩はおおいびきをかいていた。
 俺は長い間先輩の寝顔を見ていた。

 翌朝、俺は先輩と一緒に出社した。つきそってもらって病院へ行ったら、ただの過労だった。
「いや、過労といってもバカにできないんだよ。尿に血がまじったら大変なんだからね」
 俺を診てくれた初老の医師がまじめな顔で言う。先輩は横で神妙な顔をしていたが、病院を出ると、「気合いがたりねーんだよ、おまえは」と俺の頭をぶった。
 先輩は俺をアパートへ運び、また現場に戻って、明け方俺の部屋へ様子をみにきて、そのまま眠ったのだと言う。
「ご迷惑おかけしまして……」
「まったくだ。現場で倒れるなんて根性がねえ」
 先輩は俺の頭をごりごりとかきまぜた。
「……でもまあ、俺も無理させたみたいだしな。悪かったよ」
 俺は驚いて先輩の顔を見た。この人の口から謝罪の言葉など聞いたのは初めてではないか。俺が見ていると先輩は照れたように鼻をこすった。

 ADルームに行くと仲間たちが心配して寄ってきてくれた。ディレクターも「いまのドラマが終わったら少し休みとるから」と優しい言葉をかけてくれる。うーん、現場で倒れるとけっこうインパクトがあるなあ。
 午後、俺と仲のいい谷山がやってきた。俺より一年ほど先に入社して、ADやっている男だ。
「倒れたんだって?」
「ああ、ただの過労だよ。恥ずかしいなあ、もう」
 谷山は人のいい顔を心配げにゆがめた。
「無理すんなよ。自分の体は自分で管理しなきゃ。ここでは誰も他人の心配なんかしてくれないんだから」
「わかってるよ。でも谷山さん、久しぶりだね。ずっと『夜はコレから』の方だったでしょう?」
 谷山は半年ほど前から深夜のバラエティ番組でADをやっていた。ドラマが多い俺と会うことはあまりない。
「いや、俺、実は今日で局をやめるんだ」
「ええっ!」
 俺の驚いた顔を見て、谷山は寂しげに微笑んだ。
「俺報道やりたいって思って入社しただろ。でもずっとドラマとかバラエティとか……今度クイズにいかされそうでさ。このままやっててもだめなんじゃないかって……」
「だ、だって谷山さんまだ2年目じゃないですか」
「俺にはこの仕事がむいていないんだ、ってわかっただけでも、FTVに入社したかいがあったよ。あきらめがついたからな。田舎へ帰っておやじの後を継ぐよ。ちっちゃな雑貨店をやってるんだ」
「谷山さん……」
 かける言葉もない俺に谷山は持っていたノートを見せてくれた。
「これ、俺がいままでに書いた企画なんだ。どれもボツだったけど。井上もプロデューサー志願なんだろ? できるだけ企画を立てる練習をするといいよ。ひょうたんから駒ってこともあるし」
「…………」
 そのノートは汚れた大学ノートで五冊もあった。俺は断わってその中を見せてもらった。主にドキュメンタリー番組の企画で、主旨から構成、ナレーターやカメラマンまで指定してある細かいものだ。
「俺、仕事にかまけてこんなこともしていねえ……」
 呟いた俺に谷山は同情するような顔を見せた。
「忙しいもんな。特にあの人がチーフじゃ───」
 あの人───先輩のことだ。
「井上も利用されるばっかじゃだめだぞ。使われる人間は一生こき使われるんだ。早く使う側にならないとな」
「はい……」
 谷山の姿が隣の部屋へ消えた。一人になったADルームはどこか薄暗く寒々としている。俺には谷山が負け犬だとは思えなかった。彼の姿はいつか俺の姿になるかもしれない。
(先輩に抱かれてアヘアヘ言ってる場合じゃねえよな……)
 ドラマを作りたい。そのために勉強してテレビ局に入ったのだから。
 俺はポケットに小銭があるのを確かめて部屋を出た。とりあえず購買部で大学ノートを買うために。


 あれから何日もたった。ドラマはたいした障害もなく、順調に進んでいる。俺が先輩に尻を貸すのも少なくなった。先輩は仕事が順調だとそういう気にならないようだ。
(なんだ、要は俺はストレス解消用ってわけ?)
 そんなふうに考えるとがっかりくる。先輩の大きな手で、太い腕で抱き締められたい、と思ってしまう自分に驚いていた。
(俺は……何を考えているんだ)
 その寂しさを紛らわすために、俺は自由時間、ひたすらドラマの企画を立てた。プロットを起こし、主演を決めて演出家を決めて。
 ドラマは若者に受けそうな恋愛モノからアイドルを使ったコメディまで。通りのよさそうな主旨を考え、キャッチコピーをつけて紙面を埋めていく。それを考えている時だけ、俺は先輩の匂いを忘れることができた。
「じゃあ、もう一回見ます。準備よろしく」
 カメラマンの声で我に返る。今日、俺はドラマのロケで、雨のシーンを撮っている。
 外での雨のシーンてのはたいへんで、ライトの当て具合ひとつで雨が生きるし死ぬこともある。おまけに役者さんは一度撮るとメイクも服も濡れてしまうから、一発勝負でOKを出さなきゃいけない。だから雨とカメラの関係を見る時、そのシーンの役は俺たちADが代行する。
 このドラマの女優は元宝塚の男役とかで、身長がある。そこで女優の役を俺がやり、その彼女より高い男優の役を先輩がやることになっていた。
 代行演技はもう3回目で、俺も先輩もずぶ濡れだ。合間にはタオルをはおっているが、着替えるわけでもないので、身体中に冷たく濡れた服が張り付いて体温を奪っていく。俺はガタガタ震えていた。
「じゃあ、井上。いってくれ」
「はい」
 俺は震えそうになる唇をかみしめ、雨の中に立つ先輩めがけて走った。ライトが俺を追う。雨は水道からホースで引いているのだが、斜めに俺の体に突き刺さる。
「待って、いかないで!」
 時間も見るので脚本通りの台詞まで言わなければならない。
「いかないで! あたしと一緒にいて!」
 1回目はさすがに恥ずかしかったが、3回目となるともう寒いのと疲れているのでどうでもよくなる。
「メグミ!」
 先輩が雨の中、両腕を広げ俺を抱き締めた。
「どこにもいかない、ずっとおまえのそばに
いるよ!」
 先輩の胸に飛び込んで、俺は顔をこすりつけた。頬に冷たい布の感触。思わずゾクッと身体が震えた。
「………………」
 先輩の腕───背中に回っていた腕にぎゅっと力が入った。
(え?)
 初めと2回目。いずれも背中に腕がかかっているだけだったのに。
 カットの声はまだかからない。カメラマンがカメラを覗いて効果的に雨が光るポイントを捜しているのだろう。
 じんわりと先輩の体温が背中につたわってきた。冷たい服を通して、胸の温かさが俺の頬によみがえってくる。
(先輩……)
 それは先輩の優しさだろうか。寒くて震えている俺を少しでも守ってくれたのか? いや、こういう考え方は気持ち悪いだろうか。
「はい、OKです。お疲れ様」
 カメラマンがそう言って、ディレクターが俺たちの位置を確認する。俳優に同じようにやらせるためだ。
「じゃあ着替えますから」
 先輩は俺の肩を持ってくるっと現場に背を向けた。ロケバスの中に押し込むと俺のTシャツのすそに手をかけて、一気に上にはぐ。
「せ、先輩……」
 また襲われるのかと一瞬身体がすくんだ。だが先輩は俺の服を脱がしただけで、そのあとは乾いたタオルをかぶせてくれた。
「ちゃんと身体ふけよ、これで風邪ひいたらたまらんからな」
 ごしごしと頭をふいてくれる。俺はあわててタオルをはいだ。
「せ、先輩こそ使ってくださいよ」
「俺は丈夫だからいいんだ。おまえは風邪ひきやすそうだからな。……また倒れられたら困るし」
 その時俺ははっとした。先輩が俺を最近抱かないのは、この間俺が倒れたからなのか?
 まさか俺の体を気づかって……。
 それを聞くことはできなかった。別のADに呼ばれて先輩はバスを下りてしまったから。


 企画書のノートはもうじき1冊目が終わりそうだった。俺はADルームでノートを頭から見直した。書いている時はおもしろそうだった企画が今見て見るとつまらない。俺だってこんなの見るかどうかだ。
 子供の頃は今よりもっとおもしろいドラマがあった。俺が生まれるより前にやっていたのも、再放送やビデオで最近また見れるようになったが、その頃のものの方がパワーがある。
(俺のはなんだかオシャレにきれいにまとめただけのようだな)
 アイドルが出てくる子供向きの番組プランに鉛筆で×を引く。こんなタレントの人気だけの番組なんて、二回目以降の視聴率は望めないだろう……。
「何をやってるの?」
 後ろから声がして、俺は反射的にノートを閉じた。別な時間ワクのドラマのプロデューサーが俺の肩越しに顔を出している。
「お、おはようございます、小宮山さん」
 驚いた。この人が俺みたいな下っぱADに声かけることなんてないんだもの。それにあまりうちのプロデューサーと仲がよくないって話だし。
「おはよう……僕が入ってきたことも気づかなかったでしょ? 熱心に何を見ていたの?」
 小宮山は今年五十才になったばかりのベテランプロデューサーだ。たいした企画力はないが、人脈が強いので、局からは重宝がられている。過去に何度かタレントに手を出したとかいうことで、あまり評判はよくなかった。
「あの、実はドラマの企画をたててたんです」
「へえ。君プロデューサー志願なの?」
 小宮山はでっぱった腹を俺に押し付けてノートを覗いた。
「はい」
「ふうん。山岸クンの下だからディレクター希望だと思ってたよ。彼ってバリバリのディレクター狙いだからね」
 プロデューサーが企画を立て役者を選ぶところまでの机上の仕事だとしたら、ディレクターは現場で演技をつけ、画面を作っていく仕事だ。確かに先輩は現場の方が好きだろう。
「どら、見せてごらんよ」
「あ……いえ。まだつまんない企画ばっかりで───」
 小宮山はいいからいいから、と俺の手からノートを奪っていった。パラパラと広げて、
「ああ、これなんていいじゃない?」
 そう言われて覗き込むと、それは俺が×をつけたアイドルものだ。
「このコ今旬だし、ファンクラブの会員も多いからね。でもドラマの内容がちょいと地味ね」
「はあ……」
 やっぱり内容か。でもこのタレントにあまり演技力は望めそうにないし。
「まあ、アイドルなんて呼ばれている連中に演技力だの求めてもしかたないからさ。脚本ではったりきかせるしかないのよ」
 小宮山はあっさり言ってのけた。だから最近のドラマは子供向けだの、荒唐無稽だの、現実味のない設定だけのドラマになるんじゃないか、とは俺は言わなかった。小宮山がじっさい抱えているドラマがまさしくそれだったからだ。アイドルの顔ばかりをアップで映すカメラワークのため、間もよくないし、エピソードも面白くない。進んだ映像技術が悲しいだけだ。
「でも、君がこんなに熱心だとは思わなかったよ。どうかしら? この中の企画いくつか僕に預けてみない?」
「……え?」
「君のプロデューサーデビューのために働いてあげるよ」
「ほ、ほんとですか?」
 このさい、小宮山のつまんないドラマは棚に上げる。自分のドラマが作れるのなら、バケツにだって頭を下げるぞ。
「そう、まずはアシスタント・プロデューサーになって、仕事を覚えてもらうけど。そうね、その話は別室でしようよ。ここには人が出入りしてうるさいからね……」
「あ、はい」
「どこか人のこない、静かな場所知ってる? あいている会議室とかいいね」
 俺は小宮山と一緒にADルームを出た。この時間開いている会議室と言うと……3階かな? 

 小宮山は会議室に入ると、廊下側のノブにかかっていた『空室』というふだをひっくりかえした。裏は『使用中』となっている。
 会議室は10人程度の広さで、4つの机が中央にくっつけられていた。
「僕がいいと思ったのはねえ、他にはこれかしら」
 机の上にノートを広げて小宮山が俺を呼ぶ。肩ごしに覗き込むと、会社のセクハラと戦う女子社員の話だった。
「あ、でもこれはまだ資料を集めなきゃならなくて……」
 俺はページをめくろうと腕を伸ばした。と、小宮山がその腕を押さえる。
「資料より実践の方がいいんじゃないの?」
「え?」
「でも君はもう実践済みなのかな……」
 ぐいっと肩を押されてあっと思った時には床の上に倒されていた。足の間に小宮山の丸い腹がある。
「な、なにを……!」
「山岸とやっていたのはセクハラじゃないのかな。あれは合意の上?」
「!」
 全身がこわばった。先輩とのセックスを見られていたのか。
「ADルームから色っぽい声が聞こえるからね、覗いてみたらびっくりよ。いやはや、最近の若いやつは場所もわきまえずによくやる
よね」
「こ、小宮山さん……!」
「せめてこういうとこでやんないと。誰が覗いているかわかんないんだからさ」
 小宮山の手がシャツのすそから侵入し、胸をさわった。ぞっと全身に鳥肌がたった。
「やめてくださいっ」
「いいの? 騒げば恥をかくのは君だよ。それに君にとっても悪い話じゃない。プロデューサーの道がひらけるんだからさ」
 俺の脳裏に、真下エリの姿が浮かんだ。愛と役を測りにかけて、プライドを売ろうとしたエキストラ女優。
「お、俺はいやですっ!」
「何を純情ぶってるの。いいじゃないか、いまさら誰にケツをかそうが。かわりはないだろう?」
 違う!
 俺は叫ぼうとした。だが、口の中にハンカチをつっこまれ、口を閉じることもできなくなった。
「おとなしくしなよ。……君や山岸をやめさせることだってできるんだから」
 そんな───。俺は小宮山を睨みつけた。そんなばかなことがあってたまるか。
 だが、俺の体は抵抗をやめていた。小宮山は目を細めると俺のTシャツを胸までめくりあげた。
「山岸に抱かれてた時の君は色っぽかったよ。男の子もいいもんだと思ったね」
 撫でまわされる肌が気持ちが悪い。まるでトカゲかなにかに触られているような湿った手。そこから腐っていくようだ。
「もううるさいことはないかな?」
 ハンカチが俺の口から引き出される。乾いた布は俺から唾液を奪い、のどをひりつかせた。
「口でまずやってもらおうかな」
 自分の優位を確認した小宮山は余裕たっぷりに俺のあごを押さえた。俺が逃げるわけないと思っているようだった。
「さあ、口を開けて」
 そして俺はその通りにしたのだ。局をやめたくなかった。先輩を……やめさせたくなかったのだ。
「ん、んぐ…っ…」
 小宮山の力のないものが俺ののどをつく。唇にゴワゴワしたものがこすりつけられた。俺はそれに舌で触ることもできず、こわばって身を固くしていた。
「どうしたんだい、なめたり吸ったりしてくれないと大きくならないよ?」
「うう……」
 小宮山が俺の顔をもってガクガクゆする。上あごにこすれて気持ちが悪い。俺は床の上に伸ばした両手を握り締めた。
「そう……そうだよ」
 俺は先輩がしてくれたように、おそるおそる舌を使った。こんなやつに俺が味わった気持ちよさを教えるのはくやしかった。でも、ずっとこのままでは息がつまって苦しい。
「いいよ、いいよ」
 小宮山は自分でも腰を動かし出した。口の中でそれが太さをましていくのがわかる。俺の口が耐え切れなくなった時、小宮山はそれをひきずりだした。
「……はあっ」
 肩でぜいぜいと息をした。目の前に俺がでかくした小宮山があった。俺はこれで犯されるのだ。
 俺の怯えを小宮山は感じ取ったらしい。口元に残忍な笑みを浮かべた。
「後ろを向いて四つんばいになって。そうそうズボンは自分でおろしてね」
 貧血になりそうだった。頭からすーっと血が引いていく。俺は自分でジーンズを下ろし、こいつに尻を差し出さなければならないのか?
 先輩とは違う。こいつは絶対先輩とは違う。確かに先輩も俺を無理やり抱いたけど、こんなふうに人を踏みにじるようなやり方をしたことはなかった。
 俺は首を振った。床に尻をつけたまま後ずさった。
「どうしたの? ここまで来ていやだって言うんじゃないだろうね」
「い、いやだ!」
「……こまった子だね」
 小宮山は呟くといきなり俺にのしかかってきた。
「い、いやだっ! いやっ!」
 小宮山の手が俺のジーンズにかかる。引き下げられまいと俺はそれを押さえた。
「い、いやだっ、誰か……っ、せ、先輩っ、助けて!」
 夢中で叫んでいた。だからドアが開かれてそこに先輩が立っていた時には、幻覚を見たのだと思った。
 カメラのフラッシュが俺の目を射た。
「小宮山さん……いいかげんにしたらどうです。3度目ともなれば謹慎処分というわけにはいかないですよ」
 先輩はカメラを下ろして小宮山を冷たい目で見下ろした。小宮山はあわてて俺の上から起き上がった。
「へたなまねはしないことですね。こいつを現像すればあんたが男をレイプしようとした証拠になりますから」
「山岸くん……」
 小宮山は薄ら笑いを浮かべた。
「そ、そのフィルム、君の言う値で買おうじゃないか」
「あいにく売る気はありませんよ」
 小宮山は立ち上がり、ネクタイを直した。
「い、いい気になるなよ、おまえなんか俺の声ひとつでどうにでもなるんだからな」
「覚えておきますよ」
 荒々しくドアをしめて小宮山が出ていく。俺は顔中涙でぐちょぐちょにして、先輩を見上げていた。
「まったく、バカだな、おまえは」
 先輩が床にしゃがんで俺の頭をかきまぜた。声がひどく優しかった。
「あいつが手癖悪いこと知ってるだろ?」
「だ、だって……」
「プロデューサーにしてやるって言われたのか?」
 俺はこっくりとうなずいた。床に涙がパタパタ落ちる。
「ばかだな。焦るなよ」
「だ、だって……谷山さんがやめちゃうし、俺もこのままずっとADなのかって思うと気ばかり焦って……」
 鼻をすすりあげる俺に、先輩はポケットからティッシュを出してくれた。
「谷山は谷山、おまえはおまえだ。チャンスは巡ってくるよ、こんなきたねえやり方じゃなくてな」
「は、はい……」
 俺は先輩の胸に顔をうずめた。そういえば初めてだ、自分から抱きついたのは。
 先輩の胸はあいかわらず広くて暖かかった。


 ずっと撮っていたドラマが終わり、ホテルで打ち上げパーティがあった。これにも俺たちADは駆り出され、パーティのビンゴの商品を選んだり運んだり、仮装してコンパニオンのまねをしたり、最後までこきつかわれた。
 その席上で重大発表があった。なんと、先輩が今度ディレクターデビューするという。プロデューサーは女性ドラマで定評のある、局のヴェテランだ。
 一段高いところからあいさつする先輩はちょっとてれくさそうで誇らしげで、今までの中で一番かっこよかった。拍手の渦の中、俺も夢中になって手をたたいた。
「───穂積。今日、時間あるか?」
 パーティが終わり、スタッフや役者さんを送り出しながら先輩が俺に聞いてきた。
「え? このあと、みんなで飲みにいくんでしょ?」
「ホテルに部屋、とってあるんだ」
 先輩が俺に耳打ちする。息がかかって俺は震えた。
 先輩が取ってくれた部屋はただのツインだったが、ADルームやロケバスや、仮眠室と比べると、もったいないくらい豪華に見えた。シャワーを浴びる暇もなく、先輩は俺をベッドに横たえた。
「先輩……ディレクターデビューおめでとうございます」
「ああ、ありがとうよ。お前にそう言ってもらうのが一番嬉しいよ」
 先輩は唇を横に引いて笑みを作った。先輩がハンサムなことに俺はこの時いきなり気づかされた。濃い眉の下の大きな目はくっきりした二重、鼻はガッチリして男らしく、口も大きくてバランスがとれている。いつも生えている不精髭もなくて。
「…………」
 その大きな口でたっぷりとキスされて、おれはうっとりした。
「俺はずっとディレクター志願だった。役者に演技をつけて音楽を入れて絵を取る。おまえは企画を考えておまえの世界を見せたいと思う。……おまえのその夢を俺がかなえる。どうだ?」
「いいですね……」
 最高だ。
 俺は先輩の手でスーツを脱がされ、ネクタイをとられ、シャツを開かれた。
 いつもと違い、ゆっくりした手順だ。
「先輩、今日は優しいですね」
「俺はいつも優しいよ」
「そうですか? いつももっと強引じゃないですか」
「いつもは時間がねえからな」
 先輩はそう言って笑った。
「それに、無理させてまた倒れられちゃ困るし」
 俺は目を見張った。やっぱり……。
「せ、先輩」
「なんだ?」
 先輩は俺のズボンを脱がせているところだった。
「先輩が最近俺を抱いてくれなかったのって、俺の体を気づかってくれてたんですね」
「え……? ああ、そりゃな」
 先輩は俺の頭をなでた。
「俺はお前とこうすんの好きだけど、おまえはそういうわけでもねえんだろ。ちゃんと女が好きだし。そしたらやっぱ無理はさせられねえじゃねえか」
「…………」
 俺は今むずかしいことを言われたような気がする。間違えるな。ちゃんと見極めろ。
「あの、先輩……」
 俺は身体を起こして正面から先輩と目をあわせた。
「ちょっとお聞きしますが」
「な、なんだ」
 先輩は少しびびったように首をすくめた。
「先輩は───俺とこういうことをするのが好きだって今おっしゃいましたよね」
「な、なんだよ、気持ち悪いな」
「それって……こういうことだけが好きなんですか? それとも俺とするのが好きなんですか?」
 先輩は「え?」とためらったように手を口元へもっていった。なんだか頼りないしぐさだった。
「そりゃ……セックスは好きだけど……」
「俺以外の男ともこういうことを」
「いや、お前だけだ」
 先輩はきっぱりと言った。
「ほかの男なんて気持ち悪いよ、お前だからさ--」
「それって」俺は間違えないように身を乗り出した。
「俺のことが好きなんですか?」
「あたりまえだろ」
 言葉はあっさりと放り出された。こっちが拍子抜けするほどだ。
「好きじゃなきゃ、男相手に勃つもんかよ」
 ああ───!
 なんでこんな簡単なこと。
 そうだよ、その通りだ。俺だって、いやな相手に勃つわけない。快感を感じるわけがない。こんなに続いているわけがないじゃないか。
「なんだ、お前、知らなかったのか?」
 先輩はあきれた顔で言った。
「だ、だって先輩一言だってそんなこと───」
「え? 言わなかったっけか」
「言ってませんよ!」
「そっかー」
 先輩は照れた顔で自分の髪をかき回した。
「あの」
 俺は先輩の前に正座した。
「お願いです。今……もういっぺん言ってもらえませんか?」
「ええ?」
 先輩は驚いたように身体をのけぞらせた。
「お願いします」
「恥ずかしいよ」
「お願いしますから」
「ええ───」
 先輩はしきりに舌打ちしたが、やがて顔を正面に向けて俺の瞳を覗き込んだ。
「……好きだよ、穂積」
 その後ベッドを転げ回った。
「かーっ、恥ずかしい───っ!」
 俺も恥ずかしかった。でも嬉しかった。俺は先輩に飛びついてその耳元で囁いた。
「俺も先輩が好きです!」

 その晩、俺たちはこころゆくまで愛のあるセックスを楽しんだ。

「でも先輩、あの小宮山プロデューサー大丈夫でしょうか」
「何が」
「俺たちを局にいられなくしてやるって言ってましたよ」
「ああ、大丈夫だよ。こっちには写真があるしな。それにしてもお前」
 先輩は俺を腕の中に抱いた。
「いやならもっとさっさと抵抗しろよ。あんなギリギリまで我慢しやがって。こっちの我慢が切れそうだったぜ」
「え?」
「おとなしくくわえてんだもんな。ハラハラした」
 それって…………。
「せ、先輩。ひょっとしてあの時、もっと前からあそこにいたんですか?」
「そうよ」
 先輩はこともなげに言った。
「おまえが小宮山と出て言ったのを塩田が見ていてさ。俺に教えてくれたんだよ。まさかな、と思ったけどちょうどカメラ持っていたからな」
「な、なんで!」
 俺は飛び上がった。
「なんでもっと早く助けてくれなかったんですか!」
「だってお前助け呼ばなかっただろ」
 先輩は腕枕をして俺を見上げた。
「あのままじゃ合意です、って言われたって文句はないところだったもん。合意じゃ脅すわけにいかねえよ」
「ご、合意って」
「自分からくわえてたろ」
 先輩は俺の腕を引いて、また自分の胸に戻した。
「俺はあん時マジ切れそうになったよ。まったくおまえはあぶなっかしんだから」
 だってそれって。
 あいつが俺と先輩を局にいられなくしてやるからって。
 で、でも、まあ、先輩の言うことにも一理あるか。先輩だって我慢してくれたんだから……でも、まだ納得いかん……。
「今回の俺のディレクターデビューも半分はおまえのおかげだしな」
「え?」
「あの写真で小宮山を脅したら裏から手を回してくれたんだよ。俺のデビューに」
 そ、そんな───。
 ドカーンと頭の上に爆弾を落とされたようなショック!
「それって、先輩、きたない!」
 俺は先輩の腕の中で暴れた。その身体を先輩がぎゅうぎゅう抱き締めてくる。
「なにが汚いんだ。どんなチャンスだってものにしなきゃ」
「だって俺には汚い手でチャンスを掴むなって……」
 あまりのことに涙が出てくる。先輩は俺のセクハラを利用したんだ。
「そんなもの、現場においては臨機応変、状況見て判断しなくちゃな」
「せ、先輩、ひどい~~~~」
 泣き出した俺の頬に先輩はちゅっとキスをくれた。
「まあ、泣くな。これからは俺が守ってやるから、な、穂積」
 あやされてなだめられてくすぐられて。
 先輩が俺に笑顔を向ける。
 なんて酷い男なんだ。
 こんな裏切りをしといてそれでも俺を嫌わせないなんて。
 ズルくて強くてタフで強引で……魅力的。

 そんな男をドラマで描けたら。

 俺の脳裏にぼんやりと画面が浮かんできた。魅力的な男のドラマ。見ている人間がみな憧れ喝采を送る、それでもいい面だけでないヒーロー。
 俺は先輩をモデルに企画をたててやる。利用されるだけじゃまっぴらだ。俺と先輩のロマンスを全国視聴者に見せつけてやる!
 そしてもちろん演出は先輩自身だ。俺の夢を先輩が実現する。夫婦より、恋人同士より、俺たちはその時深く結びつくだろう。
 先輩が俺を見つめている。
 俺はそのズルくて魅力的な男に、もう一度自分からキスをした。
Posted by K5 ◆Gy/l3.HlSE at 2010年11月10日 21:45