2010年11月10日
DVへの支援的介入、うつ症状を改善せず。
夫などの親しいパートナーから暴力を受けた経験のある18歳以上の香港の地域在住女性200人を、カウンセリングと電話でのサポートを含む12週間の支援的な介入を行なう群(100人)と比較群(100人)にランダムにグループ分けしたところ、9ヵ月後のうつ症状に臨床的に意味のある差はなかった。論文はJournal of the American Medical Association 2010年8月4日号に掲載された(2010;304:536−543)。
研究は多様なサービスを提供する地域の一つのコミュニティセンターで行なわれた。介入群に対しては、ソシアルワーカーによる30分間のカウンセリング、週1回12週間の電話によるサポート、24時間対応の電話相談の機会を提供した。カウンセリングでは、女性の安全保護に対する相談や、法的保護命令や暴力に対する起訴などの選択肢や問題解決に関する情報提供などを行なった。比較群に対しては、コミュニティセンターが提供する各種のサービス(放課後補習などの児童ケア、漢方や歯科などの健康ケア、絵画教室や料理教室などのレクリエーション)を必要に応じて提供した。
その結果、主要評価指標であるうつ症状については、両群とも、研究開始時点では重度の症状があったが、時間の経過と共に改善し、9ヶ月には軽度の症状になった。介入群のほうが比較群より、改善の程度がわずかに大きかったが(63点満点の点数で2.6点減少)、臨床的に意味のある程度の改善(5点以上の減少)はなかった。介入群の方が比較群より、パートナーからの心理的暴力(怒鳴られるなど)は改善したが、身体的暴力と性的暴力の頻度は最初から両群とも少なく、両群の変化に差はなかった。
研究に対する論評によると、親しいパートナーからの暴力に対する地域ベースでの支援的介入の臨床試験は本研究以前に2件しか報告がなく、健康改善の根拠は乏しいという。また、電話サポートでの会話の内容の多くが、パートナーとの関係についてよりも、子育てや子供の教育に関するものであったことから、研究の評価指標をうつ症状に限定するよりも、より臨床的・社会的に意味のある指標を特定することの重要性を指摘している。さらに、今回の研究では、身体的暴力や性的暴力の頻度が低かったため、他の状況や文化に結果を一般化するには限界があると考察している。
⇒夫などの親しいパートナーからの暴力は、女性の精神的健康を脅かす大きな要因であるにも関わらず、地域ベースでの支援的介入の有効性を調べた臨床試験のデータがほとんどなく、問題の大きさと科学的根拠の乏しさのギャップの大きさを感じさせる。また、今回の結果も、支援的介入によるうつ症状の改善に、比較群と比べて臨床的に意味のある差は生じなかった。うつ症状の改善を目的とするのであれば、ソシアルワーカーを主体とする介入よりも、医師や心理職を主体とする介入の方が有効だろう。その意味で、目的と方法の間に乖離を感じさせる研究と言えなくもない。いずれにしても、パートナーの暴力から女性を守るための、有用な介入法の開発が急務だろう。
研究は多様なサービスを提供する地域の一つのコミュニティセンターで行なわれた。介入群に対しては、ソシアルワーカーによる30分間のカウンセリング、週1回12週間の電話によるサポート、24時間対応の電話相談の機会を提供した。カウンセリングでは、女性の安全保護に対する相談や、法的保護命令や暴力に対する起訴などの選択肢や問題解決に関する情報提供などを行なった。比較群に対しては、コミュニティセンターが提供する各種のサービス(放課後補習などの児童ケア、漢方や歯科などの健康ケア、絵画教室や料理教室などのレクリエーション)を必要に応じて提供した。
その結果、主要評価指標であるうつ症状については、両群とも、研究開始時点では重度の症状があったが、時間の経過と共に改善し、9ヶ月には軽度の症状になった。介入群のほうが比較群より、改善の程度がわずかに大きかったが(63点満点の点数で2.6点減少)、臨床的に意味のある程度の改善(5点以上の減少)はなかった。介入群の方が比較群より、パートナーからの心理的暴力(怒鳴られるなど)は改善したが、身体的暴力と性的暴力の頻度は最初から両群とも少なく、両群の変化に差はなかった。
研究に対する論評によると、親しいパートナーからの暴力に対する地域ベースでの支援的介入の臨床試験は本研究以前に2件しか報告がなく、健康改善の根拠は乏しいという。また、電話サポートでの会話の内容の多くが、パートナーとの関係についてよりも、子育てや子供の教育に関するものであったことから、研究の評価指標をうつ症状に限定するよりも、より臨床的・社会的に意味のある指標を特定することの重要性を指摘している。さらに、今回の研究では、身体的暴力や性的暴力の頻度が低かったため、他の状況や文化に結果を一般化するには限界があると考察している。
⇒夫などの親しいパートナーからの暴力は、女性の精神的健康を脅かす大きな要因であるにも関わらず、地域ベースでの支援的介入の有効性を調べた臨床試験のデータがほとんどなく、問題の大きさと科学的根拠の乏しさのギャップの大きさを感じさせる。また、今回の結果も、支援的介入によるうつ症状の改善に、比較群と比べて臨床的に意味のある差は生じなかった。うつ症状の改善を目的とするのであれば、ソシアルワーカーを主体とする介入よりも、医師や心理職を主体とする介入の方が有効だろう。その意味で、目的と方法の間に乖離を感じさせる研究と言えなくもない。いずれにしても、パートナーの暴力から女性を守るための、有用な介入法の開発が急務だろう。