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尖閣映像流出:是か非か 8割超が肯定的

 「映像が見られて良かった」「犯人捜しはするべきではない」。沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像流出を巡り、海上保安庁には流出を擁護する意見が多数寄せられている。政府の判断で非公開と決定した情報が、インターネット上で明らかにされた今回の流出事件。異例の事態に識者からもさまざまな声が出ている。【臺宏士、日下部聡、内藤陽、石原聖】

 海保本庁には8日までに、電話約250件とメール約770件が寄せられた。

 8割以上が映像流出に肯定的な声で、情報管理の不備や外交関係への影響の懸念など否定的な意見はごく少数だという。電話は9日も相次いだが、海保は同日から電話の件数や内容を明らかにしないことにした。

 明確な理由は説明していないが、ある政府関係者は「非公開の判断を下した現政権から見れば、公開賛成の声が相次ぐ事実を公表すること自体、政府内からの政権批判になる」と指摘し、政権が神経をとがらせる様子をほのめかす。

 市民団体「市民の目フォーラム北海道」代表の原田宏二・元北海道警釧路方面本部長は今回の流出を肯定的にとらえている。原田さんは04年、道警の裏金作りを実名で告発。原田さんは「匿名で趣旨を明らかにせずに公開するなど方法に問題はあったにせよ、国民に事実が知らされたことは情報公開の観点から良いことだと思う。流出させたのが海保職員だとすれば、危険な仕事をある意味命がけでやっているので、気持ちはよく分かる」と述べた。

 ◇映像は「秘密」なのか

 そもそもビデオ映像は、国家公務員法が規定する「秘密」に当たるのか。沖縄返還(72年)を巡り、日米政府が交わした密約の存在を示す外務省の機密電文を入手した西山太吉・元毎日新聞記者が国家公務員法違反(そそのかし)に問われた刑事裁判。最高裁は78年、「非公知の事実であって、実質的にも秘密として保護するに値するもの」と判示した。今回、政府は映像の存在を認めた上、国会議員も約6分50秒に編集した映像を視聴している。

 情報公開問題に詳しい小町谷育子弁護士は「事件は他の船舶も通過するような海上で起きたことで、情報公開請求すれば開示せざるを得ない情報だ。形式的には秘密に当たるかもしれないが、起訴するような事案ではないと思う」と話す。

 一方、流出させた行為自体はどう見るべきなのだろうか。公益通報者保護法制に詳しい阪口徳雄弁護士は「公益通報者保護法は刑法など特定の法違反の内部告発が保護対象。政府にそうした違法行為はない。判例に照らしても今回の行為は内部告発とは言えず、保護の対象外だ。ただ、この程度の映像なら秘密にする必要もなかったのではないか」と指摘する。

 大阪大法科大学院の鈴木秀美教授(憲法)は「不祥事など政府による明らかな違法行為があったり、沖縄密約のように政府が国民に隠し続けた事実を暴くケースとでは情報の質が異なると思う。政府の高度な政治的判断で非公開としたものを、不満だからと権限のない一職員が流したのだとすれば、正当行為だとするのは難しいのではないか」と話す。

 ◇秘密保全法整備へ検討会

 今回の流出を受け、仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委で、秘密保全法整備に向けた検討会の設置に言及した。政府機密の保護法制の論議はこれまでも繰り返されており、01年の米同時多発テロ事件で政府は自衛隊法を改正し、「防衛秘密」指定制度を設けるなど罰則を強化。07年に発覚した海佐の持ち出しによるイージス艦情報の漏えい事件後も、同様の議論が浮上した。

 これについて山田健太・専修大准教授(言論法)は「今回のような流出や漏えいがあると、国家秘密を守る法律を作るべきだという議論が必ず出てくるが、表現の自由を制約しかねない恐れがあるだけに冷静な論議が必要だ」と警告を発する。

毎日新聞 2010年11月9日 22時12分

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