今週のメルマガとアゴラ連続セミナーのテーマは「経済成長」。きのう紹介した増田悦佐氏も、その前の大来洋一氏も、労働移動が高度成長の最大の要因だったという点では共通している。これは、実はイノベーションを考える上でも重要だ。
成長率のうち資本蓄積と労働投入で説明できるのは半分以下で、残りが生産性(TFP)だというのはよく知られているが、このTFPとは何かについてはいまだに定説がない。このため「リストラして生産性を上げるとデフレになる」といったナンセンスな話が繰り返されるが、成長理論でいう生産性はリストラとは関係ない。少しテクニカルになるが、その説明としては次のようなものがある:
これは香西=宮川のような多部門モデルで検証されはじめており、OECDなども日本のサービス業の生産性上昇率が製造業に比べて低いことを指摘している。これは生産性の低い古い企業に労働力が滞留する一方、新しい企業に労働力や資金が回らないことを意味し、Aghion-Howittの「シュンペーター理論」の説明に近い。

この理論は超簡単にいうと、上の図のようなものだ。技術がA→B→Cと進歩するが同じ技術の収穫は逓減し、あとからできた技術を採用する企業ほど効率(産出/投入)が高いと仮定すると、古い企業Aの成長率は低下するが、新しい企業Bの効率はそれを上回り、Cはそれをさらに上回る。したがって技術進歩は所与(あるいは短期間に世界に広がる)と考えても、新規参入の多い国ほど成長率は上がるということになり、そういう事実は統計的にも確かめられる。
つまり問題は日本の古い企業の生産性が低いことではなく、企業の新陳代謝が進まないことなのだ。その大きな原因が、優秀な人材が「終身雇用」によって生産性の低い官庁や銀行やITゼネコンなどに囲い込まれ、新しい企業が出てこないことにある。だから日本の成長にとってもっとも重要なのは労働市場を柔軟にして転職や起業を容易にすることであり、それは単なる「雇用問題」ではないのだ。
これを厚労省にまかせておく限り、中高年正社員の既得権を守る規制強化ばかり行なわれるので、経産省が雇用の流動化を「成長戦略」の重点項目として官邸に提案してはどうだろうか。もっとも全共闘政権には無視されるだろうが・・・
- 技術進歩:新古典派成長理論やRBCなどでは、TFPを偶然の「発明」と考えて外生変数として扱うが、これではもっとも重要な変数が説明できない
- 研究開発:Romerなどの内生的成長理論では、研究開発投資を内生変数として扱い、それが外部性をもつことから「収穫逓増」が生じる
- 人的資本:LucasやMankiw-Romer-Weilのモデルでは、労働人口以外に人的資本を考え、それが教育投資によって増大すると考える
- 制度の効率:Acemogluなどは財産権の保護や法の支配などの制度的インフラを重視し、Shleiferなども「法の起源」の違いが成長率に影響するとしている
これは香西=宮川のような多部門モデルで検証されはじめており、OECDなども日本のサービス業の生産性上昇率が製造業に比べて低いことを指摘している。これは生産性の低い古い企業に労働力が滞留する一方、新しい企業に労働力や資金が回らないことを意味し、Aghion-Howittの「シュンペーター理論」の説明に近い。
つまり問題は日本の古い企業の生産性が低いことではなく、企業の新陳代謝が進まないことなのだ。その大きな原因が、優秀な人材が「終身雇用」によって生産性の低い官庁や銀行やITゼネコンなどに囲い込まれ、新しい企業が出てこないことにある。だから日本の成長にとってもっとも重要なのは労働市場を柔軟にして転職や起業を容易にすることであり、それは単なる「雇用問題」ではないのだ。
これを厚労省にまかせておく限り、中高年正社員の既得権を守る規制強化ばかり行なわれるので、経産省が雇用の流動化を「成長戦略」の重点項目として官邸に提案してはどうだろうか。もっとも全共闘政権には無視されるだろうが・・・
コメント一覧
雇用の流動性を東京のみに限定して実施するというのを「みんなの党」あたりに提言してもらえないのでしょうか?北九州のような新日鉄の企業城下町みたいなところで雇用の流動性がやってくれば、官僚化した市民は大反対するでしょうが、東京のようにいくつもの大企業がひしめく東京ならすぐに受け皿があり、労働市場の活発化を産めるのでは。なので自衛官と同じく霞ヶ関公務員も15年以上勤めてはいけない法律とか作っても、東京でなら受け入れられるのでは。
池田先生の言われることに異論はないのですが、新しい企業が出てこないのは、人材の流動性が低いこともありますが、新しい企業にファイナンスする金融機関がほとんどないということも大きいのではないでしょうか。
人材の流動性だけ高めても、中々企業の新陳代謝が図れないような気がするのですが、如何でしょうか? また一企業内でも、不採算部門がいつまでも残っていたり、選択と集中が十分でないなど、日本型の経営の弱点が露呈している部分も大きいのではないでしょうか。
私はサイトを作るのに、ホームページビルダーを使っています。この前ホームページビルダー7からホームページビルダー14にバージョンアップさせたのですが、使ってみた印象は「何も変わっていない」です。
これは他のソフトでも一緒なのでしょう。古くからあるソフトであればあるほど変われなくなる。古いお客さんを捨てられなくなるからだと思います。既存客を大事にすればするほど思い切った変革が難しくなる。「イノベーションのジレンマ」などとも共通する問題です。
企業も同じで、顧客、従業員、下請けなど、付き合いが長くなればなるほど、それが良好であればあるほど変革が難しくなるんだと思います。
重箱の隅をつつくような質問で申し訳ないのですが、ずっと疑問に思っています。よろしくお願いします。
>技術がA→B→Cと進歩するが同じ技術の収穫は逓減し、あとからできた技術を採用する企業ほど効率(産出/投入)が高いと仮定すると、古い企業Aの成長率は低下するが、新しい企業Bの効率はそれを上回り、Cはそれをさらに上回る。したがって技術進歩は所与(あるいは短期間に世界に広がる)と考えても、新規参入の多い国ほど成長率は上がるということになり、そういう事実は統計的にも確かめられる。
ここの部分です。仮定では「あとからできた技術を採用する企業」が主語ですが、これを受けたその後の分析は対象が「古い企業A」と「新しい企業B」になります。例えば、「あとからできた技術を採用する企業」=「新しい企業B」であるなら、自分にも理解できます。が、そうとは限らないように思われるのです。それどころか逆に古い企業ほど技術の開発経験や従来の資本蓄積を利用して「新規技術=あとからできた技術」を獲得する可能性が高いと考えてしまうのです。
同様の論理展開は他でもよく見られます。よろしければ解説をお願いします。
>あおきさん
それは良いアイデアと思いますが、その場合、どうしてもその地方でなければ存立不可能、という企業以外は軒並み東京に移転してしまって、地方の雇用が壊滅しますが、いかがですか?
奥多摩とか八王子あたりが日本の工場&シリコンバレーになって全ての地方の雇用を吸い上げるかもしれませんね。それはそれで面白そうですが。
≫4
横からでしゃばって済みませんが、例えば アパレルで A:仕立て屋 B:イージーオーダー C:ユニクロのような、新興国での一貫指導生産 と考えると分かりやすいのではないですか。
仕立て屋での技術革新も手縫いから機械縫いのよう存在するように、イージーオーダーにも技術革新があったのでしょうが、新興国で生産全部をやってしまうと言う革新までジャンプするのはやれないでしょう。
電気部品の技術革新のように小さなものなら、既存の企業も取り入れられるでしょうが、日本にある工場を否定するような変化は、既存会社には実行は難しいでしょうね。
私は、イノベーションの話になると、すぐ東京が話題になるのに違和感を感じます。日本のイノベーションを推進するには海外の優秀な技術者を取り込む必要があるわけでしょう。問題は、海外の優秀な技術者にとって、東京が住み易いところであるか否かです。ひょっとして、札幌や福岡のほうが住み易いかもしれない。たとえば、ロシア人技術者は札幌のほうが住み易いでしょうし、中国人技術者や韓国人技術者は福岡のほうが住み易いでしょう。
イノベーションの点でも、地方分権の意義は大きいと思います。とにかくやれることをさっさとやらなければと思うのですが、、、
>>6
さらに横から出しゃばって申し訳ありませんが、ファーストリテイリングの創業(創業時の社名は小郡商事でしたが)は1949年で、決して新規参入企業とは言えないと思います。
なのでユニクロの事例を出すとまさに>>4氏が疑問に感じている事態を実証してしまうことになるでしょう。
新陳代謝がなければ成長が生じないというのは言いすぎだと思いますが、新規参入を含めた激しい競争の中から画期的な技術革新が生ずるものと理解しています。
>>6
>日本にある工場を否定するような変化は、既存会社には実行は難しいでしょうね。
自分の知る限りでは海外に工場を建てられるのは既存の大企業でしょう。ホンダ、スズキ、トヨタ。
新規に工場を立ち上げる人はいきなり海外を選ぶのでしょうか?自分には想像もできません。
先日、テレビで中国の新卒者の就職事情を見ました。クラス60人で内定者ゼロです。即戦力の経験者しか採用されないのです。企業効率からいえばそれが正解なのかもしれませんが、ぞっとする話で、日本は絶対にそうなって欲しくないと思いました。