わざと高齢に見える「老けメーク」をした若い女性らが給仕を務める期間限定のカフェが、豊島区西池袋の東京芸術劇場前広場に出現した。その名は「カフェ・ロッテンマイヤー」。アニメ「アルプスの少女ハイジ」に登場する執事の名にちなむ。プロデュースしたのは、昨年のベネチア・ビエンナーレ日本館代表を務めるなど国際的に活躍する美術作家、やなぎみわさん(43)。若さばかりがもてはやされる日本社会を刺激する。
やなぎさんは、若い女性が自身の50年後を演じる写真作品「マイ・グランドマザーズ」など、年配女性をモチーフにした作品を多数発表してきた。今年、最先端の舞台芸術を紹介する祭典「フェスティバル/トーキョー」の主催者からイベント参加の打診を受け、「おばあちゃんメイドカフェ」を提案した。
インターネットやチラシで参加者を募集したところ、予想を上回る約50人が応募。年齢は20~70歳代、立場も主婦や会社員、シニア劇団員など多岐にわたり、面接を経て30人が選ばれた。
グレーのワンピースにカメオのブローチ、白エプロンといういでたちに、やなぎさんのスタッフの指導を受けながら約1時間かけて「老けメーク」を施している。客の来店時は、ニコリともせず「お帰りなさいませ、お嬢様(ご主人様)」と言い、礼儀正しく給仕するが、「ハイジ」のアニメソング合唱など、ユーモアあふれるサービスもある。
1歳1カ月の長女をおんぶしながら参加する木村美那子さん(32)は、「出産まで高齢者対象の体操指導者をしていたこともあり、祖父母の世代には親近感を抱いていました」と応募。しわやシミをつくった自身の姿を「イヤじゃないかも」と笑う。「すてきな年の重ね方をしている女性は多い。私自身、そうありたいと強く思うようになりました」。客の評判も上々で、友人と来店した27歳の女性会社員は「りんとして威厳がありますね」と興味を抱いた様子。
やなぎさんは「女子力やアンチエイジングもいいけれど、『若くなければいけない』と思わせる昨今の風潮は行き過ぎの感を持っていました。いろいろな生き方を受け入れ、社会に示すのがアートの役割だと思っています」と話している。
カフェは今月28日までの土・日曜と祝日限定でオープン。期間中、演劇公演もある。問い合わせはフェスティバル/トーキョー(03・5961・5202)。【岸桂子】
毎日新聞 2010年11月9日 地方版