ビデオ流出に米諜報機関の介在はないか - ＡＰＥＣ後の波乱と悪夢
昨夜（11/7）、ＮＨＫが赤字国債の特集番組を放送していたが、それを見ながら、金子勝が10年ほど前に繰り返していた発言を思い出した。「このままだと戦争か革命でしか問題を解決できない」。当時は、その議論に対してあまり積極的には聞けなかった。経済学者の議論として、あまりに捨て鉢で思考停止的な態度だと思われたからである。経済学者であるならば、どのような問題についても冷静な現実分析の上で具体的な展望を引き出し、政策的解決の経路を提言するもので、終末論的な預言者の警鐘を打ち鳴らすのは、経済学者として無責任で失格だと思われた。また、借金は返せるとする私なりの合理的な積算根拠と政策提案もあった。その経済構想については現在でも実効性を諦めてないが、それとは別に、金子勝のカタストロフィの予言が次第に現実味を帯び、説得力が深まっている現在の社会的心理状況を正直に認めざるを得ない。少子高齢化や国際競争力の低下の中で、多くの日本人が、借金は働いて合理的に返済できるのではなく、破滅によって暴力的に帳消しになるのではないかと考え始めている。もっと踏み込んで言えば、カタストロフィを通じたカタルシスへの病的誘惑と言うか、諦念的待望の心理が堆積していて、すぐにも「希望は戦争」的な可燃性に気化しそうな気配があり、それが現在の異常な反中ファナティシズムの政治現象の底流にあるように窺われる。
先週、山口のとくらさんから久しぶりに電話があり、二人で情勢を議論する機会があったが、「いつ戦争になってもおかしくない」という認識で一致した点が印象深い。二人とも５年前を顧みた上で、その当時と現在を比較して結論を導き出しているのである。あの頃は北朝鮮との戦争の危機があった。だが、私は北朝鮮との戦争にはならないという予測に自信があった。理由は二つで、韓国が体を張って戦争阻止に出ることと、米国が北朝鮮との戦争に積極的でないことだった。北朝鮮には米国にとって有益な戦利資源がない。戦争になれば米軍は全土制圧を目指さなくてはならず、平壌を陥落させても全土でゲリラ戦による消耗が待っている。有害無益。今回は日中戦争の危険が迫っている状況だが、５年前とは逆に米国はこの戦争に積極的で、日本に中国と戦争するよう嗾けている姿勢が明確に見受けられる。日中を戦争させ、中国の国力を消耗させた上で、「善意の第三者」を演じて調停に出、東アジアで漁夫の利を占める魂胆だ。戦略的に米国に利が大きい。21世紀も米国が世界の支配者であり続けるためには、中国が覇者となるのを蹴落とす必要がある。ソビエトを軍拡競争で潰し、日本を経済占領して国富を掠め取ったように、中国にも何らかの戦略を仕掛ける可能性は高い。米国にとって最も都合がいいのは、日本が先制で中国と戦争を始めることだろう。米国の軍産複合体は大儲けする。
政府と検察は、ビデオ映像の流出犯を特定できるだろうか。これは国家の威信がかかった問題で、検挙できなかった場合の威信失墜は大きいと思うが、どうなることだろう。陰謀論批判の礫が飛ぶのを承知で敢えて言えば、ネットに投稿した犯人の裏に米国（ＣＩＡ）の関与を疑う者は私だけではあるまい。陰謀論を過度に警戒する思考束縛も、先月の宇沢弘文の講演を聞いて以来、私の場合はずいぶんと弛緩が進んで自由になっている。マルクスは「全てを疑え」と言ったが、権威の宇沢弘文が、「全てをＣＩＡの陰謀だと疑え」と説いているのである。まるで日本人への遺言を語るように。そして、もしも犯行が組織的で、その背後に米国の諜報機関が介在していたなら、ＩＰの追跡探知は容易ではないだろうし、Google社という存在も不気味な影を帯びて立ち現われてくる。Googleもグルかもしれない。それを陰謀論だと切り捨てるのは容易いが、むしろその方が、問題に対して思考停止的だと言えるのではあるまいか。まず、基本的な問題として、ビデオのネット投稿は個人による悪戯行為なのか、それとも政治的な背景と目的を持った集団によるものなのか。この設問に対しては、明らかに後者と考える方が正鵠を射ている。それでは、その犯行集団のプロファイリングを試みたとき、普通人の常識と推理ならどのような像が描出されるのか。そこには重大な状況証拠がある。それは、昨日の記事で書いたマスコミの一斉同時転向だ。
マスコミ報道のスイッチが切り替わった。在特会が動員をかけて日の丸を林立させている右翼勢力の反中デモが、ＮＨＫの７時のニュースで、「若者や家族連れが多く参加した一般市民のデモ」に掏り替えられて報道されている。従来は政治的に危険分子の扱いで異端視していた政治集団が、イデオロギー座標軸の中央にリポジショニングされている。右翼的異端が国民的正統の立場に一瞬で転換した。彼らは、田母神俊雄や西村慎吾は、何も主張を変えてはいないのである。それを撮影して報道するＮＨＫの立ち位置が変わったのだ。ＮＨＫが日本の「国民の常識」を代表する。ビデオ流出事件の後、瞬く間に「国民の常識」が切り替えられ、中国の共産党政権打倒を叫び、核武装と憲法改定を吠える主張が「国民の常識」となった。同じ異常は朝日新聞でも確認され、11/6の反中デモを「右翼色のないデモ」と敢えて記事で潤色して報じている。右翼の反中デモを一般市民のデモだと報じる捏造が、何やら一斉に行われていて、マスコミ世界で巨大な思想転向のプロジェクトが発動されたように見える。もしそれが事実であった場合、そうした恐ろしい変化を可能にする権力の正体は何だろうか。米国しかない。米国だけがそれができる。ＮＨＫを含めた日本の全マスコミを一瞬で方向転換させられる力。こうした変化は過去に一度経験がある。2002年の拉致問題の後の北朝鮮がそうだ。あのとき以来、彼の国は正式に「北朝鮮」と呼ばれるようになった。
それまで、日本のマスコミが北朝鮮の国名を報道で口にするときは、「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」と長ったらしく読み上げるのが慣例であり、そして放送コードだった。ニュースステーションの時代、久米宏が早口で言いまわしていたのを思い出す。そして、「今日から呼び名を変えます」と正式に各局の報道アナが視聴者に断りを入れる場面があった。新聞でも全社一斉に同じ断りがあったように覚えている。記憶では、2002年の秋から冬にかけての時期だ。そこから、現在までの日本と北朝鮮の冷戦関係が続いている。中国ともそのようになるのだろうか。今回のビデオ流出後の報道以来、日本のマスコミは対中国の基本姿勢で急カーブを曲がった感があるが、これを元へ戻すのは容易なことではないと思われる。今週末、横浜のＡＰＥＣで首脳会議があるが、日中首脳会談では確実に悶着が起きるだろう。ビデオが公開され、日本のマスコミと世論は硬化しており、ハノイの時とは状況が一転している。前原誠司が強気に出られる環境が整っており、日本側は事前の調整がどうあろうと、それを無視して尖閣領有の正当性を傲然と主張し、会談決裂の政治に運ぼうとするはずだ。今回、米国の締めつけが余程効いているのか、嘗ての奥田碩のように経団連が「止め男」として間に割って入らない。米倉弘昌が商売の論理で日中友好を言い出さない。中国との親交が専売特許だった創価学会も沈黙している。日中友好の正論を吐く者は、国賊扱いされて袋叩きになる思想環境になった。
横浜での日中首脳会談は、それがハノイの再現で決裂して流れても、その後の国会で野党に外交無能を責め立てられ、逆に握手と笑顔で関係修復に持ちこめても、今度はマスコミと野党に弱腰外交だとして叩かれる。どちらに転んでも「成功」の評価は得られず、国会の審議で延々と攻撃され、支持率を低下させる一方となる。日本国内は、横浜での日中首脳会談をぶち壊したい者が多数であり、米国と右翼に乗っ取られたマスコミ報道も同じで、両国を決裂と反目に向かわせるように吠え騒いでいる。横浜でどのような外交があっても、中国叩きの報道しかしないし、中国憎悪の国内世論を煽る記事とニュースだけで埋める。胡錦濤訪日は、右翼とマスコミにとって「飛んで火に入る夏の虫」であり、反中気運を盛り上げて戦争準備に仕向けるネタでしかない。対話と関係改善が重要だと社説で言う新聞社はなくなるだろう。菅内閣の支持率は20％前半まで低落する。米国はマスコミを唆し、前原誠司を後継に据える策動を本格化するはずで、どこかの時点で、対中外交での不一致を理由に前原誠司を閣外に離脱させ、内閣総辞職の政局を狙ってくるかもしれない。その間、右翼は反中デモの規模を拡大させ、中国の反日デモを誘発させる動きに出るだろう。そして、どこかの時点で、「義勇兵」の船隊で実力行使を計画、白樺ガス田の中国施設に「突撃」するなどの暴挙に及ぶのではないか。無論、そのときは青山繁晴とも示し合わせ、海保が支援する算段を講じるのだろうが、一触即発の状況を試みるはずだ。
もう一つの恐ろしい謀略の想定は、これはあまり言いたくないが、ＡＰＥＣ後にあの「毒餃子事件」が再現される事態である。そこで米国諜報機関が動けば、あるいはその配下の日本右翼の秘密部隊が動けば、簡単に「事件」を再現することができるし、食中毒の被害者を出すことができる。国内の反中世論は沸騰して収拾がつかなくなるだろう。右翼船団によるガス田掘削施設への「突撃」も、世論の支持を受ける事態になるかもしれない。米国は何でもする。謀略は日本右翼の十八番だ。これも直観で恐縮だが、今、おそらく、日本国内で米国と中国のインテリジェンスの鍔迫り合いが熾烈に行われている。中国漁船が工作船ではないかという議論が上がっていたが、それ以上に、前原誠司の動きが中国側に探知されていて、「暴走」を先へ先へ読まれている感じが強い。海保による尖閣領海での中国船拿捕も、作戦計画の全貌を中国側に掴まれていて、先方に対処を講じられていたのではいかと疑いを持つ。ハノイでも、本当は前原誠司が謀略で中国側を騙すところを、中国側に素早く逆襲され一蹴されて大恥を掻く始末となった。ニューヨーク、ブリュッセル、ハノイ、日本の対中外交は連戦連敗を喫している。ひょっとしたら、中国側は今回のビデオ流出についても真相を正確に掴み、横浜での日本側（前原誠司）の策動を完全に予測して、迎撃の準備ができているのではないか。想起するのは橋本龍太郎と通訳女性の一件で、同じ事があるとは思えないが、どれほどハイテクの時代になっても諜報活動とは所詮は人間の業である。事態が悪い方向に進むときは、思っている以上に速いスピードで転がるものだ。今年の１年がそうだった。来年、武力衝突と憲法改正が起きているかもしれない。
