尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影した映像がインターネット上に流出した問題で、検察当局と警視庁が捜査に乗り出した。海上保安庁が「内部調査では限界がある」として、容疑者不詳のまま国家公務員法(守秘義務)違反と不正アクセス禁止法違反の容疑で告発したのを受けたものだ。
流出映像には中国漁船が網を引き揚げるまでの違法操業行為や2隻の海保巡視船にぶつかるシーンなどが映っている。石垣海上保安部が編集して那覇地検に提出したものと同一とされており、職員が関与した可能性もある。
職員が意図的に流出させたのだとしたら影響は深刻だ。漏えいの疑いがあり、海保自身が内部調査の限界を認めている以上、「調査」を「捜査」に切り替えたのは当然である。最高検は福岡高検を主体とした捜査チームを発足させ、警視庁は検察当局と連携するという。徹底した捜査をしてほしい。
仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委員会で、秘密保全のための法制検討の必要性を強調した。将来の法制整備の必要性を否定はしない。だが、菅直人首相が陳謝したように、政府がまず取り組むべきは情報管理体制の再構築と、動画投稿サイトを利用した新しい手口の情報流出に対する有効な対応策を早急に考えることだ。罰則強化だけに傾斜するのは問題がある。
今回のビデオ流出に関しては、海上保安庁に「国民のほとんどが見たいと思っていた」などと歓迎する声が多く寄せられているという。政府がビデオを一般公開しない理由をきちんと説明していないからだろう。
仙谷長官は非公開とする理由として、中国人船長の処分が未定なことや日中関係への影響などを挙げている。しかし、釈放して帰国させた船長の公判は今後開ける可能性がないことを仙谷長官自身が国会で認めている。非公開の真の理由は横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前にしての中国への配慮と思われる。
衝突時のビデオはそもそも、国家機密として「守るべき情報ではない」(渡辺喜美みんなの党代表)との指摘もある。そうではないと言うのなら、政府はその理由を説得力をもって説明すべきだ。
長時間ビデオの中には日中関係に深刻な影響を与えるとして政府が出したくない映像が含まれているのかもしれない。だが、ネット上に流出した映像は多くの国民がすでにテレビでも見た。もはや非公開を続ける理由は薄れたと言わざるを得ない。政府は国民の不信をぬぐうため時期を見てビデオを公開すべきである。
毎日新聞 2010年11月9日 2時33分