所在不明者:「娘にもう会えぬ」 家族と音信絶って暮らす

2010年9月10日 2時33分 更新:9月10日 8時7分

 高齢者の所在不明問題は、最近にわかに起きたわけではない。高度経済成長期やバブル期に行方が分からなくなった人も多い。だが、今も、そしてこれからも続くという意味で現在進行形の問題だ。家族との音信を絶って暮らす現代の「所在不明者」を訪ねた。

 東京・歌舞伎町のコマ劇場跡地前広場。小さなスーツケースの傍らで、初老の男性が地面に座っていた。「もう20年以上、娘と会っていない」と言った。

 北海道釧路市出身の64歳。妻と駆け落ちし、札幌のデザイン会社で働いたが、「酒におぼれて」離婚。当時小学1年の娘を引き取ったが、男1人で育てるのは難しく、釧路の実家のそばにアパートを借り、両親に世話を頼んだ。地元の印刷会社に勤務したが、再び酒のトラブルを起こし職を失う。世間体を気にする両親から「釧路を離れろ」と言われ、中学2年になっていた娘が学校に行っている間に、そっと家を出た。

 新宿に流れ着き、建設業に携わった。けがをした5年前、一時的に生活保護を受けた。手続きの際、区役所から、両親が既に亡くなっていることや娘が実家を離れていることを知らされた。小さなアパートで娘とはさみ将棋をしたころの記憶がよみがえる。「娘も今は30代後半。結婚したんだろうね。寂しいけど、もう会えない」

 新宿のホームレス支援団体「新宿連絡会」の笠井和明代表(48)によると、歌舞伎町周辺で暮らすホームレスは約600人。高齢化が目立ち、1年に100人ほどが亡くなるが、その3分の1は親族と連絡が取れない。「家族関係が難しいケースがほとんど。連絡が取れても、遺骨を引き取りに来ない場合も多い」という。

 孤独死した人の遺品の整理をする特殊清掃会社の社長(39)は、横浜市の80歳の女性の件が忘れられない。生活保護を受けながら40年間、アパートで1人で暮らし、トイレで息絶えていた。

 整頓された部屋の壁にはマリア像のポスター、机上には1冊の聖書。親族の連絡先がわかる手紙などはなかった。家主には「14歳のころから天涯孤独」と話していたという。この会社が扱う身寄りのない遺体は、年間80体に上る。

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