「えっと……夜天の書やと呼び辛いから……リインフォースはどうや?」
「……管理者権限により、名称変更確認しました。はい、私はリインフォースですね、主」
「祝福の風、ね。良い名前だと思うわ、はやてさん」
「いや、そんなんでも……リンディさん達も呼び辛いやろ思て」
アースラ艦内 艦長室。はやてを加えた今回の関係者全員が見守る中、管制人格が起動し、はやての提案により名前が付けられる事となった。
そして、その命名により、リインフォースから夜天の書のバグについての説明がなされた。闇の書と呼ばれる事になった原因である防御プログラムは、リインフォースがはやての指示で少しではあるが手を出せるとの事。だが、はやての体の事等の根本的な解決には至らないので、一度完成させてから防御プログラムを完全破壊してほしいとの事。
万が一に備え、守護騎士システム等は切り離し、はやての元に残るようにするともリインフォースは言った。
それを聞いて、ユーノが疑問を浮かべた。それは、先程のリインフォースの話で触れられなかった部分。そう、管制人格であるリインフォースは、厳密には守護騎士ではない。ならば、防御プログラムを破壊した後、リインフォースはそうなるのかと。
「大丈夫だ。私なら何とでもなる」
「でも……貴方の存在を考えると何かまだある気がするんだ」
「何かって……何なの、ユーノ君」
どこか不安そうな表情のユーノに、なのはも言いようのない不安を感じてそう尋ねた。それにユーノは、あくまで予想だけどと前置いて言った。
「そんな簡単に事が終わるなら、とっくに闇の書なんて物は消えているはずなんだ。でも、何度も闇の書は現れては、恐ろしい災いを起こしている。
つまり、バグは簡単にどうにか出来るものじゃない。違いますか?」
ユーノの声にリインフォースは何も言わない。だが、そのどこか諦めたような表情が何よりの証拠だった。
それを見て、はやてが信じられないというように呟いた。
「……リインフォース」
「賢いな、少年。そうだ……おそらく私がいる限り、防御プログラムは再生する」
「?! じゃあ……っ!」
「私を最終的には消滅さ「大丈夫!」……何?」
息を呑んだフェイトの言葉に、リインフォースが答えようとしたのを遮る声がした。その声の主に全員の視線が集まる。それは五代だった。いつものようにサムズアップを見せ、その表情は笑顔。だが、それに面食らっているのは、初対面のリインフォースとはやてのみ。
他の者達は、それにやはりといった顔をし、一部等は呆れつつ笑みを浮かべ、なのは達や翔一は同調するかのように笑みを見せる。
「リインさんは死にたくないですよね?」
「……それは……」
「死にたくないなら、死なせない。殺される理由なんてない。絶対、助けますから……俺達みんなで!」
「そうです。俺達が力を合わせれば、必ず何とかなります!」
「「だから大丈夫っ!」」
五代と翔一の二人が見せるサムズアップ。それに言葉を失うリインフォース。はやても同じように言葉を無くしたが、何かに驚いて周囲を見渡した。そう、二人以外にも……。
「な、なのはちゃん達まで……」
「にゃはは、これ五代さんといるとクセになっちゃって……」
「うん。でも、不思議とそう思えるんだ。大丈夫って……」
「きっと、五代さんがやるからだよ。大丈夫。その想いがこれに込められているんだ……」
なのは達三人の言葉にはやてが何故か納得している横では、リインフォースが同じ仕草をしているシグナム達に驚いていた。
「私達も同じだ。五代や翔一が、仮面ライダーがいる。それだけで……そう思えるのだ」
「ええ。決して何事にも負けない。そんな気持ちにね」
「あたし達もなのは達もいる。それに仮面ライダーが二人もいんだ。怖いもんなんかね~よ!」
「……ガラではないが、そういう事だ」
「お前達……そこまで……」
そう言いながらリインフォースも何故かそれを見ていると、心が不思議と穏やかになっていく印象を覚えていた。絶対の安心感。必ず、絶対上手くいく。そんな想いがそれから伝わってくるような感じを。
そんな二人と違った意味で驚いている者がいた。クロノである。彼はサムズアップをしていなかったが、エイミィやリンディはやっていた。それは彼も予想していた。そう、彼が驚いたのはそこではなく、ある二人までがそれをしていたからだ。
「まさか君達まで……」
「その……えっと……」
「ま、まぁ意思表明ってやつかな?」
アリアとロッテの二人は、何か戸惑いながらもその行為を止めようとはしない。ロッテの言葉を聞き、クロノ達はリインを助ける事と取ったが、実際は違う。二人は決意したのだ。犠牲を出さずにこの事件を終わらせる。そのために、グレアムが思い描いた計画とは違うものを支える事を。
サムズアップと笑顔で戦う男と、家族として全力ではやて達を助けようとする男。その二人の心に惹かれた故に……
(お父様……この罰は必ず受けます。だから……許してください。初めての我侭を!)
(信じてお父様。必ずこいつらなら……仮面ライダーならやってくれるよ!)
この瞬間、アースラにいる者達の想いは一つになった。本来ならば有り得ない流れ。
それがもたらすのは、果たして希望か絶望か……
その日、真司は困っていた。というのも、いつものように訓練をしてほしいとチンクにせがまれたのだが、同じようにセインが遊んで欲しいと言ってきたからだ。
真司としては、チンクの日課である訓練に付き合ってやりたいが、妹分の頼みを聞いてやりたいとも思い、悩んでいたのだ。
(チンクちゃんとの訓練に付き合ってあげるべきだよなぁ……いや、でも、セインは妹みたいなもんだし……)
そんな風に悩む真司を見て、チンクはセインへ視線を送る。それはどこか非難めいたもの。だが、それを受けてもセインは、どこ吹く風とばかりに視線を送り返す。
その視線は、別に何も悪い事していないと言わんばかり。そんな二人に気付かず、真司は未だに悩んでいた。だが、ふとその悩みに答えが出る。
「そうだ! じゃ、訓練の方法を変えよう。模擬戦じゃなくて俺の世界の遊びにしてさ」
「遊びだと……?」
「真司兄、どんな遊び?」
「あのな……」
これが、ジェイルラボ始まって以来の大騒ぎとなるとは、この時誰も想像しなかった……
「何? 新しい訓練法?」
「そうだ。だが真司が言うには、人数が多くなければ訓練にならんらしくてな。トーレにも声を掛けてくれと」
トレーニングルームで軽く汗を流していたトーレ。そこへチンクが現れて告げた内容に、その表情が訝しむようなものへと変わる。真司の性格を知るトーレにしてみれば、何かあるとすぐに模擬戦をサボりたがる真司が、自ら訓練をするなど考えられなかったのだ。
だが、それをチンクも良く知るはずと思い直し、まずは詳しく聞く必要があると尋ねるのだが……
「……どんなものだ?」
「詳しくはまだ知らん。だが、普段の模擬戦とは違う内容だ。セインはディエチを誘いに行った」
「……何か嫌な予感はするが……いいだろう。訓練場に行けばいいのか?」
「ああ。そこで待っていてほしい」
返ってきた言葉に一抹の不安を覚えるものの、チンクの言葉に頷き、トーレは訓練場へ向かって歩き出した。その背中を見送ってチンクは小さく呟いた。私は嘘は言ってないぞ、と……
「真司兄さんが?」
「そうなんだよ。楽しくて訓練にもなるんだってさ。ね、やろうよディエチ」
真司の洗濯物を干していたディエチだったが、セインの言葉にその手を止める。真司は、あまり訓練が好きではないとディエチは知っているのだ。そんな真司が、本当に訓練になるようなものをしたがるだろうか。そう考えたのだ。
それをセインも理解しているからか、どこか楽しそうに笑みを浮かべて告げた。
「何かさ、ウー姉達も誘ってやるんだって。みんなでやるなんて面白そうじゃない?」
「……確かにそうだけど……」
「ね! やろ~よ、ディエチ。きっと楽しいって!!」
ディエチの手を掴んで力説するセイン。それが何かおかしくてディエチは苦笑しながら頷いた。
「じゃ、洗濯終わったら訓練場ね。待ってるから」
「うん、分かった」
元気良く去って行くセインを見送り、ディエチは首を傾げる。一体大勢でやる訓練みたいな遊びって、何なんだろうと考えて……
「私達も?」
「参加ぁ?」
「そ! どうせならみんなでやろうって。だってさ、姉妹だろ? たまにはみんなで何かしないと」
書類整理等の事務仕事を片付けていた二人の前に現れた真司は、新しい訓練法を検証してほしいと言って二人の参加を求めた。無論、二人は戦闘用に作られてはいないので、訓練などする必要はない。だが、真司の姉妹全員で何かという言葉には、確かに思う事もあるもので……
(真司さんの言う通り、今後の計画のためにも、妹達とは色々と意思疎通をする必要があるわね……でも……)
(シンちゃんの考案した訓練法ねぇ~……みんなでするってところにも興味はあるけど……どうしたものかしら……)
(やばいな。もう一押ししないと、この二人は動かせないぞ……うしっ!)
何かを悩んでいるように見える二人を動かすため、真司は奥の手を出す事にした。それは何かと言うと……
「訓練の勝者には、今日の晩飯注文権が!」
「「やるわ」」
即答だった。その二人の声に真司は隠れてガッツポーズ。そう、既にジェイル達は栄養食には満足出来ず、真司の料理を密かな楽しみにしているのだ。
しかも、その注文権などは、未だに食べた事のない料理を頼む絶好の機会。ま、ここのところの二人の密かな悩みは、体重増加だったりするのだが……
(最近運動不足だったし……丁度いいわね。そう、これは体のためよ。決して食事目当てではないわ……何頼もうかしら?)
(まぁ、私がやるからには勝利確実。少しは体も動かさないとねぇ。体調管理も重要だし……何食べるか決めておかないと)
こうしてウーノとクワットロも参加が決定して、真司は心から笑顔を見せる。そして、その視線をジェイルのいる部屋へ移し呟く。
―――後はジェイルさんだけだ……
それから五分後、訓練場にラボにいる全員が揃っていた。何故かやる気十分のジェイル、ウーノ、クワットロ。待ちきれないといった表情のセイン。どこか不安や疑問が晴れない感じのトーレとディエチ。そして、どこか嬉しそうな雰囲気のチンク。
ちなみに、ジェイルは言うまでもなく、サバイブを条件に参加しました。それと、こっそり注文権も。
そんな七人を前に、真司は嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
「じゃ、これからみんなでやるのは、鬼ごっこです」
「「「「「「「鬼ごっこ?」」」」」」」
真司の口から告げられた言葉に、七人の声が重なる。それに真司はやはりという顔をして、鬼ごっこの説明をした。誰か一人が鬼となり、残りの者は隠れたりして鬼から逃げるもの。鬼に体を触られたらその場で終わり。制限時間内に鬼は全員捕まえたら勝利。逃げる方は、時間内逃げ切れれば勝利となり、もし勝者が複数いれば、日にちを分けて注文に応じると真司は告げた。
そして、決めたルールは変身とIS禁止。後、攻撃もなしで、隠れていいのはラボの一部限定。制限時間は一時間。その間、ただ知恵と体力のみで勝利を目指す事となった。もし反則行為をした場合は、一週間栄養食と真司が告げると、七人それぞれに大小の戦慄が走った。
「じゃ、鬼はじゃんけんで決めよう」
「「「「「「「じゃんけん?」」」」」」」
「あ~、これもか……」
真司、じゃんけん説明中。全員が石が紙に負けるのは理解出来ないと言い出し、真司が説明に困り一時中断。結局、真司の世界では、それでみんな納得してるとごり押し、説明終了。
そしてじゃんけんの結果、鬼は真司となり、ジェイル達はそれぞれ隠れるために去って行く。律儀に目を閉じ、三十数える真司。そして、目を開け走り出す。
「絶対、見つけてやっからな」
それからはもう騒々しいにも程がある程だった。真司が最初に見つけたのはトーレ。隠れるのは性に合わんと真司を待っていたらしい。それを聞き、真司は肩透かしを食らった気分になったが、急いで追い駆ける。それを余裕を見せて逃げるトーレ。その逃走劇を遠目で眺め、チンクはどこか寂しい気持ちになり、真司の後ろから声を掛けた。
それに気付き、目標をチンクへ変更する真司。だがチンクも素早く、中々追いつけない真司。そのままチンクは逃げ切り、真司は地面に大の字で転がった。
そうして数分後、真司はおもむろに起き上がると、狙いをトーレやチンクのような運動系から、ウーノやクワットロの事務系へと変更し、動き出す。
それを離れて見つめる人影二つ。
「これで終わりか。ったく、情けない……」
「……もう、私を追ってはこんか……」
そうどこか寂しげに呟くトーレとチンクであった……。
「こないね……真司兄」
「そうだね……」
一方セインとディエチは二人揃って入浴中。それというのも、セインの考えた作戦が原因。それは、真司に触られないようにすればいい。ならばどうするか。簡単だ。真司が体を直視出来ないようにしよう。
そして、入浴と相成った。ディエチが同伴しているのは、真司に見つかった際、セインを取り押さえるため。前回の騒ぎで真司がとばっちりを喰らったのを、ディエチは繰り返さぬようにと。どこまでも兄想いのディエチだった。
「ね、ディエチはさ、真司兄をどう思う?」
「え? どうって……」
「あたしさ、真司兄に言われたんだよね。戦闘機人って言葉、あまり使わないでほしいって」
「セインもそうなんだ。あたしも言われた。戦うために生まれたんじゃない。みんな、幸せになるために生まれたんだからって」
セインもディエチもその言葉を言われた時、何かが自分の中で動いたのだ。それは、ある意味で自分の存在を否定する言葉。でも、それに込められたものは、紛れも無い真心。戦うために生きるのではなく、幸せになるために生きて欲しい。その言葉の意味を考えるたび、二人は何故か心が苦しくなるのだ。
自分達が生まれた訳、その理由。それらを理解しているからこそ、真司の言葉は痛い。創造主であるジェイルの目的。それを果たすための存在が自分達なのだ。
(真司兄に、計画の事は話すなってドクター達は言ってるけど……隠し事するのって何か嫌なんだよね)
(真司兄さんは何も知らずにドクターに手を貸してる。もし、あたし達がしようとしてる事を知ったら……嫌われるかな)
元々ナンバーズには血の繋がりはない。故にその絆は歪だったのだ、本来は。だが、真司がそれを補うようにいた。血の繋がりどころか何の繋がりもない存在。それが何故か、いつの間にかこのラボの中心にいた。
ジェイルやクワットロ等の気難しい者達とは、裏表ない言動や素直な性格で信頼を得て、トーレやチンクは、模擬戦や日常の他愛ない事で繋がりを作り、セインやディエチは兄と呼ばれたためか、熱心に世話を焼いてくれる。
そして、その真司がそれらの出来事を他の者達へ話す事で、それを話題に食事時は盛り上がる。本当の家族のような構図が出来上がっていたのだ。
「……ディエチ、あたし決めた事があるんだけど……聞いてくれる?」
「何?」
「……もし、真司兄がドクターと敵対するなら……あたし、真司兄の味方する」
「っ?! それって……」
「だってさ! 真司兄は言ったんだ! 仮面ライダーになったのは、戦いを止めるためだって……あたし……真司兄と戦いたくないよぉ」
立ち上がり、セインは涙を浮かべながらそう言った。まだ起動してたった五日。それでも、セインは元来の性格故か真司に強く影響されていた。積極的に関わったせいもあるかもしれないが、それ以上にセインが少女だったのも関係している。そう……
(あたし、誰が何て言っても真司兄を助ける。お兄ちゃんだもんね、真司兄は)
それは兄妹愛なのだろう。だが、その裏には本人も知らない恋慕がある。今はまだ影すら見せぬ想いなれど、それは確かにセインの中に息づいている。
そんなセインをディエチは見つめ、驚愕と同時に羨望の眼差しを送っていた。
(セインは自分の道を決めたんだ。あたしは……そんな事出来ないよ……)
ジェイル達を裏切る事は出来ない。でも、真司と戦いたくないのはディエチも同じ。訓練では誰よりも強く、家事を共にしたり、色々な話をしてくれる優しく頼れる存在。それがディエチにとっての真司。
故に分かる。セインの気持ちは。だが、ディエチはそれと同じ決断は出来ない。姉妹を敵にする事など出来ないのだ。それをセインも分かっているのか、目元を拭いながらディエチへ言った。
「大丈夫だよ。時間は掛かるだろうけど、あたし達で、何とか真司兄とドクター達を敵対させないようにしよう」
「……出来るかな?」
「う~ん……まぁ確かにかなり厳しいとは思うけどさ……やるしかないでしょ」
「そうだ、ね。やるしかないね」
「あ、それとさっきの話は」
「分かってる。誰にも言わないから」
「えへへ、よろしく~」
そう言ってセインは浴槽へ入り直す。やや冷えた体に温水が心地良い。そう感じてセインは笑みを浮かべる。そんなセインにディエチも笑みを見せ、目を閉じて静かに思う。
いつか来るかもしれない最悪の事態。それを防ぐために、自分も出来る限りの事をしようと。
そんな風にゆったりする二人だったが、この後、衣服が脱衣所にあるのを真司に見つかり、呆気なく失格となった……
ジェイルの研究室。そこに真司はいた。彼は思いついたのだ。ここなら、ラボのどこに誰がいるか良く分かるのではと。
「えっと……確かこれで……お、出た出た」
モニターが複数表示され、その一つ一つに目を向ける真司。すると、その内の一つに、話し合うウーノとクワットロの姿があった。何を話しているのか気になった真司は、そのモニターをメインへ変更しようとして、コンソールを操作しようとしたのだが……
「あれ? どれだっけ……?」
操作が分からない。いつもウーノやクワットロが手軽にやっていたので、自分にも簡単に出来るだろうと踏んでいたのだが、そこは素人の考え。適当にやれば出来るだろうと、真司が何かのボタンを押そうとした瞬間―――何かがその手を止めた。
「それはダメだよ!」
「おわっ!? ジェイルさんかぁ……びっくりした」
物陰に隠れていたジェイルが飛び出し、真司の手を押さえたのだ。それに驚く真司だが、相手がジェイルだと分かると安心し、自分が押そうとしていたボタンについて尋ねた。それにジェイルが答えたのは、それは万が一の時用の証拠隠滅システム。つまり自爆装置の起動スイッチだと言った。
「そ、そんなもん本当にあるんだ……」
「そりゃあそうさ。ここのデータを……悪用されたら不味いしね」
「なるほど」
どこか皮肉っぽく笑うジェイルに真司は何も疑わずに頷いた。そして、その瞬間何か思い出したようにジェイルの手を掴んで言った。
「ジェイルさん、失格だから」
「……今のは無しに……「無理」……だろうねぇ……」
容赦ない真司の言葉に、どこかがっかりしながらジェイルは肩を落とした。この後、ジェイルはウーノ達を捕まえに行った真司を見送り、トボトボと訓練場へと歩いていくのだった……
「……じゃ、私が勝ったらクワットロの料理も注文するわ」
「はい。なら、私はウーノお姉様のものを……」
そう、二人が話していたのは勝利後の取引。どちらが残れば互いの注文を頼める。そのため、いざという時にはより逃げられる可能性の高い方を逃がそうと。そんな話し合いをしていたのだ。
そして、取引成立と二人が不敵に笑う。この時、二人が安全を考慮して物陰に隠れていなければ、結末は変わっただろう。しかし、残念ながら今回はそれが裏目に出た。
二人の肩が同時に叩かれた。それに二人は何かと思い振り向いて―――固まった。
「ウーノさんとクワットロ、失格」
「どうしてここが……」
「分かったの……」
信じられないとばかりに呟く二人。それに真司は先程の出来事を告げ、二人を驚かせた。確かにラボの施設の使用は禁止されていなかった。それを真司は思いつき、行動に移したのだ。その機転と発想に二人は改めて真司の凄さを知った。
(まさかそんな発想へ行き着くなんて……真司さんってたまに恐ろしいのよね……)
(まさかシンちゃんに知略面で負けるなんて……でもぉ、これで次回は私のか・ち……)
どこか感心したような二人に、真司は笑みを浮かべ「俺も中々やるだろ?」と尋ねた。それに二人は少し笑みを浮かべて頷いた。その反応に笑顔でガッツポーズを取る真司。そんな真司を二人は微笑ましいものを感じ、微かに笑う。
こうして、残りはトーレとチンクだけとなったのだが……
「え~、それでは結果を発表しま~す」
訓練場に響き渡る真司の疲れた声。その場にいる者達は、そんな真司にそれぞれ苦笑。結局真司はトーレとチンクに逃げ切られ、最後の最後までくたくたになるまで走り続けていたのだ。
その光景を五人は眺め、微笑んでいたりしたのだが。
「勝者、トーレとチンクちゃん。で、勝者のご褒美として、今日の晩飯注文権が与えられま~す」
「注文、か……何かあるか、お前達」
「ドクター、私は特にありませんので、どうぞご自由に」
チンクはセイン達へ、トーレはジェイルへとそう振ったが、そこにいた全員が揃って首を振った。それは二人の権利だから、二人が決めるべきだと真司も続けた。
それに二人は困り顔。だが、このままでは埒が明かないと思ったトーレが言った。
「なら、以前チンクが手伝ったアレだ」
「アレか。確かにアレならいいな」
どこか嬉しそうに頷くチンクを見て、不思議そうなセインとディエチ。そんな二人にウーノが笑みを浮かべて告げた。二人が起動する少し前、真司を手伝ってチンクが一緒になって作った料理の名を。
「実はね……」
その日、ジェイルラボに食欲をそそる香りが立ち込めた。香辛料をふんだんに使った本格的インドカレーと、家庭的な日本カレーの香りが。
そして、この日食べたカレーの美味しさに感激したセインが、一週間に一度はカレーがいいと言い出し、カレーのレギュラー化が決まる。
その後、カレーは後のナンバーズ達にも好まれ、セインは真司のお手伝いからカレーだけは任されるまでになるのだった……
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やりたかった事は、それぞれの影響力の大きさ。知らず知らずで影響を与えるのが仮面ライダー達。
そして、それは必ず良い方向へと世界を動かす力と変わる。そんな感じの話。
次回でクウガ・アギト組は大きな動きがあります。龍騎はいつもと同じかな?