武器輸出三原則 見直しは国益にならない

 日本で造られた兵器が、紛争地やテロ現場で罪なき市民を殺傷する。憲法9条を掲げ不戦を誓う平和国家として、あってはならない未来図である。
 政府内で、すべての国への武器輸出を事実上禁ずる「武器輸出三原則」の見直し論が高まっている。
 菅直人首相は「基本理念は変えない」としながらも、内閣として、年末に民主党政権下で初めて取りまとめる新たな「防衛計画の大綱」策定作業を通し、三原則の在り方を議論する考えを明確にしている。
 昨夏、大綱策定を進める自民党政権に提出された報告書に三原則見直しが盛り込まれた際、「政府見解が定着している」と反発したのは、ほかならぬ民主党だったはずだ。政権交代を果たして策定を1年先送りし「真剣な取り組み」を約束したのではなかったか。
 それが一転、自民党政権の「方針踏襲」だ。見直しを語る資格がないだけではない。民意に背く行為である。
 佐藤栄作首相が1967年に表明した三原則は、共産圏諸国や紛争当事国などへの武器輸出を禁じた。76年に三木内閣がこれ以外の国にも「慎む」として適用を拡大、米国への武器技術供与など一部例外を除き全面輸出禁止が続いている。
 一方、防衛装備品は高度化・高価格化し、自国だけでの研究開発が難しくなっている。だが三原則の制約を受ける日本は、次期主力戦闘機(FX)として有力視されるF35をはじめ米国などが進める共同研究に参加できない。
 「防衛技術・生産基盤の劣化」に危機感を募らせる防衛省は、兵器の国際共同開発・生産への参加などを訴える。海外での国際協力活動に対する自衛隊の装備品供与を一律例外で三原則から除外することも求めている。
 背景には、年々防衛予算が細る中、最新鋭の戦闘機や偵察機を比較的低コストで取得したい思惑や、厳しい経営状況にある防衛産業の後押しがある。
 だからといって、武器輸出国として国際デビューすることが国益にかなうといえるのか。失うものの方が多いのではないか。「いつか来た道」を突き進もうとする危うさを感じる。
 レーダーに探知されにくいステルス性は、専守防衛の原則に照らしても不必要なものだ。防衛産業への支援は、核兵器廃絶などをアピールする軍縮外交とも矛盾する。
 武力による国際紛争拡大に手を貸さないことを基本理念とする三原則は、軍拡への歯止めである。外れれば非核三原則や憲法9条の存在も揺らごう。
 終戦からわずか65年、傷跡は完全に消えてはいない。それなのに「国是」を投げ捨て、前のめりになって兵器開発競争に走る姿勢は理解できない。

新潟日報2010年11月4日

米中間選挙 不況が「変革」のみ込んだ

 米中間選挙の投開票が行われ、与党民主党が歴史的な敗北を喫した。
 上下両院で議席数を大きく減らした。下院では4年ぶりに過半数割れし、上院ではわずかの差で多数派を維持するにとどまった。
 「変革」を掲げ、歓呼の声に包まれて政権に就いたオバマ大統領だった。しかし、米国民の最初の採点は痛烈なほどに辛かった。
 今後の政権運営は極めて厳しくなることが予想される。2年後の再選をにらみ、オバマ氏はもう後がない正念場を迎えたといえる。
 医療保険改革や金融規制改革などに具体的に踏み出したことをオバマ政権は実績として誇る。
 核大国でありながら「核兵器なき世界」を目指すと明言して核軍縮への新たな流れを提示し、世界を導く米国の決意を示した。
 一方、共和党や反オバマの保守派運動「ティーパーティー(茶会)」などからは、各政策が「小さな政府」に反すると強い批判が上がっていた。
 イラク、アフガニスタン問題の解決は思うに任せず、臨界前核実験実施で自己矛盾をあらわにして、わが国の被爆者の神経を逆なでした。
 ここまでの歩みを振り返るとき、功罪は半ばする。とはいえ、オバマ氏にすれば、決定的な失政はなかったと反論したいはずだ。
 敗北の原因は詰まるところ経済の不振にある。景気は低迷し、失業率は高止まりして改善のめどが立たない。デフレの不安におびえ、追加の金融緩和に乗り出そうとしている。
 「変革」への希望は現実の経済にのみ込まれ、失望に変わり始めたと言っていいだろう。
 グローバル化の中で、一国だけの思惑で経済を都合よく動かすことはできなくなった。世界を引っ張る米国でも同様だ。一人の指導者の手腕で簡単に改善するはずもない。
 オバマ氏が直面している苦境は、世界経済の荒波に立ちつくす政治の限界を示すものに思われる。
 選挙結果を受けてオバマ氏は共和党指導部と電話会談し、今後の政権運営で協力する意向を表明した。だが、共和党は医療保険改革法の廃止などを強硬に主張してきた。妥協が得られるかは予断を許さない。
 米国の民主主義の伝統と知恵を踏まえ全力で当たらなければ、この難局は切り抜けられまい。「変革」の先に描いた理想をあきらめず、一方では必要に応じて大胆に政策を変化させていく柔軟性が求められる。
 為替政策での自国優先や保護主義の排除に向けて模範を示し、国際協調をリードしてほしい。

新潟日報2010年11月4日

本紙データベース外部公開
日本が見えるニュースサイト 47news
全国の名産・特産とお取り寄せ 47club

TOPICS トピックス

新潟日報事業社Book Store
新刊の紹介コーナーや商品検索も充実!そのままネットでお買い物ができます。
メディアステーションbanana
bananaは新潟駅構内の多機能型待合室。号外発行の機能も備えます。
にいがた囲碁ネット
インターネットを使って世界中の囲碁ファンと対局。有料会員制の囲碁サロン。
相沢まき
新潟県出身で県観光特使の相沢まきさんが新潟県の魅力をコラムで楽しく紹介。
小野沢裕子の越後いいとこどり
忘れかけていた“新潟の情緒”。人と文化を伝える心温まるコラムです。
主要株価指数、海外主要為替、マーケットニュースなど。共同通信社提供。
県内9映画館の基本データと場内写真で紹介。公式サイトへのリンクも。
いまさら人に聞けない新聞やテレビでよく見る“ニュース用語”を詳しく解説。
情報技術(IT)時代の創造力に富んだ人材育成プロジェクト。