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検察・弁護側、真っ向対立

2010年11月05日

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罪状認否で無罪を主張する森田被告。正面に向き合う裁判員は、じっと聴き入っていた

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遺体発見現場の様子をモニターで見る森田被告=大津地裁、絵・岩崎絵里

【米原の汚水槽殺人 初公判/被告は犯人?争点】

 「争点は、被告人が犯人であるか否かです。みなさんに判断してもらいます」。法廷で、検察官は裁判員に向けてそう述べた。米原市の汚水槽で女性の遺体が見つかった事件の裁判員裁判(坪井祐子裁判長)が4日、大津地裁で始まった。殺人罪に問われた同市坂口、会社員森田繁成被告(41)は全面否認している。真っ向から対立する検察、弁護側双方の主張を、裁判員はどう判断するのか。

【「殺してません」被告は前面否認】

 裁判は午前10時に開廷。70の傍聴席は満席になった。

 冒頭、検察官が起訴状を読み上げる。森田被告は昨年6月10日午後9時ごろ〜翌11日午前1時ごろ、米原市伊吹の汚水槽で、鈍器のようなもので小川典子さん(当時28)の頭を数回殴って瀕死(ひん・し)の重傷を負わせ、汚水槽の中に入れて窒息死させた――。

 「なにか間違っていることはありますか」。坪井裁判長に問われた森田被告は、「違います。私は殺していません」と全面否認し、無罪を主張した。

 この事件では、犯行の目撃者など被告と犯行を直接結びつける証拠がない。状況証拠を積み重ねて被告の犯行を立証しようとする検察側は、冒頭陳述で動機や足取り、被告の車内に残されていた血痕など、五つのポイントを挙げて説明した。対して弁護側は逐一反論し、主張は真っ向から対立した。

〈1.犯行の動機〉

 被告と小川さんは、ともに長浜市高月町の液晶ガラスメーカーの工場で働いていた。被告には妻子があったが、2007年夏ごろには小川さんと交際するようになった。

 検察側によると、2人は互いに浮気を疑い、携帯メールで責め合った。小川さんは知人に被告から暴力を振るわれ身の危険を感じていると漏らす一方、被告も小川さんに「おまえの勘違いでおれをつぶしている」と非難。事件直前の昨年6月に入ると、2人が怒鳴り合う姿も目撃されるようになった。

 小川さんが消息を絶った10日、トラブルは激化し、被告は「小川さんをなだめなければ、不倫関係を暴露され、社会的、家庭的にも破滅すると心配せざるを得ない状況にあった」と指摘した。

 一方、弁護側は「小川さんが被告の女性関係を疑い不安定になることはあったが、けんかしてもすぐに仲直りしていた」と、被告に小川さんを殺害する理由はないと主張した。

〈2.被告の足取り〉

 小川さんは昨年6月10日夜午後8時45分ごろ、長浜市のJR高月駅付近で被告と会ったのを最後に消息を絶った。検察側によると、被告は翌11日午前3時に帰宅したのを妻が確認しているが、その間の行動の裏付けは取れていないという。

 これに対し弁護側は、被告は10日夜に小川さんと会ったが、小川さんは被告の車に乗り込むと1人で走り去ったと主張。約1時間後、小川さんと落ち合った場所で車だけが見つかったが、小川さんの姿はなく、被告はいったん帰宅したあと再び車で外出し、未明まで小川さんを捜していたとしている。

〈3.車の血痕の訳〉

 検察側によると、被告の車の左後輪内側のドラムブレーキ2カ所に小川さんのDNA型と一致する血痕が付着しており、「外から飛んで付いたとしか考えられない位置」と指摘。車の外で小川さんが暴行された際の血痕と主張した。ほかに車内の助手席シートなど数カ所からも小川さんの血痕が検出されたことを明らかにした。

 これに対し弁護側は、ブレーキドラムの血痕は「小川さんは大量に出血しているのに、2カ所だけの血痕では事件と無関係の可能性が高い」と反論。車内の血痕については、小川さんや被告の鼻血などをふいた時に広がったものとし、「車内の血は少量なので決め手にならない」とした。

〈4.連絡なぜ激減〉

 検察側によると、被告は6月10日までの3日間で1日21〜34回のメールを小川さんに送っていたが、事件後の11日は2回と激減。12日は全くメールを送らなかった。検察側は「連絡の激減は小川さんの死亡を知らなければ説明できない」と指摘する。

 また、12日に小川さんから受信した携帯電話のメールを外部記憶メディアにコピーし、その後、すべてのデータを削除していた。小川さんの血がついた車のマットも自宅の庭に隠していたという。

 一方、弁護側は被告のメール送信の回数が減った理由について、メールを送ったが返信がなく「小川さんがすねているので連絡を待とうと思った」と主張。メールをコピーした外部記憶メディアや血のついたマットを捨てなかったことも、犯人であれば逮捕前に捨てることができたとして、「被告が真犯人だとつじつまが合わない」とした。

〈5.主張の矛盾点〉

 検察側は、被告が小川さんと会った後の小川さんへのメール送信の内容が、被告の主張と矛盾することも指摘している。被告は11日午前1時14分「車かえして」、同53分「ナンデ!? こんなとこ車置いてある!?」というメールを小川さんの携帯電話に送信している。しかし被告は前日午後10時ごろに車を見つけたと主張しており、検察側は「殺害のときは一緒にいなかったと装うためのカムフラージュ」としている。

 これについて、弁護側は「被告がまだ車を探していると思えば、小川さんが罪悪感から連絡してくれる」と考え、いったんメールを作成。しかし、小川さんが突然いなくなったことに立腹し送信しなかったが、11日未明に誤ってて送信してしまったと説明した。

【被告を注視して聴き入る裁判員】

 この日、早朝から54の一般傍聴席を求めて335人が並び、裁判の関心の高さをうかがわせた。森田被告は黒いスーツに青のネクタイをして入廷。罪状認否では正面を見据えながら「私は小川さんを殺してません」とはっきりした口調で述べた。視線の先にいたのは職業裁判官とともに並び座る男性4人、女性2人の裁判員。じっと被告を注視し、主張に聴き入った。約40分間の検察側冒頭陳述では、真剣な表情で手元の資料を読み込んでいた。森田被告も弁護人の持つ資料を終始のぞき込むようにして目を通していた。

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