米原市の女性会社員、小川典子さん(当時28歳)を殺害したとして殺人罪に問われた森田繁成被告(41)の裁判員裁判が4日、大津地裁(坪井祐子裁判長)で始まった。法廷では無罪主張の弁護側と検察側の主張が真っ向から対立。今後、双方が延べ16人の証人を立てて事実認定を争う。この日は検察側が事件直前に2人が交わしたメール履歴などを開示。決定的な物証がないなか、裁判員はそれぞれの主張に耳を傾けた。【稲生陽、加藤明子、村瀬優子、村山豪】
検察側は冒頭陳述で、小川さんが行方不明になった昨年6月10日までの3日間、森田被告が小川さんに1日21~34回送っていたメールが11日以降激減したと指摘。遺体発見の報道は12日夕以降で、「小川さんが亡くなったのを知る犯人でなければ説明できない」と述べた。さらに遺体発見前後に、携帯電話のメールデータを削除し、小川さんが殺害されたとみられる10日夜~11日未明に左手にけがをしていたことなどを詳述。フロントガラスにひびが入った車の修理や清掃などを頼んでいたことを明かした。
これに対し、弁護側は「被告には動機がなく、返り血を浴びた衣類や靴も見つかっていない。証拠品を捨てずに持っていたのは、真犯人なら考えられない」と反論。同月10日夜、JR高月駅近くで被告の車に乗った小川さんは「トイレに行く」と言って1人で運転して姿を消し、約1時間後に被告が同駅近くで車を見つけた時には姿がなかったと述べた。左手のけがは、小川さんに会う直前、コンビニ店の駐車場で見知らぬ男2人に殴られたと説明した。
公判は5日も午前10時から証拠調べがあり、22日に論告求刑、12月2日に判決が言い渡される予定。
法廷では、検察側が遺体の写真なども証拠として示し、男性4人、女性2人の裁判員と女性4人の補充裁判員らは真剣な表情で見入っていた。中には顔を背ける女性裁判員や、タオルで顔を覆う男性裁判員もいた。弁護人の右隣に座った森田被告は、裁判員席や傍聴席にほとんど目を合わさず、机に置かれたノートを見つめ続けた。
大津地裁前では傍聴券を求め、朝から市民や報道関係者らが長蛇の列を作った。335人が抽選番号を記した黄色いリストバンド型整理券を受け取り、抽選で54人が傍聴券を手にした。
◆検察側冒頭陳述要旨
検察側の冒頭陳述要旨は次の通り。
森田被告は、07年7月ごろから交際を続けていた小川さんに異性関係を疑われ09年6月以降けんかがちになった。最も激しい口論となった同月10日、関係を暴露されて家庭的・社会的に破滅することを恐れて、強い殺意を持ったと考えられる。
小川さんは同日の退社後、遺体が見つかるまで被告以外に目撃されておらず、最後に電話やメールで連絡をとったのも被告。小川さんの失踪(しっそう)後、被告からのメールは激減した。小川さんは08年夏以降、母親や友人に被告の暴力で身の危険を感じていると打ち明けていた。
被告の車の助手席シートやドア、ブレーキドラムから小川さんの血液反応が出た。その理由について捜査段階と弁解が変わっている。血痕のあったフロアマットは傷んでもいないのに自宅庭に隠していた。
毎日新聞 2010年11月5日 地方版