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[21903] 【習作】Metal Gear East ~Sage Eater~【東方×MGS】
Name: ビアード◆84e2b218 ID:49b23b13
Date: 2010/11/06 17:59

どうも、ビアードです。
今作で、投稿二作品目となります。
今回は、連載物ですね。

内容は東方×MGSという、突拍子も無い設定。
極力ネタに走りたかったけれど、結局シリアス傾向に……。
予定としては、今後ちょっと百合も入ると思うので、あまり好きでない方はお戻りください。
でも、エロくはないよっ!

P.S
本作は、東方キャラでMGS!というコンセプトで作っています。
なので、MGSのキャラは序章であの人がちょっと出てくるだけで、スネーク含めそれ以外のキャラは一切出てきません。
あらかじめ、ご了承ください。


~更新履歴~
10/09/14 序章1をUP
10/09/16 序章2をUP 前書き付け足し
10/09/26 Mission1をUP
10/11/06 Mission2をUP


突如として、月の都に現れた謎の侵入者。
王はその侵入者を受け入れた。
そして、なぜか謀反の罪に問われてしまう綿月豊姫。
命からがら、地上へ逃げ延びた彼女が再会したのは、かつての侵略者達。

彼女は月の都を取り戻すため、地上人と手を組み、単身月の都へ潜入する。
その一方、月の都では核発射のカウントダウンが始まっていた。
奴等の目的は何なのか?
豊姫は、侵入者達から月の都を奪還できるのか?


今、世界の運命を賭けた史上最大の『弾幕ごっこ』核戦争が始まる……。



[21903] 序章1
Name: ビアード◆84e2b218 ID:49b23b13
Date: 2010/09/16 15:32

西暦1961年。
アメリカ合衆国において、60年代以内に月面着陸を成功させるという声明が、アメリカ大統領より発表された。
その背景には、第二次世界大戦後のアメリカとソ連による冷戦、宇宙開発競争があった。

その発表は、我々月の民の耳にも届いた。
そして、にわかに月の都は慌しくなった。
当然である。
元々月に住む私たちにとって、それは侵略以外の何物でもない。
地上人侵略から月の都を守るため、私達月の使者は非常線を張った。
そんな、ある日の事だった……。


私は、自室の椅子に座り仕事にふけっていた。
机の上に積まれた、おぞましい紙の束。
全く、報告書の整理っていうのも楽ではない。

「豊姫様っ!」

ものすごい声と共に、ものすごい勢いで部屋の扉が開かれた。
その扉から放たれたジェットストリームにより、机の上に積まれた紙の束が若干吹き飛んだのは言うまでもない。
そして、私がそれに少し苛立ったことも……。

「レイセン。入るときはノックを忘れないでって言ってるでしょ?」
「す、すみません……」
「それで、また弱音を吐きに来たのかしら?」

少しきつく言い過ぎたかなぁ、って今なら反省しないでもないけど……。
とにかく、このときの私は少し気が立っていた。

「私には無理です……だって、下手をしたら死ぬんですよね……?」
「死にたくなかったら、相手を殺すしかないわ」
「こ、殺す……っ!?そ、そんなこと出来ませんよっ!」

彼女……レイセンは、ひどく怯えていた。

「殺すか殺されるか。それが戦争よ」
「それは……わかっています。でも、ほかに道はいくらでも……っ!」
「言ってみなさい。戦争を回避する方法があるのならね」
「そ、それは……話し合いとか……」

怒りを通り越して、呆れてきた。
あまりにも呆れたので、持っていた資料を思わず机に投げ捨ててしまった。

「話の通じる相手ではないわ。そもそも相手は、私たちの存在自体知らないんだからね」
「それは、そうですけど……」

ようやく私も気が落ち着いてきた。
そこで、これ以上押し問答を続けても意味がないことを悟れた。

「貴方は月の使者担当の玉兎よ。月の使者は月の都を守るのが仕事。分かるわね?」
「はい……」
「今、月の都は危機に直面している。それを脱却するには、貴方の力が必要なの。それも、分かるわね?」
「……私には、出来ませんよ」
「貴方は元々、薬搗きの担当だった。でも、それが嫌で貴方は逃げ出し、月の使者の担当になった。それなのに、貴方はまた逃げようというの?」
「…………………………」

レイセンは今にも泣きそうなのを、ぐっと唇を噛んでこらえている。
彼女の心の中でいろいろな思いが葛藤しているのだろう。

「今日はもう休んでいいわ。一人になれば、考えもまとまるでしょう」
「……豊姫様。もし、私が死んだら……その……」
「やめなさい。自分が死んだらなんて、考えるものじゃないわ」
「…………………………」

彼女はしばらく黙り込んだ。
5分ぐらいしてからようやく口を開き、小さく「失礼しました」と言って部屋を出て行った。

それが彼女との最後の会話になってしまった。
少なくとも、私はずっとそう思っていた……。


「お姉さまっ!」

翌日。
報告書の整理をしていたら、再び扉からのジェットストリームによって書類が吹き飛んだ。

「依姫。入るときはノックを忘れないでって言ってるでしょ?」
「す、すみません……って、それどころじゃないんですよ!」
「一体何があったっていうの?レイセンが川にでも落ちたのかしら?」
「そのレイセンが、逃げ出したんです!」
「な、なんですって!?」

月の都において、私たちの目が届かない所なんてない。
しかし、都のどこにもレイセンの姿はなかった。
となると、考えられるのは……。

「お姉さま。調べた結果、月の羽衣が一つ無くなっているみたいです」
「そう。じゃぁ、やっぱりレイセンは地上へ逃げたのね……」
「これから、どうなさいますか?」

私は少し悩んだ。
レイセンが逃げ出したのは、自分がしっかりと彼女の事を理解してあげなかったからだ。
だから彼女は、私の元から逃げ出した。
私は飼い主として、最低限の事すらもしてあげられなかった……。

「迎えに行くわ。あの子寂しがりだから、今頃一人で泣いてるかもしれないしね」
「ですが、場所も分かりません……。そうしている間にも、地上人は……」
「分かってるわ。こんなことしてる場合じゃないって……」

その時、少しだけ涙が出そうになった。
それを依姫に悟られたくなかったから、息を呑んでそれを堪えた。

「……ペットが逃げたんだもの。飼い主として、それを探す義務がある……」

何を言おうとしても、涙が出そうになる。
必死にそれを堪えながら、搾り出すように言葉を綴る。

「お姉さま……」
「ごめん、依姫……。もう二度と言わないから、今だけは私のワガママを聞いて……」

結局、涙は堪え切れなかった。
大粒の涙が、頬を伝って床に滴っていく……。

妹にこんなみっともない姿、見られたくなかった。
頭の中が真っ白になった私は、それでもとにかく泣いているって思われたくない一心があった。
だから、精一杯の笑顔を見せた。
しかし、そのせいで逆に依姫へ気を使わせる結果になってしまった。

依姫は私の顔を見て、私が泣くのを我慢していたのを悟った。
だから、そのことについては何も言わないでくれた。
ただ一言、「お気をつけて」とだけ、小さく声を掛けてくれたのだった……。


地上へ向かう時、私は悩みあぐねていた。
このまま裏の地上へ降り、レイセンを探し出し、無理矢理連れ帰ったところでそれが彼女のためになるのか。
もちろん、レイセンを探し出せる保証も無いわけだが……。

悩みあぐねた私は、結局表の地上へ降り立っていた。
レイセンが言った、話し合い……。
そんな手段で、アメリカやソ連の月面探査計画を阻止できるとは思えなかった。
でも、もしそれで解決する事ができたなら、私は笑顔でレイセンを迎えにいけるだろう。
無駄でも良い、やってみなければ分からない……。
そう、自分に言い聞かせて、私は表の地表に立った。

……いや、それも全部言い訳に過ぎない。
結局、私は面と向かってレイセンに会うのが怖かった。
また、逃げられてしまうんじゃないかって……。
だから私は、表へと逃げた。
レイセンが絶対にやって来れない、表の世界へ……。


当時、アメリカでは有人宇宙飛行を完成させるため、まずは人間を地球周回軌道に到達させることを目的とした宇宙ロケットの開発をしていた。
その計画の名は、『マーキュリー計画』。
しかし、当時の宇宙線遮断技術は充分に発達しておらず、乗員の被曝は避けられなかったという。

私が地上に降りたとき、ある一つのロケットの打ち上げが行われていた。
だけど、そのロケットは宇宙線を浴び、更に着水時に大破してしまった。
私はその一部始終を見ていた。

今の地上の技術では、所詮こんなものしかつくれはしない。
でも、この調子で進めば間違いなく10年以内に地上人が月へ到達してしまうだろう。
私はやはり、不安を拭い去ることは出来なかった。

彼らの本気を私は見たのだ。
これを、話し合いで止めさせることなど、出来るはずもない……。


私は大破したロケットの残骸の中から、一人のクルーを助け出した。
そのクルーはほとんど虫の息で、放っておけば時期死に至ったであろう。
でも、私はその人物を月の技術で助けた。
もちろん、単純に良心からってわけじゃない。
地上人の考えを知る必要があったからだ。

月の技術により治療を施したとは言え、その人物は一度死に掛けていた。
そのため、半年間は昏睡状態にあった。

そして半年後、その人物は目を覚まし、初めて会話をする事が出来た。
その人物……女性だったけど、彼女は軍人で「特殊部隊の母」とまで称されていた人物のようだ。
彼女は命の恩人である私に、言われるがままに現在の地上の事を話してくれた。
彼女は私を警戒しなかった。
そして私もまた、彼女を不思議と警戒しなかった。
穢れきった地上に住む人間……そうであるにも関わらず、私は彼女の中に穢れを見出すことが出来なかったのだ。

彼女はアメリカとソ連の冷戦と宇宙開発競争、そして月面着陸への目的を話してくれた。
それを聞いて、私はひとまず安心した。
アメリカの月面着陸計画の目的は、ソ連との宇宙開発競争に勝つこと。
そして、ソ連もまたしかり。
そんな穢れた目的を持つ者たちが、裏の月へたどり着くことはマズありえない。

だけど、私は念には念を入れた。
後にアメリカが月面着陸を成功させた『アポロ計画』。
アポロとは、ギリシャ神話の太陽神アポロンにちなんで名づけられたもの。
この名前がきっかけで、アポロは裏の月へたどり着くことが出来なかった。
なぜならば、その計画の名は太陽神の名だからだ。
アポロ計画という名前自体は、当時のNASA長官が命名したものである。
でも実は、私が気付かれないように裏で手を回して、そう命名させた。
地上人が、裏の月へたどり着けぬように……。

ひとまず地上人侵略の脅威は去ったと言ってもいい。
もちろん、油断は許されないけれど……。
これで、胸を張ってレイセンを迎えにいける。

しかし、それでも私はまだ怖かった。
レイセンに会いに行くのが……。


その軍人の彼女……色々な呼び名があるそうだけど、私は彼女を「ザ・ボス」と呼んでいた。
彼女には不思議な魅力みたいなものがあった。
上手く言えないけれど、彼女の中に穢れを見出せなかったのも理由の一つだと思う。

私は彼女に興味を持った。
だから、もう少し彼女の事をそれとなく知りたかった。

本当の事を言えば、今の自分にある気の迷い。
それを、彼女なら正してくれると思ったからだ。

でも、ザ・ボスに関しては分からないことだらけだった。
特に、愛国心と言う奴が私には最後の最後まで理解できなかった……。


「私には、理解できない……どうしてそこまでして、貴方が国に従うのか……」
「そのほうが良い。国に忠を尽くすか、己に忠を尽くすか……それを決めるのは、自分自身だ」
「そして貴方は、国を選んだ……」

彼女は国のためなら死ねる覚悟だと言った。
確かに、私も月の使者のリーダーとして、その覚悟はよく分かる。
でも、彼女の国……アメリカは彼女を裏切っている。

マーキュリー計画で、彼女が非公式クルーとしてロケットに乗り込んだのは、前年彼女がとある作戦で失敗を起こした責任のためだった。
しかも、その作戦の失敗も、彼女に直接的な非があるわけではなかった。

それでも彼女は、国に従う姿勢を崩さない。

「なぜ、そこまでして貴方は国に従うの……?」
「我々に、絶対的な敵など存在しない。敵は常に変化する。我々の相手は、いつだって相対的な敵でしかないのだ」
「それなら、なお更なぜ国に……っ!」
「それが、戦士だからだ」

その言葉に、私は動揺した。
戦士だから……。

「見たところ、お前さんもそれなりの戦士のようだ。どこの軍人かは知らぬが……」
「…………………………」
「逃げられたのだろう?部下に」
「ど、どうしてそれを!?」
「顔に出ている」

何もかもが見透かされているような気分だった。
彼女は軍人としても、指導者としても偉大な人物だった。
私は、それを今更ながらに感じた。

「戦場で、己の弱い感情に支配されたら負けだ。相手に読まれるようなら、なお更な」
「でも……私は……っ!」
「戦場には常に、多くの感情が渦巻く。その中で、特殊な強い感情を抱いたものだけが強くなれる。しかし、弱い感情に支配されれば、その時お前は死ぬ」
「弱い……感情……」
「お前がいつまでもそんなようでは、部下は次々と逃げていくことだろう」
「……っ!」

頭の中が真っ白になってきた。
私が弱いから、レイセンは私の元から逃げてしまった……?
レイセンだけじゃない。
このままでは、私の元から皆逃げていくというの……?

「戦場で最大の敵は己だ。我々にも唯一絶対的な敵が存在するとすれば、それは己だけだ」
「己……」
「国に忠を尽くすことは、己と言う絶対的な敵を倒す数少ない手段といえる。迷えば死ぬ。ならば、何かを信じて戦うしかない」
「だから貴方は、国を信じて戦うの……?」
「……そうだ」

国を信じる……。
私で言えば、それは都を信じると言う事。
でも、私は都を信じることは出来ない。
なぜなら、都は私たちを敵視しているからだ。

「私……一体、何を信じれば……」
「その答えを見つけられるのは、おまえ自身だけだ。これ以上、私が言えることは何も無い」

答え……本当に、そんなものがあるのだろうか?

「自分の信じた道に忠を尽くせ。豊姫」
「……探してみる。私の信じられるものを……」
「早く見付かることを祈っている」

今の私は、まだあまりにも弱すぎる。
レイセンを連れ戻したところで、また逃げられるのがオチだ。
今の自分に、レイセンを迎えに行く資格など無い……。


西暦1964年 8月
私は月の都へも戻らず、あまつさえレイセンを迎えに行くことさえせず、ただ表の地表を彷徨っていた。
私には信じられるものが無かった。
少なくとも、命を懸けてまで守ろうと思うものなど一つも無い。
その資格さえも……。

そんなある日、ザ・ボスがソビエト連邦領に向かったという話を聞いた。
冷戦のさなか、アメリカの軍人である彼女がソ連を訪れるというのは、どう考えても穏やかな事ではない。
気になった私はソ連へ飛び、彼女を探した。

そして、私は彼女と再会した。
敵国であるソ連へと亡命した、ザ・ボスと……。


そこで、私は驚くべき事実を知った。
今、彼女が遂行すべき任務は、自国であるアメリカに抹殺されることなのだと。

私はそこでようやく理解する事が出来た。
彼女は自らが生き延びることを、最善に考えては居ない。
だからこそ、彼女の心に穢れが無かった。
むしろ、穢れていたのは自分の心の方だった……。

彼女は国に忠を尽くすことで、自らの生存本能を消し去った。
そして、穢れから開放された。
しかし、私には信じられるものが何も無かった。
だから、確実に存在している事が確かめられる、自分の命だけを考えていた。
結果的に、それは自らの心に穢れを生んでいた。

レイセンにしても、それは同じだった。
彼女は自らが生き延びることだけを考えていた。
だから、彼女は逃げ出したのだ。

今の私に出来ることは、月の都へ戻り、都へ忠を尽くすこと。
レイセンも、今となっては都に戻るつもりなんてないだろう。
ならば、無理に追う必要は無い。
そもそも、穢れを浄化することの出来なかった彼女に、月の都へ戻る資格も無い。

私は、私の信じた道に忠を尽くすだけだ。


ザ・ボスは、私に最初で最後のお願いをしてきた。
それは、ソ連が作り出した核搭載型戦車。
通称、「シャゴホッド」の設計図を処分することだった。

すでに試作機自体は、完成を迎えているものの、奴等の真の目的はこれを量産することにある。
それを阻止するためにも、この設計図を処分する必要があった。

しかし、ザ・ボスはソ連へ偽装亡命している身。
もし、シャゴホッドの設計図を処分したことがバレれば、今後の作戦にも支障が出る。
だから、第三者である私に処分を依頼した。

私はその依頼を快諾した。
そして、もう二度と会う事は無いであろう恩人に最後の別れを告げ、私は月の都へ帰った。



[21903] 序章2
Name: ビアード◆84e2b218 ID:49b23b13
Date: 2010/09/16 15:31

あれから、40年ぐらいの時が流れた。
シャゴホッドの設計図は、今でも私の机の引き出しに大切に保管されている。

ザ・ボスの依頼は、設計図を処分することであったが、その目的はソ連の手に設計図を戻さないためだ。
ならば、彼らが絶対に追って来ることのできない月の都に持ち込めば、それで問題は無い。

私が設計図を処分せずに大切に保管しているのは、これがザ・ボスと出会ったたった一つの証になるからだ。

あれから、アメリカはアポロ計画で月面着陸を成功させた。
しかし、目論見どおり彼らは裏の月までたどり着くことは出来なかった。
地上人侵略の脅威が完全に去った今、私達はいつも通りの日常を過ごしている。


「桃李。物言わざれども、下自らみちを成す」

私は窓の外を眺め、その先にある桃を眺めていた。
少し、周りを見回して、あたりに誰も居ないことを確認する。
まぁ、自分の部屋なんだから他に誰も居ないのが当たり前なんだけど……。

「ん……っ!」

私は思いっきり窓から手を伸ばし、その桃に触れようとする。
しかし、これが思った以上に距離がある。
もう少しの所で、手は桃に届かない……。

届かないのであれば、届くようにするまで。
私は持っていた二本の扇子で、桃を掴むことを試みた。
そして、目論見どおり二本の扇子は見事桃を掴み……。

ブチっ!

「……っ!?」

悲しきかな。
桃は枝から取れ落ち、わが手にすること叶わず……。

「しょうがない。桃は私に運動をしろと言っているのね」

仕方なく、私は表へ出た。
で、折角表へ出たわけだから、ついでに残りの桃も取ろうと考えた。
運動がてら。


「だから、兎風情が綿月様に何の用事があるって言うんだ?」

唐突に、表門から声が聞こえてきた。
話の内容から察するに、何か揉めている感じがした。

「やれやれ、今の世も揉め事は耐えないと……嘆かわしい」

とりあえず、後で大事になっても面倒だし、ひとまず様子を見に行くことにする。
運動がてら。


門を超え、一気にそこへ着地……っ!

むぎゅっ!

「あ、あれ?豊姫様……!?」

私の登場が予想外だったのだろう。
門番達は微妙にうろたえ気味だった。

「桃を拾いながら運動をしていたら、なにやら表門が騒がしかったので見に来たの」

門番は、まだうろたえた様子だった。
よほど、私の登場が以外だったのかしら……?

「で、何をもめていたのかしら?」
「いや、その……豊姫様の足元で寝ている兎が、どうしても豊姫様と依姫様に会いたいと……」
「あや、そんなんで揉めてたの?」

とりあえず、その来訪者は私の足元で寝ているらしい。
視線を足元へ落としてみると、確かに私の足元で玉兎が一人寝ていた。
なるほど。これで、着地時の謎の効果音と門番達がうろたえていた謎が一気に解決したわけだ。

「ほらほら、そんなところで寝てたら風邪引くわよ」
「うぅ……あんまりです……」

私がどくと、その玉兎は立ち上がり、服を軽く払った。

「ごめんごめん。はい、桃」
「あ、ありがとうございます……」

彼女は申し訳無さそうに一礼して、桃を受け取った。

「じゃ、この子は私達のお客さんみたいだから、預かっておくわね」
「は、はい。我々に異存はありません」

私はその玉兎を家へ招き入れた。
聞くところによると、なんでも私達に手紙を届けにきたそうだ。
そしてその手紙と言うのが、驚くべき人物からのものだった。

「八意様から手紙……?」
「はい。綿月様にお渡しして欲しいと」

八意永琳様……。
今から大体1300年ぐらい前、月の都を去った偉人であり、私と依姫の師匠。
あれから一度も、八意様と連絡が付いたことなどなかった。
だから、千年以上も経った今、手紙を受け取れたことがどんなに嬉しかったことか……。

「お姉さま?」

その時、訝しそうに言い放たれた妹の声が聞こえてきた。

「また新しいペットですか?もう、いい加減にしてくださいよ……」
「残念ながらペットじゃないわよ」

呆れる妹。
私が勝手に桃を取った事にも原因があるのだけど……。

「まぁまぁ、それよりこれを見てよ」

依姫に八意様の手紙を見せる。
流石の彼女も、顔色を変えた。
まぁ、当然よね。

ひとまず、玉兎を居間に通して、いろいろ話をすることにした。


「八意様は、地上で元気にしているようで何よりです」
「地上へ逃亡した八意様を許されるのですか?」

逃亡……。
確かに、彼女は1300年前に地上へと逃げた。
自分の教え子である、輝夜様と共に……。

あの時、八意様は地上に幽閉された輝夜様を、他の月の使者達とともに迎えに行った。
その際、八意様は私達に月の使者のリーダーの座を譲ってくれた。
もしかしたら、八意様はその時から月に戻らないと決めていたのかもしれない……。


八意様と輝夜様が逃亡する際、八意様は残りの月の使者を皆殺しにした。
少なくとも、記録にはそう残されている。
それと、事実あの時輝夜様を迎えに行った者は、誰一人として月に帰っては来なかった。
それでも、八意様は私達の恩師だ……。

「許すも何も、あのお方は私達の恩師です」
「私達から見たら、地上に追放された形になってるけど、間違ったことをする方じゃないからね」
「もちろん、建前上は月の使者のリーダーである私達が討伐しなければならない相手……と言う事になっていますが、きっとその日は永遠に来ないでしょう」

私達の話を聞いて、その玉兎は安堵の表情を浮かべた。


私が表の地上へ降り立った時、ザ・ボスに惹かれた理由が今になって分かった。
私は、ザ・ボスと八意様の影を重ねてみていたのだ。

初めてザ・ボスと話した時、彼女は自分が残した一人の弟子の事を気にかけていた。
名は、「ジャック」と言ったそうだ。

ジャックは、彼女の弟子の中で一番優秀だったらしい。
そして、彼女の弟子の中で一番、心が弱かったという……。


八意様は、本当に頭の良い方だった。
彼女に教えを被り、弟子となったものは数知れず。

自意識過剰と思われるかもしれないけれど、八意様はその沢山居る教え子の中でも私達を特に良くしてくれた。
私達も、その期待に応えるため、八意様の仰ったことは何でも吸収していった。
それでも、只一つだけ理解することの出来なかったものがある。
それは、月の使者のリーダーとしての心構えだ。

心だけは学ぶことができない。
どんなに必死になって勉強しても、私は私のままだった。
知識や技術と違い、心だけはどうしても八意様になれなかった……。


ザ・ボスは教えてくれた。
心は教えることは出来ない、と。
多くの実績、経験を得ることでしか心は成長しない。
今、八意様に会うことが出来たなら、きっと八意様も同じことを言っただろう。


ザ・ボスは任務のため、ジャックの前から忽然と姿を消したという。
彼に、自分の心以外の全てを教え込んだ後に……。

八意様も同じだった。
私達に全てを教え、彼女は私達の前を去った。


後になって私は知った。
ザ・ボスを殺したのは、他ならぬジャック本人だったことを。
彼はアメリカの指示で、最愛の恩師、ザ・ボスを抹殺した。

そして私達もまた、ジャックと同じ境遇に立たされている。
月の使者のリーダーとして、王より八意様の討伐を命じられている身。

でも、私には出来ない。
最愛の恩師を討伐することなんて……。
私達は、ジャックとは違う。
最後の最後で、私は都に忠を尽くせなかった。

己の信じた道に忠を尽くせ。
ザ・ボスとの約束を、私はまだ果たせて居ない……。


「さて、貴方が地上に逃げた罰を与えなければなりませんね」
「えっ!?な、なんで!?」

玉兎は身を乗り出して、私達に問うた。

「月の兎には、課せられた仕事があるはずです。それが嫌だからって逃げてしまえば、罰があるのは当然の事」

玉兎は、先ほどとは打って変わり、これ以上ないぐらい真っ青な顔になった。
悪いけれど、それを見た私達は思わず噴出しそうになってしまった。
やっぱり、玉兎ってみんな純粋なのねぇ。

「貴方への罰は、この宮殿に住み私達と共に月の都を守ること。もう、餅搗きの現場には戻れないでしょ?」

玉兎は、今度は気の抜けたような顔をした。

「晴れて、新しいペットになれたね」

私はそっと、玉兎の頭を撫でてやる。

「今日から、貴方の事はレイセンと呼ぶわ。これは昔、地上に逃げたペットの名前。貴方には丁度良いわね」

最後に、玉兎……レイセンは、満面の笑みで答えてくれた。

「はいっ!」


レイセンを稽古場へ案内させた後、私達は居間に戻り、桃とお茶を愉しんだ。

「あ~あ、私達は甘いなぁ……」
「あら、八意様が手紙を託すくらいなんだから、罰を与えないでやってくれって言ってる気がしたけど」
「でもねぇ、これで玉兎を束ねるリーダーにまた目をつけられちゃうよ」

依姫の心配はもっともだ。
只でさえ、八意様を野放しにしている私達を、都は厳しい目で見ている。

でも、私は間違ったことをしたつもりはない。
月人は大抵、玉兎を道具のようにしか扱わない。

月の使者担当が嫌で、逃げ出す玉兎は後を絶たない。
だけど、他の持ち場に居る玉兎だって、決して良い環境で働いているというわけじゃない。

私は私なりに、玉兎の事を考えているつもりだ。
もう、あの時のような思いはしたくないから……。

「最近は、月の都に不穏な空気が流れているからね。私達の人手は大いに越したことはない」

どうあれ、レイセンをうちで引き取らなければ、何かしらの処分は下されただろう。
それを黙って見過ごすことだけは、出来ない。


私達は、八意様の手紙の封を切った。

「それにしても、八意様の手紙なんて、もう千年以上見てないわ。一体、何の用件なのかしら?」

期待に胸を躍らせながら、手紙を開いてみる。

「月に戻って来るって言うのなら、私は大歓迎ですけど……」
「私もよ」

しかし、そこに書かれていた内容はあまりにも不可思議な内容だった。
地上から、月の都への侵略者がやって来るというのだ。

不確かな噂が飛び交う中、私達が信じられるのは八意様の手紙だけだった。


かくして、地上からの侵略者がやって来た。
ロケットで真正面からやって来た巫女達は依姫が。
スキマからこっそりとやって来た妖怪は私が、それぞれのしてやった。

奴等の計画は破綻した。
私達は、侵略者から月の都を守った。
それで、めでたしめでたし。


だけれど、物語はそう単純には終わらない。
すべてが終わり、私達が家で一息ついたとき、お酒が一瓶無くなっているのに気が付いた。

玉兎たちは誰もその行方を知らなかった。
しかし問いただすと、あの騒ぎの中、何者かがこの宮廷に忍び込んでいた事が分かった。
あの妖怪の仲間が、もう一人居た。
私達は見事に、騙されてしまったのだ……。

あのロケットも、スキマ妖怪自身も、すべてが囮だった。
本当の目的は、その後……。


第二次月面戦争は、無血の終戦を迎えた。
私達の敗北で……。
無くなったのは、お酒の一杯。

その一杯のために、奴等はこんな大掛かりな事をしたのか……。
私達は正直、呆れた。

私達はその一杯を取り戻すつもりは無かった。
どうせ、奴等はさっさと飲み干すだろうから。

それで、すべてが終わった……ハズだった。
でも、それでやはり終わりではなかった。


私は、一つだけいやな予感がしていた。
無くなったのは、本当にお酒一杯だけなのか……?
そのためだけに、奴等はこんな事をしたのか……?

私は他にも無くなったものがないか、家中を調べた。
そして見つけた……いや、正確には見つけられなかったからこそ、見付かったものだけれど……。

無くなっていた。
40年前。
ザ・ボスから渡され、月の都へ持ち帰り、大切に保管していたもの……。
シャゴホッドの設計図が、跡形も無く消え去っていたのだ。

「そんな……バカな……」

あいつらにとって、あんなものは何の意味も、価値も無い。
なのに、どうして……?

「八雲紫……貴方は、一体何を考えているの……?」


運命の歯車は動き始めていた。
1961年、アメリカ大統領のあの声明が発表されたその時から。
私達、姉妹の運命の歯車ギアは、狂い始めていたのだ……。



あとがき
というわけで、今回は豊姫が主役です。
そして、舞台は月の都です。
何でかと言うと、月の技術ならメタルギアの一個や二個は軽いだろうと……。
安易な考えですね、全く。

ちなみに、儚月抄は漫画版しか読んでおりません……。

あと今回から、ちょっとフォント大きくしました。
自分のPCのせいか分かりませんが、ルビが小さくて読めなかったので……。


それにしても、長い序章でしたね。
書いてみたら、案外長くなってしまったので二分割に……。
まぁ、ドラマとかも一話目は、初回二時間スペシャル!とかやりますよね。
問題ない、問題ない。


この間、綿月姉妹の話を書こうとしたら、目上の知り合いの方から、
「君は、どうしてそう超絶不人気キャラばかり使うんだい?」
と言われました。

そんな言い方って、あんまりじゃないですか……っ!
豊姫、可愛いじゃない!
依姫、かっこいいじゃない!
とか言いつつ、最近は秘封倶楽部に浮気気味な自分……。


さて、次回からはいよいよ本編です。
戦闘描写なんかも、ちらちら入ってくるかな……?
実は自分、ト書きとか下手なんで、ちょっと心配……。
まぁ、その辺は習作と言う事で、思いっきり練習していきたいと思います。

では、ぼちぼち長くなってしまいましたので、この辺で。



[21903] Mission1
Name: ビアード◆84e2b218 ID:49b23b13
Date: 2010/09/26 23:15

ある日、仕事をしていると、依姫が部屋に入ってきた。

「お姉さま、まだ書類の整理をしているのですか?」
「うん。しばらくほったらかしてたからね」
「そういうのは、こまめに片付けたほうが良いですよ」
「はいはい」

適当に相槌を打って、作業を続ける。

「ところで、わざわざ私の部屋に来たって事は、何か用があったんじゃないの?」
「あぁ、そうでした。お屋敷の中にこんな手紙が落ちていたのを、玉兎が拾ったのです」
「手紙……?」

見てみると、それは私宛の手紙だったようだ。
残念ながら、差出人の名前は書かれていなかったが……。

「怪しいとは思いましたが、ひとまずお姉さま宛の手紙ですので、お渡ししておきます」
「分かったわ。ありがとう」
「では、私は訓練の続きがありますので、これで……」

依姫は一礼をして、部屋を去っていった。
残された私は、手渡された謎の手紙を少し眺めていた。

差出人不明の手紙。
どう考えたって怪しいけれど、だからといってそれをそのまま捨てる気にはならなかった。

宛名として書かれた、私の名前……『綿月豊姫様へ』の文字。
その筆跡には、かすかに見覚えがあった。


「まさかね……でも、どことなく似ている気がする……」

40年前、地上へと逃げていった一人のペット……。
先代レイセン。
手紙に記された文字、その筆跡は彼女のそれに似ていた。


意を決して、封を破る。
そして、収められていた手紙を広げる。

手紙に記された文章は、そんなに長くは無かった。
特筆すべきなのはそこではなく、冒頭に書かれた『助けてください』の文字であろう。

助けてくれという以外には、都の郊外にある森の中へ来てくれ、という指示が書いてあるだけだった。

ただそれだけだったなら、私はその手紙を丸めて捨てていただろう。
でも、そうしなかった。
なぜなら、その手紙の最後に、もう一つのものが書かれていたからだ。

差出人の名前……レイセンの文字が……。


誰かが、イタズラにレイセンの名を語っているだけかもしれない。
だけれど、この筆跡は確かにレイセンのものに似ている。

手の込んだイタズラか、それとも……。

どうあれ、指示された場所へ行けば全ての謎は解明できる。
私はあえて、罠にはまる道を選んだ。
なぜなら、私をはめた相手を返り討ちにする自信があったからだ。



私は指示通り、森の中へやって来た。
手紙を持って、指示された地点へとひたすら歩く。

何も無い静かな森の中。
聞こえてくるのは、鳥のさえずりくらい。
こんな、何も無いところに私は呼び出されている。
イタズラにしても、一体何の目的があって……。


その時、近くの草むらから、葉の揺れる音がした。
蛇か何かか……それとも……。

「……っ!」

私はとっさに、その場から離れた。
さっきまで、私の立っていたところに一発の弾が通った。

「誰っ!?出てきなさいっ!」

私は、武器を持って構える。
まぁ、扇子なんだけど……。


「やはり、来ていただけましたね。豊姫様……」
「そ、その声は……っ!?」

足音が私にゆっくりと近づいてくる。
私もそれに合わせるように、ゆっくりとそちらを向いた。

「久しぶりですね。もう、かれこれ40年ぶりですか……」

私の目の前には、一人の玉兎……。
忘れるはずも無い、あの姿があった。

「レイセン……」

その名を口にした瞬間、レイセンは私に銃を突きつけた。
まぁ、指なんだけど……。

「その名で、私を呼ばないで下さい!貴方にだけは、その名前で呼ばれたくない……」
「れ、レイセン……っ!?」

彼女からは、明らかな敵意を感じられた。
一体、何故……。

「私の名前は、優曇華院です」
「そう……で、なぜ私に銃を向けるのかしら、優曇華?」
「そんなの、決まってるじゃないですかっ!」

憎しみの込められた言葉……。
そして、眼……。

「貴方は、私を戦争の道具としか見てくれなかった……だから、復讐するんですっ!」
「ど、どう言う事よ?なぜ、私が貴方を戦争の道具にしたと思うの?」
「決まってるじゃないですか。私の名前ですよ……」
「名前……?」

優曇華の憎しみのこもった目から、涙が混みあがってきた。

「私、知ったんです……『レイセン』と言う名前の意味を……」
「名前に意味など無いわ。それは、単なる記号に過ぎない」
「でも、記号には意味があります。隠された意味だって……」

悔しそうに喋る、優曇華……。

「あの時、地上で起きていたアメリカとソ連による東西冷戦……。貴方はそこから、私に冷戦レイセンの名を与えたんですっ!」
「……………………」
「私は、貴方にとって戦争の駒……いや、兵器でしかなかった!だから、私はレイセンだった……」

優曇華の手が震え始めた。
顔も、涙でぐしゃぐしゃになりつつある。

「何度も言わせないの。名前に意味なんて無いわ。名前なんて、私達が勝手につけて、勝手に呼んでるだけでしょ?」
「それなら、どうして40年前に私を追いかけてきたんですか!?」
「……っ!?」
「私、知ってるんですよ……私が地上へ逃げた時、貴方は地上まで追いかけに来ていた事を……」
「それは、貴方の事が心配だったから……っ!」
「嘘ですっ!」

力いっぱいに否定する優曇華。
歯も、これまた力いっぱい食いしばっている様子が伺える。

「月人の……それも、綿月様なんかが一介の玉兎如きを地上まで追いかけるなんて、普通に考えてありえません。
 貴方は最後の最後まで、私を兵器として利用しようとしたんですっ!」
「どうして、そんな風に思うの……?なぜ、私の言う事を信じてくれないの……?」
「だって、豊姫様は結局、私を迎えに来てはくれなかったじゃないですか……地上人侵略の脅威が去ったと分かったらっ!」
「そ、それは……っ!」
「豊姫様にとって、私はただの兵器です……それ以上でも、それ以下でもないっ!」

次の瞬間、優曇華は攻撃を仕掛けてきた。
突然の先制攻撃に、少し回避が遅れてしまった。

「本気……なのね……」
「当たり前ですよ。そのために、私は帰ってきたんですからね。貴方が作り上げようとした、戦争兵器レイセン……その威力を思い知りなさいっ!」

次々と放たれる、弾幕。
私はそれを一つ一つ、かわしてやった。

「昔よりは成長したみたいね。でも、その程度の速さじゃ私は捕らえられないわよ?優曇華」
「なるほど。ですが、一つ誤算があるようですね」

次の瞬間、目の前に居た優曇華が消えた。

「あ……っ!?」

そして、気が付いた時、私は優曇華の弾を一発被弾してしまった。
そうだ……彼女は幻覚を操れる。
見えてみるものだけが、真実とは限らないってわけね……。
本物は、後ろにいたわけだ。

「よく言いますよね。飼い犬に手を噛まれるって」
「まぁ、貴方は犬じゃなくて兎だけどね」


優曇華は次の攻撃を繰り出す。
気が付けば、辺りには数人の優曇華が居る。

「これで、終わりですっ!」

優曇華達が、一斉に銃を構える。


眼に見えるだけが真実じゃない。
ならば、真実を見るにはどうすれば良い?

簡単だ……見なければ良い。
そうすれば、視覚と言う余計な情報に惑わされることは無い。
必要なのは、感覚センスよ。

私は静かに眼をつぶった。

「どうやら、降参のようですね。心配は要りませんよ、最後は楽に逝かせてあげますから」

声が聞こえる……右のほうからね……。

真実の月インビジブルフルムーン!」
「遅いっ!」

優曇華のスペルカードよりもはやく、私の攻撃が彼女に届いた。

「うわっ!」

優曇華は思いっきり、その場にしりもちをついた。
起き上がる隙を与えず、私は彼女の首に扇子をつきつける。

「さてと、どうやら私の勝ちみたいね」
「うぅ……」
「白状なさい。貴方の後ろには、一体誰が居るの?」
「一体……何の話ですか……?」
「とぼけても無駄よ。貴方一人で、月の都へ帰ってくるなんて考えられないわ。誰かの差し金なんでしょう?」
「……………………」

次の瞬間、優曇華は地面の土を掴むと、それを私の顔に投げつけた。
そして、私がそれで少し顔をそむけた間に、彼女は逃げ出した。

「ま、待ちなさいっ!」

必死になって優曇華の後を追いかける。
優曇華はわき目もふらず、一直線に逃げていく。
まるで、どこか目指している場所があるかのように……。



しばらくして、行く手に大きな屋敷が見えてきた。
そして、優曇華はその屋敷の中へと身を隠した。

「ここは……王様の宮殿……?なぜ、こんな所へ……」

その疑問を解決すべく、宮殿へ入ろうとしたその時だった。

「そこまでよ、綿月豊姫。王への謀反、その現行犯で貴方を捕まえるわ」

どこかで聞いた事のある声がした。
しかし、それが誰の声だったのか、私には思い出している暇が無かった。
なぜなら、突然回りを武装した玉兎に囲まれてしまったのだから……。

「貴方達……一体何をしているの……?」

玉兎に問いかけても、彼らは何も返事をしない。

「どうかしら、豊姫さん?飼い犬に手を噛まれた感想は。おっと、この場合は飼い兎かしらね」

先ほどの声の主が私の前に現れた。
その姿を見て、ようやくあの声が誰だったのか思い出せた。

「一体、どういうつもりなのかしら?八雲紫……」
「あら、さっき言わなかったかしら?貴方を、謀反の罪で捕まえるって」
「バカ言わないでよ!なぜ、月の使者のリーダーである私が、貴方に捕まらなければいけないの!?」

紫は不適に笑う。
私は産まれて始めて、悪寒と言う物を感じた気がした……。

「貴方は王の館に乗り込もうとした。しかもその途中、制止に入った玉兎を攻撃している。これを謀反といわず、何と呼ぶのかしら?」
「ち、ちょっと待ってよ!私を呼び出したのは彼女よ!」
「残念ねぇ。その証拠は、もう何処にもないわ」

そう言って、紫は私が受け取った優曇華の手紙を見せびらかしながら笑った。

「い、いつの間に!?」
「ふふ。私はね、何処にでも手が届くのよ」
「くっ……スキマ妖怪め……っ!」

紫は私の目の前で、その手紙を破り捨てた。

「眼に見えるだけが真実じゃない。でも、眼に見えていることもまた真実よ。さぁ、周りを見回して御覧なさい。
 貴方のかわいいペット達が見えるでしょう?」

四方八方、銃剣をこちらへ向けた玉兎たちが見える。

「冗談……でしょ……?」
「なら、確かめてみる?」

そういうと、紫は右手を上げた。

「さぁ、この裏切り者を捕らえなさい!」

紫がそう言い放つが早いか、玉兎たちは私に縄をかけてきた。

「ち、ちょっとっ!?」
「うふふ。この間と、立場が逆転したようね」

今の玉兎たちは、完全に紫の言いなりになっている。
理由は分からないけれど……。
とにかく分かるのは、このままボーっとしていたら、不味いということだけだ。

「いい加減にしなさいっ!」

私はその昔、ザ・ボスから教わったCQCで、縄をかけようとする玉兎をなぎ払った。
そして、そのまま玉兎の一人を拘束する。

「銃を下ろしなさい。私を撃てば、この子にも当るわよ」
「うぅ……は、放してください……っ!」

捕まれた玉兎は必死に抵抗するが、そんな簡単に私の拘束は解けない。

「銃を下ろしなさい!早く!」
「ふふ。おおよそ、貴方らしくないわね豊姫。自分の大切なペットを人質に取るなんて」

紫はまたしても、不適に笑う。

「私は、そう簡単には捕まらないわよ」
「面白いわね。その台詞、後何分本物で居られるかしら……?」

気が付いた時、私の後ろにスキマが出来ていた。
私は間一髪で、そのスキマから放たれた弾幕を避けた。
しかしその衝撃で、先ほどまで拘束していた玉兎を開放してしまった。

彼らはここぞとばかりに、私を狙い撃って来る。

とにかく、ここで立ち止まるわけには行かない。
私は、必死に森の中を逃げていった。


玉兎たちが追ってくる。
私は彼らから必死に逃げ回っている。
この現実が、今でも受け止められないで居た。
なぜ、あの子達は紫の言いなりになっているの……?
どうして、誰も私の言う事を信じてくれないの……?

残念ながら、それを考える暇さえ彼らは与えてくれなかった。

とにかく逃げる。
当ても無く、何処までも何処までも……。

同じような景色が流れていく。
正直、今何処をどう走っているのかさえ分からない。
でも、すぐ後には銃剣を持った玉兎たちが追いかけてくる。


第二次月面戦争時、侵入者達を前に玉兎たちは逃げ出したと依姫が言っていた。
本来、玉兎たちは戦闘慣れはして居ない。
なのに、今の彼らは迷いもなく私を追い続けている。
好戦的な状態になっているのだ。

どう考えたって、紫が彼らに何かしたとしか考えられない。
とはいえ、紫に玉兎たちの心を操る術があるとも思えない。

月の都で何かが起きている……?
でも、それが何なのか私には理解できない。


「っ!?」


その時、私の行く手に大きな崖が現れた。
崖の下には、川も何も無い。
ここから落ちれば、確実に死ぬだろう……。

しかし、後ろを振り返れば、大量の玉兎たちが銃剣をこちらに向けている光景が見える。
もはや、何処にも逃げ場なんか無い。

「観念なさい、豊姫。もう貴方に逃げ場は無いわ」

スキマからノンビリとやって来た、八雲紫。

「悪いわね。貴方に捕まるぐらいなら、死んだほうがマシだわ」
「そう。じゃぁ、死ぬ?あっちの世界には私の友人も居るから、よろしく伝えといて頂戴な」

紫は再び右手を上げ、そして叫んだ。

「さぁ、裏切り者を始末なさい!」

玉兎たちは一斉に発砲してきた。
何とか避けようとしたけれど、やっぱり全部は避け切れなかった。
肩に一発、銃弾が当った。
それと同時に、私はバランスを崩し、倒れこんだ。


……そして、そのまま私の体は崖へと投げ出されたのだった……。




あとがき
お久しぶりです、ビアードです!
続編遅くなって申し訳ないっ!

ここ数日、例大祭SPだの、ポケモン新作だのと色々ありまして……。
ああ、もう言い訳にもなりません!ごめんなさい……。
本当、ポケモン楽しいです!ごめんなさい……。
ちなみに、自分はブラックです!ごめんなさい……。


さてさて、豊姫は崖から落ちてしまいましたね。
まぁ、でもきっと生きてるでしょう。
主人公補正って奴で。うん。


それにしても、月の都大ピンチ!
一体どうなる、豊姫!?
そして、学校の卒論も大ピンチ!
一体どうなる、俺!?

ではまた、次回お会いしましょう。



[21903] Mission2
Name: ビアード◆84e2b218 ID:49b23b13
Date: 2010/11/06 17:59

「それで……こんなもの拾ってどうするつもり、咲夜?」
「一応、お屋敷の前に落ちていましたもので……」
「家の敷地に落ちてれば、家のものって訳じゃないわ。さっさと捨ててきなさい」
「しかし、人間は何ゴミとして出せばよいのでしょうか……?」

誰かの話し声が聞こえる。
声からして、二人居るようだ。

「全く……どうしてこんな時に、こんな余計なものが落ちてくるのかしら……」
「寧ろ、こんな時だからでは無いでしょうか?やはり、あの噂は本当だったのでは……?」
「面白くないわね。結局、私達も霊夢も、あのスキマ妖怪に踊らされてたって訳」

スキマ妖怪……?
……そうだ。あいつが月の都を……っ!

「う、うぅ~……」
「あら、目が覚めちゃったのね」

まだぼんやりとする視界を駆使しながら、周りを見回した。
どうやらこの建物は、紅を基調とした配色をしているようだ。
このぼんやりとした視界には、紅色しか入ってこない……。

「これが、あの時私達を苦しめた月人だって言うのかしら。見る影も無いくらいボロボロじゃない」

私の目の前に誰か立っている。
いい加減、視界もハッキリしてきたので、幸い相手の顔は認識できた。

「あっ、貴方達は……っ!」
「久しぶりね、月のお姫様」

私の目の前に立っている人物……いや、正確には人じゃないけど。
忘れもしない。第二次月面戦争で、月の都を侵略しようとした吸血鬼だ。
確か名前は、レミリアとか言ったっけ。

「どうして……ここに……?」
「それはこっちが聞きたいわね。なんで、よりにもよって私の屋敷の前で行き倒れていたのかしら?」

私は記憶を辿った。
確か、玉兎たちに追われて、崖に追い詰められて……。
一発被弾した後、そのまま崖から落ちて……そこからの記憶はハッキリしない。
でも、ここに居るって言う事は、恐らく薄れ行く意識の中、私は自分の能力を使ったのだろう。
それで、空間を繋いだ先がたまたまこの屋敷の前だった……と。

「……まぁ、良いわ。とりあえず、何があったのかは大体想像がつくし」
「しかし、お嬢様。想像通りだとすると、少し不味いのでは……?」
「そうね……」

ここはひとまず、二人の話を聞くべきかしら。

「あの……不味い、と言うのは……?」
「貴方、紫にやられてノコノコと地上に逃げ延びてきたんでしょう?」
「ど、どうしてそれを!?」
「最近、紫が不審な動きをしていたのよ。で、昨日になってある人物が情報を流したのよ。
 月の都が八雲紫に乗っ取られたってね」

紫の行動は、地上でも噂になっていたのか……。
でも、肝心な紫の目的と、乗っ取りの経緯は分かりそうもないみたい。
ただ、一つだけ解決しそうな疑問はあったけど……。

「その、情報を流したある人物というのは?」
「貴方の良く知る人物よ」
「えっ……?」
「八意永琳。貴方の師匠でしょう?」
「や、八意様!?」

唐突に懐かしい名前が出てきたので、思わず声が裏返ってしまった。
とはいえ、少し疑問が残る。
なぜ、八意様は月の都が乗っ取られたことを知ったのだろうか?
それともう一つ……なぜ、八意様はレミリアにその情報を伝えたのか?

「ねぇ、貴方……私達と手を組まない?」
「えっ……?」

レミリアの唐突な一言に、頭の中で巡らせていた疑問が一瞬にしてパァになってしまった。

「紫が月の技術を手に入れれば、それを何に利用するか分かったものじゃない。
 私達にとっても、この事態はある種脅威と言えるわ。
 貴方としても、月の都を取り戻したいのなら、利害は一致すると思うけど?」

レミリアの言っている事は、確かに間違ってはいない。
しかし、仮にも彼女は一度、月の都を侵略しようと企んでいた。

「……その後で、私達から月の都を奪うつもりではありませんよね?」
「もう、月の民とまともにやりあうつもりは無いわ」

しれっと言ってのける、レミリア。
とはいえ、コレを信用しろと言われても……。

「まだ、信用できないといった感じの目をしてるわね。まぁ、それならそれで結構よ
 でも、貴方がこうしている間にも月の都や『貴方の妹』は大変な事になっていくのよ?」
「……っ!」

そうだ、月の都にはまだ依姫が……っ!

「目の色が変わったようね」
「依姫は……依姫は、今どうなっているの!?」
「私もよく分かっては居ない。詳しいことは、貴方のお師匠様から聞きなさい」
「や、八意様がここにいらっしゃるの……っ!?」

私は色々な意味で、居てもたっても居られなくなった。

「八意永琳は、ここには居ないわ。彼女には、医者としての仕事がある。
 これから戦いが起こるのであれば、彼女の力は絶対に必要になるものね」
「では、今何処に……?」
「ここよ」

唐突に八意様の声が聞こえてきた。

「八意様!?……って、声だけ?」
「ふふ、これよ」

そういうと、レミリアは陰陽玉のようなものを手渡してきた。

「これは……何?ただの陰陽玉に見えるけど……」
「それは、ただの陰陽玉ではないわ。それを通すことで、相手の顔を見ながら通信する事が出来るの」

地上にも、それぐらいの技術はあったのね。

「ちなみにそれの開発者は、八雲紫よ。間欠泉騒ぎがあった時に、パチェが作らせたの」
「八雲……紫……」

また、ここにも紫なのか……。

「とりあえず、話して御覧なさい」

私は、手渡された陰陽玉に向かって話しかけた。

「八意様……?」
「久しぶりね、豊姫」
「八意様……本当に八意様なのですね!?」
「もちろんよ」

千年以上も八意様と言葉を交わしたことなんか無かった。
今の私の気持ちは、どんな言葉でも表せない……としか、表現できないわね。
とりあえず、八意様の声が聞けて本当に嬉しかった。

「それで、依姫はどうなっているのでしょうか……?」
「うちに居る玉兎を使って、調べさせたわ。どうやら、大変な事になっているみたいね」
「大変な事……ですか……?」

八意様に大変と言われると、何だか変に力が入ってしまう……。

「貴方も気付いてるでしょ?シャゴホッドの設計図が、紫の手にあること……」
「やはり、アレはあいつが盗んだんですね!?」
「そうよ」

予想通り……か。
とはいえ、やっぱりその目的はよく分からない。

「紫は貴方から盗み出した設計図を元に、シャゴホッドを作り上げるつもりよ」
「でも……あいつはもう事実上、月の都を占拠したのでしょう?
 一体、シャゴホッドを何に使うつもりなのかしら……?」
「核発射装置の設計は、紫による一種のパフォーマンスのようね」
「パフォーマンス……?」
「玉兎達を従えたとはいえ、それだけでは月の民達の信用を得たことにはならない。
 そこで紫は、月の民達に受け入れてもらうためのパフォーマンスをしようという訳」

シャゴホッドの作製と、月の民達との信頼……それが、どうにも頭の中で結びつかない。
それ以前に、どうやって紫が玉兎達を従えたのかも謎だし……。

「今、月の民達が最も恐れているのは、中国の月面探査計画。通称、『嫦娥計画』」
「嫦娥……計画……」
「紫はそれを阻止するため、中国に核を撃ち込むつもりで居るわ」
「な、なんですって!?そんな事をしたら……っ!」
「地上は大変な騒ぎになるわね。でも、彼らは裏の月の存在に気づくことは出来ない……。
 結果、中国はどこかの核保有国が先制攻撃を仕掛けたとみなすわ。
 疑いの芽は正しい判断をつむぐ。やがて、中国は無差別に核保有国を攻撃し始めるわ。
 そして、最終的には第三次世界大戦……大いなる核戦争の幕開けとなるでしょう。
 そうなれば、当然嫦娥計画も中止となる」
「でも、そんなのって……っ!」

どうやら、思っていたよりも紫の計画は大きすぎたようだ……。

「月の技術を使えば、シャゴホッドも核兵器も簡単に作れる」
「じ、じゃぁ、一体どうしたら……っ!?」
「聞いて豊姫。月から中国までは、普通の核発射装置では届かない。
 そこで、貴方が旧ソ連から設計図を盗み出した、シャゴホッドが必要になるの。
 貴方はもう知っているだろうけれど、シャゴホッドはかつてアメリカとソ連が宇宙開発競争を行っていた際にソ連側で作られたもの。
 その概要は、宇宙ロケット用のエンジンを搭載し、その推進力によってより遠くに核ミサイルを飛ばすというものよ」
「えぇ……私も、ある程度の概要は把握していましたが……でも、まさかそんな事に」

動揺が隠せない。
紫がそんな途方も無い計画を立てていたなんて……。
私が、もっと早くあの設計図を処分していればこんな事には……っ!

「大事なのは、ここからよ。さっきも言ったように、シャゴホッドはロケットのエンジンを使って、推進力を得られるの。
 でも、月にはそんなロケットエンジンは存在しない」
「それならば、紫の計画は……」
「まさか、第二次月面戦争の事を、忘れたわけじゃないでしょうね、豊姫?」
「……っ!ま、まさか……」

そうだ……思い出した……。
レミリアたちが、どうやって月にたどり着いたのか……を。

「あの時、地上の巫女である博麗霊夢は、神卸の力で住吉さんを呼び出した。
 彼らの力を借り、ロケットエンジンの原動力を得たのよ。」
「じゃぁ、まさか今回も……?」
「いえ。今回、博麗霊夢は紫の計画に加わって居ないわ」

あの巫女が、紫の計画に入って居ない……?
そうなれば、神卸をすることは……。

「……ま、まさかっ!?」
「ようやく、気付いたようね。そう……紫は、依姫の力を使って住吉さんを呼び寄せるつもりよ」

信じられない……紫の計画に、依姫が入れられている……?

「で、でも!依姫がそんな計画に力を貸すはずが無いわ!」
「そう……信じたいものね。でも、紫は本気よ。貴方も感じたでしょ?
 依姫だって、紫に何をされているか分からない。
 もしかしたら、何か弱みを握られているのかもしれないわ」
「そんなっ!」

考えたくない……依姫が、あいつの言いなりになっているなんて……っ!

「大分困惑しちゃったみたいね。でも、落ち着いて考えて豊姫。
 逆に言えば、依姫が居なければ、紫はロケットエンジンの推進力を得ることはできないのよ」
「そ、それってつまり……依姫を助ければ、紫の計画も阻止できるってことですか!?」
「そうよ。とはいえ、紫の計画も着々と進んでいるみたいね。急いだほうが良いわ」

依姫を助ければ、紫の計画は破綻する……。
月の都を……いえ、世界を救うには、それしかない……っ!

「豊姫……私から、最初で最後のお願い……。依姫を助けて……紫の計画を潰して!
 もう、貴方しか頼れる人は居ない……」
「そんなの……言われるまでもありませんよ!」
「……ありがとう」

ありがとう……か。
そういえば、八意様に感謝されたのは、産まれて初めてかもしれない……。

「それじゃぁ、今後はレミリア達の指示に従ってちょうだい。
 今回の月への潜入任務は、彼女達に一任してあるわ。
 私は今回、あくまでもメディカルスタッフとしての参加になるから」
「分かりました」
「じゃぁ、私はまた作業に戻るわね。作戦開始後、何かあったらまた連絡ちょうだい」
「はい!」

八意様との無線が切れた。

「どうやら、話はまとまったようね」
「えぇ……こうなった以上、貴方達とも協力しないわけには行かないわね」
「話が早くて助かるわ。それじゃぁ、これから作戦メンバーを紹介しましょう。咲夜!」

レミリアがそう言うと、レミリアの横に居たメイドがやって来た。

「はい。もう呼んで来ています」

咲夜がそう言い終るや否や、部屋に二人の人物が入ってきた。
……まぁ、正確にはこの二人も人間では無いのだが。

「そっちの紫髪の方が、パチュリー。私はパチェって呼んでるけどね。
 喘息持ちではあるけれど、かなり広い知識を持っているわ。
 わからない事があれば、彼女に無線してみて」

パチュリーと呼ばれた少女は、読んでいた本を閉じ、こちらを向いた。

「貴方が月のお姫様ね。お初にお目にかかるわ。この間は、レミィが迷惑かけたわね」
「レミィ……?」
「あぁ、お嬢様の事よ。私はそう呼んでいるの」

二人は愛称で呼び合う仲なのか……。

「迷惑とは失礼ね。私はただ、遊びに行っただけじゃない」
「遊びに行くのなら、今度はもっと近いところをオススメするわ。月は行くだけでも面倒だから」
「はいはい……」

レミリアは気を取り直して、もう一人の方を向いた。

「こっちの赤髪の方は、美鈴よ。彼女には、今回の作戦の記録を取ってもらうことにしてるの。
 まぁ、後無駄な知識も持ってるから、暇を持て余してたら無線してみても良いかしらね」
「む、無駄って何ですか!諺には、先人達の知恵と苦労が……っ!」
「まぁ、その話は後で聞くわ」

私はひとまず、二人の方を向いた。

「パチュリーさんに、美鈴さんですね。よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくお願いします!」

最後に、レミリアは咲夜の方を向く。

「もう、紹介する必要は無いわね。咲夜には、武器や格闘に関してのノウハウがあるから、
 そういったものに関して分からなかったら無線して。
 んで、私は今回の作戦の指揮を執るわ。私の命令は絶対だから、ちゃんと聞いてなさいよ」
「はぁ……分かりました」

これはこれで、厄介なのと組んじゃったな……。

「それじゃぁ、豊姫。貴方には、月の都へ単独潜入してもらうわ」
「た、単独!?相手は、何十もの玉兎を従えているんですよ!?」
「だからこそ、よ。大勢で行ったら目立つでしょ?それに、少なくとも私達よりも相手方の方が戦闘は慣れてる。
 余計なのが付いていけば、足手まといになるだけよ」
「でも、貴方達だってスペルカードがあるでしょ?」
「スペルカード戦と、実際の戦闘は違うわ。これは弾幕ごっこじゃない。戦争なの」

戦争……そうだ、紫とは二度もその戦争をやった。
まぁ、二回目はおふざけも入ってたけど……。

「単独潜入の基本は、隠密行動よ。大丈夫かしら?」
「問題は無いわ。必ず、やり遂げてみせる」
「良い返事ね。それと貴方の能力だけど、月の都内部では使えないみたいよ」
「えっ!?ど、どう言う事!?」
「紫が、都内部における空間と空間の境界をいじっているの。貴方の能力を恐れているみたいね」

となると、都の中は歩いて移動するしかないみたいね。
まぁ、久々に良い運動にはなるかも……。

「あれ……?ちょっと待って。私の能力が使えないなら、どうやって月の都へ行けば良いのよ……?」
「そうね。パチェ、そろそろ準備は出来たんじゃない?」
「もう大丈夫よ。二回目だから、手際も慣れてきたわ」

どうにも、話が読めない……。

「一体、何の話……?」
「来れば分かるわ」

私はレミリアに言われるがまま、着いて行った。
そして、その先にあったものは……。



あとがき
うぅ……一ヶ月以上も、更新してなかった……申し訳ない。
ま、まぁ、いろいろありました……はい。


とりあえず、そろそろ本格的に潜入開始です。
依姫は、ソコロフポジションのようですねぇ。
自分で言うのもなんですが……似合わねぇ……っ!


あ、そうそう。
この間、綿月姉妹不人気って仰った方に、もう一度綿月姉妹の話をしました。
とりあえず、綿月姉妹が駄目な理由。

依姫:
神卸という能力に問題あり。
神様の力を『借りる』という事は、神様よりも『弱い』ということである。
(そうでなければ、そもそも神様の力を借りる必要が無いから)
つまり、リアル神様である、ケロちゃんとか神奈子様には『絶対勝てない』存在。

ケロちゃん>>>>>越えられない壁>>>>>よっちゃん

豊姫:
そもそも、紫の能力と何が違うのか……?
むしろ、紫は様々な境界を操れるわけだから、豊姫の方が劣化してる。


だ、そうです。
う~ん……とりあえず、俺は反論できませんでした(汗)


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