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ブログから漂ってくる、人間の息遣いとメシの匂い / 平民新聞

見た人の心にくさびを打ち込むかのような印象的な写真で話題のブログ、『平民新聞』。作者の金子平民さんに大衆酒場でインタビューを行った。

テキスト:川崎和哉(Spoo! inc.

 『平民新聞』を知らない人は、11日間カレーを食べ続けた記録の人気記事「カレーの一生」をまず読んでほしい。単に「ネタ」というレベルを超えて、人間の営みを強烈に感じさせる写真を目にすることができるから。これだけ味わい深い写真を撮る平民さんだが、ブログを始める前までは写真は素人だったという。

「カメラも触ってなかったから、最初の頃は携帯で撮ってて。で、デジカメ買って写真をポツポツアップし始めた頃、ブログの読者からポイントもらいまして(8万円分!)。それでリコーのGRDⅡを買いました。割と受身な感じかもしれませんね」

 ブログに掲載する写真はかなり厳選しているという。

「例えば3枚載せるとしたら、大体2、300枚くらいの中から選んでます。選ぶのに一日かかることも珍しくないです」

 メシの写真を撮り始めたのはどういう気持ちから?

「メシはかなり昔から撮ってるんですよ。毎日食ってても、2週間前のメシって覚えてないじゃないですか? メシを記録してウェブに載せるって一つの表現だと思うんですよ。普段食べてる大したことないメシでも」

 メシの写真を掲載している人は他にも多くいるが、平民さんの掲載基準は他人とちょっと違う。

「他の人たちがメシの写真あげようと思ったらええもん作っちゃうとか、多分そうなると思うんですよ。でも本当は普段そんなええもんばかり食ってるわけじゃない。手抜き料理もあるし、一人暮らしだったら粗末なものも食ってるだろうし。そういうのを記録していくというのを僕はやりたかったんです。

 メシの写真って、撮ってる時は面白くないけど、何年か経つと面白さが出てくる。たとえば5年前に食ったメシの写真を今出されたら、そのときの記憶がすごく喚起されると思うんですよ。普通に暮らしてるといろんなことを忘れていくでしょ。写真はおせっかいなところがあって、そういうのをわざわざ思い出させてくれるようなところがある」

 写真の話ばかりしているが、平民さんの文章もまた、息遣いを感じさせる名文が多い。

「そいつがどんな暮らしをしてて、どんなメシ食ってるか、とかそういうのを読むのが好きで、自分もそういう文章を書いていきたいと思ってますね。やるからには何かを刻み込みたい。文章は普通に半日くらいかけて書いてます。多分そういうのが好きなんだと思うんですよ。ある程度書いて細かいところいじったらもう夜中だな、みたいな」

 最後に、ブログを始めたきっかけを聞いてみよう。

「もともと友達おらんで寂しくて、誰かに届けばいいかなと思って始めたのがきっかけで。もしかするとそういう部分が完全に満たされてしまえば、ブログを止めることになるのかもしれないけど、多分そんな日は来ないと思いますね」


平民新聞 眺めているとふと何かを想起するような、そんな写真にあふれたサイト。

◆プロフィール:金子平民
「金子」の名字は詩人・金子光晴、「平民」の名は幸徳秋水の平民新聞からそれぞれ取っている。ブログがきっかけとなり、今年発売された楽譜集・松沢健『鉄のバイエル』では写真を担当。高田渡と酒をこよなく愛する。