世論調査
読売新聞社と中国・瞭望東方週刊の日中共同世論調査では、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけに、日中間の相互不信が強まったことを浮き彫りにした。
日本側の対中意識が急激に悪化したのは、軍拡路線をひた走り、世界第2位の経済大国に突き進む「膨張中国」への不信感が、一気に表面化したことを示している。
◆脅威論と警戒感◆
中国漁船衝突事件に関しては、中国の外交姿勢に変化が指摘されている。「経済発展を最優先し、海外との摩擦を避ける外交が基本だったが、国力増強を背景に国益をより前面に押し出すようになった」(日中関係筋)というわけだ。事件後、日本企業の社員4人が拘束されたのは「威圧外交」の象徴と言える。
日本の世論は中国の対応に敏感に反応し、中国が外交圧力を強める不安を感じる人は89%に上った。軍事的な脅威を感じる国(複数回答)で、中国79%は北朝鮮81%と拮抗(きっこう)し、中国の印象(複数回答)でも「軍備を強めている」が86%で突出して多くなっている。
中国脅威論の高まりとともに、調査では経済の対中依存に警戒感が示された。
中国の経済発展が日本経済に与える影響については、「マイナスの影響が大きい」49%が「プラスの影響が大きい」38%を上回った。中国企業による日本企業買収は「好ましくない」が81%、景気振興策として期待される中国人観光客受け入れ条件のさらなる緩和には「反対」が54%となった。
◆構図の変化◆
日本側の対中意識悪化の背景には、日中関係の構図が変化していることもある。
中国は高い経済成長を維持し、年内にも国内総生産(GDP)で日本を追い抜き、米国に次ぐ経済大国になるとみられる。こうした日中間の「落差」は国民意識に反映した。
調査で「10年後の暮らし向き」を聞いたところ、中国では「良くなっている」が87%を占めたが、日本では12%に過ぎなかった。
今後の日中関係については、日本側は「変わらない」58%が最も多く、「悪くなる」19%、「良くなる」18%だった。中国側は「良くなる」36%、「悪くなる」27%、「変わらない」23%となっている。
日本側はいずれもより悲観的だ。経済で中国に主導権を奪われ、自信を失う日本人の意識が見え隠れする。
◆重み増す日米関係◆
ただ、日本にとって中国は最大の貿易相手だ。「リーマン・ショック以降も日本企業が大きく傷つかなかったのは中国のおかげだ」(経済団体関係者)というのも経済界の共通認識だ。日中が今後、協力を進めていくべき分野(複数回答)では「政治や外交」と「経済」が82%で並んでトップだった。経済面でこれからの日本にとって米中のどちらが重要になるかを聞くと、中国58%が米国31%を上回っている。
その一方で、米中の比較で、政治面で日本にとって重要になるのはどちらかを聞いたところ、米国60%が中国27%を大きく上回った。日米安全保障条約が地域の平和と安定のために「役立っている」との回答は75%に上っている。
日中関係が悪化する中で、日本の外交・安全保障にとっては、米国との関係が重要だという認識が示されたと言える。(世論調査部 石井利尚)(2010年11月7日14時18分  読売新聞)
*読売新聞 国際