「人の口には戸が立てられぬ」というが、インターネット社会では、厳重に隠したつもりのデジタル情報の倉庫にも、戸は立てられぬようである。政府が公開を拒んできた尖閣諸島沖・中国漁船衝突事件のビデオ映像が、インターネット動画投稿サイトに流出した▲投稿者名は「sengoku38」だったから、菅直人政権の中枢でビデオ非公開を決断した仙谷由人官房長官に反感を持つ者の仕業らしい。映像は続々とコピーが作られ、世界中に広まった▲映像は検察と海保しか持っておらず、内部流出の可能性が高いという。政府が頑(かたく)なに公開を拒んだ映像が、その政府の内部から流出したことになる。機密情報の秘匿もできぬ政府組織のたがの弛(ゆる)みに、あきれるばかりだ▲さらなる問題は、この映像が国民が最も知りたかった真実を伝えていることだ。尖閣沖で何が起きたのか。国民は、それを知る権利がある。政府には真実を国民に知らせる義務がある。その義務が果たされぬうちに、こんな形で真実を知らされようとは。情けなく、腹立たしい▲政府はビデオを非公開にして日中関係修復を急ぎたいようだ。だが、真実にふたをして取り繕った「友好」など、日中両国の真の友好とは無縁である▲政府は直ちにビデオを公開すべきだ。真実に向き合う決断をするのは、この国の主権者たる国民だ。「仙谷」でもなければ、「sengoku」でもない。(信)