都道府県知事として初めて育児休暇取得を表明していた広島県の湯崎英彦知事(45)に26日、第3子となる次男が誕生した。知事は次男と対面するため約40分間の「育休」を取得後、公務に戻った。首長の“育休取得宣言”には、大阪府の橋下徹知事(41)が「首長が育休を取っても世の中は変わらない」と述べるなど賛否がある。増える「イクメン」首長。住民や世間はどのように受け止めているのか。
次男が生まれた午後2時24分、湯崎知事は広島市内で講演中だった。終了後に知り、市内の病院で次男や妻と対面。公務の表敬訪問をキャンセルした。
特別職の知事には条例上の育児休暇制度はなく、湯崎知事は約1カ月間、長女(4)の幼稚園送迎など必要な時間帯にだけ公務を離れる方針を表明していた。これについて、県に165件の意見が寄せられた。140件が「中小企業では取りたくても取れない」「危機管理上問題」など否定的な意見で、25件が「知事が見本になるのは良いこと」「一歩を踏み出せない男性へのエールになる」など肯定意見だった。
湯崎知事は26日、「育休は遠慮がちに取るべきという価値観を変えなくてはならない。子育てに優しい社会にしていきたいので、ご理解を」と語った。27日は、長女を迎えに行くために1時間半、公務を離れるという。
■住民や職員
広島市西区の住宅建設会社「蔵シック館」(従業員4人)では、県の奨励金を受給して7月に男性社員1人が約1カ月の育休を取った。田川一行社長(62)は「若い社員が育児を手伝うことで、人としての思いやりを持てる」と話し、知事の育休にも賛成する。子育て支援などに取り組む同県のNPO「日本タッチ・コミュニケーション協会」の宇治木敏子理事長(52)は「県政に不備がないよう万端の準備ができているのであれば、問題ない」。一方、広島市安佐南区で歴史グッズ販売店を営む佐々木賢さん(40)は「私たちは、不景気のため、子どもの授業参観や運動会にも行けない。景気を安定させるのが先では」と苦言を呈した。
知事の足元の県職員では、30代男性が「公から流れを作るという意味で良いことだ」とし、別の30代男性は「中小業者から見れば別の見方もあるかもしれない」と、県民の視線を気にかけた。
■大阪府箕面市
他の自治体ではどうか。大阪府箕面市の倉田哲郎市長(36)は今月20日、16日間の育休取得を宣言。同市の30代男性職員は「公務員といえども、休みはなかなか取れない。トップが風穴を開けてくれた」と歓迎する。一方、市内のパート女性(60)は「2週間は民間と比べて長すぎる。行政トップはまず制度づくりに取り組み、自分の育休取得は最後にすべきだ」と話す。
■首長経験者
首長経験者の間でも意見が分かれる。大阪府の橋下知事は21日、「世間を知らなさすぎる。首長は、育休が取れる環境を作った後に取るのが筋」と発言。26日夕には、湯崎知事の次男誕生を祝福した上で、「公務に支障がない範囲なら、育休ではない。(支障が出ても)育休を取れる社会を実現させるために賛成・反対論で議論すればいい」と述べた。2人の息子を育てた嘉田由紀子・滋賀県知事(60)は「育休制度ができても組織に遠慮して自分から手を挙げにくいのが実情。社会の意識を変える意味で意味がある」と話した。
また、橋本大二郎・前高知県知事(63)は「民間だけでなく県庁でも育休制度が取れないのが現状。首長が率先することで育休への理解を深めるメッセージとなる」とし、公務への影響も「地元で育児をしており、危機管理上も問題はない」とみる。一方、妻の介護のため99年に辞職した江村利雄・前大阪府高槻市長(86)は「有権者の負託を受けて知事に選ばれた重みを最優先させるべきだ」とし、「育休に伴う公務への影響を最小限に抑える対策を整える必要がある」と助言した。
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期間 自治体 首長名 理由
10年 4月 3~15日 東京都文京区 成沢広修区長(44) 長男が2月に誕生
6月 5~ 9日 長野県佐久市 柳田清二市長(40) 次女が5月に誕生
10月18~22日 茨城県竜ケ崎市 中山一生市長(47) 長女(2)の育児のため。12月には第2子誕生予定
10月19、26日 三重県伊勢市 鈴木健一市長(34) 長男が8月誕生。11月1日にも取得予定
10月21~11月5日 大阪府箕面市 倉田哲郎市長(36) 次男が20日誕生
10月26日から1カ月 広島県 湯崎英彦知事(45) 次男が26日誕生
毎日新聞 2010年10月27日 大阪朝刊