解体した鹿を背負い、手にはライフル銃……。その鋭い眼光にたじろがされる。
時計もテントも、トランシーバーさえ持たずに奥深い山へ分け入り、狩猟や採集で食を得ながら登山をする……名づけて「サバイバル登山」を実践する。
服部は、標高世界第2位のカラコルム山脈K2をはじめ国内外の名峰を踏破した日本有数の登山家。大勢のポーターを連れて重装備で臨む登山に疑問を感じ、最終的にたどりついたのがこのスタイルだという。
取材班はその異色の登山スタイルに密着!……のつもりが、甘かった。
まず、冬の大菩薩峠(山梨県)を猛スピードで登る服部についていけない。自然に対しフェアに向き合うことをモットーとする服部は、テレビの撮影だろうが決して歩みを緩めはしない。ある時は麓に置き去りにされ、またある時はヘビースモーカーのディレクターが「生きることに対してマジメになれ!」と説教されながら密着した10カ月間。冬は雪山で鹿を、夏は南アルプスで巨大岩魚やカエル、山菜を「現地調達」しながら、たった一人で高みを目指す姿を追い続けた。
夏の終わり、がけから30メートル滑落し、肋骨骨折などの大ケガを負った服部の一言がすごい。
「これでつらいなんて言ったら、今まで食べてきた岩魚や鹿に申し訳ない。今回も良い登山だった」
昨今流行のトレッキングブームとは真逆をいく男の言葉をもう一つ。
「僕たちは現代文明を捨てるわけにはいかないが、快適な生活をキープしながら環境は守ってください、というのもズルイ気がする」
サバイバル登山はできないけれど、その思いは分かる気もする……。
2010年10月29日