19歳だった島根県立大1年生、平岡都さんの遺体が広島県北広島町の臥龍山で見つかった事件は、行方不明となった日からきのうで丸1年になった。
犯人は今なお分かっていない。一刻も早い犯人逮捕を、遺族はもとより大学関係者やキャンパスを抱える浜田市民、北広島町民が願っているはずだ。
犯行が繰り返される不安も残る。進学や就職で子どもが親元を離れている家庭にとっては気掛かりに違いない。
当初は「家出の可能性もある」とみられていた事件が急展開したのは昨年11月6日。県境を越えた臥龍山で切断された遺体の一部が次々見つかったからだ。
執念深く遺体を傷つけた残忍な手口。さまざまな犯人像が浮かんだが、絞り切れていない。
平岡さんのものとみられる靴が、アルバイト先からの帰り道にある側溝から発見された。ただ、そこで連れ去られたかどうか判然としない。
事件の現場が島根、広島両県にまたがることから両県警は合同捜査本部を設置。交友関係の捜査は平岡さんの出身地である香川県警にも応援を求めた。
過去最大という190人(その後は140人)規模の捜査態勢を取った。当時の島根県警本部長が「警察の存在意義を懸けた闘い」と位置付けたのも、大げさではあるまい。
それにしてもなぜ捜査が長引いているのだろうか。
家族から捜索願が出た後、公開捜査に踏み切るのが遅れたとの指摘も聞かれる。目撃証言をはじめとする情報の提供が少ないせいもあるようだ。
いま一度、原点に立ち返って聞き込みや物証集めが求められよう。県警同士の連携をさらに密にして犯人を追いつめてほしい。
事件発生時から捜査には多くの市民が協力してきた。千人近い県立大生の全員が任意の事情聴取に応じたことは異例といえる。平岡さんや遺族の無念を思ってのことだろう。
平岡さんは海外で飢餓救済に尽くす日を夢見ていたという。再び巡ってきた秋。「一番つらい季節」とのコメントを託した遺族の心情は察するに余りある。
県立大キャンパスでは慰霊の花壇を造り、きのう開園式で全学が悲しみを新たにした。
人は忘れられてしまうことで、もう一つの死を迎えるともいう。決して事件の記憶を風化させてはなるまい。
浜田市は10月26日を「いのちと安全安心の日」と定めた。毎年、門前点灯や夜間パトロール、学生との交流などを通じ、地域挙げての防犯機運を盛り上げていくのが狙いである。
行政、地域、住民がそれぞれの立場で考え、手をつなぐ。こうした取り組みを各地でも積み重ねていきたい。
若者の未来を奪った罪は限りなく重いことを、犯人は思い知るべきだ。
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