きょうの社説 2010年11月2日

◎いしかわ県人祭 新幹線開業へ一体感さらに
 都内で開かれた「いしかわ県人祭in東京」は、郷土への思いを共有し、首都圏で「ふ るさと愛」を広げる場として、すっかり定着した。今年も千人を超える出身者、ゆかりの人たちが集まったが、3回を重ねて、もともとあった県人ネットワークが一段と強化され、各界各層、幅広い世代の交流を通して、首都圏における人脈のすそ野も確実に広がってきたのではないか。

 県人同士の強いきずなは郷土のかけがえのない財産であり、それが、ふるさと支援とい う形で足並みをそろえれば石川発展の大きな力になる。2014年度の北陸新幹線金沢開業へ向け、出身者らの一体感がさらに強まり、全国屈指の「ふるさと応援団」になることを期待したい。

 今年の県人祭では、加賀藩の御算用者(ごさんようもの)(会計専門の武士)を描く映 画「武士の家計簿」や、高峰譲吉を主人公にした「TAKAMINE〜アメリカに桜を咲かせた男」が紹介され、出演した俳優らも駆けつけた。会場からは公開を待ち望む声が相次いだが、話題性のあるご当地映画は、出身者にとって、ふるさとを見つめ直す格好の機会なのだろう。むしろ、地元より深い思いをもって作品を受け止めるかもしれない。

 映画への期待の大きさは、出身者の郷土意識を高めるには、ふるさとに誇りや愛着が持 てるような仕掛けや取り組みが必要であることも示している。裏を返せば、地元が精彩を欠き、元気を失ったままでは、出身者の心を引き寄せることは難しいということである。

 たとえば知恵を絞って特産品を売り出し、それが全国区の話題になれば出身者も応援の しがいがある。食でもイベントでも何でもいい。ふるさとの魅力を効果的に発信し続けることが応援団づくりにもつながっていくはずである。

 来月4日の東北新幹線、来年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業へ向け、東北や九 州の話題が増えている。その次は北陸の番である。地元と出身者が心を一つにし、県人祭に集う人たちが自信をもって「お国自慢」できるような取り組みを途切れなく打ち出していきたい。

◎北方領土訪問 対ロ外交の立て直し急務
 メドベージェフ・ロシア大統領の北方領土訪問は、これまでの長い領土交渉で積み上げ られた合意事項や信頼を根底から覆しかねないものであり、日本として到底容認できない。

 「領土問題は存在しない」という旧ソ連時代の主張は、ゴルバチョフ時代に明確に取り 下げられ、1991年の日ソ共同声明で北方4島の領土問題の存在が初めて文書化された。歴代ロシア首脳はそれを前提に北方領土訪問を避けてきた。が、今回「国内のこと」として訪問を強行したメドべージェフ大統領は、領土問題の存在をまた否定し始めたように映る。

 菅直人首相は今年6月の日ロ首脳会談で、首脳レベルで領土問題を前進させることで一 致したが、領土交渉を今後どう進めるのか、その基本方針や戦略についてまだ明確にしていない。対ロ外交の立て直しが急がれる。

 メドベージェフ大統領の国後島訪問について、尖閣諸島問題でみられた菅政権の「弱腰 外交」を見透かし、北方領土の実効支配を強化する。さらに「強い指導者」を印象づけ、次期大統領選を有利にするといった狙いが指摘される。それは確かとしても、菅政権を単に揺さぶる程度なのか、歴史認識を含めてロシアの対日政策がもっと深いところから変化していないか、抗議の一方でロシアの真意を見極める必要がある。

 ロシアは今年、日本が第2次大戦の降伏文書に調印した9月2日を事実上の対日戦勝記 念日に制定し、中国と「大戦終結65周年の共同声明」に調印している。同声明は「歴史の歪曲(わいきょく)を断固非難する」と訴えているが、日ソ中立条約を一方的に破棄して北方4島を「不法占拠」した歴史を歪曲しているのはロシア自身ではないのか。

 中国に続いてロシアとの関係悪化が必至の上、米軍普天間基地問題も解決のめどが立た ず、民主党外交は八方ふさがりである。外交の展望を開く上で、今月開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が重要な場になるが、戦略的には普天間問題の決着を急ぎ、日米同盟を強固にすることが必要であろう。