そんなに簡単に解決案がひねり出せるわけがないことはわかっている。ただ、「後期高齢者医療制度廃止」をマニフェストに掲げて政権交代を果たしたのだ。民主党にとって代替案を国民に示すのは義務である。その内容は次のようなものだった。
75歳以上のほとんどを国民健康保険(国保)へ移す。国保の運営を市町村から都道府県単位に広げて安定させる。75歳以上の負担を軽減する一方で健保組合や共済組合の負担を増やす。
まず27日に毎日と日経が社説で取り上げた。「企業健保の負担を重くするのは、産業界の活力を低下させる要因になる」「『とりあえず取れるところから』という発想はやめるべきだ」という日経は、診療報酬請求の完全電子化や重複受診・投薬の解消など徹底した効率化策を求め、医療給付費そのものを抑えるべきだと強調する。
毎日は「制度改革のたびに負担が重くなる側が反発しその声を政権批判に利用する、という泥仕合をしても際限がない……ここは与野党が虚心坦懐(たんかい)に話し合い、負担増をめぐる議論に決着をつけるべきだ」と提案した。医療の中身こそが肝心で「負担の押し付け合いをしてもむなしい」という主張だ。
読売も「負担を押しつけ合っても、『新しい高齢者医療制度』は国民に受け入れられないだろう」と28日社説で取り上げた。「公費の投入を増やすしかない。そのためには消費税で社会保障財源を確保し、どこまで公費を拡大できるか、併せて検討することが不可欠だ」という。何ごとも最近は消費税に解決を求めざるを得ないと思えてくるが、やっぱり高齢者医療もここにたどり着くしかないか。
「こんな改革はいらない」ときり捨てたのが29日の朝日である。「新制度案はきわめて複雑で、誰の負担にどう影響するのか、理解することすら容易ではない」「『うば捨て山』と批判された構造自体は温存されるのだ」と手厳しい。そして「むしろ増税の必要について議論を深める契機と考えたい」「新規の財源という要素が入れば、『年齢で差別し、負担を押し付け合う』現状を脱する道も見えてくる」という。やっぱりそうか。
保険料も消費税も国民にとっては負担にほかならない。医療費のかかる高齢者が増え、支える現役世代が減っていく以上、負担の伴わない解決策などあり得ない。負担増を強いられる人々の怒りをあおるのはたやすいが、それではまた時間が無駄になるということも肝に銘じておきたい。【論説委員・野沢和弘】
毎日新聞 2010年11月1日 2時30分