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[22507] 【習作】機動戦士がんだむちーと【多重クロス】
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 17:09
*注
 本作品は、ちーたー氏の、Muv-Luv板にある「【マブラヴ・ACFA・オリ主・ネタ】ちーとはじめました」にかなり影響を受けております。ポイント制チートシステムは、ちーたー氏に倣っております。但し、ガンダム世界であり、完全なチートとするのではなく、色々と制限が加えられているところを表現してみたいと思っております。
 何卒ご寛恕の程、よろしく御願い申し上げます。


 --------------------

 人間にとって、自己の概念というものは希薄ではなく明確である。少なくとも、自分にとってはそうであると考えていた。しかし、現実、モニターを通して自分にとっては未来、または妄想であったはずの光景を見ていると、それが果たして本当のものであったかに疑いを持たざるを得ない。

「2039年2月のスーパーチューズデー、地球連邦次期首相にリカルド・マーセナス候補がアメリカ、オセアニア、太平洋および欧州諸州の支持をもって当選確実となりました」

「スメラギさん、マーセナス候補の当確はどのような幕開けでしょうか?」

「候補の掲げる、人口爆発に対する解答としての宇宙移民は……」

 テレビを消す。現在時間、西暦2039年2月14日水曜日。そしてテレビに映ったニュースの内容はここが、機動戦士ガンダム、少なくとも機動戦士ガンダムユニコーンに関連する世界であることを示している。

 消したモニターに文字が映る。丁寧なことに日本語で、しかも簡潔明瞭に要求を伝えてきてくれている。

『転生作業無事終了。ジェネレーションシステムは、候補者に人類種の政治的要因に基づく減少の抑制を要求します』

 ここは月。地球からすると不相応に巨大な衛星の北極、地軸点直下20kmにあるらしい。

「Warsのアレ、とは……はぁ」

 ため息をつくしかなかった。




 第01話


「で、いったいどのようにすればこの要求にこたえられるのだろう」

 誰も聞いていないということは確かそうだが、さすがにコンソールに話しかける趣味は無い。ただ、ここまで技術的に隔絶しているならば、何らかの反応があるかもしれない、と口に出してみる。無駄ではなかったようだ。コンソールに新たな文字が生じる。


『候補者に連絡。当システムは候補者に従属し、様々な点で援助を行い、改変を可能とするものです Y/N』

 どこのDOS時代のモニターだ、と思いながら、コンソール前のキーボードのYキーを押す。

『システムは減少が抑制された人口、改変された歴史の結節点、候補者が獲得した人員・資源を数値化・運用することで援助を行います』

 つまり、人口減を抑制すること、各作品の基本的な流れに影響を与えらること、何らかの方法で資源・人員をえることで、自分の勢力のパワーアップをしていくらしい。Yキーを押す。

『人口減抑制、歴史改変でGPを獲得。人員・資源の獲得でRPを獲得します。人員の場合は獲得した人員の重要度によって獲得値は変化し、資源であれば純粋重量に基づく獲得値となります。また、RPは一定のレートに基づき、GPとして運用可能です。GPのプラスマイナスの基準は史実どおりの人口推移か否か。候補者のミスにより減少が生じた場合には減点します。それらとは別に、システムの起動初期段階にあるため、SPを提供。SPに基づき、初期戦力を調整していただきます。SP獲得に関しては、初期戦力の調整以降も使用可能で、値は候補者の行動によって変化します。初期調整後は、様々なTPOで用いることが可能です』

 3種のポイントを運用はするが、現在考えるのはSPで良い、と。レートがわからないし、選択肢も今は不明だから考えようが無いな。


『現状はGP:0、RP:0です。SPは30000。SPを用いて獲得できるのは以下の項目です。質問があれば音声にてどうぞ』

 表記が終わると同時にコンソール右上に30000の数字が、中央にリストが広がる。項目が色々分かれているな。身体強化、勢力伸張、部隊確保などなど、様々な項目が並ぶ。どうやら、大項目を選択すると小項目が選択できるようになるらしい。

「既にこちらが持っているものを減少させる場合、SPの獲得は可能か?」

 疑問は音声で、ということなので早速やってみた。たとえば、自分の持っているフランス語知識をペイに出せば、何かもらえるかもしれないと思ったのだ。身についた能力を失うのはコレまでの経験からするともったいなく思えるが、こんな場所に追い込まれたのであればなりふりはかまっていられない。

『良質問と判断、ポイントプラスします。可能です』

 ポイント欄を見ると1000ポイントの加算。どうやら、話すだけ話した方がいいみたいだ。

「良質問だ、なんてお知らせはいらない。なぜ私を選んだ?」

『知識がそれなりにあり、ある程度の識見を持った人間から無作為に抽出した結果です』

「趣味志向は問題ないと?」

『システムの目的達成に困難、もしくは障害となるような趣味の場合は当然抵触します』

「だろうな。この、大項目リスト欄外に、カーソルが反応を起こしている部分があるがそれは?」

 ピッ、という音と共にポイントが数万……7万2千へと上昇した。どうやら、いいところをついたようだ。

『本システムは候補者が「機動戦士ガンダム」として認識する作品世界に存在しますが、作品世界内の自由度だけで目的達成が困難な場合を考慮し、候補者の既知の世界に関する項目も支援対象として含めています』

「つまり、ガンダム世界だけで対応が不可能な場合は、他の作品から戦力をもってこい、と?」

『可能です。ただしその選択肢を選択される場合にはいくつかの制限がつきます』

「たとえば作品数が限定されるだとかもってこれる戦力に限定がついたり、ポイント数の制限に基づいたりする、というわけだな」

『その通りです』

 良い解答だったらしく、ポイントがまた増える。

「質問。私の場合、すばやくこの状況になれたが、他の候補者が存在した可能性がある。他の候補者に関する情報を閲覧することは可能か?」

『詳しい情報は無理ですが、書面でならば可能です』

「この世界に対してシステムが介入を決断した理由は?」

『人類種は介入が無い場合、所定の歴史を進み、最終的にはターンタイプにより原始時代に戻ります。その後、技術的優位にあるムーンレイスとの接触し、技術的向上を享受、旧世紀、数次の産業革命以上に産業は発展いたします。しかし、工業面での発達は精神面での発達を無し得ません。充分な時間、かつて中世期に経験した諸科学の発展経路を経なかった人類は、精神的にはかなり遅れたまま、宇宙に進出することになります。これは、システム的に種族の自滅傾向を増す以外の可能性を示さないため、修正を要すると判断しました』

「つまり、どのような産業的発展があろうと、人文・社会科学に対して注目を払わないため精神的発展が阻害されると。そしてそのような精神的発展無き発展は種族維持に悪影響であるというのだな」

『その通りです』

「しかし、ターンタイプによる原始時代化を経たとしても、人文諸科学の発展は可能では?」

『いいえ。技術的向上はマウンテンサイクルなどの発掘により進んでいますが、旧世紀、近代期人類の精神的発達の基礎である、人権概念が充分に発達しません。外宇宙に存する知性体との接触において、人権概念―――それに類する観念の発達は、銀河、超銀河的に種が拡散する際に必要となります』

「宇宙に存在する他の文明においても似たような考え方があると?君―――便宜的な言い方だが―――には、そのような認識や知識があると?」

『申し訳ありません。本システムに許された候補者に対する情報提供に関する制限条項に抵触します』

 ため息を吐く。どうやら、このシステムとやらは確かに、誰か―――『誰』という呼び方は正確ではないかもしれないが―――によるものらしい。

「了解した。では何故、ターンタイプによる原始時代化の時点ではなく、ここに私を送り込んだのか?―――大体答えの予想がついてきたが」

『システムは、精神科学の低廉化傾向が人類種に発生したのは』

 システムがそこまでコンソールに文字を映した段階で私はいった。

「宇宙世紀0079年に起こった一年戦争における、大量の一般市民の死亡」

『その通りです。なぜ候補者はそう判断しましたか?』

 面白い。システムという癖に質問をぶつけてきた。

「作品の歴史を見ても、極端な人口減少の主たる要因は一年戦争にあることは確かだ。それに一年戦争で戦死した人口を考えると、青年および壮年層のかなりの人口が減少しているだろうことが予測できる。また、一年戦争での連邦軍の受けた被害は、将校・下士官においてもっとも大きかったもの、と推測できる。まぁ、これはMSや航空機、艦船に配属される人員を考えると妥当な推測かもしれないが」

 システムは沈黙したまま。どうやら先を話せと促しているらしい。

「連邦軍がいくら巨大とはいっても、一週間戦争で死亡した人員で、恐らく数年分の正規将校・下士官を失っている。その損害を埋めた上にさらに巨大な艦隊戦力を一年戦争では構築し、それをソロモン、ア・バオア・クーで失い、戦後も0083年のコンペイトウ奇襲やグリプス戦役、ネオ・ジオン抗争で失い続けている。となると、将校に任用可能な知識階級に属する青壮年層が払拭した可能性があり、戦争さえ無ければ、その層が育成したであろう後発の人材が育たなくなった可能性につながるからだ。それに、システムを作成した存在は、少なくとも2045年当たりまでの人類の精神的発達は、許容範囲に収まるものと認識しているらしいね」

『理知的です。納得しました。後半の質問に関しては制限条項に抵触します。申し訳ありません』

 ポイント欄の数字が良い感じで増え、25万ポイントで止まった。どうやら、この考えはシステムを充分以上、納得させたらしい。

「そうなると、一年戦争での介入が基本となるし、基本、一年戦争での介入に基づき、グリプス戦役やネオジオン抗争を戦うことになる。しかし、ここで問題になるのが連邦政府の一部が起こしたラプラス事件だ」

 さらに切り込んでみる。最初に見た映像がリカルド・マーセナス次期連邦大統領の選挙戦のニュースだったことは偶然ではないし、一年戦争での介入を基本とするなら、どんなに早くても俺が送られるのは50年代のはずだ。宇宙世紀開始以前に送られる必要は無い。

「システムは、そこまで考えて私の転送をこの時代にセッティングしたと私は考えるのだが、いかがだろう?」

『正解です。あの事件の直接的影響は少ないものですが、今後100年の地球連邦政府―――少なくとも、宇宙に関する行政に強い影響力を持つ、連邦移民問題評議会の基本姿勢を固めた点は間違いありません。候補者がどのような行動をとるかは候補者の自由意志に属しますが、候補者が事件への介入を考慮する可能性を考え、このような設定としました』

「そこで質問。これまでの候補者に介入したものと介入しなかったものがいるならば、それらについてのデータがほしい」

『了解しました。先ほどの質問の答えにもありましたとおり、書面で提供いたします』

 そこまで考えたところで、時間を確認する。熱が入りすぎたようで、開始から2,3時間ほど経過しているようだ。そこで気づく。

「さらに質問。この初期設定に時間制限はあるか?」

『肯定。残り時間は16時間45分32秒です。表示しますか?』

 ほっとした。20時間の中で考えるらしい。この時間に関する質問で、ポイントはさらに上昇。どうやら、いわないままで時間きっかりに切るつもりだったらしい。シビアなことだ。質問を続ける。

「出現時期が宇宙世紀開始以前ということは、年齢に関する問題は?」

『初期設定として不老項目が既にあります。そのため、転送された段階でのあなたの年齢、地球時間換算で満28年4ヶ月23日のまま、基本的には推移します』

 確かにコンソールを確認すると、自分の写真の下に「不老」との表示がある。

「初期設定として私が持っているものはそれ以外にはどんなものがある?」

『当システムを収めるこの基地に対する命令権、基地の基本的保守に用いられるバイオロイド兵の生産・命令権、および、黒歴史に存在する全機械文明に関するデータです』

 なんというチート。苦笑した。となるとMSの開発に関しては問題がなさそうだ。いやいや、チェックは怠るべきではない。開発項目をチェックしていくと、どうやら、全データとはいいつつも、自由に投入できるのは宇宙世紀以外の作品に関するMSのみらしい。他のMSや技術に関しては、ポイントを消費した上で製造年代に達していなければならないらしい。解除にはポイントが必要。

 さらに気づく。宇宙世紀とくればビーム・爆発での即死がデフォルト。となれば、自分の設定についても確認しておかなければならない。

 自分に関する項目を開くと、結構すごいことになっている。不死を項目につける場合には15万ポイントの消費。死亡後1年での復活が5万ポイントを下限として、1日後まで累積で拡大する、と。さらに、MSの攻撃に対しての不死、などの限定項目が10万で、現在自分の持っている32万ポイントを考えると、出せない範囲ではない。ただ、ずっとこの外見で介入するわけにもいかないので、変装や年齢変更の項目を見ると、こちらも3万ポイントずつと割高だ。不死設定に年齢変更で18万は痛い。これについては、他の初期設定の余剰ポイントを当てはめるしかないか。

「連れて行く面子が問題だな」
 
 仲間・勢力の項目を見ると、宇宙世紀以外のガンダム登場人物が無条件選択可能で、強いキャラに分類される(たとえばドモン・カッシュなど)ものたちが、10000ポイントを上限として設定されている。これに、他作品のキャラクターを選択可能にすると5000ポイントごとに作品が拡張され、一人ずつにポイントを支払うようだ。

 意外に安いようにも思えるが、宇宙世紀のMSとたとえばコズミック・イラのMSでは操作系統が違う。コーディネイター専用OS下や、モビルトレースシステムでの運用から通常MSへの機種転換には、別途ポイントが必要になる。さらに、初期保有MSや艦船のことも考えると頭が痛い。また、自身でデザインしたキャラクターを生成することも可能だ。こちらは、生成時点で持つ能力や、成長性などの項目があり、項目ごとに設定する形になっている。

「この基地の使用権についてだが、詳しく」

『MSの生産ラインが現在4本、艦船のドックが8空いています。拡張にはRPを要します。RPは、この基地の外郭にある直径10km、深さ6kmのプラントへ、適当な小惑星や工業製品を安置していただければ、工業用ナノマシンにより分解、資源として備蓄されRPへ変換されます』

「資源収集については自動化は可能か?それに、基地の運用や保守に必要な人員についてはどうだ?」

『保守・運用に関する人員については、初期設定項目にあるバイオロイド兵に委任しています。候補者はプラントへ資源を供給する必要があります。資源収集に関しては、適当な宇宙用艦船をバイオロイドに委任することで自動化可能です。バイオロイドの増員に関しては、RPを要します』

 やはり、資源をもとにして動く以上、かなりのRPを介入が本格化する0079年、つまり85年後までに用意しておく必要があるらしい。これから宇宙開拓時代に入ることになれば、コロニー建設用の資材との競合を起こす可能性もある。

 あれから数時間、悩みながらポイントの配分を行ってみた。

 悩みに悩んだが、結局、一年戦争が始まるまでにMSを使用した本格的介入は不可能そうだという結論に達したので、MS開発に関する制限こそ取っ払ったが、初期戦力として保有するのはペガサス級強襲揚陸艦(グレイファントム・タイプ)1隻と、現在、地球連邦で運用されている共通規格の汎用宇宙輸送船を5隻と、資源回収用のモビルポッドとした。MSはポイントでいくらか取得作品の拡大を行ったが獲得はせず、『重装機兵ヴァルケン』よりパワードスーツ、『ハイッシャー』を12機、獲得した。基本、一年戦争が始まるまでは特殊部隊によるか、政治的介入が基本となると考えたので、MSは基本、不要だと思う。ハイッシャーは小銃弾程度しか弾けないし、武装も短砲身20mm機関砲だが、これから長く使うことになりそうだ。

 グレイファントムとハイッシャーで使ったポイント、26000。モビルポッドと輸送船で10000ポイント。資源回収を加速させたいが、まず基地機能の拡大が必要だろう。これから長い期間については、MSの必要性は薄い。小惑星やデプリ群を集め、RP化する作業が中心になるだろう。

 まだ満足な月面恒久都市も出来ていないこの時代、これから半世紀の時間を掛けて、月はおよそ30億の人口を養う、巨大な植民地になっていく。その月面開発計画にまぎれ、この基地の表面部を都市に偽装することまでは考えた。しかし、月面は制限が多いのでは、と思い立つ。

「月面は連邦から見られていることが多いと思うのだが、この基地そのものの場所を移動させることは可能か?たとえば、火星などに」

『可能です。現在の本基地をそのままポーテーションすることが出来ます。ただし、その場合、本基地が現在存在する月面極冠部には、巨大なクレーターが出来ますが』

「たとえば、火星の極冠に移動した場合は?」

『火星極冠部、同緯度同経度の地底には巨大なドライアイスの塊が存在します。基地機能維持にかなりの労力を必要としますが』

「火星の他の部分へのポーテーションは可能か?」

『可能ですが、さらにポイントを消費します』

「RPへの変換は、この基地内のプラントに物体を持ち込む必要があるのだな?」

『はい。ただし、基地機能の拡大をしていただければ、許容限度のある小プラントであれば、他の基地に構築することが可能です』

 仕方が無い。色々面倒臭いことになりそうだが、基地機能の拡大が出来るまでは、こそこそとはいまわるしかないわけか。この後、木星、金星、水星と土星についても確認したが、

 そこで、資源収集基地を火星の衛星、フォボスとダイモスに設けた。RPに換算するためにはこの基地まで運ぶ必要があるが、宇宙開拓時代を迎えるコレからを考えると、RP欲しさに小惑星を次々にナノマシン・プールに放り込むことは、月を監視する連邦政府の監視網を考えると難しいのではないかと思ったのだ。月が監視されている以上、派手な形で小惑星を持ってくると、政府側の疑念を呼ぶことになる。

 ナノマシンの解説の項目を良く見ていくと、ナノマシンは陽子クラスまで物体を分解した上で、RPか別の物質に変換する方式を取っているらしい。つまり、純然たる重さが重要なのだ。たとえば小惑星10tを放り込んだ場合、同重量の資源、もしくは同レートのRPに変換される。RP、ナノマシンはプラントによる管理を受けているらしいので、プラントの性能をRPやGPを消費してあげていくことで、効率が改善されるらしいこともわかった。

 そこまで考えてからはっとなったが、外側から見て難しいなら、内部拡張で搬出される土砂をプールに放り込むのも手だと考えた。それに、内部を拡張し、別クレーターなどと地下で連結させてしまえば、搬入した総量をごまかせる可能性もある。地軸点を中心にいくつかの恒久都市を連結させるタイプを模索するのも手だし、他の恒久都市開発の際に出た土砂を引き受けることで、RPを獲得できる可能性もある。

 火星基地の設営に50000ポイント。残り約24万ポイント……おかしいな、30万ポイントほどある。

「ポイントが上昇しているが、これは?」

『初期設定内での会話もポイント換算の対象です。これまでの方は、地球圏以外の場所というと、火星か木星にしか目を向けなかったものですが、候補者は他の太陽系天体への可能性を模索しました。また、小規模プラントの可能性について、前もって想定した方は少数です』

 どうやら、疑問はすべて口に出したほうが良いようだ。

 次に人員のチェック。基本的に呼んだキャラクターには基本項目として不老設定がつくとのこと。ただし、これについては候補者―――つまり私だ―――が判断を下した段階で加齢することも可能だという。よかった。どこの無双キャラを量産することになるかと思った。

 さて、宇宙世紀の人材が使えないとなれば他作品、つまり平成ガンダムのキャラクターがまず候補になるが、そこまで考えたところで頭を抱えた。
 平成ガンダム最大の特徴と私が思っている大問題。それは……


 『登場するキャラクターの能力とコミュニケーション能力が反比例しすぎている』


 たとえばGガンダム。主要キャラクター中、一番の常識人といえばレイン・ミカムラ嬢が思い浮かぶが、ライジングガンダムの操縦は別としても、一介のエンジニア・設計者にとどまる。特に彼女の場合、その技術はモビルトレースシステムを導入したMFだから、運用を考えた場合、KYで熱血で人の話しを聞かない(キャラクターとして見ている分には、島本キャラは本当に面白いが、付き合うとなると別だ)彼を使う必要が出る。

 システムによると、採用キャラクターは基本的に私に従ってくれるらしいが、『従う』ことが『理解した上で』、『いうことを聞』いてくれたり、『思った通りの行動』をするかどうかは別問題だ(そのことを指摘するとポイントになった。少し悲しくなった)。

 悩みに悩んだ挙句、まずカトル・ラバーバ・ウィナー氏を獲得。経済感覚に優れているし、ゲリラ戦の経験も豊富。小隊戦闘も(平成ガンダムのキャラクターにしては珍しく)上手いし、オプション項目の「ウィナー家」をオンにしたら、実際にアラブに富豪としてウィナー家が出現した。ちなみに某主人公や「ごひ」氏などに対する印象を口にしたところ、苦笑しながら同意してくれた。素晴しい少年だ。ポイントに余裕が出来たら、マグナアック隊を呼ぼう。彼には合計5000ポイント以上の価値が絶対にある。

 次に特殊部隊運用が基本となるので、5000ポイントで作品拡大を行い、総員合計25000ポイントを使用し、ホテル・モスクワのタイ支部遊撃隊と、の方々にお出で願った。原作でのバラライカ女史の状態が任務の際に問題になる可能性を考え、ポイントを別途消費してアフガンでイスラム過激派に捕虜となる前の段階まで肉体を戻したところ、本人含め遊撃隊全員に狂喜乱舞されてしまった。が、同時に護衛として呼び出していたロベルタ嬢と遭遇した瞬間にCQCを始めていた。

 と、ここまでは順調だったが、やはりMSパイロットが悩みだな……カトル氏はMSよりも経済面で役に立ってくれそうだし……





[22507] 第02話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/16 04:40


 MSパイロットについて悩むが、結論が出ない。キラ・ヤマトやアスラン・ザラのようなキャラクターは確かに欲しいところだが、基本的に従ってくれるとはいえ、彼ら自身が問題だと私は考えている。

 先ほどの話にも出ていたが、所謂黒歴史にコズミック・イラが含まれ、話の流れ上、文系科学の崩壊後になるらしいコズミック・イラ世界を考えると、彼ら自身の精神的成長を考えなければならない。はっきりいって、彼らの精神的成長の度合いは、いいところ工業専門学校生というものでしかないし、そもそも原作も、16歳で戦争に放り込まれている。彼ら自身に罪はないが、精神的に幼いのだ。

 だからといってあの世界では大人の方にも問題がありすぎる。ウズミ・アスハなど、娘の言を世間知らずと斬り捨てておきながら、理想と共に焼死した。別に自殺するなら勝手にしろといいたいが、国と国民全体を巻き込んでいる点は為政者失格といわざるを得ない。むしろ、連合に属しつつもオーブ独自の政策を模索すべきだったのではなかろうか。

 そこまで考えて、能力や成長性に問題がないなら、単に呼び出すだけではなく、彼らに学習する時間を与えた方が良いのではないかと考えた。その疑問をぶつけてみる。

『採用されたキャラクターの能力拡張はポイント消費で可能になります。その場合、現在表示されているリストでは、採用されたキャラクターの、そもそもの能力で区分していますので1万ポイントが上限として設定されていますが、成長の可能性を付与すると、最大3倍になりますが、宜しいでしょうか?』

 なるほど、元のキャラクターの能力が高いのであれば、成長することまで含んでしまえば、85年という時間で超級チート電影弾な存在になってしまう。現在、カトル氏にウィナー家などを込みで15000、ラグーンの方々に30000だから、これが3倍となると135000まで拡大する。これは痛い。だが、別世界からチートキャラを呼び込むのだし、これからポイントを獲得していくとなると、このレートはある意味納得できる。

 ……Spを残して必要に応じて呼び込むとかできないだろうか。

「質問だが、SPを残した場合はどうなる?」

『SPは自動的にGPに1:1で換算されます。但し、GP、RPはレート変動の可能性があります』

 3倍にまでポイントが高まるが、レートの変動まで考えるとなるとまだSPの方がいいということになる、か。残りポイントはここまでの会話によるポイント獲得も含め270000ほど、カトル氏などに成長性を付与すれば、元ポイントの45000にプラスして9万必要になるから、実質残りは18万、か。

 カトルの経済観念も棄てがたいし、ラグーンの方々には大活躍してもらいたいので躊躇無く成長性を付与し、9万ポイントを消費。技術情報と採用作品を見直し、ブラスレイターを選択。さすがにラグーンの方々でも銃弾が当たれば危ない。仮面ライダーも考えたが、御丁寧なことに一シリーズごとにポイントが必要なので選択肢には入れなかった。リアルバイオハザードやるならそれもアリなのかもしれないが。ああ……でも伊丹刑事のアポロガイストは結構好きだったんだがなぁ……

 ナノマシンには、作品ごとの機能を追加設定出来るらしいので、ブラスレイター生産技術はこれからのMSにも役立ってくれるだろう。NT-Dとか使いたい。

 そこまで考えたところで思いついた。MSの巨大化・高機能化が頭打ちになり、F-91あたりでダウンサイジングしたのは、現実世界ではプラモメーカーの思惑だったが、機体が巨大になりすぎると慣性の問題で搭乗者にかかるGの負担が大きくなることが最大の理由だ。逆に考えれば、Gの問題をどうにかしてしまえば、強化人間相手でさえ無双が可能ということになる。サイコミュを採用したのも、機体の追従性を上げる以外に、人間そのままの動きをさせることで、Gの負荷を人間が受けやすいものに変えるという意味合いもある。搭乗者の肉体強化を薬物に頼らないで行えるというのは有難い。

 となると、内政チートが主となるだろう行動の初期段階では、それこそ却ってガンダム以外の人物の方が役に立つかもしれないし、基本戦争は数の暴力の世界だから、無双を実現させるのは戦争が始まってからでも遅くないし、むしろ独自の戦力の構築と、単機平均の能力向上の方がいいか。

 ある程度の結論が出たのでブラスレイターよりヘルマン、ゲルト、マレクの三名を採用。成長性を付与し、特にゲルトについては他者がデモニアックに見えるナノマシンの不備を解除した。これで6万。

 MSパイロットについてはSEEDよりアストレイ三人娘を、また00より初代ロックオン氏を採用。グレイファントムの艦長としてナタル・バジルールを採用した。成長性をプラスして合計10万。

 残った5万ポイント(会話でまた増えていた)を肉体年齢変更の機能と作品の拡大、技術情報に用い、準備は整った。


 それでは、介入を始めて行こう。



 第02話:ラプラスの匣



 2046年1月1日。正式に宇宙世紀0001年となるこの日、以前からの予定通り、眼下に広がるスタンフォード・トーラス型コロニー、ラプラスにて、地球連邦首相リカルド・マーセナスの演説が始まろうとしていた。

 そのラプラスを照らす2枚の凹面鏡の内、天頂方向にあるその一枚に、静かに近づく宇宙作業艇があった。

「OKです、艇長。予定通り、周囲の警備艇は俺らをGEの社員と思ってます」

 野卑なラテン系の男は、宇宙服に包まれた手を動かし、了解のサインを送った。予定通りだ。あとは凹面鏡のコントロールセンターに、このプログラムをインストー……

 そこまで考えたところで作業艇が大きく揺れた。

「な、どうした!?」

『わかりません!何かに押さえつけられたようで……なんだこれ!ギャ……』

 叫び声と共にくぐもった音が生じたかと思えば、同時に響く破砕音。何かわからないが、予定外の事態のようだ。

「クソ、ばれた!?誰でも良い!各自、プラグラムの入ったMOを持って船外に出ろ!たどり着いた奴がプログラムを……」

 そこまでしゃべった瞬間、作業員用の出入口が―――それを保持する鋼材の側で連続した爆発が生じた。扉がゆっくりと動く。既に室内が真空のため、空気が外に漏れ出るような事態は起こらない。

「な、な……」

 鋼材がゆっくりと上に動く。不自然な動き。どうやら、突入をしようとしているらしい。

「構えろ!撃つと同時に外に出る!サイアム、ジョスト、裏に回れ!カールとホセは船底から出ろ!」

 リーダーと思しき人物は、宇宙用の無反動機関銃の銃口を扉に向け、やけに大きな宇宙服らしきものの腹が見えた段階で射撃を開始した。

 高音が響き、跳弾が発生。跳弾は船内の鋼材に跳ね返り一人を殺す。

「銃が……なんだあれは!?」

 ようやく退かされた扉の向こうには、3mほどの鋼鉄の人形がいる。そいつがゆっくりと腕についた銃らしきものを向け……

 撃った。




 サイアム・カラスは17歳だった。出身は旧ヨルダン・ハシュミテ王国。現在は中東連合となっている地だ。地球連邦が成立し、エネルギーの調達先を核融合発電と太陽光発電に切り替えると、中東の石油資源は内燃機関用の燃料以外の役割を持たなくなった。

 2030年代初頭に、安価な電気自動車が整備され、バッテリー技術の革新が始まる。そして止めを刺したのが、月面極冠部に大採掘基地を構える日系企業グラン・パシフィック社だ(日本名、太洋重工グループ)。月面から産出された新資源、『動力鉱石』を一手に賄うこの企業は、大型化が不可能なこの鉱石エンジンを以て自動車産業に乗り込んだ。大型化が不可能で、軍用、船舶用エンジンこそ作られていないが、電気自動車の普及に大きな役割を果たした。

 それはいい。問題は、船舶用、航空機用しか需要が無くなった石油資源が、中東に恐ろしい勢いで不況をもたらしたことだ。その上、同時並行で進んだメタンの燃料化が、その残されたシェアさえも現在進行形で食いつぶしており、石油中心のモノカルチャー経済だったこの地域の貧困化を進めてしまったことだ。

 20世紀より続く、石油依存の体制が覆されたことは、産油国の政治的地位を押し下げた。他にも色々な理由があるが、サイアムがここでテロリストの仲間入りを果たしていたのは、その不況が理由で家族を養えなくなったからだ。

 楽な仕事。

 ディスク一枚を、秘密裏にコンピューターに差し込むだけ。

 シャトルに乗って、作業艇に乗って、10分ぐらいの宇宙遊泳。

 そんな言葉に乗せられて来た場所は、今、マズルフラッシュのクラッカーで祝われるパーティー会場となった。

「サイアム、先に行け!俺が援護する」

 ジョスト。いやな男だ。ガラス越しの顔は震えている。恐らく、自分をおとりにするつもり。ため息を吐いたサイアムは、ジョストをつかむと船底にある出入り口から放り投げた。

 無音。だが、ジョストの宇宙服の胸にコイン大の穴が空き、赤黒い液体と白っぽい何かを吐き出し、慣性に従って地球の方へ向かっていく。サイアムはそちらに顔を向けていたが、ジョストの体には目が向いていなかった。地球。青い星。美しかった。何か別のモノ、宇宙飛ぶ巨人が見えたような気がしたかと思った瞬間、体を強く引き上げられた。

『サイアムとやらはお前か』

 振動音声か接触回線かはわからないが、目の前の鉄板―――パワードスーツ『ハイッシャー』―――からの声にサイアムはうなずいた。

「そうだ……アンタらは……」

『持って行け』

 コンテナを押し付けられ、宇宙服とワイヤーで結ばれたかと思った瞬間、そのまま地球とは逆方向に投げられた。




『終わったよ』

 サラミス級宇宙警備艇のブリッジで、推移を見守っていたところに通信が入った。

「ありがとう、ミス」

『その呼び方はやめな、といったろう?』

 じとり、といやな汗が伝う。後ろに宇宙服を着ずにメイド服で立つロベルタ嬢の反応が怖い。

「ありがとうございます、ソフィーヤ・イリノスカヤ」

『駄目だ』

 ああ、声が怖い。怒りつつある。ブリッジ要員としての訓練を受け、コンソールを操作していたはずの遊撃隊の方々が何かを期待する目で私を見ている。ブロックサインでさっさと要求どおりにしてくれと訴えかけている。助けを求めるようにセカンドチームを率いて待機していたボリス軍曹の方を見ると、沈痛な面持ちで顔を振った。君たち、そんな厳つい顔をしているんだからもうちょっと……

『トーニェィ……早く』

 トーニェィ。私の名前はトオルなのだが。伝えた瞬間、トーリーと呼び始め、愛称としてトーニェィとなった。ロシア語はわからない。 

「ありがとう、ソフィー姉さん」

『オーチン・ハラショー。ポイントたまったんだろう?帰ったらボリスの件、考えておいてくれよ』

 横を振り向く。こんなテロを防ぐことに何の意味があるかと問われたときに、ポイント制の話をうっかり漏らしてしまったのだ。まだ彼女一人でとどまっているが。最初に切り出されたのが、彼女の忠実な副官、ボリス軍曹を入隊時の姿に戻すこと―――うん、彼女は絶対にショタコンの気がある。年齢変更機能の話しをしたら10代に戻ってみろとか要求されたし。

「本人の同意が絶対条件です。考慮はします」

『説得は任しときな』

 ボリス軍曹が嫌そうな顔をしてこちらを見ているが、知ったことではなかった。モニターの表示を式典会場へ切り替える。







 マーセナス首相の演説は佳境に入っていた。ここはアメリカ州ニューヨーク市にある旧国連本部ビル。マーセナス内閣の閣僚が忙しく、宇宙への引越し準備を進める中、息子にして2期目の内閣では副首相を勤めるジョルジュ・マーセナスがモニターを見つめていた。

「何をしている、何故何もおきない……」

 押し殺した声は室内で忙しく動く職員たちには届いていないようだ。もし届いたとしても何を行っているかわからなかったろう。それに、意味が理解できたとしても信じられるかが微妙だ。

 息子が父の命を狙うなど、そもそも考えもしないからだ。

 それに、少なくともジョルジュ・マーセナスは表面上、父を助け、将来を嘱望される政治家だった。正義感にあふれ、しかし、父ほどリベラルではなく、どちらかというと保守的で、革新的な成果こそ残さないが、堅実な手腕を振るうと評されていた。

 しかし、その保守性こそが問題だった。

 どこをどう繕っても、現在、移民問題評議会が行おうとしている宇宙移民計画は、棄民政策以外の何物でも無いからだ。

 確かに地球に居住する人口が80億になんなんとしている現在、地球上では中国、インド、アフリカという人口爆発の温床をどうにかしなくてはならなかった。特に、独裁政権続きで統制経済を敷いていた中国は、連邦発足と共に組み入れられた変動相場制で経済の大混乱を引き起こしている。人口を現在の26億から最低限20億、宇宙に移し、生活の場を整える必要がある。

 問題は、そうした発展途上国出身者に、先進国が営々と築いてきた地球連邦という国家への参画を、全面的に認めて良いかという点だ。

 人は決して平等ではない。他より先に工業化を果たした国家群として、先進国はその経済力の多くを、発展途上国への援助と、途上国が無計画に行う工業化による環境汚染対策に費やしてきた。今回の宇宙移民政策も、このまま地球に納まっていたのでは大規模な虐殺か戦争以外に選択肢が無いからだ。

 無計画に人口を増やし、食糧問題を発生させた上に解決能力もなし。それなのに虐殺も戦争も無しに新しい生きる大地を与え、生活の場を整えるというのに、無条件で参画まで認めるという。それにくわえて、新しい生物学的なんとやらが生じた場合には、優先的に権利を譲るというのだ。

 噴飯物も良いところだった。これまでとこれからの経済力はまだ良い。一見無駄に思えても、資本の循環は新たな利益を生み出すからだ。だが、何の義務も果たしていないのに無条件で参政権を与えるだけでも腹立たしいのに、何の評価基準もない「新人類」とやらが生まれれば築いてきたものさえ差し出せと父はいう。



 ジョルジュ・マーセナスは決して無能ではない。むしろ有能だった。但し、父親ほど人間に対する信頼は無い。そしてそれは政治家には必須の条件だった。

 式典のクライマックス、連邦憲章を刻印した巨石のお披露目だ。もう駄目だ、終わりだ。計画は失敗したのだ。クソ、こんな演説さえなければ、閣内をまとめて絶対にあんな条項をいれることなど認めないのに。

 そして序幕された時、彼は別の意味で驚くこととなる。




 この日、地球連邦憲章が公布された。

 問題となる条項、連邦憲章第7章、第15条には以下の様に記されている。

「第七章
  地球連邦政府は、大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備することとする。

  第十五条
  一、地球圏外の緊急事態に備え、地球連邦政府は研究と準備を拡充するものとする。
  二、軌道植民地、天体植民地は各行政区分の人口が一定段階に達した段階で、連邦議会への代議員派遣権を得る」

 2048年、リカルド・マーセナス内閣が、二期目の任期を終える際、建設する軌道植民地の名称を「サイド」とし、各サイドの人口が5億を突破した段階で、1億あたり1名の代議員を連邦議会下院に派遣するもの、と定められた。また、月面など(まだこの段階では月面しか想定されていないが)の恒久都市の場合は、一市または複数市で構成される行政区の人口が1億を越した時点で、5000万人につき1名を上院に派遣するものと定められた。

 歴史はこれを、リカルド・マーセナスの偉大な業績として記している。





 問題なくラプラスの箱の入れ替えは終わったようだ。ほっと胸をなでおろす。しかし、これは驚きだった。
 小説ガンダムユニコーンの中では父親を殺し、それをマーセナスの家系が持つ罪として描いていたが、内側を見てみれば却って、ジョルジュの言い分が理に適っているのだ。

 法律の制定は、立法権を持った―――法律で与えられているものが行う必要がある。これが大原則だ。憲章のような理想でも、それが独善で成されたものであれば、後の時代には悪影響しか与えない。ラプラスの箱の最大の問題点は、記された内容でも、公開されなかった希望でもない。立法権限のないものが、適正な法的手続きを踏まずに法律に類するものを作成し、それを理想と共に公表しようとした上に、記された文言が抽象極まりないものであることなのだ。


 ニュータイプが出てきました。オールドタイプは政治的な権利が制限されます。文句は許しません。でも誰をニュータイプとするかの基準については知りません。てへ。自己申告?自称?なんでもOKです。


 ラプラスの箱が言う内容は結局これに尽きる。『善人ほど馬鹿を見る』の典型例だ。絶対にこういうことを言い出す奴がいる。

「お前はオールド、俺はニュー!」

 素晴しい。レイシズムはヒトラーで懲りていると思うのだが。ジョルジュ・マーセナスが新しいレイシズムの温床となりかねない思想を危険視するのも当然だろう。
 それに、これを閣議も通さず、演説の場で強行しようというなら、リカルド・マーセナスは死を持ってそれを購うべきだ、という論理に問題はない。それに、続く分離主義者との戦争は結局は連邦政府を一枚岩にまとめる結果となった。悪い結果ではないし、スペースコロニーなどという巨大な建築物を数百も宇宙に浮かべるなら、絶対に必要だ。


 夢見がちで馬鹿で考え無しで放蕩を尽くす父親の面倒を見るのに疲れ果てた息子が父親を殺傷。


 どこかの新聞の三面記事でも飾りそうな事件を宇宙規模に拡大するとこうなった。ただそれだけの話だった。
 

 今回の事件、サイアム・カラス―――後のサイアム・ビストにはラプラスの箱の原本(もう意味はほとんど無くなってしまったが)と、ジョルジュ・マーセナスの作った暗殺計画を立証する書類をプレゼントしておいた。ここまでやってやれば原作どおり、ビスト財団とアナハイムを作ってくれるだろう。

 地球圏を引っ張る経済的な力は、強く、そして多くあれば良いと私は思っている。

 原作を見ると、基本的にZ以降、MSを作っている企業はアナハイムだけ。戦争があり、効率的な経済体制として、軍需を独占させたというのはわかるが、それが肥大化して企業独裁ともいえる体制になるのは問題だ。0096年に、連邦政府相手にして甥っ子に手を出す趣味の悪いババアがコロニーレーザーをハッピートリガーでぶっ放せたのも、箱の力だけではないのだ。諸産業を一社に独占され支配された最終形態なのだ。

 となれば、アメリカが大好きで戦争を以てしても世界に広めんとしている自由主義経済こそ対策になるだろう。

 ライバル企業がいなければ、サービスは向上しないのだ。

 ということでこの6年、RP獲得にいそしみ、得た資源をポイント化するだけではなく資源としても売り飛ばし、『重装機兵ヴァルケン』に関する技術をオンにしたことで月の地下に発生した『動力鉱石』を用いて自動車産業になぐりこんでみました。

 いやぁ、自動車って儲かりますね。系列企業が労せず出来るし。うちの会社―――日系企業太洋重工ことGP社はエンジンのみ供給してますが、それだけでもあっという間にでかくなることが出来ました。カトル君、あなた凄過ぎです。

 勿論、降って湧いたような新しい資源に皆様興味津々ですが、月面極冠部の開発基地『N1』は5.45mm弾が何故か大好きな遊撃隊の皆様に守られ無事です。パワードスーツ隊も頑張ってくれていますし、政治的にもRPをGP変換して獲得した新キャラクターにして現在、連邦下院議員一期目を勤めていただいていますアイリーン・カナーバ閣下が大活躍。新党結成まで行くのかな?

 ……いや説得大変でしたよ?不老項目に加齢設定くわえる際に、プライベートでの年齢コントロールを要求されたり、コントロール権について交渉までしてくるんですから。やはり女性なので適当な時間をおいて老化と若化を行うことに(ポイント余分に必要でした)。

 ただ、思ったより戦力の拡張が難しいのが難点。RPの変換レートが高いのだ。キャラクターを成長性込みまで含んで獲得すると最大3万ポイントかかるし、MSの場合、黒歴史上の実機を呼び出すにも高いポイントがかかる。その上、新技術を盛り込もうとすると追加でポイントが発生するのだ。勿論、実用化を早めようと考えた場合にもポイントは必要になる。

 現在のレートは100tで1Rp。10Rpで1Gpだから、30000GPで新キャラにお出で願うには、3000万トンのリソースが必要……確かに、GP狙いで歴史変更掛けた方が有利だな。このレートが決して不利なものではないこともわかっているのだ。直径5km程度の小惑星で、質量は120億tにもなる。小惑星1個で12億RPになるわけだから。

 くそぅ、ここまで月という立地条件が問題になるとは……。火星の基地でも地下採掘の分しかポイント化出来ない限定がついているし……いや、急ぐのは禁物だ。みみっちく元素変換で稼ごう。大企業になれば「火星基地建設!」とか無理も無いし。

 ただ、技術革新の項目にワープ技術などの項目があったので、後々、どうにかなりそうなのが救いだが……


 
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 とりあえず続きをでっち上げてみました。





[22507] 第03話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/18 06:59
 宇宙世紀成立以後、その後の歴史は少々の変動を入れられたものの、概ね史実どおりの展開となった。

 月の衛星軌道との兼ね合いで安定しているラグランジュポイントL5、L4にそれぞれサイド1(ザーン)、サイド2(ハッテ)の建設が、UC0010年、開始された。目標設置コロニー数各250基、農業・居住用コロニーとして島3開放型を建設し、コロニー1基当たり1000万人を限度として移住させる。

 建設に伴い、エネルギー源としてヘリウム3を用いる超大型核融合炉を建設し、ヘリウムの確保ため、木星へ派遣する船団の運営組織として木星公社を設立。収集船や、宇宙用船舶の造船は初期こそ地球で行うが、効率と運用を考慮し、月面での建造が行われることとなり、この収集船の建造は、恒久都市『N1』にて行われることとなった。

 0016年、サイド1に24基のコロニーが建設された段階を以て連邦移民局が設立、人口の多い中国より移民が開始されると発表されたが、これに対し中国が反発。0017-22まで続く「居住権戦争」が開始される。全世界対中国(後に中国の強い影響下にあるアフリカ諸国も参戦した)のこの戦争は、地球に対する居住権という新しい特権の存在を人類に意識させたが、史実どおり、0021年に終結。連邦は「地球からの紛争の根絶」を宣言した。

 0027年、地下拡張工事に手間取る極冠恒久都市「N1」を尻目に、静かの海に建設されたフォン=ブラウン市が完成。入植が開始される。0032年までに「N1」、「グラナダ」を初めとする16の都市が完成。月面の総人口は30億に達した。

 0034年、L2にサイド3(ムンゾ)、L5にサイド4(ムーア)が建造開始。サイド3には、工業用コロニーの試験として島3閉鎖型が導入された。しかし、工業生産に伴い発生する空気中の微粒子回収の目処が立たず、居住人口が、開放型に比べ圧倒的に低下(1基当たり100-200万人)。居住人口を制限しても3年に1度、空気の全面的入れ替えと、微粒子回収フィルターの全交換を必要とするためコロニー維持費が増大。居住民に対し、重い空気税が課せられる。

 0045年、サイド3を中心に地球を聖地とし、地球人口の低減による環境回復を求めるエレズムが広まる。背景に、地球からの大気輸入の際、地球側が加工費用の一部として汚染除去費を繰り込んでいたことがある。「地球の大気=安全な大気」との印象が強い民衆にとり、汚染除去費は代金のつり上げと映ったようだ。

 また、この都市、ルナ2が地球圏へ曳航され月軌道上で資源採掘を開始。思想家ジオン・ズム・ダイクンがサイド国家主義思想「コントリズム」を提唱し、重い空気税に悩むサイド3にて爆発的に広まることとなった。同じ年、サイド5(ルウム)、6(リーア)が建設を開始。



 そして歴史の改変が始まる。
 


 第03話

 0061年、アメリカ。

 ここは地球、アメリカ行政区マサチューセッツ州ケンブリッジ。あの有名なハーバード大学の構内である。連邦政府の設立以後、アメリカ政府の要人を輩出する大学から連邦政府の要人を輩出する学校へと移り変わったこの大学で、現在、タマーム・シャマランGSAS主任教授が、サイド3を中心に拡大するジオニズムの批判演説を行おうとしている。

 歴史どおりならば、この時、シャマラン氏は暗殺され、アースノイドはスペースノイドに対する対抗思想を持たないまま戦争に突入し、感情的対立の激発を招く。イデオロギー紛争の側面もある一年戦争では、やっぱりこの点もつぶしておきたい。

「しかし、ザビ家の暗躍って、この時から根深いねぇ」

「トール様。バラライカ女史より4人目の排除が終了したと連絡がありました」

 ロベルタの声に私はうなずいた。

 講堂。演説会場として開放されているこの大学の周囲は、連邦からの独立を唱えたサイド3に対するデモで埋まっている。本日演説を行うシャマラン教授は、宇宙の独立に対して温情的だからなおさらだ。ここでの演説も、大多数が独立を宣言したジオン・ダイクンへの応援演説と解されている。

 事の発端は、サイド3が行った、地球連邦への債権放棄要求だった。

 宇宙空間に平均800万人が住む大地を建設する。勿論多額の金が必要になる。連邦政府が当然、その建設費用の大半を出すのだが、コロニーの建設予定数が人口増加を考慮した場合、1000を越える可能性が示唆された段階で、建設費用の一部をコロニーに移住する住民に求めた。そこまでは良い。

 通常のコロニーの場合、1基の建設費用を800万人口で負担し、税としてそれを払う。収入としても外壁にある商工業区で生産される小規模工業製品や、農業産品で充分な利益を確保しているから、その運上利益で支払いもたやすい。1000万人で割るとなれば一人当たりの金額も小額だ。

 しかし、サイド3は工業コロニー、いや、工業サイドを志向した。人口は1基当たり大体150万人。しかしコロニーの建設費用は変わらないから、単純計算で5倍の費用を支払う必要がある。これでは、いくら工業製品が売れてもおっつかない。その上、工業用コロニーは維持費が高いのだ。

 結局、サイド3の財政はギリギリの段階で、連邦・月面都市連合からの資金援助と債権のモラトリアムでどうにかなっている。そこにジオン・ダイクンは債権放棄―――つまり、借金を無い物として扱い始めた。

 この暴挙は衝撃的な影響を地球圏の経済に与えた。サイド3には工業用コロニーが20基、それに開放型コロニーが25基ほどあり、人口は1億5千万から2億人程度(これはサイド当たり15億の人口を考えた移民計画からすると驚くほど少ない)で、当然債権の額も大きい。これが一斉に不渡りとなったため、サイド3に投資していたマネーファンドが軒並み倒産、取引の停止と相成った。

 そしてそれだけではなく、数年後に国家として独立するとまで言い放ち、認めたくないなら連邦議会下院への議員派遣権を要求したのだ。連邦憲章第15条の必要条件は5億を突破することを明記しているにもかかわらず。債権放棄による地球経済への打撃にくわえこの要求。ジオン支持、ないし協調派として知られるシャマラン氏は地球の裏切り者となったのだ。

 しかし、本当の意味でシャマラン氏を知るものは、この日の演説が急進の度合いを強めるジオンに対する批判演説となる事を知っている。それは、批判される当のジオン・ズム・ダイクンこそが良く知っている。知っているからこそ―――排除するのだ。暗殺という手で。

「暗殺を手配したのは?」

「尋問の結果、デギン氏のザビ家ではないようです。デギン氏は意外にハト派ですから……」

「ジオン・ダイクンその人の命令」

「その可能性はあります」

 メイドではなく秘書の服装になっているロベルタはうなずいた。

「もろ左翼の内ゲバ」

「身も蓋もない結論だね、トール」

 ロベルタの反対側、空席となっていた席に着いた若い連邦軍士官が言った。階級は少尉。

「でも、現実そうではないですか?ヤン・ウェンリー少尉」





 苦々しげにモニターを見つめる年老いた女性。ローゼルシアは車椅子を苛立たしげに揺らせながら、隣に立つ男へ怒鳴った。隣に立つ男も表情は硬い。いや、むしろ女性よりも苛立たしげに息を吐き出すと、豪奢なソファへ音髙く座り込んだ。

「ジンバ、本当に送ったのだろうな」

 問われた男、ジンバ・ラルはあわててうなずいた。確かに彼の―――使えるべきと定められている男、ジオン・ズム・ダイクンの言うとおり、タマーム・シャマランへ暗殺の手を伸ばしたのは彼だ。ダイクン自身、自分の説であるコントリズムを疑ってはいない。理想としては正しいと信じてもいるし、この時代に即した考えであるとの確信も抱いている。

 問題は、ジオン共和国―――サイド3に、それを可能とするだけの経済力がない点にこそあった。

 工業用コロニーは維持費が高い。独立を訴えかけるにしろ、サイド3自治政府の抱える債務について、連邦とのある程度の妥協が必要と考えるデギンを抑え、独立宣言を出したものの、債務放棄まで訴えたために経済封鎖を返され、サイド3政府は青息吐息となった。

 工業用コロニーなど無くとも、月面恒久都市の抱える工場群で代替製品の生産は可能だからだ。特に、無酸素生産設備を持つ月面極冠都市『N1』は、ここぞとばかりに販路を拡大させていた。

 サイド3の自給自足は、現在抱えている連邦への債務を変換することでようやく一息つけるのだ。その間に木星との航路を開通させ、無酸素生産設備に必要な核融合炉を持つ必要がある。太陽光発電では発電量が限られるし、化学工業の無酸素化には大規模な発電設備がいるからだ。

「シャマランめ……。地球に残った、残り続ける人類など、天から降る業火に焼かれ、死滅する運命にあると何故気づかん!?」

 周囲の人間は目をあわさない。サイド3で絶大な支持を受ける宇宙の革命家は、結局の所こういうものだった。




『地球連邦の行政圏に属す皆さん、私は本学教授、タマーム・シャマランです』

「はじまったな」

 連邦軍本部が置かれているニューヤーク市―――数年以内に現在、南米に建設が進められている新基地、ジャブローへ移転の予定だが―――の参謀本部ビルに、集まった壮年の軍人たちがテレビを注視している。

 参謀本部作戦課長、シドニー・シトレ中将。第一機動艦隊司令、ヨハン・レビル中将、同艦隊所属『タイタン』艦長マクファティ・ティアンム大佐、彼ら二人をまとめる第一機動艦隊第一戦隊司令、アレクサンドル・ビュコック少将。恐らくは10年後の連邦軍の中枢を担う軍人たちだ。

「こんな放送になんの意味があります?申し訳ありませんが、小官は訓練計画の策定もありますので退室させていただきたいのですが」

「落ち着きたまえ、ティアンム大佐」

 シトレ中将は言った。

「連邦宇宙軍の拡大整備計画が議会を通過し、10個艦隊を作るとなれば、基幹部隊の第一艦隊の訓練計画をつくるのも当然の措置だろう。だがな、我々から見てどれだけ暴論であろうと、コントリズムを提唱し、それが支持を受けている以上、次に来る戦争はイデオロギー色の強い物になる。戦うときの論破は必要だ」

 レビル中将は頬を掻いた。主席卒業を初等教育から士官学校まで続け、40歳代の中将という破格の出世を果たしたこの軍人は、年に似合わぬ老人めいた口調で言った。

「シトレ閣下、何を考えておいでです?」

「なに、中将。似たような事が歴史にあったと思ってな。ほら、私のところにいた歴史好きの」

 レビルはうなずいた。

「ああ、ヤン少尉ですな。戦史の成績が良い……私の従卒だったときには世話になりました」

「あれに影響されてか、事件が起こると似たような歴史的出来事とやらを気にするようになったのだ」

「つまり?」

 ビュコックが先を促すように言った。

「第二次世界大戦の旧ドイツ。まさにジオンと思わんかね」

 全員がうなずく。

「だとしたら、我々に対する彼らの戦い方は、ドイツに類するものだと私は思うのだよ」

 シトレは引き出しから書類を取り出した。






[22507] 第04話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/18 07:00


 タマーム・シャマランの提唱した天体植民地論はジオンのコントリズムを押しのける強さこそ無かったが、着実にスペースノイド、アースノイド関係無しに広まっていった。特に、火星を地球と同じ居住環境にしようとするテラフォーミングの提唱は大きな魅力を持っていた。そもそも、スペースノイドの不満の大部分は、彼らが吸う空気そのものに税金がかかる、この一点にこそ存在したからである。

 火星、準惑星ケレスのテラフォーミングにより、地球と同じ環境の惑星を手に入れる。コロニーは惑星居住環境整備のための、100年単位の仮住まい―――

 無酸素生産設備の全人類圏に対する拡大と、コロニーの通商・農業環境によるクローズド・サイクル整備。木星船団によるヘリウム3の安定供給と、月面の工業都市化。コロニーは基本、農業を基幹産業として人類の胃袋を担う。完全無重力環境を要する工業製品は、少数の工業用コロニーで。

 コントリズムに対する直接的批判ではないが、安易に地球を否定せず、人類種そのものの延命のために地球・宇宙を一体とする一大経済圏の確立と棲み分けの提唱は、第二次コロニー建設計画の縮小と、サイド3の債権放棄要求で、次代の投資先を見出せない経済界からは歓迎された。

 さらに、ジオン・ダイクンのニュータイプ思想に含まれる全体主義的・人種差別的傾向の批判と、多様な価値観を衝突無く並存させるための、人類そのものの分布の拡大化。

 コントリズムとエレズムにより、地球に済む事こそ罪悪とする考え方が否定された点を以てすれば、確かにシャマランの考え方―――火星のテラフォーミングを提唱した事から「マーズィム」と呼ばれる事になる―――は、コントリズムとエレズム、結合してジオニズムとなる思想に対する、対抗思想足り得た。

 この理論の優れたところは、決してコントリズムと対立し得ない点にある。コントリズムによるサイド国家主義を否定せず、むしろ拡大の方向を取る事で、安易に地球を聖地化し、「重力に縛られたものたち」としてアースノイドを差別する視点を放棄させるのみならず、アースノイドとスペースノイドと言う区分そのものに対し批判をくわえている点にあった。

 しかし、ジオンが真に危険視したのは、ニュータイプ思想に対する批判そのものであった。元々棄民政策で地球を追われた事に対して成立した思想がジオニズムである。逆差別の理論的な後ろ盾を宇宙に脱した新人類の発生―――それが起こり得るものかどうかは提唱したジオン本人ですらわかっていなかったが―――に求めたジオニズムの根幹理論たるニュータイプ思想は、実は、コントリズムとエレズムが論駁されてしまえば、ジオニズム唯一のよりどころになるものであったからだ。

 ジオンがシャマランを危険視した最大の理由がここにある。結局のところ、彼らはレイシズムにより権力を得ようとしているのだから、それが否定されてしまえば、彼らはナチスと同じでしかないのだ。早晩、誰かがその事に気づいてしまう。気づかれれば終わりなのだ。

 そもそも、旧世紀に発達した哲学においてさえ、個と言うものが確立してしまえば、理解すなわち協調ではないのだから個人間の自由の激突が生ずるのはホッブスが指摘する通り当然の帰結であり、避けるのであればロックやルソーの言うとおり、一定のルールによってそれを制限する他はない。勿論、言葉によらない完全なる理解とやらが実現し、それが効力を持つならば激突の生ずる確率は減少するかもしれない。

 しかし、そもそも何事にも例外と言うものはつきものなのだ。

 さて、歴史を続けよう。

 0062年、シャマラン演説で示されたマーズィム――シャマランは自身の考えをシャマラニズムと名づけようとする幇間学者に対して喧嘩を売っていた―――にのっとり、火星のテラフォーミングに対する研究が開始。太洋重工グループがいち早く参加を表明。火星軌道上に太陽光反射ミラーを設営。第一段階のテラフォーミングとして、火星極冠部のドライアイスと大氷塊を融解させ、火星大気の組成変化を安定化させ、気温上昇の準備を図る事が計画される。

 0067年、地球連邦議会、サイド3より提出の債務放棄要求に対し、4度目の否決を上下両院で行う。各サイドからは空気税の税率低下のため、債務のモラトリアムを含む実質債務の切り下げが要求案として出されたが、足並みが揃わず部分的な導入にとどまった。同年、ムンゾ・月面通商協定締結。月面極冠都市連合(人口4億、中心都市『N1』)とサイド3は、工業製品の共通規格化と産品の販路交渉を継続して行い、サイド3工業の一定程度の向上までは、サイド3に関税交渉での優先権を与える事を締結。



 そして0068年、すべての幕が上がる。



 第03話



「ジオン・ズム・ダイクンの暗殺、ですか」

「暗殺と言うより、頭おかしくなった結果、体に負担かかりすぎたんだと思う」

 サイド3、1バンチ。ズム・シティは混乱のさなかにある。重大発表と銘打った議会にて、演説中にジオン氏が胸を押さえて倒れた。10分後に死亡が確認され、15分後には死体はザビ家の率いる保安隊によって隔離された。ここ数日、演説の草稿片手に3徹ほどしていたらしいから、かなり体に負担がかかっていたらしい。

 しかし、民衆は連邦による暗殺の可能性に思考が行きついた結果、暴力的なデモが眼下の中央広場前では繰り返されている。さながら、ベトナム反米デモか、日米安保反対といったところだ。

「坊ちゃま」

 私は顔をしかめた。ジオンに潜入し、身分を得るために孤児院経営を片手間にする月の大富豪、ミューゼル家の長男、という肩書きで10歳の少年の姿となった私は、現在、飲んだくれから復活させて保護者代わりに行動させている父セヴァスティアンと共にサイド3に入国した。服装はどこの軍装本からパクって来たのか正直問い詰めたくなる、ヒットラー・ユーゲントばりの茶色開襟シャツ+半ズボンにサスペンダー。

 この姿を見てからと言うもの、バラライカ女史は14歳の姿に(スチェッキン片手に脅された)なり「ソフィーお姉ちゃん」の称号を強要。割を食ったボリス軍曹も13歳の紅顔の美少年へ変化させられ護衛についている。さらにロベルタ嬢はガルシア君の面影に引きずられたか「坊ちゃま」の呼称を復活させて悦に入っている。

 危険だ。

「ロベルタ、姉さん「たち」は?」

 そう、家族と呼べる―――いつそう言う設定になったかは自分でも不思議なのだが―――人々が増えてしまったのだ。元々、父親キャラクターで子供がチートっていう家族いないかなーと思って、銀英伝からミューゼル家ご一行にお出で願ったのだが、さすがに父親がアル中じゃだめだろうと母親クラリベル女史を呼び出したところ父親復活。家族が円満化してしまった。

 参謀兼艦隊指揮官として有能だろうなぁ、とまだ5歳だがラインハルト氏には期待大なのだが、たまに悩ましげな目を向けてくるのは怖い。多分頭の中で銀河帝国つくろうとか考えているんじゃなかろうか(後で話したところ、忠犬キルヒアイス氏を呼び出してほしいそうだった。ムリだよ!ある意味オベ公より質悪いよあの人!)。

 結果、同年の10歳の「姉」としてアンネローゼ様が御降臨されたわけだが、彼女、原作でも見せた優しさを惜しげも無く発揮。ポイントこそねだらないものの、太洋重工の持っているお金なら孤児院なんて簡単よね、とようやく社会問題として生じつつある福祉関係に関して突っ込み始めた。

 女性に逆らえないよね、私たちの世代って。ポイントじゃなくて稼いだお金だから良いけど。

 危険だ。

 と悲しく思ったところ、月面で意外にも現地人採用の受け皿になる。さすがに要員すべてをバイオロイド兵で賄うわけにも行かないし、ポイントでキャラクターを呼び込むのもポイント的に無理があったのだ。おかげで、忠誠心には問題がない人材供給源となりつつある。ポイントもかなりたまってきたけど、戦争が始まるとなると色々溜め込んでおきたいのだ。ちびちびと増員も増強もしているけど。

 そして、あれよあれよという間に、孤児院開設から1年余りで貧困層の多くなってきたサイド3へ拡大したところ、一人の10歳の女の子が入ってきた。名簿の名前を見て驚きましたよ。

「トール!ここにいた!」

 ロングヘアーの黒髪をなびかせながら、気の強そうな14、5歳の女性がホテルの部屋に入ってきた。後ろから『待ちなっ!』と声質と内容の相反するモモ声が追いかけてくる。

「ねぇ、ごっ」

 危険だ。

 言葉にならないままヘッドロックを決められた。後ろから追いかけてきたらしいブロンドウェーブが顔にかかるかと思った瞬間、女性の声で「ごっ」と女性の口から出たとは思えない内容と共に、首を決められたまま振り回され、そして床をころがされた。顔を上げると黒髪と金髪のCQC。何の冗談だ。

「シーマ!アンタいい度胸してるじゃないかい!」

「ああ!?クソ姉、其処に直れ!」

 初の原作キャラ遭遇がシーマ様とは……。私、紫ババアとは距離を置きたいんだがなぁ……。とか思っている間にも、ブラックラグーンでのレヴィVSロベルタばりの乱闘は続く。ああっ、カーペットが……

「お、面白い事やってるじゃないの」

「あ、張さん」

 ロングマフラーにコート姿の東洋人が開いたままのドアをノックして入ってくる。シーマは不思議そうな顔を、バラライカは露骨に顔をしかめた。

「終わったよ。ローゼルシアは予定通り暗殺した。まぁ、あの御兄弟から離れないからちぃとばかり骨だったが。アストライアとかいうのの監視はエラ張った女がやってるが、ま、シロウトだな。シェンホアを置いておいたからいつでも接触できる。あと「お父さん」から伝言だ。銀髪から会食に誘われたと。お前さんを士官待遇の副官として置かせることに同意したそうだ。なにやった?」

「まぁ、色々と。ありがとうございます。それで、二人は?」

 張維新は口元をゆがめて言った。

「何処から見てもクソッタレな爺と予定通りに港の荷物に入ったよ。あとはマス家とやらがどうにかするだろう。なぁバラライカ。若くなるってどういう感じだ?俺からするとあの暑苦しい青春時代に戻るなんて考えもしたくないが」

「女にとっちゃあ夢心地だよ、ベイヴ。トール、あんたこいつにもいっちょやってくれよ。サングラス外すとかわ……」

 私は首を振った。張さんの目が怖い。

 危険だ。

「姉さん、何度も言っていますが年齢変更に関しては本人の同意が必要です。勿論私から御願いする場合もありますが」

「願いなよ」

「……張さん助けて」

「はぁ、素がこんな性格だとはな。ロアナプラから離れてこっち、宇宙くんだりまでくりゃ人も変わるってか?ダッヂが見たら目ぇ回すぞ」

 泣きたくなった。

 うん、危険だ。



 さて。ここまでくれば原作どおりで進行させて問題はないだろう。予定外だったのは動力鉱石エンジンの大型化が意外に進み、ザク程度の出力(900Kw)であれば出せるエンジンが出来てしまった事で、MSの核動力が動力鉱石化する可能性が出てきたところだ。核爆発が起こらないから良いんじゃね、と思ったら、現状動力鉱石は月でしか産出しないから、月面争奪戦なんて言うものの信憑性が増してしまったのだ。

 思想的にやばいところまで追い込まれているジオンは、眼下の光景を見るまでもなく連邦との対決姿勢を強めていくだろうから、もはやギレンとキシリアを暗殺するだけで事は済まない。メディアを抑えるサスロ・ザビも命を助ける事を考えたが、事態が複雑化しそうなのでやめた。むしろ暗殺の証拠を握ってドズル、ガルマに提示して正統ジオン結成フラグを作った方が良いと判断したのだ。

 戦争が不可避で、もし動力鉱石エンジンしかMSの動力足り得ないとするなら、戦争は月の争奪戦になる。これはまずい。何がまずいって?月の争奪戦なんてやらかされた日には、私たちの存在がばれる可能性が高くなるからだ。

 なので、M&Y(ミノフスキー・イヨネスコ)学会に緊急出資し、常温小型核融合炉の開発にペイをしました。いや、動力鉱石エンジンが月面企業のスタンダードになって以来、やっぱり学会に対する産業界からの援助は減り、ミノフスキー粒子の発見こそしたものの、やばい事になるところでした。

 次の問題はシャアの性格矯正なんですが……やっぱり、マザコンは元から断つべきなんでしょう。キシリアの動き次第で、こちらも対応策を考えて行きますか。

 その後、ジンバ・ラルの暴走でアナハイムが史実どおり、反ザビ家のダイクン派に援助を仕掛けるが、キシリア機関がこれを暗殺。キシリアの手が間近に迫っている事をあらためて実感したマス家は、ヤシマ家の勧めどおり、サイド5、テキサス・コロニーに落ち着いた。





 テキサス・コロニーに落ち着く可能性が高かったため、ヤシマ家が競売に取り掛かった段階でテキサス・コロニーに遊撃隊を配置する事が出来ました。これで、なんとかあの兄弟と接触できそうです。でも、手土産必要だよね。

 ということで私、トール・ミューゼル14歳は0072年のズム・シティの隔離塔を歩いております。三合会の皆様方にはお役に立っていただきました。まぁ、やっとギレン閣下と接触できてジオンに食い込めたので、私的には満足です。強面の東洋人メイドが頷きを返し、周囲を見回す。三年かかりましたよ、この塔に勤務する全員を手のもので固めるのに。

 さて、気張ってまいりましょう。息を整えて入室すると、ベッドに力なく横たわる女性に声をかけた。 

「アストライア・トア・ダイクン夫人ですね」

「……あなたは?」

 手を振り、体を起こす必要がない事を伝える。

「トール・ガラハウと言います。親衛隊に所属しています」

「……そう、ザビ家の方々はお元気?」

 悲しい女性だな。こんな時にまで心配とは。でも、ここでこうしていることが息子と娘の安全に直結しているから、母親としては満足なのかもしれない。でも、無理をしてでもここに二人をとどめておくべきだったと改めて思う。ジンバ・ラルはサイド3が危険だと思ったらしいが、馬鹿なことだ。却って安全なのに。サイド3にいる限り、ザビ家は彼らの安全を保障しなきゃいけない。それぐらい思いついてよさそうなものだけど。

「ええ、殺しても死なないぐらいには」

 そんな言葉は久しぶりに聞いたのだろう。アストライアは力なく笑った。

「まだお若いのに士官ですの?」

「ええ、実家が月の大富豪でして。金で地位を買ってみました。存外、自由なものです」

 窓の近くに寄り添って立つ。下を見ると、決まったパターンで歩く警護の軍人が見えた。軍帽を取り、上を見る。顔に大きな火傷の跡らしきもの。あらら、ゲルトさんまで来てらっしゃる。

「時に夫人、懐かしい人に会いたくありませんか?」

「もう、私はここから出る事は無いのよ」

 首を振った。

「薬、飲まないようにしていただけますか。出来れば微量ずつどこかにこぼしてもらいたい。私のところから何人かお世話のメイドが入っています。まず、それらが来たとき以外には絶対飲まないでください。印は……まぁ、全員似たようなピアスかイヤリングつけてますので区別簡単だと思いますけど」

「どうして?」

「微量ですが、毒が」

 アストライアは力なく笑った。

「入っていてもいなくても変わらないわよ。私、ここから出る事もない……」

「二人、ルウムにまで来ています。あなたの代わりの御遺体も御用意できますので、死んで出て行く事になります。夫人、出来れば同意してもらいたいのです。まぁ、同意なくとも実行するつもりではありますが」

 言葉を重ねたが、信じてはもらえないようだ。やっぱり連れ出すところまで行かないと信じてもらえないことを悲しく思う。もう少し信じてくれても……いや、一番近いところにいたのが陰謀好きの爺(ジンバ)にババア×2(キリシア、ローゼルシア)ときている。人間不信も仕方ないわ。

「楽しみにさせてもらうわ。こんなおばさんに親切にしてくれるのだから、うんと言わないとばちがあたりそう」

 トールは口元にのみ笑みを浮かべた。

「お任せください。真夏の夜の夢と思っていただいて結構です。まずはお体を直してください」


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 うまくチートを出せないのが悩み。戦争始まるまで我慢か……



[22507] 第05話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/20 02:35

 宇宙世紀0073年。

 トール・ガラハウ15歳の春である。現在、私がいるのはザビ家主催の夜会。美々しく着飾った男女が詰め、談笑している姿がそこら中で見られるが、あまり良い感じはしない。ある一角を避けている事が丸わかりだからだ。

 鈍い傷跡の大男、赤毛のドレス女、タキシード姿の銀髪デコ。ザビ家三兄弟である。

 私は微苦笑とため息を漏らすと、その三人に近寄った。

「これはガラハウ家のご子息。良くパーティーにいらっしゃいました」

 うわっ、本当にうちの姉さんと同じ声だよ。顔を紫色のマスクで隠してこそいないものの、どうみても20台には見えない女性、キシリア・ザビが口を開いた。色々と邪魔をさせてもらっているから、あまり受けは良くないようだ。アストライアの脱出も、ギレンに話を通していたからこそ認めてもらったが、最後まで邪魔をする事を忘れなかった女傑だ。怖い怖い。何が怖いって?思い通りにならないとわかった瞬間、すべてを吹っ飛ばそうとするんだもん。

「いやぁ、キシリア様。その節は御面倒をおかけいたしました。考えもせずに花火をぶっ放そうと考える狐のお相手はそろそろ御免こうむりたいのですけど。うちの兄さんと姉さんたちが大喜び過ぎます。傍目から見ていると相手がかわいそうでかわいそうで」

 キシリアの唇が引きつる。既にキシリア機関―――秘密警察とテロリストを足して割らない存在―――は三合会と遊撃隊相手に実行部隊が殲滅されているため、史実では起こったグラナダ市長暗殺事件やキャスバル暗殺未遂(本物のシャア・アズナブルが巻き添えを食った事件)が起こっていない。もっとも、歴史の強制力か何かは知らないが、アストライアと涙の再会を果たしたのに、キャスバルはジオン入国を決意。入学許可証に身分証明書を残らずキャスバルに奪われた本物のシャア・アズナブルは、月の連絡ターミナルでホームレスに落ち込んでいたところを保護。現在は別名のエドワウ・マスとして太洋重工デプリ回収グループで働いている。

 あれか、母親の言葉で充分だし、やっぱり子供にはショックだろうと、死去直前に撮影しておいた、いっちゃったトロツキーなジオンの姿を見せなかったのがヤバかったのだろうか。だけどなぁ、あれはトラウマものでセイラさん夢に見そうだしなぁ。地球に飛ばされてララァとあったあたりで仕掛けるのも手かもしれない。

 サイド3内部も例外ではない。アストライアをローゼルシアの死後確保していたのもキシリアだが、こちらは最終的にローゼルシア邸すべてが爆弾で吹っ飛んだ。張さん曰く、「すまん、火が強すぎた」らしいが、コロニー外壁にまで影響がありそうだったのはさすがに肝が冷えた事を記しておこう。

 現在、張兄さんとソフィー姉さんはポイント獲得を争うかのようにニュータイプ研究所に襲撃の力点を移し始めている。そのため、このごろニュースでサイド6の医療施設が襲われる報道が絶えない。頭が痛い事に、とある研究所を襲撃したところ、合計13体の受精卵を確認。既に培養が進んでおり、全員女の子で、胎児から0歳児程度まで、中には10歳児程度まで成長していた個体もあり、このまま誕生させる他は無かったなんてことがこの前あった。

 書類を確認するとエルピー・プル型の『量産型』がプロトタイプと合わせ合計12体。女性体なのは人間として安定しているのが女性で、後々薬物で調整するのが好都合だからだそうだ。そしてそのプロトタイプとしてセレイン・イクスペリ型が1体。システム・セイレーネとか冗談じゃない。

 襲撃を受け続けて人工ニュータイプの確保(この時代はまだ、デザイン・ベイビーぐらいの認識だが)に目処が立たなくなったのは良いが、その代りに既存のニュータイプの確保と彼・彼女らの機密保持が固くなってしまった。おかげでクスコ・アルやマリオン・ウェルチなどの所在が不明。さっさと確保してあげたいところだ。それに今回はっきりしたが、モノアイガンダムズまで含まれるとなると痛い子アイン・レヴィ君もどこかにいるはずだ。


「人の財布に手を突っ込むのが大好きな様ね、坊や」

「怖がりなおかげで、なんでもかんでも手を突っ込まざるを得ない人とはあんまりお付き合いしたくないのですが」

「キシリア、よせ」

 ギレンが話に割って入った。

「ガラハウ君、キシリアのお遊びの相手と言うには、少々花火が大きすぎるような気がするのだが」

「それも楽しい暇つぶしなんですが」

 ギレンは鼻で笑う。どうやら、私の行為を、結局他の有象無象と同じくザビ家の権力目当てのものらしいとでも思ったらしい。キシリアのお遊びに茶々を入れていれば、対立するギレンとの友好関係を築きやすくなるとでも思っていた、とでも考えたのだろう。

「我々はもう、友人ではないかね?」

「友人と言うなら愛称で呼びたいものです。でも、閣下。あんまり本音を表に出さず、他人に推測をさせるのは、処世術としては上手くありますが、役に立つかどうかは微妙ですよ。経験から言わせていただきますと」

 ギレンの表情が凍る。どうやら、他の違いには気づいてもらえたようだ。

 ギレン・ザビは優秀な政治家だ。彼はジオニズムに染まったジオン国民を束ねるために、ジオンを演じ続けた。コロニーに毒ガスを注入し、それを地球に落とし、自分についてくるもののみを優良種と称し、逆らうものを悪と断じ斬り捨てた。実際のところ、死の直前のジオンを見ていれば、ギレンの唱えた優生人種生存説は、ジオンの説の当然の帰結になるだろう事は簡単に推測がつく。

 どこかで似た話を聞いた事があると思っていたら、ジオンが自分をイエスになぞらえ、息子キャスバルの誕生を聖誕に擬したと言う記載を見てから、彼らは結局のところ、モーセになりそこなったのだろうと今では思うようになった。考えてみれば、ハマーンもシャアも、ギレンのなりそこないなのだ。

 そして、彼らは結局のところ偽者だ、十戒を与える神を持たないのだから。

 さらに喜劇的なのは、ダイクン派とザビ派との争いはイデオロギー上の対立のはずだろうに、『ザビ家』、『ダイクン家』などで争う王朝対立の側面が出まくっているところだ。本来なら、思想の善悪をもって対決すべきところだし、そもそもニュータイプとして革新した人類が古い血族意識に囚われるなど噴飯もいいところ。だからこそ、ギレンがジオン以上のジオニズム主義者である事が疑いをもてなくなって来ると、その批判はジオン暗殺と独裁に絞られるようになった。

「君は、其処までふかく切り込んで来るのか」

「正直なところ、あなたの理想は如何でも良いです。協力する事で、ジオン内で私が動ける事によって生ずる利益の方に興味があります」

 ギレンの表情は変わらない。

「君の利益とは何かね?」

「興味・関心を満たすこと、ですかね。知り合いも多いので、彼らの生業も確保したいところですし」

 ふと見ると、ドズルが照れくさそうな顔で壮年の紳士に話しかけているのが見えた。

「ギレン閣下、弟さんにぞんざいな口調をかましてもよろしいでしょうか?」

 ギレンの表情が訝しげになるが、うなずいた。

「ドズル閣下!ゼナ様に言いつけますよ!」

 びくりと背を伸ばすと相手をしていた紳士と共にこちらへやってきた。怒り心頭と言ったところの顔が、となりの兄の顔を見ておどけた不気味な顔に変化する。妙になよなよしい声で隣の紳士を紹介してくれた。マハラジャ・カーン少将。今度アクシズ建設の責任者として赴任するらしく、本国に残す家族の世話を申し出ていたらしい。世話。娘愛人としてよこせが世話。

「はは、冗談がきつすぎるぞ、トール」

「いえ、冗談で済めば御の字です、閣下」

 いきなりきつい言葉を飛ばしたが、実はドズル閣下との仲は悪くない。「戦争は(ry」など、色々と基本的な考えで合うところがあることがわかると、親衛隊所属にもかかわらず色々と連れ歩いてくれるので、結構軍の内部にも顔が利くようになった。勿論、秘密裏に始められているMSの開発計画で、月の大富豪出身と言う経歴を生かして性能の良い新型動力鉱石エンジンを供給してあげていることもプラスに働いている。

「紹介いただけますか、閣下」

「おう、マハラジャどの。こちらはトール・ガラハウ大尉相当官。兄貴の副官を勤めてくれている。月面『N1』出身でな。色々と月との交渉では便宜を図ってもらっているのだ」

 心労で疲れ果てているのだろうか、沈痛そうな面持ちをこちらに向けてくる。だが、相手が14,5の少年とわかると表情を緩めた。この人も人が良すぎる。背景を洗っていてわかったのだが、この人、著名な宇宙貿易商として、ジオンの『研究』に出資していたのがそもそものかかわりらしい。宇宙を航行する貿易商、しかも会社社長と言う事で、ここにいる誰よりも連邦政府の実力を承知している。

 だからこそ、友人の作ったジオンと言う国家と、巨大な連邦との間でなんとかジオンを保とうと四苦八苦する事になるし、自分の存在がダイクン派とザビ家の対立になりかねないと判断すると、娘を犠牲にすることもやむをえないと判断した。戦争のない時代の首相とかには最適の人だろうなぁと思う。ギレンも、そこを考えてアクシズに赴任させたのじゃあなかろうか。

「本日は娘たちも連れてきておりましてな。エレーネ、ハマーン。御挨拶しなさい」

 後ろに控えていた二人の女性―――一人は18歳ぐらいの、もう一人は10歳ぐらいか。小さい方の女の子がハマーン閣下だろう。これがあの有名な『萌えハマーン』かとしげしげと見つめると、こちらを見つめて笑い返してきた。いい子だなぁ。こんな子がああなるんだからやっぱりシャアは死ぬべきかな、などと考えてしまう。

「何を見ているの?宇宙?なにか爆発っぽいのがたくさん見えるよ?」

 恐ろしい子!この子、やっぱりニュータイプの素質アリまくりだ……なんて事を考えていると、即座に反応したのが紫ババア。マハラジャに近づこうと動くが、機先を制して話しかけてみた。

「二人ともおきれいですね?僕はトール・ガラハウと言います。ギレン閣下の副官なんてしていますが、やっているのは話し相手とお茶の用意がせいぜいです」
 
 その会話に望みを見つけたのだろうか、ドズルが話に割り込んできた。

「いや、こいつは頑張ってくれていてな!我が軍の……」

「ドズル!」

 ギレンが怒鳴る。そりゃそうだ。こんなところで最高機密のMSの事なんぞバラされた日には取り返しがつかなくなる。どこに連邦の耳があるかわからないのに。

 けれど、これはいい機会だ。ギレンに近づくと裾を引き、二人で話が出来る距離まで引き寄せた。ここぞとばかりにドズル、キシリアが近づくが、仕方がない。

「マハラジャ閣下はアクシズに赴任の予定でしたよね?」

「……君がそれを何処で聞いたのかは聞かないことにしておこう」

 ありがとうございます、と一礼してから続けた。

「ダイクン派を抑えるためにもマハラジャ閣下をアクシズに飛ばすのは問題ありませんが、家族を人質とするように受け止められては却って逆効果と思います。私の方で閣下の御家族を引き受けたいのですが宜しいですか?」

「それで君に何の得がある?君の事だ、何らかの目的があるのだろう?」

 喰えない人だ、本当に。提案に裏があると見抜いてくれているし、しかも外していないんだから。まぁ、いきなり現れた軍人の配属先を知った上でこんな提案していれば当然そう思うだろうが。さて、なんてごまかそう。

「キシリア閣下に一撃くわえたいのが本音です。あの人、このごろニュータイプだと目をつけた人間を片っ端から研究所送りにしてヤバい研究をかましてくれているので、一部問題になっているんですよ。内務省から上がっていませんか?最近、マハルやタイガーバウムといった貧民が多いコロニーで、行方不明者が多発している件です」

「あれがキシリアのせいだと?」

 私はうなずいた。

「ええ、もっとも、デコイやダミーも含んでいますから結構な件数になります。内務省からの報告の数が、閣下が問題になるほどあがっていないようでしたら……内務省にキシリア閣下のシンパがいる事になります」

 ギレンはため息を吐いた。

「まだ不足だな。内務省の件など、とうに承知しているはずだろう?今になって君がキシリアに手を出す理由にはならん。マハラジャの家族になにか思い入れでもあるのか?」

「否定はしません。かわいいですし。ただ、うちの孤児院が数回襲撃未遂を受けているので、これを機会に、とも考えています。実はアンネ姉さんとシーマ姉さんからの突き上げがありまして」

 うそではない。ただ、この時キシリア機関の相手をしたのがホテル・モスクワ遊撃隊ではなく三合会の方々であるため穏当だっただけだ。遊撃隊を投入していたら恐ろしい事態になっていたに違いない。その上、最近は孤児院のあぶれものやシーマ姉さんの運送会社が元となって結成されたPMCガラハウ社(史実のシーマ艦隊)までそれに加わった。これまで活動範囲ではなかった宇宙空間や港湾部でのドンパチまで対応できる。そして孤児院出身のシーマ姉さんがこれを聞いたらどういうことになることやら。

 ギレンは腹を揺らした。この人にしては珍しい。

「君にも苦手なものがあるか。いいだろう。だが、いくらかの面で見返りは期待したい」

「具体的には?」

「02がエンジンの小型化に手間取っている。君のところでも考えてもらいたい。それに、あまりやりすぎるな。ニュータイプはキシリアのおもちゃにしておけ。あ奴に面倒な事を起こされては適わん。それに、防諜をしているのはあ奴だ」

 うなずいた。だが、これでは今度はこちらが支払いすぎだ。しかし怖いなこの人。ニュータイプ関連での争いって見抜いているよ。

「じゃあ、後一つ」

「言ってみたまえ」

「マハラジャ閣下の下にはユーリ・ケラーネ中佐を」

 ギレンはうなずいた。よし、これでアクシズでの反乱フラグが消えそうだ。エンツォの奴には地上で苦労してもらおう。さて、ここでの用事は済んだ。次の仕事に向かおう。




 移動するエレカの中でここ数年の自分を改めて振り返ってみた。
 
 第二次コロニー建設計画の縮小は行われたが、計画そのものは継続し、0070年、サイド7に4基のコロニーを置くことに成功している。続く第3次コロニー建設計画は、サイド7の拡張と共に、火星、木星に居住用コロニーを建設する事で合意している。

 史実は、コロニーの建設ラッシュで生じていたバブルがサイド3の債務放棄要求ではじけたために計画は縮小・停止されたのだが、この歴史では月面極冠都市(0071年に恒久都市『N2』~『N4』が完成したため、名称は『Nシスターズ』に変更)が出資を行っているため、規模こそ縮小されたが継続している。この規模縮小は、60年代後半から開始された、連邦宇宙軍整備計画に予算を取られたためだ。このため、だんだんと景気は冷え込んできている。

 MSの開発は史実どおりに進み、現在、MS-02が開発中だが、やはりエンジンの大きさと出力の問題で開発が難航している。核融合炉を搭載した場合、エンジンサイズが巨大になりすぎ、動力鉱石エンジンを搭載した場合は出力が所定の値を満たさないのだ。ギレンの今回の申し出は、ザクの出力を出せるエンジンを供給するいい機会になるだろう。

 火星のテラフォーミング技術は、やはり学会からの批判にさらされたが、なんとか実用の目処がつけられそうだ。惑星の核に対するダイナモの発動こそムリだが、火星の住環境を整え、月面と同じく恒久都市を建設するには銃分らしい。こうした、テラフォーミグに対する熱の高まり具合は、準備段階としてのコントリズムに対する支持にもなってきており、各サイドの自治共和国化は意外に早く済みそうだ。

 これらの事態に伴い、マーズィムの主張する通りにサイド3の経済も回復しつつある。工業用コロニーの設置予定がサイド7にされたものの、現状で完結した無重力環境で工業生産を行えるのはサイド3の値がやはり大きい。サイド3は月面との交渉で得た資源を、これら工業製品の生産に振り分けて貿易収支を黒字化した事で、民生が一時的に安定化し、特に他サイドとの緊張関係に終止符が打たれたことはいい変化だった。

 しかし、最近、貿易収支が黒字化したにもかかわらず、民生が次第に傾いてきている。特に問題となっているのは民生用品の価格が少しずつ上がっているところだ。これはつまり、本来民生用品に用いられるはずの資源が別の用途に用いられている事を示唆している。

 まだムサイやチベの設計が終わっていないはずなのに、ダーク・コロニーでもつかっているのか?MSの生産用設備の拡大は確認しているし、今は低出力ジェネレーターを装備したモビルワーカーMW-01、02の生産が開始されたと言うが、月面が購入しているから収支は出しているはずなのに……

 ゲルトたちに頼んでダーク・コロニーに潜入してもらう必要があるかもしれないな。こういったときに金属と融合する事で情報を得たり、強化や支配を行えるブラスレイターは有用だよね。ノーマルスーツ無しで宇宙に出れるところもいい。

 そんなことを考えているうちに車が目的地についたようだ。





「失礼します、トール・ガラハウ大尉相当官。参りました」

「良く来られた。好きなところに掛けたまえ」

 老年の男性、デギン・ソド・ザビ公王は言った。

「あの3人の様子は如何だね」

「いつもどおりかと。ドズル閣下とキシリア閣下はマハラジャ閣下に御執心のようです」

 デギンは荒々しく鼻を鳴らした。

「あのバカどもめ。下手にマハラジャに手を出せばどうなる事かぐらい想像がつこうに」
 
「一番落ち着いておられたのはギレン閣下ですよ」

「あいつの場合、手を出さん方が却って不気味だ。手を出さんことそのものが手を出している事になる。まったく、独裁者が不気味に薄ら笑いを浮かべながら立っていればあらぬ事を考える奴が出てくるぐらい想像できんのか」

「そこのところも承知の上でやっていると思われますが」

「なおさら性質が悪い。デラーズなど狂信に近いのだぞ?」
 
 なるほど。やはりこの人、良く見ていらっしゃる。息子二人に娘一人がどれもタイプの違う暴走機関車ともなれば嫌でもそうならざるを得ない。それに、キャスバルに焚き付けられたとはいえ、ガルマにもその気があるし。

 デギンはそんな私の胸中を別の意味に受け取ったようだ。

「やはり、起こるか」

「ええ、間違いなく」

 私は立つと窓際によった。窓と言ってもスクリーンで、画面上には大きく月の裏側が映し出されている。月の裏側にあるL2ポイントからは、月にさえぎられて地球は一年に2ヶ月しか見えない。

「開発中の03が実用段階に達し、改良型が出来、数量が確保できれば。必ず」 




[22507] 第06話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/21 09:52

 宇宙世紀0078年2月。開戦の一年前である。
 本来ならこの年、ミノフスキー博士が連邦への亡命を企てて失敗するのだが、この歴史ではそんな事はなく、ミノフスキー博士が無事、連邦(というか、フォン・ブラウン市のアナハイム社へ)に亡命しました。

 キシリア機関をいじめすぎたおかげで、どうやらキシリア機関、亡命計画を入手するのが遅れてしまったようで、月で起こるはずだったシャア(ジオンの軍籍簿にはこの名前で登録されているので以後、この名前で)と黒い三連星VS連邦のプロトガンキャノン隊との戦闘は起こっていません。けれど、連邦に入っているシトレ大将からの連絡によると、ア・バオア・クー宙域でのMS-04の試験飛行の映像だけではなく、様々な映像データ(グフまであった)が、やっぱり諜報部によって漏れているとの事。バランスを取るのが難しくなってくる可能性が出てきました。

 ジオンの外交政策はマーズィムの目玉である火星のテラフォーミングが、第一段階の太陽光反射ミラーの設営および、技術者の居住コロニー設置工事に入った事でなぜか安定化しています。どうやら、ジオニズムはともかくコントリズムの提唱国として、貴重な無重力工業製品の産出サイドとしてジオンの立場が地球圏の中で安定化して来た事によるものらしく、完全に連邦よりなサイド2ハッテとはまだ険悪ですが、それ以外のサイドとは(特に歴史どおりサイド6とは)友好関係が生まれてきました。

 これを受けてギレン閣下は優生人類生存説の発表を控えてくれました。来るべき戦争においての兵員供給源として、友好的なサイドからの義勇兵を受け入れる準備を命令しています。おかげで、それら義勇兵の訓練を担当する事になったデラーズ大佐の親衛第二艦隊はおおわらわです。

 かくいう私はといいますと、年齢が20になり、MSの操縦もベテラン・パイロット並にこなせるようになった事で、ギレン親衛隊のMS部隊の隊長を拝命しました。ギレン閣下いわく、「前線に出る事は無いが、新型MSの戦力化を優先して行え」との事でした。

 目前に迫った一年戦争を前にしたジオン公国軍の戦力は、史実と比べて後方戦力が充実化してはいますが、主力艦艇であるグワジン、ザンジバル、ムサイ、チベなどの各艦はおおよそ史実どおりの戦力です。これは、戦力の拡充を行えなかったというよりも、これらの艦艇を格納していたダーク・コロニーの許容量の問題でした。

 けれど、これらの戦闘艦艇を支援する輸送船舶の方はかなり層が厚くなっています。一年戦争時、これらの支援艦艇は合計208隻、パプワ級が80隻ほど、パゾク級が100隻ほど、他がヨーツンヘイムに代表される貨客船改装型でしたが、これにくわえて箱型輸送船(準コロンブス級)が50隻ほど加わっています。

 MSの方は、MS-04が予定通りツィマッド社のEMS-04ヅダとのトライアルに勝利しました。改良発展型のMS-05、ザクⅠが公国軍制式MSとして生産されていましたが、昨年から改良型のザクⅡへと生産の主力が変更されています。

 さて、ジオン軍のMS生産が開始された事で、私たちの勢力もそろそろ本格的な戦争参加準備を整えるべく、戦力の整備を開始しています。親衛隊第4大隊が私、トール・ガラハウ中佐の率いる部隊ですが、ギレン閣下の言うとおり、この部隊は完全に新型MSの試験運用部隊として用いる事にしました。

 具体的には第一中隊にプロトタイプグフ、プロトタイプドムを配備。コロニー内に設営した地球環境そのままの演習場で実験を行い、ここでの実験結果はジオニック、ツィマッド両社にフィードバックされます。特にペイロードが多く発展の余地があるドムは、宇宙空間運用型(リック・ドム)が既に試験段階です。残り二個中隊ではザクⅡの武装強化案を現在進めています。



 第06話


 あまり、技術的な発展を無視したMS投入をして戦争を混乱させたくない、というのが本音です。しかし、目の前に広がる『N1』地下の開発ブロックでは、現在の技術段階を考えると恐ろしい形の部隊が出来つつあります。

「中佐!」

 声をかけてきたのはアサギ・コードウェル少尉。既にギレン閣下から「親衛隊の第4大隊とお前の私兵(PMCガラハウ社)は好きにして良い」、というお墨付きも戴いていますし、連邦軍の作戦本部長にまで昇進したシトレ大将閣下からは、第17独立部隊という名前で軍籍を頂きました。混乱するので、両軍共に階級は同じと言い渡してあります。

「どうしました?アサギさん」

「プラズマ・リアクターの出力向上に成功しました!これで、ゲシュペンストシリーズはすべて再現可能です!ご機嫌に動いてくれるMSですよ!」

 MSではなくPTなんですがね。こちらもうれしくなってくるくらい、明るい声。やっぱりこのアストレイ三人娘には癒される気持ちがします。なでなでもふもふするとセクハラですが。技術者兼パイロットで、しかもそんなレアな組み合わせを持つ人が三人いるのは、正直とても有難い。この3人に扱えるMSということは、当然、訓練次第でオールドタイプも戦果を挙げられるMSということになります。開発に際しても、視点の持ち方がそれぞれ異なりますから問題点の洗い出しも早い。三人寄れば文殊の知恵、とは良く言ったものです。

 真面目な話。ジオニズム最大の欠陥と私が考えているニュータイプの特別視を排除するためには、ニュータイプをオールドタイプが打ち破る必要がある、と思っています。確かに人の革新というものは非常に魅力的な考え方ですが、それは内面や思想の段階で成されるべきで、決して敵MSの撃墜で証明されてはならないからです。それでは、ニュータイプに対する認識は、カーディアス・ビストの言うとおり、単なる撃墜王でしかありません。

 かといって、ニュータイプを打ち破ったのが別のニュータイプや強化人間、果てはデザインベイビー・コーディネイター、別の生き物イノベイド、被爆者イノベイターではもっとたまりません。先天的にそうなるのは論外ですし、後天的にそうなるのは改造人間と変わりません。「特殊な力を持っている者」を否定するためには、「持ってない者」がやるしかないのです。とかなんとか考えたところで、結局のところ人外設定なんて付け加えるのがむかついていただけだったと思いなおし、反省しました。ちくしょう。チートならチートと言い切ったほうがすっきりするのに。


 ああ、だからみんなGガンダムは好きなんだ。


 さてそんなわけで、誰にでも汎用可能なもの―――技術で、しかも人体に手をくわえないで行う制限を自分に課してみました。これも縛りプレイ?まぁ、それはさておき。

 まず機体の高性能化が必要になるわけですが、単純にMSでそれをやろうとなると技術的に模倣されかねませんし、鹵獲された場合、ある程度の道筋をつけてしまうことになります。ある程度の道筋をMSでつけてしまえば、最悪、一年戦争はともかく、グリプスやネオジオン抗争での流れが読めなくなります。気づいたらティターンズがジェガン使い、エゥーゴがガンイージ、ネオ・ジオンがバタラだとぅ!?なんて目も当てられません。

 となると、MSとは別系統の技術でそれを実現する必要があるため、私が手を出したのがPT、パーソナルトルーパーでした。

 ある程度までMSと同じ技術(エンジン周りが核融合炉)であるものの、介入を行い、特にニュータイプ同士の戦闘に割り込むとなると、MSとは隔絶した性能、別個の開発経路が必要になります。これをあくまでMSという枠内でやろうとすれば、最低限、スモークラスの機体を投入する必要がありますが、縮退炉なんて渡せません。

 ということで、私たちの部隊―――月面に本拠地がありますのでルナ・ジェネレーションズ(略称LG)と名づけてみました。液化ガスかよ、とか言う突っ込みは無しの方向で―――は、PTを運用することとしました。ゲシュペンストでも、運用環境の広さや取りまわし、それに「究極キック」が可能な運動・装甲などの性能を考えれば、グリプス戦あたりまで活躍できると考えています。

 ただ、顔がジム系統なので連邦側での運用しか出来ませんが……ジオン側でやるときは如何しよう?

 そのため、アサギさんの報告で次にやる事はジオン側で介入する際に用いるPTの開発、ということになりました。あ、ジュリさん?なんでしょう。

「中佐、宜しいですか?連邦のヤン・ウェンリー大佐がいらっしゃいましたが……」

「あ、すいません。時間ですね」

 忙しくなってきました。ちなみに、彼女ら三人を最初に呼んだ動機の一つが、眼鏡っ子好きなのはここだけの秘密です。考えてみたら眼鏡キャラって使える人多くないか。うん、参考にしよう。



「すいません、遅れました」

「いや、好きにさせてもらっています」

 副官のグリーンヒル中尉と共に、紅茶を楽しんでいたらしい魔術師が言った。グリーンヒル中尉の表情を見るに、どうやら、お邪魔をしてしまったらしい。

「こちらの工廠からのサラミス級の受け取りがそろそろ始まりますので、それにあわせてきましたが、どうしました?」

「いえ、連邦軍が考えるジオン軍の迎撃作戦がどうなっているかを確認したかったのです。さすがに連邦の目もありますので、シトレ閣下との電話だけではどうにも行きませんので」

 なるほど、と魔術師はうなずいた。

「現在、地球のジャブロー工廠などで建造・格納されているサラミス、マゼラン両級には90mm対空砲の増設工事が始まっていますよ。連邦軍の頭の固い人たちも、既にある戦訓を使う分には文句が無いようですし」

「じゃあ、MSの認識も?」

「ええ、ゴップ大将でしたら、専門は軍政や兵站ですので難しかったと思いますが、シトレ閣下の音頭とりなので、ビュコック中将から『占領の出来る飛行機』やら『歩兵+戦闘機』なんて言葉を出してもらいました。一部パトロール艦隊ではコンバット・ボックス陣形の訓練も始まっていますから、被害は抑えられると思いますが、レーダーが使用不能なのはやはり、まずいですね。ジオンの状況は如何でしょう」

 私はうなずいて、親衛隊士官として知る情報を開陳した。

「公国軍のムサイですが、オプション装備として艦体後方のスペースに、対空砲付のMSの追加搭載用カーゴが増設できるようになっています。可動式の90mm対空砲が両舷12基、MSの搭載量は8機増えます。MSの生産量自体は来年までに月産400機程度にまで増えるでしょうし、極冠都市連合は占領を避けるために部品単位、もしくは政治的にまずければ完品で大体月に50-100機は供出させられると思います。グラナダが占領下に置かれれば、数はやはり増えます」

 魔術師はうなずいた。

「難しいですね。コロニー落とし、仕掛けますか?」

「恐らく。サイド2自治政府の外交態度が改まらない限りは歴史どおりに行われると思います。これについては如何し様もありませんでした。せめて、サイド1、4、5が最初の攻撃目標から外されたことと、これら3サイドの自治政府が中立宣言を出しますので、戦域と人的被害が制限できるのは有難いところです」

「サイド6はどうでしょう。サイド5は連邦側とジオン側に真っ二つに分かれていますが」

「正直、ルウム戦役は歴史どおり起こると思います。シトレ閣下が第一軌道艦隊の増強をしましたし、新型砲艦の配備を進めましたから、ジャブローから打ち上げられる艦艇と合わせれば、ギリギリで阻止、もしくは一部構造体の落下になると思います。落下場所が問題ですが……。ただ、サイド建設の際に、コロニー8基単位で小行政区をつくるようにさせましたから、最悪、十数基ほどの損害でどうにかなると思っています。サイド6は?」

 ええと、と考えるそぶりを見せ、数秒逡巡したのちに魔術師は困ったようにフレデリカを見た。ため息と共にフレデリカが報告を開始する。

「ランク政権は当初の予定通り、もし開戦するなら開戦と同時に中立を宣言する旨、連邦に通達がありました。恐らくジオン側にも」

「ええ、来ています」

 やはり、サイド2に対する宣伝工作を強める必要があるな。小行政区ごとに仕掛けていって、首都島行政区を孤立させるような形に持っていけば被害が抑えられる可能性がある。その後いくつか確認事項をチェックした後、ヤン大佐は予定通り、『Nシスターズ』を離れました。






「坊ちゃん!」

 魔術師との話し合いから部屋を出ると、けたたましい野太い声が私を呼んだ。デトローフ・コッセル中尉だ。

「中尉……流石にこの年で坊ちゃんは……」

「あ、すいやせん坊ちゃん」

 謝るが、直っていない。

「どうしました?」

「いえ、艦隊の奴らを代表してお礼を言ってこいといわれやして。ほら、新型の」

 私はああ、とうなずいた。PMCガラハウ社は先月、正式にジオン軍へと組み入れられ、第二艦隊のデラーズ大佐の下で独立部隊となっている。編成はザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」およびムサイ級3。PMC出身者たちは「ジオン海兵隊」という便宜的な名前を与えられているが、やはり傭兵上がりだけあって礼儀だとかには疎い。そこがデラーズ大佐はともかくとしても、その下の幕僚たちと仲が悪い結果となっている。

 扱いに困ったらしいデラーズ大佐が相談を持ちかけてきたので、独立部隊編成にして分けて運用する事を提案してみた。特に、戦争が始まれば扱いに苦慮するだろう月面自治都市群の駐留・警備の戦力として用い、私の第4大隊も使わせてもらうことを話すと喜んでくれた。よほど困っていたのだろう。けど大佐、それってこっちも望むところなんですよ。

 表情は硬いし厳格であるが、それ以外のところではかなりデラーズ大佐は人気がある。ジオン軍創設以前、ムンゾ自治共和国警備隊以来の軍人で、民兵たちをまとめてきた手腕は確かだ。ギレン閣下に対する狂信ぶりは流石にこまるが、それだけが欠点なら、所詮民兵上がりのジオン軍では出色の、軍人らしい軍人と言える。

「私の第4大隊も居候させてもらいます。サイド3に戻り次第、ムサイにはカーゴ連結作業に入ってもらいますのでよろしく御願いします」

 ムサイ級の欠点と考えている対空砲皆無という状況を変えるため、艦体後部、両舷のエンジンの間。Ms出撃ハッチの下のスペースに、対空砲およびMS格納庫となるカーゴを設計してみました。これで、MSが4機しか搭載できず、対空砲の無さを補おうと考えたのです。長距離航行に備えた推進剤タンクが格納スペースと選択できますので、ドズル閣下からは喜ばれました。

「わかりやした!シーマ様も喜びます!」

 そう、この決定を下したときのシーマ姉さんのあの勝ち誇った顔と来たら!テキサス・コロニーからキシリア機関相手に三合会と交代でサイド3に戻ったソフィー姉さんのやることが今から怖い。髪を切り落としてもろにアフガン時代演出していらっしゃるから相手が悲惨極まりない。姉さん、やりすぎてジオンの防諜までどうにかしないでください。まだキシリアさんには舞台があるんですから。




 自室に戻った私のところに、地球に派遣した部隊からの報告が入っていた。

「トーニェィ、確保したよ。結構暴れてくれたけどさ」

 モニターに映るのは遊撃隊の面々。そしてそれを率いるバラライカ女史だ。

「ソフィーヤ・ガラハウ少佐。どうでしたか?」

「ジオンに戻る事は同意した。ビデオは見せたけれど、反応は薄いね。元々父親に対しちゃ嫌ってるらしい……あんなビデオ見せて効果あるのかい?」

 そうだった。この時点でのシャアはララァとあったとはいえ、まだニュータイプに対する認識が固まっていない。父親の人品性格をともかくとして、思想の方を理想化しているから、人品性格疑わせるのは却って逆効果だったかもしれないな。本物のシャアを殺したことなどなんとも思っていないし。

 アレか、グリプス戦役の時のシャアの考え方は、ララァ、ナタリー、ハマーンと続けざまに女の子をノックアウトして言った経験の賜物とか言う気か。なんて迷惑な能力。女食って能力上げるとかどこの鬼畜王だよ。しかし、これまでの経緯を考えるとあの男が本当の意味で変わるためには、妊娠していたナタリー中尉の死が必要と言うことになる。

「……仕方ありませんね。効果あるかと思ったんですけど。その様子だと、私たちの勢力に関する情報を与えただけ失敗だったかもしれません。申し訳ありません」

 ナタリー云々はともかく、流石に原作の中でも重要キャラ。そうそうこちらの思惑通りには動いてくれないか。こりゃ、下手に原作の流れに手を出すこと考えるよりは、原作キャラとのかかわりが低い事件を中心に介入していって、介入せざるを得ない事件だけに限定していった方が、主目的の人口減抑制にはいいかもしれない。なんのかんのいって、シャアもブリティッシュ作戦やルウム戦役では虐殺をしていないわけだし。

 それに、アストライアの死がザビ家への憎悪の引き金になった、じゃあアストライアを助けて変わるかと言えば、ジオンの後継者を以て任じる彼の性格からすると、そもそも自分たちが身分を変え、当然受けるべき処遇から外されている時点で変わりようが無いのかもしれない。下手に才能あって頭張れる分、本当の意味で泥啜った経験が無いと。

 ……うわぁ。困った。こちらの体制整うまで、下手に関わるべきじゃないな。

「ありがとうございました。ソフィー姉さん。帰還してください。あ、インド人の少女はシャアさんと一緒ですか?」

「みたいだね。今、うちの奴らが宇宙港まで警備してる」

「了解しました。下手な監視は見破られますから、別途こちらで用意します。ご苦労様でした」





 色々様々な勢力が、これから始まる戦争で最大限の利益を得ようと蠢く中。果たして自分の取った行動が利益をもたらすものかを念じつつ―――未来を知ってい介入できるからとはいえ、その介入が自分の思うような結果をもたらすと決して言えないところがもどかしいですが―――

 宇宙世紀0079年1月3日。

「父上、本日7時20分を以て、我がジオン軍は地球連邦政府に対して宣戦を布告いたします。既にドズル指揮下の艦隊は、攻撃を仕掛ける手はずを整えております」

 かつて、アニメで何度も聞いた事があるセリフ。実際に聞くとやはり違う。ただ、聞いた事があるためか、事前に考えていたほど緊張する事は無かった。隣に立つセシリア・アイリーン秘書官長が涼しい顔をしているのが不思議だった。

 ギレンの野望でのムービーどおりのセリフが延々と続く中、色々と変更点が出ていることに胸をなでおろす。

 グラナダを占領したキシリアは、占領軍を残したままサイド2首都行政区を確保。確保したコロニーの移送準備を進める。サイド3、月近辺のパトロール艦隊を撃滅したドズル艦隊はサイド2でキシリア艦隊と合流。連邦軍の反撃に備える。

 既にサイド1、4、5、6からは中立を宣言する旨が届き、連邦軍の行動が許容範囲内であればこちらから攻撃を仕掛ける事はない。宇宙での優位が確保できた段階で、自治政府と交渉を開始してこちら側に引き込む。

 こうするのが一番良い、というところまで準備を完了して尚、この言葉がギレンから出るまで安心できなかった。まったく、不機嫌で無口な冷たい独裁者と言うものは本当に恐ろしい。常識が通用しない可能性もあるし、原作で無慈悲に虐殺をしているのだからなおさらだ。

 デギン公王は提出された作戦案に了承を与えた。






「地球連邦政府ならびに、地球に住むすべての者たちに告げる」

 宣戦布告演説が、始まった。



[22507] 第07話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 23:30
 わかっていても、やはり辛い。

 死んだ人間の数が歴史どおりとは段違いであっても、やはり眼前の光景は我慢ならない。

 コロニーに対して毒ガスを注入し、目の前で1000万の人間が死ぬ光景をガラス越しに見ているなど。

「予定通りに行けばあと3時間ほどでブースターの設置作業が終了します。」

 ここは戦艦グワデンの艦橋。司令席にはデラーズ少将が、脇の参謀長用の席に着かせてもらっているのが私、トール・ガラハウ大佐。別に親衛隊の参謀長になった訳ではないが、以前まで参謀長だったノイエン・ビッター大佐が昇進の上、第3突撃機動師団長になったため、空席のままなのだ。ここのところ、中堅士官以上の人材が少ない、ジオン軍の無理が出ている。

 目の前の虐殺の光景に嫌気がさしてきたため、ため息を吐いてタバコをくわえようと(すいません、私はヘビー・スモーカー)したら、後ろでジオン軍での副官を勤めている、ケン・ビーダーシュタット中尉が咳払いをした。いかんいかん。ここは「マレーネ・ディートリッヒ」じゃなかった。

「ガラハウ大佐、不謹慎だぞ」

「申し訳ありません、少将。少し精神を落ち着けようかと」

 予定通りならこのブースター設置作業はキシリアの管轄だったはずだ。それが彼女の部隊がいないため、親衛隊がこの作業を行う手はずとなっている。まったくあのオバハンは。ブースターの輸送船だけ先行とか何を考えているんだか。権力闘争は戦線が安定してからにしろと。

 デラーズはため息を吐いた。どうやら、大佐といってもまだ若いため、いくらか割り引いて考えてくれたようだ。場を和ませるために従卒にコーヒーの手配を命じ、私にもタバコをゆるすという意思表示のために、葉巻をわざわざくわえてくれた。細葉巻が良く似合う。

「大佐、連邦軍はどのように動くと思う」

「サイド2宙域での戦闘はないと考えて宜しいでしょう。現在、被害は首都島行政区のみでとどまっていますし、こちら側から戦火を拡大させない限り、大丈夫かと。ティアンムの第4艦隊は、恐らくレビルの第一連合艦隊、ビュコックの第二軌道艦隊との合流を考えるでしょう」

 視線で続きを促してくる。

「我々親衛隊はブースター設置作業を続け、先行して航路確保に当たっているガラハウ少佐の第4大隊にコロニーを引き渡すことを考えていれば良いと思います。ただ、他行政区所属コロニーにいる連邦の駐留部隊による、散発的な攻撃がないとは言い切れません。ガトー中尉始め、各小隊には警戒態勢を継続するよう命令を。ただ、推進剤の量もありますので、2交代制を」

「うむ。それが妥当だろうな」

 史実ではドズル指揮下の宇宙攻撃軍第302哨戒中隊隊長だったガトーは、所属をこの作戦では臨時に親衛隊に移し、グワデンのMS中隊長を務めている。中隊長なのに階級が中尉なところも、やはり士官不足の面が激しい。親衛隊は新型の高機動型ザクⅡの優先配備をさせていて、中でも第4大隊は試験結果もあって推進剤タンクを増設した(ゲルググMと同型のタンクを増設)R-1B型の配備をしている、ということになっている(実際は配備されたザクⅡにRP使ってでっち上げた)。懸念された稼働時間の減少がなくなっているが、Gのかかる時間が長時間化する事による疲労の面はどうしようもない。

「私が懸念しているのはむしろ、キシリア閣下の部隊が間に合うかどうかですが、何か連絡はありましたか?ギレン閣下はグラナダの制圧にとどめるよう命令されておりましたが、いじめすぎたので命令に従うか微妙なんですが」

 その言葉にデラーズを始めとした親衛隊士官が苦笑を浮かべる。目の前にいる男とキシリアの不仲は、ザビ家兄弟間のそれよりも強く激しいという風評が立っており(それは充分以上に事実だったが)、この時点で、本来キシリアの軍となるはずの突撃機動軍が編成されておらず、本土防衛軍第3、第4攻撃師団で編成される突撃第一軍団のみが彼女の戦力となっているのも、この男のおかげだともっぱらのうわさだった。

 その上、階級が少将である事、ジオン公国、宇宙攻撃軍の司令であるドズルが中将で、作戦の成否によっては大将になるかもしれないことも相俟って、史実よりもキシリアの地位は相対的に低下しており、もし緒戦で地球連邦に講和を押し付けられなかった場合、編成が予定されている地球攻撃軍の司令の地位を狙っている、とさらにうわさが派手になる始末だ。このうわさは既にデギン公王の耳にも達しており、地球連邦との講和にキシリアが何らかの妨害を行う可能性を示唆する将官も少なくない。

 もっとも、キシリアの地位を低下させたと言う事実は私にとっては有利に働いた。親衛隊での地歩を固める際にキシリアと仲が悪い事は、これ以上ないほど、親衛隊士官たちからの好意(そして宇宙攻撃軍内のギレン・ドズルに近い者たちからのそれも)を獲得することに役立った。シーマ姉さんの部隊の行儀の悪さなど何処吹く風だ。却って、扱いの難しい海兵隊を良く抑えていると高評価が出る始末。

 まぁ、そのおかげか扱いに困る出自の士官たちを押し付けられたり、キシリアの派閥からは蛇蝎のごとく忌み嫌われたし、機会あれば暗殺・失脚させてやろうと狙われているし、内偵の結果、キシリア直属の屍喰鬼隊が増強されているらしいとのこともわかっている。なかなか上手くいかないものだ。あのババア、絶対にコンティ大尉あたりをおくってきそうだな。

「心配はなかろう。月面での攻勢を強めて泥沼に嵌ることなぞ望んではおらんだろうし、月面までもが早々に中立を宣言した手前、下手にフォン・ブラウンやNシスターズに手を出せば、戦争継続上困る事になる。むしろ、月面に地歩を得た事で月面の利権を一手にした方が良い」

 あらら、この人ギレン至上主義者のテロリスト予備軍だと思っていたら意外に聡い。まぁ、でなければ重用されるはずもないか。

「私もそう思いますが、如何せん、読めません。ヒス起こす可能性もありますし」

「ふふ、大佐は心配性だな。しかし懸念はもっともだ。月面を一手に握る事の表面的な利益に惑わされないことを願う。いや……むしろ、Nシスターズには大佐の第4大隊が早々に駐留を決めたはずだろう。ギレン閣下に今の時点で下手に手を出すとは考えにくいな。問題でもあるのかね?」

 うわっ。この人本当に有能だ。あんまりNシスターズとの関係を探られたくないんだけどなぁ。

「キシリア閣下がサイド6を中立化させて、連邦との水面下のつながりを探しているのと同様、対抗手段が必要ですから。私はNシスターズを使おうと思っています。デラーズ閣下にもご懸念あると思いますが……」

 デラーズはうなずいた。

「うむ。奇麗事だけでは戦えんからな。大佐の手腕に期待する」

「ありがとうございます。一見ジオンの不利に動くように見えても、背景を考えてくだされば有難いです」



 第07話


「ままならんな」

 衛星軌道上、ジオン軍の進めるコロニー落としの落着阻止限界点ちかくに集結した連邦宇宙軍第4艦隊の旗艦「タイタン」の艦橋でマクファティ・ティアンム中将はそう、つぶやいた。

「ここまでシトレ閣下の言う通りに進むとは、な」

 サイド2パトロール艦隊から命からがら逃れてきた高速哨戒艇が伝えた、サイド2攻撃の状況を伝える映像を見つつ、ティアンムは自分の―――連邦軍のおかれた立場の危うさをいまさらながら実感する。

 レーダーや電子機器を無効化するミノフスキー粒子の存在。

 ミノフスキー粒子散布下で絶大な攻撃力を発揮する機動兵器、MSの活躍。

 他方にあり、我が方にない。新兵器とは存在それだけで優位、劣位を決定する。

「我々の置かれた立場は第二次世界大戦のイギリスか、ふん。ビュコック提督も言ってくれる」

 自分を教官として鍛えてくれた古参兵あがりの将官。あの人のいう内容は、経験して来たものの長さに比例―――いや、比例を遥かに超えて深い。国力に劣る勢力が一気呵成に勝敗を決しようとするなら、必ず新兵器と大量破壊兵器に手を出す。否定した自分の馬鹿さ加減が今思うと恨めしい。

 大量破壊兵器としてまず出てくるのが核だと思いますが、運搬など不可能でしょう?ミサイルを用いるならイージスシステムで撃墜される。航空機を使うなら、運搬途中で撃墜すればいいじゃないか。ゴップ大将の批判を、彼は一言で切り捨てた。

「ルナツー落せば解決するじゃろう」

 現実的にルナツーは連邦軍の根拠地で、これを地球上に落下させることはムリだ。しかし、ジオン軍は工業用コロニーのための資源用に、アステロイド・ベルトから多数の岩塊を運搬してきている。その一つを地球に向ければ良い。
 
 言われるまで誰も気がつかなかったと言うのが不思議なくらいに手軽な大量破壊兵器だった。充分な加速のついたそれは、核ミサイルや戦艦のビーム砲による速度減衰を無視して尚、その運動エネルギーだけで大気圏を突破しうる。そうすれば、どこに落ちても大被害は確実だ。

 地表に落ちれば落着の衝撃で巻き上がった土砂が大気圏を覆いつくし、太陽光をさえぎって地球は寒冷化する。地球上で行われている農業は大被害を受けるだろう。特に、先進諸国で農業を基幹産業とする北米・欧州・オーストラリア、そして中国とロシアの被害は確実だ。

 海に落ちれば落ちたで、北大西洋に落下した場合は工業の中心都市が連なる北米東海岸と欧州が被害を受け、戦力の拡充だけでなく民生にまで壊滅的な被害が生じる。これが太平洋に移っても、日本、オーストラリア、アメリカ西海岸と同じような被害が生ずるのだ。

 一番いいのは政情不安定で発展が宇宙世紀になっても遅れている、大西洋南部に落下しての、南米、アフリカに対する被害。しかし、何もしないでこれを求めるのは業腹だ。落着するコロニーの軌道を変えるため、シトレ本部長は艦政本部に命令して特務砲艦「ユグドラシル」級の建造を命令していた。ジャブローで建造されているそれが間に合うかどうかは、現状、かなり微妙なところなのだ。

「閣下、ジャブローのシトレ大将から連絡。レビル中将の第一連合艦隊は予定通り出航の見込み。砲艦については2隻、出撃可能との事です」

「核ミサイルの用意はどうなっている」

「レビル中将の指揮下、第2戦隊のワッケイン准将の部隊に搭載とのことです。艦隊戦には出すな、と」

 ティアンムはうなずいた。

「第一連合艦隊と私の第4艦隊が攻撃。もうすぐ中立を宣言した4サイドからのパトロール艦隊を糾合して、ビュコック中将が第二軌道艦隊にそれらを臨時編入するはずだったな。コンバットボックスによる防空はビュコック中将にお任せするとしよう。ああ、空母部隊はビュコック中将のところのヤン准将に預けろ」

 さて、吉と出るか凶と出るか。叶う事なら吉と出てほしいものだが、な。あの艦の性能が評判どおりである事を祈ろう。

 特務砲艦「ユグドラシル」。歴史上、同タイプの砲艦は、ジオン軍において「ヨルムンガンド」と称されたそれである。本来ならばこの時、親衛隊の指揮下に配されている第603技術試験隊によって作戦に参加する予定のそれは、キシリア少将の政治力低下と共にダミー・プロジェクトとしての役割を否定され、実験データはグラナダ、Nシスターズを通じて連邦に供与された。

 連邦に供与された理由は簡単で、MSの開発計画のダミーとして用いるなら、下手に試験などの手間を経るよりも、連邦の諜報ユニットの労力をそれに費やさせたほうが良い、と判断した(そう判断するよう誘導された)マ・クベ少将による。

 キシリア機関は多年にわたる親衛隊第4大隊との暗闘に疲れ果て、本来なら連邦への諜報や防諜に用いる人材を、第4大隊へのそれに使わざるを得なくなり―――そして用いた諜報部隊が第4大隊側の部隊によって漸減させられた挙句―――諜報能力を低下させた。それを補うように月面恒久都市を通じた親衛隊の諜報活動が活発化。キシリア機関は現在、その能力が制限されている。

 だからこそマ・クベ少将は親衛隊の誘導工作に引っかかり、「ヨルムンガンド」の情報を連邦へリークすることとしたのだ。勿論これには、MSさえあれば少しばかり諜報でへまをしたとしても充分補いがつくというキシリアの判断も入っている。本来ならばこのような消極的な判断を彼女がするはずは無いが、第4大隊との諜報戦は、予想以上に彼女に疲労を強いていた、といえるだろう。

 ともかくも、「ヨルムンガンド」は「ユグドラシル」と名前を変えて地球軌道上に進んでおり、同型艦の「レーヴァテイン」と共に、コロニー落着を阻止する砲撃戦力として鎮座していたのである。


 
 さて、ブリティッシュ作戦の天王山、コロニー落しを目前にかなり暇になってしまったので戦力の再確認をしておこう、とグワダン内の自室に引きこもってみたトール・ガラハウです。

 資源があれば機体の生産は可能なので、今までのポイント使用は基本、技術獲得に振り分けていました。ただ、技術獲得と言ってもレベル制限が課せられているらしく、たとえば新しい作品へのアクセス権を5000ポイントで得ても、その作品内の機体を生産するためには別途ポイントを要するシステムだったのです。

 そしてそのポイントは、人材獲得のポイントに匹敵するほど高額で、しかも戦力の強さに比例して高くなります。たとえばバンプレストオリジナルの場合、PT生産技術aをオンにしたところ、ゲシュペンストおよびヒュッケバインシリーズの生産が可能になりましたが、シリーズの異なる魔装機神やリオンシリーズの生産には別途ポイントを要すると言った有様(しかも、ブラックホールエンジン搭載機の生産は不可)。確かにゲシュちゃんの有用度は高いですが、量産にかかる資源の量もあわせて考えると、これは後々考えるとかなりつらくなりそうです。

 となると一騎当千の機体かぁ、と思って縮退炉をオンにしてBHエンジン搭載機とグランゾン狙おうと思っていたら、別途の技術が必要らしく、BHエンジン搭載機とターンタイプしかオンになりませんでした。しかも、ターンタイプは月光蝶の発動が不可。おい、ナノマシン技術にもポイント回せってか。でも、PT技術bをオンにしたら、相乗効果でグランゾンの生産が可能になった事はうれしかったです。

 今回ポイントを確認したところ、一週間戦争の半ばを過ぎた段階で、3サイドに対する攻撃が控えられた結果、24億の人口が生存し、これが240000ポイントと言う大量のポイント獲得につながりました。これは良いと言う事で早速、自分の生存性や技術の更なる拡大に振り分けてみました。しかし、自分に関するポイントの高いこと高いこと。合計130000ポイント使って「ジェリドぐらい(かませ犬程度の活躍が出来るってか)」ってどんな扱いだよ。どんだけ才能無いんだ俺。
 
 それに、機体や艦船の生産でRPを消費するシステムなのでGPをRPで補うのも、これからの戦力増を考えると頭が痛くなってきます。RPでの生産は割高ですが、ポイント消費での生産は生産期間が工廠で作るよりも短いのが有難い。突発的な戦力不足も考えると、これからはRPの残量にも頭を使う必要が出てきました。

 連邦側で活動するためにゲシュペンストを9機とジムシリーズのよさそうなのを揃え、第4大隊用に供与されたザクⅡにポイント消費をくわえて高機動型化するなどにRP使うと、結構な量になります。この辺は、最悪キシリアのお馬鹿とドンパチやるかもしれないと強化させたのが理由です。あのババアのことでしょうから、戦力よこせで抜かれる可能性も考えています。

 確かに出来る事と使える技術を考えたら、一年戦争でシャドウミラーっぽく戦える事はチートですが、なんか違うような気がしないでもない。でも、この後のルウム戦役のことも考えると、下手に人口減少が生じたら、その分GPより差っぴかれますなんてシステムが言い出したものだから、予備のGPも獲得しておかなきゃならない。うん、火星の採掘部隊を拡充しよう。

 そういえば、俺のやってる事って端から見たらシャドウミラーだよなぁ。うん、取っておこう。それに、スパロボJあたりの機体で無双も素晴しい。……まずい。あー、残りポイントが10万切った……できればマクロスにもアクセス欲しい所なのに。今回はこのあたりでやめておこう……

 しかし、色々と判った事もある。タマーム・シャマランの暗殺回避で30000だったのにシャアの巻き添え回避で100ポイント、と言うことは、改変を行った事件が、作品にどれほどの影響力をもっているかでポイントの高低が決まるということを意味しているのだろう。となると、ぽっと出のキャラ一人助けるよりは、影響力もってそうな人物を助けたほうが良いということになるので、年末辺りにレビル大将を救えばポイントを多くもらえそうだ。

 となると、ギレンの優生人類生存説を阻止して5000というのは、彼の考え方まで変えればポイントを多くもらえる可能性があると言う事にもなる。しかし、前回のシャアで明らかになった通り、それにギレン閣下相手に色々と苦労した事や、ポイントをもらえなかったエンツォ排除を考えると、影響が実際に出た時点でポイント化されること、原作に関わる重要度の高いキャラクターほど、介入の難易度が高く設定されている事がわかる。

 うむむ、シミュレーション・ゲーマーとしては燃える所なんだろうが、自分の安全かかっているので怖くて仕方ない。下手打って月面総攻撃とか洒落にならん。

 キャラの勢力加入で得られるポイントが、予想していたよりも少ないのがすこし腹立たしい。というかシーマ様2000って安すぎだろ。20000ぐらいよこせよ。あ、でも0083の流れ次第でもらえる量増えるかもしれない。

 
 はぁ、とにかく、原作が始まる10月あたりまでは、やっぱりチマチマ稼ぐのが基本なんだろうなぁ。そろそろ連邦での動きも活発化させていかないと。




[22507] 第08話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/22 14:42



 結果から提示してしまえば、第一次軌道会戦はジオン軍の辛勝に終わった。

 ブリティッシュ作戦の主目的であるジャブローへのコロニー落しは失敗した(コロニーは南大西洋アセンション島沖に落着。ギニア湾沿岸と南米ブラジル東岸部に大打撃を与えた)が、コロニー落下を阻止するために砲撃をコロニーに集中させた第一連合艦隊、第四艦隊はかなりの被害を受け、ルナツーへ後退した。

 しかし、ジオン軍側もコロニーの援護を行っていた部隊に被害が集中。特にキシリア率いる第一突撃軍団無しでの会戦を強要されたジオン艦隊は、ただでさえ劣勢な艦隊戦力が不足し、MSの投入によって押し切りはしたものの数の不足を機動によって補う必要に迫られたため、艦艇、MS共に推進剤不足を引き起こしたものが多く、連邦軍航空隊の反撃に満足な機動も行えないまま損傷を受ける部隊が続出した。

 キシリア率いる突撃第一軍団は、コロニーが阻止限界点前2時間の位置に迫り、連邦軍の主力と砲火を交えた辺りになってようやく姿を表す始末だった。

 勿論、この不手際はキシリアの責任問題に発展する動きを見せたが、連邦が即座に多数の艦艇を増援として地球の裏側からルナツーへ送り始めると、ギレン総帥府からのブリティッシュ作戦継続の命令が優先され、キシリアの責任問題は棚上げにされた。もっとも、ギレンやドズルが処罰を望んだとしても、デギン・ガルマがそれに口を挟んだだろう事は簡単に推測できたのだが。

 地球に向けて投下されたコロニー、サイド2、1バンチ「アイランド・イフィッシュ」は、軌道上に展開した連邦軍三個艦隊の砲撃、特に特務砲艦「ユグドラシル」の砲撃によって阻止限界点前で崩壊。3つに分解したコロニー片のうち、地球の重力に引かれたもっとも巨大なそれが大気圏へ突入した。それよりも小さい2片は、「ユグドラシル」級2隻の砲撃によってかろうじて阻止限界点前で破壊、大気圏内で燃え尽きる大きさにまで分解された後、大気圏で燃え尽きた。

 連邦軍がコロニーを破砕可能なほどの砲撃能力を持つ砲艦を投入した事実を知ったジオンは、第二次ブリティッシュ作戦を行う前に、この砲艦を破壊する必要に迫られ、サイド5でもっとも反ジオンを鮮明にしている11バンチコロニー、ワトホートを使っての二回目のコロニー落としの虚報をキシリア機関を通じ流布。出撃してくる連邦艦隊の殲滅を狙う。

 サイド5、ルウムへ向けて出撃したジオン軍への迎撃作戦。所謂、ルウム戦役の始まりである。


 第08話


 嫌な空気だ。

 最初に感じたその感想は、この会議の間中変わる事はなかった。ズム・シティ。公王官邸で開かれているルウムの処遇に関する会議は、ギレンのルウム攻撃の必要性に関する演説から始まった。

「ルウムは撃滅されねばなりません。少なくとも、我がジオンに対して反抗的な立場を取るバンチに対しては断固とした処置を取るべきです。また、その期間は早くなくてはなりません。ルウムにティアンム率いる第四艦隊が展開している現在、目に見える戦力としての連邦軍の存在が、ルウム各バンチの親ジオン派の勢力を弱めないとも限りませんので」

「またコロニーに毒ガスでも撒くつもりか、ギレン」

 デギンは静かに言った。しかし、すぐに声が激発する。

「無辜の住民を虐殺しても、開戦から既に億を越える民衆が死んでもまだ足りんか!?」

「死者は関係ありません。戦争は連邦が抗戦の意志を示し続ける限り、続きます」

 デギンは鼻を鳴らした。何を言っても無駄だと感じたのだろう。脇に控えていたガルマをつれて退室した。室内に残るのは将官連および親衛隊の私。正直、空気がかなり微妙だ。

「ガラハウ」

「はっ」

「今回は親衛隊からも戦力を出す。キシリア!」

 ギレンはキシリアをしかりつけるように怒鳴った。

「今回は遅参などと言う体たらくは認めん。ドズルと共に出撃せよ」

「……はい、兄上」

 うなずいたキシリアは早々と退室した。それを見たドズルも立ち上がる。指をこちらに向け、ついてくるように示す。私はギレンに一礼するとドズルと共に退室した。

「ガラハウ、どう見る」

「ショウ、とでも言いますか。誰かの目を気にしてらっしゃいます」

 ドズルはため息を吐いた。

「遠慮のない奴だ。まぁ、其処を兄貴も容れているのだろうがな。親衛隊からお前の艦隊を借りる事にした。月には前にお前から要請のあった士官たちを回す。Nシスターズは抑えてあるんだろうな」

「ええ。ですが、連邦とのパイプをつなげておくためには、あまり表立って動けません。私の部隊を動かす場合、N3の地下ブロックを本拠地に、月が地球から見て蝕に入った際に限定されます」

 ドズルはうなずいた。

「それはいい。ただ覚悟しておけ。お前、この戦役で手柄を立てられなければ、キシリアの指揮下で月で動く事になるぞ。今までの経緯から言って、それはまずいだろう」

 まずいなんて物ではない。アレだけキシリア機関を弄っておいて、指揮下で無事でいられると思う方がどうにかしている。

「お前の艦隊の配属は、レビルの艦隊を奇襲する特務大隊だ。シャアや黒い三連星などと同じ配属になる。部隊にほしい人材はいるか?正直、お前の協力がなくなるのは惜しい。軍人である以上、戦場に赴くのは当然だが、戦死しないように部下には配慮してやろうと思っている」

 ため息を吐いた後、言った。

「ガトー中尉とマツナガ大尉をいただけますか。機体はこちらで用意します」

 ドズルは大声で笑った。

「シンはやれん。俺の艦隊に必要不可欠だからな。ガトーはまわそう。代わりはどうだ?」

 まずはガトー確保、と。ただなぁ、ガトー中尉はおそらく、デラーズ閣下べったりになるだろうなぁ。

「それでは、ラル大尉か、シュマイザー少佐を」

 ドズルは呆れた様な顔でこちらを見てきた。

「貴様、本当に遠慮がないな。シュマイザーなどキシリアの所ではないか」

「遠慮して死にたくはありませんし、キシリア閣下から戦力を引き抜くのは、閣下が中将の指揮下に入っている今をおいてないかと」

 ドズルはにやりと笑った。コロニー落としで大失敗をやらかしたキシリアに対する、いい意趣返しだと思ったらしい。

「わかった。両名共にまわさせよう。お前のことだ、ラルもシュマイザーは部隊ごと引き抜け、と言うつもりだな」

「ありがとうございます。特務大隊の指揮艦には、姉の「マレーネ」を使いますので」

 ドズルはうなずき、そこでお開きとなった。





 ドズルと分かれた後、会議を終えたらしいギレンと合流し、公王官邸を離れて総帥府へ向かう。総帥府へ向かうエレカの中でギレンが話を向けてきた。

「ドズルから話は聞いたか」

「聞きました。今回活躍しない場合、キシリア閣下のおもちゃにされるそうで」

 ギレンは鼻で笑った。

「君の存在が妹を不快にさせているようなのでね。また、父に泣きつかれもしたし、月にキシリアが地歩を固めた以上、アレの下に一元化すると言うのは筋の通った話だ」

「聞いたところでは地球攻撃軍の椅子を狙っているようですが」

「君のおかげで突撃機動軍の編成が流れたからな。アレが3つ目の頭として出るためにはその椅子が必要となろう。元々は突撃機動軍を編成した上で、腹心のマ・クベをガルマを傀儡とした地球攻撃軍司令にすえるつもりだったようだ」

 ふん、今の言葉は考えどころ……入ってみるか。

「ルウムでの戦いの結果、講和は難しいと?」

「キシリアはなんとしてでも邪魔をするだろう。そんな状態で講和はムリだ。国内がまとまっていないからな。父上がいるとはいえ、突撃機動軍が編成されないなら本土防衛軍に手を伸ばそうとするだろう。君のおかげで、私はキシリアと激しい権力闘争をすることになる」

 なるほど、これでやっと得心がいった。ギレンの本音としてはルウム戦役での戦勝で講和をしたいが、ザビ家の状態を考えると必ずキシリアが邪魔をし、現状キシリアをデギン公王が守る形になっている以上、講和はムリになる。講和を一番望んでいるのが公王であるにもかかわらず。

 こりゃあ、何とかしてデギンを排除しない限りジオン有利の講和の目はないわ。ギレンが死にでもしない限り。あれ、コレって千日手とか言わね?それに、この人は口に出していない事がある。ジオニズムの信奉者である以上、連邦との戦争は、連邦に地球上の全人口の強制宇宙移民を要求できるほどに圧倒的なものでなければならない。となれば、ブリティッシュ作戦が失敗し、ルウムで連邦の艦隊を殲滅したとしても、まだ不足だ。地球に進撃して資源を確保し、資源によって戦力を整えた後に再度ジャブロー攻略を行って城下の盟を誓わせる必要がある。


「別に、突撃機動軍を作ったとしても権力闘争は不可避ですよ、総帥。あまり恩に着せないでください」

「そこを口に出すところが、君を買う理由でもあるのだよ、ガラハウ大佐」

 ギレンは笑みを浮かべた。エレカの助手席に座るアイリーン女史が目を見開いているのがミラー越しに見える。おいおい、愛人にさえびっくりされるってどんだけ無表情なんだこの人。アレの時も無表情ってある意味終わってないか。というか、良く愛人になろうと思ったな、女史。

「最悪、君には月から手を引いてもらう可能性もある。ドズルからは?」

「ガトー中尉の親衛隊への転属と、私のところへのラル大尉とシュマイザー少佐の配属を認めてもらいました」

 ラルの名前を聞いた瞬間、ギレンの眉が顰められる。そりゃあのバカ爺の息子と聞けばそう思うのも無理ないな。

「大丈夫ですよ。父親と比べると月とスッポンです。下手に冷遇するよりは、抱え込んだほうが宜しいかと」

「……任せよう。君の方から要望はあるかね?私もキシリアは抑えておきたい」

 ふむ。改めて考えると、突撃機動軍がなくなったおかげで、表向き、キシリアが月面に縛られる必要性は少ない。地球攻撃軍が編成されるなら、むしろ地上に降りてもらった方がいい厄介払いになる。しかし、紫ババアが地上の全権を握った場合、08小隊のストーリーに介入しようとしたときなどに厄介になることこの上無しだ。そう言えば、サハリン家にはそれとなく援助して家庭崩壊しないようにしているが、流石に病気の影響か、このごろは精神的にヤバい状態になってきていると言う報告があったな。

「ギニアス・サハリン大佐ですが、私が今回昇進した場合、部下にもらえますか?」

「どうするつもりだね」

「ルウムで勝利を収めた場合、地球攻撃軍が編成されてキシリア閣下はそちらに向かうでしょうが、あのお方が私への憎悪を忘れるなんてありえませんので、少々姿をくらまして裏で動いてみようかと。その代理としてサハリン大佐のお名前をお借りしようと思いまして」

 ギレンは少し考え、うなずいた。

「良いだろう。ただ、結果を出しての話だ」

「勿論です」

 返事を確認すると、ギレンは思い出したように付け加えた。

「ガルマがむずかっている。ルウムに出たいようだ。同期のアズナブルとかいう中尉が参加するらしいのでな。気を抑えるために新型……いや、専用機の用意をしておいてくれ。君なら整えられるだろう」

「了解しました。しかし、ルウムの後になりますが」

「かまわん」


 さて、コロニー落としによる被害が南大西洋沿岸部だったおかげで、気温低下などの事態は南半球に限定された、というのはありがたい話で、おかげでまたもやポイントにつながりました。前回4万まで減少したポイントも一気に40万まで回復です。
 
 ただ、やっぱり後々の事を考えるとGPは確保しておきたい、ということで今回はあんまり派手に使っていません。XNガイストが開発可能になったから、使えばタイムスリップとか、他の世界にプラント設置して資源取り放題とか思いましたけど、開発GPが半端ないのであきらめました。死亡期間を短縮して死んでも即座に復活できるようにする事と、肉体強度をガンダムファイター並には出来ましたが、あんまり実感はありません。上がったの強度だけだし。

 アクシズとの連絡を考えて木星のエウロパにプラントを建設し、同時に火星・木星との連絡のためにパッシブジャンプゲートを作って見ました。これで、移動によるタイムロスが軽減できることは、こっちの行動をごまかすのに役立ちそうです。

 今回、有り難味を実感したのは重力制御技術a。ジオン側での機体としているR-3型に乗っても、まるでGを感じないので操縦が楽で楽で。これだけパイロットに対する負担が少ないなら、ジェネレーターの出力が少々低くても、推力さえ確保できれば無双が可能かもしれない。

 うん、目指せNT-D無双で頑張ってみましょう。



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 今回は短めです



[22507] 第09話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 08:33
ルウム戦役は史実とは違い、混戦模様の推移を示していた。

 サイド5、各コロニーの港部分の破壊に始まる作戦は、予定通りレビル率いる第一連合艦隊の一部を、みなと部分の破壊によってコロニー内に取り残された民衆の救援に振り向けさせ、レビル艦隊を拘束する事に成功した。

 ティアンム率いる第4艦隊はアレクサンドル・ビュコック中将の第二軌道艦隊の支援を受け、第一連合艦隊から振り分けられたワッケイン・カニンガムの部隊の指揮権がレビルからビュコックに委譲された事を受け、史実どおり二艦隊の間に行動の齟齬を生じさせる展開とはならなかった。

 しかし、連邦艦隊が宇宙に保有するほとんどの戦力をこの会戦に集中させたため、艦艇の数が多くなりすぎ、合流した上で連携して迎撃する、という展開にまでは至らっていない。元々そこまでの艦隊運動を想定していないし、闘志に不足ないレビル艦隊の各部隊が砲撃を重視した横列陣を採っていたのに対し(これは、一週間戦争に実質未参加だったレビル指揮下の連邦艦隊の突き上げの結果だった)、ブリティッシュ作戦でジオン軍との抗戦経験のある第4艦隊は、シトレの示唆どおり、箱型陣形を作って迎撃の準備を整えていた。

 史実どおりにいかなかったとは言え、三個艦隊を擁する連邦軍のうち、一個艦隊をサイド5に貼り付けた事は、連邦軍の戦力の三分の一を拘束する事に成功したわけで、戦力比1対4が、1対2.5となった点は評価されるべきであろう。また、史実ではサイド2の虐殺の影響で各コロニー港湾が親ジオン派の脱出であふれかえり、この際にアズナブル夫妻が巻き添えを食うなどの被害が生じていたが、サイド2の多数が生存しているこの歴史では、そのような事件は生じておらず、連邦派の暴徒に囲まれたマス家の中に、二人の姿が確認できる。

 連邦の暴徒に囲まれる中、本来ならば心臓に持病をもつテアボロ・マス氏の病死となるはずであったが、先進的なナノマシン医療を秘密裏に受けていた氏は、心臓病の原因である、大動脈内の動脈硬化部分がナノマシンによって修復されており、同時に連邦派の暴徒がテーマパークの略奪に夢中になっている間に三合会の皆さんとシェンホア相手に反撃を受けたため、病床についてはいるものの、無事な姿を娘、セイラ・マスと共に見せている。

 この後、戦局が落ち着き次第、先進医療を受けるためにNシスターズへの移動が予定されているため、彼の命はもう少しの間、永らえることだろう。

 それはともかくとして始まった第一次軌道会戦において、落下するコロニーに張り付くジオン艦隊と連邦艦隊との交戦は、ジオン軍の勝利に終わった。迎撃を主任務とした第二艦隊、第4艦隊は、ジオン軍のMSの投入により、コロニー迎撃を優先させて満足な防空隊形を取ることが出来なかったため、大きな被害をこうむったのだ。

 しかしジオン軍も、会戦後半の追撃段階において、第二艦隊と第4艦隊が、第一軌道艦隊に援護され始めると、第一軌道艦隊の採ったコンバットボックスによって形成された防空火網によってMSの追撃が封じられ、また予定と違ってキシリアの艦隊戦力がないために推進剤の不足も相俟って、満足な追撃を行うことが不可能になっていた。

 このため、追撃によって本来生ずるはずだった被害が抑えられ、連邦軍はいまだ、宇宙に大きな艦隊戦力を擁していたのである。




 第09話


 (アルテイシア……)

 シャア・アズナブル中尉―――キャスバル・レム・ダイクンは280mmザクバズーカの照準をコロニー・ミランダの港から外しつつ、テキサス・コロニー外壁からミラー越しにマス家のあった辺りに視線を向けていた。

「神の御加護があるというなら、お前はここにはいないはずだ。もしもいるのなら早く脱出しろ……今ならまだ方法がある。出来るはずだ、お前なら……」

「シャア中尉」

「ガラハウ大佐」

 シャアは視線を背後にたった異様なザクに向けた。既に一部エリート部隊に配備が始まっている高機動型ザクに近い。しかし、ザクと言うにはあまりに異形な姿だ。おそらく最新の改造型であるR-3型という奴らしい。新型のMMP-80、90mmマシンガンと大型ヒートサーベルを標準武装とし、現在はそれに加えて試作品らしい360mmジャイアント・バズを持ち、自分と同じようにコロニー・ベイの攻撃を行っていたようだ。

「どうした。……そういえば、君はテキサス・コロニーの出身だったな」

「大佐ほどのお方に知っていてもらえるとは……光栄です」

 トール・ガラハウ大佐。親衛隊でデラーズ少将とギレンの信頼を二分する若き軍人。大層なものだ。ザビ家に近づき地位を得るからには、どんなお追従を述べた奴かと思ってみれば、軽々と新型ザクを操り、こちらにも目を配ってくる。やりにくい……南米で出くわした奴らと何か関係があるのか?勘というわけではないが、気になって仕方がない。

「ギレン閣下もやりますな」

「御前会議の内容のリークかい?キシリア閣下にも仕事はしてもらわねばなくては。ブリテッシュ作戦のような事をされては適わん」

 発言の解釈に困る。ギレン総帥肝いりの親衛隊士官としてのお言葉か……果たして。いや、ガラハウ大佐はキシリアとの不仲が噂されて久しい。何故其処までキシリアを危険視するのかがわからないが、今の言葉を聞く限り、個人的な反感も充分以上に持っているらしい。

「帰還しましょう、大佐。次の任務があります」

「うむ。中尉も部下をまとめて帰還してくれ」

「大佐!」

 通信に新たな反応。大佐の部下、マユラ少尉のザクⅡだ。長距離移動用に推進剤タンクの増設を行っている。

「第12小行政区、各コロニー港湾部制圧完了です。被害無し。ただ、機材の不調を友軍に確認したので、アサギが支援に向かっています。予定に遅れはありません」

「ご苦労。不調機の所属は?」

「224小隊、デニム曹長です」

 はっとなった。ミランダ・ベイの破壊と妹に気を取られて、部下の向かった行政区の制圧状況についての確認を忘れていたのだ。もっとも、デニム曹長ほどのベテランなら大丈夫だと言うこともあったが、大佐ほどの士官を前にこれは失態だ。

「大佐……申し訳ありません」

「いや、中尉。気にはするな。……帰還信号だな、戻るぞ、中尉、少尉」

「はっ」

「了解です!」

 先行して大隊へ帰還するR-3型を尻目に、シャアはこの時点で接触して来た親衛隊の大物について考えていた。

 私の正体について知り、ジオンの息子である事について何かをしようと考えるならばキシリア閣下のはずだが……あの映像。接触して来た勢力はキシリア特有の血生臭さがなかった。いや、あざとさと言うべきか?あの女性にキシリア以上の臭さを感じたのは事実。となると、ザビ家に近い位置にザビ家以上に厄介な勢力がいる可能性があると言うことか……

 一番匂うのは前に立つこの男だ。年も私とそう変わらんのに、ガルマの坊ちゃんでも難しい大佐の地位にいる。しかもギレン直属の親衛隊で、だ。ジオン共和国保安隊出身の、後ろ暗い出自でもなさそうだし、かといって名家出身と言うわけでもない。月の大富豪らしいが、ガラハウなどという名を聞いたのはここ数年だ。

 いずれにせよ、気には掛けておかねばなるまい……



 何か、強烈なフラグが立ったような気がしてならないトール・ガラハウです。
 
 正直言うと、シャアとの初顔合わせにはあせった。テキサス・コロニーの被害状況を確認するためにベイの破壊後に機体を向けてみたら、ちょうどミランダのベイを破壊したシャアのザクと出くわした。ええい、当たり所が悪いとこういうものか!ニュータイプと遭遇なんてあまりいいもんじゃない。こいつら、接触するだけで何感じ取るか知れたもんじゃないからな……。

 しかし、敵側に回ってみると、連邦艦隊の強化が、装備面では最低限度に抑えたはずなのにかなりまずい事態になっていると実感した。やはり数は力か。少し、状況を整理してみる。

 コロニーの各港湾部を攻撃し、コロニー間の連絡網を破壊する陽動作戦は、レーザー通信網で送られてくるリアルタイムの状況によると、連邦艦隊の3割をこちらにひきつける効果をもたらしたようだ。もっとも、向かってきているのは占領用の強襲揚陸艦と護衛の巡洋艦、空母で、コンバットボックス戦術の要である戦艦はこちらに向かってきていない。

 コンバット・ボックスを形成するのは90mm機関砲を増設したサラミス、マゼラン両級の78年後期生産型(Block.5)で、ミノフスキー粒子散布下での実効性が薄れたミサイル用VLSの数を減らし、その浮いた重量を用いて増設を行っている。装備の変更であり、旧来の90mm機関砲が使えるため安価で1年ほどの間に改装がかなり進んでおり、連邦軍の光学防空網形成に大きな役割を担っている。

 超硬スチール合金製のザクの場合、ザクⅡでも射程距離内での直撃を受けた場合は危険で、スラスター部、背面部などの装甲の薄い部分に直撃すれば大破、もしくは撃墜は免れない。

 このため、ブリティッシュ作戦を戦ったMS隊を後方から観戦していた親衛隊は、連邦艦隊の採用したコンバット・ボックスに対し、外周よりの長距離実弾兵器の投入を行うことを提案し、今回、MS隊の武装は280mmザクバズーカが中心となっている。

 私たち、親衛隊の部隊の中には、ドム用の武装テストとして、一部360mmジャイアント・バズを装備している機体が含まれているが、ほとんどは高機動型ザクだ。これは、ジャイアント・バズの反動をザクの推力では殺しきれないからだ。


 機体を「マレーネ・ディートリッヒ」の後部ハッチに落ち着けると、ちょうど少し前に帰還したらしいガトー中尉が待っていた。私が後方から帰還するらしいので、着任の挨拶も含め、一言言いたかったらしい。

「大佐!大佐のような総帥の信任厚きお方と戦場を共に出来る事は、小官にとって無上の喜びであります」

 ガトーは敬礼と共にそう言い。出迎えてくれた。目ん玉はまともなのに言っている内容がアレなような気がしてならないが、とりあえず返事を返す。

「うん。中尉の武勲に期待させてもらう。海兵隊は荒々しく、肌に合わないと思うこともあるだろうが、腕は確かだ。姉の自慢の部隊だよ」

「はっ!」

 何とかして一年戦争中にガトーとシーマの間をどうにかしておかないと、4年後に痛い仕返しをもらいそうな気がしてならない。いや、ねぇ。核の炎で焼かれるのも嫌だし、ノイエさんに艦橋貫かれて宇宙に吸い出されるとか、はたまたソーラ・システムⅡで焼かれるとかマジ勘弁願いたい。

「しかし、今回初めて操縦させていただきましたが、流石大佐の部隊。良いMSです」

「ジオニックやツィマッドの新型を試験しているし、月面の工廠で独自に開発もしている。中尉が正式に配属となった暁には、私からも一機、贈らせてもらおう。デラーズ閣下は新型のドムに甚く御執心だったが、今度、見てみるか?発展形は宇宙でも運用可能になる予定だ」

「是非、御願いいたします!」

 ガトーの返事に頷きを返し、ザクを降りた三人娘に開発計画や運用についての報告を受けながら、私は艦橋に戻るために床を蹴り、移動した。それを傍目にしたガトーは眉を顰めた。眉をしかめたガトーに、小隊所属のカリウス軍曹が話しかけた。

「中尉、どうされましたか?」

「大佐は優れた御方だが、少々軽く見えかねないのが気になる。これは御諌めせねばなるまい……いや、コードウェル少尉らは優れたエンジニアを兼務していると聞く。内容も運用の件だが、やはり部下に女性ばかり三人と言うのが少し、気になるのでな」
 
 カリウスは笑った。

「考えすぎです、中尉。コードウェル少尉たちは、ザクの開発にも関わっていると聞いています。女性ではありますが、有能さは」

「うむ。私に見識がなかったようだな、カリウス。大佐が若すぎるので少々、勘違いをしてしまったらしい」

 野太い笑い声が後ろから響いた。

「ムリもねえさ、ガトー中尉。若のあんな姿見りゃ、勘違いもしかたねぇ。この艦のあるお方なんざぁ、のんぞんで勘違いしていると疑いたくなってくるほどさね」
 
 野卑な内容にガトーは眉をしかめた。

「貴官は?」

「デトローフ・コッセル。さっきまで直援のMS隊を率いてた。大尉だ」

 自分より階級が高い事を聞いてガトーはすぐさま直立不動となり、敬礼した。コッセルは笑いながらやめろやめろと手を振る。ガトーは不満そうだ。コッセルが答礼を返さなかったのが気に食わないらしい。

「ま、若も自重してくださるとうれしいがね。シーマ様がお冠だ」

「シーマ中佐が?あ、申し訳ありません大尉。しかし「若」とは……?」

 コッセルは頷いた。

「若はシーマ様の弟さんで出世頭、俺らのアタマだからな。シーマ様が中佐なのは、元々俺たちが傭兵出身だから、軍に入ったのが遅ぇのさ。若の口利きでこれだけのフネを任されちゃあいるが、ガッコウ出ほどお行儀は良くねぇ。腕はホンモンだがな。気ぃつけろ、若に何かあると飛んでくるぞ」

「大佐の姉君ですか」

 コッセルとガトー、カリウスの会話は、その後、報告のないのに痺れを切らせたシーマが艦内放送で呼び出すまで続いた。士官学校出以外の士官たちに対するガトーの目が、少しばかり、啓かれたようではあった。




 宇宙世紀0079年1月15日に始まるルウム戦役は、参加兵力こそ連邦、ジオン共に本来の歴史よりも多かったが、基本的な戦闘の推移そのものは歴史どおりに動いていた。ドズルの主力艦隊がティアンムの第4艦隊をひきつけている間に、キシリアの分遣艦隊がレビル率いる第2艦隊に対する突入を開始。ティアンムと砲撃戦を繰り広げる中で少しずつ戦力を抽出したドズル艦隊の一部がその後ろに続き、キシリア・ドズル艦隊と連邦第二艦隊が混戦状態となったところに特務大隊のMS部隊が突入を開始した。

「チィ、またか!」

 私は強化型ザクの後方から迫るビーム光を避けつつ、舌打ちをもらした。レビル将軍率いる艦隊に向けて突入を開始してから、後方のキシリア艦隊からの砲撃に、一部、どうみても私の機体に照準を合わせたような砲撃が混じるようになっていたからだ。また、キシリア派と思しきMS隊からは、微妙に連邦艦隊から斜線をずらし、本来なら今回の攻撃隊主要装備に含まれていないはずのMMP-78を向けてくるザクまでいる始末。

 ここまで嫌われているとはな。

 射線を明らかにこちらに向けたザクについては容赦なくガンカメラに収め、帰還後、どうにかしてやろうと思うが、遣り難くてしょうがない。なんとか外周部のサラミス4隻を撃沈する事が出来たが、下手に中に踏み込むと、キシリア派の部隊と連邦艦とのクロスファイアという笑うに笑えない事態になる。

 それでも、バズーカの弾薬が残っている段階で退けば、戦役の後に難癖をつけてくる可能性もある。そちらの場合も遣りにくい事この上ないため、適当に射耗した後、三人娘あてに後退命令を出すと、R-3型に取り付けてあったミラージュコロイドを、サラミスの影に隠れて展開させた。

 ちょうど死角になっていたようで、こちらにMMPを向けていたザクが周囲を確認している間に後退し、今度は「マレーネ」の艦の影でミラージュコロイドを解いた。着艦し、弾薬の補給を行わせる。

「面倒な事になったねぇ、トール」

 水分補給のため、整備兵からもらったパックからトニック飲料を吸っていたところに声がかかった。シーマ姉さんだった。汗にぬれた頭をがしがしとかき回してくる。かなり痛いが、本人はこれで頭をなでているつもりなのだ。それに、他人の目があるし、ソフィー姉さんやロベルタ嬢がいないからからまだおとなしい方。……あまり考えたくない。

「姉さんの方は問題なし?紫ババア、結構見境ないから」

「流石にアンタ一機に抑えとかないとばれるだろ。補給や何かで面倒かけてくるだろうが、コッセルの隊の方も問題なさそうだよ?」

「マレーネ・ディートリッヒ」搭載のMSは9機(最大12機)。本来ならシーマ姉さんとコッセルのR-1B型が1機ずつに、F型が6機で予備が1機、姉さんとコッセルとで2個小隊編成を取るところだが、今回は私たち第4大隊―――三人娘とガトー小隊―――が間借りをさせてもらっているので、シーマ姉さんは艦橋での指揮に専念してもらっている。

「悪目立ちするR-3に乗ってて良かったよ。下手にR-2や1B、果てはF型なんかに乗ってた日には、ジュリたちが巻き添えを食っていた可能性もある」

「だねぇ。まったく紫ババアは碌な事を考えでないよ。で、どうだい?もう一回行くかい?」

「戦況は?」

「さっき「アナンケ」が沈んだ。カニンガム准将の「ネレイド」は、ビュコックの爺さんの援護を受けて後退中。流石にボックス固められると、F型程度の装甲じゃどうにもならないね。外周のサラミス削るだけで精一杯さ」

「戦果はどれ位になります?」

「確認された撃沈は戦艦で25、巡洋艦で100程度。小型艇は掃討出来たそうだけど、補助艦―――特に空母を結構逃しているね。今回、奴ら戦闘機を1500ほど持ち込んだらしい」

 私はため息を吐いた。史実の連邦軍の被害が三分の二に抑えられている。やっぱり、ヤン大佐に言った通り、航空機の数が勝敗を決めたらしい。ただ、今回、被害を三分の一抑えるだけでも、史実より1200機多い航空機が必要だった。やはり、MSの優位性は硬いか。いや、対戦闘機戦がメインのセイバーフィッシュだからだ。もし対MS戦を考慮に入れた新型機でも出てくればどうなるか知れたもんじゃない。

「こっちの被害は?」

「戦艦グワシュ、グワバンが撃沈、巡洋艦は96隻のうち、71隻が大破、残りも中破がほとんどさ。あたしの「マレーネ」も左舷エンジンに被弾して、砲塔がいくつか吹っ飛んでる。ギリギリ大破だね」

 ため息を吐いた。やっぱり被害が多い。こりゃ、終わった後で絶対来るな。

「被害艦の所属はわかる?キシリア派の奴」

 そこまで言えば、シーマもわかったようだ。

「……なるほどねぇ、終わったあたりで戦力を要求してくるかい」

「多分。姉さん、「マレーネ」は譲らないけど、ムサイとザクは覚悟しておいて」

「あいよ」

 厄介な。本当に地球攻撃軍が編成されて、キシリアが地上に行く方がいいのかもしれない。多分その場合、オデッサにキシリアが入り、キャリフォルニアにはガルマが行く事になるんだろう。笑えねぇ。アフリカ方面軍は何処の勢力だったか。私がジオンを離れても、戦力を引き抜かれない、タフ・ネゴシエーターがほしいところだな、本当に。

 R-3のコクピットに戻ると、通信用のコンソールにシーマ姉さんが映った。

「ソフィーから連絡だよ。急ぎらしい。量通使っている」

「つないで」

 私は言った。量通とはSEED由来の技術、量子通信システムのことで、あの作品ではドラグーンシステムのコントロールに使われていたそれを、ミノフスキー粒子の影響を受けないところから、通信用として用いている。勿論、こんな技術など連邦、ジオン双方には流せない。

「当たりだよ、トーニェィ。お前さんが言う、フラナガン機関とやらの場所がわかりそうだ。目をつけてた候補者が、サイド6に移送されていることがわかった。ご丁寧にサイド4、月、サイド3、サイド6と色々と通過していてくれてねぇ。割り出しに時間かかっちまったけど、とりあえず、サイド6にある事は間違いない。既にいくつか候補を絞りにかかってるよ」

 やはり、か。今現在、フラナガン機関にいると思われるのはマリオン・ウェルチとクスコ・アル。木星船団の帰還が2月の中旬だから、そのあたりでシャリア・ブルが参加するのだろう。そして恐らく、ガルマが暗殺されたあたりでララァが加わり、私が手を加えていなければ、去年中にハマーンも其処に送られていたはずだ。

 どうする、潰すか……?

「トーニェィ、どうするのさ」

 うん、決めた。

「姉さん、まず研究所の所在と、誰が其処にいるかを調べてください。突入するかしないかの判断は後でしますが、恐らく、機会を定めて襲う事になると思います。被験者になっている人には申し訳ないんですが、平和的に接触できないか、とも考えています」

「つまんなーい」

 ……姉さん、年を考えて。自由に外見年齢を変えられるっからって、口調まで変化させなくても良いのに。任務ならともかく、これ、連絡ですよね?

「なに考えてんのさ」

「今はまとまっていませんので、後で。姉さん、忘れているかもしれませんが、今は会戦中です」

 そういうと、思い出したようににっこり笑い、こういった。

「まぁ、アフガンほど気張る必要ないでしょ。月で待ってるわ。ロベルタが夜泣きしてるよ?覚悟しとき」

「……了解しました。あんまり変な事を言わないでおいてくださいね」

 通信をきる。前線から送られてくる通信を確認すると、連邦艦隊は大きな被害を出しながらもルナツー方面への撤退を成功させたらしい。撤退する連邦軍からはぐれた部隊に対する掃討戦が始められているが、もっとも強気に参加しているのはやはりキシリアの部隊。逆に、私の部隊宛には負傷兵の救助命令が来ている。

 まぁ、そのあたりの判断はシーマ姉さんに任せるとして、実際、やっと所在が判明したフラナガン機関をどうするかだよな。

 フラナガン機関を潰すのはたやすい。けれども、下手に潰すとフラナガン機関の研究結果を下地にする、連邦のNT研究機関の目もなくなる。となれば、Zでのフォウ・ムラサメ、ロザミア・バダム。ギレンの野望のNT-001、レイラ・レイモンドやゼロ・ムラサメといったキーパーソンの登場の目をなくす事になる。

 人体実験にデザイン・ベイビーという生命倫理に真っ向から挑戦したような所業をしてくれているので私的には早速研究員ごと殲滅戦を仕掛けたいところだが、ストーリーに影響が出すぎるのだ。今の段階で潰せば、シャア・アズナブルの動向にどんな影響が出るか知れたもんじゃない。

「潰せんよなぁ、正直」

 かといって下手に残せば、それはそれで困った事になる。NT-Dやサイコミュは反則に近い兵器だ。ファンネル、ビットはドラグーンシステムで代替可能ではあるが、単純に兵器開発だけで済ませられる問題ではない。

「カトル君がどこまで押さえたか、だな」

 地球連邦に潜入し、ヘッジ・ファンドの巨頭として活躍してもらっているカトルには、この時点で地球に住んでいるはずの強化人間候補者について、写真付で捜索を御願いしている。開戦前、最後にもらった連絡では、名前がはっきりしているロザミア・バダムの所在が判明し、監視がつけられているそうだが、コロニー落としの落着点の変化がどのような影響を与えているのかがわからない。

 しかし、完全にナンバー制で管理されているムラサメ研究所所属の強化人間についての報告はまだなかった。以前に読んだガンダム小説で、フォウ・ムラサメの実名に関する名前と思しき「キョウ」の事は伝えてあるが、「キョウ」と写真だけで所在が判明すれば苦労はない。もっと悲惨なのがゼロ。こちらは、手がかりすらないのだ。

 とりあえず、フォウ・ムラサメが日本人らしきこと、強化人間候補者にはコロニー落としの影響が強い事がわかっているので、史実のコロニー落着地点近くの状況を確認するよう伝えたが、どうなっているのだろう。とかく、人手が足らないことが一番の問題だと再認識させられた。人間相手に行動できる人員が少なすぎる。


 こりゃ、本格的に、人海戦術取れるようにもしておくべきかもしれない。今回のポイントの使い道はその方向で行こう。




[22507] 第10話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 17:06

 ルウム戦役後の事態の流れは、それこそ歴史どおりに進んでいった。

 黒い三連星が「アナンケ」を撃沈し、レビル中将を確保し、デギン公王はレビルを通じて講和の可能性を探ろうと、ジオンの理想(デギン理解版)を語って懐柔しようと試みたが、キシリア機関と連邦へのスパイ、エルラン中将が救出部隊を送ったためにレビルは脱出。予定通り南極条約が締結される。

 南極条約のジオン側全権代表は、やはりマ・クベだったが、こちらもキシリアの内意を受けて、地球側に対して屈辱的とも言える講和内容を伝え、結局、条約締結交渉を難航させていた。

 とはいえ、ルウムでの被害は史実よりも少なく、いまだ1個艦隊分の戦力が稼動可能と言うこともあり、連邦軍の法に混乱は見られない。むしろ、現状確保しているルナツー近辺の宙域確保に邁進させる結果となり、連邦に送り込んだスパイが、ルナツーの改装工事が始まったらしいことを伝えてきている。

 さて、レビル演説による南極条約の不調を受けて、ジオン軍は予定通り2月に地球攻撃軍を設立。第一次降下部隊として、キシリア率いる大部隊が3月1日、東欧、オデッサへと降下した。目的は黒海沿岸部に埋蔵されている地下資源と、欧州攻略による大西洋へのアクセス権の確保だ。最終目的は、オデッサから西進し、連邦軍の主要軍港が集中するアイリッシュ海沿岸部を目指すことだ。

 3月1日、オデッサ地域へ向けた空挺堡として、バルハシ湖西部のバイコヌール宇宙基地を占領。これについては、既に2月7日に先発降下していた特殊部隊(どうやら、屍喰鬼部隊らしい)の活躍もあったようだ。但し、ロシアの気候がコロニー落としの落着点変更によって混乱していないため、MS試験部隊などの投入は見送られたらしい。

 3月2日、1日で師団級の戦力(後に第一機動師団となるが)から、主力の旅団級の部隊をオデッサ方面に送り出し、残余の部隊から抽出した戦力で、カスピ海沿岸部の占領を開始。3月7日、オデッサが陥落した。また、同日、地球攻撃軍総司令としてキシリアが、ユーラシア方面軍司令としてマ・クベがオデッサへ降下した。

 史実と違うのは、第二次降下部隊の投入先もオデッサ地方とされた点だ。地球降下作戦は、コロニー落とし、ルウムでの戦勝があったからこそ地球全体に満遍なく部隊を降下させる形になったが、今回、北半球はそれほどの被害を受けていない。南米近くにコロニーが落着したため、ジャブローの司令部こそ混乱しているが、直接的な被害を受けたアフリカ以外では、連邦軍はかなり、組織的な戦力を残している。

 このため、本来なら北米に投入されるはずだった第2、第3機動師団はオデッサへの増援、欧州での戦果拡張、北アフリカへの戦力投入を目的として投入され、それに引きずられる形で、北米へは第4機動師団、および混成第3、第4MS旅団が投入。アジア地域へは混成第8MS旅団の投入にとどまった。

 これが戦局にどのような影響を与えたかと言うと、欧州方面では連邦の主力との交戦に充分な戦力を得たジオン軍が攻勢を強めたものの、ドーバー沿岸部の確保を自派閥の人間で行おうと、南欧州で主力を勤めるはずだった、増援の第3突撃機動師団の投入時期を遅らせたため、ドーバー沿岸部を固められてしまい、失敗に終わった。欧州戦線は、史実どおりドーバー海峡を挟んでのにらみ合いが続く事になる。

 北米方面では変化がかなり顕著な物となった。被害が南半球に集中したため、この時点で歴史どおりなら、コロニー落下によって壊滅的な被害を受ける、北米の諸都市が無事である。また、当然それらの諸都市近郊の基地に駐留していた戦力も無事で、キャリフォルニアベース、ニューヨーク共に鉄壁の布陣で以て、迎撃の準備を整えようとしていた。

 このため、ジオン軍は戦力不足に陥り、早々にニューヨークか、キャリフォルニアかの選択を突きつけられる始末となった。結局、ジオンが保有していない戦力である海上戦力の接収を狙うため、海軍の基地が集中し、旧型艦船のモスボール基地も存在するキャリフォルニアに狙いを定めた。

 キャリフォルニア・ベースとは、旧アメリカ合衆国カリフォルニア州に存在した三つの大都市、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴに属する基地群の総称である。ニューヨークを狙うと見せかけるために戦力の一部を五大湖周辺に移動させたため、連邦、東アメリカ方面軍はそれへの対策に追われ、戦力を西海岸へ送る事が出来なかった。そこに、1個師団+2個旅団の戦力が襲い掛かったのである。

 オレゴン州方面から国道5号線に沿って南下する第4機動師団が旧州境のクラマス・モトック・フリモント国立森林公園で激戦を開始すると、第3混成旅団が国道15号線にそってラスベガスからの侵攻を開始。主力をモハビ国立保護区近辺で拘束する事に成功した。その間に、国道80号線に主力をおくと見せかけた第4旅団が、デスヴァレーを突破してフォート・エドワーズへ突入したのだ。この結果、戦線は崩壊し、キャリフォルニアベースは確保されてしまったのである。キャリフォルニアベースの陥落は3月24日、こちらもオデッサ同様、陥落した日にガルマ・ザビ大佐がアメリカ方面軍司令として降下している。

 アジア戦線はオーストラリア降下作戦がなくなったため、タイ平原に旅団級戦力が降下、陣地構築とゲリラ戦、特に、極東アジア最大の工業地域である。日本に対する資源輸送ルートの壊滅が主任務であったため、そもそも、あまり変化が生じていなかった。

 このような推移の下、ジオン軍は地上での第二段階攻勢のための戦力を蓄え、また同時に、連邦軍も反撃のための戦力を整えようと躍起になるのである。



 第10話


 少将に昇進した、トール・ガラハウです。デラーズ閣下と並ぶ親衛隊の二大巨頭となり、ルウム戦役で戦艦・巡洋艦5隻を撃沈したシャアほどではありませんが4隻を撃沈したことが評価されたようです。

 地位が一番低いとは言え、将軍となった事で獲得攻勢が強まっています。ドズル閣下はルナツー方面軍を抑える艦隊指揮官として登用したい、なんてことを言い出しましたし、キシリア閣下は新規編成のMS師団の師団長として地球に降下させろなんて事を言い出しています。アレか、自分の指揮下に組み込む事で戦死狙っているのか。

 高まる両者の要求に対してギレンは、とりあえず月面とサイド3の航路を防衛する親衛隊第二軍団の司令として、月面N3への駐留を行わせる事を決定。キシリアなどに対して援軍を送らせる様、月面駐留の行政官みたいな配置を負わせられました。

 キシリアの地球攻撃軍総司令への新補も相俟って、適当なところで中将に昇進して月面の統治を一手に行わせる旨、内諾を戴いていますが、結局、グラナダに関してはやっぱりキシリア派がどうにかするようです。この結果、本土方面での配置が、地位と役職とが大混乱となる結果となりました。配置を記すと。

 月面航路防衛任務
  ・主務司令部:親衛隊第二軍団 トール・ガラハウ少将
  ・Nシスターズ駐屯部隊 ウォルター・カーティス大佐
  ・技術開発試験隊 ギニアス・サハリン大佐
  ・グラナダ駐屯軍司令 ノルド・ランゲル少将

 なんてことになっています。ランゲル少将は私より先任でえらいはずなのに指揮下に組み込まれていますが、月面では私より偉く、しかも私のところからキシリアのところへ抜く戦力を選べる立場にいるという微妙なお立場。キシリアがいなくなったグラナダで会った際、盗聴器を丸外しした部屋での会談中、頭を深く下げてゴメンナサイしてくれました。

 この人も苦労しているな~。いや、これあからさまにキシリアの手だろ。司令がいい人過ぎると、下手に手を出す事が問題になる。責任者はランゲル少将だし。けれどさっきも見た通り、基地内にいる佐官級の士官が完全にキシリア閥で固められているから、実際はこいつらが命令を下してくるんだろう。

 どうやら、この配置、ギレン閣下も了承の上だそうだとアイリーン女史から連絡ありました。なるほど、キシリア閥の相手を全部こっちにやらせる事で、本国の方をどうにかしたいと。ダイクン派である事が鮮明になりすぎな本国防衛隊相手に忙しくて忙しくてと永遠の17歳はおっしゃいますが、いやアンタ、永遠の17歳の指揮下で戦うのと紫ババア相手に戦うのとのどっちが良いかなんてわかりきってるでしょうに。

 さて、地球攻撃軍の快進撃が続く中、ウォルター・カーティス大佐と言うタフ・ネゴシエーターを得る事が出来ましたので、そろそろこっちも独自に動いてみようかと思っています。彼がいれば数ヶ月ばかり留守にしても、月面の状況を現状維持してくれることは間違いないですし。

 ため息を吐くとこちらに微妙な視線を感じる。半分は笑いを含み、半分は心配そうに見てくれているのだが、そう思うなら助けてぇ、と言いたくなってくるのに、助けてくれないのがMy勢力クオリティとでも言うのでしょうか。



「お兄ちゃん」
「お兄様」
「お兄ちゃま」
「あにぃ」
「おにいたま」
「兄上様」
「アニキ」
「兄くん」
「兄君さま」
「兄チャマ」
「兄や」
「にいさま」



「「「「「「「「「「「「一緒にいてもいい?」」」」」」」」」」」」


 アレだ。萌えるとかそういうのなしに、心が痛い。何だろう、こう、羞恥心とかゴリゴリ削られていくような感じ。ここで「萌え」とか言う奴は一度精神病院行った方がいい。一瞬自分の耳ではなく精神を疑った。まだルウムでザクのコクピットの中にでもいるんじゃないかと思った。いや、望んだのだ。



 誰だ、プルシリーズに区別のためだとか言って、3歳児相手にシスプリ吹き込んだ奴。



 ランゲル少将との会談を終えてN3に帰還したところ、去年からずっと会えなかったため、久しぶり、ということで、港湾部でハマーンを指揮官とし、ロベルタ嬢の援護する「妹中隊」に確保され、会議室まで同行を求められてしまったのである。

 これから会議だから、と言う触れ込みで一回全員を部屋から追い出したのだが、中隊の兵員たるプルシリーズは三歳児。当然そんな理屈が通用するわけがない。追い出された瞬間に全員が泣きだし、扱いに困った(嘘付け)ロベルタがニコニコ笑いながら、「邪魔をしませんので部屋に入れてあげてくださいな」と言い出し、ハマーン隊長とセレイン副隊長がそれに同意した瞬間に負けが確定した。

 負けが確定した後も、何とか会議を真面目な―――こう言って悪ければ、シリアスな―――雰囲気にしようと後で時間を取る事をいいわけに追い出そうとしたところ、先ほどの呼びかけと相成ったのである(ちなみに出迎え最初の掛け声はあの迷セリフ「プルプルプルー」。×12の大合唱は耳を押さえる人と何か変なものを感じたらしい人が続出していた)。

 ちなみに、この後、この区別の方法を吹き込んだのが張さんである事が発覚。どうやら、香港時代に現地で放映していたソレにハマっていたらしく、折り良く十二人の幼児を獲得したので「ちょうどいいと思った。やってみたかった。後悔はしていない」そうだった。話した瞬間に、プルたちだけずるいと言い張って室内に同席していたハマーンとセレインからはゴミのように睨まれ、大人の男性たち(カーティス大佐ら)は気まずそうに目をそらし、ギニアスに至っては何かを開眼したかのようにノリス中佐と頷きあい、シーマ、バラライカの二人は何事かを話し始めた。スルースキルも限界のようですね。頑張ってください。4発ぐらい9mmマカロフ弾打ち込まれてもいい頃合ですよ?イエス・ロリータ、ノー・タッチとは言いますが、三歳児はロリとは言いません。ペドです。

 ソレはともかく、これからの月面部隊、LGの進む道を模索すべく、会議は始まった。経過は省略するが、決まった事は以下の通りである。会議そのものは2月3日に行われたが、ここでは其処での決定内容に基づく、3月1日までの内容も合わせておこう。

 まず、キシリアから早速、保有する艦隊戦力を差し出せという要求が来た。地上攻撃軍への増援投入の際、機動上の護衛に用いるとの事で、これについてはシーマ姉さんと話した通り、保有するムサイおよびザクⅡF型の提供で話が終わった。

 ルウム戦役で所属が一時期私の下になっていたガトー中尉の部隊は、シーマ艦隊が上記の理由で再編に入った事を受けて、正式にデラーズ艦隊に配属。それにあわせ、高機動型ザクを提供した。また、保有する高機動型ザク海兵隊仕様の各機も、若干の改修を施した後、唾をつけておきたい名パイロットたちに提供する予定だ。せっかく突撃機動軍が編成されないのだから、これを機会にキマイラ隊とか奪ってやろうと考えている。

 旧親衛隊第4大隊の開発していたグフ、ドム、ゲルググは運用データが揃ったため、これもキシリアに取られる事になった。もっとも、グフとドムは元々地上用だから、キシリアに提供する事は織り込み済みだったとも言える。強化型ザクことR-3型の運用結果はジオニック社グラナダ工廠に送られ、ゲルググの先行量産型が既に試作機として完成しつつあるが、エネルギーCAP技術が未完成のため、現状では新型のMMP-80マシンガンの装備が考えられている。

 このため、保有戦力は激減し、本土防衛軍から編入された突撃第5師団が月面防衛の戦力となるが、同師団を構成する第51、第52、第53Ms連隊のうち、2個連隊の指揮権がグラナダ部隊に握られているので実質、1個連隊級の戦力しか保持していない。しかも、艦艇が無しで。かなり危険な状態です。

 けれど、これで宇宙での動きは本年9月のV作戦発覚までなくなるため、RP使って戦力の更新を行うにはいい時期と判断し、まず、不足するMSの量を補うため、宇宙用としてMS-21Cドラッツェの提供を開始。構造が単純で量産性が良く、ルウム戦役での損傷機を用いて作っているので原料的にも不足はない。既に30機近くが組みあがり、とりあえずおいてある。時期を見て売り払おう。

 また、MSの開発計画が、親衛隊にかかると良好となるため、小惑星ペズンに建設が予定されていたMS工廠の建設が中止され、その分の資材がア・バオア・クーMS工廠に回されると共に、既存MSの改造計画、新型MSの開発計画も月を経由する事に決定した、とアイリーン女史から連絡が入り、早速ジオン軍に採用されたグフ・ドムの、ツィマッド、ジオニック両社の工業規格合一化に始まる統合整備計画の打診をしていたところ、早速の採用となった事で、リック・ドムの開発にも一部関係する事となった。

 とりあえず、リック・ドムについては後回しにし(可能だが、投入の時期は見極めたい)、グフ、ドムの改造案から提出してみた。具体的には、高速ホバーで移動するんだから、被弾覚悟だろということも相俟って、装甲厚を増したF型を提案。オデッサから北アフリカと言う砂漠地帯での運用を考え、ホバーの吸気口に砂塵防護フィルターを装備したトローペン、リック・ドムへの生産変更を容易にするための脚部設計の改良を提示し、ツィマッド社へ送付する。

 結果、設計が完了したリック・ドムの生産に許可が出たらしく、現在、ザクⅡに変わる宇宙用MSとして生産ラインの設定に取り掛かっており、大体5月ぐらいには生産が開始される予定だ。ザクⅡについても、F型を改修したFZ型へラインが変更され、既存のF型はFZ型に準じた改修を、準備が出来次第受ける事となる(F2型)。

 グフについてはプロトタイプ、および先行量産型が、地上での戦力不足を補うため早速投入されているが、指揮官用の機体として運用されるらしく、中距離戦闘能力を追加するよう、ノリス中佐から打診があった。このため、量産型として既に案が出ていたB型案を改定。固定武装の五連装マシンガンを廃し、シールド内部に連装90mmマシンガンを、シールドに着脱式の75mmガトリング砲を装備させる。またヒートロッドも初期設計案の、鞭状の熱および電撃による攻撃を行うタイプではなく、アンカータイプの電撃のみの方式に変更、簡素化した。これを装備に応じてB1-B3型と称する事とした。

 ドム・グフ以外の地上用MS、特に水中用MSについては、完全にキシリアが囲い込みを行っており、議題にはあがっていない。しかし、ドムの開発で協力したツィマッド社からはゴッグの、ツィマッド社を通じてMIP社と接触を持つことが出来、キシリアからあがってきたデータと、現在トライアルに入りつつあるズゴックのデータを提供する旨、連絡があった。部隊規模で用いるには充分な量が確保出来そうである。

 ルウムでの運用結果を下にジオニック社へ送った強化型ザクの運用データは予想通り新型MSゲルググへの開発を加速させ、MIP社もエネルギーCAP技術を追求してきた経緯からこれに参画しているが、肝心のCAP技術がまだ未成熟で、機体の設計が完了してもまだ終わっていない。

 武装はともかく、機体も優秀なため、ジオニック社に武装について既存の物を流用してはどうかと提案したところ、ギレンのOKが出れば、と言う話になり、その旨ギレンに伝えると「お前の部隊で使う分は好きにしろ」と言われてしまった。まぁ、宇宙用MSとしてリック・ドムが採用されるのが既定方針だし、ビーム兵器と言う売りもない段階でゲルググをどうにかしろよと言われても確かに前線では整備が混乱するためムリだろう。けれど、ザクやグフ、ドムのように動力パイプを露出させていないし、ジェネレーターも高出力のものがつけられているから、ビーム兵器が出た段階で腕部を交換すれば運用は可能だし、ゲルググベースにしておけば、一年戦争中に運用させるMSの出所隠すには最適……とかいう思惑もあったりする。

 なので、早速先行試作機をジオニックから搬入。5月辺りにゲルググMとして運用を開始する予定である。いやぁ、やっぱりシーマ艦隊はゲルググじゃないと。それに、ジオンのザク、グフ、ドム、ゲルググが出揃ったあたりで考えている事もあるので、ゲルググの登場は早めたかったのである。


 こうした決定内容を受け、月面の戦力拡充とジオン軍への戦力支援を、3月から9月まで続ける態勢を取ったところで、そろそろ自分のために動く番になった。

 地球降下作戦の最中、3月15日。月面恒久都市『N8』―――この都市はまだ連邦・ジオンともにクレーターとしか認識していないが―――より出航した民間用船舶が、地球軌道上へ移動を開始したのである。



 乗り込んでいるのはトール・ミューゼル連邦宇宙軍中佐である。
 



[22507] 設定集など(00-10話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/23 17:06
 ■主人公勢力まとめ
 初期戦力
 a)企業体
  ・太洋重工グループ:重工業/資源採掘業/運送業など
  ・月面極冠都市連合『Nシスターズ』
  ・ウィナー家(マネー・ヘッジファンド)

 b)特殊部隊
  ・三合会の皆さん
  ・遊撃隊の皆さん
  ・ブラスレイター三人組

 c)艦隊戦力
  ・グレイファントム級「トロッター」
   K28Rハイッシャー:12機

 ポイント変更推移表

 2039:初期SP442000
 ■技術項目
  ・年齢変更機能:30000
  ・重装機兵シリーズ:5000
  ・ブラスレイター:5000
  ・バンプレストオリジナル:5000

 ■獲得ユニット
  ・「グレイファントム」級強襲揚陸艦:1隻14000
  ・K28R「ハイッシャー」:12機合計12000
  ・火星基地:2基50000
  ・輸送船+モビルポッド:10000
  ・バイオロイド兵500名:5000

 ■キャラクター
  ・バラライカ(ブラックラグーン):10000+成長性など20000
  ・遊撃隊(ブラックラグーン):15000+成長性など30000
  ・ロベルタ(ブラックラグーン):5000+成長性10000
  ・カトル(ガンダムW):10000+ウィナー家5000+成長性など30000
  ・ゲルト・ヘルマン・マレク(ブラスレイター):合計27000+成長性54000
  ・アストレイ3人娘(SEED):合計15000+成長性30000
  ・ロックオン=ストラトス(00):10000+成長性20000
  ・ナタル=バジルール:5000+成長性10000


 2045:UC0001
 *ラプラス事件を改変!GP50000を入手!
 *RPの変換レートは100tです。(28000P変換)

 GP78000 → 3000
  ・三合会の方々(ブラックラグーン):合計15000+成長性30000
  ・張維新(ブラックラグーン):10000+成長性20000
  


 UC0060年代(03-04話)
 *タマーム・シャマラン暗殺を回避!GP30000を入手!
 *RPの変換レートは100tです。(925000P変換)
 ★タマーム・シャマラン氏は『俺ら連邦愚連隊』に登場しています。

 GP958000 → 423000
  ・ヤン=ウェンリーら4名:合計25000+成長性など50000
  ・ミューゼル一家:合計20000+成長性など40000
  ・第一 → 第二期モビルスーツ(F91以降)生産能力:50000
  ・プラント能力拡充:150000 → 資源効率が向上!火星プラントの変換限度が年2000Pから10000へ上昇しました
  ・ドック能力拡充:30000 地底船渠の能力向上により、最大16隻の同時建造が可能になります
  ・縮退炉製造技術:80000 ターンタイプの生産が可能になりました
  ・PT生産技術a:60000 パーソナルトルーパーの生産が可能になりました(バンプレスト)
  ・AS生産技術:30000 アサルトスーツの生産が可能になりました(重装機兵)



 UC0070年代前半(05話)
 *プルシリーズを救出しました!GP40000を入手!
 *グラナダ市長暗殺事件を回避しました!GP350を入手!
 *シャア・アズナブル(本物)が生存しています!GP100を入手!
 *セレイン・イクスペリを救出しました!GP3500を入手!
 *主人公勢力にシーマ・ガラハウが加入しました!GP2000を入手!
 *RPの変換レートは150tです(230000P変換)

 GP698950 → 448950
  ・プラント変換効率向上:50000 RPレートが100tへ戻ります(期限10年)
  ・第三期モビルスーツ(MMなど)生産能力:100000
  ・超空間航法技術a:50000 パッシブジャンプ(ゲート使用によるワープ)が可能になりました!
  ・超光速航行技術a:50000 光速を越す船舶を研究できます
  ・テラフォーミング技術a:50000 テラフォーミングに関する理論・技術を得ます
 

 UC0078年(06話)
 *ミノフスキー博士が生存しています!GP5000入手!
 *優生人類生存説が未発表です!GP5000入手!
 *火星のテラフォーミングが開始されました!GP50000入手!
 *主人公勢力にデトローフ・コッセルが加入しました!GP50入手!
 *RPの変換レートは100tです(257000P変換)


 GP766000 → 311000
  ・テラフォーミング技術b:50000 テラフォーミングに関わる建造物が建造可能になりました
  ・PT生産技術b:50000 カスタムタイプのPT、およびアーマードモジュールの生産が可能になりました
   → +縮退炉製造技術で、グランゾンの生産、および重力制御技術の開発が可能になりました!
  ・改造技術a:30000 生産可能な機体をチューンする事が出来ます
  ・バイオロイド兵能力向上:50000 歩兵戦闘が可能になりました!
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000
  ・不死設定a:50000 死亡後1年で復活できます!
  ・不死設定b:50000 死亡期間が短縮化されます。1年 → 6ヶ月
  ・パイロット能力Lv.1:50000 モンシア少尉ぐらいは活躍ができます!
  ・オリヴィエ・ポプランとウィスキー隊:合計20000+成長性40000
  ・フレデリカ・グリーンヒル:5000+成長性10000



 UC0079年1月第1週(07話)
 *一週間戦争での被害人口が、史実より24億人減少しました! GP240000入手!
 *主人公勢力にMS特務遊撃隊が加入しました!GP1500入手!
 *RPの変換レートは100tです(30000P変換)

 ★主人公の階級が大佐になりました
 ★主人公の部隊が旅団規模に拡大されました
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×6
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-06S 指揮官用ザクⅡ×1
   MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ海兵隊仕様×1
   MS-06F ザクⅡ×6

  ・ムサイ初期型(カーゴ搭載型)×3(搭載機に+8)
   MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ海兵隊仕様×9
   MS-06F ザクⅡ×21

  ・搭載外
   YMS-07A プロトタイプ・グフ×3
   YMS-09 プロトタイプ・ドム×3
   MS-06R-3 ゲルググ先行試作型×2

 GP582500 → 42500
  ・重力制御技術a:80000 保有する機動兵器は、設定に応じて10Gまでの慣性を無視して行動できます!
  ・PT生産技術c:80000 EG/VR型機動兵器の生産が可能です!(スパロボAなど)
   + 縮退炉建造技術で、XNガイストの開発が可能になりました!
  ・PT生産技術d:50000 異星人フューリーの兵器生産が可能です(スパロボJ)
   → オルゴン・クラウドの開発が可能になりました!
  ・改造技術b:50000 オプションパーツの生産が可能です(Gジェネ準拠)。
   → 改造技術cで、更なるパーツの生産が可能です!
  ・パイロット能力Lv.2:80000 ジェリドくらいは活躍できます
  ・改造手術a:50000 コーディネイターぐらいの肉体。酸素がないと死にます。
  ・プラント能力拡充:100000 火星プラントの変換効率が年20000Pになりました
   → プラントにパッシブジャンプゲートの設置が可能になりました!
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000


 UC0079年1月第2,3週(08話)
 *地球へのコロニー落としの被害軽減に成功しました!GP100000入手!
 *主人公勢力にランバ・ラル隊が加入しました!GP5000入手!
 *主人公勢力に闇夜のフェンリル隊が加入しました!GP3000入手!
 *キシリア・ザビの突撃機動軍が編成されません!GP50000入手!
 *RPの変換レートは100tです(160000P変換)


 GP405500 → 230500
  ・不死設定c:50000 死亡期間が短縮されます。 6ヶ月 → 1日(但し、強制的に月まで移動)
  ・改造手術b:50000 ガンダムファイターぐらいの肉体。酸素が無いと死ぬかどうかは試してみてください。
   ★改造手術で獲得したのは肉体の強さだけです。操縦や戦闘技術などは別扱いです。
  ・パッシブジャンプゲート設置:25000 月・火星間のワープが可能になります!
  ・プラント設置:50000 木星、衛星エウロパに基地が設営されました!月・火星・木星間のワープが可能です!


 UC0079年1月第3、4週(09話)
 *サイド5の被害が史実よりも少なくなっています!GP90000入手!
 *連邦軍の被害が抑えられています!GP20000入手!
 *ロドニー・カニンガン准将が生きています!GP1000入手!
 *ルウム戦役での活躍!ベイ三基破壊、パトロール艦2隻、巡洋艦4隻撃沈!GP4900入手!
 *テアボロ・マスが生きています!GP100入手!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)

 GP396500 → 146500
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.2:50000 艦艇・航空機系の運用が可能になりました。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.3:50000 人間に擬態する事が出来ます。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.4:50000 人間とのコミュニケーション能力を得ました。
  ・バイオロイド兵能力向上Lv.5:50000 MSなどの高精度精密機械の運用が可能になりました。
  ・バイオロイド兵生産 5000名:50000


 UC0079年2-3月(10話)
 *ニューヤークではなくニューヨークのままで、しかもニューヤークが占領されていません!GP60000入手!
 *オーストラリアにジオン軍が降下していません!GP30000入手!
 *主人公勢力にギニアス・サハリンが加入しました!GP2500
 *主人公勢力にノリス・パッカードが加入しました!GP3500
 *主人公勢力にウォルター・カーティスが加入しました!GP1000
 *プルシリーズの性格がシスター・プリンセスの影響を受けました!GP24000入手!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)
 ★火星のテラフォーミングは順調に進行しています(0080年1月完了の見込み)
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×6
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-06S 指揮官用ザクⅡ×1
   MS-06R-3 ゲルググ先行試作型×1

  ・搭載外
   MS-21C ドラッツェ×32


 GP317500 → 142500
  ・オルゴン・クラウド適用:25000 動力源としてオルゴン・エクストラクターを生産できます
   → 派生技術の開発が可能になりました
  ・パイロット能力Lv.3:100000 ザビーネくらいは活躍できます。
  ・ナノマシン技術Lv.1:20000 医療用ナノマシンを生産できます
   → +バイオロイド兵生産技術で、強化人間復元技術を入手!強化人間を普通の人間に戻せます!
  ・ナノマシン技術Lv.2:30000 改造用ナノマシンを生産できます
   → +縮退炉生産技術で、ナノ・スキン装甲を全機体に適用可能です!
   → +作品拡張;ブラスレイターで、ブラスレイター製造技術を入手!



[22507] 第11話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/27 05:15
「失礼致します、トール・ミューゼル中佐、入ります」

「どうぞ」

 ジャブロー、連邦軍総司令部ビルの3階。現在、地球上で戦う連邦軍すべての司令部だ。3月16日に大気圏に突入した民間船舶は16日中にニューホンコンへ到達。連絡機を乗り継ぎ、オーストラリア経由で南米ジャブローに到着したのが17日で、早速この議場に呼ばれた。

 現在の私の立場は、ジオン軍親衛第二軍団長ではなく連邦軍特務作戦集団、第3集団長の中佐、と言うことになっている。そして、今回の報告も、この第三集団長としての報告だ。そして第三集団の任務は、敵ジオンの新兵器に関する調査だった。

 入室すると左胸に太いバーが連なる人間ばかり。一番奥に座るのが連邦軍作戦本部長のシドニー・シトレ大将。両側に座るのが連邦軍総司令、ヨハン・レビル大将と、幕僚・兵站総監ゴップ大将。そしてその二人の次に座るのが、第一軌道艦隊司令のビュコック中将と、連邦、欧州方面軍総司令のパウルス大将だ。

「報告します。トール・ミューゼル中佐、月面での任務を終え、無事、帰還いたしました」

「ご苦労」

 シトレは言った。周囲を見回す。

「中佐の任務は高度の秘匿性を要求されるため、今日、この日まで関係各員には伏せておいた事を了承してもらう。また、今日、この部屋で交わされる内容に関しては全員、秘匿を命ずる。漏れた場合はわかっているな」

 全員がうなずく。



 第11話



「それでは中佐、よろしく頼む」

「了解しました。まず最大の懸案として、連邦軍内部に存するジオンのスパイに関してですが、エルラン中将が最大の候補者です。いや、候補と言うのは不明瞭ですな、犯人であります」

 ゴップとレビルの目が見開かれる。エルランは二人にかなり近い立場にある。レビルの救出を指揮したのは、ほかならぬエルランではなかったのか。

「嘘だろう!?エルラン中将はレビル大将救出作戦の……」

「残念ながら、事実であります。エルラン中将がレビル大将救出作戦を遂行したのは、主にジオン側の内紛が理由であり、この戦争をレビル大将の演説を以て継続させることにありました」

 私は、ギレン、デギン、キシリアの三者に関する説明を彼らに行う。どうにも信じられないようだ。内部の権力闘争が原因で、せっかくの勝てる戦争の機会を失うなど、常識的に考えればありえない。

「常識的にはありえない事態ですが、独裁をもくろむ人間が複数存在するジオンにおいては、誰かによる独裁が完了するまでの戦争継続はむしろ自然であります。第三集団は、エルラン中将を即座に逮捕するのではなく、連邦軍が持つ、ジオン側への欺瞞作戦のための駒として用いる事を提案します」

 全員の顔が沈む。今の今まで連邦軍の首脳部に敵のスパイが存在していたことすら考えても見なかったのに、この中佐はそれを指摘するだけではなく、ジオン側に対する欺瞞作戦としてソレを用いよという。

「しかし、欺瞞作戦に用いるとはいえ、用いるためには犯行計画の整うまで彼を泳がせておく必要があるだろう?ソレまでの間にこちらの情報がジオン側に筒抜けになる事は避けたいのだがね」

 いち早く復活したゴップ大将が口を開いた。流石に軍政の大物だけあって、こうした政治的な問題に関しては対応が早い。

「ええ、ですが連邦軍の反抗計画が始まる前であれば、むしろエルラン中将が関わらない分野、部署での活動が主となります。飼い殺しにしておくことも可能かと思いますが、流石に詳細を私から申し上げるのは越権に過ぎます。直属の上司であるレビル大将が判断されるのが宜しいでしょう」

 レビルがうなずいた。

「了解した。しかし、本当かね?」

「ええ。彼がキシリア機関と通称される、ジオン軍、キシリア・ザビ地球攻撃軍司令の諜報部隊と接触を以ている事を確かめてあります。主に接触を行っているのは、副官のジュダック少佐ですが。スイス銀行の口座に入金があった事も確認しております」

 レビルはため息を吐くと席に深く身を沈めた。

「そうか、わかった。何とかしてみよう」

 シトレはうなずいた。

「それだけではあるまい、中佐。本題に入ってくれ」

 私はうなずくと、現在ジオン地上軍、宇宙軍が用いているMSの解説に入った。まだ実用化が行われていないMSについては省き、近々投入される予定のMSについては性能をかなりぼかして話すこととする。流石にゲルググについては話せないが、ザク、グフ、ドムについての情報が得られたことは、連邦軍首脳部に対して有能さを見せつけるいい機会だと判断したためだ。むしろ私の立場からすると、知らない方が問題が多いのだが。

「良くぞここまで調べ上げる事が出来たな……」

「私の秘蔵っ子でね。君らも知っている、ヤン少将の弟分だ。経歴に関しては絶対にタッチするな、と全員に伝えておく。任務に差しさわりが出るのでな。彼の身分は私とビュコック中将、ヤン少将が保証するし、開戦以前にはカナーバ下院議員やグリーンヒル上院議員とも接触して情報を伝えてきてくれている」

 ゴップが目を見開いた。カナーバ議員は、連邦創生期に財務大臣としてコロニー開発計画の予算捻出を行った、アイリーン・カナーバ議員の同名の孫娘だ(実は若返った当人なのだが)。グリーンヒル上院議員は元中将、早期退役して連邦政界に入り、軍の利権代表として活動している。ゴップ自身も、この戦争が終わり次第、グリーンヒルの援助で政界に打って出る予定だったのだ。しかも、グリーンヒルの娘と結婚が噂されているヤン少将の弟分では、下手に手を出せば政界に打って出る目がなくなる。このような経緯では文句をつけるどころではなかった。

 たいていの場合、55歳で、将官の場合、少将60歳中将62歳という風になるが、定年後や、早期退役制度を用いてに政界に打って出る将軍は意外に存在する。それらの道筋を現在つけているグリーンヒルの関係者とくれば、厚遇しないわけには行かない。

「いえ、懸念が少し出ただけです、シトレ閣下」

 差し出がましいが、口を挟んだ。ゴップに対してフォローの必要性を感じたのだ。

「当然の懸念と思います、閣下。むしろ、ありがとうございます」

 私はゴップに一礼した。兵站に関係する部署の人間と絶対に喧嘩してはならない。ソフィー姉さんから叩き込まれた、軍人としての条件の一つだ。ゴップも好印象を受けたようで、言葉を続けた。

「中佐の有能さは報告の内容に現れていると思うが」

「うむ。それだけではない。中佐の任務は、ジオン軍からの諜報結果を元にした、連邦軍用MSの模索にある。これについては、中佐の指揮の下、日本の太洋重工と協力して事に当たってもらっている。中佐、連邦軍用MSの開発計画の方はどうなっている?」

 私はうなずいた。

「既にレビル将軍の下でも、V作戦の名の下、MS開発計画が進行しておりますが、我が集団においても同様の計画を進めております。勿論、きちんとした開発段階を踏んで行われるV作戦が優先であることには間違いありませんが、代替計画、即座に実行可能なもの、として我が集団が進めておりますのがL計画です」

 コンソールを操作し、L計画で開発しているMSを映し出す。

「RRf-06、通称ザニーです。この機体は操作性の問題で開発が頓挫しかけていましたが、我が部隊の諜報によって、ジオン軍の用いている操縦システムの奪取に成功。ソレを取り入れて開発を終えております。現在、太洋重工の生産ラインで日産10機を目処に生産を行っております」

 おお、と歓声があがる。そうだろう。実用できるMSの生産が、既に始まっていたのだから。

「しかし、ジオン軍の用いている機体と比較した場合、現在彼らの主力として運用されているザクⅡF型とは互角に戦えますが、それ以外の新型機が出てきた場合には対応が出来ません。また、汎用型としての運用を前提に開発しておりますが、予算の問題から局地陸戦や宇宙戦、水中戦などの局地戦に対応が出来ません。この機体を投入するならば、気候的にも安定している欧州戦線が適当と考えられます。むしろ、局地戦に対応した機体に関しては、V作戦の実戦データを待ったほうが良いかと考えております」

 レビルがうなずいた。それに続いて全員もうなずく。

「よくやった、中佐。V作戦が間違っていなかったことの証拠になり、また、生産能力や、ノウハウの蓄積に役立ってくれるだろう。それに加え、部隊がMSの運用に習熟する良い機会ともなる。鹵獲した機体だけでは生産などに問題を抱えるだろうからな。いや、本当に良くやってくれた」
 
 レビルが立ち上がり、握手を求めてくる。私も、笑みを浮かべてソレに応じた。

「現在日本の山間部において実験、試験が行われており、獲得したデータは即座に送れる状況にしてありますので、V計画への転用も充分可能でしょう。また並行してMSの運用・整備マニュアルの整備や、武装の案も考えております」

 レビルがうれしそうにうなずく。パウルス大将も上機嫌だ。先ほどの言葉どおりなら、この新兵器はまず、彼の率いる欧州方面軍に配備されるだろうからだ。

「ただ問題もあります」

 そういうと、レビル、ゴップ、パウルスが身構えた。

「現在、MSの生産には太洋重工グループの協力を戴いておりますが、戦後を考えますと、太洋重工一社の独占市場になる恐れがあります。勿論、ジオンの国策会社であるジオニック社の存続問題や、月面のRX計画を主導してV作戦にも深く関与しているアナハイム・エレクトロニクス社の存在もありますし、一社独占とするには、市場の大きすぎる内容である事が、戦後の懸念としてあります。これが第一です」

 そこで、と続けた。

「特に、これまで連邦軍の軍需を担ってきたハービック、ヴィックウェリントン社にも軍需市場をそれなりに開放しなければ軍需面、政治面双方に悪い影響が出る可能性もあります。ヴィックウェリントンは艦艇という逃げ場がありますが、ハービックは悪くするとつぶれかねません。そこで、ハービックには大気圏内、圏外用のサブフライトシステムの開発を御願いしておきました。MSにしろ戦車などにしろ、現在主力のミデア型―――ハービックの製品の一つですが―――は大型輸送機として活用度が高くありますが、やはり運用は輸送機でしかなく、戦術的に用いるには、たとえばMSの空挺降下ぐらいでしょう。新市場を提供するためにも必要かと思います。また、大気圏内の飛行が可能な新型の船舶、戦術輸送機についても、ハービックに任せるべきかと愚考します」

 ゴップはうなずいた。若い軍人にしてはなかなか行き届いたものの見方をする、と思っている。軍需企業が多ければ多いほど、連邦軍の軍需を巡って接待攻勢をある程度しかけてくるし、それに乗っかる形で利権を要求することも出来るが、一社独占となった場合には立場が逆になる。それでは流石にまずいのだ。

「君の懸念ももっともだ。艦船関係については、ヴィックウェリントンと競合する他のメーカーにも打診の予定を考えておるのかね?」

 勿論です、とうなずく。

「サラミス級ですが、設計は連邦軍の艦政本部でありますので、MSの運用を考えた後期生産型からは、ある程度設計図を各社に流し、利益配分を考えるべきかと思います。MSの運用を前提にした案としては、即座に実行可能なものとしてこれを推薦いたします」

 コンソールに新たな画像が映し出される。サラミス級だ。

「まず、現行艦船の改装案です。サラミス級の前部砲塔、および内蔵VLSを排除し、MS運用施設を装着。但し、カタパルトなどの発進装備は排除してあります。改装と部品調達に時間がかかりますので。但し、艦底部を改装し、MS運用設備を装着。また、弾薬の誘爆を防ぐために現在装備されている90mm機関砲を排除。パルス・レーザー砲に転換します」

 ゴップ大将が手を上げた。

「それでは、今度は90mm機関砲弾が余りゃせんかね?」

「それは、MS用90mmマシンガンの弾薬として用います」

 ゴップはうなずいた。

「なるほど、よう考えている」

「新型のサラミスにおいては、両舷に突き出した第二、第三艦橋を撤去し、砲塔と近接防御用のロケットランチャーを配置。艦底部にMS運用施設をおき、砲戦力を強めます。しかし、我が軍の保有するMSが一定数量に達した場合、艦体前部は、MS運用施設としたほうが宜しいかと」

 全員がうなずき、改造案は早速各社に示される事となった。マゼランの改造案もあるにはあったが、むしろその強力な砲撃能力を生かすことを考えるべきで、MSの運用に関してはある程度オミットしてもかまわないのではないかと言う意見が出たため、一年戦争中は無しの方向で固まった。

 連邦軍のMS開発計画に光明をもたらし、ジオン軍のMSについて詳細な情報を提供したトール・ミューゼル中佐の名前は連邦軍最上層部にしっかりと記憶され、翌日、シトレ大将より内々に大佐への昇進が通達されるのである。



「トールさん!」

「カトル君」

 連邦軍の制服をきた15歳ぐらいの少年が、退室した私を出迎えてくれた。カトル・ラバーハ・ウィナー、ガンダムW5人組唯一の良心である。連邦軍ではカトル・ウィン少尉の名前で副官を務めてくれており、私がジオンに言っている間には、地球最大のマネーファンド、ウィナー家の当主として利鞘稼ぎにはたまたマネーロンダリングにと大活躍してくれている。

「久しぶりです」

「……本当に久しぶりだ、涙が出てきた」

 自分の素性を了解してくれている数少ない常識人である彼は、そのスマイルを以て姉二人を止められる数少ない人材である。いやぁ、やっぱり婦女子受けいいのね(字は正しいぞ?)。ジオン軍では1個師団級の戦力をもってはいるが、連邦軍ではまだ少ない。今回、シトレ大将からもらえる職権でどれだけの戦力をかき集められるかが鍵となるだろう。カトル君によると、まだ強化人間の捜索は終わっておらずとのこと。一応、フォウ・ムラサメの候補らしき女性は何人か見つけたが、果たしてそのうちの誰が、という事は判然としないらしい。

 少し時間が前後するが、またもやジオンへと戻る事になる4月末までの状況を記しておこう。

 地球降下作戦が始まって以来懸案となっていた占領地域拡大のうち、アフリカ方面は順調に占領地を拡大し、ケニアのナイロビ宇宙港や、連邦施設の存在するダカールなどを占領し、アフリカ制圧作戦の終了を高らかに4月2日、うたうことになる。

 これに対して、続いて4月5日より行われたアメリカ制圧作戦は、緒戦でニューヨークや五大湖方面を落せなかったことで泥沼の様相となっており、アメリカ南部諸州、メキシコ、中米に部隊を展開させ、パナマ運河を占領地に組みいれたことで大西洋・太平洋間の水上交通こそ遮断し、ニューオーリンズ、コーパス・クリスティ、タンピコを母港として大西洋潜水艦隊を発足させたものの、全域制圧は適わなかった。

 南部は旧ジョージア州以北への進撃を、オーガスタ基地駐屯の部隊に阻まれ、また4月15日から戦線にザニーの姿が確認されると、混乱が生じ始めた。また北部においても、ナッシュビル~セントルイス~デ・モイン~ミネアポリスの線を抜けず、大量の兵器、兵站物資を供給する五大湖沿岸部に対する攻撃は適わなかった。空挺攻撃も一時期検討されたが、被害が大きすぎるとして廃案となったのだ。

 太平洋戦線では史実どおりにハワイを占領する事は出来ず、4月下旬に行われた空挺降下作戦は、日本から師団規模で送られた大量のザニーによって頓挫。潜水艦隊による封鎖に移らざるを得なくなったが、ペイロード160tを誇るミデア型輸送機の前には、ハワイ以東への進撃を防ぐ効果しか期待できなくなってきていたのである。

 戦線は膠着し、MSの運用準備を連邦軍が進める中、ミューゼル大佐の特務第三集団は、戦力を整えつつあったのである。


 ということで、現在日本州樺太を基地として戦力整備を行っている、トール・ミューゼル大佐です。樺太は旧ロシアと日本の係争地だったこともあって、大規模開発が見送られていた地域だったんですが、地球連邦の成立と共に太洋重工が買収。全島を工場地域化し、従業員の居住設備なども整えています。

 その太洋重工樺太工場から南に進んだ、大泊に本部を置き、MSの戦力化を行うのが、現在の連邦軍での私の任務になります。

 まず、MSの使用する火器の開発と称し、連邦軍の戦車部隊からエイガー少尉を引き抜き、RTX-44型の180mmキャノン砲を開発中です。開発コードを突撃戦車として、現在の連邦軍にもまだ根強く残る、戦車閥に対応する準備も整えてあります。この点、レビル将軍を説得するのが手間でしたが、開発に要らぬ茶々を入れられるよりはまし、と言う事で何とか説得が出来ました。

 しかし、RTX-44の開発計画を引っ張った事で、まさかアリーヌ・ネイズン技術少尉まで来るとは思っていませんでした。ああ、勿論まだあのスパイな恋人とはあっていなかったので、スパイな恋人さん(予定)は諜報部へ押し付けておきました。まぁ、ザニーの内容は漏らしてやるから、と言ってあります。

 ……「永遠の(ry」との接触確率高くないか。既に接触したのがネイズン少尉で二人。絶対に接触予定なアイナさんを入れると三人。……おい、マリア・ニコルスとか出てこないよな。うん、後々を考えて、とりあえず探させてはおこう。格ゲーなのにダウン時以外ひるまないとかどんな無理ゲーだよ、サイコMk-Ⅲは洒落にならん。

 エイガー少尉とネイズン少尉で長距離系はどうにかなると判断したので、ジオンとの冷戦期に原型が作られていた機体としてRX-77-01型を原型に、中距離戦用MSとして量産型ガンキャノンの試作を行ってみた。この世界の歴史には、どうやらかなりORIGINの影響があるようで、スミス海での連邦VSジオンこそ起こらなかったものの、低出力のジェネレーターのために充分な性能を発揮できなかったことは確かなようだ。

 調べてみると、太洋重工が売り出していた動力鉱石エンジンを3基連結させたもの(合計690kw)をジェネレーターとしており、こんな中身で70tじゃ歩くのもつらい、とため息が出ざるを得なかった。しかし、それ以外の設計は変更する必要がないため、ジェネレーターを入れ替えるのみとした。ビームライフルよりは90mmマシンガンの方が使い勝手も良いだろう。

 それと会わせ、V作戦の方にもテコ入れを開始する。現在建造が進められているペガサス級の改装案をまとめ、テストベッドとして三番艦「トロッター」を月面秘密工廠にて建造と書類を調える。ホワイトベースの性能を確認すると、MSの搭載は最大16機、補用としてパーツ段階で4機を搭載できるようだ。

 それなのに劇中では最大6機ほど、という印象しかなかったし、ORIGINでも似たようなものだったな……こっちも考える必要あるか。

 と言う事で、色々とテストパイロットを集める手はずを整えみることとした。

 まず現在航空機パイロットとして戦っている人員のMS再訓練マニュアルの制作と銘打ち、宇宙軍から不死身の第四小隊を、地上軍からヤザン・ゲーブルとライラ・ミラ・ライラを抜き、再訓練の度合いを測る。全員がティターンズ入り確定なような気がするのはかなりつらいが、苦労人バニング大尉(昇進させた)に、彼ら五名の精神的なたたきなおしも含めて御願いするとしよう。ライラさんあたり、スイカバーの場面でカミーユの体借りるぐらいだから可能性あるかもしれない。

 今回のポイント使用は連邦での活動拠点となった樺太の地下部にプラントを設置。RPを使用できる態勢を整えたぐらい。しかも、樺太に設置すれば海水を放り込むだけでRP化可能と言うチート(木星のプラントもそれ目的なのだけど)。そろそろ、後半を考えて貯めておきたいのである。



[22507] 第12話[R15?]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/27 05:16
 宇宙世紀0079年、本日は7月7日。現在地はジャブロー工廠。

 目の前のMS整備用のハンガーには、連邦軍の期待の新星、RX-78ガンダムが4機、格納されている。
 ロットナンバーは右からRX-78、RX-78-1、2、3である。RX-78系統の機体が、ファーストロット系統で実は4機存在する事は知っていたが、これだけ並ぶと壮観だ。ジャブロー工廠を管理しているゴップ大将によると、4機のうちナンバーの振られたRX-78-1、2、3の三機は、ホワイトベースに搭載の上、サイド7での最終試験に臨むという。

 現状、ルナツー近辺の宙域は連邦軍によって維持されており、試験空域となるサイド7は連邦軍の庭と言うらしいが、宇宙で使用できるMSをまだ数として持っていない連邦軍の現状からするとかなり危うい。ここのところは、下手にルウム戦役で連邦宇宙軍の艦艇が残ってしまったため、ルナツー近辺まで通商破壊作戦を行えなかったジオン側の問題もある。5月にジオンに戻り、6月末に帰還したが、その最後の週辺りになってようやく、ドズル指揮下のいくつかの戦隊が、通商破壊作戦に従事するらしいとの事だった。

 連邦軍によって制作されたエネルギーCAP技術は、連邦の高い工作精度とも相俟って、ザク程度の装甲なら掠るだけでも融解を始めるほど出力が高い。既に運用方法の確立しているガンキャノン、ガンタンクは、試験用と言うよりは護衛として用いる方針のようだ。

 ゴップ大将が本日私を呼び出したのは、RX-78をベースにセカンドロットにあたる4号機から8号機の合計5機の開発・実用化を太洋重工で行ってほしいということらしい。また同時に、機体追従性の向上を目的としたNT計画の名前の下、ガンダムの機体追従性向上型もあわせて開発してほしいとの事だった。現在の北米は激戦区だから、流石にオークニー基地とかで開発は無理か。……でも、史実でもキャリフォルニアとニューヤークが陥落したのは12月の話だよな?

「しかし、現状パイロットが足りません」

 私は言った。

「第4小隊はジムの集団戦闘データ撮りの真っ最中ですし、ライラ、ヤザン両少尉はジムの派生系のテストに用いています。現状、手が足りません」

 ゴップはうなずいた。しかし、少し考えるように言った。

「ソレは承知している。だがのぉ……君に心当たりはあるか?太洋重工の社員とかはどうだ?」

「今いる人員でもいっぱいいっぱいです。ジムは汎用機ですから、当然水中、河川、泥濘、森林など地上の各地形に対応したデータが必要になります。なんにせよ、まずはジオンを地球から追い出すことが第一の目的なわけですから、ジムのデータは最優先で撮る事になります。大多数の兵員が乗るのはガンダムではないので」

 ゴップはうなずいた。

「だからと言ってライラ、ヤザン両少尉を動かすことも避けたくあります。二人にはホワイトベースに同行してルナツーまで行って貰い、ジムの宇宙戦データを取ってもらう必要があります。まぁ、先行試作型のコクピットとバーニア周りを改修した、暫定的な宇宙戦仕様ではありますが、ジムの運用を宇宙でも考えているなら、必要な措置です。流石に、これに加えてガンダムの運用・開発までどうにかしろと言うのはオーバーワークですよ」

 ゴップは頭を掻いた。

「だろうなぁ。わしもそう思うのだよ。だがな、前線部隊からはパイロットの引抜に対して文句を言われ続け、断られる結果となっておる。前線の言い分もわからんわけではないのだ。戦線を支えているのは彼らだからな。君のところで訓練して送り出したのを戻すのも困るし、前線で自然に扱いなれた奴を戻すのも問題だろう。ツァリアーノとか」

 今度は私がうなずいた。

「でしょうねぇ。あの人は鹵獲機使った訓練に忙しいでしょうし……士官学校を今年出たばかりの奴では如何でしょう?」

「ジャブロー配置予定のか?出立てほやほやでは意味なかろう?」

「でも、頭に何も入っていないですから、適応早いと思いますよ?スペースノイドがいいですね……宇宙戦を考えるわけでしょう?でしたら……」

 ゴップはため息を吐いた。困ったように顔をこすり、口を開く。

「全く、大佐には適わんな……了解した。大佐の方で良いのを見繕ってくれ。配属が何処でも、強気で当たってみる。だが受け入れ先が明確でないと前線も頷けないだろうから、MS戦技研究大隊とでも名前をつけて、仮称G-1部隊と書類を上げておく。ただスペースノイドの扱いには気をつけてくれ、コリニーや、その腰巾着のジャミトフ、さらにその腰巾着のバスクやジャマイカンが色々煩くなってきたのでな」

「はっ」



 第12話



 連邦とジオンの戦争は、変わることなく一進一退を続けたままだ。ジオン軍は予定通り5月末にトライデント・ジャベリン両作戦を開始し、これに成功した。一時期、インド方面からの連邦西部ユーラシア方面軍の攻撃で分断された中東地域を、5月末までに海陸双方からの進撃で再連結することに成功している。

 これに対し、連邦軍は5月下旬にヘリオン作戦を発動。史実ならば失敗したソレは、参謀長にヤン・ウェンリーを迎えた、ビュコック中将率いる連邦第一軌道艦隊の活躍によって成功した。ジオン軍は戦闘艦艇の被害こそ少なかったものの、多数の大気圏突入カプセルを投下し終えたばかりの輸送船団を喪失。地球~月間の航路に一時影響が出、またぞろキシリアが人のところから今度は船団を持ち出す始末となった。Nシスターズ保有の輸送船の徴発行為に出たのである。

 Nシスターズの抗議文書をギレン宛に送付したが、ギレンは徴発する船舶の数こそ減らしたものの原則的にはこれを承認した。実際、軌道上で失われた輸送船はかなりの数であり、投下任務終了後には本来の役目である各サイド~月~資源衛星間の輸送任務に戻る予定だった事を考えるとまずいのだ。ここまでして何故、地球への戦力投下を行ったかと言えば、この投下カプセルに、本国生産されたグフ、ドムの第一期生産分が入っており、ジオン地上軍の増強のためには絶対の物資だったからである。

 6月に入り、月面で建造を進めていたドロス級空母ドロワ、ミドロが完成。ドロワは予定通りドズルの宇宙攻撃軍へ配備され、ミドロは本国防衛隊配備となった。ギレンからは本国にはドロスがあるため、2隻は多いとの話だったが、下手に持っていて後々キシリアに目をつけられても面倒なので、ここは御願いする事とした。返礼と言ってはおかしいと思うが、この際、ザンジバル級のケルゲレン、インゴルシュタットを取得することが出来たので、早速インゴルシュタットをアクシズに送っておいた。工作部隊を満載して送り出したから、居住区拡大に役立ってくれるだろう。

 戦局がいよいよ来月から動き始める事もあったので、輸送艦艇、木星船団の中継地としてカラマ・ポイントに補給基地の設営を開始(インゴルシュタットは行き掛けの駄賃に設営に参加)。推進剤や食料などを優先して配置し、もしもの時に備える態勢を整えておいた。どうせ後半年もすれば使うことになるだろうし、戦局が動き出してからでは隠れて何かをする時間がなくなると考えたためだ。

 そして私は、6月中に行われた次期主力MS選定試験でリック・ドムが高機動型ザクを破り採用され、次々期主力MSとしてエネルギーCAPの実用化次第、生産がゲルググに移行する事を確認した後、連邦に帰還したのである。シーマ艦隊には予定通りゲルググMを配属し、CAP技術が出来たところで専用機も作ってしまおうと考えている。

 さて、この4ヶ月の行動内容を記してみたわけだが、やはり連邦側で行動する際の戦力が少ないと実感する。新型ガンダム開発・実用化計画を任されたのは良いが、現在配属されている士官はティターンズよりの思想の持ち主が多く、軍内部の一派閥として立ち上がるには問題がある。

 欲を言えば、誰か頼れる人材が欲しいのだが……。カーティス大佐やシーマ姉さんの様に、部隊率いられる人材……うわっ、連邦は本当に少ないわ。誰か適当なキャラクターを呼び出して、大尉か少佐ぐらいの階級でっち上げて、そいつに指揮させるかぁ……。平成に適当なのいただろうか?



 7月10日、とりあえず、早速呼び出したネオ・ロアノーク少佐にミデア輸送隊の指揮官、マリュー・ラミアス大尉をつけ、MS運用試験隊、仮称G-1部隊が発足した。バニング大尉率いる第四小隊はなんとかなりそうだったので編入したが、ヤザンとライラは怖そうなのでとりあえず様子を見ることとし、整備班長としてネイズン少尉を、エイガー少尉をRx-78に配し、試験を開始した。ガンダムが開発され、ジャブロー工廠で先行量産型ジムの生産が開始された事を受け、月からパッシブジャンプゲートを通じて持ち込んだ陸戦型ジムを第4小隊に配り、試験データの収集を行わせると共に、ジムの試験生産型と称してRPで生成したジムをヤザン・ライラ両名に配し、これも試験データ収集にまわした。

 そうこうしているうちに、連邦軍内部での新規MSの開発計画が樺太基地と名づけられたうちの部隊の施設を用いて行われるようになり(『大将会議』と通称される会議の参加者のみに開示された情報だったが)、7月下旬には予定されていた陸戦用ジムの試験も終了。新たにジャブロー工廠よりRX-79G、陸戦型ガンダムを受領。データ取りにいそしむ事になる。同時にガンダム4号機、5号機の開発が終了。ジャブローに送り出し、通商破壊作戦への投入を示唆しておく。また、高性能MSとしてのガンダムが実戦投入を目前としたことで、L計画製新型試作機として、ゲシュペンストをそれとなくデータにもぐりこませておいた。

 連邦軍内部での開発計画が樺太を経由する事となった第二の利点は、私自身が准将に昇進した事だ。基地司令であり開発計画の主務が大佐では色々とまずいらしい。特に、実戦任務に付いて、戦闘データの収集を行っている部隊の長がコーウェン准将なのだが、我々に比べてあまり良いデータが取れていないらしい。責任問題に発展しかけるところで流石にレビル大将やパウルス大将から制止が入ったが、准将が任務を果たせていないのに大佐が任務を果たしている時点で、どうだ、という話にまで発展したらしい。

 お前、黒歴史データ&チートシステムもってる身と、身一つで模索している苦労人のコーウェン准将を比べるなよ、と突っ込みたかったが勿論出来るわけもなく、あとでシトレ大将から聞いたところによると、戦後にグリーンヒル議員の援助を受けて政界に打って出たいゴップ大将が、その娘婿ヤン少将の弟分で、しかも資金源たる人物を大事にしたいという思惑まで入っていたらしい。

 ゴップ大将……兵站管理がものすごく上手く、実際連邦軍が潤沢な兵站物資で戦えているのは、この人が精力的な需品管理で輸送計画を練っているからだからなのだが、私人とすると老後の事も考えていらっしゃるわけか。まぁ、地位と権限が増える事は悪い事ではないので有難く受け取っておいた。

 しかし、だからといって今度はコーウェン准将の恨みを買いたくはないので、コーウェン准将には航空機・艦艇の分野で新兵器開発と企業との折衝に当たってもらうようゴップ大将に進言。下についていたMS試験部隊はもらいました。これでMS特殊部隊第3小隊を確保。G-1部隊第三小隊として活躍してもらいます。結局、Lost War Chroniclesのキャラはジオン、連邦双方抑えたので、歴史どおりにLost War Chroniclesが起こる可能性はなくなりました。まぁ、そもそもキシリアが地球を押さえている段階で、地球での作戦にいろいろ介入しまくろうなんて死亡フラグは犯せないんですが。

 7月12日、予定通りホワイトベースがジャブローを出航。欺瞞のために航路変更を何度も行い、8月1日に無事サイド7に到達し、ガンダムの最終試験を開始したとの報告を受け取った後に、我が部隊よりヤザン・ライラ両少尉をジムの試験としてルナツーへ送る旨をゴップ大将に連絡。ルナツー駐留に戻ったビュコック中将のOKが出た事でシャトルで打ち出し、軌道を巡回する小艦隊に回収の上、ルナツーへ運び込みました。あれ?シャアに引っかかっていないのか……となると、9月辺りが怪しいな……

 また同日、ジオンではザクⅡF型の生産が正式に終了し、以後生産ラインはすべてリック・ドムに移行する旨、ツィマッド社から報告。ほくほく顔で報告して来てくれたが、ジオニックの反応が怖い。
 
 そして運命の月、0079年9月を迎える事になる。



 0079年9月2日、ジオン公国の要塞ソロモンにおいて、一つの生命が誕生した。ミネバ・ラオ・ザビ。ドズル・ザビとゼナ・ザビ(旧名ゼナ・ミア)の間の愛娘である。私は14日、9月16日に予定されているルナツー襲撃作戦に参加すべく、シーマ艦隊と共にソロモンへ出向いていた私は早速ドズルにお祝いを述べる事にした。同時に、曳航して来たコンテナ船に搭載したドラッツェ32機をソロモン防衛軍に提供する。

「おめでとうございます、閣下」

「おう、トール……すまんな、俺はもう、うれしくてうれしくて……」

 ORIGINでは既にコロニー落としの時には生まれていたはずなのだが、変にテレビ版が混じっているのか、ミネバの誕生は9月になっている。この、微妙な変化に象徴されるこの世界の状況は、この世界の未来を知っている自分からすると恐ろしい。細かい事件の発生時期が微妙に異なるため、対応を誤りやすいのだ。実際、戦争そのものを避けようともしたが、変なところでTV、劇場、ORIGINが混ざるため、介入の機会を逸した、なんてことも多かった。アストライアさんも結局救えはしたものの、死んでしまった時期が変わらないし……。最後に二人に会えたことが救いだったと考えたい。

 実際、12月に建造が始まるとTV版で出ていたソーラ・レイも、襲撃作戦に先だってギレンとの打ち合わせに通過したサイド3では、既にコロニー・マハルからの疎開とその住民の受け入れ問題が生じていた。それだけでも怖いのに、面倒な事に150万にもなる人口を月面で受け入れる事を要請され、急遽月面から輸送船団を呼びこむ羽目になった。流石に150万人もの人口を一気に輸送する事は難しく、一部他のコロニーに足止めしておき、輸送船団がサイド3へ持ち込む資源と引き換えに人員を輸送、月面でおろすと地球への補給物資を満載して軌道上で投下し、軌道上で地球からの資源を受け取り以下エンドレスという形でピストン輸送する事となった。

 ソーラ・レイ建設に月からも援助を行い、開発主任のアサクラ大佐と協力して事に当たる事を要請されたが、こちらは望むところなので問題はなかった。まぁ、シーマ艦隊に戦争犯罪をすべて被せただけあってアサクラ大佐の人品性格は最悪だったが、良く言えば権力と金でどうとでも転ぶので扱いやすいのが救いだった。

 現在、シーマ艦隊は、旗艦である「マレーネ・ディートリッヒ」にカーゴ付ムサイ3隻(後期生産型)で構成され、搭載されているのは先行量産させたゲルググを改修した、となっているゲルググMが艦隊合計36機、シーマ姉さん専用のFs型が1機、コッセル用の高機動型ゲルググ(ミサイルランチャー装備)が1機に、私、トール・ガラハウ専用ゲルググの計39機を満載している。

 ちなみに、やっとチート機体を出せたのが、この私専用ゲルググである。

 いままでザク、グフ、ドム、ゲルググとジオンの主力機が出揃うのを待ち、その上各種の派生機体が出始めるのを待っていた最大の理由は、最終的に「ジオン」側で動かす艦隊の主力MSを、宇宙世紀0122年に用いられるRFシリーズで固める事を狙っていたためだった。

 本来の歴史ならOMS-14SRF、シャルル・ロウチェスター専用ゲルググと呼ばれるソレは、元々の機体でさえジェネレーター出力3870kwと現行のザク、グフの4倍近い出力を出す、現在のMSの基準から言えば化け物と呼ばれる性能を持っている。勿論、オーバーテクノロジーなのがバレバレなビームシールド、まだ開発されていないビームライフルはオミットし、代わりにサザビー用シールド(エンブレム無し)と連邦側での専用機、ゲシュペンストRVでも装備しているM90アサルトマシンガンを装備させている。ビームサーベルの実用化は済んでいるので大丈夫だろう。シールド内蔵のミサイルはそのままだ。ちなみに、赤いのはシャアとかぶるのでダークブルーに塗装してある。紫色を入れていないので、黒い三連星とは区別してくれるだろう。

 勿論、チーティスティックにジェネレーターをオルゴン・エクストラクターに変更し、機動兵器版ザ・ワールド「ラースエイレム」システムを導入。サイトロンも併用して操作の際の追従性も向上させている。というか、これらの反則武器でもなければNT同士の戦闘に介入なんて、ザビーネ程度の操縦技術じゃ自殺行為もいいところだ。決して彼が弱い訳ではない。ザビーネは確かにシーブックを一回倒しているけど、スパロボやGジェネでのシーブックのNT能力って、下から数えた方が早いんだぞ?ラフレシアをやれたのも、NT能力あるかもしれないけど、基本鉄仮面の自爆だし。

 ララァを助けて光る宇宙を邪魔しようと、シャア・ララァVSアムロ・セイラというファーストNT四天王の群れに割り込んで無事でいようと思ったら使わざるを得ない。常識的に考えて。というか、この機体、本来ならシャアの独立300戦隊が編成されたあたりでの投入を狙っていたのに、またぞろキシリアのお馬鹿がドズル閣下のところにもぐりこませたモグラを使い、ルナツー襲撃作戦なんてのをでっち上げるからいけないのだ。何が、「ルウムの英雄の一人を月で飼い殺すわけにもいきますまい」だ。ニート生活上等、攻勢を強める妹中隊との戦闘でもう私のMPはゼロよ!だというに。

 ……ああ、何気にその攻勢を横で聞いていた張さんが振えているのは視界に入らないようにしている。部下の彪さんも微妙な表情だった。最近はプルシリーズに刺激されたハマーンが……ハマーンが……。姉のマレーネさんの目が怖いしまだ12歳だから手なぞ出したら人間失格だが、精神がゴリゴリ削られるのは嫌っ!あの子NT能力半端ないから、接触=内心リード。どこのうさ耳少女だよ。まぁ、色々読んでもらってそれが楽しいおしゃべりになるから良いけどさ。けどね、あんまりべたべたされると僕も男なので色々困ったこと読まれちゃいそうなのですよ?

 うん、開き直って読ませよう。大人の男性の怖いところを読ませりゃどうにかなる。……と、思いたい。

 さらに、キシリアのフラナガン機関をララァ加入まで放っておくが、マリオンは助けたいというジレンマを解消するためにソフィー姉さんに襲撃のOKを出したら、計画通りマリオンの救出には成功したけれど、救出と共に持ち出した機関のデータから、紫ババアが強化人間の初期型にまで手を出し、既にNT-001ことレイラ・レイモンドに実験が開始されているだけでなく、シムス中尉にまで強化の手を伸ばし、あの痛い子アイン・レヴィ君まで機関にいた事が判明。クスコ・アルなんてNT能力強化にトラウマが有効なんて調査結果が出たものだから、研究員による[禁則事項]までうけているらしいなんてことがわかってしまった。

 おい!それギレンの野望じゃゼロ・ムラサメ登場してるだろ!と思わず突っ込んでしまった。本当になりふりかまわなくなってきた。歴史の修正力とでも言うつもりかよ……。

 その上、プルシリーズのことはばれていないらしいが(救出時に赤ん坊以前の状態だったため追えないらしい)、セレインが私のところにいる事を知って、何かしらの理由をつけてアインと組ませてセイレーネとか狙ってるらしいことまで明らかになってさぁ大変ですよ。あのババアが地球追い出されたあたりは気をつけないといけない。けれど、こちらが考える結末にまで持っていくためには、まだあのババアの存在は不可欠なのだ。あと3ヶ月の辛抱と考えるより他はない。修正力があるかもしれないことを考えると、今の段階で手を出しても望む結末行きそうにないし。むしろ、牽制相手を失ったギレンが暴走とかしそうで嫌。

 そんな沈思黙考に浸る私の前で、ドズル閣下の「俺が如何にミネバとゼナを愛しているか」論の開陳が一段落したようだ。というか、そんなに愛しているのならなんで愛人を作ろうとする。まぁ、男だからそこらへんの事情がわからないわけでもないが。……というか、誰に手を出しても爆弾なこの状態と、男性としての生理的欲求考えると精神的に危険なのだがなぁ……。いつ背後から「寂しいって言ってんだよ……セニョール!」とか「爆弾なんてさぁ、爆発させちまえってんだよ!メーン!」とか呼びかけられるか心配でならない。

「しかし、貴様の新型MSは豪華だな?ジオニックの新型か?」

「ええ。先行量産型をもらいましたので、月面で改修を加えました。詳しいデータは秘密ですよ」

 ドズルは鼻で笑った。

「俺はコクピットを特注にする必要があるからな。乗れまい。しかし、シンあたりにはやりたいな」

「マツナガ大尉は本国でしょう?寄った時には会えませんでしたが、どうしました?」

 するとドズルの顔が沈んだ表情になる。なにか、気にしている事があるらしい。

「シンと俺はダニガン親父に鍛えられた口だからな。俺は弟だからまだ何とかなっているが、ダニガン親父はギレン兄に嫌われている。ブリティッシュ作戦でコロニー落としに失敗したからな……」

 そう言えば、そろそろギレンが宇宙での指揮権統一のためにドズルに近すぎる人材をどうにかする時期か……カーティス大佐に、秘密裏にダニガン中将やマツナガ大尉をかくまうように伝えておいた方が良いかもしれない。

「ダニガン中将にはまた機会ありましょう。私の方で御願いしたい事もありますし」

「そう言ってくれると助かる。貴様はギレン兄の信頼も厚い。口ぞえがあれば何とかなるだろう」

 頃合か。明日までここに残っていると、シャアの手伝いに派遣されかねない。今の時点でソレはまずい。

「それでは、我が艦隊は出撃します。無線封鎖に入った後は作戦完了後、そのまま月面に帰りますので、またの機会に、中将」

「うむ、ご苦労だった」

 さて、ついに……か。




[22507] 第13話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/25 21:22
 宇宙世紀0079年9月15日、受信のみに振り向けていた通信回線に、歴史どおり、サイド7、1バンチでの連邦、MS運用計画が察知されたことを確認しつつ、我々シーマ艦隊はルナツー襲撃任務を予定通り実行していた。

 ルナツー襲撃作戦は、事前にシトレ本部長を通じて第一軌道艦隊司令のビュコック中将に連絡が行っており、地球軌道上のジオン軍の地上への増援の迎撃任務を題目に第一軌道艦隊が出撃。シーマ艦隊は艦隊が留守のルナツーを襲撃し、港湾設備および居住区の破壊を行う予定であった。

 シトレ率いる連邦軍が、この段階でのルナツー基地の襲撃に反撃を行わない旨を選択したのにはいくつか理由がある。第一に、ルナツー基地の攻撃を看過しなかった場合、優勢なジオン海兵隊との交戦を行うこととなり、せっかく艦隊戦力を維持している第一軌道艦隊の戦力を減少させる可能性があること。ビンソン計画が完了していない現在の連邦軍にとって、ルナツー駐留の第一軌道艦隊の艦隊戦力は、何を持ってしても維持し続けなければならないからだ。

 そして、もしルナツー基地が攻撃を受けて港湾施設に被害が生じたとしても、艦隊はサイド7に移動し、1バンチ~4バンチコロニーの港湾施設を使えば良いという判断もあった。また、サイド7には新型MSの試験にあわせてかなりの数の工作部隊が入っており、港湾施設の維持拡張を行っていたこともある。それらの部隊をまわして、敵が去った後でルナツーの施設の復旧を行えば良いと判断していた。

 しかし、新任のルナツー基地司令、ハイアット大将は、この「大将会議」の決定を不服とし、第一軌道艦隊に関わらない戦力を持って交戦の準備を整えていた。その準備を行う部隊には、、MS運用試験隊として送られていた、2機のジムも含まれていたのである。

「こりゃ無理だぜ、ライラ少尉。機体を失えば少将にどやされるし、ハイアットの言い分は完全に命令無視だ。生き残ることを最優先に行動するしかないな」

 ヤザン少尉からの通信。ライラ・ミラ・ライラ少尉は鼻で笑った。

「ヤザン、臆病風に吹かれたのかい?新型のMSをようやくこちらも配備したんだ。そりゃ撃墜はまずいだろうけど、戦う姿勢でも見せておかなきゃ帰るまで肩身が狭いよ?」

 ヤザンはフン、と鼻を鳴らすと

「まぁ、そりゃそうだわな。OK了解した。ツーマンセルで墜せる奴だけ行くぞ」

 ここに、連邦、ジオン初のMS同士の戦闘が始まったのである。



 第13話


 おいおいおい。なんでヤザンとライラが出てくるんだよ。はっきり言って、現状のジムじゃあ、こっちのゲルググMの相手にならんぞ。MSを持った事で慢心してるのか?

「姉さん、連邦にもMSがいるみたいだ。ちょうど良いから私がやる。姉さんはコッセルと一緒に、外に展開しているフネの相手を頼むよ……紫ババアに難癖つけられたくないから、適当に苦戦ぽくして!」

「あいよ!」

 シーマ姉さんの返事を確認するとゲルググのフットレバーを踏み込み、M90はシールドに格納、一気に加速する。オルゴン・エクストラクター特有の緑色の粒子をスラスターから吐き出しながら、重力制御技術で打ち消されるギリギリの10G程度まで加速。一気に距離を詰める。

「なんだあ、新型!?ザクの三倍以上の速度って……赤い彗星以上の奴がいるのかよ!?」

 受信専用のオープンチャンネルにしてある通信機から響く、サラミスの乗員のものらしいセリフを背景に二人のジムが盾の代わりにしているサラミスに接近。エンジン近くをビームサーベルで切り裂く。推進剤用のパイプを切り裂いたのか、派手に爆発が起こるが、基礎設計が優れているだけあってすぐの撃沈とはならない。

 そのまま右舷の第二艦橋を足がかりに反対側左舷に向かうと、ヤザンのジムに切りかかる。

「早い!?ジオンの新型ぁ!?」

 そのまま懐に飛び込んでサーベルで90mmマシンガンを切り裂くと同時に、胴体部分に向けて蹴りをいれる。慣性に従ってルナツー表面に激突したジムの頭部を踏み潰すと、ライラのジムから発射される90mmマシンガンをシールドで防ぐ。

「ヤザン!」

「……クソ、カメラがやられた……バーニアがつぶれて……」

「動くんじゃないよ!」

 そういうとライラはバーニアを吹かし、弾幕を張りながらこちらに接近する。こちらの装甲はルナ・チタニウムやガンダリウム以上の硬度を誇るZ.O合金製だ。この時代の90mm程度では被害も受けない。流石にメインカメラなどに当たれば損傷はするから、シールドで防がせているが。

「効かない!?」

 驚いた隙に機体を背後に回らせるとマニピュレーターでバックパックをつかむ。高出力にものを言わせてバックパックをむしりとると、誘爆の危険がなくなったことを確認後、背後から蹴りつけてルナツーへ。仕上げに頭部をM90で打ち抜く。これで終わりだ。

 コンソールを操作して、今のジムとの戦闘記録を消去し、消去した操作ログも消すと、目撃者らしい2隻のサラミスに目標を定め、エンジン部分を切り裂いて轟沈させる。この機体に関する情報を、あまり広くもらすわけには行かないからだ。

 信号弾。360mmジャイアント・バズを持って港湾部・居住区攻撃を担当していた部隊が攻撃に成功したようだ。長居は出来ないため、早速帰還する。ヤザンとライラに変な影響出ていないといいけれど……と思いつつ、私は機体を「マレーネ」へと向けた。



 ルナツー襲撃作戦は、満を持して出撃したハイアット大将の顔を青ざめさせるものだった。ザク、ドム、グフといったこれまでのMSとは違う、新型で構成された部隊は、戦闘の実時間およそ15分ほどで、ルナツーの第1、第2番埠頭とそれに付随する居住区を攻撃し、破壊した。兵員の多くは第一軌道艦隊として出撃しているから、人員の被害は抑えられているが、ルナツーの基地機能は確実に低下している。

 ハイアット大将は頭を抱えた。地球至上主義者としてジーン・コリニー提督(大将)の派閥に属する彼がここにいるのは、最近連邦軍内部で勢力を強めている、シトレ・レビル閥に対抗するためだ。ルナツー基地司令と言う役職も、シトレの懐刀であるビュコック中将とその参謀長ヤン少将へ打ち込んだ楔となるためのもので、このような被害を受けての敗将となるためではない。

 責任を取らされることを思い、愕然となるが、しかし、と思いなおす。コリニー提督も派閥の領袖がほしいところ……上手くそこをつけば、降格や予備役編入は免れるかもしれん。まさかジオンの新型があれほどの性能だとは思いもしなかった。その新型の性能を見極められなかったのは諜報を担当しているはずの第3集団の責任、と強弁すれば良い。

 しかし、その思惑は上手く行く事はなく、ハイアット大将は少将に降格の上、予備役編入を申し渡されることになる。連邦の軍政をつかさどるゴップ大将が、自身の懐刀となりつつある第三集団のミューゼル准将に腹を切らせるわけがなく、コリニー提督も後任の大将枠に自派閥のワイアット中将が入ると聞くと、ミューゼル准将への批判の矛先をおろしたのである。



 連邦に戻った後に、ルナツー襲撃作戦の余波が意外なところにまで及んでいたと聞き、びっくりしたトール・ミューゼルです。

 さて、9月16日にサイド7が歴史どおりシャアの部隊の攻撃を受け、多数の戦死者を出したが、その流れがもう、おかしなことになっています。本来ならサイド7に寄港するホワイトベースを追撃して、シャアのファルメルがRX計画を発見する流れでしたが、今回はシャアのサイド7近海への投入が送れたため、9月16日にファルメルが宙間機動試験中のガンダム1号機を捕捉したことで話が始まっています。

 しかも、何のバタフライ効果か、サイド7内部に侵入したザクと最初に交戦したのはガンダム1号機。パイロット名を見るとファレル・イーハ中尉とあり、「アーケードが入るとは……こりゃサイコMK-Ⅲは絶対だな」と頭痛がしてきました。

 ソレはともかく、性格が最悪なのも原作どおりで、倒れたザクに追撃をかまそうとしていたところを背後からデニム曹長のザクに打たれ、バーニアを損傷し転倒。あわや鹵獲というところで、アムロ少年の乗る2号機が動き出し、ザクを倒しました。

 ここでもバタフライ効果が発生し、動力パイプを引きちぎって二号機が優位に立つのをみたファレル中尉が猛然と反撃を開始。流石にコロニー内で大爆発をさせないと言うところまで頭が働いたらしく、コクピット部分の破壊にとどめてなんと、ザクⅡ2機を鹵獲。テム・レイ技術大尉も酸素欠乏症になることなく無事で、大喜びした挙句に息子を無理やり連邦軍の志願兵に放り込んだと言いますからなんというご都合主義展開、と頭が痛くなりました。

 その上、本来なら魚雷艇でパオロ艦長が時間稼ぎに入るところを急行したサラミスがファルメルに攻撃をかけたことでファルメルが撤退。士官の大部分が戦死し、候補生たちを昇格させて士官とし、さらにはサイド7、1バンチの住民で使える人たちを無理やり軍属として、現在、ルナツーから地球に降下すべく、大気圏突入にはいろうとしている、とのことでした。ああ、勿論、ルナツーで大破したジムを抱えたヤザン、ライラ両少尉を乗せて。

 頭を抱えました。どんなカオス展開だよ、これ……。これで降下した場所がジャブローだったりしたら泣くぞ俺。いままで何とか原作に倣った展開を目指してきたのに、一番大事なところでこれとか。まぁ、ビュコックの爺さんが護衛にマゼラン1隻にサラミス4隻なんて大兵力を出したもんだから、そうなるとは思うけどさぁ……

 悲しみにくれる私を癒してくれたのはカーン家三姉妹の方々でしたが……あれ?いつの間に増えたんだろう?私は確か、インゴルシュタットに乗ってアクシズの父親のところに行くように言った筈なのになぁ……



 
「ザクを一個小隊失ったぁ!?」

 シャア少佐からの報告を受けたドズルは叫び声をあげた。第一軌道艦隊相手とは言え、旧式のマゼラン、サラミス相手にザク三機を失うなど、赤い彗星の指揮では考えられなかったからだ。

「サイド7、1バンチはやはり、工業ブロックがMSの工場となっています。敵の新型を相手に三機のザクを失い、現在、ファルメルには私とスレンダーの2機しかおりません。補給を御願いいたします」

「もう一度仕掛ける気か?ルナツーのビュコックのところに入られては手出しが出来んぞ」

 シャアは否定した。

「奴らは研究結果をいち早く地球に持ち帰りたいはずです。ルナツーは、ガラハウ艦隊が襲撃し、基地機能を低下させていますから、護衛につけるとしても戦力としてはたかが知れているでしょう。大気圏突入を狙う可能性が高いため、軌道上で仕掛けます。新型の性能は高く、戦局を左右しかねません」

 ドズルはため息を吐いた。

「トールの艦隊がおればな。ちょうど、月面工廠で組みあがった新型を導入したばかりだった。何機かもらっておくのだったな。おぅ、ちょうどいい。トールが持ってきた簡易宇宙型の先行量産型が30機ばかり届いたばかりで余裕がある。何機か回させよう。ガデムのパプワを送る。地球軌道上までの航路で落ち合え」

「了解いたしました」



 ルナツーへ入港したホワイトベースは、史実どおり新基地司令ワッケインの詰問を受けるも、第一軌道艦隊ビュコック中将の言を容れて、パオロ中佐の機密規定違反を寛恕、引き続きジャブロー機関の援護を行うことを決定し、大気圏突入にマゼラン級「テメレーア」、サラミス級「マダガスカル」など6隻からなる第32戦隊を護衛につけた。

 第一軌道艦隊と言う大戦力を前にしては流石のシャアも潜入・爆破工作などという事は考えず、当然のごとく大気圏突入時の追撃を狙ったため、ガデムが戦死することはなく、ファルメル後部にMS搭載、および推進剤タンク兼用のカーゴを搭載。同時にザクⅡ2機、ドラッツェ4機の補充を受け、追撃任務を開始した。

 同時にホワイトベース内では損傷機の修理作業が最優先で行われていたが、頭部とバーニアを損傷していたジムの修理は早々に放棄され、ガンダム3号機のパーツを用いた1号機、2号機の整備が優先。一部ガンキャノンのパーツを流用し、大気圏突入前に修理を終えることができたのである。



「新たに諸君ら7名のパイロットを得たことは、誠に幸いである!」

 シャアはソロモンより派遣された7名のパイロットを前にして言った。

「20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けた例は過去にない。当然、連邦のフネも、全神経を操船のみに集中しているだろう」

 シャアはファルメルとホワイトベースの位置関係が映し出されている艦橋前の大型モニターを示した。

「当然、ザクは大気圏突入の摩擦熱には耐えられないため、奴らはこの段階での攻撃を予測していない。私とスレンダー、ヨセフ、クラウンは恐らく出撃してくるだろう、敵の新型MSを撃滅する。可能な限り拘束し、敵艦に帰還させないことが第一だ。アダー曹長のドラッツェ隊は、装備している90mmマシンガンとシュツルム・ファウストで敵艦のハッチ部分に攻撃を仕掛けてもらいたい。帰還の妨害が出来ればそれで良い。全くの新型だから無理はするな」

 ドラッツェにはビームサーベルが装備されていない代わりに、固定された90mmマシンガンと盾内側にシュツルム・ファウスト2発を装備している。

 シャアは全員の了承を確認すると続けた。

「恐らく、敵MSはともかく新造戦艦は降下に成功するだろう。私は地上のガルマ大佐と協力すべく、戦闘時間が15分を経過した段階で、ファルメルから発進したコムサイに戻る。ヨセフ、クラウン、スレンダーのザクもこれに同乗しろ。アダー曹長のドラッツェ隊は宇宙用であるため、ファルメルに帰還の上、ドレンの指揮下に入ること、以上だ」


 10月1日、またもや連邦からジオンへ戻り、北米への潜入降下作戦を行おうと準備しているトール・ガラハウです。9月23日に行われたホワイトベースの大気圏突入ですが、またカオスな展開になっています。

 大気圏突入前に攻撃を仕掛けたシャアの部隊を、ファレル中尉とアムロ准尉の2機のガンダムが迎撃し、ザク1機、ドラッツェ3機を撃墜して、歴史どおり大気圏に突入。北米に降下しています。イレギュラーだったファレル中尉は、ガンダム1号機の耐熱装備が未装備だったことが原因で大気圏中で機体が爆散。これに対して耐熱装備を持っていた二号機の方は、、耐熱装備を駆使した上でホワイトベースに取り付くことに何とか成功し、無事、地球に降下しました。

 問題なのは、本来ならばジャブローに向かう予定のホワイトベースが、我らがスポンサー、ゴップ大将の命令により、安全なニューヨーク → ジャブロー・ルートから、西海岸の敵中突破 → 太平洋 → 樺太基地なんていうルートにへと変更を掛けられたことです。

 ゴップ大将を問い詰めたところ、機体の開発設備をかなり樺太に移動させているため、ジャブローではジムの量産にかかりきりになっており、ジャブローにガンダムを持ってこられても困る、という話でした。実際、サイド7から大気圏、そして恐らく西海岸で戦闘をすることになるガンダムの持つ戦闘データは、量産機であるジムに移しかえるだけでも効果があること間違い無し。一刻も早くMSを戦力化したい連邦としては、東回り航路を使って移動する時間が惜しいことが第一の理由だ、とのことでした。

 となると、歴史どおりシアトルにおいて、ガルマ・ザビ大佐の戦死という事件が起こる可能性が高くなり、ソレに対する対応のため、地球に降下することとなったのです。地球に降下して目的を果たした後は、樺太から出撃させた潜水艦に乗り込んで樺太経由で月面に帰還する予定です。

 しかし、やっぱりNTは異常だよなぁ、と改めてため息を吐きたくなります。サイド7から大気圏、および9月23日から24日にかけて行われた、地球攻撃軍との戦闘結果を受け取りましたが、アムロの乗るガンダム二号機は、サイド7で2機のザクⅡ、地球降下の際に1機のザクⅡと2機のドラッツェ、地上に降下してからはドップを8機にマゼラ・アタックを12両、援護に出撃したザクも3機撃墜と、異常な戦果を挙げている。

 
 俺、これと、いや、さらに悪魔のように成長したこれと、あと3ヶ月ぐらいしたら戦闘する可能性があるんだよな。
 今から戦々恐々です……ポイントは自分の生存第一に考えよう。

 ということでパイロット能力に関係する、重力制御技術と自分のパイロット技術を上げてみた。そろそろモンシア、ジェリド、ザビーネと微妙なキャラが続いたのでマシなのが出るかと思ったらカテ公かよ……。シュラク隊のお姉さま方はどれもヒットしまくりなのだが……。彼女らにあえるまで後70年かぁ……

 一方、重力制御技術のおかげで、テスラ・ドライブがやっと生産可能に。やっぱりリオンシリーズは使い勝手良すぎるものなぁ。ポイントも高いのか、と改めて納得。グリプスあたりで考えてみようかと思いました。



[22507] 第14話[ネタ]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/26 15:28

 私の名前はセレイン・イクスペリ。今の立場はジオン軍、親衛第二軍団を率いるガラハウ少将の妹、16歳だ。

 妹なのに姓が違う、というのもおかしいと思うのだが、兄は其処の所を突っ込むと笑っていた。なんでも、下手に変えると訳がわからなくなるらしい。それはそうだ。私の下には12人も妹がいる。区別を呼びかけ方でしているから、名前まで同じにしたら訳がわからなくなる。

 けれど、少し寂しくもある。姉さん二人はガラハウだ。一番上の姉さんは違うらしいのだが、免許証や認識票にはそう書いてある。不思議だ。上のソフィー姉さんは名前をいくつか持っているらしい。

 まぁ、いいか。

 けど、うらやましい。

 今日はお買い物。兄は戦争が始まってから忙しいらしく、月の家にはほとんど顔を見せない。親戚らしい(ハマーンはそう主張していた。今でなくとも未来はそうなるらしい。まったくわからない)カーンさん家からハマーンやマレーネお姉さん、セラーナが遊びに来て、なぜかハマーンが私たちを連れ歩くようになった。ハマーンいわく、「トールは若い子に甘いから、じんかいせんじゅつだ!」という。

 カーティスのおじさんが「その若いというところが問題だろうに……」とかつぶやいていたような気がするが気にしない。私はもう、大人なのだ。ただ、じんかいせんじゅつなるものが何か、私は知らない。けど、メイド長をしているロベルタが言うには、「ひっしょうの戦い方ですのよ」との事。

 ロベルタは強い。だから正しいと思う。妹たちはロベルタの前ではおとなしい。悪いことをした時の事を夢に見るらしく、夢に見たときは12枚のお布団に12枚の世界地図が出来る。何処の世界かわからないが、世界地図と言わなくてはいけないらしい。

 兄に話したところ、口元が引きつっていた。

 いい顔だ。もっと見たいと思った。

 あ、話がずれた。で、今日はお買い物、ということなのでロベルタの部下メイド、アンヌとマリーと一緒に買い物。ハマーンが前の方を歩いている。「白でだめなら黒でのうさつだ。ふっふっふ、ぞくぶつめみているがいい」とか言っている。ハマーンは変だ。時折、意味が全くわからない。

 そんなハマーンの観察も、流石に最初に会ってから数年経つと飽きてくる。あらあらまぁまぁ、とハマーンを抑えてくれるマレーネお姉さんがいないから、相手をするのは面倒くさい。ん?そういえば、最初にプルたちが「おb……」あぶないあぶない。禁句なのだ。これを言ったらマレーネお姉さんが怖くなる。

 そういえば、兄はカーン三姉妹のことを「姉がコナンで妹少佐って、どんなロリババ一族だyo!?」とか頭を抱えていたのをみたことがある。うん、ああいう兄の姿も良い。

 そんな風に思っていたら、ビルとビルの間の路地、その奥に、ゴミにまぎれて倒れこんでいる男を見つけた。なんでこんなところにいるんだろう?




 第14話



「おい、お前、ここで何をしている?」

 何人もの追っ手を撒いて、やっと身を落ち着けたかと思ったら誰かに見つかったらしい。

 孤児だった俺は、当然のように孤児院に引き取られ、その中で何の疑問も持たずに生活していた。それが変だと、自分でも思うようになったのがいつだったかは覚えていない。けれど、自分の回りに普通にいたはずの仲間たちの数が減りだしたあたりからだったと思う。

 昨日まで普通に過ごしていた仲間が、翌朝、隣のベッドから消えている。

 それが何回か続くうちに、自分でも不思議だが共通点とやらに気づくようになった。

 年齢が、18なのだ。18の誕生日を祝ってから1週間。1週間経つといなくなる。

「おい、答えろ。そこでなにをしている?」

 なぜか、それに恐怖を覚えた。怖くなった。園長先生は笑ったまま答えてくれず、最後には困ったように、「お国のために働いているのよ」、とだけ伝えてくれた。本当にそうなら、もっと話してくれてもいいはずだ。

 自分が孤児で、恐らくここの孤児院が国営かそれに近いもので、戦争のための人間を育てている。不思議じゃない。普通の事だ。行く当てもない子供を数年、十数年養ってきたんだから、それぐらいの働きを期待しても良いだろう。

 けれども、だったら何故、友人たちは何も言わずにいなくなるのだろう?

 俺の疑問は、園長室で語られた言葉で解決した。

 ウェドナーが疑問を持っている。キシリア様からもっとモルモットをよこすように命令が来ている。

 敵対する組織に襲撃を受けて、子供たちが解放されたらしい。月の極冠にいるらしいが、手が出せない。

 恐ろしい女に率いられたパワードスーツの集団が、20mm弾と5.45mm弾を撒き散らして子供を奪っていく。

 だめだ、やっぱり、年齢を落して送るしかない。どうせ、手を他のサイドに伸ばせば、子供なんて簡単に手に入る。

 聞いた瞬間、駆け出した。そのまま孤児院を出ると港湾ブロックを目指す。少ししてから、話しを聞かれた事に気づいたらしい大人たちが追い始め、港湾ブロックに着く辺りになって声ではなくて銃弾が来た。

 港湾係官の目を盗んで荷物に紛れ込み、「To Moon N1」と書かれた、工業用品らしいコンテナに身を潜める。一つ一つコンテナを開けていく追っ手に小便を洩らしそうになりながら、なんとか発進の時間になったらしく、何とか月に来れたのだ。

「答えろ。ああ、私はセレインだ。セレイン・イクスペリ。お前は?」

 それが、ここまで来て何で、と思った瞬間、脳天に激痛が走った。



「んで、つれてきたと」

 私は心底、このご都合主義全開な展開に頭を悩ませ始めた。ロベルタから、セレインが男を連れ込んだと聞き、まぁ、何かあればあいつのことだから言うだろう、と放っておいたら何も言ってこない。だんだんやきもきしながら待っていると、ようやくの事で連れ込んだ男が話があるそうだった。そして、事情を聞いたのである。

「そうだ。兄ならなんとかできるだろう」

「現在進行形で何とかしてるよ。ただ、全員の後追いは難しいぞ」

 私、トール・ガラハウはそう言って燃える様な赤毛の、目つきの鋭い若者、シグ・ウェドナーを見た。キシリア機関の孤児院なんて調べられるか。こりゃ、姉さんにまた襲撃活動再開してもらうしかないかもしれない。フラナガン機関の監視も続けたいんだけどなぁ。ボリス軍曹に指揮を御願いして、二つに分けてみるか。

「お前さんがいた孤児院なぁ、キシリア・ザビ。学名ムラサキマスク・ババアニクスが経営していて、人体実験用の人間を確保するための施設だったらしい。すぐに調査させたが、建物を残してすべて消えてた。地下にもぐったらしいから、さらに調査を続ける必要がある」

 そういうとシグの顔は沈んだ。自分だけが助かったと思いこんでいるらしい。

「まぁ、そう沈むな。まずは自分の命が助かった事を喜びなさい、と言っても無理か。……建設的な話をしようか。これからどうするね?」

「俺は……行くあてがありません」

 ため息と共にうなずいた。

「どうする?仕事をするなら、幾つか紹介してもいい。キシリアの孤児院の下にいたなら、恐らく宇宙関係で何かやらされているだろう?」

 シグはうなずいた。話によると、孤児院の院生は、10代前半から義務教育の他に、宙間作業機械の運転免許を取る事が義務だったらしい。用意の良いことこの上ないロベルタが書類を差し出す。うわぁ、エースパイロットぉ。なんとこの男、モビルワーカー、MS-05のデチューン・バージョンの運用実績のところにAがついている。未来のパイロット候補生と言うわけだ。まぁ、当然と言えば当然だが。

「この成績なら、作業員としても軍人としても食っていけるぞ。どちらでも紹介できるが?」

「ここは、その紫ババアとはどんな関係ですか?」

 またもやため息を吐く。予想通りの展開すぎる。 

「不倶戴天の敵。見敵必殺が合い言葉、共に相手の事を蛇蝎だと思うぐらいの仲の良さだ」

 セレインが不満そうに口を挟んだ。

「兄。相変わらずわかりにくいことを言うな。「あの顔でアラフォーとか嘘だろ、最低でもアラフィフだクソ」とか、「何がキャサリンだバーカ、鏡見ろ、な?」とかなんとか言っていたではないか。結構仲が良いな」

 ロベルタが冷や汗と共に口を挟んだ。

「セラお嬢様、それで仲が良いと言うのは……」

「軍人にしてくれ。……機会がほしい」

 シグの言葉にまぁ、そうなるわな、と今日何度目になるかわからないため息を吐き、私は先日、ケルゲレンの艦長として招聘した軍人を呼び出した。こんなところでモノアイが勢揃いか……絶対にどこかで痛い子送ってくるぞ、あの紫。それでどこかでフラグを立てて、ゲルググJに乗ってシグを痛めつけヒャッハーするわけか。

「ブラード・ファーレン中佐、参りました」

「中佐、ご苦労。MS隊はまだ未編成だったな」

 ファーレン中佐はうなずいた。

「はい。艦をお預かりしたばかりで、これから編成について御相談申し上げようと思っておりました」

「貴官のケルゲレンにはビーダーシュタット大尉のレッドチームを配備の予定だったが、一名加える。このシグ・ウェドナー軍曹だ。全くの新人だが、ワーカーの成績は良い。ビーダーシュタット大尉に厳しく鍛えるよう言っておいてくれ」

 ファーレン中佐は敬礼した。

「拝命致しました!ガラハウ少将!」

 少将と言う言葉に若いとは言えそこまでの階級だったのか、とシグはトールの方を見る。しかし、其処にいたのは何故ハマーンが黒系の下着を買うのを阻止しなかったのかを妹に問い詰める兄の姿だった。




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 ちゃんにいさんのおゆうぎきょうしつ


「いいかい、みんな。良い子なんだから張兄さんの言う事を聞いてくれるよね?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

 元気に響く12人の声にサングラス越しに笑みを浮かべた張維新は微笑みながら言葉をつなげた。

「僕が香港で法の番人だったころ……一生懸命学んだことがみんなの役に立ってとてもうれしいんだ。どうだい?トールおにいちゃんがみんなの言う事を結構聞いてくれるようになったろう?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

「さて、そんなみんなに次のミッションだ。今は12人の妹に代わって20人の娘がブームらしくってね~。0歳から19歳までなんでもござれだってさぁ。本当に日本人と言うのはどこか頭がおかしいよね?」

「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」

 絶対に嬢ちゃんたち意味わかってねぇぞ(アルネ)……張の背後に立つシェンホアと彪は背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。

「みんな、もっと家族がほしいよねぇ?そこでどうだい?こいつも実現してみちゃあ?一年一人、20回!」

「「「「「「「「「「「「いちねんひとり、にじゅっかい!」」」」」」」」」」」」

「チョといいアルか?張サン?」

 シェンホアが声をかけると張は振り向いた。何か、異様な雰囲気がある。

「ナゼ、そこまでトールにスルか?」

 張は勢いよくうなずいた。

「ある日いきなり12人の妹に囲まれて生活し始めた人間に対するささやかな贈り物だよ」

「……姐さんにヤラれないようニ気をツケテね」

「世の中にゃぁ、最大で556人家族もいるらしい。単純計算で妹277人だな。それに比べりゃ、12×19で、たったの228人だ。楽なもんだろ?」

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 この回はネタ回なので短め。疲れて何かが降りてきた。ハマーン様の姉妹の中の人は勝手な推測です。



[22507] 第15話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/27 05:17
 ホワイトベース隊の降下が予定通り、と言うよりは歴史どおりに北米降下となったことを受けて、ついに11月に作戦開始が決定されたオデッサ作戦にホワイトベース隊を参加させるよう、ジャブローの総司令部から通達があった。

 ホワイトベース隊に対する補給はすべて、樺太基地の第三集団から行うこと、その際に必要となる戦力を整える費用に関しては連邦軍総司令部が保障するため、樺太工廠でのMS生産の一部をホワイトベース隊に回しても良いこと、ホワイトベースに対する補給を行うための部隊として、第166戦略輸送隊を樺太に派遣することと、ホワイトベースの戦闘艦改修を樺太工廠で行うことが通達された。

 結局V作戦の地上行動すべてに関わるわけか、と暗澹たる気持ちになったが、9月半ばより始まった、ジオン軍への反抗作戦の第一弾、アジアに展開する旅団規模のジオン軍の排除・掃討作戦「コロニアル」の発動で、インドシナ半島に展開するジオン軍が連邦軍に押され北上。バイコヌール基地を目指して撤退に入ったため、マラッカ海峡を通じた輸送ルートが潜水艦の脅威以外は安全に使えるようになった事は大きかった。

 それに、情報部に要請して調査してもらった結果だが、オーストラリアにジオン軍が降下していないため「コロニーの落ちた地で……」が未発生。シロー・アマダ少尉の地球降下の際に、ゲルググの運用試験に参加していたアイナ・サハリンとの接触が確認されたものの、現在ギニアスが月面で宇宙用MAの開発に携わっているためそれ以上のイベント進行が起きていないこと、ガンダムピクシーの開発をオミットしたことでCrossDimentionも生じていない。

 はっきり言って派生作品が多すぎる一年戦争は、下手に派生を生じさせると戦争への介入自体がおぼつかなくなるし、派生そのものを潰していけばそれだけでGPとなるため、戦争の流れにアクションを行うにもGP獲得にも利点がある。

 懸念は、その行為自体による派生の発生だが、実際、ホワイトベース隊におきた一連の出来事はそれによるものだろう。これからも彼らの行動には注意しておかなければならない。他作品を潰した事による派生が、ホワイトベースに生じる可能性が大きいからだ。

 

 第15話



 連邦軍仮称G-1部隊、MS戦技研究大隊は、1個MS中隊、独立編成の6個MS小隊および支援部隊、MS開発・試験部隊を保有している。旗艦はペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」で、現在ジャブローで艤装中のペガサス級五番艦「ブランリヴァル」も完成次第編入の予定だ。

 現在、独立編成の6個小隊のうち2個小隊が士官未配属のためMSのみとなっており、本部小隊の人員も小隊長のエイガー中尉しかいない。また、第5小隊に所属しているヤザン、ライラ両少尉が現在、ホワイトベースに収容されて北米にいるため、6個小隊のうち、稼動状態にあるのは2個小隊に過ぎない。
 
 その上、その2個小隊はジムのデータ撮りが一段落し、後発機の開発に任務が移行し、幾つかの実験機を運用しているため、戦力と数えることが出来ない。実質、「トロッター」所属の司令直属中隊だけが戦力だが、こちらはこちらで問題があった。

 あからさまにガンダムクラス以上の性能を持つゲシュペンストで編成されているため、下手に運用できないのだ。勿論これらの機体は技術試験用と銘打たれ、L計画版ガンダムという扱いだが、実質死蔵しているも同然である。元々戦線が宇宙に移行してから、最悪ソロモン戦あたりでの投入を考えていた戦力を、予想外のホワイトベースの状況に押される形で投入したため、介入の時期を考えざるを得なくなったためだ。

 下手に投入して技術の跳躍でも起こされてはたまらないし、そもそもV作戦、RX計画の代替、予備計画と言う扱いでごまかしをいれたL計画の計画機がガンダム以上の性能を持つと知れれば厄介なことになるのは間違いないからだ。

 実際、「トロッター」所属の連絡官として、偽名キャサリン・ウィロウズ大尉、本名アリス・ミラー少佐を見たときには仰天した。書類には連絡士官・防空任務も可能と書いてあったが、彼女が情報士官で、しかも思想的にどう見てもジャミトフ系の人物であることを私はミラーズ・リポートを見ているので知っている。冗談ではなかった。

 丁重にお帰り願ったが、どうやらジャミトフ系の方々もこちらに眼をつけ始めている模様。情報部を担当しているのがエルランだったはずだから、ジオン(キシリア)側からの要求も入っている可能性が高い。正直頭を抱えたくなった。お前はシローでも取り調べて自白剤でも吸っていろとか言いたくなった。マジで。偽名もCSIのキャサリン・ウィロウズとか冗談じゃないよ。中の人ネタだろそれ。

 しかし、ある意味連邦にいることはほっとすることが多くなってきた。「トロッター」艦長に着任する士官がエイパー・シナプス大佐に決定。副艦長としてヘンケン・ベッケナー大尉が決定したよ、とゴップ大将から連絡があったのだ。ヘンケンはこの時、ブレックス准将の第11艦隊所属のはずじゃあ……と思ってたずねてみると、第二軌道艦隊をティアンム中将指揮で編成するため、第8から第12艦隊までの残存艦をすべて取り上げ、ブレックス准将をレビル大将の参謀長として任命したとの事で、第11艦隊所属の軍人が宙に浮いたのだそうだ。もともと、船が足りずに軍人あまりの状態だったらしい。

 やっと部隊が形になってきたと喜びにあふれてきたところで、ゴップ大将より通信が入った。

「おう、少将。元気かね?」

「ニコニコ笑ってらっしゃるのがとても怖いです、大将。前回のキャサリン大尉の件もありますのでビクビクですよ」

 そう言うとゴップ大将はひざをたたいて大笑いした。

「まぁ、一目で見抜いたから情報部の方が大変だったからな。気をつけたまえ、エルランが色々動いとる。あいつ、MS開発計画から離されたことでまずいんじゃないかとあせっとるよ。コリニー提督とも接触を持ち始めたからの」

 それを知っているあなたの方が怖い気がしてきました、僕。

「大将が何故其処まで詳しく知っているかの方が気になるんですが……」

「これでも顔は広いのだよ。軍内部に顔が効くのでな、コリニーの下の方などにな」

 ああ、そう言うことになるわけですか。お金持ちが強いのと同様、軍内部では兵站を持っている方が強いと。こりゃあ、ゴップ大将が退役された後の方がめちゃくちゃ重要なんじゃないか?

「これからも兵站総監部とは仲良くしていきたいですね」

「そうだな。後任にはタチバナ中将を推薦しようとおもっとるから、君のことを通しておこう。まぁ、堅い奴だからそこのところは気をつけてくれたまえ」

「はっ」

 タチバナ中将ってアレだよな、クライマックスだよな。おおぅ、コンペイトウで焼かれないようにさせたげないと。ゴップ大将はうなずき、話を続けた。

「今回の通信は、君から要請のあった部隊がまわせる算段がついたのでな、その連絡だ」

 はっとなる。要請が通ったと言うことは、ゲームや小説で有名なMSパイロット(今はまだ無名だが)の確保できるということだ。

「MSの開発が君のところか、レビル大将のところかに二本化されたことで、派生計画にまわす人員が宙に浮いたのでな。かなり人員的には通りやすかったのが救いだが、結構、君からの要請と被るのがあったのはおどろいたぞ?良く把握していると不思議に思ったものだ」

「まぁ、RX計画の派生部分にはL計画との兼ね合いもありますから、やっぱり腕のいいパイロットの評価には目は通します。当然、才能や腕を持っているのはおのずから限定されるでしょう」

 ゴップはうなずいた。人員の評価基準として確かなものを持っているこの男はやはり使える。40代ぐらいで政界に転身させれば、我々の派閥から連邦首相まで出せるかもしれんな、などと考える。文民統制上、やはり軍出身の議員が首相になることには壁があり、最高でも議長ぐらいまでが限度だ。ゴップは当然、自分が議長までいける自信を持っているが、流石に前例のない首相まで出来るとは思っていなかった。

「10月の7日付でオーストラリア地上軍からレイヤー小隊が、北米アラスカ方面隊からカジマ小隊が配属される。それに、士官学校の前年度卒業生から、首席のマッケンジー中尉を引いて来たぞ。宇宙軍の戦技研究団にいたから、トリアーエズやセイバーフィッシュの運用経験も豊富だ。適正を見たが、シューフィッター評価がいいからすぐに役立ってくれるだろう。……但し」

 ゴップは続けた。

「ここまで厚遇したのだから、とまたぞろうるさいのが出始めてきてな。北米から樺太に移動してオデッサ作戦にはいるまでのホワイトベース隊を君のところに任せる。臨時に指揮権を付与するから、艦長のパオロ中佐と相談して事態に対応してくれ。名目上、レビル大将指揮下の独立第13部隊に編入され、その部隊の指揮を君が採ると言う形になる」

 ここでも来たか。本来ならパオロ中佐ではなくブライトが中尉で独立部隊を任されるはずだが、何の信用もないブライトと、長年艦隊勤務を続けて教官としての経歴もあるパオロ中佐では流石に評価の基準が違う。ワッケインもパオロの生徒だったしな。意外に階級では図れない、師弟関係も含まれている可能性があるわけだ。

「だからと言ってほい、と投げたのでは手の出しようがあるまい?太平洋方面軍のバッフェ中将には君のところに最大限の便宜を図るよう言っておいたから、ホワイトベースに物資を送る際は頼りたまえ。それに、ラミアス大尉の3機のミデアでは問題もあろう?マチルダ・アジャン中尉のミデア小隊を増援に送る。オデッサに備えたホワイトベースの改修も樺太でやってもらいたいから、造船技官のウッディ大尉も一緒に派遣しておいた」

 マジか。これ、ジャブローの地下でのズゴックのジムどかーんが、樺太に場所を移したってことだよね?ということは、黒い三連星の事件とスケジュールが前後するわけか。太平洋上でジェットストリームアタックは流石にないはずだから。

 なんてこった。最悪マットアングラー隊とガウの編隊を、ギアナ高地の岩塊に守られたジャブローではなくここで受けることになるわけか。しかも、ランバ・ラルを先行して確保しているから、ドズルがもしガルマの仇討ちなぞ言い出したら……うわぁ。

 ということで、本腰入れて第一回のホワイトベース隊への補給を行う必要に迫られました。まず持っていくのは当然ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの補修用部品および武器弾薬に食料。これだけを1機のミデアに搭載可能と言うんですから、ハービックはいい仕事をしていると実感しました。

 ペイロード160tって、どんな化け物だよ。

 帰りには破損したジム、およびヤザン、ライラ両少尉と軌道上で撃沈され、ホワイトベースに回収された負傷兵、避難民を可能な限り積んで戻ることをお願いした。また、ホワイトベース隊にも、ジオン軍の拠点であるキャリフォルニアベースからはなれて、北米沿岸沿いにアラスカからアリューシャン列島沿いの大圏航路を取るように指示。ジオン軍との会敵の可能性を減らしたが、これはシアトル郊外での遭遇を歴史どおりに誘発させるためでもある。

 正直、ORIGINルートの様にロサンゼルスの街中を突っ切るルートには救いが見出せなかったし、あのルートはジャブローへ南下するルートだからこそ選べたわけで、ジャブローに行かずにオデッサ作戦へ参加する可能性が高い現状、TV版のストーリーをある程度なぞっていると判断したのである。

 また、戦力的にも不足している可能性があるため、追加にラミアス大尉の輸送部隊から臨時に2機のミデアを抽出。マチルダ中尉の指揮下に組み入れ、バニング指揮下の第4小隊を搭載、増援として送ることを決定した。但し、現在の試験が終わってから、と言うことで、恐らく太平洋上での邂逅になるだろう。当然、危険も増えるわけで、同時に太平洋を管轄する連邦海軍のバッフェ中将にゴップ大将を通じて連絡を取ってもらい、アリューシャン列島およびアラスカの連邦軍基地に、ミデアの燃料補給とシアトル近郊までの護衛を願った。

 ジオン側のMS状況を俯瞰すると、月を経由して地上に送り込まれたMSにかなりの数の 水中用MS、および陸戦型MSが存在することがわかった。大部分は連邦軍の攻勢を抑えるために大西洋に送り込まれ、ジャブローからベルファストまでの航路妨害の任務に従事しているらしいが(降下先はセヴァストポリだった)、少なからぬ数がキャリフォルニア宛に降下している。勿論、現在進行している「コロニアル」作戦の増援として、水陸両用MSの主力であるアッガイが多数、東南アジア戦線で確認されているが、戦闘が北上するにつれて、任務はハワイ近海の通商破壊作戦が中心になる。

 つまり、樺太がジャブロー化するということが避けられなくなってきているのだ。連邦軍が、まず工業地帯の集中する北米東海岸の防備を固めようと、既に生産が始まっているジム、陸戦型ジムの大半をオデッサ作戦用と折半する形で北米に送り込んでいる現在、連邦軍の反撃も熾烈で、そのため戦闘力の高いズゴック、装甲厚があるゴッグ、新型水中用MAグラブロが投入されている。そして、それに押される形で、水域の広い太平洋地域には、量産のたやすいアッガイが確認されるようになってきたのだ。

 また、北米の連邦軍が強化されることは、当然キャリフォルニアベースの増強にもつながる。恐らくガルマの戦死が起こるだろう今月上旬以降、15日に、第3次地球降下補給が行われる予定だ。本国生産されたドム・トローペン、グフB3型や陸戦型ゲルググ(ビームライフル未装備)といった多数の陸戦型MSを投下するそれは、オデッサ作戦対策だ。絶対に、こちらへの攻撃に一部まわされる恐れがある。

「ゲシュペンストだけでは無理な可能性が出てきた……」

「プラントの設置箇所は地下とはいえ、装甲板数枚の地下格納庫ですよね?」

 副官のカトルが口を挟んだ。どうやら、同じような推測に至ったらしい。ジオン軍の戦力降下スケジュールと、樺太での改装、およびオデッサ作戦のスケジュールを考えると、どうしてもホワイトベースはここに1ヶ月ほど駐留することになる。

「設置したときには、ここが攻撃を受けるとは思っていなかったからね……ニューヨークから南下してジャブローのルートが鉄板だと思っていたから」

「さらに地下に移すのはどうです?」

 私は頭を掻いた。

「無理だと思う。海水を搬入してRPにするシステムにしているから、多分そこら辺からズゴックで進入してくる可能性が高い。プラントの目の前あたりでドンパチすることになると思う。まぁ、プラント部分と搬入口の間にはスペースをかなり取ってあるから、戦闘するのには困らないと思うけど」

「……難しいですね」

「ドズル閣下がガルマのあだ討ちに誰を持ってくるかわからない以上、現状で絶対に攻めてくるのがシャアとマットアングラー隊だと言うぐらいしかわからないのがつらい。マットアングラーや配属部隊の編成がどうなっているかを、キシリア相手に調べないといけないなぁ」

 そう考えると、宇宙世紀登場人物に対する技術にポイントを割り振る必要が出てくる。対人関係掌握能力にポイントを割り振ったところ、友好的な人物に対しては大丈夫だけど、キシリア機関なんておそらく、友好的な人物なんて望めそうにもないしなぁ。ドズル配下でも、コンスコンあたりは私のこと嫌っているし。

「やっぱり、私程度の頭の中じゃ無理なのかな。ねぇ、カトル君。知っている人物に、人品性格問題なくてアタマの良い人いる?」

「……レディさん?」

 頭を抱えた。

「それって眼鏡の方だよね?ロックオンに聞いたら連邦軍のマネキン大佐とかスメラギさんは?とか言うし……。スメラギさんは悪い人じゃないと思うんだけど、アルコール依存症だしねぇ、彼女。お酒の趣味も合わなさそうだし」

「マネキンさんはどうなんです?」

「あの見下す視線が別の趣味でも生みそうな感じがして……。というか、彼女のキャラって、どちらかといえば姉さん寄りでしょう?これ以上胃痛の種は増やしたくないのが本音なので……」

 カトル君は苦笑する。怖い女性の相手は彼も経験ある事象だ。

「どーすんだよ、これ……」

 頭を抱えざるを得なかった。

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 ネタ回だけでは、何かな、と思いました。



[22507] 第16話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:19


 0079年10月4日。現在地はシアトル市内。

 目の前ではホワイトベース隊の攻撃を受けたガウが炎上し、その矛先をドーム球場に横たえたホワイトベースにむけている。予定通りだ。

「ガルマ、聞こえていたならば、君の生まれの不幸を呪うがいい!」

 展開しているザクⅡ三機のうち、1機が撃破され、1機がガンキャノンと正対。1機残ったシャア少佐のザクからの通報で急行したガルマ航空部隊が、ホワイトベースが背後に来るような位置関係にシャアの誘導でおびき出される。そして一斉砲撃。TV版、「ガルマ散る」そのままの光景だ。

 しかし、かなり意外な光景になっている。

 降下した三機のザクに立ち向かったのはガンダム2号機とガンキャノン。そう、話どおりなら出撃していないガンキャノンが出撃しているのだ。ホワイトベースの監視をさせているヘルマンからの通信だと、ガンキャノンがさらに一機、ガンタンクも1両出撃している。一体誰がアムロと一緒に戦っている?

 現在、私は生身のままでジープに乗りつつこの戦況を確認している。軍服ではなく、平服の上にポンチョを羽織っているだけだ。身体能力としては、この作戦に入る前にポイントを使ってガンダムファイター能力を付け加えたから死ぬ確率は少なくなっただろうが、流石に直撃はまずい。一日で復活できるとは言え、ストーリー展開が時間単位になってくるこういった話の流れでは、一回死んで月に戻ると、都合1週間は動きが取れなくなってしまう。

 おぅ、後方からの射撃に気を取られたザクがガンダムのバズーカで沈んだ。しかし、ホワイトベースの射撃の腕もなかなかだ。上手く面制圧射撃になるようにしてあるから、一定空域に入り込んだドップに撃墜が連続している。MS隊のガウに対する集弾も良い。ホワイトベースの射撃が面制圧になっているのに対して、上手くガウに対する射撃を集中させている。

「なに、不幸だと!?」

「そうだ。君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ……はっはっは……」

「シャア!謀ったな、シャア!」

 よし、お決まりのセリフが出た。

「ゲルト、ガルマを確保して脱出!暴れるようならスタンガンで気絶させろ!」

「了解!」

 ブラスレイター・フェニックスへと変身したゲルトがすばやくジオン軍の制服を脱ぎ捨て、ガルマに対して腕に融合させたスタンガンの電極を当て、気絶させる。脱出用のハッチから空中に身を躍らせた。ホワイトベースの砲撃は特攻をかけるガウを避ける事に集中するあまり、数が少なくなっている。

「着地!ガルマ大佐は無事!」

「よし、変装させて死体袋に詰めた後、麻酔をかけてバンクーバー島へ移動!そこでハルシオを待て!乗ったら樺太で会おう!」

「了解!」

 後始末はつけねばなるまい。

「何処まで今の私でやれるか……見せてもらう。ガンダム!」

 隠してあったゲルググのところまで戻ると、私はゲルググを起動させた。



 第16話



 現状、ここでガンダムと戦う必然性はない。しかし、ランバ・ラルがいないことでこの後に恐らく違った展開を見せることになるだろう―――そして、それは恐らくTV版よりも凄まじいことになるだろう―――ことを考えると、アムロの能力を把握しておく必要がある。

 勿論、理由はそれだけではなかった。まだNTとして覚醒したばかりのアムロが相手だが、彼のように戦場で苦労し、自分の力で能力を勝ち取った人間とは違い、私自身はチートポイントで能力を勝ち取ったに過ぎない。自分の実感として、何処まで自分の能力がNTに通じるものかを知っておく必要がある。特に、この先にシャアとの戦いを避けられない可能性があるとするならば。

 シャアが後退するのを確認したと同時に、ホワイトベースへの帰還を開始したガンダムにアサルトマシンガンを発射する。

「まだいた!?それに新型?」

「アムロ!ホワイトベース発進、各機、アムロを援護!機体を収容後、すばやくここを離れる!すぐにジオンの援軍が来るぞ!カイ、ハヤトは援護射撃!ヤザン少尉……頼みます!」

 一機のガンキャノンがこちらに向かってくる。射撃が正確!?よくもここまで!ヤザンが帰ってこなかった理由がこれか!

「了解したぁ!ルナツーでの借りを返してやる!」

 面倒見が良い性格上、軍人でもない若者たちが戦うホワイトベースを見捨てられなかったのだろう。ライラ少尉は負傷もあってマチルダの補給で帰って来ていたが、ヤザンは樺太寄港までホワイトベースに残ると言い出したのだ。

「ガンキャノンとは、いい選択だ!」

 ゲルググのスラスターを吹かすとまずはガンキャノンに接近。中距離砲撃戦用のMSだが、ヤザンは上手く肩、脚を用いて接近戦にも対応してくる。しかし、接近戦用の武器がないことは致命的だった。

「まだ甘い……それっ!」

 ビームサーベルを回転させて前に突き出していたビームライフルとキャノン砲の砲身を切り落とす。切り落とすと同時に頭部に蹴りを入れようとしたときにそれは起こった。

「こなくそぉ!」

 ヤザンが切り落とされたのもかまわず、短くなったキャノンを撃ったのだ。一発は外れ、一発が頭部に近づいていた右足に命中。損傷自体は少ないが、機体のバランスを崩す。上手い、流石だ。この数日でかなり腕を上げている。

「アムロ、行けぇ!」

「わぁーーーーーーっ!」

 ビームサーベルを構えたガンダムが迫る。シールドで防ぐが、流石に熱量にはだんだん耐え切れなくなり、Z.O合金製のシールドが融解を始めた。このままではシールド裏面のミサイルに誘爆しかねない。

「良くやる!」

 すばやくガンダムの足元にミサイルを全弾撃ち込み爆発させると、爆風を抑えるために身をかがめたガンダムの背部を蹴って距離を取る。爆風が収まったと同時にシールドを構え、ビームサーベルをこちらに向けて突進してくる。

「ヤザン少尉は後退してください!ここは僕が!」

「無理するなアムロ准尉!ホワイトベース、砲撃!俺を巻き込んでかまわん、撃て!アムロ、後退しろ!」

 ホワイトベースの方も当然二人、もしくはヤザンを見捨てるという選択肢はない。

「砲座!前方の敵MSに向けて精密照準!アムロやヤザンに当てるな!カイ!ヤザン少尉を回収して後退!ハヤトは砲撃!右舷メガ粒子砲、狙え!いそげっ!」

 このままここにとどまっていては砲撃の良い的だ。ゲルググを前進させてガンダムと刃を交える。ビームサーベルのエネルギーがはじけ、火花を散らす。

「まだこの時点では、対応できるか!」

 少々厳しいかもしれないが、今の時点でのアムロの能力には充分対応できそうだ。背後に回るとガンダムを蹴りとばす。調子に乗って追撃でもかけてやろうと思った瞬間だった。

「よくも、ヤザンさんをっ……」

 一連の無駄のない動き。それと共に発生するプレッシャー。操縦桿を持つ手が凍る。クソ!?動かそうという意志が腕に伝わっていないのか!?プレッシャーの正体って、他人の思考に干渉することで相手の動きを止めることか!?

「こ、こなくそおーーーーーーーーーーっ!」

 ガンダムがエネルギーを残したままのビームサーベルを投げた。刃を出したままのそれがコクピットへ向かう曲線を描いている!うえっ、直撃!?え、反応が遅い?まだ戻っていないのか!?クソ、動け、動け動け動け動け動けっ!

「ラースエイレム!」

 ラースエイレムを使い、数秒間時間を止める。避けてはアムロに疑問に思われかねないと、焦りつつも冷たくなった頭で判断し、脚のスラスターに直撃させ、爆発を起こす。ゲルググはバランスを崩して瓦礫にたたきつけられた。ただ当たっただけではなく、脚部のスラスターに直撃したようだ。

「これが、NT能力か?……プレッシャーというのか!? マジで機体が止まったぞ!?クソッ、この段階でRFゲルググ持ち出してチート機能まで使わねばならんなど、洒落にならん!さっきのビームサーベルの投擲も、……サイトロンの補助を受けているのにっ……」

 距離が取れたことでこちらに射撃が集中し始める。ガンダムも追撃をあきらめて後退に入ったようだ。ここまでか。

「パイロットLvを5まであげてこの体たらく……クソッ。本格的にポイントのみでの戦力向上も考えなくてならないな……というか、本当にシロッコまで能力あるのか?」

 ゲルググのスラスターを吹かすと瓦礫を上手く利用し、その場を離れる。このまま先に向かったゲルトを追ってハルシオで樺太に向かおう。実感した。宇宙世紀のパイロットは化け物だ。ポイントを使ってさらに強くなる、自分を鍛えなおす、政治面など対応が出来ない面での介入に重点を置く。……今回得られた教訓は多い。今の時点の能力で光る宇宙に介入しようなど、世迷言だとわかったのが一番の収穫だ。

 クソッ!

 こぶしを強くシートにたたきつける。コンソールの一つにひびが入った。肉体強度がガンダムファイター並に強められているのだから当然だが、今はそんなことは気にすることもない。

 自分の慢心さ加減に腹が立ってし様がなかった。良いMSとチート機能を使って浮かれていたのだ。サイトロンの思考を読み取る特性をつかってもあの投擲には対応できなかった。簡単だ。相手にしてきたのが艦艇に訓練未了の二人のオールドタイプでニュータイプじゃないから?

 いや、そうじゃない、私自身だ。問題なのは。チート機能を使って、それが使えない同類に力を振るって調子に乗っていたのだ。クソ、顔から火が出そうだ。

 わかるべきことも、今の段階で知るべきこともかなりわかったのが収穫だが、精神的にはかなり、来たな、コレは……。確かに、これほどの能力が宇宙に出るだけで得られるというふれこみなら、ジオニズムが広がるのも無理はない。しかし、これでは。

「これでは、オカルトもいいところだ!」

 どうやら、素の私自身は根っからのオールドタイプらしい。



 潜水艦ハルシオにもどり、ホワイトベースに先行して樺太に戻ると、「トロッター」艦長としてエイパー・シナプス大佐が着任していたため、基地の指揮権を一時委譲。損傷したゲルググと共に、ワープ機能を利用して月面へと帰還した。ガルマは、早速コールドスリープ状態に落すと、翌日届いたイセリナ・エッシェンバッハと共に木星へ送付する。敗戦が決定した段階で覚ませば良いだろう。

 流石にキシリア機関の目があったため、反ジオン軍のゲリラを援助していたエッシェンバッハ、ロサンゼルス市長の身柄はどうにもならない。イセリナにしても、娘一人捨て置いてもかまわないとキシリアが判断し、イケナイ気持ちを出したキシリア機関の男性がハリウッドの高級住宅街でことに及ぼうとした段階で確保しただけの話だ。勿論、代わりの死体と、反ジオンゲリラの仕業に見せかけて住宅は吹っ飛ばしておいたが。

 10月6日。目の前のTVからは予定通りのギレン閣下の演説が響く。

「我々は一人の英雄を失った、しかしこれは敗北を意味するものか!? 否!始まりなのだ。地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ!一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度連邦に踏みにじまれたかを思いおこすがいい!ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない」

 そして、お定まりのセリフ。

「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!?」

「シャアのせいだよ」

 とりあえず突っ込んでみた。流石にこんなことを他の人間には聞かせられないから、アムロに負けたショックを言い張って閉じこもった部屋でのことだ。視界の一定部分がつねにピンク色に占められ、部屋のそこかしこにオレンジ色が目に付きますが。あれ?おかしいな。鍵かけたのに。

 ガルマ国葬は予定通り行われ、ドズルがガルマの身の安全を守れなかったとしてシャアの軍籍を剥奪しようとしたが、キシリアが介入し、「戦死確率が高い」と言い張って、キャリフォルニアベース所属の潜水艦隊司令に抜擢した。もはやどうなるかは疑うべくもない。

 しかし、月面でのハマーン&プル中隊とのエンカウント率が異常。敵の存在を感知する能力を人の居場所を感知する能力として……ああ、F91でもシーブックが使ってたな。つか、バイオコンピューターの補助無しで出来るんですか。やっぱりNTはチートだろと改めて思いました。

 それに、自分の状態を確認したら、基礎能力と経験は別らしく、MS戦闘経験なんていう、新しいステータスまで出てくる始末。詐欺じゃないか、これ?そりゃシロッコクラスの能力あろうと、Lv.1じゃボロ負けも納得だよ!

 まぁ、女性特有の優しさか、こういったときになにも言わずにいてくれるのはとても有難い。レコアさんあたりに「男は、女性を抱きしめるための道具としか!」とか批判されそうだ。だけど、そりゃあなた、惚れた男がシャアやシロッコっているところでどうよ?そもそも男って、甘えたがりだから、何も考えずに女の子に抱きつきたくなることもあるよ?許してくれるかは別問題だけど。……ああ、だから抱き枕市場が成立するのか。あ、いい匂い。

「よしよし」

「よしよし」

「よしよし?」

 プルシリーズに慰められながら聞くギレン演説はシュール過ぎました。


 さて、予定通り不死身の第四小隊がアリューシャン列島、アッツ島近海でホワイトベースに合流し、陸戦型ジム3機と陸戦型ガンダムで構成される戦力を受領させると、10月中に「ブランリヴァル」を樺太に移動させるから、三隻編成でオデッサ作戦に参加するよう、レビル将軍から通達が来る。

 第13独立部隊の指揮官が私にされてしまったので、「トロッター」を旗艦とし、「ブランリヴァル」の艦長をヘンケン少佐(昇進)に御願いした。シアトル戦で指揮を取っていたのが如何見てもパオロ艦長ではなくブライトだったのは、大気圏突入から、北米でのガルマによる迎撃の間にブリッジに被弾し、パオロ艦長が負傷していたためと判明。ただし、史実のような重態ではなかったが、大事を取ったと説明された。ちょうど良いので樺太でパオロ艦長を降ろし、ブライトを大尉に昇進させて艦長に正式任命する。

 ペガサス級の艦籍番号は、強襲揚陸艦型でSCV、宇宙戦闘用の改装を受けたものでSCVAと混乱しているが、この歴史では一番艦ペガサス、二番艦ホワイトベース、三番艦トロッター、四番艦サラブレッド、五番艦ブランリヴァル、六番艦スタリオン、七番艦トロイホース、八番艦アルビオン、という命名順となり、艦籍番号も改装が終了次第、SCVAに統一されるとのことだった。

 現在、第13独立部隊にはそのうち三隻が配属されているが、四番艦サラブレッドが月面近海での通商破壊任務に予定されている他は、六番艦までの建造が始まっている。七番艦以降が未定、と言うことだったので、樺太工廠での七番、八番艦の建造を提案。ジャブロー工廠ではビンソン計画を主眼にサラミス・マゼラン両級の建造を進めるように提案した。

 恐らく、オデッサ作戦にはホワイトベース、トロッター、ブランリヴァルの3隻で出撃することになるが、そうなると樺太基地の管理を誰に任せるか、と言う問題が生ずる。プラントが存在する樺太基地の管理を連邦軍の軍人に任せるわけには行かないため、シトレ大将を通じて特務作戦集団より何人かの軍人を融通してもらうとして書類を調えてもらった。

「で、私が呼び出されたわけか」

「まぁ、そう言うことになります。旦那さんは?」

 カティ・マネキン准将は鼻を鳴らした。

「あいつのことです。新型のMSのところにでも行っているのでしょう」

 そうおっしゃられますが、どうみてもドアの後ろに誰かがいるような気配がありますが。流石犬属性。あの根性は見習うべきなのだろうか。腕は確かなんだが……。

「流石にパトリック・マネキン中尉にMS隊の指揮をお願いするわけにも行きませんので、本基地の防衛に関してはネオ少佐と協力して事に当たってください。プラントの使用に当たっては量子通信システムを用いて私まで許可を求めるように」

「了解しました」

 久しぶりにキャラクターを獲得。基地司令として使える人材は、レディ・アン氏の暴走が怖かったのでマネキン准将に御願いし、流石に寂しそうだったので不死身のコーラも一緒に。ネオと組ませて防衛を御願いする事とした。まぁ、エンデュミオンの鷹に不死身さんがいればどうにかなるだろう。

 第三次降下補給で送られたMSにゲルググが含まれ、オデッサ作戦にまで一部が参加するだろうことを受けて、早速後期生産型ジムとしてジム・コマンド地球用の生産を開始し、第一に我が部隊への配属、余剰生産分が生じてから、アジア側から進撃するグエン中将のアジア方面軍へ導入することを伝達する。

 MSの性能向上型の出現が早まったことで、一年戦争を数で押した連邦らしく、ゲルググやギャンといった高性能機に比するMSが連邦側には少ないところが問題として生じてしまうが、コレは仕方ないのかもしれない。最悪、ジムⅡの投入で収まる事を願うしかないだろう。

 今回は、マネキン夫妻にポイントを使った以外はやはり、自分のパイロット能力を上げるように用いた。





[22507] 第17話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 15:05


 UC0079年10月10日、予定通りホワイトベース隊が樺太に到着し、地下ドックに入渠。SCVA形式に準じた改装を受けることとなり、パオロ艦長を始めとした、避難民および負傷兵の受け取りが完了した。

 ここに来るまでの5日間に既にバニング大尉の鬼の教育を受け始めていたホワイトベースMS隊はかなりその腕前を向上させている。バニング大尉には引き続きホワイトベースのMS戦能力向上に尽力してもらい、陸戦型ジムに代えてジム・コマンド3機を配属した。コレを機会に、いままで陸戦型ガンダムと陸戦型ジムのハイ・ロー・ミックスで構成されていた部隊編成をジム・コマンドに統一。整備性の向上を図った。

 但し、レイヤー中尉率いる第一小隊のみは、新型であるジムスナイパーⅡおよび量産検討型ガンキャノンの運用を試験するため、この基準からは外している。宇宙に入った段階で戦力的に不足するようであれば、ジム・カスタムの配備も検討に入れるべきだろう。

 ただ、問題が無い様であれば、宇宙で用いるMSもジム・コマンドの宇宙仕様が使えるのが有難い。それに、ジムの生産ラインを変更せずに生産できる後期生産型ジムこと、ジム改の設計案をまとめ、早速ジャブローに送ってある。現在量産が進められているジムがある程度の数に達して戦線が安定次第(恐らく、オデッサに対する戦力集中がある程度完了した時点)で切り替えるとゴップ大将から通達があった。すばやい新型機の設計案提示と、何よりも生産ラインの変更無しに生産が行える点は評価された。

 オデッサ作戦が終了し、戦線が宇宙に以降次第、準備を整えた上でジムの生産がジム・コマンドへ移行することもあわせて連絡あったため、とりあえず一年戦争中のV作戦は結果を出せたようだ。レビル大将など、大将会議の常連も満足であり、戦後のMS開発行政も、樺太基地を中心に行うように連絡があった。

 但しそれに対しては、流石に其処までの介入を行うと民間企業への利益配分を、軍需工廠が奪う形になってしまうと伝え、同時に、民間で開発をリードさせた方が、退役機の取り扱いに関しても配慮を行うだろうと推測を伝え、とりあえず一年戦争後数年は、設計を軍需各社にまわすことで合意した。

 一年戦争が終われば当然待っているのは軍縮で、現在生産しているジムが大量に余ることになるだろうことは推測がついたため、このような形を採用したのである。まぁ、ジム・コマンドクラスの機体であればある程度ジムⅡと遜色ない使用法が出来るわけで、ある意味ジムⅡの登場フラグを潰したような気がしないでもない。



 第17話



 最初から連邦軍の一年戦争でのMS行政の話になったけれど、実は、現実逃避も入っている。なぜかと言えば、ガルマの戦死が確認された10月5日に早速ドズル中将から月に連絡があり、ガルマの仇を取るから部隊を地球に降下させろと命令が来たのだ。

 落ち着くように言った後に、キシリアが支配する地球に降下なんてそれなんて死亡フラグですかと突っ込んだところ、ある程度冷静になってもらえた。確かに地球攻撃軍はキシリアの軍隊で、そこで戦死したのであればキシリアの責任と言うことになる。実際、ガルマ戦死でショックを受けたデギンは、地球から舞い戻ったキシリアをにらみつけるだけで反応すらしなかった。

「それではキシリアの部隊にやらせるつもりか。しかし、あいつがガルマの仇を取るなど考えられんだろう!?」

 だからと言って私のところに話を持ってくるのも如何かと思ったが、そこは突っ込まない。突っ込んだら話がややこしいことになるし、ここのところが、連邦軍と違ってジオン軍が民兵とそう変わらないところだと私自身思っている。そもそも司令官の私情を軍事上の要件以上に重要視するなど、軍隊と呼べたものではない。

 それに、軍人になった以上、戦場での戦死に文句は言えないのだ。

「地上で行動しろと言っても、生産した地上用のMSは根こそぎキシリア閣下のところに送っていますし、今までの確執を考えると降下させた私の部隊に満足な補給が来るとも考えられません。となれば、キシリア閣下御自身の部隊にやらせたほうが、補給の面でも作戦の実行の面でも宜しいかと思いますが」

 むぅ、とドズルはうなった。月面からソロモン、および地球はかなりの戦力を受け取っており、人情?なにそれおいしいの?なキシリアはともかく、義理を感じるドズルも無理を言えない。実際、私の持っている戦力は宇宙空間での使用を前提にしている(表向きの戦力は確かにそうだった)から、地球では使えないのだ。

「キシリア閣下の所からMS特務やフェンリル隊を引き抜きましたが、他にも戦力はいるでしょう?」

「……地球からの報告によると、ガルマをやった部隊は敵の母港の一つに入っている。ジャブローほどではないが防備が堅いのだ」

 まぁ、そうだろう。攻撃を受けたときのことを考えないでもなかったし。

「誰を送るつもりですか?まさかマツナガ大尉とか?」

「シンはお前のところに送る。本国においては置けんし、俺のところにもどせばギレン兄がうるさい。お前の下に置いておくのが安全だろう」

 この人も中将だけあって頭が悪いわけではない、と改めて感じた。ダニガン中将が正式に退役し、オブザーバーとして(実際は親衛隊の管理下におくために)現在月面に向かう準備をしているというから、恐らくそれに同行してくるのだろう。新型MSとしてのゲルググの改良案検討のために、先週ジョニー・ライデン少佐の配属も認めさせたから、宇宙でのジオン側戦力は整いつつある。但し、キシリアとの関係が不明瞭なライデン少佐は扱いに困る可能性がある。

「……よし、決めた」

 ドズルが何かを思いついたようだ。

「ヴィッシュ・ドナヒューの部隊を使うように言おう」

「荒野の迅雷ですか?しかし、連邦軍の欧州総反抗が噂されるこの時期に、北米戦線から精鋭を引き抜くのは……」

 冗談じゃない。いまキシリアの部隊に残っているエースの中で、一番避けたい人間の名前が挙がってしまった。

「いや、奴の部隊なら動かせるはずだ。それに、日本に対する攻撃はアジア方面軍の補給基地であるから、欧州総反抗の牽制にもなる!」

「説得が難しいと考えますが」

 ドズルは鼻を鳴らした。
 
「可能だろう。奴ならば。奴は今、ヒープ中佐の大隊にいる。ヒープの奴はキシリアも排除したがっているはずだ。話には乗ってくる」

 なんてことだ。キシリアと協力してザビ家にはむかう人間の排除を理由にガルマの仇を取ろうとは。一瞬、ドズルの正気を疑った。

「本気ですか中将。ヒープ中佐がキシリア閣下に嫌われていることは私も存じておりますが、だからといってキシリア閣下の考えるヒープ中佐の排除をガルマ大佐のあだ討ちと組み合わせて行うなど!」

「貴様は何か!?ガルマの仇討ちに文句をつける気か!?」

「そうは言っていません!ヒープ中佐のことも考えてくださいと言っているのです。キシリア閣下に嫌われた理由は、彼が任務を果たしたからです。彼は自分に与えられた任務を果たした結果、キシリア閣下に睨まれました。確かにキシリア閣下はヒープ中佐を排除する良い機会ですから話に乗るでしょう。しかし、キシリア閣下にとってガルマ大佐の仇討ちが何の価値も持たない以上、ヒープ中佐の排除の方に力点を置きます。それではガルマ大佐の仇は取れず、ヒープ中佐も無駄死にです!」

 ドズルもこちらの言いたいことがわかったようだ。苦々しげに顔をゆがめると倒れこむように派手な椅子に腰掛ける。

「どうにかならんか。地上に、ヒープの部隊にキシリアから独立して補給を行うことは?」

「難しいでしょう。やるなら、キシリア閣下にばれないように地上に降下して行う必要があります。キャリフォルニア・ベースの基地司令の協力が得られれば良いですが、キシリア閣下のことですから手を回していらっしゃるでしょう」

「閣下」

 背後に控えていた副官のラコック中佐が口を開いた。

「ガウの第4飛行隊長、ダロタ大尉なら如何でしょう?彼ならばガルマ様への信服の度合いも疑いありません」

 イセリナを確保したことに気を取られて、ダロタ大尉なんて名前を覚えていなかったキャラまで出てくるか。確か、イセリナに協力してガルマの敵討ちを狙った、ガウの指揮官がいたことは覚えていたが、流石にそんな脇役キャラの名前までは今の今まで忘れていた。

 その後、会議の結果、キシリアとの話を経て、地球連邦軍樺太基地への攻撃はガウ攻撃空母6機に荒野の迅雷率いるMS中隊を乗せ、ユーコン級潜水艦からの準備砲撃の後、空海一体攻撃を行うことが決定された。海中からの攻撃はシャア率いるマットアングラー隊、およびキャリフォルニアベース所属の第114潜水戦隊のユーコン級3隻が参加。海側から攻撃を仕掛けるのはマットアングラー隊のズゴック3機、グラブロ、ゾック各1機、ゴッグ2機にアッガイ3機となり、ユーコンからはゴッグが3機、アッガイが6機出撃する。ガウ攻撃空母にはゲルググ3機、グフ5機、ザク7機が搭載され、ガウの1機には試作型MA、アッザムが搭載されることとなった。合計MS30機、MA2機の大部隊である。

 作戦開始は11月1日と決定された。

 そのことをドズルから意気揚々と語られた私は顔を青ざめさせた。どんな大部隊だ、それは。ヒープ中佐への補給に制限がつけられるのは間違いないようだが、ダロタ大尉を通して補給を確保する、というものだから、当然ゲルググは戦力になると考えざるを得ない。まったく、なんてラスボスだ。

 連邦軍側で態勢を整えすぎてしまえば、キシリアに内通者がいると思われかねないので戦備を整えるのも一苦労だが、仕方ない。明日中に樺太に戻って戦力を整えることとしよう。しかし、作戦の行われる日時に関しては通達できない。あのユライア・ヒープのことだ。下手に準備を整えさせすぎれば、ジオン内部に内通者がいる可能性を示唆しかねない。現状、それではまずいのだ。少なくとも、ソロモン陥落あたりまで、私がジオンにとってどういう存在なのかを隠す必要がある。

 頭をかきむしりつつも、私は樺太へと戻った。

 前回、基地司令として新たにマネキン准将を招いて戦力を整えた樺太のG-1隊だが、まず基地の全員とホワイトベース隊に、ガルマ・ザビを打ち破った以上、王政国家であるジオンはその矛先をホワイトベース隊に集中させる可能性があることを指摘し、基地の防備を調えるように命令した。

 10月第一週を以てG-1隊各隊にはジム・コマンドの配備が終了し、第一小隊にもジムスナイパーⅡ、ガンキャノン量産検討型の配備が終了。早速慣熟訓練に入ってもらっている。

 ルナツーおよび北アメリカでの交戦でジオン軍の新型に歯が立たなかったことを悔やんでか、ヤザン、ライラ両少尉は、バニング大尉も驚くほどの熱意を以て訓練に臨み、まだMSを使用しての実戦経験がない他の5小隊にいい影響を与えている。

 ホワイトベースに所属するMS隊も訓練には参加し、特に新配属のスレッガー大尉とセイラ准尉にジム・コマンドが配備されたことでMS戦力が向上している。地上であるためまだガンタンクの使用の場面が残っていると判断し、ガンタンクについてはホワイトベースに残す事としたが、早晩、戦線が宇宙に移行次第降ろすことを伝え、ガンタンクの操縦者であるハヤト、ジョブ・ジョン両軍曹にはジム・コマンドの操縦訓練を行わせている。コレにより、ガンキャノンはリュウ・ホセイ少尉とカイ・シデン軍曹によって運用されることが決定した。

 結局、樺太基地所属のMS隊は「トロッター」所属のゲシュペンスト3個小隊(私、ロックオンおよびネオ、ポプランとウィスキー隊)合計9機、G-1部隊6個小隊合計17機で総計26機となった。ホワイトベースに配属されているガンダム始め5機を合わせれば、ジオン攻撃隊とほぼ同数となる。

 戦力として有難かったのは、10月10日にガンダム6号機が完成。砲撃仕様の機体としてエイガー中尉に操縦を任せ、RX-78ガンダム先行試作型をデータ撮りにまわし、マッケンジー中尉に、L計画試験機の一つとして、シュッツバルトの改造型を渡せたことだ。両肩のツイン・ビームカノンをガンキャノン量産型と同様のものに変更し、脚部をドムと同様のホバー走行が可能なタイプに変更。完全に「ジム顔ドムキャノン」になってしまったが、現状の技術段階ではこれが限度だ。重装甲をホバーで機動性を高め、固定装備の三連マシンキャノンとゲシュペンストと同じくM950マシンガンを装備させる。敵部隊のかく乱に役立ってくれるだろう。
 
 そして、本当のもしものために、一機の新型機をポイント使用で登場させた。現在乗っているタイプRVは、こちらの宇宙世紀ではほぼZガンダムクラスの性能にあたる。しかし、シアトル郊外の結果を見るまでもなく、本物のNT相手には現状の戦力では不足だと言うことが良くわかった。私自身に力がないことが第一の理由だが、現状の能力があの程度のものである以上、一年戦争は技術で乗り切るしかないと考えたのだ。

 だから、出現はさせたものの、決してタッチする事無く放っておいた女性の下にいくこととした。かかるポイントやストレスは大きくなるだろうが、正直、あの人の助けを受けなければ私の頭では無理だ、と思ったのだ。自分自身の、甘い、独り善がりな考え方では駄目だ。少なくとも批判され、失敗の可能性と対案を検討する体勢を整えなければならない。人情に左右され、不遇な死のキャラを私が悼むなら、それと真逆の価値観を持つ人物を。


 10月12日 日本州北海道札幌。ここに、現在連邦軍のMS生産の一角を担う、太洋重工の本社がある。その社長室。


「それで、ようやくここに戻ってきてくださったわけですわね」

「正直、頼りたくはなかったけどそう言ってもいられなくなった」

 一番有能だろうと呼び出したが、有能だけあって性格の方は最悪だった。彼女を相手にするならば、まだジオンで相手にしている女性群の方が御しやすい……というか心に来るダメージが少ない。うん?何処が御しているの?とかいう突っ込みは……ごめんなさい。

「社長なら、今いませんけど?」

「おかしいなぁ。社長以上に強い人、信頼すべき人がいるのに社長に会う必要あります?というか、あんまりいじめないでください」

 ああ、もう、こちらのすべてを見透かしてくれるから遣りにくい事この上ない。コレから始まるアナハイムとの暗闘を考えると絶対に協力が必要だと思って呼んだけれども、この人のやる事にはあんまりタッチしたくないのだ。条件が条件だし。しかし、この人物の識見、ものの見方はこれからぜひとも必要になる。異星人との友好関係を模索するキャラクターは多かったが、異星人との商売まで、それも、死の商人としてのそれをなそうとしたキャラクターは、絶無だ。だからこそだ。

「それで、この前の話は考えてくださった?」

「その話は無しの方向で……わかりました。無理ですね」

 女性はにんまりして言った。

「わたくしに、兵器を好きに売るな、戦争を誘発させるな、利益を得るために手段を選ぶようにしろ、と色々制限を掛けてくださったのですもの。あなたの人生に制限をかけさせてもらうのは当然でございませんこと?」

「好いた張ったというなら私も心が動きますが、利益から考えられるとなんとも」

「だって、あんなすごいものの使用できる唯一の方ですもの。対価がそれなりにあるのは当然ですわ。それとも、対価がわたくしでは御不満?」

「不満とかそう言う話ではないんですが……」

 いかん、完全に彼女のペースだ。

「好きですわよ?」

「自分の何処が好きなのかが問題だと思うのですが」

 目の前の女性は鼻を可愛く鳴らして笑った。

「ですから、アレ――プラントやシステムを操れる能力が」

「やっぱり」

 当然です、と前置きして彼女は言った。

「魅力のない男に誰が恋します?わたくしにとってそれは、何かをなす能力であり、実際にできると言うことであり、それをやれる人間だということですわ。それに考えても見てくださいな。指先一つで資源やMS、戦艦にオーバーテクノロジーの塊を生み出せるのですわ。そんな能力持っている方なんていませんもの。愛するには充分な理由じゃありませんこと?」

 それ、愛って呼ぶんでしょうか?

「うわぉ。……相変わらずはっきりしていらっしゃる」

「ですけど、そういうとあなたがわたくしを嫌いになりそうですから、別な理由を述べたほうが宜しいようですわね?」

 私はうなずいた。実際、この会話にしろ本当のことが含まれているとは露ほどにも思わない。目の前の女性が抱える心の壁とやらが、どうしてかはわからないが今は判るような気がする。これも、獲得し始めたNT能力のおかげだろうか。

 そして怖いことに、彼女はそれを知っているのだ。言葉に出さなくとも。私がここに来たことが、彼女の隠された内心をどうにかできるかもしれない可能性があるからだと言うことを、彼女は読み取っている。ある意味、彼女もNTなのかもしれない。

「あなたの目、あなたの感じ方、とでも言うですかしら?わたくしの嘘は通じないし、わたくしのかける毒に影響されない。色仕掛けなんて迷うそぶりすらないし、同性愛を疑ったけどそんな様子もない。何よりも、何も考えていなさそうなのに突き刺すような目。こちらが見透かされているようで、そして実際見透かされているのでむかつきますわ」

 そりゃそうだろう。接触がなかったとは言え、どういう人間かは知っている。色々な作品を通じて彼女が何をやる人間かも知っているし。それに、アニメ作品の登場人物だとわかっているのに、それを改めて人間であると認識する時間もなく欲情などしていたら変態、人非人もいいところだ。相手の人格ではなく、外見や容姿、言葉遣いや自分の妄想の結果を愛するなど。男性だから仕方ない面もあるとは思うが、それを現実の人間相手にやるのは失礼千万だろう。

 相手が人間であるなら、それに適当な関わり方と言うものがある。まぁ、いまさらかもしれないが。

「見下したくなる人には会いました。ゴミと思う人にも会いました。関わりたくない人にも会いましたし、そう言った人間ばかりであるとわたくし、思っていたんですの」

「ずいぶんと素晴しい世界ですね」

 そういう世界は悪夢というべきじゃないのか。やっぱり能力とコミュニケーション能力は反比例するのが普通なのか?

「ですけど、むかついた人間は二度目ですわ。しかも、一度目とは全く別の。あの底まで見透かすような目。一応褒めておきますけど、あそこまで背中が冷えたこと、興奮したこと、これまで一度もなかったですのよ?」

 突き刺すような目?アニメキャラを目の前にしているんだぞ?三次元に。二次元の時との違いをよくよく観察しようとしていただけなんだが。ほら、良く言うじゃない。アニメで描くと目が大きすぎるようになるから、頭蓋骨の形状ってどんなになっているのだろうって?考えたことない?たとえば猫耳少女の頭蓋骨の形状についてとか。

 ……あー、何か喋らないと。また怖い目で睨んでらっしゃる。

「一度目の人の御冥福をお祈りしたいのですが」

 女性は花が咲いたような笑いを洩らした。

「駄目ですわよ。まだ死んでませんもの。世界を自分の作る武器で平和に、なんてお甘い考えのリン・マオは女性ですからわたくしのものにはなりません。ですから、なんとしてでも殺す……だけではつまりませんわね。あの顔がどうにかなるのを見てやるつもりですわ。勿論、もう一度お会いできたら、ですけど」

 わーお。こわいよー。逃げたいよー。なんでこんな人を呼び出しちゃったかなぁ、私は。そりゃね、スパロボで一番魅力的な人だとは思ったけどさぁ。やっぱり、見ている分に楽しい人は実際付き合うには問題がありすぎるんだなぁ。うん、僕懲りた。ごめんなさい。今から帰ってくれませんでしょうか?

「あなたは彼女と違って男ですから、わたくしのモノになってくれません?」

 ああ、またまずいことを癖で言いそうだが、口が止まらない。もういいや。自重しない方向で行こう。

「それはSって書いて嗜虐的とか読む意味でおっしゃってるんでしょうか?そこに痺れる鞭打たれるような」

「お望みならそうしますけど?そういう御趣味?」

「いえ、全く違います。むしろ逆がいいかな、と思ってます。だって男の夢でしょう?……すいませんすいません」

「了解しました。そういうお望みならそれでも結構です。むしろ望むところ……返品は不可ですので」

 え?俺契約したの?今の何処に契約行為があるの?

「それではお席についてくださいませんこと、旦那様?相性ばっちりだと思いますわよ?」

 やばい、このままではなし崩しに既成事実化される!

「キャンセルを要求する!クーリングオフ!クーリングオフ!8日間は返品可能なはずだ!それに、まだ私は婚姻届も書いていないし判子もおしていなければサインなども全く無し!」

「今の会話、ジオンや連邦に流します?当然、つながりつくってありますけど?放って置かれた分、色々やらせていただきましたし、あなた自身の目的そのものをどうこうしようとしないかぎり、わたくしたちも結構、自由に動けますでしょ?」

 白旗を揚げました。もう駄目です。ゴメンナサイ。そんなことされたら月に帰ったら絶対に血を見ます。絶対に月を舞台に大戦争で収拾がつかなくなります。畜生、この女性、こっちの弱みを知っている……

「我が太洋重工にようこそ。専務のミツコ・イスルギ……明日からはミツコ・ミューゼルが対応いたしますわ。ミューゼル少将閣下」

 別世界最大最悪の死の商人、イスルギ重工の社長、現在は太洋重工の専務はそう言ってのけたのである。



[22507] 第18話[R15]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:24
 おはようございます、皆様。新婚生活を満喫しているミツコ・イスルギ……ミューゼルです。

 現在時は宇宙世紀0079年10月30日朝6時。朝6時の連邦軍樺太基地ですの。隣にいるのはこの基地の司令で連邦軍のMS開発を取り仕切っている夫のトール。つい先日、お得意様から夫に変更いたしましたの。意外と体、逞しいところは評価出来ますわ。

 10月12日に約束を取り付けた?私は早速連邦軍のゴップ大将に報告すると一緒に、結婚の根回しと問題にならない様に手はずを整えていただけるなら、連邦議会のグリーンヒル派に献金させていただくことを確約してあげましたの。ゴップ大将にはとても喜んで頂いた上に、せっかくの慶事に戦争のため、お祝いにいけないことを御詫びしていただきました。

 軍需企業の専務が、連邦軍の軍需関係の方と結婚なんて問題がありませんこと?なんて水を向けてみますと、軍需関連企業は何社もあるから、早々独占に近いことをしなければ大丈夫じゃよ、と太鼓判を押してくれました。

 それからが大変でしたの。連邦軍の方々から次々にお祝いの連絡が舞い込んできまして、わたくしと言うものを射止めたトール・ミューゼルという名前は、連邦財界に広く知れ渡ることになりました。夫は頭を抱えていましたけど、名前が大きくなれば影響力も強まりますし、面倒だったら他の名前に変えたら?と言ったところ頭を抱えてうんといってくれましたわ。

 副官のカトル少尉さんが、「それって、うんうんうなりだしたの間違……」とか言い始めましたので、にっこり笑顔で銃を突きつけるとおとなしくなってくれましたの。流石夫の副官。空気を読む能力は夫以上ですわ。以後仲良くしてくださいましね?

 財界に与えた影響力が大きくなったこと、連邦軍の技術関連の部署とつながりが明確になったことで、軍需の世界で我が太洋重工の先行きは明るくなりましたの。それに、夫に関わっていけば、後々火星や他の天体のテラフォーミング市場にも食い込めることは確かですし、木星での行動も自由です。宇宙の軍需を仕切る夢も、いいえ、それだけではなく、宇宙に冠たる大企業になるのも、この世界なら適いそうですわ!

 あ、そうそう。ジオン側に現地妻がいるらしいですが、先に既成事実を作ったほうが勝ちなのは何処の世界でも変わりませんの。まぁ、夫の顔もありますし、わたくしよりも先に夫と関わっていた面もございますから、週に4日は譲って差し上げてもかまいませんとはおもっていますけど、順番は守ってくださいませね?あと、ふさわしい人間かどうか、調べさせていただきますわ。まぁ、出る杭は叩けともいいますでしょ?

 話がまとまりましたので、早速札幌郊外に待機させておいた、武装エレカを小樽港から樺太に向けて積み出しましたの。勿論、千歳空港に待機させておいた社のミデアでも並行して輸送させましたわ。おかげで、樺太基地には移動式の有線対MS用ミサイルランチャーを装備した高機動車が多数配備され、我が社が開発させておいたジム用ビームライフルを運ばせたところ、不思議なことにジム・コマンドとかもうします新型の電力供給口と規格があいまして、ビームライフルの運用が可能になりましたの。全く不思議ですわ。

 これには夫もびっくりでしたわ。まぁ、ジム用のビームスプレーガンを見ておりますから、どんな規格かは存じておりますし、樺太にはたくさんのお友達がおりますから、そのお友達から伝えてもらいましたことも中には入っておりますが。おほほ……そんなスパイだなんて。婚約者の素行調査なんて普通ですわよ?

 あ、そうですわね。話がそれましたわ。13日には樺太に入りまして、夫の部下の皆様に自己紹介をさせていただきましたところ、皆様にはびっくりされましたわ。一昨日には何もなかった夫の指に、銀色の指輪が光っているんですから。……別に変なものなどついていませんわよ?そんなものをつけるなんて趣味を疑いますわ。だって、わたしの指にも同じものが光るんですのよ?



 第18話



 ベッド脇で下着姿でどこかを向いてしゃべっているミツコさんをおいて服を調え部屋を出た私は、明後日に迫ったジオン軍の攻撃をどうするかを考えざるを得なかった。というよりも、そちらに無理やり思考を向けていたと言っても過言ではない。やっぱり黒か、という感想もおいておく。

 ……まぁ、抱えていた生理的な問題には解決がつきましたけど。

 実際、賢者モードとは良く言ったモノである。落ち着いて考えてみると、MSばかり考えていて、それ以外で可能な対策の方まで頭が行っていなかった。太洋重工からミツコさんが持ち込んだ車両群は、移動式の対空砲や対MSランチャー、対空散弾など、防空用に数がほしいものばかりだった。ここのところ、どうやら前々からこちらのことを監視していたらしいと推測できたが、やはり恐ろしいと思わざるを得ない。こちらの見落としを上手く塞いでくれている。

 ……まさか、あの言葉どおり、本当に夜があんなことになるとは思いもしなかったのだが。専務業でストレスがたまっているのだろう。痕が残っていなきゃいいけど。ミツコさん、半袖チャイナなんて好んで着るから、扱い難しいのに。

 頭の中の桃色パウダーをどうにか振り払い、ジオンに戻った時にどうするか、恐らく確実に待っているだろう地獄を想像しつつ司令室にはいると、かなり微妙な表情で部隊の方々が迎えてくれた。

「少将!うちと同じく今日も元気にヤ……ブッ」

 とりあえず、空気を読まないことこの上ないパトリック・マネキン中尉を基地司令とクロスボンバーしたところで会議を始める。どちらがネプチューンマンでどちらがビッグ・ザ・武道かという問題もあるが、今は如何でもいいだろう。撃墜されても帰ってくるのだから、肉体言語ぐらい如何と言うこともあるまい。

 連邦軍が確保しているアンカレジから南下して陸路バンクーバーを経由してキャリフォルニアベース近くに入ったスパイ(バイオロイド兵)からの報告(量子通信)によると、ヒープ攻撃隊は、明日10月31日の夜にキャリフォルニアベースを出発し、11月1日払暁、樺太に対する攻撃を開始するとのことだ。

 輸送距離が長いため、ガウの強みである爆弾投下は、その分を推進剤にまわしているそうだから心配する必要はないとのこと。但し、翼におさめられたメガ粒子砲は脅威だ。上空から砲撃してくるメガ粒子砲対策を話そうと思っていたら、現実に帰ったらしいミツコさんが入ってきた。流石に連邦軍の制服だ。

 恐ろしいことに彼女、連邦軍の軍籍まで確保していたのである。階級は中佐。

 階級をおそろいにしたのに、すぐ離されるなんて思いもしませんでしたわ、とか言っていたが、絶対に嘘だ。あの目は完全にこちらが将官になることを見越していた目だ。将官には当然参謀が複数名つくから、その中の一人に居座ることを考えていたことは間違いない。

 そこまで考えてホッと胸をなでおろした。今のところ参謀役になってくれる女性士官は既婚のマネキン准将のみ。他に佐官で女性の参謀待遇の者はいない。MSパイロットやオペレーターに女性は多いが、彼女らとは働く場所が違う。

「二号さん以降には必ず面接をさせていただきますわ」とか言っていたが、面接する前に絶対に何かをする気なのは明らかだ。何でこんな事まで心配する羽目になっているんだ。

「大丈夫ですわよ?メガ粒子砲については解決済みですわ」

 へっ、と顔を上げた。

「持ち込んだ対空砲の砲弾に、撹乱幕散布用の砲弾も用意しておきましたから、上空からの砲撃については無視してかまいませんわ」

 なんと用意のいいことで……呆れた視線をミツコさんに向けるが、他の列席者、特にMSパイロットたちはため息を吐いて感心している。おいおまえらだまされるな。この女性について今抱いた思いは思考の誘導を受けているぞ!

「あとは地下搬入口ですわね。潜水艦の使用予定がないのでしたら、防潜網を仕掛けた上で機雷源にしておきましょう。今から時限式に仕掛けていけば、戦闘が終わったあたりで自爆してくれますし。基地内に入らないように色々細工も出来るでしょう?」

 ため息を吐いてイスに深く腰掛けた。どうやら、私は完全に頭がいかれていたらしい。こんな簡単な対策すら思い浮かばないようではおしまいだ。かなり、アムロ准尉との戦闘や、肉体的欲求がたまっていたりと、負担となっていたらしい。かなり落ち込む。ミツコさん、あなた優秀すぎます。

「司令官は方針を定めてどっしりと構えるものですわよ。こんなアイデア、出した所で実戦に役立つかはわかりませんもの。やっただけ、変なことが起こる可能性もなくはないのですし」

 気を入れ替えるべきか。

「確かにそうだな。撹乱幕を上空に散布してしまっても、風で流されるから継続して打ち上げる必要がある。それに、上空に散布すると言うことは、こちらも基地内での戦闘でビームライフルの使用が制限される。後期型じゃないガウでの降下だから、陸戦用MSにドムがいない。けど、もし海中からゴッグが上がってくれば、対抗策が少ない」

 ミツコは良く出来ました、とうなずいた。

「MS戦闘用のバズーカはホワイトベースに格納してある分だけですの?基地にはあります?」

 ネイズン技術少尉が口を開いた。

「あるにはありますが、ゴッグの装甲を考えると有効な打撃かは微妙なところです」

「ガンダム用ビームジャベリンの規格を手直しして、ジム用に変更してありますので、ある程度、距離を以て有効に戦えるとは思います」

 そう発言したのはテム・レイ技術大尉。10月15日付で、正式に樺太基地配属のMS開発研究課主任を拝命していた。実際話してみると、サイド7からのガンダムの運用に深く関わってきただけでなく、父親としてアムロの相談にも乗っていたようだ。

 テレビ版などでは技術にのめりこんで家庭を省みない父親として描かれているが、そもそも戦争を前にした軍隊でそんなあまっちょろいことを言ってはいられない。開発に役立つ人材がいるのなら、予算と権力と肉体の限界が許す限りこき使うのが基本方針だ。

 しかし、一旦開発され、しかも開発施設が襲撃を受けて使い物にならなくなり、脱出した先の船でやることなどMSの整備ぐらいしかないとくれば、当然メカニックである以上、パイロットと多く接する機会を持つようになる。技術士官であるとはいえ、軍人である以上は軍人としての教育を受けているわけで、戦争と言う事態に放り込まれたアムロを精神的に支えてくれてもいるようだ。このあたり、テム・レイの性格と言うのは、ほとんどが酸素欠乏症に陥ったところか、仕事に疲れてストレス満杯のところで印象が構成されているのかもしれない。

 勿論、日本に来たことで母親のカマリア・レイとも再会し、無断で軍に入れたテム・レイを責める一幕もあったが、懇切丁寧に国際法と戦時法を説明すると、納得はしていないが、仕方のないことだったとは理解してくれたようだ。

 あとは本人の気持ち次第なのだが、下手に面倒見の良いヤザン少尉が面倒を見、怪我から復帰したライラ少尉が戻ると、原作でマチルダ・アジャンに向けた恋心をライラに向けよった。好きな人、助けてくれた人が戦うから、戦う、とある意味純粋に戦いに向かっている、ということは良かったのかもしれない。

 というか、完全にシアトルで敗北した理由はヤザンの訓練の結果だろう。UC最強のオールドタイプがUC最高の素質を持つNTの一人に訓練を施せばそうなる可能性は高い。まさか、早々にそうなるとは思いもしなかったが。とかなんとか思いながらアムロを見ると、先ほどからミツコさんに視線が固定されている。何処を見て……ブッ!?

「とりあえず、このぐらいで会議は散会しよう……」

「ジャベリンの方はどうします?」

 話をはぐらかされた格好になったテムがたずねる。いやおじさん、僕それどころじゃないんです。

「それは大尉の好きにしてくれて良い。相性の良いパイロットがいたら持たせてくれ」

 それだけ言うと司令室からミツコさん以外の人たちを追い出す。アムロ君が名残惜しそうにこちらを見ていたが、とりあえず無視だ無視。

「どうしましたの?そんなに慌てて」

「スカートの裾から見えている。中佐、コレからは冬になるから、ジャケットとロングパンツにした方がいいな」

 そう言われるとミツコさんも気づいた様で、かなり顔が赤くなっている。こういった反応は、あの会話から感じられるようなどす黒い雰囲気は感じないから、女性と言うのはつくづく怖いと実感させられた。

「准尉がジロジロ見ていたのはそういうことでしたのね。興味があるのかしら?」

「少なくとも、『密会』や『ハイ・ストリーマー』にはそう書いてあったな」

 ミツコさんはそう聞くと声を立てて笑った。

「変なことばかり覚えていますのね?でも嫌いでなくてよ、そういう記憶力は」

 手に終えんと手を上げた。あ……ちょっと……ココ……




 なんか、桃色具合がかなり進行していないか、と思えて仕方ないが、何とか直前にジオンに顔を出すべく、10月30日、あの後で戻ってまいりました。

 そして、地獄の門がアイタッ!

 プラントに設置したパッシブジャンプゲートをくぐった瞬間、月面で待ち伏せていたハマーン&プル中隊に捕獲。強すぎるNT能力がもたらす思い出リーディング機能でプライバシーは破壊されました。

 しかも間の悪いことにシーマ艦隊および遊撃隊が帰還&休暇中。現在、会議室に入れられて、本来なら誰も入る事のない、机で囲まれたあのスペースで正座しています。

「弟と一ヶ月会っていなかったら結婚だと言われた」byバラライカ

「弟と半月会っていなかったら結婚だと言われた」byシーマ

「婚約者が一日離れていただけで既婚者になっていた」byハマーン

 あなたたちとは別に半月でなくとも通信で連絡は取り合っていたでしょうが、とか、ところでいつ僕はカーン家と婚約を取り交わしたのでしょうか?と内心では突っ込みを入れているが、流石に口には出せない。どんな事情であれ、通信で伝えなかったのはまずかった。と思ったら、内心リーディングをかましてくれたハマーン様が密告を開始。

 ……黙秘権はないそうです。

 但し、感じたことが100%相手に伝わるNT能力は、少なくともコミュニケーションの一手段としてはものすごい利便性があるなぁと感じました。だからといって理解にまで達しないのは、私がここで正座をしているのを見ていただければ理解していただけると思いますが。やっぱりNTになったからといって人が革新するとか言うのは嘘だよなぁ。

「ハマーンのリーディングで、お前にも若干の情状酌量の余地があることはわかった」

 なぜか上座に座っているソフィー姉さん。流石にシーマ姉さんも手が出せないらしい。

「まったく、進めていた計画が台無しだ。忙しい中をぬって準備を整えてきたというに」

「あれかい!?年齢がある程度はなれているのがいけないのかい!?」

 悪役っぽく(実際そうだが)笑いを浮かべるソフィー姉さんに、アラサーを気にして年齢の違いを思うシーマ姉さん。あのね、年齢なんて持ち出したら、僕今100歳超えてますけど?

「なんにせよ、今からの二ヶ月が大事だと言うことはわかっている。シーマ、ハマーン、いいな?」

 久しぶりに葉巻をくわえたソフィー姉さんの言葉に全員が直立不動で答えた。あ、ロベルタまで。おーい?張さん、あれみんなどうしたの?おめめをそらさないでよ。ぼくのせいじゃないよ?

「この件は一年戦争後に棚上げだ。戦争が終わった後で、泥棒猫と一緒に心逝くまで話し合いをしようじゃないか」
 
 首をものすごい勢いで縦に振る列席者たち。字が違うような気がしてならない。

「でもねぇ、お前たち。男はそう言う生き物さ。タマっちまえばツっこむしかない。こいつは頭が回るし、女性の趣味もなかなかだから、さぞ期待できる女傑だろう。楽しみで仕方がない!そうだな、軍曹!」

「はい、大尉殿!」

「トール」

「イ、イエッサー、マイシスター……」

 今の彼女に逆らってはいけない。私の持つ弱いNT能力でさえそう感じることが出来る。……ああ、時が見えるとはこういうことか!?……飛んでくるのがこの3人とか、シュールすぎる。

「そいつがどういう奴かは良くわかった。こちらも対策を取らさせてもらう」

「ヤー」

「シーマ、手伝いな!ハマーン、捕虜の尋問任せたよ!」

 恐ろしい事態になってしまった……どうしよう。


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 キャラがどういう人間を知るのかに、google様の助けを借りることが読者の皆様には多いかと思いますが、お付き合いください。



[22507] 第19話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/30 21:21


「全く、戦略目的の重要性はわかるが、新型の集中配備を受けた基地への攻撃など、悪夢だ」

 私の名はユライア・ヒープ。ジオン公国地球攻撃軍中佐。現在、キャリフォルニアベースから出撃したガウ攻撃編隊を率いている。敵新型機の集中開発を行っている工廠兼基地への攻撃。現在、地球各所で連邦軍が投入して来たMSの攻撃を受けている身としては、攻撃の重要性は理解している。

 最初は4月。アジア戦線で、胴体部に明らかにザクの影響が見られる、120mmライフルを装備した機体を確認。連邦軍呼称ザニーというそれは、明らかに連邦軍のザクそのものだった。

 このザニーは続々とその数を増やし、ハワイ諸島攻撃作戦では、連戦連勝を重ねてきたジオン軍を初めて後退させる役割を果たしている。私も作戦内容を確認させてもらったが、習熟したとは言いがたいものの、明らかに歩兵戦術の影響を受けた運用を行っている。

 悪夢だった。連邦軍がMSの運用を始めたと言うことは、連邦軍が我々と同じ土俵に位置したことを示す。旧世紀以来、戦場で最終的に幕を降ろすのは歩兵。MSは、宇宙世紀における歩兵として位置づけられる。ドムなどは戦車に近い運用をされているが、私はむしろザクの集中配備を望んでいた。少数の戦車があっても、多数の歩兵には叶わない。特に山岳部の多い地域では、ドムの特性が殺されるからだ。

「中佐、航行状況正常。上手くグライダー部隊もついてきてくれています」

 マヤ・コイズミ大尉の報告にうなずく。ガウ6機、およびマットアングラー級潜水空母1隻と、ユーコン級潜水母艦「6隻」がこの攻撃隊のすべてだ。キャリフォルニアベースのガルマ派をたきつけることで作戦計画以上の戦力を確保し、潜水艦隊をドライゼ少佐に預け、使える伝手を使うだけ使い確保した部隊を乗せている。MIP社やツィマッド社の新型も、降下スケジュールの調整の際に書類をごまかして確保させた。

「ガルマ・ザビ大佐の仇討ちとは名目だが、キシリア閣下も張ったものだ」

 私は苦笑する。キシリアに嫌われて死地に追いやられたはずだが、あの女性、こちらの能力は評価してくれていると言うことか。いや、実際引き抜いた部隊にはギレン派のものも含まれている。キシリアにとっては兄の持ち駒を少しでも減らすいい機会と言うわけか。

「現状、撃てる手は撃った。コイズミ大尉。当機搭載の新型は使えそうか?」

「ヴィッシュに聞いてください。まぁ、彼のことですから問題なく扱えるとは思いますが。しかしなんです?出撃前に無理やり三番機に乗り込んだあの部隊。三番機の乗員といさかいを何度も起こしているので、機長のダロタ大尉から中佐に一言求められています」

 ユライアは少し考え、言った。

「あの部隊の回収は考えなくて良い。ダロタ大尉には敵地に棄てるつもりで良いと伝えてくれ。まぁ、あと数時間の我慢だ」

「了解しました」



 第19話



 UC0079年11月1日朝5時、樺太基地に対するジオン地球攻撃軍の攻撃が開始された。

 定石どおりと言えば定石どおりだが、最初の攻撃は基地に対するユーコン級のミサイル攻撃から始まる。襲撃をある程度予想していた樺太基地側では、地上施設の要員を最低限度にした上で、MSなどの機体を地下に格納していたため、このミサイル攻撃では施設に被害を受けた以上の混乱は生じていない。

 施設に対するミサイル攻撃が一段落すると、海岸近くに待機していたらしい水陸両用MS隊が上陸を開始した。まず、水際での戦闘が始まる。

「ラリー、アニッシュ!15分後から上空に撹乱幕が打ち出される!ビームライフルの使用はそれまで!ラリーは90mmマシンガンに切り替えろ!アニッシュ!バズーカの準備!」

「了解!」

「了解!」

 隣の掩蔽壕を見ると、こちらと同様に水際に向けてピンク色の光が走る。カジマ小隊の攻撃だ。上陸第一陣は予想通りゴッグ。装甲とメガ粒子砲の火力でこちらをなぎ払い、後続の上陸を容易にしようと言うのだろう。しかし、今回はこちらにもビームライフルがある。

 上手く集弾したらしいビームライフルが二条、ゴッグ腹部のメガ粒子砲の発射口に直撃。ゴッグが爆散する。やったと心躍らせた瞬間。

 連続した爆発を前に機体をさらに屈めさせ、同時に上に向かってシールドを構える。見た事もない大型機。円盤状のそれは空中を浮遊し、こちらの火線を器用に避けながら、連装2門左右2基、上下共にそろえられた合計8門のメガ粒子砲を連続発射。あれが情報にあったMAとか言う奴か!?

「クソッ!頭を上げられねぇ!」

「耐えろ!後方から援護が来る!」

 そう言った瞬間、MAに直撃弾。流石に大きく揺さぶられ、メガ粒子砲の発射も止んだ。今がチャンスだ。

「後退、後退、後退!エイガー中尉のマドロックとクリス中尉のシュッツバルトだ!援護砲撃で脚を止めている間に第二線に退避!」

 掩蔽壕を抜け出し、敵へとシールドを構えながら後退を開始する。後退をみてチャンスと判断したらしい後続が上陸を開始。茶色の機体が数機上陸し、こちらにロケット砲を向けてくる。機体の中に、援護射撃に頭部のロケット砲を向けた機体も。

 そのうち一機がいきなり爆発した。通信が入る。

「こちら試験中隊のディランディ!ただいまから135mmライフルで狙い撃つ!今のうちに後退しな!」

「すまん!全機後退!後退だ!」

 上空に爆音。どうやら、敵潜水艦隊の支援攻撃が始まったようだ。水際で抑えきることは出来なかった。予想通りだが、やはり悔しい。

 マット・ヒーリィ中尉は次の防衛線へ向けて機体を走らせた。




 降下したジオン軍を迎え撃つべく私、トール・ミューゼルは出撃した。プラント警護をレイヤー小隊。地下艦船ドック区画はホワイトベース隊、ヤザン、ライラのペアに任せている。水際にアッザムの出現を確認したため、本来中隊は8機で構成されるはずだが、ロックオンの狙撃仕様ゲシュペンストを向かわせた。ネオ少佐のゲシュペンストとバニングの第4小隊は司令部建物近くで総予備だ。

「前線への火力任意投入に、アッザムはやはり脅威だな」

 気持ちを落ち着かせながら操縦桿を握る。この世界に来てから三度目の出撃だが、前回の反省を踏まえ、兵器に対してこれ以上ないほどに詳しいミツコさんの手助けを借り、この機体を用意した。

 ガルイン・メハベルが搭乗した、PTX-002ゲシュペンスト・タイプS。エンジンはプラズマ・リアクターからオルゴン・エクストラクターに換装し、ジオン側で使用しているゲルググRFと同様の仕様としている。但し、こちらは完全に単体突撃仕様。というよりも、生残性を最大限度、ゲシュペンストと言う枠で追求した結果がこれだ。

 既にこれだけのバタフライ効果を見せているこの宇宙世紀でまだ未熟な私が生き残るためには、こうしたものに頼らざるを得ないのが悔しいが、目の前に敵が迫った今となってはそうも言ってはいられない。

「ポプラン中尉とウィスキー隊は北部防衛線を死守。地上側からプラントに絶対に敵を入れるな。ネオ少佐、マネキン中尉は戦線各所の火消しを頼む。あまり性能は見せつけてくれるな。勿論、仲間を助けるためならかまわない」

 オレンジとライトグリーン塗装のゲシュペンストが頷く。両機ともにテスラ・ドライブ装備の空戦対応型だ。戦線の火消しに高速移動するにはもってこい。

「私はガウを叩いた後、降下した敵MSを迎撃する」

「「「了解!」」」

 コンソール脇にこちらを見るミツコさんのウィンドウ。少しほほえましくなり、指でそっとつついておいた。やはり自分がセッティングした機体が気になるのだろう。

 このゲシュペンスト・タイプSは単機突入型のため、接近戦用の武装が充実している。左腕にはワイヤーアンカー、右腕にはパイルバンカーを搭載し、背面腰部には高出力ビームセイバーを、通常型のビームサーベルも両膝脇と両腕下部に合計4本装備している。生残性向上のために重装甲化したが、発生した重量をテスラ・ドライブで打ち消しているのでドライブ起動時の重量は40tにまで軽減される。これだけの重量に抑えられれば、戦場での運動性は桁違いだ。

 射撃武器は腰脇に装備された短砲身ショットガン二挺のみ。オルゴン・エクストラクターがオルゴン・クラウドとフィールドを発生させてしまうため、今現在使用可能なビームライフルではフィールドと干渉してしまい、使えない。遠距離攻撃、中距離攻撃にはフォトン・ライフルを装備予定だが、当然現在は使えない。両軍共にビーム兵器が充実し始めるソロモン戦あたりでないと厳しい。

 ガウの迎撃を行うために前進していたところ、基地北部からこちらに向かう陸戦用MSの群れをまず確認。ザク、グフと言った、歩行型が多く、基地に向かうにはまだ時間があるようだ。元々黒系の塗装であり、ミノフスキー粒子の濃度も濃いため水際を移動し、内陸部を地形伝いに移動するMS隊との接触を控える。上空に轟音。ガウだ。

 ヘッドカメラをガウの編隊に向けると、後部に何かを曳航している。空中をワイヤーでつながれているらしいそれは、私がいた時代でも目にした事があるし、軍事関係の本でも見た事があるグライダーだ。

「そういう手段でガウを使うか」

 やはりユライア・ヒープ中佐は頭が切れる。爆弾をつめなくてはせっかくのガウの持ち味を殺すことになるが、機体の内部は推進剤を入れるだけでスペース的にかなり厳しいことになる。となれば、外部にスペースを確保できないかと考えるのは当然だ、と言うわけだ。

 望遠カメラをさらに向けると、どうやら、機体ごと基地に突っ込ませるらしい。後部にジェットかロケットの噴射口を確認。機体下部に爆弾倉も見えるから、途中で切り離して基地上空を滑空させ、小型か中型爆弾を投下する形。最後に期待を適当なところに突っ込ませる、か。こんなことを良く思いつく。

 当然そんなことを戦闘中のMS隊の上でやられてはたまったものではない。

 前の方を見ると海に突き出し、小高くなっている岩塊が見えたため、あそこを足がかりにして上空へ向かおうとしたとき、周囲の砂浜に連続した爆発が起こった。

「ふははははははっ!連邦の新型かっ!このイフリートにふさわしい相手のようだな」

 は!?ニムバス!?あいつがこの作戦に参加するなんて聞いていないぞ!?それに、いつの間にイフリートが開発されている!?

 叫び声と共にニムバスの後方の砂丘から、同型2機がジャンプして迫る。脚が太い。ホバー機か!装甲がグフと変わらないだけ、ホバーを追加してもガウに積み込みが出来るようになったか!本来ならガウにドムを積もうと思ったらペイロードの計算が複雑になるのをイフリートで避けたのか!

「量子レーダーに他に反応無し。ホバー機だから砂浜を移動してきたのか……クソっ!」

 こんなところでこいつらの相手をしている時間はない。ガウが基地上空に差し掛かる前に迎撃する必要がある。フットレバーを思い切り踏み込むと、イフリートとの距離を一機に詰める。EXAMが開発されていないから、通常機のはず!

「ふっ、単機で前進して来た意気は買ってやる!」

 ニムバス機と僚機が前進。ホバー走行でこちらの両側に回ろうとする。両手には白熱していないヒートソード……ナハトのコールドソードか!?

「キシリア様の下に、また一機屍を積み上げる!」

「たわけたことをっ」

 テスラ・ドライブ起動、接近戦用パイルバンカーを地面に突き刺し、その場で回転。右腕は腰のビームセイバーに伸ばし、その場で回転した。

「大型の……ビームサーベル!?」

「少佐ぁ、あ、あ、ああああああっ!?」

 一機撃墜。ニムバスの方はホバーを最大限に吹かし、背部のスラスターも使って上空に上がる。周囲に連続した着弾。後方のもう1機が脚部のミサイルランチャーを一斉発射。弾薬が切れたのか、その場に投棄した上でこちらにショットガンを構えて向かってくる。

 ニムバスに向かって上昇。ニムバスがこちらに向けてコールドソードを構え、下のもう1機がこちらにショットガンを構えた所で砂浜深く打ち込んでおいたワイヤーアンカーを巻き取る。上昇を無理やり抑えてもう一度地上に。上に向けてショットガンを射耗したイフリートにパイルバンカーで止めをさす。

 最初に撃墜した一機が取り落としたコールドソードをつかみ、手に取る。ミツコ・イスルギが入力したFCS、火器管制システムは彼女いわく、「Fを抜かした方が合ってますわね」とのこと。この管制システムの素晴しいところは、戦場で奪った敵の武装も使用できるところにある。おかげでマニピュレーターの反応度が尋常ではない。綾取りどころかピアノさえ弾きかねない。

「敵の武装をつかえる機体か。面白い」

 ガウに向けてジャンプする際に使おうと思っていた岩塊に立ったイフリートから、ニムバスの声が響く。あれか、なんとかは高いところが好きとか言う奴か。クソ、この機体、反応の度合いが尋常じゃない。こちらの頭の振り方まで追従してくる。

「先ほどからこそこそちまちまと動きおって……馬鹿にしているのか!?」

 ニムバスがこちらに向かい、バーニアを全力にする。高速。しかし、この機体最大の秘密はこれからだ。黒歴史コードから抽出したモビルトレースシステムを、Evolveで描かれたサイコ・ニュートライザーに応用。第3期MS、マン・マシーンが実現したオールドタイプでも可能なサイコミュ制御技術を使っての、負担なき、人間そのままの動作を実現する操縦システム。

 アームレイカーを通じた接触入力システムと、一連の操縦動作は脳波コントロールとトレースシステムによって、脳がそうであるべきと認識している動作を実現する。その機能のほとんどを機体の制御で完結させているため、他機体の乗っ取りやサイコミュ兵器のジャックこそ出来ない(目的としていない)が、脳内での思考訓練、本人の想像力次第ではどのようにも動かせることが最大の特徴だ。

 だからこそ先ほどのように人間としての癖が出る。貧乏ゆすり、呼吸による胸部の上下運動、顔をこすり、ため息を吐くなどのすべての動作が再現されることになる。

 人間臭い動作に満ち溢れた機体。首を横に数ミリ動かし、腰や腕、肩の動き、地面に立ったときのほんの少しのからだの傾きまで。

 だからこそ、射撃という「道具の使用」の延長を得意とするパイロットこそ感じるところは少ないが、ニムバスのような「肉体の使用」の延長を得意とするパイロットは不快感を隠せない。自分がMSに乗り込んで対している相手が、本物の肉体同様に機体を動かせるが故に、無意識下ではMSではなく、「鎧を纏った人間」と感じてしまうのだ。それが、言いようもない不快感を生じさせるらしい。

 ニムバスの突進を人間同様の動きで横に避けると、トールはちょうど脇に来たコクピット部分に向けて、降ろしていた腕を振り上げた。手に、コールドソードを持ったその腕を。

 次の瞬間、腰断されたニムバスのイフリートは地に崩れ落ちた。



[22507] 第20話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/31 14:30


「タイプS、敵モビルスーツ3機を撃破!そのままガウ攻撃空母編隊に突入!」

 オペレーターのモーリン・キタムラ伍長が報告する。現在、ミノフスキー粒子の散布濃度が高いため、司令部屋上の超望遠レンズで捕捉した敵情報が、部隊からの有線連絡回線以外で得られる唯一の情報源だ。但し、ゲシュペンストに搭載されている量子通信システムはミノフスキー粒子の影響を受けないため、戦闘データがリアルタイムで届いている。

「S型が再度の敵攻撃を抑えている間に戦線を整理!あと2分もすれば、敵陸戦MS部隊が基地北部からやってくるぞ!」

 基地司令のカティ・マネキン准将が矢継ぎ早に命令を下す。当初、シナプス大佐らから「トロッター」を発進させ、砲撃戦に用いるよう具申があったが、敵戦力で迎撃可能なものがガウしかおらず、敵の砲撃戦力はガウよりはむしろ潜水艦と判断したマネキンがそれを却下した。

 現在、樺太基地は港湾部から上陸した水陸両用MS隊が港湾部に併設されている倉庫群を舞台に、アッザムの支援を受けて火力戦を展開中。まだ戦闘は始まったばかりだ。

「基地北部で閃光!ウィスキー隊、戦闘に入りました!」

 カティは頷いた。ゲシュペンストで編成されている北部はあまり心配していない。性能は彼女自身知っている。操縦している人間の技量も。それに、北部から回ってきた二機のゲシュペンストが効果的な援護をしているから、倉庫群の戦闘もそれほど激化はしていない。装甲のあるゴッグは、やはり現状許されている装備である、ディランディ中尉の135mmスナイパーライフルでは、貫通できない。間接部やモノアイ部分を狙って狙撃してもらっているが、そもそも建物が立ち並ぶ倉庫を縫っては射線の確保が難しい。

「マネキン中尉機、被弾!敵ゲルググ、3機が突入!」

「戦線の脇を抜けてきたのか!ウィスキー中隊は……」

 そこまで言ってマネキンは凍りついた。量子通信システムにより、マネキン中尉―――パトリック・コーラサワー機のカメラが捉えた映像がココには届いている。そのゲルググに描かれたエンブレムは、眼帯付の髑髏。荒野の迅雷、ヴィッシュ・ドナヒュー機だ。しかも、事前情報にはないゲルググ用ビームライフルを装備している。

 戦闘がリアルタイムで流れ始める。陸戦用ゲルググ、しかも一部改造を受けた機体のようで、スラスターをうまく調整し、ホバー走行を可能にしている。牽制に腕に装備しているらしい速射砲をばら撒き、マネキン機を拘束すると一気に切り込み、蹴りつけて体勢を崩すとビームナギナタできりつけた。

「パトリック!」

 マネキンが叫ぶ。

「なんという装甲だ……連邦軍め、どんな装甲を開発したっ!」

「あぶねぇあぶねぇ、てめえなんぞにやられるかよっ!」

 装甲がビームナギナタの熱量に耐え切った様で、右首筋の部分から入ったナギナタが、人間で言えば鎖骨のあたりで止まったようだ。ナギナタが止まると同時にジェッツ・マグナムを打ち込もうとするが回避され、そのまま射撃戦に移る。射撃と回避の腕は確かだから、機体の性能もあれば……

 マネキンは其処まで考えてため息を吐いた。

「准将、大丈夫ですか?」

「ありがとう、伍長。オペレートを続けてくれ」



 第20話



 ガウ攻撃空母は2機を除いて撃墜を完了。アッザムを搭載し、発進と同時に退避を開始した機体と、指揮管制のために他の機体から離れ、密集しての絨毯爆撃体勢を整えていた4機からは遠い位置にいたため、バーニアを吹かすことでのジャンプ範囲内にいなかったのだ。推進剤の残量もあり、追撃はあきらめた。

 恐らく、その機体にヒープ中佐が乗っているのだろうが。

 気を取り直してタイプSを基地に向ける。空爆の危険は去ったが、降下したMSはまだ残っている。データリンクによるとウィスキー中隊の戦闘が混乱。機動力を生かして迂回したらしいゲルググへの対応に増援を向かわせたところ、戦線を突破されて混戦状態にもつれ込んだらしい。

 データリンクで得られた画像情報によると、エンブレムはCrossDimention0079で敵方として出る、囚人部隊ウルフ・ガー。それに、一機だけ、シールド・オブ・ジオン、ジオン共和国防衛隊所属らしいグフがいる。ヒープ中佐は、キシリアに嫌われている部隊で有能そうな部隊を根こそぎ動員して来たと思って間違いない。一部ギレン派らしい面子もあるところを見ると、有能だがザビ家からすると扱いづらい奴らをもって来たか。

 ここで今までの貸しをすべて取られかねないような気がしてならない。特に、まだ姿を見せていないシャアの部隊が気になる。ガウおよびユーコン隊が上陸したのに、まだ影すら見えていないのだ。

 そのとき。
 
 基地に向けて地上を走るゲシュペンストのカメラに、港湾部から立ち登る8つの筋が見え始めた。


「港湾部に第三波!新型です!」

 同時に爆発。敵の潜水部隊からの三回目の支援砲撃が始まったようだ。港湾部に隣接する滑走路、ハンガーを含む地域への攻撃。司令部近辺にも何発かの着弾。

「……なんだと!?」

 爆発を無視してマネキンは叫んだ。先ほど少将のタイプSが遭遇した部隊も、事前の情報にない新型だった。これは、襲撃作戦そのものの大筋はともかく、参加している戦力に関しては先入観を排除した方が良い。

「あっ!?」

「どうした!?」

 港湾部での戦闘を管制する、ノエル・アンダーソン伍長が叫んだ。

「アニッシュ!アニッシュ!」

「アンダーソン伍長、報告!」

 信じられない、絶望に満ちた表情でノエルは口を開いた。モニターに一面、大きな閃光が走るのがわかる。ここにいる誰もが知っている。あれは、MSの核融合炉が爆発をした閃光だと。

「アニッシュ機……爆発、撃墜……です」

「どうした!マット中尉、報告!」

 濃いミノフスキー粒子に邪魔されて聞こえにくいが、呆然と、しかし視線は敵の方から外さずにマットは答えた。

「敵……あれはズゴックの新型です!形状はズゴックに類似!続いて2機!ゴッグタイプ!」

「うわっ!ガッ」

「どうしたっ!」

 いきなり割り込んだ通信にノエルの顔がさらに青ざめる。

「ラリー少尉機、被弾……コクピット!」

「敵の新型だ!クソっ!ビンみたいな頭部!円形のシールド!見たことがない!」

 第2小隊フィリップ機からの報告。マネキンはかぶっていた制帽を取ると床に投げ捨てた。

「マット中尉、後退!後退だ!パトリック!バニング大尉!マット中尉の後退を援護!早く!ディランディ中尉は!?」

「無理です大佐ぁ!こいつら、離してくれません!」

「こちらバニング!滑走路入り口に到着!マット中尉たちが着次第援護を行う!」

「こちらディランディ!射線が通らない!クソ、またかよ!135mmじゃ無理だ!」

「報告!地下ブロックに赤いズゴックを確認!現在、ホワイトベース隊と戦闘に突入!地下搬入口より、水陸両用MSが他に5機!」

 カティは歯を食いしばると拳をコンソールに叩きつけた。敵の技量がこちらと違いすぎる!


 実際、カティ・マネキン准将の洞察は正しかった。技量そのもので言えば、MS開発当初より訓練を積んできたG-1部隊の実力は、連邦軍でも抜きん出ていただろう。恐らく、相手が出来るのは連邦軍でも、正面戦闘ではホワイトベース隊ぐらいなもので、それ以外であれば、数で押しつぶすしかない。

 しかし、当然の話だが、開戦当初よりMSでの幾多の戦闘をこなしてきたジオン軍は、兵員のMS戦闘に関する技量そのもので連邦軍よりもいまだ高い。そしてユライア・ヒープ中佐は、自身に敵対するものを排除したがるザビ家の習性を利用して、今回の作戦にドズルの後援を得、今回の作戦に参加した部隊の総合的な技量をさらに底上げすることで、作戦の成功、あるいは目的の達成を計画したのである。

 まず、今回動員されたドライゼ少佐率いる潜水戦隊は、ジオン潜水艦隊設立当初から、そして水陸両用MS運用当初からの部隊で、援護として展開したアッガイこそ補充兵だが、ゴッグに搭乗した兵員はすべて、操縦時間が400時間を越える猛者ばかりだ。

 第三派としてこの時、港湾部に上陸した部隊は特殊部隊サイクロプス。ハーディ・シュタイナー大尉率いるこの部隊は、水陸両用MSを用いた潜入工作作戦に長けており、今回、特にキャリフォルニアベースで改修したズゴックと、ツィマッド社より納品させたハイゴッグ2機をつけ、ゲルググに敗れた試作機ギャンを共に、上陸している。アニッシュ機を撃墜したのはアンディ機のハンドミサイルユニット、ラリー機を撃墜したのはミハイル・カミンスキーのギャンだ。

 戦果を拡張し、二機のジム・コマンドを撃墜して港湾部を制圧した彼らは、基地滑走路に後退するカジマ小隊とマット機を追撃し、侵入を開始している。現在、第4小隊(バニング)が援護のために前進中だ。また、地下搬入口近辺ではヤザン、ライラの第5小隊が、ホワイトベース隊と共にシャア率いるマットアングラー隊と戦闘を行っている。

 基地北部の防御砲台陣地では、戦線を突破されて陣地内部で混戦が継続。組み合わせはポプラン中尉のウィスキー中隊とランス・ガーフィールド中佐率いる囚人部隊だ。囚人だが、それを率いているのがMS部隊の教官職を勤める人物だけあり、短い期間で部隊を仕立て上げた。それに、囚人部隊と言ってもジオン軍である以上、MS戦闘の経験がある。

 そして、ここまで人事を尽くしてもおごる事無く、防御陣地を迂回して基地中心部をつく部隊に精鋭ヴィッシュ・ドナヒューの小隊をあて、その上にガウで爆撃を行い、問題児ニムバス少佐のイフリート隊を投入しようとしていたのだから、ユライア・ヒープ恐るべしだ。戦いは戦いが始まる前に勝敗が決しているというが、それをたがえる事無く、勝利への準備がおさおさ怠りない。

 しかも今回、トールが情報を得損なった理由は、キシリアに決して好かれているわけではないことをこれ以上なく自覚している中佐自身が、戦力をかき集める際に秘密厳守を徹底させていたからだ。キシリア機関が連邦にエルラン中将を確保していたように、連邦が絶対にジオン側に内通者を確保していることを確信していた中佐は、戦力を集める際に絶対にジオンを裏切れない人間を用いて集めてきていた。



「2機撃墜……アニッシュ、ラリー少尉機か……戦力の見積もりが甘かったか?」

 防御陣地へそのまま突入。後方から、前方のゲシュペンスト隊と射撃戦を繰り広げていた味方へバズーカによる援護を行っていたザク3機を始末する。内心は悔恨で一杯だ。優れたMSを揃えようと、一年戦争と言う舞台では限界がありすぎる。いや、違う。

「悩んでる暇はありませんわ」

 いきなりの通信。声を聞いた瞬間に何かが覚めたような感覚が生じた。現金なもんだな、男って。クソ、何か情けない。今の状況がわかっているのか、あのドヤ顔だけを見せて通信をきった。

 現在、前方で戦闘を行っているのはウィスキー中隊とグフ、ザク合計6機。流石に同数近くになれば支援の必要性は薄い。さらにグフ1機を背後から近づいてのショットガンでしとめた私は、司令部近辺で単機迎撃を行っているコーラサワーの援護に向かった。

「新手か!クソ、新型の動きが良く牽制されてしまったか!」

「よそ見してる暇はネェ!」

 コーラサワーのゲシュペンストが弾薬を撃ち尽くしたM950マシンガンを棄て、プラズマカッターを用いての近接戦闘に移る。

「ほぅ、思い切りの良いパイロットだ、しかぁし!クエスト伍長、やれ!」

「了解、待ってました!」

 陸戦用ゲルググ、ジョン・クエスト伍長機が何かを放り投げる。ザクにも装備されているクラッカーだが、手榴弾ではなく閃光弾であるそれは、薄暗闇の中での戦闘に慣れきった目には一番役に立つ攻撃方法そのものだった。

「うわっ、なんだよそれ!?」

「その目の良さが、命取りだ!」

 ゲルググで地上すれすれのNOE飛行を開始したドナヒュー機がコーラサワー機の懐に入り、両腕を斬り飛ばす。先ほどまでの戦闘で、コクピット周りの装甲が頑丈そのものであることを見抜いていた彼は、肘の間接部分を狙ってビームナギナタを振るったのだ。

「あ、ちっく……ゴッ」

 両腕を失い、攻撃手段を失ったゲシュペンストを蹴り飛ばす。蹴られたゲシュペンストは周囲の建物を破壊しながら飛ばされ、最後にはビルの破壊口にその身を横たえた。

「クソ、予想外に手間取った!」

 本来の目的である司令部を求め、周囲の状況を確認しようとした時、いきなり爆発が生じた。振り返るとクエスト伍長のゲルググのバックパックに、鉄塊らしきものが突き立っている。イフリート用のコールドブレードだ。

「ちゅう、イッ!」

 クエスト機のバックパックが爆発。味方機の誤射かと思った瞬間、ザクの通常装備となっているはずのMMP-80マシンガンが自分に向けて降り注ぐ。如何見ても誤射ではない。続いてミサイルの着弾。一部が崩れたハンガーの影から、先程まで相手にしていた機体と同型の機体が向かってくる。

「また新型だと!?」

「ドナヒュー中尉、先に!」

「いかん、クエスト!戻れ!」
 
 言った瞬間、先ほどまでの機体には装備されていなかった、腕部の杭打ち機がクエスト機の胸部に打ち込まれた。誘爆。アレでは助からない……

「クエスト!ええい、新型部隊だけあってやる!サイモン曹長、先に行け!」

「了解!」

 いかん!ここで司令部までやられれば、各個に撃破されかねない、しかし、荒野の迅雷では後ろを見せるわけにも行かない!即座にアンカーワイヤーを打ち出し、サイモン機の脚に巻きつけると右腕にビームサーベルを持ち、ドナヒュー機と対峙する。ビームライフルをこちらに向けた瞬間に動く。

「離せ!畜生!」

 アンカーワイヤーを巻き取り、サイモン機を転倒させるとジャンプしてサイモン機の直上に機体を回す。1発、ゲルググのビームライフルが直撃し、肩の装甲を一部溶かしたがそれは無視する。ゲシュペンストの胸部装甲が開き、ブラスターキャノンを発射。現状、ビグロのメガ粒子砲クラスの威力を持つそれは、ゲルググ程度の装甲など問題にならない。

 爆発。

「サイモン!ええい、一機ごとに武装が違うか!」

 ビームライフルを連射しつつこちらに迫るドナヒュー機。流石に相手をしている暇はない。ここまで北部の戦力が押し込めれば、後は撤退までの時間稼ぎをすればいい。こちらはさっさと地下に向かいたい。

 しかし、そんな思惑をドナヒューは許さない。途切れ途切れに入る通信から、基地北部からの戦力がほぼ壊滅状態であることを確認した彼は、ここで新型の南下を許すわけには行かないと判断していた。これだけの戦力を投入して確認した撃墜が新型2機(ウィスキー中隊から1機)にジム型2機だけ。それに対してこちらは既にガウ4機とゲルググ2機、ザク3機、グフ2機とイフリートを3機失っている。南部から侵攻する水陸両用MS隊もゴッグ2機、アッガイ4機を失っているのでは。やはり戦況は不利だ。

 どうするか、今の段階で、荒野の迅雷相手に接近戦を挑んで勝てるか?左腕を少しずつ腰のビームサーベルに向けて滑らせながら、いつでも右腕のパイルバンカーを前に突き出せるように体を動かす。こちらの思考を読み取ったゲシュペンストが、人間そのままの動きを再現していることに、ドナヒューは目ざとく気づいた。

「動きが滑らか過ぎる……操作や追従性に重きを置いた機体か、厄介な」

「厄介と思うならここで退いてくれるとありがたい」

「そうもいかん!」

 ドナヒューが動いた。シールドを背中に回すとビームライフルを連射しこちらに近づく。左腕にはビームナギナタ。

「真打登場ってね!」

 ビームサーベルとナギナタが火花を散らそうとした瞬間、連続した着弾。私とドナヒューは同時に機体を離す。通信、ネオ少佐だ。

「少将!お早く!ここは俺が抑える!」

「させん!」

 すばやくバックステップを踏んだゲルググがバーニアを最大出力で噴射。盾を装備した背面部からオレンジカラーのゲシュペンストに激突した。空中で体勢を崩すゲシュペンストに向け、ビームライフルの銃口を向ける。そのゲルググに連続した着弾が生じた。

「させませんわ!」

「それ……ダグラ……」

「ランドグリーズと言ってくれません!?」

 製造した覚えのない、ヴァルキュリアシリーズの一機、ラントグリーズが肩のリニアカノンを命中させたのだ。クソ、今の声からすると……

「ここは私とネオ少佐が抑えます。少将、さっさと地下に向かって!滑走路は第4小隊が敵を押し戻しましたけど、地下は苦戦ですわ!」

 ミツコ・イスルギ、如何見てもスリル感がありすぎる頭部ガラス張りコクピットによくもまあいられるものだ。感心する。彼女がPTの操縦技術をもっていたとは知らなかったが……

「それから!コクピットはちゃんと腹部にあります!頭部のこれはダミーとセンサー類ですのよ!」

 ああそうですか。ほんの少しでも感心したのが悲しくなってくる。ミツコさん一人ならともかく、ネオ少佐もいるとなればここは任せて安心か。

「たのむ!」

 タイプSのスラスターを吹かし、一機に離脱する。荒野の迅雷の機体を見るが、リニアカノンが命中した肩が大きく破損しているから、そう時間もかからずに撃退できるか、撤退に入るだろう。

 私は機体を地下区画への搬入口に向けた。



[22507] 設定集など(11-20話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/31 14:31
 UC0079年3月(11話)
 *エルランのスパイ行為が早々にモロバレしました!GP20000入手!
 *A.E社の軍需独占排除フラグaを建設しました!GP40000入手!
 *ニューヨークがジオン軍の攻勢を退けました!GP20000入手!
 *アリーヌ・ネイズンが加入しました!GP100入手!
 *永遠の(ry ダブルコンボ発生!GP10000入手!
 *ザニーの開発頓挫を回避、量産に入りました!GP5000入手!
 *ゴップ大将が加入しました!GP500入手!
 ★ 今回、他の連邦から加入した人員はまだ主人公につくかが不明なのでポイント化されません
 ★ 主人公の連邦での階級が大佐になりました!
 *RPの変換レートは100tです(50000P変換)

 GP288100 → 238100
  ・プラント設置:50000 地球、樺太にプラントを設置しました!地球・月・火星・木星間のワープが可能です!


 UC0079年4-7月(12話)
 *Lost War Chroniclesの発生フラグを潰しました!GP30000入手!
 *ヘリオン作戦が成功しました!GP20000入手!
 *ドロス級ミドロが完成しています!GP5000入手!
 *連邦軍MSの開発時期が前倒しされています!GP25000入手!
 *MS特殊部隊第3小隊が主人公勢力に加入しました!GP3000入手!
 *マリオン・ウェルチを救出しました!GP1000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)
 ★ 主人公の連邦での階級が准将になりました!
 ★保有戦力が以下のように変更されました。
 c)艦隊戦力
  連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1
   (メガ・プラズマカッター、M90アサルトマシンガン、リープ・スラッシャー、スプリットミサイル)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×8
   (プラズマカッター、ジェット・マグナム、M950マシンガン、M13ショットガン。後にビームライフル)

  ・搭載外
   RGM-79[G] 陸戦型ジム×2
   RX-79G 陸戦型ガンダム×3
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3
   MSA-003 ネモ×6 

  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」
   MS-14Fs シーマ・ガラハウ専用ゲルググM
   OMS-14SRF(改) トール・ガラハウ専用ゲルググRF
   MS-14B 高機動型ゲルググ
   MS-14F ゲルググマリーネ×6

  ・ムサイ(後期生産型・カーゴ搭載)
   MS-14F×30

  ・ザンジバル級「ケルゲレン」月面
  ・ザンジバル級「インゴルシュタット」→ アクシズへ航行中


 GP 402100 → 335100
  ・ラースエイレム開発:20000 ラースエイレムおよびキャンセラーの適用が可能です!
  ・ムゥとマリューのおしどり夫妻:合計14000+成長性28000
  ・派生技術;サイトロン:5000 サイトロンによる操縦性向上修正を受けられます。


 UC0079年9月中旬(13話)
 *ガンダム大地に立つ!が妙な具合になっています!GP30000入手!
 *ルナツーでの活躍!巡洋艦3隻撃沈・撃破、MS2機撃墜!GP4000入手!
 *大気圏突入まで変なことになっています!GP15000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)

 GP 463100 → 168100
  ・重力制御技術b:80000 保有する機動兵器は、設定に応じ20Gまでの慣性を無視して行動できます!
   → +PT生産技術bで、テスラ・ドライブの開発が可能になりました!
  ・パイロット能力Lv.4:120000 カテ公ぐらいは活躍できます!
  ・対人関係掌握能力Lv.1:50000 思想的に近く、友好的なUC人物は、主人公を裏切らなくなります!
  ・登場人物3名:15000+成長性など30000 ネタバレになるため秘します。

 UC0079年9月下旬(14話)
 *シグ・ウェドナーが加入しました!GP5000入手!
 *ハマーンが壊れました!GP10000入手!
 *張維新の陰謀が進んでいます!GP12000入手!
 *ブラード・ファーレンが加入しました!GP1000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました(以後、変更があった側の戦力のみ記載します)。
 c)艦隊戦力
  ジオン側艦隊
  ・ザンジバル級「マレーネ・ディートリッヒ」(シーマ・ガラハウ中佐)
   MS-14Fs シーマ・ガラハウ専用ゲルググM
   OMS-14SRF(改) トール・ガラハウ専用ゲルググRF
   MS-14B 高機動型ゲルググ(デトローフ・コッセル)
   MS-14F ゲルググマリーネ×6

  ・ムサイ(後期生産型・カーゴ搭載)
   MS-14F×30

  ・ザンジバル級「ケルゲレン」(ブラード・ファーレン中佐)
   MS-14B 高機動型ゲルググ(ケン・ビーダーシュタット大尉)
   MS-14F ゲルググマリーネ×3(ガースキー、ジェイク、シグ)

  ・搭載外
   MS-14F ゲルググマリーネ×10(闇夜のフェンリル隊)

 GP275100 → 175100
  ・対人関係掌握能力LV.2:50000 友好的なUC人物は主人公を裏切りません!
  ・PT生産技術e:50000 アサルト・ドラグーン系の生産が可能になりました!


 UC0079年10月上旬(15話)
 *Cross Dimention0079の発生フラグを潰しました!GP10000入手!
 *第08MS小隊の発生フラグを潰しました!GP25000入手!
 *オデッサまでホワイトベースに関わることになりました!GP10000入手!
 *主人公勢力にホワイト・ディンゴが加入しました!GP4000入手!
 *主人公勢力にモルモット隊が加入しました!GP4000入手!
 *主人公勢力にクリスチーナ・マッケンジーが加入しました!GP2500入手!
 *機動戦士ガンダム外伝 BlueDistinyの発生フラグを潰しました!GP15000入手!
 *RPの変換レートは100tです(80000P変換)

 GP325600 → 105600
  ・パイロットLv.5:200000 シロッコぐらいは活躍できます!
   → 新規獲得特性として NT能力、GF能力、コーディネイター能力の三種類がオンになりました!
  ・NT能力Lv.1:10000 モンド・アカゲくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.1:10000 ウルベ・イシカワくらいは格闘できます。


 UC0079年10月上旬(16話)
 *ガルマ・ザビを救出しました!GP30000入手!
 *ガンダムと戦闘し敗北しました!GP -10000
 *イセリナ・エッシェンバッハを救出しました!GP5000
  → +ガルマ救出で薔薇カップルコンボ発生!GP10000入手!
 *連邦軍のMS開発スケジュールが早まりました!GP20000入手!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP170600 → 90600
  ・NT能力Lv.2:40000 エル・ビアンノくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.2: 40000 ジェントル・チャップマンくらいは格闘できます
  △MS戦闘経験Lv.1:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!


 UC0079年10月中旬(17話)
 *ガルマの仇討ちに向かうのが荒野の迅雷です!GP20000入手!
 *ランバ・ラルのイベントが改変されています!GP20000入手!
 *シャアのジャブロー侵攻がなくなりました!GP30000入手!
 *主人公に太洋重工が完全協力状態になりました!GP80000入手!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました
 連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」(シナプス、ヘンケン)
   PTX-001RV ゲシュペンスト・タイプRV×1(トール機)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×7(ポプラン、ロックオン他)

  ・MS戦技研究大隊(G-1隊)
   大隊長:ネオ・ロアノーク少佐 量産型ゲシュペンスト(オレンジカラー)
   輸送隊指揮官:マリュー・ラミアス大尉
   整備班:アリーヌ・ネイズン技術少尉
   本部小隊:エイガー中尉指揮
   RX-78-6 ガンダム6号機 エイガー中尉
   PTX-004 シュッツバルト(改) クリスチーナ・マッケンジー中尉

   第一小隊:マスター・P・レイヤー中尉指揮(予定)
   RGM-79SP ジムスナイパーⅡ(レイヤー)
   RX-77D ガンキャノン量産検討型×2(レオン、マクシミリアン)

   第二小隊:ユウ・カジマ中尉指揮(予定)
   RGM-79G ジム・コマンド×3(ユウ、フィリップ、サマナ)

   第三小隊:マット・ヒーリィ中尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×3(マット、ラリー、アニッシュ)

   第四小隊:サウス・バニング大尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×4 (バニング、ベイト、モンシア、アデル)

   第五小隊:独立編成
   RGM-79G ジム・コマンド×2 ライラ・ヤザン両少尉

  ・搭載外
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3


 GP250600 → 165600
  ・専用機生成:5000 主人公が専用機をポイント生成しました!
  ・PT生産技術f:50000 ヴァルキュリアシリーズの生産が可能になりました!
  ・PT生産技術g:30000 パンプレスト地球側艦船・一般兵器の生産が可能になりました!
  ・対人関係掌握能力Lv.3:50000 友好的ですが、性格に問題があるキャラクターが裏切りません!
   → ポイント獲得キャラクター強化技術入手!開発によりレベルが向上できます!



 UC0079年10月末(18話)
 *ミツコ・イスルギが暴走しています!GP24000入手!
 *連邦軍の武装開発能力が向上しています!GP10000入手!
 *テム・レイが主人公勢力に加入しました!GP5000入手!
 *アムロ・レイの秘密の趣味が燃えて始めています!GP100入手!
 *レイ一家勢揃いコンボ!GP15000入手!
 *バラライカ、シーマ、ハマーンが何かを始めています! → 以後、GP獲得の可能性が生じます!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP229600 → 129600
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.1:10000 獲得キャラクターの肉体能力が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.2:20000 獲得キャラクターの技能が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.3:30000 獲得キャラクターの社会的能力が向上可能です
  ・ポイントキャラクター強化技術Lv.4:40000 獲得キャラクターの精神的能力が向上可能です


 UC0079年11月1日(19話)
 *樺太基地に侵攻してきた戦力が凄まじ過ぎます!GP10000入手!
 *ニムバス・シュターゼンを撃破しました!GP5000入手!
 *MS3機を撃破しました!GP1500入手!
 △MS戦闘経験Lv.2:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!

 GP129600 → 146100


 UC0079年11月1日(20話)
 *ガウ攻撃空母4機を撃墜!GP3200入手!
 *アニッシュ、ラリー両少尉が戦死しました!GP-2000
 *パトリック・コーラサワーが撃墜されました!GP-1000
 *MS6機を撃墜!GP3000入手!
 △MS戦闘経験Lv.3:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 
 GP146100 → 149300



[22507] 第21話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/10/31 14:31

 何だこの施設は?前方からのジム隊の射撃を岩に隠れ避けつつ、シャアはもう一度状況を整理した。

 地下搬入口があるからズゴックで侵入を試みたが、搬入口という割には潜水艦ドックが申し訳程度にしか併設されていない。建設途中と言うなら、ある程度の建設機械があっても不思議ではないはずなのに、それもない。それなのに、装甲板に守られた戦艦ドックの方は充実している。遠目にも、三隻の木馬が見える。

 一体何なのだ、この施設は……?

 水路が港湾以上に深く引き込まれており、常に一定量の海水が基地の奥に供給される仕組みになっているようだ。冷却システムの一部かと判断したシャアは、この水路の奥にこの基地の動力炉があると判断した。

 そこで、ホワイトベース隊の迎撃を受け、今に至るのである。ガンダムだけではなく、既に幾つかの戦線で確認されている連邦の量産型を、さらに発展させたらしい機体が4機。後方からは既に何度か交戦している、キャノン砲を構えたタイプと戦車方が砲撃を加えてくる。これでは火力が違う。

「ボラスキニフ曹長、ゾックの準備は良いか?」

「お任せください少佐!水路が奥まで通じていますから、冷却も充分です。メガ粒子砲の連続発射もいけます!」

「よし、カラハとラサのゴッグはボラスキニフを援護!ゴダールとマーシーのズゴックは私に続け!」

 水路から飛び上がり、ズゴック隊が三機一斉に頭部のロケット砲を射撃。続いてゴッグ2機がミサイルを乱射、援護を開始した。ズゴックは地形を利用してホワイトベース隊に接近、アムロのガンダム、ヤザンとスレッガーのジム。コマンドがシールドとビームサーベルを構えて前進した。

「やるようだが、今は任務を優先させてもらう、ガンダム!」

 シャアはアムロのガンダムの脇をすり抜けると後続するヤザンとスレッガーに向かう。シールドでズゴックを抑え、ビームサーベルを突き刺そうとするがそれを回避。身を低くしジムから見ての死角に入ると、スレッガー機の脚を破壊した。

「嘘ッ!まだなれていないからか!」

「転がっていても厄介そうなのでな!」

 シャアはそのままアイアンネイルでヤザン機を抑え込むと、スレッガー機のメインカメラをメガ粒子砲で破壊する。外部からの情報を得る手段がなくなったことをわき目で確認し、ヤザンに正対。後方のガンダムはズゴックとゾック、ゴッグの射撃に押され、抑え込まれている。

「なかなかやるパイロットだが、力の掛け方が甘い!ふん、ゴダール、マーシー、ボラスキニフの援護に付け!ここは私が引き受ける!」

 シャアはスラスターを吹かすと、こちらにかかるジムの力を左右にそらし始める。ジムの上半身が左右に動かされ、バランスが崩れる。口元をゆがめたシャアはジムの左側に回りこむと背面のバックパックを付き、メガ粒子砲を発射。ジムの胸から上が破壊される。

「ヤザンさん!?いけない!」

「アムロ、退いて!地上の敵が後退を……」

「また一機!動きが甘い!」

 割って入ったのはセイラ。ジャブローと同じく、ジムの腹部にクローをつきたてるべくズゴックが動く。

 ……!?

「アルテイシア!?……いかん!」

「兄さん!?」

 後方から迫ってきた影が割って入った―――正確にはセイラ機の足元めがけて滑り込んできたのはクローが腹部を狙ったのとほぼ同時だった。

 スライディングに近い格好で滑り込んだ黒い機体によって、セイラ機の脚部は破壊され、延びていたジム・コマンドの背は大きく後ろへ倒れこんだ。突き出されたクローはジム・コマンドの胸部装甲を削り取るにとどまり、3機のMSはもつれ込むように倒れこんだ。

 呆然とするセイラ機を尻目に2体のMSは立ち上がり、互いに相手を警戒して距離をとる。

「危なかった……何奴!?」

「セイラ准尉、後退しろ!アムロ准尉、セイラ、ヤザン両機を援護して退け!敵を絶対に動力炉へ入れるな!レイヤー小隊と協力して防備を固めろ、急げ!」

 黒い機体。かろうじて間に合ったゲシュペンスト・タイプSは硝煙と砂煙で薄汚れた機体を樺太の地下に立たせていた。




 第21話




 ギリギリのところでセイラの命は救えたものの、このイベントで改めて理解させられたことがあった。さきほどのラリー、アニッシュの戦死もそうだが、既に大まかな歴史はともかく、細かい歴史は変わっており、おそらく主要登場人物でも、主人公級の人間でもない限り、はたまた歴史に大きな影響力を与える可能性のある人間でもない限り、戦死の機会は常にあるということなのだろう。

 そして、それはファーストガンダムで早速退場したセイラ・マスも当然として含む、と。いや、ホワイトベースの全員に言えることかもしれない。其処まで考えて気が付いたが、大筋はともかく、細部は別物という意識はこれからも持っていたほうが良いだろう。まぁ、考えている暇は今はないけれど!

 目の前に迫るシャアのズゴックを避ける。ズゴックは確かにゴッグやゾック、アッガイといった他の水陸両用機に比べると格闘がし易い機体だ。ゴッグは遅すぎ、アッガイは薄すぎる。ゾックはそもそもそんなことを考えていない。しかし、水圧に耐えるために人間型をある程度捨てている訳で、モーションの取り方にも限界がある。

 しかし、流石にシャアだ。ズゴックのモーションをよく熟知した上で操作している。身を低くかがめて射線を取りにくくさせ、また同時に横薙ぎのビームサーベルの範囲から身を逸らす。縦に振った場合には左右に飛んで前に向き、小走り、時には小さいジャンプを繰り返して敵との距離を詰める。

 ズゴックの腕にはメガ粒子砲が装備されているが、それを使うことはあまりしない。発射には粒子の増幅を行う必要があるから、必然的に何秒か時間がかかる。時間をかけないでも撃てるが、その場合には威力を犠牲にすることになる。まだ使いどころの難しい兵器なのだ。

 実際、メガ粒子の増幅・収束は模索中の技術で、増幅と収束に必要な時間の問題が解決していない。ゲルググのビームライフルにしろ、一定時間要するため、モーションが其処で固まってしまうのだ。宇宙空間ならスラスターを吹かしての平行移動が可能だが、地上でのそれは射線を単調化させる。この問題は時間こそ短くなるものの後々まで続くから、オールドタイプでもビームライフルを避けられる。

 だからシャアはズゴックではメガ粒子砲を使わない。動かなくても良いときが来るか、撃つことで敵の動きを誘う必要がある以外は。やりにくい相手だ。

 一方、シャアの方も自分が相手にしている機体が厄介な相手であることを見抜いていた。完全に近接戦闘用に特化した機体。その特化の度合いはガンダム以上。外から見るだけでも射撃用の武器は腰についているショットガンらしきものだけ。見た目の重装甲からは考えられないような軽い機動を行う。無駄がまだ多い動きだが、それを機体の柔軟な追従性が充分以上に補い、自分の動きに対応してくる。

 しかし、シャアが感じている厄介なところは其処だけではなかった。

「違和感か?この機体の動き、いつかどこかで見たことがある?クソ、連邦の新型機の動きを何故そう感じる?」

 クローを敵機に向けるが、軽々とつかまれ、しかもその圧力はこちらのクローアームを握りつぶすほどに強い。危険を感じて即座にズゴックを敵機に押し付けるとスラスターを吹かして岸壁に押し付けた。衝撃で左腕が離れたのを機に機体を右腕を軸に回転させて敵機の後ろに回りこもうと動く。

 当然、背後に回られることを恐れた敵機は右腕をつかんでいた手を離し、こちらに正対しようと体を向けてくる。しかし、それこそこちらが望んでいたことだ。右腕が自由になったことで機体の動きに対する拘束がなくなると同時にシャアはもう一度ズゴックを敵機に押し付け、胸部装甲にクローを押し当てた。

 メガ粒子砲の発射。増幅と収束にかける時間がないため、低出力での連続発射で装甲を削り取ろうとするが、敵機の装甲は表面が融解しただけで、充分な損傷を与えられたとは言いがたい。クソ、先ほどのジムなら!新型め、この装甲であの動きとは、どれだけ高出力のジェネレーターを装備している!?

 敵機の方も自分の装甲に関しては充分以上に信頼を寄せているようだ。胸部装甲へのビーム連続発射には反応せず、ズゴックの肩をつかんで機体を押し戻そうとする。装甲が薄い、両肩の吸排口にマニピュレーターの親指が食い込む。いかん!

 掴まれた肩はそのままに頭部を敵機に向け魚雷を一斉発射。衝撃が次々に襲い掛かるが、流石耐圧性が高いだけあり、ズゴックのチタン装甲は良く耐える。しかしそれは敵機も同じだ。ここで吸排口を破られるわけにはいかない!一斉射でもまだ離さない。ええい、連邦の新型は化け物か!?もう一斉射。ようやく左肩が外れた。しかし、敵機はそのまま高出力にものを言わせてズゴックを放り投げる。

「ぐわああああああっ!?」

「少佐!」

 後方でレイヤー小隊と射撃戦を行っていた部隊から、ゴダールのズゴックが向かってくる。いかん!今の戦闘でズゴックの弱点が吸排口であることを知られている!

 シャアの懸念は即座に現実のものとなった。敵機右腕の杭打ち機が、ズゴックの右肺に命中。吸排口の薄い装甲を破って斜めに侵入。コクピットを押しつぶす。奴の右腕上腕部のアレは危険だ。連続で打ち込まれれば、水陸両用MSの装甲でも危険。

 後方から、損傷機の撤退援護を終えたらしいガンダムが、ビームライフルを構えて向かってくる。動力炉への水路付近で戦闘しているボラスキニフたちは防御陣地を突破できないでいる。ええい、潮時か!

「全機撤退!撤退だ!作戦は失敗!」

 シャアは叫ぶと水路に向けてズゴックを後退させる。敵機を押し返すため、天井部分に向けて魚雷を連続発射。岩盤の崩落にガンダムが足を止める。!?もう一機は!?

「少佐あああああああああっ!」

 大型のビームサーベルがマーシーのズゴックの胸部を貫いている。バカな!?いつの間にあそこまで移動した!?移動する際の振動も感じなかったし、何より魚雷の発射まで、ガンダムよりも前とはいえ、崩落した岩盤の真下にいたはずなのに!?

 マーシー機を撃墜した敵機はそのまま大降りのビームサーベルを構え、動力炉を守る敵部隊から後退を始めているボラスキニフの部隊に向かう。ええい、今の状態では助けられん!

 シャアは向かった敵機の能力と武装から、ボラスキニフ小隊の全滅を確信すると水路へ機体を躍らせた。流石に今の状態でガンダムの相手など出来るわけもない。吸排口は重大な損傷を受けており、水中機動に問題が出るのが確実なら、ここで戦闘をすれば撤退できなくなる。

 ボラスキニフのゾックにビームサーベルを構えて突進する敵機。!?前に、この光景を見たことがある?どこだ!?何処で見た!?あの機体、誰の……?

 シャアはズゴックに水路を進ませ、マットアングラーへ帰還しつつ、自分の記憶の中から、その記憶を思い起こしていた。しかし、答えは出ない。ええい、誰だ?誰なのだ!?



 11月1日、午後1時。戦闘は終了した。北部からの陸戦用MS隊が後退を始めたことをきっかけに基地南部の港湾部へ増援を回すことが可能になり、サイクロプス隊も増援の襲来を察した段階で後退を開始。カミンスキー軍曹が水中での行動が制約されるギャンを投棄したが、アンディ機のハイゴッグに回収され事なきを得る。

 しかし、上陸戦序盤・中盤の主力となったゴッグ5機、アッガイ10機の内、ゴッグ4機とアッガイ5機が喪失。最後まで撤退を支援していたアッザムは、港湾部の敵部隊が撤退を開始したことで射線の集中を受け擱座。投棄された機体はいまは港湾部に浮かんでいるが、程なく沈むだろう。

 今回の攻撃で樺太基地は大きな被害を受けた。基地中心部の司令部区画、および艦艇発進口と地上・地下の連絡部分こそ被害が少ないが、港湾部に集積された倉庫群が軒並み被害を受け、収納されていた部品・パーツ段階のジム・コマンドが数多く破壊された。

 北部防御陣地は陣地内での混戦でトーチカ群が軒並み被害を受け、また、陣地内への侵入を受けた段階で人員を後方に避難させ、遠隔操作に切り替えたことで人員の被害こそ少なかったが、6基が全損。8基が損傷している。港湾部では侵入した敵機に対し、第2、第3小隊の撤退援護に当たった対MS用ミサイルランチャーを装備した高機動車が多く被害を受け、人員の損失が発生している。また、滑走路部分にまで敵の侵入を受けたため、滑走路にも被害が発生。アジア方面軍へのジム・コマンド供給に被害が生じている。

 しかし、工業製品や基地設備などはまた作ればよい。深刻なのは人員の被害だった。軍人軍属合計87名、および民間人7名。民間人は出向中のエンジニアや、夜釣りに出ていた付近の住民。軍人軍属は、撃墜されたMSの乗員3名(ラリー、アニッシュ、コールドウェル)と、防衛に当たっていた基地の兵員だ。

 負傷者にいたっては三桁を越え、病院に収まりきらないため、滑走路にテントを建てて野戦病院を仕立てることになった。入院を要するものや重症ではないものを除いては、そちらで治療を受けてもらうこととなっている。医薬品の数が足りているのが救いだった。しかし、そうした外見上の、肉体的な被害はまだいい。回復が可能だからだ。

 特に、この被害によってG-1部隊第3小隊が隊長一人になってしまった。マット・ヒーリィ中尉は現在、基地についている軍の精神カウンセラーのカウンセリングを受けている。一夜、いや一朝にして二人の部下を失ったことは、彼の心に大きな傷を残したことだろう。相手がサイクロプス隊となれば、それも仕方がなくはある。むしろ、第3小隊は良くぞ全滅しなかったものだが、そんなことは彼にとって救いにもならない。

 実際、3度目の撃墜を経験したヤザンが元気なのが不思議だ。流石最強のオールドタイプといいたいが、あそこまで行けば撃墜からの生還も自信の表れだし、何より戦友が犠牲になってはいない。第2小隊からもサマナ少尉が撃墜されたが、現在治療中とのこと。詳しい報告は受けていないが、命に別状はないらしい。

 戦力がかなり厳しいことになっているが、戦死者が少ないこと、あのエースパイロット軍団の攻撃を受けてこれだけの被害にとどめられたことは自信を持つべきだが、やはり気にかけてしまう。

 とりあえず、前線に立って戦ったMS部隊とトーチカ隊、高機動車の兵員には24時間の休養命令を出し、マネキン准将に基地の管理を御願いして……ああ、クソ、頭がまとまらない。とりあえず今日は、浴びるほど飲んですべてを忘れよう。


 司令室を出るとミツコさんがいた。そこからの記憶があいまいだ。




[22507] 第22話[R15]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/01 18:32


 襲撃の夜から一晩明けた11月2日の朝。連邦軍樺太基地からはいまだ、黒い煙が立ち昇っていた。破壊されたMSの撤去が終わっておらず、潜水艦のミサイルから分散した子弾の中に仕込まれた時限装置が、時折、予定の時刻となり爆発しているからだ。そのおかげで樺太基地地上部の機能は完全に回復せず、現状、司令部近辺のエリアのみが安全地帯となっている。

 もっとも、樺太基地はジャブローに倣ってか、基地機能の大半は地下化されており、艦艇ドックもMS工廠も開発部も、そして当然無事で、居住区も被害は少ない。地下搬入口近辺の施設だけが被害を受けているが、こちらは地上のようにミサイルが降って来た訳ではないし、最優先で復旧が進められているため、むしろ地上よりも活発に人が動いていた。

 司令部近辺に作られた、士官用の宿舎の一室で私は目を覚ました。室内に男女の着衣が散乱し、ベッドから少し離れたテーブルには蒸留酒らしき酒瓶が転がっている。グラスは絨毯に落ち中身をこぼし、窓のブラインドの隙間から入る朝の日差しを反射してきらめいていた。

 浴室からシャワーの音が聞こえる。先に目を覚ましたのだろう。隣にいるはずの彼女の姿がない。体を起こした瞬間、頭痛が走るが、意識を向けると頭痛はだんだんと治まっていく。体内のナノマシンが意識を向けたことで、体の不調を修復すべく、体内に残ったアセトアルデヒドを分解したのだろう。

「あら、お目覚めですの?」

 シャワーを浴びすっきりしたようだが、まだ体には昨日の残滓が残るミツコ・ミューゼルが言った。なんだろう。改めて考えると、俺ってするときには縛るほうが好きだけど、関係としては縛られるほうが好きなのか?あ、頭痛い。二日酔いか。ミツコさんは快調そうだ。二日酔いに苦しんだこちらとは違って気分爽快そのものらしい。体にタオルを巻きつけたまま、鏡台前のイスに座ると、別のタオルをつかって念入りに髪の水気を取っていく。

「……昨日はありがとう。……おかげで、いくらか楽になった」

「わたくしね、夢でしたのよ」

 鏡台を向いたまま、こちらを振り返りもせずに彼女は言った。

「前に話しましたでしょ?リン・マオのこと」

「ああ」

 髪の水気を充分取ったのだろう。まだドライヤーは使わず、別な吸水性の高いらしい布をさらに当てながら彼女は言葉を続ける。脇に櫛を用意しているから、これは時間がかかりそうだと苦笑した。これはもう、女性にとっては性の領域らしい。

「あの子の周りには恋人のイルムガルト・カザハラがいて、理解ある部下のユアン・メイロンがいて、取引先もお人よしばかり。ああいう世界にいたのでしたらああいうふうに世界を見るのも当然でしょう?あの子自体が何をしましたの?あの子と私のどこが違いますの?ただ、生まれた境遇が同じでも、周りにいる人間が違っただけで、どうして、……なんてね。バカでしょう、わたくし?」

 バカになど出来ない。生まれ―――自分が如何何処に生まれるかなど、自分ではどうしようもないのだ。そして自分がどんな人間と出会うのかもそうだ。まぁ、出会うべき人間に出会ってもそうでない人間もいるが。自分の努力不足なら同情の余地は無いが、あの関係を抜け出すのは無理に近い。

「まわりの人間がいい人なのに、それを自覚できない阿呆には腹が立ちますわ。だって、それが出来ないひとがいるのですもの」

「何が言いたいんだ、ミツコさん?」

 ミツコさんはほほを膨らませながらこちらを向いた。どうやら、私の答えに不満らしい。ドヤ顔といつも見せる取り澄ました顔、少し前に見たあわてる顔は見たことがあるが、こういう表情ができるとは思わなかった。しかし、やはり中の人がセツコ・オハラと同じなのに……

「どこみてますの?朝っぱらから色気づかないでいただきます?」

「……胸の大きさで女性を判断するのは流石に趣味じゃない。だからといってステータス云々でもないけどね?……ごちそうさま」

 言葉に顔を赤らめるミツコ。しかし、言いたいことはわかった。彼女も熱血と愛を理由に正義と悪が大混乱のスパロボ世界の出身者だけはあるということだ。経済的利益だけが判断基準だったのは、周囲にいた人間を判断基準になど出来ないから。人間を見るにはその人間の友好関係を見ればよいとは言うが、それでは友好関係を築いた瞬間に人間の価値なりランクなりというものが下がるとしたら、何を以てすれば良いのか?彼女の行動は、あの人間関係の中で彼女にできる最良の判断をしていただけだった、という話なのだろう。

 だからこそ、元の世界と全く関係のないこの世界で、0から人間関係を築くことが出来ると知った瞬間こそ、本物のミツコ・イスルギという人格の誕生だった、のかもしれない。そしてそれは幾多の世界で"悪役"とされた人物全員に共通するのかもしれない。ソフィー姉さんしかり、シーマ姉さんしかり、そしてハマーンしかり。まぁ、ジジババになっても悪役でいるのは、もうどうしようもない気がするけど。でも、もしかしたら、アギラ・セトメやクラックス・ドゥガチにさえ。

 実は結構……と思ったところで、自分の考えに自嘲する。人間、そんなに多く重くは背負えない。それは昨日、思い知ったばかりではなかったか。本来なら一年戦争を乗り切る可能性のあった人間――ラリー・ラドリー、アニッシュ・ロフマン――の死。それは、おそらく絶対に私の介入が原因であることを思い出す。

 結局、人死にが少なくなっただけなのかもしれない。開戦から10ヶ月。本来なら60億を超える死者は8億ほどに抑えられ、52億の人口が残り、地球圏の総人口は、いまだ112億人を数えている。コロニー落しも、地球に残った人口密集地域である北大西洋沿岸と太平洋沿岸部が避けられたことであまり被害を受けていない。もっとも、ジオン軍の占領地域である欧州やアフリカでは、連邦軍の反撃態勢が整うにつれて食糧難が叫ばれているが。

 しかし、顔の見えない52億を救っても、もしこの先、自分に近い人間が死んだら?もしかしたら、シャアの隕石落しも、ララァのいない世界に見切りをつけたからかもしれない。いや、バカなことを考えるな。そう考えたのなら自殺でも何でも好きにすればいい。周りの人間を道連れにしての死など……いかん、本格的に思考がネガティブになってきた。

 目の前が暗くなると、女性特有の香りが包んだ。ベッドの上にひざ立ちになったミツコさんが、優しく抱きしめてくれている。ナナイっぽいな。苦笑すると彼女の背中に手を回し、優しく抱きしめ、ベッドに倒れこんだ。

「……ありがとう」

「落ち着きまして?」

 体を包むタオルが崩れるが、気にはしない。香りは強まり、なんだかおちついた気分になる。

「もう少し、このままで……いさせてほしい」



 いきなりのノックで正気に戻った後当然のごとく赤面し、時計を見て戦闘要員の休息時間とした24時間を越えていたことに気づき、急いで服を調えて部屋を出た。後ろからは顔を赤らめたミユ・タキザワ伍長が歩いてくる。まったく、とんだ失態だ。

「鍵もかけずに寝るなんて正気ですの!?」

「昨日のあの状態で鍵をかけるところまで考えれん!」

「少将!中佐!夫婦仲が宜しいことはわかりましたから、さっさと司令室に向かってください!」



 第22話


 
 基地機能が一定の回復を見せた11月3日、オデッサ作戦への出撃と合わせ、樺太基地では合同慰霊祭が執り行われた。あの後、更に負傷者の中で助からなかったものを含めると、被害人員の総計、軍人軍属102名、民間人8名。合計110名となった。

 G-1部隊からの死者は3名。港湾部でサイクロプス隊により撃墜されたラリー・ラドリー、アニッシュ・ロフマン両少尉。新型技術試験機試験中隊、通称ウィスキー隊よりコールドウェル少尉の3名。

 負傷者はゲルググ小隊との激戦を演じた本部小隊のパトリック・マネキン中尉が肋骨を折る重傷。港湾部での戦闘で改造型ズゴックに弾き飛ばされた、第2小隊サマナ少尉が機体からの脱出時に二度の火傷を負い、現在皮膚移植手術を受けて無菌室入り。第5小隊ヤザン少尉は乗機のジム胸部破損の際に頭部に裂傷の軽傷。

 他には入院加療を要するほどの怪我こそなかったものの、部隊全員があの日の戦闘では何らかの傷を負った。MS部隊以外の戦死者は、MS対後退、敵後方からの奇襲に尽力した対MSミサイルランチャー装備の高機動車の運転手、砲撃手だ。

 空砲が空に響き、連邦国歌の吹奏が始まる。連邦旗が半旗となり、棺が遺品と共に安置されている。この後、オーストラリア、アデレードの連邦軍軍営墓地へ輸送の予定だ。しかし、MS隊の3人の遺体はない。機体ごと散ったアニッシュ少尉は勿論、コクピットをビームサーベルに貫かれたアニー少尉も、ガーフィールド中佐のグフに、ヒートソードを押し込まれたコールドウェル少尉も遺体は残らなかった。核が、粒子が、高熱が彼らの存在を文字通り消してしまったのだ。

 慎ましやかに、しかし荘厳丁重に行われた指揮の後、私はマネキン准将、ミューゼル中佐と共に司令室へ入り、オデッサ作戦参加のため、部隊の再編に着手した。樺太基地防衛に戦力を残す必要もあり、また当然被害を受けた戦力では不足も考えられるため、テレビ会議という形でゴップ大将も参加している。

「まずはミューゼル少将。ほぼ同数、それもモビルアーマーを含む戦力を撃退し、敵に対し、味方に倍する損失を強要したことは上出来だ。君が如何思っていようとも、な」

 ゴップ大将は言った。いつもの福々しい、人をリラックスさせるような姿は見せない。彼も軍人であり、敵の攻撃によって被害を受けた部隊の指揮官がどのような心境になるかは知っている。本来、そうした気持ちは前線から昇進によって遠ざかるにつれてある程度、感じずに済ますことが出来るようになるものだが、前線という概念が旧世紀よりも希薄になってしまった―――あるいは意味が変わってしまった―――この戦争ではまた違ったものとなっている。

 それに、目の前の男はほんの数ヶ月前まで、中佐という佐官でしかなかったのだ。

 ゴップ大将の見せた、男らしい不器用な心遣いに内心で感謝すると、私は口を開いた。

「都合、戦力の5分の1を失いました。基地機能は40%ほどにまでは回復しましたが、オデッサ作戦の出撃前にこれだけの被害を受けたとなると、正直、厳しいものがあります」

 軍隊の場合、「壊滅」と判断する基準は、戦力の40%を失った段階をさす。戦力が前線で編成できず、後方に後退させて完全な再編成を要する段階に入るからだ。5分の1、つまり20%とということは、戦力が半壊したことを示す。

「人員かね」

「はい」

 ゴップ大将はため息を吐いた。理由が痛いほどにわかる。オデッサ作戦を前に戦力の補充など、どこの戦線を見ア渡しても戦力が不足している現在、まわしようがない。

「閣下、半壊した部隊を何の対策もなく前に出すわけにも行きません。それに、部下の中には小隊総員を失ったものもおります。……そこで、御願いがあります」

「……想像が付くが、言ってみぃ」

「人事権を」

 ゴップ大将は深くイスに寄りかかるとため息を吐いた後に頭をごしごしと掻いた。人事権とはつまり、民間人を軍人として徴集する権利をよこせといっているのだ。補充兵をまわせない以上、そう考えるのは当然だが、流石に将官とはいえそれを無制限に許した場合、私兵集団の形成を許してしまう。連邦軍設立当初、居住権戦争(0017-22)では、そうした私兵集団を擁したアジア系将官が、ユーラシア大陸東部を群雄割拠のような状態にしていたことさえある。

「難しいぞ。人事権に関しては幕僚総監部、つまりわしだな。わしの下が握っていることになる。わしは君を信頼しておるが、部下までそうとはいえん。それに、またぞろコリニーが突っ込んでくる可能性もある。あの男、君が今回の戦闘で敗退し基地機能を失った場合に備えて、色々と考えておったぞ。キンゼー少佐から報告があった」

 眉を上げる。ガディ・キンゼーか。Zでアレクサンドリアの艦長の。まさかゴップ大将の肝煎りとは思わなかった。

「まぁ、バスクのバカはスペースノイドさえ殺せれば何でも良いだけである意味扱いやすいが、ジャマイカンなどご機嫌取りにも程があるぞ?コリニーの阿呆を調子に乗らせ、ジャミトフが制止しておったからな」

 ゴップは笑った。しかし私は笑えない。ゴップ大将が、決して見かけどおりの人間ではないことを改めて思い知らされたのだ。気が付くと親しげに肩に手を乗せているミツコさんの姿。まぁ、何をおっしゃりたいかわかりますけど。

「そういうわけだから人事権はやれん。しかし、少将のところから書類が回ってくれば、そして書類の要件が整っていれば問題はなかろう。こちらで処理しておく。勿論、日付に関しては前後してもかまわんが、あとで問題になるような処理は……まぁ、なかろうな。マネキン准将の書類、見させてもらったがととのっとる」

 マネキンが一礼する。

「どうだ?ジャブローにこんか?穴倉の中で快適とはいえんが、君の能力は買いたい。むしろ、タチバナより向いておるんじゃないか?」

 ピン。視線が私とミツコさんの間で交わされる。うん、ゴップ大将が言いたいことは良くわかった。

「閣下、申し訳ありませんが、私は――――」

「ゴップ大将。彼女、高いですよ?」

 私は言った。マネキン准将が一体何を考えているのか、という目で私を見る。

「まず、問題児で空気を読まないエースパイロットの旦那がいます。腕前は折り紙付ですが、少々、性格に難アリです」

「……むしろ、エースで性格に問題がない奴というのが珍しいとわしゃ思うが」

 よし、いける。

「彼女がそちらに赴けば、人事案などの件も通りやすくなりますよね?」

「兵站総監部とのつながりもな」

 ゴップ大将の口元がゆがみ、それはすぐにミツコさん、私へと伝染した。

「了解しました。これから大変なことになるかと思いますので、早速マネキン准将と事務官、それに旦那さんを送ります。旦那はエース用の改造機に乗せて、新兵の訓練にこき使ってやってください」

「わかった。人事案をまっとるよ。マネキン准将、君の力がジャブローで発揮されることを楽しみにしとる」

「はっ、了解いたしました」


 マネキン准将のジャブロー勤務が決まったということは、連邦軍上層部に確固たる協力者を送り込めるということにつながる。基地司令として呼ばれたと理解していたマネキン准将はいきなりの話の流れに驚いたが、現在の、そして後々の連邦軍において兵站総監部を握ることの重要性をミツコさんが目を輝かせながら話し始めると頷いた。

 ……違法取引の臭いがぷんぷんしてくるが、まぁ、深く突っ込まないようにしよう。アナハイムではなく太洋重工がこの世界の軍需を仕切りそうだが。しかし、ミツコさんは意外に経済にも明るく、「全部を一手に握ってしまえば面白くありませんわ。ライバル企業があってこそ、サービスは向上するんですのよ?」とか言われてしまった。

 まぁ、それはともかく。マネキン夫妻がいなくなってしまい、また今回の襲撃によって戦力が激減したG-1部隊の再編に取り掛かる。まずマネキン夫妻を送り込むと共に、20名の事務官を送る。全員がバイオロイド兵で、ジャブローでの対コリニー派、のちのち対ティターンズ諜報任務に精を出してくれるだろう。マネキン准将には、基本的に職務に精励してもらい、要所要所で配置人員や軍備関連の問題についてこちらの要望を通してくれるよう御願いした。

 部隊に関してだが、まずマット中尉の第3小隊を白紙に。マネキン中尉とネオ少佐が外れるため、ウィスキー中隊を小隊編成に変更し、本部小隊を編成して私、ミツコさん、ロックオンを配置。但し、私は単独行動で、また基本的にミツコさんとロックオン氏は援護が中心となるため、MS隊の総指揮官としてセルゲイ・スミルノフ中佐に御出馬願い、G-1大隊総指揮官となってもらった。

 また、新しい基地司令にOGシリーズよりレイカー・ランドルフ予備役少将を迎え、現役復帰の少将として配置し、その下に新兵訓練部隊の指揮官としてマット・ヒーリィ中尉をおいた。精神面の回復が付かないまま、オデッサに送り込むわけにも行かないと判断したからだ。

 欠番となった第3小隊に新たに呼び出そうかとも思ったが、宇宙に上げるまではと思い放っておくこととした。恐らく、オデッサ作戦では輸送能力は多いほうがいい。現地で大隊や中隊規模で投入されるはずの連邦軍を同行させる形を取ればよい。

 戦闘による獲得とプラント能力の更なる拡大でGPについてはまだ余裕がある。プラント能力を拡充したところ、いままでは月に限定された値しか変換できなかったが、それが外された。その代りに技術、人員と兵器獲得レートが上昇してしまったが。しかし、更なる戦力向上を技術や技能などをあわせて考えると、これは仕方がない。むしろ、技術をかなり獲得した今の段階からすると、自分や他のキャラクターの能力向上や、RPそのものの方を用いた方がいい。

 既に連邦政界にはカナーバ下院議員、グリーンヒル上院議員と二名を送り込んでいるが、コリニー派、そして恐らく結成される可能性が高いティターンズを相手にすることを考えると、連邦議会、および軍に勢力の維持拡大は不可欠だ。ゴップ大将が兵站総監部を離れれば、後任にマネキン准将が推されたとしても、現在と同様の支援は見込めない。

 私は、マネキン准将以外に、また既に上層部にいるヤン、シトレ、ビュコック以外にも人員を送る必要があると判断した。まず、MS開発以来友好的な関係を続けている欧州軍のパウルス大将宛に、特務作戦集団出身で、MS連隊長として2名を送ることの了解を得た。これにジャミル・ニートとランスロー・ダーウェルを中佐として派遣する。勿論、連隊の兵員はすべてバイオロイド兵で固める。実は、既に兵員レベルではバイオロイド兵の連邦への志願兵としての浸透は始まっており、樺太基地やサイド7、ルナツー、日本、欧州、ジャブローなどを通じて送り込んである。それらの兵員をまとめ、今回、連隊として発足させるというわけだ。

 さらに、連邦議会へターンエーガンダムよりミラン・レックス執政官を呼び出し、グリーンヒル下院議員事務所に投入。来期(0080年)の連邦下院議員選挙で当選させるつもりだ。既に下院議員選挙の月面第二区(Nシスターズ選挙区)から送られる16人の下院議員はうちの友好派閥で固めてあるから、そこから出馬させて連邦議会での勢力を固めることとする。もしもグラナダの支配権を争うことになるだろうアナハイムとの暗闘に勝利することが出来たなら、そこにさらに人員を加えられる。

 動向が見えない移民問題評議会も、来期辺りにグリーンヒル議員が食い込めそうな勢いのため、とりあえずこの戦争中は放っておいてかまわないだろう。欧州軍に二人を送れば地歩も固められるはずだから、あとは北米軍などに送る人材を考えるとしよう。

 ということで、まず北米軍のMS戦力向上のため、カイ・キタムラ少佐を派遣。MS部隊教官として派遣し、戦力向上を御願いする。アジア軍は、人員の制限数に近くなってきたこともあるし、そもそも戦線が縮小傾向にあるから、問題はないとして呼び出すのは中止した。ここで呼び出すと、宇宙での戦力展開に問題があるかもしれない。

 人員制限の発生によって本年度、つまり0079年に呼び出せるキャラクターは今回呼び出した者たちを除くとあと4名。一年ごとに決まった人数というわけではなく、介入する期間に応じて制限が課せられるようで、システムを良く見てみると、来期の名前が「戦間期前半」として、0080-0083となっている。人員はこの一年戦争の出来次第だそうだ。


 オデッサ作戦が終わったあたりで、戻るか。「トロッター」に関しては、本部小隊で私とミツコさんを外せばいい。そろそろ、この戦争も大詰めだ。ソロモン戦以降は、気が抜けない状態になるだろう。


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 ミツコ無双終了です。
 



[22507] 第23話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/01 23:18

 UC0079年11月7日。オデッサ作戦開始の日である。オデッサ作戦では地上に残ったマ・クベが最終的に核ミサイル発射を命令するが、エルランから偽情報として、ジオン側が再度の核攻撃を行った際に備え、連邦軍が核ミサイル攻撃の準備を行っている可能性が高いことを伝えるとその可能性はなくなった。既に連邦製MSの登場により、戦場での絶対的有利を確保できなくなっていたジオン軍に、自ら核を使用して南極条約を破ることが出来なくなっていた。

 実際、マ・クベはそれでも核ミサイルの使用を考えたが、この世界での彼はジオン地球攻撃軍司令ではなく、その下の欧州方面軍の総司令であり、核ミサイルの発射権を握っているキシリアがそれを却下した。キシリアにしてみれば、ジオン軍の地球撤退が避け得ないものであることは明白であり、その敗北が決定的な戦局において更なる不利を呼び込むことはできなかったのである。

 それはともかく、11月6日にワルシャワに総司令部を構えた連邦欧州軍は旧世紀、20世紀の最初の半世紀中に「カーゾン線」と呼ばれた地域を最初の戦場として激突していた。特に、戦線北部からジオン軍支配下のサンクト・ペテルブルクに向けて進撃を開始した欧州軍第1MS師団の進撃は快調で、先頭を勤める第101MS連隊および後続の第102MS連隊は、最新鋭機ジム・コマンド寒冷地仕様を装備して戦局を有利に進めていた。

 これに対し、東部戦線(シベリア)を担当するグエン=バオ=ハイ中将率いるアジア方面軍の攻撃は低調だった。当然、戦力に不足があるわけではなく、既にシベリアを覆っていた寒波の影響が強い。また、アジア方面軍は欧州方面軍に比べ、寒冷地仕様のジムが数少なく、また、最新鋭機のジム・コマンドではなくザニー、ジム初期型を主力としていた。

 まぁ、実際ジム・コマンドを現在装備しているのは第1MS師団の2個連隊と他に戦闘団規模で1つ、アジア方面軍には合計3個連隊しかなかったのであるが。ただし、欧州方面軍は後期生産型ジム(ジム改)を主力として投入しており、余剰のジム、ザニーを北米方面軍、アジア方面軍に回すという主旨で戦力配置を行っていたため、アジア方面軍は補給を樺太および日本に頼るしかない現状で、しかも自軍の装備する機体に部品の互換性が少なく、正面戦力ではなく稼動戦力に問題を残していた。しかも、樺太は1日の襲撃で基地機能を低下させており、

 それが、結局は整備に負担を強いる寒冷地で暴露された格好になり、進撃速度が低下している。但し、それは戦力自体が付きかけているジオン地上軍も同様で、既に一部基地では軌道上への脱出も開始されているなど、戦線の整理縮小が始まっていた。

 11月4日、シベリア戦線を突破したグエン少将肝いりの第33独立混成MS旅団が天山山脈戦線を突破。指揮官に抜擢されたコジマ中佐(オデッサ戦後に大佐)率いる部隊は地球戦劈頭に占領されたバイコヌール基地の攻撃に成功。HLV発射システムを破壊したため、この地域の全ジオン軍が残るHLV基地であるセヴァストポリ、ボルゴグラード、カザン、オデッサを目指して退却を開始したため、一週間の苦戦が報われた格好となった。しかし、やはり兵站にかけた無理が戦力の前進を妨げていた。


 11月5日。イラン方面からコーカサス山脈を抜けて黒海東岸部に進撃を開始した新設インド方面軍(旧インド方面軍はトライデント・ジャベリン作戦で壊滅していた)はコーカサス山脈北麓に展開するジオン第9MS旅団第1大隊を撃破し北上。黒海沿岸、旧グルジア地方に前線基地を設営し、黒海上を渡ってきたビッグ・トレー級陸上戦艦「アレクサンダー」、および「モントゴメリー」と合流し、戦力集中に入った。

 そして11月7日。全戦線がオデッサを総司令部とするジオン地球攻撃軍に向けての一斉攻撃に入ったのである。



 第23話



 作戦が始まってしまえば、それからはその流れに身を任せる他はない。現状、改めて感じたことだ。

 私が属するインド方面軍はコーカサス山脈南部から進撃を開始してグルジアにいたり、要衝セヴァストポリを迂回して、オデッサの後方を突く任務を与えられている。キエフからドニエプル川に沿って南下するレビル大将の部隊とは、オデッサ東方ザポリージヤでの合流を予定している。

 原作どおりなら、恐らくグルジアから北上してコーカサス山脈の麓に広がる森林地帯に入ったあたりで、黒い三連星の迎撃を受けることになるだろう。ジオン側で得た情報によると、本国防衛隊勤務からグラナダ防衛隊に異動していた黒い三連星が、第三次地球補給にあわせて降下したことを確認している。

 黒海およびアゾフ海には、進撃する連邦軍に海側から攻撃を仕掛けるため、多くの艦船―――ほとんどが連邦からの鹵獲品だったが―――が配備されているが、水上ホバー走行が可能なビッグ・トレーの砲撃や、ボスポラス、ダーダネルス海峡を扼するイスタンブールの陥落で黒海に連邦軍の艦船が多数侵入を始めており、数日とかからず押しつぶされるだろう。

 しかし、樺太基地でも出くわしたアッザムが既に4機確認され、水上に陸上に迎撃を開始している。恐らく、こちら側の戦線でもコーカサス山脈を越えたあたりで出くわすことになるだろう。

 インド方面軍はカスピ海沿岸部からの北上を開始しており、現在、旧ダゲスタン地域のマハチカラで激戦が展開されている。実際、ここを抜かれてしまえば連邦軍の大兵力がカスピ海を越えることになるため、ジオン軍の抵抗も熾烈だ。しかし、既に連邦軍は浸透突破用の部隊をコーカサス山脈南麓のブラジカフカスおよびミズルに展開させており、明日には北上を開始する予定だ。

 そして私たち、インド方面軍所属第13独立部隊は、もっとも危険な黒海沿岸部の北上任務を課せられている。保養地ソチから沿岸伝いに北上。ケルチ地峡部への部隊展開を支援した後さらに北上し、オデッサ・ボルゴグラード間の連絡を絶つ。ウクライナ北部から南下するレビル将軍の部隊と合流することで、オデッサを包囲する予定だ。

 宇宙港を備える各基地間の連絡を絶てば、ジオン軍は撤退を開始すると見ているためだ。現実に、バイコヌール宇宙港が陥落するとジオン軍は次なる宇宙港を求め、ボルゴグラードへの撤退を開始している。恐らく、撤退したジオン軍が宇宙攻撃軍に回収される段階を狙って軌道上に艦隊を投入し、手も足も出せないジオン軍を殲滅するつもりなのだろう。

 それは正しい。虐殺に近いかもしれないが、連邦よりも優勢なMS戦力を有するジオン軍相手に、下手な損害は出せない。地上での戦闘が終了しても、ソロモン、ア・バオア・クー、月面で構成される本国防衛ラインを突破しなければならないからだ。

 ジオン軍に残された宇宙港は合計5つ。オデッサ、ボルゴグラード、セヴァストポリ、カザン、リャザン。このうち、黒海からの攻撃を受けるセヴァストポリは打ち上げ途中での攻撃を受けかねないため早々に放棄されたが、既にアジア、シベリア方面から撤退した部隊がボルゴグラード、カザンから脱出を開始しており、軌道上はHLVの打ち上げカプセルで彩られ始めている。

 宇宙攻撃軍およびグラナダ艦隊、そしてシーマ艦隊が回収任務に当たっているが、連邦軍が散発的に艦隊とMSを投入して攻撃を仕掛けてきており、回収は難航しているとのことだ。また、軌道上での戦闘で私が開発に関係していなかったがボールの投入が大々的にコリニー提督によって行われ、大戦果を挙げている旨が伝わってきている。被害を受けにくい戦場で大戦果を挙げることについては流石ジャミトフと感心したが、どうにもいい気分はしない。

 旗艦とした「トロッター」艦長、シナプス大佐がこちらへ来た。

「少将、攻撃開始命令が下りました。我が部隊にも北上命令が来ています。どうやら、戦線全体を北上させるようです」

 私は頷いた。

「独立第13部隊、前進を開始せよ。G-1部隊各隊は散兵線を前に押し出せ。第1小隊は先行してソチに。本部小隊は援護を行うように。艦隊にはトロッター所属隊を護衛につけ、前進を開始せよ」

「機関一杯!発進する!命令復唱!」

「機関一杯、前進を開始します!」


 命令が出され、部隊の前進が開始されたことで司令官は暇になる。いい機会だから、これからのことを少し考えておこう。


 オデッサ作戦のスケジュールはかなり異常だ。11月7日に黒海沿岸で開始された作戦が9日にはオデッサの完全占領で終わり、掃討戦に入っている。確かに、降下したジオン軍の戦力は20万ほどで、過去ここで行われたドイツ軍とソ連軍の戦いほど、人員面で大規模なものではない。しかし、作戦発動から2日で目標達成などありえないから、進行はかなり時間を要するものと考えて無理はないだろう。

 恐らく、ジャブロー侵攻作戦が中止になったことでそのスケジュール分も合わせ、今月一杯は戦闘が続くに違いない。オデッサが陥落すれば、現在優勢に追撃戦を進めているアジア戦線の整理がつく。今月末には北米での攻撃も予定されているから、ジオン軍は歴史どおり、アフリカに潜伏してネオジオンの襲来を待つことになるだろう。

 ……年内に終わるのか、この戦争。一年戦争ではなくて、「ジオン独立戦争」とか名づけられたらまんまギレンの野望じゃないか。

 まぁ、いい。キシリアが早速敵前逃亡をかましてくれるだろうから、ジオン軍の指揮システムがおかしなことになるだろう。実際、歴史でもマ・クベがいなくなったから降伏したとも取れる。けれど、ルートがどちらを通るかだ。マ・クベが逃げればTV版準拠で進むだろうし、逃げなければORIGIN版でルートが進むだろう。ORIGINルートで死んでくれれば問題ないが、宇宙に逃げれば今度はTV版かコミック版か小説版かの違いが出る。

 マ・クベの死亡時期が作品によって違い、またキシリア同様の底の浅い策士であるため、キレると何をするかわからない。TV版のように自分を追いやった組織や敵を狙うならどこかで何かを仕掛けてくる可能性がある。コミック版のようにそれなりの誠実さを持つのならザビ家に対する忠誠心の発露もあるだろう。一番良いのは小説版のように何もしないで乗艦を撃沈され、ア・バオア・クーから撤退する中で戦死してくれることだが、これを前提に話を進めるわけにも行くまい。

 ゲルググの投入が早まっている分、連邦軍は宇宙で苦戦を余儀なくされるから何がはじまるかはわからないが、連邦軍のMS開発も前倒しでジム・コマンドやジム改が投入されるようになってきている。ビームスプレーガンに頼る時間も短縮できるだろうし、そもそも数が違うから戦争の趨勢自体は歴史どおりに進むだろう。

 というか、ジャブローはどれだけの生産能力を持っているんだ。オデッサ作戦に投入されたジムが各型合計で800を超えている。第1MS師団以外は大隊単位での投入になっているが、それにしても数が多すぎだ。まだ生産を開始してから3ヶ月あまりで、しかも生産ラインが整い始めているから今月だけで1000機近くは生産されそうな勢いだ。もっとも、ジム改はジェネレーターについてはジムとほぼ同型のため、こちらにはビームスプレーガンに代えてビームガンの配備が進んでいる。

 前線に多数のMSが集結するのは良いが、オデッサにはいまだに800機近いジオンMSが展開している。これを1日かそこらでどうにかするのは難しいぞ。

 しかし、トールの懸念は杞憂に終わった。既に補給の面で大きく負担を強いられつつあったジオン欧州軍は、そのMs稼動数を大きく減らしており、また、キシリア、マ・クベが鉱物資源の軌道上への打ち上げを優先させたため兵員の脱出も満足に終了していないのが実情だ。オデッサ鉱山基地以外の宇宙港からは続々と兵員が武器、MSを放棄して軌道上へ脱出していたが、こちらも残った武器をオデッサや他の交戦を続ける部隊にまわすほどの余裕がなかった。

 かくして、一時期は2000機近いMSを30個のMS師団に編成していたジオン地球攻撃軍という大部隊は影すら残さず消え去ろうとしていた。残った影も、軌道上のポッドが連邦軍に破壊されるか拿捕されるか、もしくは最後の抵抗によって潰えることとなるだろう。だが、オデッサが陥落すればジオン軍はセヴァストポリへ向かい、セヴァストポリが陥落すれば、戦線を突破して、まだ確保しているアフリカへ向かうだろう。アフリカを舞台にした、ジオン軍残党との激戦は戦後も続くことになる。これもまた、歴史どおりだ。

 オデッサ作戦の推移は大体は歴史どおりに、そして細部は歴史とは違った様相を見せ進行した。11月12日、歴史よりも遅れて黒い三連星と第13部隊左翼に位置していたホワイトベース隊が接触したが、G-1部隊第5小隊の援護を受け、また「トロッター」よりウィスキー小隊が援護に間に合ったことで、黒い三連星は全機撃破され、死ぬはずのマチルダ中尉は当然死なず、第13部隊を先頭にザポリージヤまでの北上に成功、レビル将軍の部隊と合流してオデッサ包囲網が完成した。

 翌13日より、包囲網全戦線からオデッサへの攻撃が開始された。ゲルググの投入も確認されたがやはり数は少なく、エルランの内通が見破られていたため、ジオン軍が偽情報に踊らされて部隊を配置する。この間隙を突く様に、ロシア北部戦線から第1MS師団が南下してキエフにいたり、主力の2個連隊がオデッサへの南下を開始して戦線の薄い部分が突破された。するとまず13日夜にザンジバル級ベンハを使い、キシリア・ザビ地球攻撃軍司令が撤退。翌14日午後にはザンジバル級マダガスカルを使って欧州方面軍司令のマ・クベも脱出したため戦線が崩壊。15日払暁、オデッサは陥落した。

 オデッサ陥落を受けた残存ジオン軍は残る基地であるカザン、セヴァストポリ(リャザンは14日夜に陥落)を目指し撤退を開始し、カザンは陥落する11月26日まで脱出を継続させた後、力尽きて降伏。連邦艦隊の攻撃によって被害を受けていたセヴァストポリは損傷した基地機能の許す限りの脱出を継続させた後、オデッサからの撤退戦力と共に戦線の突破を企図。ケルチ地峡部を突破しての長い撤退戦に入った。この撤退戦は12月初頭まで続き、少なからぬ数の戦力がトルコを突破してアフリカに逃げ込むことに成功したが、カスピ海東岸に位置するインド方面軍の攻撃を側背に受け続けること隣、多くの戦力が喪失を余儀なくされた。

 12月2日。連邦軍はユーラシア大陸からジオン軍を駆逐したと発表。連邦地上軍は残るジオンの占領地である、北米およびアフリカへの攻撃を強めていくこととなる。



 11月28日、無事に第13独立戦隊の指揮を頼れる兄貴ヤン少将に引き継いでもらう。この後はジオン側での行動が多くなるので、宇宙に上がってからの行動については任せることにしたのだ。ここまで来てしまえば、連邦の勝利はもう動かない。ビグザムの投入にしろ、ソーラ・レイの使用にしろ、介入を行うのであればジオン側のほうが有利だと判断したためでもある。それに、ヤン少将なら、反則武器でも使用しない限り、部隊に損耗を強いることも無い、という判断もあった。

 11月30日に引継ぎをまとめて樺太基地に帰還する。ミツコさんはそのまま札幌の太洋重工へ戻り、連邦軍へのジム・コマンドの安定供給を担当してもらった。これからは宇宙戦が基本となるため、ジム・コマンドの宇宙仕様を頼むためだ。また、第13独立部隊宛にジム・カスタムの投入を御願いし、宙ぶらりんになっていたガンダム開発計画も、操作性向上型のNT-1を、コア・ブロックシステム式に改変の上で、アムロ少尉に回すよう、御願いした。

 ゲルググの投入が早まり、史実では試作機で開始された戦闘が試作機特有の問題の洗い直しが終わっているため、シャアのゲルググの性能が向上している可能性を考えなくてはならない。ORIGINでもシャアのゲルググはマグネット・コーティングなしのガンダムに優越していた。それが更に広がっている可能性がある以上、対策は講じなくてはならない。

 また、明確に「戦後」を意識して行動を行う必要性が出てきたため、戦後の連邦政界の動きをある程度掣肘できる人材配置を考える必要も出てきた。

 戦後、連邦政府は各サイドの被害が抑えられていることもあり、各サイドへ連邦政府が持つ債権と、この戦争の復興費用を相殺する形で、各サイドの主権国家化を進めていく方針のようだ。しかし、移民問題評議会がマーズィムを盾にこれに対して懸念を表明しており、各サイドの反連邦政府運動を押さえるための戦力を準備すべき、との論調も出てきている。

 移民問題評議会にも意見が通せるようになってきたグリーンヒル下院議員が妥協案として、もっとも被害が少ないL5ポイントのサイド1、サイド4を、コロニー内武装のみを許す自治共和国化する方針を打ち出すと、サイド6という前例もあり評議会も妥協。現在、その方針で話が進められている。L4共和国とするか、サイド1,4を分割するかで話がまとまっていないが、ブライアン・ミットグリッド自治区選出議員が、出身選挙区であるサイド1区の首相となる可能性が大きい。

 史実であれば連邦政府は、一年戦争で地球が大打撃を受けたのに加え、大きな被害を受けたコロニーの復興計画をも行う必要に迫られたため、強権的な治安政策を取らざるを得なかったが、被害が局限されている本戦争では、其処までの必要性を見出していないし、また、見出す必要性も無かったことは幸いだ。

 この政策決定に伴い、第二の戦時条約として月条約が月面およびコロニー群とジオン間で締結。事前通告無しのコロニー近辺での戦闘行為を禁ずることや、月面の中立化(グラナダ除く)などが結ばれた。この条約は月面の恒久都市連合が主導していたが、目的はジオン軍の地球よりの戦力撤退で戦争の趨勢がある程度見えた以上、戦争の被害を局限し、戦後復興を考える段階に来たこと、および、ジオン側にとっても戦線の整理という要求が強かったことを示す。また、ジオン側も地球から撤退したことで不足する資源を、一定量、サイドからの交易で入手することが可能となった。義勇兵や農産物も同様である。

 結果、ジオン軍の月面駐留戦力が大幅に撤退し再編を開始され、連邦軍もルナツーに集結した艦隊戦力の集中が行え、戦争は一気に終結に向けて加速することとなる。

 12月1日、生き残りにポイントを使用してから、樺太基地より月面Nシスターズに帰還する。何か、決意したような表情になったハマーンが印象的だった。




[22507] 第24話[R15?]
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/02 00:27
 私の名前はハマーン・カーン。現在12歳の女の子だ。

 ……いや、女だ。

 物心ついたとき、お父様はいつも不安げな顔で私やお姉さま、お母様を見ていた。ジオン・ダイクンとかいう人の友人だった、ということでザビ家とかいう人たちににらまれ、肩身の狭い思いをしていたことが、私たちへと及ぶのではないかと恐れていたらしい。

 それが、私がザビ家を知った最初だった。

 8歳のころ、怖い女の人が家に来た。私の勘が鋭いことが、彼女の興味を引いたらしい。特別な教育を受けないかと誘ってきたのだ。お父様は乗り気ではなかったようだけど、そのおばさんはザビ家の人らしく、どうにも話を断れなさそうだった。それに、お父様を脅すような話し方が嫌だった。

 私は初めて、ザビ家が嫌いになった。

 けれど、一本の電話が女性にかかってくると、そのお話しも立ち消えになってしまった。事故が起こって、教育を受けさせるところがなくなってしまったということだった。私はこの偶然に感謝した。あとで本当のことを知ると、それをしてくれた人に更に感謝した。

 私が6歳のときに、妹を産んでから体調を崩しがちだったお母様が無くなった。そして誘われた一件があってから、ザビ家の人はお父様を良く呼び出すようになった。お父様は困り顔で、「新しいお母さんを紹介してくれようというんだ」といっていたけれど、そんな気が無いのは私の目にも良くわかった。お父様は本当にお母様を愛しているのだ。死んでしまった後でも。それがうれしかった。

 だから私は更にザビ家が嫌いになった。

 それから、何度か同じようなことがあった。私をどこかに呼ぼうとするたびに、呼ぼうとしていた場所がどうにかなってしまって話しが消えてしまうなんてことがあった。最初は熱心に呼ぼうとしていたおばさんも、繰り返すうちに面倒になったのか、怖い人を送りつけて呼ぶようになった。黒い服の怖い男の人が、嫌な言葉でお父様に話しかけるたびに嫌な気持ちになった。けれど勿論、話が乗りかけたあたりで壊れるのが常だった。

 私は、もっとザビ家が嫌いになった。

 でも10歳のとき、それが変わった。行きたくは無かったけれど、お姉さまたちと一緒に来るようにザビ家に言われたらしく、しぶしぶ私たちをパーティ会場へ連れて行った。パーティで早速お父様はザビ家の一人らしい、傷跡で顔が覆われた男に話しかけられ、嫌そうな顔をしていた。後で聞いたところによると、お姉さまを奥さんがいるのに二人目の奥さんにほしがったらしい。なんて男だ。私はザビ家が更に嫌いになった。

 でも、そこにはお父様の顔を明るくしてくれた人もいた。

「ドズル閣下!ゼナ様に言いつけますよ!」

 その声と共に、鈍い傷跡の男の表情が変わると、お姉さまの話は立ち消えになったらしい。お姉さまはその話を聞くと、本当にその声を掛けてくれた人に感謝したらしい。ハイスクールに、好きな人がいたらしいのだ。勿論、私も感謝した。だって、お姉さまが笑ってくれたから。


 そして私は会うことになった。私の世界を変えてくれた、その男の人に。



 第24話




 私が他の人とは違うらしい、と気づいたのは、お母様の死んだのを悲しむお父様。お父様の考えていることが頭に流れ込んできたことだった。お父様はそれを聞くと、絶対に人に話しては駄目だよ、といってくれた。けど、私は学校で友達にそれを話してしまった。

 今にして思うと、私のところにザビ家が来たのは、それが理由だったと思う。その友達がいつの間にか、いなくなっていたから。

 人の心を読むことの意味がわかったのは、私がパーティであった男の人、私たちを助けてくれた男の人の心を読んだときだった。男の人―――トール・ガラハウは、それを聞くとちょっと困った顔をして、「人の心を読める力は素晴しいけど、誰にも秘密にしておきたいことはあるし、それを君ができることで、嫌われることもある。そのことは、よく知っておいてね」といわれた。

 訳がわからなかったけど、学校で同じことをしていた私が嫌われていたのは、そうした理由だったのだ、ということを初めて知った。心を読まないようになってから、転校先の学校で友達と仲良くなれるようになった。うれしかった。そして、こんなすごいことを知っている人に、興味を持った。

 私は、いけないことだとは知りつつも、トールの中をのぞいてみたくなった。何度か覗いているうちに、覗かれていることに気づかれた。悲しくなった。いけないことはしたけれど、そのときには私たちの家族を守ってくれていた―――結果としてそうなったとはいえ、私は感謝した―――ことを知っていたので、嫌われると感じて悲しくなった。初めて、自分がいけないことをしていたことに気がついた。

 でも、トールは優しかった。

「覗きたいなら覗くと良いけど、覗いてどうなるかまでは責任がもてない。結果として、私を嫌うかもしれないけど、それでもいいのかな?私は、決して君が思っているような人間じゃないと思うよ」

 どうするかを最後まで悩んだけど、結局私はまた覗いてしまった。

 そして私は知った。トールがこの世界の人間じゃないこと。人が死ぬのを減らすために、この世界に来て色々していること。人間じゃない、なにか、別な生き物として生きていること。

 そして私は知ってしまった。私がこれからどうなるか。トールから見て、私がどんなことを思ってどんな風に感じて、どんな風に死んでいったのかを見ることになった。私だけじゃない。お父様も、お姉さまもセラーナも。

 お姉さまは、本来ならあの話が通って、仲の良かったハイスクールの男の人と別れて、辛い生き方の果てで寂しく死んでしまった。

 お父様は再発する戦争の予感に疲れ果て、私を心配したまま亡くなった。

 私は、金髪の男の人を忘れられないまま、たくさんの人の言葉に踊らされて、一人の少年に救いを見出して、戦争の中で死んでいった。

 妹は、私が起こした戦争で、私を思って戦争をとめようとして、私の部下だった人間に、あの金髪の男の部下となった人間のせいで死んでいった。



 私は泣いた。

「どうして!?どうしてこうなるの!?お父様が苦しんで死ぬの!?マレーネ姉さまも!?セラーナまで!?」

 答えが出ないとわかっているのに私は聞いた。トールが知っているのはこの世界が、大まかにどうなるかであって、私の家族について知っているのも、世界がどうなるかに関わっているからだ。私の家族は、父が戦争の恐怖に苦しんで死に、姉が望まぬ関係に苦しんで死に、私が恋に破れて死に、妹が私のせいで死ぬのだ。そう、決まっていたのだ。

 私は恐怖した。私が、私が父と妹を殺すのだ。私が起こす戦争が。でも、トールは優しくこういってくれた。

「ハマーン、まだ、0078年だよ。それにハマーンは知っているはずだよ。未来は変えられるんじゃないかな?知るべきことを知ったなら、次はどうしたらいいかを考えような?」

 その言葉が救いだった。そして私は知っていた。トールの心を読んだから。トールが、既に何度か歴史を変えていたことを知っていたから。私をザビ家から救ってくれたのもトールだった。父をザビ家から救ってくれたのも。姉をザビ家から救ってくれたのも。

 明るくなると一緒に、元気が出てきたらしい私にトールは微笑んだ。それから、何もかもが楽しくなった。

 
 思い返してみると、私は結局、好きになる男の人を間違えたんだと考えるようになった。トールの知っていることは、私には疑えなかった。トールは私がトールの知っていることを疑わないことを、洗脳じゃないかと考えてもいたけど、望んだことを信じるのは洗脳とは違うんじゃないの?と聞いたら、だったら信仰だね、と言ってきた。自分のこと、自分の考えたことを常に疑っているのだ、この人は。

 ため息を吐きたくなった。記憶を読むことは続けていたし、トールと一緒のことを感じることがうれしくなっていたけれど、トールの知っているこの世界の歴史を読むよりも、トールが知っている「お話」を読むほうが楽しくなってきたこともあって、このころの私は深く考えなかった。後から考えると、もっと考えるべきだったのだ。私のバカ。

 少しして、私たち一家とトールが親しくなって、ようやくトールの家に御呼ばれした。迎えてくれたのは二人のお姉さん。心を読まなくても、トールのことが好きなんだな、と感じたとき、ちょっと心が痛くなった。トールの心を読んだとき、好きあっている男女がどういう風になるのを読んでいたから、二人が私よりも先にああなると考えるともっと心が痛くなった。

 それから、そのことが気になって仕方が無かった。トールが私を如何思っているか。トールの知っている私は、隕石を隕石にぶつけたり、怖い顔で高笑いをしたり、未練たらたらに金髪の女の敵に言い寄ったり、白い色のモビルスーツに乗って、敵のモビルスーツを八つ裂きにしていたりする怖い人だ。でもトールは結構好きなようで、好きになった男が悪いとだけ、思っている。

 うん、そうだよね。好きになった男が悪いんだ。男の趣味が最悪だ、別の私。

 心を読まれることについては、読まれて嫌われるならそれはそれで、と開き直っているみたい。でも、それで嫌われても、私のことは何とかしようと考えていてくれている。ううん、私だけじゃない。シーマさんは本当なら、あの怖い、嫌なザビ家のおばさんに、毒ガスをまく手伝いをさせられるはずだったらしい。プルたちも、戦争の道具として宇宙で死んでいくはずだった。セレインは、好きな男の人に殺されることを望んだ。全部、全部トールは変えようとしている。

 何度も心を読んでいいくうちに、トールが別の女の人のことを考えているのを読むと胸が痛くなった。トールはあのザビ家から生まれてくる女の子ですら、助けようとしている。施設から救い出した、13人の女の子を妹として助けている。彼が誰かを助けるたびに、私の分が減っていくような気がしてきたのだ。別に男の人が助けられても気にならないのに、女の人や女の子だと気になって仕方が無い。

 耐え切れなくなって涙が出てきたところをロベルタさんに見られてしまった。吐き出すように話してしまうと、いつの間にか、部屋にいたソフィーさんが抱きしめてくれて、シーマさんが頭をなでてくれていた。恥ずかしくなって顔を上げたら、「ハマーンも、やっと恋を知ったんだね」と強く抱きしめてくれた。二人は力が強いから痛かったけど、別な痛いのが消えていくのを覚えている。

 そして理解できたとき、うれしかった。自分が自由に、自分が読んだあの未来から自由になれた気がしたのだ。トールは正しい。未来は変えられる。変えられるんだ。うれしくなった勢いで、トールのことを話し始めると、二人は頭を抱えていた。「女の子の気持ちを洗脳の結果や信仰だなんて、どれだけ自分に自信が無いんだい!?」って怒り始めた後、二人で頷きあって、私の肩をつかんできた。

「ハマーン、お前の気持ちは『恋』って言うし、『愛』って言うんだ。トールの言ってたことは忘れな。そんなもんじゃないよ」

 私はうんうん頷くと、二人の首に抱きついた。少し考えて赤くなった。

「でも、好きになったらアレをするんでしょう?私は良いけど、トールが……」

 二人はその答えを聞いて笑いあった。

「だったら迫れば良いさ。トールは確かにお堅いから、気持ちを伝えるのは大変そうだけどね?」

 そういって、私に「こつ」というものを教えてくれた。とてもうれしかった。けど、恥ずかしいし、トールの心を読んだときに、トールが好きな女の人のタイプもわかった。トールは自分に自信が無い。だから臆病者で、慎重で、絶対そうなるって信じられるまで準備を忘れない。けど結構抜けているから、思わぬ失敗をすることも多い。

 自分の年齢を大体28って考えて、20歳以上じゃないとエッチなことを考えない。20歳より下の年齢にそういうことを考えることをいけないことだと考えてる。魔が刺すってことも期待したけど駄目だった。私のことは好きだけど、20じゃないからそんな目では決して見ない。いたずらのようにエッチな格好や恥ずかしい格好をした私は考えるけど、たいていは笑って、別なことを考え始める。考えるだけで、何もしない。「いえす・ろりーた、のー・たっち」とかいうらしい。

 けれど、苦しんでる。男の人だから、どうしても女の人のことを考えてしまうとき。女の人をそうした目だけで見ることを嫌がっているから、考えてしまう自分が嫌らしい。そうしたときには……ゴニョゴニョするけど、寂しそうな感じがしてしょうがない。早く大きくなりたい、とあそこまで思ったのは初めてだった。

 なんとかしようと、色々考えてプルたちやセレインを連れまわしてあれこれしてみた。どうにかしようとしたけれど、悪くなるばかりで一向に良くはならなかった。もしかしたら勢いでと考えて、ちょっと無理をしてみたこともあったけど、何かを耐えるような表情になって、翌朝まで苦しんでいた。どうしよう、苦しめるつもりなんて全くなかったのに。

 それからしばらくして、なにか、すっごく心に痛いことがおきたみたい。読んでみたら、初めて戦いで、死に掛けたらしい。忘れていた。私たちからしてみたら、すごい力と知識を持っているトールも、死ぬかもしれないんだ。そりゃ、心を読んだときに、なぜかはわからないけど一日たてば復活できるらしいけど、死ぬってことを知らないみたい。

 死ぬってことがなんなのか、私はまだ知らないし、トールもまだ知らないけど、私が死んだら、もう、会えない。悲しくなって、不安になって、ああ、頭がまとまらない。ガンダム、ニュータイプ。そんな言葉が読めた。今まで読んだトールの記憶と照らし合わせると、宇宙に出た人間の中に、時たま、そんな能力を持った人が出るらしく、私の力もその一つだそうだ。

 でも、それを宇宙に出た人の革新とか、出ない地球の人のことを、重力に魂を縛られた、とか言ってバカにすることを、トールは心底嫌っている。宇宙に出ても人は人、地球にいても人は人。教育や運動で持つ人格や能力は変わっても、そうそう、本質なんて変わるもんじゃない、そうだ。だから、ポイントで能力をもらうことを、仕方ないとは思いつつも、どこかずるをしていると思っている。

 でも、そうして悩んで、苦しむトールに、私は何も出来ないのだ。

 ずっと気に病んで、話そうにも話せないまま、顔をあわせるだけの日が続いていたとき、今日こそは話そうと、ゲートの前で待ち伏せていたら、流れ込んできたのは幸せそうなトールだった。困り顔で、仕方なさそうで、疲れていそうで、でも、どこかうれしそうで。

 理由はすぐにわかった。トールの頭の中に見えた。青味がかった銀髪の、頭のよさそうな女の人。続いて流れ込んできた。強く、求め合うような二人の姿。嫌だ、こんなの嫌だ。誰?誰がこんなこと?


 ……ずるい。


 本当なら。


 本当なら、その場所は私のなのに。



 でも、すぐにソフィー姉さんたちに話してよかった。トールの頭の中を読んだから、抱え込んだままの嫉妬が、どういう結果になるのかを知っていた私は―――別の世界の私は、それで取り返しのつかないことをしてしまった―――幸運だったのだろう。姉さんたちは、この戦争の最中はしょうがない。戦うということは、苦しいことだから、トールがそうなってしまうのもしょうがないといってくれた。それに、それがトールの私たちへの思いを変えるわけじゃないことも、泣きじゃくる私の背中をなでながら言ってくれた。

「本当に、罪な男だよ、あいつは」

 どこか懐かしそうな目で、ソフィー姉さんはそう言った。ソフィー姉さんはトールのことが好きじゃないの?と聞くと、好きだよ、と答えてくれた。私と同じ?少し不安になった私が聞くと、微笑みながら言ってくれた。姉の好き、と妹の好き、は違うし、ハマーンの好きと私の好きも違うのさ、といってくれた。

「まだ負けたわけじゃないんだから、きちんと気持ちは伝えないと、ね。諦めるにしろ諦めないにしろ。女なんだから、男ぐらい、奪ってやるぐらいの心積もりだよ、ハマーン」

 シーマ姉さんはそう言って、ソフィー姉さんから私を奪って抱きしめてくれた。

 うん、と頷いた。もう、トールのバカ、私、もう知らないんだから。トールの趣味が如何だって、私は……

 うん

 私は、もう、我慢が出来ない。

 後ろから、背中を見つめるだけなのはもう嫌だ。

 振り返って、こちらを見てもらうのは嫌だ。

 隣に立って、顔が見たい。

 前に回って、見てほしい。

 姉さんたちにそういうと、仕方ないね、と笑ってくれた。



 ビクリ、となにかを感じて振り返ったが、当然誰の姿もあるわけは無く、月条約に基づくNシスターズ撤退後、小惑星ペズンに落ち着いた親衛第2艦隊はソロモン戦の前段階である戦力集中を特等席で観戦していた。

 連邦側は既に5個艦隊を軌道上に展開しており、そのうち4個艦隊がルナツーを母港として部隊の集結を始めている。内訳はビュコック中将の第一軌道艦隊、ティアンム中将の第二軌道艦隊、レビル大将の第一連合艦隊と、トーゴ中将の第五艦隊だ。これとは別に、ジオンとの戦時条約で認められた、中立コロニー群からのジオン軍の攻撃を警戒して、L4ポイントにダグラス・ベーダー中将の第6艦隊が展開を始めている。

 勿論、ジオン側からの中立破りが無い限り、L4ポイントを通過しての第6艦隊の進撃はありえず、ルナツーに集結した4個艦隊が、ジオン攻撃の主力となることは誰の目にも明らかだった。しかし当然、ジオン側もL4ポイントを突破しての連邦艦隊の攻撃を考慮に入れないわけには行かず、グラナダ艦隊の拘束に成功しているといえるだろう。

 一方、ジオン側での各艦隊の位置関係は、ギレン率いる宇宙総軍がア・バオア・クーを本拠に展開を始めている。ギレン自身がまだサイド3にいるため、展開する部隊の中心となっているのは親衛第一艦隊のデラーズ少将率いる部隊だ。基地司令のランドルフ・ワイゲルマン中将ともども、防衛ラインの構築に余念が無い。

 ソロモンのドズル艦隊は戦力的に充分であり、また、月面から最後の支援として送られたビグザム4機(量産試作型含む)が届く、あってか意気軒昂そのものだ。だが、先々を知っている私からすれば、連邦艦隊の戦力はやはり脅威で、投入しようとしている新兵器を考えると敗北は避け得ない。

 まぁ、今はいい。戦力の強化に邁進しよう。

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 ジオン編再々突入ということでハマーンさまの回




[22507] 設定集など(21-30話まで)
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5
Date: 2010/11/01 23:23
 UC0079年11月1日(21話)
 *ウィスキー隊より戦死者発生!GP-3000(コールドウェル(銀英伝)少尉)
 *MS5機を撃墜!GP2500入手!
 *マットアングラー隊を撃滅!GP10000入手!
 *ヒープ攻撃隊の襲撃を撃退しました!GP25000入手!
 △MS戦闘経験Lv.4:----- MSでの戦闘経験が一定段階に達しました!
 *RPの変換レートは100tです(10000P変換)

 GP149300 → 193800。


 UC0079年11月上旬(22話)
 *ミツコ・イスルギがデレ期に入りました?GP5000入手!
 *マネキン夫妻をジャブローに送り込みました!GP5000入手!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)
 ★保有戦力が以下のように変更されました
 連邦側艦隊
  ・ペガサス級強襲揚陸艦「トロッター」(シナプス、ヘンケン)
   RPT-007 量産型ゲシュペンスト×7(ポプラン、ロックオン他)

  ・MS戦技研究大隊(G-1隊)
   大隊長:セルゲイ・スミルノフ中佐 量産型ゲシュペンスト(サンドカラー)
   整備班:アリーヌ・ネイズン技術少尉
   本部小隊:エイガー中尉指揮
   RX-78-6 ガンダム6号機 エイガー中尉
   PTX-004 シュッツバルト(改) クリスチーナ・マッケンジー中尉

   第一小隊:マスター・P・レイヤー中尉指揮
   RGM-79SP ジムスナイパーⅡ(レイヤー)
   RX-77D ガンキャノン量産検討型×2(レオン、マクシミリアン)

   第二小隊:ユウ・カジマ中尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×2(ユウ、フィリップ)

   第四小隊:サウス・バニング大尉指揮
   RGM-79G ジム・コマンド×4 (バニング、ベイト、モンシア、アデル)

   第五小隊:独立編成
   RGM-79G ジム・コマンド×2 ライラ・ヤザン両少尉

  ・搭載外
   RGM-79N ジム・カスタム×8
   RX-81ST ジーライン・スタンダード×3

 GP708800 → 404800
  ・セルゲイ・スミルノフ(ガンダム00):10000+20000
  ・レイカー・ランドルフ(OG):10000+20000
  ・カイ・キタムラ(OG):10000+20000
  ・ジャミル・ニート(ガンダムX):15000+30000
  ・ランスロー・ダーウェル(ガンダムX):15000+30000
  ・ミラン・レックス(ターンエーガンダム):8000+16000
  ・プラント能力拡充:50000 RP変換に制限がなくなります。
  ・プラント能力拡充:50000 支基地設営プラントのRP制限がなくなります。
   → 人員・兵器などの獲得レート上昇!期間ごとの獲得最大人員数が制限されます!
   → 一年戦争中の召還数は残り4名です



 UC0079年11月(23話)
 *オデッサ作戦でのマチルダ戦死がなくなりました!GP5000入手
  → ウッディ・マチルダ戦死せず!GP15000入手!
 *黒い三連星が登場する事無く撃破されました!GP1000入手!
 *月条約が締結されました!GP50000入手!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)

 GP954800 → 104800
  ・重力制御技術c:80000 30Gまでの慣性に耐えられます!
  ・NT能力Lv.3:90000 1stシャアくらいのNT能力です。
  ・GF能力Lv.3: 90000 ミケロ・チャリオットくらいは格闘できます
  ・改造手術c:100000 ブラスレイターくらいの肉体能力。再生可能、宇宙での活動も大丈夫です。
  ・改造手術d:150000 単体ポーテーション、フォースの使用が可能です。
  ・バイオロイド兵生産 5000名:100000
  ・ナノマシン技術Lv.3:80000 接触による金属コントロールが可能です
  ・ナノマシン技術Lv.4:100000 接触による無機物コントロールが可能です
  ・ブライアン・ミットグリッド(OG):15000+45000
   → 一年戦争中の召還数は残り3名です


 UC0079年12月上旬(24話)
 *ハマーンが決意しました!GP30000入手!
  → ハマーン・カーンの能力上昇!Z時代と同様の戦闘が可能です!
 *RPの変換レートは100tです(500000P変換)

 GP664800 → 394800
  ・重力制御技術d:80000 40Gまでの慣性に耐えられます!
  ・ダウンサイジング技術a:40000 50mまでの機動兵器・装備を最小15mまで小型化できます!
  ・ダウンサイジング技術b:90000 100mまでの機動兵器・装備を最小15mまで小型化できます!
  ・PT生産技術h:60000 ゾヴォーグ共和連合兵器の生産が可能になりました!


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