ルーク・フォン・ファブレの朝は早い。朝日が昇る前に起床する。
その後は朝食を優雅にとり、庭師のベールが入れたハーブティーを飲み一服。その後は昼までは座学、軽い昼食をとり午後は剣術や武術の鍛錬に使われる。
そして――日は沈み、夜。
星が空を照らす中で、作業は開始される。
小さな小部屋の中、ルークと五人ほどの使用人が存在する。
ルークが机に着き、作業は開始された。木霊するのはペンが紙の上を走る音だけである。
そして、ルークが一枚の紙を一人の使用人に渡しながら言った。
「ジェシカ、トーン入れといて」
トーン。漫画を描く上で表現の幅を広げる必須アイテム。
そう、キムラスカ・ランバルディア王国の貴族、ルーク・フォン・ファブレは漫画家であった。
+
キムラスカ・ランバルディア王国にはQ&S(クリムゾン&シュザンヌ)社と言う会社がある。五年前、華々しく登場した漫画の出版社だ。社長は公爵家のクリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ。年間興行収入は小国の財政を賄えるほど。さらに言えば、国とのつながりも深い。まあ、政治と金と言うことだ。
そんなQ&S社が売り出しているのが週刊誌“週刊キムラスカ”少年向けの雑誌である。いまや事業は拡大し、今や青年誌や少女向け雑誌まで発売している程だ。
当然、最初は受け入れない人間もいたが、今ではすっかり軟化しなりを潜めている。
週刊キムラスカで最も人気を博しているのがビショップ・ヴァレンタインと言う漫画家だ。そもそも、このヴァレンタインこそが漫画の第一人者なのである。
現在、連載しているのは新作テイルズ・オブ・イノセンスだ。触れ込みは“想いをつなぐ物語”
そんなヴァレンタイン先生の本名をルーク・フォン・ファブレと言う。
ファブレと言えばキムラスカ・ランバルディア王国でも上位の家系だ。
そもそも、漫画を売り出すために作られたコピー機もプリンターも全てがルークの考案したものなのだ。
そして、ルークには一つの秘密がある。ルークにはもう一人の男性の記憶があるのである。その男の職業は“漫画家”だったのだ。その男が特に好んでプレイしていたのがテイルズ・オブシリーズであった。
そして、自分の行いも。ぶっちゃけかなりへこんだ。いや、仕方ないじゃんあんな世間知らずな行動をした挙句世界滅ぼしかけちゃうとか。
まあ、仲間からの仕打ちもひどい気がしたけど。
故に、全てを知ったルークは行動した。
まだ間に合う。何か出来る事はないか、と。
そして、得た知識をフル活用したのが、現在売り出されているテイルズ・オブ・シリーズなのである。
「ふう」
ルークはペンを置き一息ついた。
「じゃあ、ちょっと休憩しようか」
その言葉と共に使用人達も背伸びなどをし、コリをほぐす。
「あ、ケインさ、ベールにハーブティー入れてもらって来てくんない?」
「あ、はいわかりました」
黒髪をバックでまとめた好青年の若い使用人は言葉を聞くとすぐ様に飛び出していった。
「そろそろケインにも連載持たせて大丈夫かな?」
呟く。
キムラスカで漫画家になる方法は2つ存在する。週刊誌や月刊誌の新人賞に応募して当選するか有力な漫画家が見染めた人物が連載を持ち、漫画家を名乗る事が出来る。
因みに、Q&S社での筆頭は当然のことながらルーク。“月刊華と乙女”で少女漫画を連載しているガイ。そしてほかにも五人ほど存在する。
「前に見せてもらったネームも悪くなかったし、そろそろ月間あたりでなら連載しても問題ないか」
ふむ、と脳内でチェックしておく。
それにしても、始めた当初はここまで受けるとは思っていなかったんだがなあ、と思う。
今では従業員数も数百単位まで登り、一大産業として発達しているし、これにかこつけて学校まで増やすことが出来た。
まあ、ダアト当たりからは未だに批判されるが、こんな万箱を手放すわけも無く発達し続けているのだ。
そこに、
「お待たせいたしました。ルーク様。ベール様よりハーブティーをいただいてまいりました」
「ありがとう、ケイン」
一口含み、
――うん、美味いな。
心のあったまる味とでも言うのだろう。良いものだ。
ルークはカップを置き、
「あ、ケインさ、今度編集長(執事)に連載の許可出しておくから、明日からはここに来ないで自分の連載の準備しておいてくれよ」
言うと、
「ま、真でございますか!?」
歓喜の笑みと、驚愕と、嘘ではないのかと言う疑心が複雑にまじりあった声が出される。
「うん、真」
二度目の言葉でようやくケインはルークの言葉が嘘ではない事を確認した。
「あ、ありがとうございます!! これからも、誠心誠意頑張らせていただきます!!」
「おう、頑張ってくれよ」
こうして、キムラスカにまた一人の漫画家が生まれたのだった。
※
クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレは小説家だ。
それも、結構な売れっ子である。
今日も机に向いながらファンレターとカミソリレターとにらめっこしていた。
そして、顔をにやけさせながら手紙を見るのである。
クリムゾンのもっぱらのメインタイトルと言えば冒険小説だ。
自身の過去を少し誇張して書いたヴァーミリオン戦記はQ&S社のメインタイトルの一つでもある。
当然、自分とシュザンヌの出会いもものすごくロマンチックに描かれている。
……自身とシュザンヌの濡れ場を書いたイチハチ禁も書いてはいるが、それは当然机の中にお蔵入りされていた。
さて、と、息をつき今日も息子が開発させた“ワープロ”を使い小説を書くのだった。
※
キムラスカで最近起きた祭日に“コミケ”と言う祭日がある。
これは、もはやキムラスカの一大イベントと言ってもよい。
他の都市、街、噂では帝国からも参加者が居ると言われるくらいの巨大な祭典だ。始まりは三年前からである。
これのおかげで、貴族と庶民のつながりが深くなったと言われ、それなりに好評な祭典だ。
が、
「何で、何でこんな日にヴァン師匠来るんだろう」
呻く。
ヴァン師匠、ぶっちゃけ本名は忘れたが今日やってくるのだ。
ぶっちゃけヴァンの存在は原作程ルークに影響を与えていない。むしろ、ラスボスだったヴァンにどのような対策をとればいいか頭を悩ませるばかりである。
使用人からも評判は悪い。素行なんかは悪くないのだが、彼が来るとルークが漫画を描けないからだ。使用人にとってルークの描く漫画はかなりの娯楽なのである。
そして、
「行くぞ、ルーク」
「ハイ、ヴァン師匠!」
庭の中央にて鍛錬が開始される。
原作ほどヴァンにくくらずに、普通の兵士や騎士からも多くを学んでいるので、現時点では原作より筋力体力実力技術のどれもが上だ。
まあ、ヴァンよりは下だが。
と、ルークの頭に何かが引っ掛かった。
あれ、と。
「よし、これにて鍛錬終わり!!」
その声がかかり、鍛錬は終了。
だが、
ようやくルークは思いだした。
あ、と、
だが、もう遅い。
「裏切り者、ヴァンデルスカ、覚悟!!」
そう、今日がティアの襲撃日だったのだ。
ヤバ、と思いつつヴァンの目の前に立ちふさがり防御する。
ヴァンを守るつもりは毛頭ない。
だが、ここでヴァンを殺させればティアが死刑になるのは必至。自分の言葉など聞き入れられないだろう。ただでさえ貴族の屋敷に侵入しているのに。
一応ゲームじゃこっぴどい言葉を掛けられはしたが、それでも一応仲間だった存在である。
「な!?」
襲撃者(ティアでいいはず)は明らかに狼狽し、
そして、周囲が揺れ始める。
あー、もう、こうなっちまったかー、とルークは思う。
すでに視界が薄れ始めたから対処は遅かったけど。
――まあ、
何とか交渉して屋敷の外には出れるが、未だに外には出れないのだ。これにかこつけて少し外の世界を見るのもよかろう。
行って来ます、と小さくこころのなかで呟き、そして、飛んだ。
こうして、ルークの冒険は始るのだった。
※
「えっと、はじめまして」
「え?」
そして、史実とは違う伝説が紡がれる。
おまけ
因みに、ルークが漫画を描いた影響。
・ガイ先生は少女漫画家。
・ナタリアは婦女子。
・お母様も婦女子
・パパは冒険小説家。
・ジェイド大佐はテイルズの大ファン。ついでに、ルークが気まぐれで書いた探偵小説もお気に居りのご様子。
・アニスは現在漫画家を目指している。
・イオンは漫画で絶賛悪影響を受けている。アニスの漫画選択のせいである(最近、口が悪くなってきたと嘆く声がある。仕方ない、任侠ものだし)
・アッシュはツンデレ。悪態をつきながらも全巻そろえてるし(テイルズ)、ファンレターも出してる。
・シンクもツンデレ。やっぱりファンレターは欠かさない。面白くないとか言ってるのに。
・アリエッタが最近イラストを描き始めたようだ。キムラスカの雑誌に載せたいと言っている。
・リグレットはキムラスカで売り出されているぬいぐるみを各種そろえている。
・ピオニー閣下も絶賛抜け出してキムラスカを漫遊している。
・マルクトでは現在和平を望む声が急増中だ。漫画が安くないからである。
※
オリジナル板で連載しているSSの前身です。フォルダを整理していたら見つけたので乗っけてみました。
ストーリー的には続かないが、各エピソードのようにときどき投下されるかもしれない。