講義内容要旨
1 米空軍特別捜査局(OSI)について
発足は1958 年。FBI長官が米空軍にもFBIと同様の組織が必要との提案を受け、主に
米空軍の管轄内における重犯罪の捜査、防諜、テロ対策等を目的として創設された。
FBIや500 MI(陸軍系)とは、国防省を通じて情報交換を行うことを原則とするが、実
際の運用としては、OSIと他の部局との情報交換も可能とのこと。(例えば、座間基地を狙
って飛翔弾が打ち込まれた等の事案が発生した場合、通常500 MI(又はCID;陸軍犯罪捜査
部)が状況をワシントンへ報告し、国防省が情報の選別を行い、必要に応じ、在京のOSI事
務所その他へ指示・伝達が下りる。なお、先日発生した同種事案では、特段、情報・指示等は
下りていないとのこと。)
全世界を8のエリア(8管区)に分け、日本の支部は第6管区太平洋司令部の傘下にあり、
同管区の所管区域は、韓国、グアム、ハワイ、アラスカからアフリカ地区に及び、15 の事務
所を設置している。日本国内のOSI 事務所は、三沢基地、横田基地(日本支部)、東京、嘉手
納基地の4カ所である。人員は、エージェント以外の支援要員を含めると国内約1900 人に及
ぶ。
2 爆発物処理班(EOD)について
EODの任務は、爆弾処理だけではなく、(炭素菌やサリンなどの)生化学兵器の処理、爆
発物の輸送、大統領等要人来日の際の各種対策にも従事する。基地自体のサポートも行って
おり、探知犬による捜索、入場車両の探知やセキュリティチェックにも従事、また、場合に
よっては戦死した兵士の遺骨収集に当たることもある。
また、EODは、日本国内に三沢、横須賀、富士、岩国の4カ所設置されており、空軍のみ
ならず海軍等にも存在するが、同一の研修所で訓練を行う。担当を地域で分けており、初動
措置は、この区割りで出動することとなり、事後の捜査を各主管基地の所属する班に引き継
ぐことになる。三沢の担当エリアは、北海道、本州であるが、各班とも緊密かつ柔軟な連携
を行っている。(例えば、北海道沿岸沖での海上爆発事案が発生した場合、初動は三沢のEO
Dで行うが、海上事案であれば、横須賀のEODへ引き継ぐことになる。)
三沢EODの人員は、現在、14 名。内6名がイラクへ派遣中で、2名がイラク派遣に向け
た事前訓練中、4名がアフガンから帰還したばかりである。イラクへもアフガンへも派遣経
験がない者は、2名のみ。講師を務めたシューマン曹長は、14 年のキャリアで、内4年間を
中東で勤務した経験を持つ。
隊員のスキルにより10 段階のレベル分けがなされている。(シューマン曹長はレベル7で、
基地に在隊している中では最上位)実働レベルでは、レベル3からレベル9までで、レベル
3は研修終了程度、5レベルからは、実戦で爆発物処理を任せられるレベルになるという。
レベル9ともなると、司令官の補佐を行うほどの実力を持つが、判断に誤りは許されない厳
しい任務となる。
3 爆発物発見時の措置について
(1) 措置要領は4段階あり、人命に危害を与える危険度により、爆破処理するか、安全化処
理するかの判断基準に用いられる。
置措度(緊急度) 険危カテゴリー
放置するか、爆破処理できる
カテゴリー1 人命に関わる重大なもの即時対応し、爆発物を安全化する
カテゴリー2 場所等立地条件で少し余裕を持てるもの避難措置を取らせた上で、安全化する
カテゴリー3 時間をかけてかまわないもの時間をかけて、処理方法を判断する
カテゴリー4 人命に関わる状況が薄いもの
(2) 処理の手段
基本的に液体窒素を用いてバッテリーを冷凍するという方法での安全化の措置はとらない
(先方曰くそれは60 年代のやり方であるとのこと)。起爆部分を銃型破壊装置(デスラプタ
ー)で破壊するか、本体から切り離すことで安全化するか、あるいは爆弾を安全な場所まで
輸送して、一ヶ所に集めて遠隔爆破させるという方法を取っている。(爆弾処理が第一であ
るという印象を受けた。)
(3) 爆発物処理班の装備資機材
機材、人員搬送のピックアップトラックとリモコン式処理車搬送用のパネルトラックが
ある。ピックアップトラックもパネルトラックも耐爆仕様となっていない。
爆弾処理時に着用する耐爆耐火スーツ(カナダMEDENG社製)も現在警察で使用
しているものより改善され空調も装備されている。また、重装備のスーツを装着して長く歩
行をさせないため2輪直立の車両(セグウェイ最高速32km)も用意されている。
リモコン式処理車はバッテリーで駆動し、タイヤによる走行のほかラック式車輪で段差
があるところも走行可能であり、爆発物をつかむマジックハンドはアームが最短時で42 k
g最長時で22 kgの物体を移動できる。また同車にはカメラ3台、スピーカマイク1個、
照明2個が装備され、操作用のパネルトラックにおいて映像を見ながら遠隔操作(有線式最
長1 km)できる。(有線式、無線式両用)
4 軍用爆薬の特徴
誤爆を防ぐため安定性を重視していることから、民生品とは組成物の割合が異なる。例えば、
RDXを主成分とするC4爆弾も鈍感に作られている。
雷管の火薬にRDX を使用していることと、日本の工業用雷管は銅製筒を使用しているが米
空軍の雷管はアルミニウム筒を使用している。
5 リモートコントロールによる発破作業
無線式の発破機を使用しており、携帯電話による誤爆を防止するため実験中は携帯電話の電
源を切るように指示された。無線機の周波数は、アンテナ長が約60 cmで有ったことからV
HF帯(300Mhz より低め)の電波を利用していると思われる。
6 麻薬合成工場における副産物の爆薬
メキシコなどの麻薬合成工場に、ホームメイド爆薬が見つかることが多い。これは、メタ
ンフェタミンやアンフェタミン生成過程で、起爆性の高い物質が副産物として生成されるこ
とがあるためである。そのため、捜索等、強制捜査の際には、耐爆の装備を用意するのが通
例である。
7 マニアによるバックヤード製造
自宅裏庭のようなところで、爆薬を製造する者もいる(例えば、米中南部の人種差別主義組
織「レッドネック」のメンバーなどが自宅で爆弾製造を行っていた事例がある)が、往々にし
て安全に配慮されていない状況がある。
8 ホームメイド爆弾の特徴
ホームメイド爆弾の仕上げでスポーツバッグに入れたり、アタッシェケースに入れたりその
他作る者のイメージで如何様にもなることから種類は限りなくあることになる。また、その
偽装方法もだんだん巧妙になる傾向がある。手口としては置き去りが多く、最近では、そこ
にあっても違和感のない様な置き方をして、一般に見分けが非常に困難になっている。
また、爆弾の材料は科学の知識と知恵が回れば身近な物でも代用して制作が可能であり、過
去にはインターネットや図書館所蔵書籍でも爆薬爆弾の製造方法が入手できた。
爆弾製造において必須な構成要素は、酸化性物質(酸素を供給するため)と燃料である。さ
らに、爆発効果を高めるために、アルミニウム粉末や砂糖が使用されることがあるが、炭素
を含む砂糖が有効であるというのは、俗説であり、実際の効果はほとんどない。
9 爆薬探知犬の能力
爆薬探知犬は、硝酸エステル濃度が40 %以上になると嗅ぎ分けられる。硝酸エステルは爆
薬の酸化剤として使用されている。