大規模国際テロ事件発生時の初動捜査体制
平成20 年4 月
１ 想定される大規模国際テロ事件
大規模国際テロ事件としては様々な形態が考えられるが、最近のテロの傾向からする
と、公共交通機関等のソフトターゲットを狙ったテロが最も可能性が高いと考えられ、
これらを想定した初動捜査体制を確立しておく必要がある。
警視庁国民保護警備実施計画（平18.7.31 副総監通達甲）で想定されている「緊急対
処事態」の類型の「大規模集客施設等への攻撃」がこれにあたり、具体的にはターミナ
ル駅、劇場、競技場等、不特定多数の人を収容する大規模集客施設等又は列車等の爆破
テロが考えられる。
２ 大規模国際テロ事件発生時の捜査指揮体制
国際テロ事件の捜査は公安部が主管であるが、事件発生当初は大規模国際テロ事件と
の認定が困難である可能性が高く、事件認知時の初動捜査においては刑事部との連携の
下、強力な事件捜査にあたる必要がある。
警視庁では、2005 年7 月に英国のロンドン中心部において発生した同時多発テロ事
件を受けて、公安部、刑事部、警備部、総務部合同で「重大テロ事件発生時の対処要領
合同図上訓練」（2005 年10 月24 日）を実施したが、警視庁管内で同様の事件が発生し
た場合、これらの部は当然のこと、全庁を挙げて以下の捜査体制を確立することとなる。
（別添「大規模国際テロ事件発生時の初動捜査体制」（体制表）参照）。
○ 最高警備本部（警視庁本部17 階総合指揮所内）
本部長〜警視総監、副本部長〜副総監、幕僚長〜各部長、各部参事官
○ 現地対策本部（関係署の適当な署内）
総括指揮〜副総監、現場指揮〜公安部長（刑事部長）、幕僚〜刑事部長（公安
部長）、関係部長、公安部、刑事部、関係部参事官
※現地対策本部に特別捜査本部を設置、それぞれの参事官を責任者とする公安部対策室、
刑事部対策室が設置され、相互に連絡員が置かれる。
※公安部対策室には外事第三課理事官以下（外三・公総・公三）による総括デスクを置
き、捜査全般の統括を行う。
※警察庁、検察庁等関係機関に対する報告は、公安部対策室を通じて行う。
３ 公安部対策室
現地対策本部に特別捜査本部を設置し、参事官を責任者とする公安部対策室及び刑事
部対策室を置く。両対策室は緊密な連携を保持するため、同一大会議室内または同一フ
ロアー内設置を基本とする。
公安部対策室には、直ちに、外事第三課理事官以下をして総括デスクを置き、刑事部
対策室と協力して特別捜査本部の捜査運営に当たり、初動捜査活動、現場鑑識活動、被
害者対策、情報収集活動、視察追求活動、各種対策等の結果及び進捗状況を把握し統括
する。
※公安部対策室総括デスクには、ロジ総括を担当する当課企画係長以下１０名、初動捜
査を総括する事件係長以下５名の配置が適当と思われる。
４ 捜査活動
個々具体的な捜査活動は、公安部・刑事部合同による初動捜査、現場鑑識、被害者対
策等のほか、公安部が独自のノウハウで行う情報収集・視察追及活動、ホテル・レンタ
カー対策、海空港対策等がある。
外事第三課の分掌事務は「国際テロリズムに係る警備情報の収集、取締り及び捜査」
であり、国際テロ事件発生の際には主管課として捜査の中核となり、発生現場における
初動捜査活動や犯行テロリストを特定するための情報収集・追及活動に全力を投入する
と同時に、現場鑑識活動、被害者対策、ホテル・レンタカー対策、海空港対策など捜査
全般にわたり当課員を従事させる必要がある。
(1) 初動捜査活動（捜査第一課長指揮）
ア主管課
捜査第一課長指揮の下、捜査第一課、各機動捜査隊、公安部からは公安第一課と
外事第三課が初動捜査に入る（公安部は公安第一課長指揮）。
※ 図上訓練時の体制は、刑事部は1 カ所につき捜一(20)、機捜(30)の計50 名、発生場所
を5 カ所と想定しているので最大250 名体制。公安部としては、1 カ所につき40 名で、
最大200 名体制。テロ事件の規模と発生件数によるが、1 カ所につき当課員20 名前後が
妥当と思われる（内数）。
イ任務
具体的な初動捜査活動は以下のとおり。
○ 事件概要の把握と報告（事件認定）
・発生日時・場所、発生時の状況把握（届出人、目撃者の確保、写真撮影等）
・被害者、負傷者の把握及び救護（人定、負傷程度の確認、死体搬送）
・被害拡大の有無（危険区域の設定、交通規制及び広報活動）
・犯人に関する情報収集
○ 事情聴取等
・被害者、目撃者、現場周辺居住者及び勤務者等に対する事情聴取等（地取り、
動態調査、聞き込み班等の編成）
※ 聴取メモを活用し、人定等を記録（データ化）
・現場蝟集者に対する写真・ビデオ撮影（公機捜要請）
・現場周辺の不審者に対する職質・身柄確保
○ 防犯ビデオ等の回収・分析
・町会、会社、コンビニ及び周辺駅構内ビデオの早期回収
※ 必要数のビデオデッキ、分析場所、要員の確保は、爆破の規模や回収ビデオの
本数により別途計画が必要
・N システムデータの入手・分析
・航空隊撮影の現場映像の確保・分析
※ 航空隊への上空からの撮影要請と広報課へのマスコミ航空規制に関する要請
○ 出国阻止のための措置（海空港対策を除く）
テロリスト及びテロ支援者等の国外逃亡阻止のため、緊急配備の発令により、
高速道路、都県境等で検問を実施するほか、以下の対策を講じる（図上訓練時
は、公安部の対策となっている）。
(ｱ) リムジンバス対策
都内5 カ所発着所（東京シティーエアターミナル、吉祥寺駅、調布駅、京
王多摩センター駅、立川地区）から成田に向けて出発するリムジンバスの乗
客の確認
(ｲ) 駅対策
新幹線、成田エキスプレス、京成スカイライナー利用による出国阻止のた
めの駅見当たり捜査（鉄警隊員による車両警乗を含む）
※ 新幹線：東京、品川
※ 成田エキスプレス：新宿、渋谷、東京
※ 京成スカイライナー：京成上野、日暮里、�愿�
(ｳ) タクシー手配（通信指令本部〜緊急通信システム）
※ 発生現場周辺から近くの駅及び国際空港に向かう乗客を中心
(ｴ) 緊急配備F ネットシステムの活用（通信指令本部）
※ ガソリンスタンド、コンビニ、病院
(2) 鑑識活動（鑑識課長指揮）
ア主管課
鑑識課長指揮の下、鑑識課、科捜研、公安部としては公機捜が中心となり現場鑑
識活動に当たる。
※ 図上訓練時の体制は、1 カ所につき、鑑識課(30)、科捜研(4)の計34 名、発生場所を
5 カ所と想定しているので、最大で120 名体制。当課員等5 名が妥当と思われる。）
イ任務
具体的な鑑識活動は以下のとおり。
○ 現場保存・採証活動
※ 規制線の早期設定（可能な限り広範囲）、半径500 メートル程度の現場検証
○ 爆発物、被害状況の特定
※ 爆発物：種類、数量、規模、証拠保全（気化による滅失防止等）
※ 被害者・被疑者の特定：ＤＮＡ登録資料の採取
※ 警察犬の積極活用
○ 国際テロ事件の認定
※ 国際テロ情勢、犯行形態、犯行場所、被害者、犯行声明等のほか、爆弾組成物、爆弾
構造、起爆装置等を総合的に分析し、国際テロ事件容疑性を速やかに判断する。
(3) 被害者対策（刑事総務課長指揮）
ア主管課
刑事総務課長指揮の下、刑事総務課、捜査共助課、捜査第一課、公安部としては
公安第二課が、被害者支援本部（総務部）と連携し、被害者の救護等にあたる。
※ 図上訓練時の体制は、1 カ所につき刑総（8)、捜共(4)の計12 名、発生場所を5 カ所と
想定しているので、最大60 名体制。当課員等5 名が妥当と思われる）。
イ任務
具体的な被害者対策は以下のとおり。
○ 被害者の人定確認（被害の部位程度、収容先等詳細の記録化）
○ 被害者等からの事情聴取
○ 身体等に付着した微物採取及び証拠化
○ 検視、遺体解剖（多数遺体収容位置の記録化）
※ 自爆テロでは死者・負傷者の中に被疑者が含まれている
(4) 情報収集・視察追及活動（外事第三課長指揮）
ア主管課
外事第三課長指揮の下、外事第三課、公安第四課で情報収集、視察追及作業にあ
たるが、当課の最大の要員を投入する必要がある。
イ任務
具体的な情報収集、視察追及作業は以下のとおり。
○ 情報収集活動
入手情報の集約・管理、データベース化、情報評価、容疑解明を迅速に行うた
め捜査員を十分に確保する必要あり
※ 当課員等40 名前後が妥当と思われる。
・協力者、提報者、イスラム団体関係者、ハラールフード、レストラン関係者、
化学剤、タクシー、中古車等の管理者及び担当者、イスラム研究者等
・上記以外の管下、対象国人に対する地域課員による総面接の実施（不審情報
の入手）
・110 番通報及び有線による情報収集
※ 既に当課に設置されている10 台の有線回線を開設
・警視庁ホームページからの情報収集
※ 自動的にホームページの外事第三課メールボックス開設
・報道、インターネットサイトからの情報収集
※ 広報課との連携
・警察庁を通じた外国機関との情報収集
○ 視察追及活動
事件認知と同時に以下の対象施設の24 時間体制視察に入り、併せて、事件発
生前後の礼拝参加者の動態調査・分析を行うこととする。
※ 図上訓練時の体勢は、100 名であることから、当課員等（公安第四課員を含む）40
名前後が妥当（内数）と思われる。
なお、蝟集場所にあっては、容疑性の高いランクについては当課員等主導によ
る視察追及を実施するが、原則として管轄署対応とする。
・モスク、ムサッラー（管内15 カ所）
・イラン大使館、イラン人協会
・蝟集場所
(5) ホテル・レンタカー対策（公安総務課長指揮）
ア主管課
公安総務課長指揮の下、公安総務課が管下全警察署の協力を得て、ホテル、レン
タカー対策にあたる。
※ 図上訓練時の体勢は60 名であることから、当課員等5 名前後が妥当と思われる。
イ任務
○ ホテル
・犯行1 週間前からの宿泊者名簿の入手による不審者の抽出及び管理者等から
の不審情報の入手
○ レンタカー
・犯行1 ヶ月前からの借り上げ者の確認による不審者の抽出
(6) 海空港対策（外事第一課長指揮）
ア主管課
外事第一課長指揮の下、外事第一課が海空港対策にあたる。
イ任務
具体的な海空港対策については以下のとおりであるが、テロリスト及びテロ支援
者等の国外逃亡を阻止し、身柄確保を目的とした対策を行う。速やかに羽田空港及
び東京港で、全ての外国人に対する所持品検査及び身分確認を徹底するが、併せて
警察庁を通じて成田空港をはじめとする国際空港を管轄する道府県警察に対しても
同様の措置を依頼する。
※ 図上訓練時の体勢は、空港対策で30 名、東京港対策で24 名であることから、当課員
等10 名前後が妥当と思われる。
※ 大規模テロ事件の発生に際して、入管に「出国確認の留保」を依頼することは現時点
困難であることから、あらかじめサミット開催時等のテロの脅威が高い時期及び大規模
テロ事件発生が懸念される時期の1 週間前から終了までの間と期間を限定し、かつ、具
体的な人着等一定の要件を付して「出国確認の留保」特例措置を、事前に警察庁と法務
省の協議により確立しておく必要がある（国際テロ事件発生の場合、入管との協議によ
り個別に「出国確認の留保」で対応することも可能ではないか〜組対二課の見解）。
○ 乗客名簿の入手、外国人の国際線搭乗券購入者の名簿入手
○ 国際線
・出国者に対する総面接及び出国者情報の完全把握
※ 発生1 ヶ月前の入国者との照合
・ビデオ等から割り出した容疑者と出国者との照合
・自爆テロリストから採取した指紋等鑑識資料の照合
※ BAF（BICS,APIS,FREESIA)システムとの各種照合は当課対応とする。
○ 国内線
・すべての外国人を中心とした所持品検査及び身分確認
○ 東京港
・出国者に対する総面接及び各埠頭における不審者職質
５ 当課の捜査員配分
別紙「大規模国際テロ事件発生時の初動捜査体制（外事第三課）」参照