2010年11月1日
警視庁など警察の内部資料とみられる文書がインターネット上に流出した問題で、文書には、国際テロの捜査に絡んだ「協力者」のイスラム教徒の外国人や捜査対象者の名前といった個人情報が含まれていることがわかった。在日外国大使館の関係者の銀行口座の記録や、米連邦捜査局(FBI)からの捜査要請に関する文書もあるとみられ、流出した文書は100点以上にのぼるとされる。
警視庁は、ファイル交換ソフトを通じて秘匿性の高い内部文書が流出した疑いが強いとみて、文書の内容を精査。各文書の作成にかかわった警察官らから事情を聴くなどして流出の経緯を調べている。
関係者によると、流出したのは国際テロに関する捜査や情報収集を担当する警視庁公安部外事3課のほか、警察庁、愛知県警で2004年から今年にかけ作成されたとみられる文書。
この中には、国内外の捜査「協力者」の外国人についての個人情報や、捜査員による接触の計画、提供された情報などをまとめた文書がある。また、国内に住む複数のイスラム教徒の名前や住所、電話番号、出入国歴とともに、「容疑情報」として、それぞれの人物の行動や交友関係が書かれたものがある。
このほか、東京都内のモスク(イスラム礼拝所)の視察体制▽大規模な国際テロ事件が発生した際の初動捜査の手順▽警察庁の課長の指示内容▽FBIが主催した研修の講義内容▽FBIの要請に基づく国内のイスラム教徒への聴取計画――などが含まれている。
警視庁外事3課の課員構成表や捜査員の名前や住所といった個人情報もある。同課から警察庁国際テロリズム対策課に送られたとみられる文書も含まれているという。
警察の内部情報流出をめぐっては、06〜07年に愛媛、山梨両県警や警視庁北沢署の警察官の私有パソコンから、ファイル交換ソフト「ウィニー」を介して捜査情報が流出した。
■APECに影響も
今月中旬に横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を目前にしたこの時期に、警察のものとみられる国際テロに関する情報が流出したことは深刻だ。海外の情報機関からテロに関する情報が提供されにくくなるなど、APEC警備に影響が出る事態も懸念される。日本の警察に対する国際的な信用の失墜につながる恐れがある。
流出情報の中には、2008年に開催された北海道洞爺湖サミットの際の国際テロ対策とみられる文書もある。同サミットは01年の米同時テロ以降、国内で初めて開かれた大規模国際会議。当時の警備に関する資料の流出は、今回のAPEC警備に影響を及ぼしかねない。
テロに関する情報は長期間にわたって地道に集めることが必要だ。テロ組織の情報を提供してくれる協力者をつくり、重要人物の動向監視をする。情報は警察組織の中でも特に秘匿性が高いとされる。
ある警察幹部は「単なる情報漏洩(ろうえい)ではなく、日本のインテリジェンス(情報活動)の危機だ」と指摘する。警備畑が長い元警察幹部によると、情報提供者の名前などが明らかになれば人命にかかわることもあるという。
今回の問題について、外国人が絡む犯罪の捜査に携わってきた警察幹部は「情報流出で海外の情報機関から信用を失えば、情報が提供されなくなる恐れもある。影響は計り知れない」と懸念する。