金属材料の靭性と衝撃試験について


1.はじめに
 装甲の強さを語る上で、重要なパラメーターに、靭性というものがあります。ここでは、靭性について説明するとともに、衝撃靭性の測定方法である、衝撃試験について説明します。

2.装甲と靭性について
 靭性とは、材料に応力をかけた場合に、破断に至るまでに、どのくらいの仕事を受けられるか、すなわち、引張試験の応力−歪線図で考えた場合、応力−歪曲線で囲まれた面積の大きさであると言えます(図1の衝撃試験の応力−歪線図と靭性の意味を参照)。別の言い方をすれば、その材料の強度(硬さ、降伏点、耐力など)と延性(伸び、絞りなど)を、総合的に評価したものと言えるかと思います。どうして、このようなパラメーターが、装甲の強さを語る上で、重要なのでしょうか?例えば、硬いけれど、脆くてすぐに割れてしまう装甲板(図2 高強度−低延性材の応力−歪線図参照)と、軟らかいけれど延性が高く、なかなか割れない装甲板(図3 低強度−高延性材の応力−歪線図参照)があるとします。両者では、どちらの装甲鋼板が強いでしょうか?これに答えるために、靭性というパラメーターが必要なのです。硬いということは、その装甲板を変形させるために必要な力が大きいことになりますが、仮にすぐに割れてしまうとすれば、その力に耐える仕事量が少ないということなのです。装甲の場合、着弾による衝撃で多少変形したとしても、護るべき内部に被害が出ないとすれば、目的は達せられるわけです。ですから、硬さだけで、装甲の強さ説明することは、至極ナンセンスな話なのです。

図1 衝撃試験の応力−歪線図と靭性の意味
図2 高強度−低延性材の応力−歪線図
図3 低強度−高延性材の応力−歪線図

2.延性破壊と脆性破壊
 鉄鋼材料は、低温、切り欠き(ノッチ)による集中応力、衝撃的な荷重などにより、靭性や延性が大きく低下して、破壊されやすくなります。このように、靭性や延性が大きく低下することを、脆化と呼び、脆化による破壊形態を、脆性破壊と呼びます。また、低温と切り欠き(ノッチ)による脆性を低温脆性または低温切り欠き脆性、衝撃による脆性を衝撃脆性と呼びます。装甲材料では、高速の弾丸の衝撃的な荷重がかかりますので、強度は、衝撃脆性の問題と密接に関係するわけです。
 延性破壊とは、脆性破壊の対義語で、その材料が持つ、通常の延性を保持した状態での破壊のことです。

3.衝撃試験
 金属材料の衝撃脆性を測定する方法の一つに、衝撃試験があります。以下、衝撃試験について説明します。

[衝撃試験方法]
 金属材料の衝撃試験方法は、日本工業規格[JIS:Japan Industrias Standerds]で規定されています。該当するのは、JIS Z 2242 金属材料衝撃試験方法[Method of impact test for metallic materials]です。ここでは、基本的にこの規格にそってお話をします。もし、疑問点がありましたら、JISハンドブック等をご参照ください。

[衝撃試験片]
 試験片とは、例えば、装甲材料の場合、装甲の一部を切り出して、試験用に規定された形状に加工した状態のものを言います。衝撃試験でも、試験に供するための試験片というものが規定されています。この規定もJISにあり、該当するのは、JIS Z 2202 金属材料衝撃試験片[Test Pieces for Impact Test for Metallic Materials]です。では、試験片がどういうものか見てみましょう。衝撃試験片の形状寸法を図4に示します。図4の試験片は、JIS4号試験片と呼ばれ、シャルピー衝撃試験に用いられるものです。ちなみに、試験片には、1〜5号までの種類があり、1〜2号は、アイゾット衝撃試験用で、3〜5号は、シャルピー衝撃試験用です。

図4 4号衝撃試験片の形状寸法(JIS Z 2202 金属材料衝撃試験片より)

[試験機]
 衝撃試験機も、JISに規格があります。該当する規格は、JIS B 7722 シャルピー衝撃試験機とJIS B 7723 アイゾット衝撃試験機です。詳細は、JISハンドブック等をご覧ください。それでは、衝撃試験機がどのようなものか、写真を見てみましょう。シャルピー衝撃試験機の外観を図5に示します。写真の左上のものが、ハンマーで、下の方に、試験片を置く所があります。構造は、ハンマーが振り子のように回転運動するようになっており、重力により回転−落下運動し、一定の運動エネルギーで、試験片を叩くように造られています。ハンマーが試験片を叩くと、運動エネルギーの一部は、試験片を破壊するために費やされますので、ハンマーの存速が低下します。それは、ハンマーが振り子のように戻ってくる際の、振り上がり角度に表れることになります。その戻り角度を測定するのがメーターで、ハンマーがどのくらいの角度まで戻ったかを指針で記録します。なお、ハンマーは重く、上げた状態だと危ないため、使わないときは、落ちた状態にしてあります。ハンマーを持ち上げるときは、ハンドルを回します(最近は、電動モーター付きで、自動のものもあります)。

図5 シャルピー衝撃試験機の外観

[試験結果の解析]
●試験片を破断するために要したエネルギーの求め方
 試験片を破断するために要したエネルギーは、次式によって算出します。

E=M(cosβ−cosα)

ここでのMは、以下のように表せる。

M=Wr

ただし、

E:試験片を破断するために要したエネルギー[J]
M:ハンマーの回転軸の周りのモーメント[N・m]
W:ハンマーの質量による負荷[N]
r:ハンマーの回転軸中心から重心までの距離[m]
α:ハンマーの持ち上げ角度
β:試験片破断後のハンマーの振り上がり角度

計算結果の例を表1に示します。表1の例では、ハンマーの質量による負荷(厳密にいうと違うのですが、重量だと思ってください)は、253.502[N]=25.85[kgf]、ハンマーの回転軸中心から重心までの距離は、0.75[m]、ハンマーの持上げ角度は、143[deg]の条件で試験し、破断後の戻り角度が、133[deg]でした。計算の結果、試験片の破断に要するエネルギーは、約22.2[J]でした。

表1 シャルピー衝撃試験の計算結果例
項目 単位
ハンマーの質量による負荷 253.502 [N]
ハンマーの回転軸中心から重心までの距離 0.750 [m]
ハンマーの持上げ角度 α 143 [deg]
試験片破断後のハンマーの振上がり角度 β 133 [deg]
ハンマーの回転軸の周りのモーメント M=Wr 190.126 [N・m]
試験片を破断するに要したエネルギー E=M(cosβ−cosα) 22.2 [J]

なお、厳密に計算する場合には、ハンマーの運動中に失ったエネルギー、すなわち、空気抵抗や、回転軸の抵抗などを考慮する必要があります。その場合、あらかじめ、そのエネルギーを測定しておき、下式で計算します(その程度の誤差は無視して、前述の式で計算するのが一般的です)。

E=M(cosβ−cosα)−L

ただし、
L:ハンマーの運動中に失ったエネルギー[J]

●脆性破面率の計算方法
 試験片の破断面を観察すると、脆性破面と延性破面が観察される場合があります。その際に、脆性破面率というものを計算することがあります。その計算方法は、下記の通りです。

B=(C/A)×100

ただし、
B:脆性破面率
A:破断面の全面積
C:脆性破面の面積

横膨率
 その他に横膨率というのも計算する場合がありますが、あんまり使わないので省略します。

●破面遷移温度Trs50およびエネルギー遷移温度TrE
 オーステナイト系ステンレス鋼以外の鉄鋼材料は、低温において、靭性が低下する現象が見られます。この現象は、試験片の温度を下げて、衝撃試験を行なうことで、確認することができます。試験温度と衝撃吸収エネルギーの関係を図6に示します。図6の例では、-30℃を境に、衝撃吸収エネルギーが低下し、脆性破面率が高くなっていくことが判ります。そして、図中の衝撃試験片の破面に50%以上の脆性破面が見られる温度を、破面遷移温度Trs50または、エネルギー遷移温度TrEと呼びます。なお、衝撃吸収エネルギーが、延性破面100%における値の50%以下になる温度を、エネルギー遷移温度TrEとする場合もあります。

図6 試験温度と衝撃吸収エネルギーの関係(JIS Z 2242より)

[シャルピー衝撃試験値の例]
 装甲鋼板等の機械的性質の規格値(SI単位換算)を表2に示します。例えば、大和型戦艦の舷側甲板であるVH鋼板の母材部(VHは表面焼入れ鋼板なので、表面側はこの規格範囲ではありません)のシャルピー衝撃値の規格値は、180mm厚さ以上のもので、最低41[J]、平均47[J]というものでした。

表2 装甲鋼板等の機械的性質の規格値(SI単位換算)
名称 装甲の種類 板厚
[mm]
降伏点
[N/mm2]
引張強さ
[N/mm2]
伸び
[%]
絞り
[%]
シャルピー
衝撃値
[J]
使用例または
採用年
最低 平均
SCMQ5V  一般材 −  ≧415 580-760 ≧18 ≧45 ≧47 ≧54 高温圧力容器用高強度
クロムモリブデン鋼鋼板
JIS G 4110
VH 表面硬化 >180 >392 735±98 >20 >40 >41 >47 戦艦「大和」等の舷側甲板
1937年ごろ採用
180-75 >441 785±78 >19 >40 >38 >45
NVNC 均質圧延 >180 >392 735±98 >20 >40 >41 >47 戦艦の水平鋼板
1925年採用
180-75 >441 785±78 >19 >40 >38 >47
75> >490 834±59 >18 >40 >34 >41
MNC >180 >392 735±98 >28 >40 >47 >54 戦艦「大和」の水平甲板
1940年採用
180-75 >490 834±59 >20 >40 >41 >47
CNC 75-50 >588 834±59 >19 >40 >41 - 艦の水平甲板
1932年採用
CNC1 50> >588 785-883 >19 >40 >41 - 艦の水平甲板
1941年採用
CNC2 25> >588 785-883 >19 >40 >41 -

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作成:2002/12/15 Ichinohe_Takao
更新:2003/06/17 Ichinohe_Takao