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[16813] 【ネタ】 マシンロボ漫遊記
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/09/24 10:56
マシンロボ クロノスの大逆襲のクロス物です
ロム・ストールが適当に世界を渡り歩いて適当に相手を凹る話です。
完全にネタですが、よろしかったら見ていって下さい。

※1 もしかすると彼方の好きなキャラが凹られている可能性がありますがネタですので笑って許して下さい。
※2 この作品は不定期更新です。
※3 ある作品とのクロスが見たいというご意見は貴重なものとして参考にさせていただきますが、元ネタを知らない場合や力量不足で書けない場合も多々ありますのでその点はご容赦下さい。



[16813] ゼロと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/26 21:30
白の国アルビオンの都市、ニューカッスルにある礼拝堂で三人の男女が睨みあっていた。
一人は純白のマントに身を包み花で飾られた冠を頭に頂く、桃色がかった髪をした美少女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
一人はトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
そして最後の一人はアルビオン国皇太子ウェールズ・テューダー。
今朝この礼拝堂でウェールズの立会いの下ルイズとワルドの結婚式が執り行われていたのだが、ワルドはルイズを愛しているのでは無く、ルイズの才能を欲していた事を知ったルイズが直前で結婚を断ったのだ。

「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」

そんなルイズに対してワルドは唇の端を吊り上げると禍々しい笑みを浮かべて語りだした。

「こうなってはしたかない、ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
「そうだ、この旅における僕の目的は三つあった、その内二つが達成出来るだけでも、良しとしなければな」
「達成? 二つ? 一体どういうこと?」

人が変わったようなワルドの様子にルイズは不安に慄きながら尋ねた、心の中で考えたくない想像が急激に膨れ上がってゆく。
そんなルイズに見せ付けるようにワルドは右手を上げると人差し指を立てて見せた。

「まず一つは君だルイズ、君を手に入れることだ、しかしこれは果たせないようだ」
「あたりまえじゃないの!」

不安にさいなまれながらも気丈にも叫ぶルイズ。
次にワルドは中指を立てる。

「二つめの目的はルイズ、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙だ」
「ワルドあなた……」
「そして三つめ……お前の命だウェールズ!」

ワルドのアンリエッタの手紙という言葉で全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文の詠唱を開始した。
しかしワルドは二つ名の閃光のように素早く腰に下げた杖を引き抜くと呪文の詠唱を完成させた。
杖に風を纏わせて剣となす、ワルド得意のエアニードルの魔法だ。
ワルドは風のように身を翻らせて、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫こうと迫る。

「待ていっ!」

まさにウェールズの胸を貫くその瞬間、鋭い声と共にワルドの腕を飛礫が襲った、思わず杖を取り落とすワルド。
飛礫が飛んできたほうを振り向くと、礼拝堂の上部に作られたステンドグラスの前に降り注ぐ光を背に受けて一人の男が腕を組んで立っていた。
その男は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ているようだと三人の目には映る。
男の瞳は強い意志に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれる。

「悪しき心を抱くものには真実の光をまともに見ることは出来ん、嘘を突き刺す光、人それを真という」
「何者だっ!」

男に向かってワルドが誰何の声を張り上げる。

「貴様に名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、正拳突き!」
「ぐあっ」

拳をまともに受けて吹っ飛ぶワルド、突如として現れた謎の男の実力に戦慄するが閃光の二つ名にかけておめおめと引き下がるわけにはいかない。

「おのれ、このまま引き下がれるものか! せめてウェールズだけでも亡き者に」
「愚かな、己が妄執を成就させんとする者よ天の怒りを知るがいい、剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

何時の間にか男の腕に握られていた剣が掲げられると雷と共に青い鋼の体を持つゴーレムが現れた、その中へと謎の男が入るとゴーレムが動き出す。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「なんだと、だがこの偏在の魔法を見切れるか!」

青いゴーレムからは並々ならぬ力を感じる、ならば此方も力の出し惜しみなど出来るものではない、得意の偏在の魔法を詠唱し分身を作り出す。

「それが貴様の奥の手か、ならば此方も!」

ケンリュウは持っていた剣、剣狼を空中へと投げて力有る言葉を叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤いゴーレムは腕を水平にすると回転を始める。

「はああっ、天空宙心拳竜巻旋風蹴り!」

暴風を伴なった鋭い蹴りはワルドの偏在を一蹴して消し飛ばした。

「見えたっ、バイカンフーボンバー!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏ってワルドに飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶワルドをそのまま追いかけ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

体勢が崩れたワルドに向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、ワルドに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

ルイズのピンチを知って駆けつけたサイトが見たのは、成敗の声とともに崩れ落ちてゆくワルドの姿だった。

バイカンフー、ケンリュウというゴーレムは何時の間にか消えてそこに居るのは、初めに登場した姿の謎の男であった。
強敵であったワルドを一蹴した謎の男にルイズを背中に庇いながらサイトが恐る恐る声をかけた。

「あ、あの彼方はいったい何者なんですか?」
「名乗るほどの者では無い、しかし君が正義の道を行くのなら何時か轡を並べて戦う時もくるだろう」

サイトの瞳を見つめてそう言葉を残すと悠然と去ってゆく謎の男。
その背中にルイズが声をかける。

「何処へ行くの?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

朝日の中に消えゆく背中を見つめるサイトとルイズの胸には、謎の男が残した正義の心が点っていた。



[16813] 金ピカと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:19
冬木市郊外にある森の中にひっそりと佇む豪奢な居城アインツベルンの冬の城
この城の大広間にて今壮絶な戦いが決着を迎えた。
突如として現れた、黄金の髪と黒いライダースーツを着た赤い瞳のサーヴァントがその圧倒的な力を持ってバーサーカーを打ち倒したのだ。
消え逝くバーサーカーに縋りつく銀の娘イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、その瞳からは大粒の涙がぽろぽろと零れている。

「嫌だ、逝かないでバーサーカー!」
「ふははははは、さて聖杯を回収するとするか」

笑いながら歩を進める黄金の男ギルガメッシュはイリヤの前まで来ると酷薄な笑みをうかべながらその腕を振り上げる。

「ひっ、嫌」

ギルガメッシュは怯えるイリヤの胸に手刀を振り下ろす、サーヴァントの一撃を受ければイリヤの命など簡単に摘み取られるだろう。

「く、やめろおっ!」
「駄目っ、士郎!」

その光景を目前にして飛び出そうとする衛宮士郎であったが、それはパートナーである遠坂凛に引き止められた。
既にサーヴァントを失った二人では万が一にも勝ち目は無い、最早これまでと思われたその時。

「待ていっ!」 

正にギルガメッシュの手刀がイリヤの胸を貫こうとした瞬間、朗々たる声が大広間に響き渡った。

「己の力に溺れる者は、より大きな力の持ち主の前に必ず敗れる、己が不明を悔いる破目になる、人それを必滅という」

声のする方へと視線を送れば大広間の正面にある巨大な階段の上に作られたテラスに、破壊された屋根から降り注ぐ光の中に人影が在る。
それは青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んで立っている一人の男だった。
突然の闖入者に其処に居た全員の視線が集り、自らの行いを邪魔された英雄王が不快な顔を隠そうともせずに誰何の声を上げる。

「王の前でその不遜許しがたい、何者だ名を名乗れっ!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

名を尋ねてくる声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、旋風蹴り!」
「ぐあっ」

蹴りを受けて多々良を踏むギルガメッシュ。

「おのれ~、王を足蹴にするとは最早慈悲を被れると思うなよ!」

その言葉と共に展開させるのは「王の財宝」ギルガメッシュの背後に無数の宝具が出現する。

「愚かな、か弱き少女を手にかけようとする者に王を名乗る資格はない、剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

何時の間にか男の腕に握られていた剣が掲げられると雷と共に青い鋼の体を持つゴーレムが現れた、その中へと謎の男が入るとゴーレムが動き出す。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「ほう、だがそのようなガラクタ一蹴してくれるわ!」

青いゴーレムからは並々ならぬ力を感じるが己の力に絶対の自信を持つギルガメッシュは無数の武器を背後の蔵より撃ち出した。
ケンリュウの周りの床や壁が破壊されてゆくがケンリュウは一歩も引かない、その背後にはイリヤを庇っているからだ。

「さあ、今のうちに安全な場所まで下がるんだ!」

ケンリュウから声をかけられたイリヤはへたり込んだまま動けない、其処へ士郎と凛が走ってくるとイリヤを抱えて奥へと引っ込んだ。

「ふん、今は見逃したとて貴様の後で鼠共々片付けてくれるわ」

その言葉を聞いたケンリュウは持っていた剣、剣狼を空中へと投げて力有る言葉を叫ぶ。

「そんな事をやらせはしない! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」
「なにいっ?!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤い巨人を前にして驚愕するギルガメッシュ、その威容を前にして我知らずに一歩を下がる。
それに気が付いたギルガメッシュは己自身に怒りを募らせ、それを成したバイカンフーへと天の鎖「エルキドゥ」を投じた。

「王を見下ろすとは何事かあっ!」

黄金の鎧をその身に纏い咆哮するギルガメッシュと天の鎖に雁字搦めにされて膝を付くバイカンフー。

「そのまま這い蹲って首を垂れるが良い、我が直々にその首を刎ねてくれる」

口角を吊り上げながら背後の蔵より引き出したのは銘を「エア」という、これこそ英雄王最大の宝具である。
悠然とバイカンフーへと歩み寄るギルガメッシュの前でバイカンフーの瞳が赤く光る。

「見切ったあっ! 天空真剣両断剣」
「何だとう?!」

かつて天の牡牛を捕らえた天の鎖が剣狼の一閃で千々に切り裂いて脱すると、バイカンフーは天高くジャンプした。

「今度は此方の番だ、ストームキィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏ってギルガメッシュに飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶギルガメッシュを追いかけて連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

ギルガメッシュの纏う黄金の鎧が粉々に砕けて行く、鎧を剥ぎ取られた英雄王に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、ギルガメッシュに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

バイカンフーの発する決め台詞と共にその存在を消滅させるギルガメッシュの姿を唖然として見つめる三つの視線。
イリヤをその腕に抱きながら、バイカンフーとギルガメッシュの戦いを見ていた士郎と凛はその力に見入っていた。

バイカンフー、ケンリュウというゴーレムは何時の間にか消えてそこに居るのは、初めに登場した姿の謎の男であった。
桁違いの力を見せた謎の男にイリヤを背中に庇いながら士郎が恐る恐る声をかけた。

「あ、あの彼方はいったい何者なんですか?」
「名乗るほどの者では無い、しかし君が正義の道を行くのなら何時か共に戦う時もくるだろう」

士郎の瞳を見つめてそう言葉を残すと士朗の背中にいるイリヤに向けて優しい声音で語り掛ける謎の男。

「少女よ、巨人に救われた命を大切に真っ直ぐ前を向いて歩け、きっと巨人も君を見守っているだろう」

その言葉を聞いたイリヤが士郎の背中から飛び出して声を張り上げる

「バーサーカーの仇を取ってくれてありがとう」

そのお礼の言葉を背に受けて悠然と去ってゆく謎の男。
その背中に凛が声をかけた。

「何処へ行くの?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

木漏れ日の降り注ぐ森の中に消えゆく背中を見つめる士郎と凛、イリヤの胸には、謎の男が残した正義の心が点っていた。















「絶望した! 此処まで出番の無い事に絶望した!」
「いいから、さっさと城の修理をしなさい、このワカメ!」
「ワカメ、さぼってないで働く」

残された城にはセラとリズにこき使われるワカメが居たとか。



[16813] 誑しと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:19
学校の教室で一組の男女が向かい合って話していた。

「嘘や冗談でこんな事言えないって、私、誠以外とそんな事してないんだからね、誠だけなんだから」
「だからって、俺のってこと」
「酷いよ、なんだってそんな事言うの?」
「俺たちまだ学生だし、世界だって困るだろ」
「だから相談してるんじゃない、誠の子供なんだよ、真面目に考えて!」
「そんな事言われたって……」

誠と呼ばれた男が詰め寄る女の子、会話からすれば世界という名前らしいを妊娠させたようだ、話を遠巻きに眺める級友たちを尻目に話はエスカレートしてゆく。
興奮しすぎたのか世界が吐き気を覚えて倒れこむのを見て、遂にその状況に耐え切れなくなった誠が教室から飛び出そうとしたその時。

「待ていっ!」

何処からとも無く得々と語りかけてくる声があった。
思わず周りを見回すと教室のベランダの手すりの上に腕を組んで立っている男のシルエットが写っていた。

「純なる子供の心を操り、自らの欲望を達しようとするは悲し、人それをエゴという」

動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰だっ!」
「貴様に名乗る名は無い!」

影の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった。

「闇を操り、心を蝕む者を俺は許さん! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いロボットであった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。

「裁きを受けろっ、サンダースウィング!」

掛け声と共に上空高く放り投げられる誠、その誠を追ってバイカンフーがジャンプして追いかけ、追いつくと誠の頭を逆さまにして捕らえると錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられる誠、もうもうと上げる砂煙が晴れるとそこに立っていたのはバイカンフーのみであった。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるとバイカンフーはその姿を消し、後には謎の男が一人佇んでいた。
騒ぎを聞きつけたのか何人もの女の子が学校から飛び出してきた、その中の一人である髪の長い女の子が謎の男に対して声を荒げた。

「彼方は一体誰ですか?!」
「名乗るほどの者ではない、少女達よ愛は尊いものだ、しかし愛に溺れてはならない、君達が真の愛に出会える事を祈っている」

踵を返して歩み去る背中に声が掛けられる。

「何処へ行くんですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」

見送る少女達の胸には暖かい何かが満ち溢れていた。

「か、格好良い」(キュン)



[16813] 誑しと妹と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/13 18:17
※ 誑しと兄さんに加筆、修整をしたもので登場キャラが増えただけで内容は変わりません。
※ 書いた本人が言うのも何ですが誠が更に酷い目に遭っています。
※ たぶん彼女の出番は此処だけになりそうです。


学校の教室で一組の男女が向かい合って話していた。

「嘘や冗談でこんな事言えないって、私、誠以外とそんな事してないんだからね、誠だけなんだから」
「だからって、俺のってこと」
「酷いよ、なんだってそんな事言うの?」
「俺たちまだ学生だし、世界だって困るだろ」
「だから相談してるんじゃない、誠の子供なんだよ、真面目に考えて!」
「そんな事言われたって……」

誠と呼ばれた男が詰め寄る女の子、会話からすれば世界という名前らしいを妊娠させたようだ、話を遠巻きに眺める級友たちを尻目に話はエスカレートしてゆく。
興奮しすぎたのか世界が吐き気を覚えて倒れこむのを見て、遂にその状況に耐え切れなくなった誠が教室から飛び出そうとしたその時。

「待ちなさい!」

唐突に教室に声が響き渡った。
思わず周りを見回すと教室のベランダの手すりの上に腕を組んで立っている女のシルエットが写っている。

「人の世を闇で覆い、愛を悲しみに変えるもの、人それを憎しみという」

動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰?!」

「彼方に名乗る名は無いわ!」

影の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでた不思議な形の鎧を着ている少女であった。
その少女を見て誠の鼻の下が伸びる、ピッタリとした鎧の胸は形良く膨らみ、ぎゅっと絞った腰からまろみをおびた尻とカモシカのような足へと伸びるラインの艶かしさは誠の脳髄に電撃を落としていた。
咄嗟に少女に駆け寄ると肩を抱いて口説きにかかる誠。

「君可愛いな、どう今夜俺の部屋へ来ない? たっぷり楽しもうよ」
「助けて、兄さーん!」

その少女が助けを求める悲鳴を上げた、その時。

「その手を離せ、外道め!」

鋭い声が天地を貫いた、思わず周りを見回すと窓から見えるビルの屋上に腕を組んで立っている男のシルエットが写っている。

「いたいけな少女達の魂を汚し、彼女達の夢と未来を奪う憎むべき怪物、人それを退廃という」

またもや動揺して思わず声を上げる誠。

「だ、誰だっ!」
「貴様に名乗る名は無い!」

影の主は今誠の横にいる少女に良く似た青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった。

「妹を毒牙にかけようなど天が許しても俺が許さん! パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いロボットであった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。

「裁きを受けろっ、サンダースウィング!」

掛け声と共に上空高く放り投げられる誠、その誠を追ってバイカンフーがジャンプして追いかけ、追いつくと誠の頭を逆さまにして捕らえると錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられる誠、もうもうと上げる砂煙が晴れるとそこには逆さまに地面に突き立っている誠の姿とその前に立つバイカンフー。

「まだまだあっ!トルネェードキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが嵐を纏って誠に飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶ誠をそのまま追いかけると眼にもとまらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

一撃を受けるごとにズタボロされてゆく誠へ止めの一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き誠に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるとバイカンフーはその姿を消し、後には謎の男とそれ寄り添う謎の少女の姿があった。
騒ぎを聞きつけたのか何人もの女の子が学校から飛び出してきた、その中の一人である髪の長い女の子が謎の男に対して声を荒げた。

「彼方がたは一体誰ですか?!」
「名乗るほどの者ではない、少女達よ愛は尊いものだ、しかし愛に溺れてはならない、君達が真の愛に出会える事を祈っている」
「そうよ、愛は相手の幸せを願うもの、決して一時の快楽に負けては駄目」

踵を返して歩み去る二人の背中に声が掛けられる。

「何処へ行くんですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」

見送る少女達の胸には暖かい何かが満ち溢れていた。

「か、格好良い」(キュン)
「私の兄さんだもの、当然よ」



[16813] ぎっちょんと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/10 14:21
独立治安維持部隊A-lawsの収容施設から救出されたマリナ・イスマイールは刹那・F・セイエイと共にシャトルで母国アザディスタンへと帰路の途中であった。
元々マリナは刹那が所属するCB(ソレスタル・ビーイング)との関係を疑われての投獄であったが、仲間であるアレルヤ・ハプティズムを救出に来た刹那の手によって図らずも獄より脱する事になったのだ。
マリナと刹那の邂逅は実に数年ぶりのことであり、マリナがアザディスタンの女王として国に暮らしていた時に出会っていた。
その後刹那が世界を相手に戦いを挑むCBのガンダムマイスターである事を知ったマリナは複雑な思いを胸に抱いていた。
しかし今自分のすべき事を考えれば、国の代表として一刻も早く戻り国家国民を安んじなければならない、尤もマリナ自身は血筋は前王の系譜でありながら妾腹でありずっと市井で暮らしてきた人間である。
当時も自分がお飾りだという自覚はあったし、それは今も変わらないであろう。
しかしそれでも自分に出来る事があるのならば精一杯に努めようと追われる身でありながらも国へと帰る事を望んだのだ。

「あの山を越えれば首都が見えてくる」
「はい」

しかし漸くアザディスタンに辿りついたマリナと刹那を待っていたのは衝撃的な光景であった。

「ま、街がアザディスタンの街が燃えている?!」
「逃げるぞ!」

シャトルの窓から見えるのは炎に包まれたアザディスタンの街であった、異変を察知した刹那が咄嗟にシャトルを操り逃亡に移ろうとするが、そこへ無常にも声が掛かった。

「ところがぎっちょん!」

シャトルの前に傲然と存在する深紅のMS、そしてその聞こえてくる声は刹那との因縁深い傭兵アリー・アル・サーシェスの声であった。

「くっ」
「どこのどいつか知らねえが、此処に居たのが運の尽きってなあ」

逃亡しようとするシャトルにビームライフルを向けるサーシェス、如何にガンダムマイスターの刹那といえどもガンダムが無ければMSに対抗するのは難しい。
ビームライフルの先端に光の粒子が集り、シャトルに狙いが付けられる、何とかマリナだけでも逃がさねばと刹那が覚悟を決めたその時。

「待てい!」

鋭い声が三人の耳朶に響き渡った。

「弱肉強食の獣達でも殺す事を楽しみとはしない、悪の道に堕ちた者だけがそれをするのだ、しかし貴様の邪悪な心を天は許しはせぬ、大いなる天の怒り、人それを雷という」

何処からとも無く聞こえてくる声を頼りに声の主を探せばその声の主は青いヘルメットをかぶり、青と白、赤の三色で構成された体の見たことも無い形のノーマルスーツを着ている男が飛んでいるシャトルの機首の上に腕を組んで悠々と立っていたのだ。
信じられぬ場所に信じられぬ出で立ちで立っている男に向かってサーシェスが声を上げる。

「一体何者だっ?!」
「貴様に名乗る名は無い!」

鋭い声で答えるとヘルメットの頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと飛び出していた。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤い小型MSであった、その光景にそこに居た全員の視線が集る。

「報いを受けろっ、ショルダースウィング!」

掛け声と共にサーシェスの乗るアルケーガンダムを捕まえて回転を始めるバイカンフー、その回転が最高潮に達した時アルケーガンダムの頭を逆さまに決めるとと錐揉みしながら急降下を開始する。

「サイクロォン・ドライバァー!」

轟音と共に地面に叩きつけられるアルケーガンダム、もうもうと上げる砂煙が一陣の風に吹き散らされると巨大なクレーターの底に立っていたのはバイカンフーのみであった。

「成敗!」

台詞とポーズを決めるバイカンフー。
刹那はシャトルを着陸させるとバイカンフーが立っていた場所へと走る、其処には謎の男が一人佇んでいた。

「あんたは一体?」
「名乗るほどの者では無い、青年よ君の行く道は果てし無い苦難の道となるだろう、しかし希望を持って歩み続ければ必ずや変革が訪れる」

それだけを告げて去ってゆく謎の男の背中に追いついたマリナが声をかける。

「何処へ向かうのですか」
「全ては剣狼の導きのままに」

そのトリコロールカラーの後ろ姿は刹那に在りし日に見た神の姿を思い起こさせていた。

「彼がガンダムだ」
「いえ、それは無いかと……」



[16813] 塾と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/04/02 00:17
天挑五輪大武會で数々の死闘を超えて帝王大豪院邪鬼を初めとした幾人もの犠牲の果てに遂に男塾は冥凰島十六士を下し悲願の優勝を成し遂げた。
それもこの天挑五輪大武會を主催する藤堂兵衛、真の名を伊佐武光といい第二次大戦中サマン島で味方であった日本軍二千八百人の命を敵に売り、それで得た資金を元に戦後数々の悪行に手を染めて日本の首領とまで呼ばれる地位にのしあがった卑劣漢を討つ為であった。
フィクサーと呼ばれるだけあって藤堂は普段人前に出る事は無い、ただこの天挑五輪大武會の優勝旗はその藤堂の手により優勝チームに渡される事になっており、この表彰式こそが悪漢藤堂を討つ唯一の好機なのである。

「ここからが本当の正念場だ」
「まかせたぞ、桃」
「うむ」

緊張感を漂わせて総大将たる1号生筆頭にして大豪院邪鬼より男塾総代を継承した男、剣桃太郎へと発破をかける男塾死天王の一人センクウと2号生筆頭赤石剛次に応じる桃。
そして遂にその瞬間が訪れる、優勝旗を持った藤堂が表彰台の上に立ったのである。

「さあ受けとれい、まことに見事な戦いぶりであった、優勝の褒美として貴様らの願い事何でもかなえてやろう」
「フッ身に余る光栄、それなら欲しいものが一つだけある」
「ほう、それは?」

願いをかなえるという藤堂と相対した桃は眼光を光らせると隠し持っていた日本刀を抜いて斬りかかる。

「それは…… 貴様の命だーっ!」
「フッ馬鹿めが」

突如として斬りかかれた藤堂であったがその表情には余裕が浮かんでいる。
桃の振るう刃が藤堂の体を両断しようと迫った瞬間バシィという衝撃音が響いた。

「桃ー!」
「な、なんだー今のは? 桃の刀がはじき返されて折れちまったーっ?!」

虎丸龍次と富樫源次が桃に駆け寄って支える、二人に支えられて体勢を整えた桃は己の持つ折れた刀を見て驚愕の表情を浮かべた。
そこへ表彰台から藤堂がゆっくりと降りてきて話はじめる。

「フフッ愚か者め、わしには指一本とて触れる事は出来んのじゃ」

驚愕する男塾の面々を前にして余裕を見せると着ている着物の前を肌蹴てみせる藤堂、その老人にしては、否生半な格闘家など足元にも及ばぬような鍛え上げられた体躯の胸に行行しい機械が装着されていた。

「見るが良い、これは米国国防総省が要人警護の為に開発したB・J・S(バリアー・ジャケット・システム)といってな、目には見えぬ特殊な電磁波がわしを包み込み、半径1m以内に入るものは例えバズーカ砲でも弾き返すようガードしているのだ!」
「くっ」

千載一遇の好機と思われた表彰式も実はそうでは無かった事に悔しさを滲ませる男塾一同を前にして余裕の笑みを崩さぬ藤堂はニヤリと笑う。

「フフッしかしわしも驚いたわ、まさかあのサマン島で江田島平八が一人生き残っておったとは、しかもわしに復讐するために貴様らを送り込んでくるとはな」
「手前の汚い口で塾長を語るんじゃねえ、塾長は復讐なんてちっぽけな物の為に貴様を討てと言った訳では無い!」

眼光するどく睨みつけてくる桃たち男塾の面々を前にして、その顔を優越感に染めて言葉を続ける藤堂。

「フッフッフ、言いたいことはそれだけか? ではこの藤堂兵衛に歯向かったことをあの世で後悔するがいい、それと安心しろ直ぐに江田島も貴様らの後を追わせてやるわ」

藤堂の合図で現れた屈強な黒服たちが大型の機関銃を構えて塾生たちの前に立ちはだかる、如何に総代たる桃を初めとして達人が揃っている男塾の塾生たちではあるが、この至近距離で十丁以上の機関銃から逃れる術は無い。
そして差し上げられた藤堂の手が振り下ろされた。

「撃ていっ!」

向けられた機関銃が男塾の選手たちに火を噴く瞬間に後輩達を守ろうと死を覚悟して飛び出した男塾死天王センクウ、卍丸、影慶、羅刹の四人だったが、飛び出した時闘技場に一陣の風が嵐を巻き起こした。

「フフフ、フハハハハハハハ」

その嵐の中から雄雄しい哄笑が響き渡った。

「愚かな者たちよ貴様らには決して勝利は来ない、例え殺されようとも悪に屈しない心、それがやがては勝利の風を呼ぶ、人それを凱風という」

その嵐が過ぎ去った時、対峙する黒服たちと男塾の塾生の間に一人の男の影がある、その男は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んで立っていた。
男の眼差しは強い光に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれる。
突如乱入した謎の男に向かって藤堂が誰何の声を張り上げる。

「ぬう、な何者だっ!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、風神!」

空中で回転を始める謎の男、その回転は激しくなり竜巻を巻き起こすと機関銃を持っていた黒服たちが全員吹き飛ばされた。

「な、なんじゃーあの男、竜巻を起こしよった!」
「むう、あれが世に聞く天空宙心拳!」
「知っているのか雷電?!」
「拙者も噂に聞いた事があるだけです、宇宙最強と謳われた正義の拳法の名が確か天空宙心拳と」

驚愕の叫び声を上げる富樫の横で雷電が唸るのを聞いた桃が尋ねる、その雷電の解説に驚く男塾一同を脇にして謎の男は藤堂を指し示して言い募る。

「藤堂兵衛いや伊佐竹光、もはや観念の時だ! 天空宙心拳、月光蹴り!」

謎の男の鋭い蹴りが藤堂の胸板へと迫る、しかし桃の一刀をも弾き返したBJSがその蹴りを弾き返さんと作動する。

「うわっはっはっは馬鹿め、わしはBJSに守られて……ぐあっ?!」
「天空宙心拳にそのような玩具は通用せん!」

まともに胸に蹴りを受けて吹き飛ぶ藤堂、呻きながら身を起こすと自慢のBJSが破壊されて煙を上げていた、倒れた藤堂にゆっくりと近づく謎の男。

「うぬう流石は伝説の天空宙心拳か、しかしお前如き青二才にやられるわしではないぞ」

立ち上がると着物と役に立たなくなったBJSを脱ぎ捨てて呼吸を整え謎の男を睨みつけて構えを取る藤堂、その鍛えられた肉体からみせる構えは一角の拳法家を思わせる。

「見ろ、これぞ我が神技、瞬嗷刹駆(しゅんきょうせっく)!」

その掛け声と共に藤堂の姿が消えるとあらぬ場所へと姿を現す。

「な、なんじゃー?! 藤堂のじじい一瞬であんな所へ移動しおったーっ」
「あれこそ数ある拳法の中でも神速をもってなる瞬嗷刹駆」
「知っているのか雷電」
「フッフッフ我が拳法の極意は極限ともいうべき素早さにある、いかに天空宙心拳といえどわしを捉えることは不可能よ」

自信満々に言い募る藤堂を眼光鋭く見つめる謎の男。

「死ねいーっ!」
「遅い、天空宙心拳、瞬殺拳!」

再び超スピードで姿を消した藤堂が謎の男へ襲い掛かるが、その凄まじい速さをものともせずに反撃する謎の男。
ドサリと地に落ちた音がするほうをみれば、全身に打撲痕をつけた藤堂が倒れている。
倒れた藤堂へとゆっくり歩みよる謎の男に対して、とうの藤堂が両手を上げて制止する。

「ま、待ってくれ、わしの言い分も少しは聞いてくれ!」

その懇願の声を聞いて歩みを止める謎の男に薄ら笑いを浮かべて語り始める藤堂、だがその目は怪しく輝いていた。

「じ、実はな……死ねえ!」

追い詰められた藤堂は口を開いた直後に隠し持っていた拳銃を乱射する、全ての銃弾が謎の男の体に命中した。

「うわっはっはっは、像をも仕留める45口径だ、いかに貴様でも……」

しかし直撃を受けたはずの体には傷一つ無い、謎の男の鋼鉄の体が全ての銃弾を弾き和えしていたのだ。

「言った筈だ天空宙心拳に玩具は通用しないと」
「ひ、ひいっ」

バタバタと逃亡に移る藤堂へと謎の男から捌きの声が発せられた。

「その所業許す訳にはいかん、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

謎の男の姿が光となって何処からとも無く現れた赤いロボットの中に吸い込まれる、雄雄しく立ったその姿は畏怖の念を抱かせるに充分だ。

「な、なんだアレはーっ、あの男ロボットと合体しおったー?!」
「ぬう、あれが天空宙心拳の秘儀、杯瑠不王明士恩(パイルフォーメイション)」
「知っているのか雷電?」
「聞いた事があります、天空宙心拳の使い手は杯瑠不王明士恩によって赤き鎧を身に纏い地上全ての気脈と共鳴し自然現象さえも操ることが出きるようになると」

雷電が語る杯瑠不王明士恩の解説を聞いて額に汗を浮かべる男塾の面々、そしてバイカンフーと対峙する藤堂の顔は絶望に染まっていた。

「ファイアーキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏った飛び蹴りを放つ、最後の手段とばかりに瞬嗷刹駆をもって残像すら残さない速度で逃げようとする藤堂だがバイカンフーの蹴りはその動きを完全に捉えていた。
跳び蹴りをくらって吹き飛ぶ藤堂をそのまま追いかけ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

連続攻撃を繰り出したバイカンフーが藤堂に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶる。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」
「あれが天空宙心拳の奥義、護怒反怒棲魔手!」
「知っているのか雷電!」



護怒反怒棲魔手(ゴッドハンドスマッシュ)
古来、すぐれた拳法家はすぐれた医者でもあった
拳法家は患者の気の流れを読み、滞った気の流れを正すことで病気や怪我の治療にあたったのである。
これを奥義として昇華させたのが天空宙心拳の伝承者、呉汎撞(ゴ・ハンドウ)である。
気の流れから相手の急所を正確に見抜き、極限まで鍛え上げ研ぎ澄ました己の手刀を急所に突きこんで相手を絶命させる恐るべき技を生み出した。
それが世にいう「護怒反怒棲魔手」である。
この技を極めた者は相手の皮膚に傷一つ付けずに急所だけを貫き抜き出す事も可能であった。
そこで仁愛の徳高き天空宙心拳の使い手であった汎撞はこの技をさらに昇華させ治療にも使うようにした。
患者の疾病部位をその体から抜き出す事で、その生涯で救った命は実に数千名と言われ、さらにその患者たちの身体には一つも傷も残らなかったと伝わる。
現在でも手術などで患者の体に傷を残さずに行なう名医をゴッドハンドと呼ぶのは、この呉汎撞の名前が訛ったものであるのは周知の事実である。

民明書房刊 「医は拳術」 より



「まさかその秘儀をこの眼で見る事が出来ようとは」

伝説の技とも言える護怒反怒棲魔手を目の当たりにして拳法家として溢れる涙を堪える事が出来ない三面拳や四天王を筆頭とした男塾拳法家の面々の見守る中、どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、藤堂に背を向けて手を払って決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

気が付けば何時の間にかバイカンフーは消えており、そこに居るのは天空宙心拳の使い手である謎の男が佇んでいるだけであった。
そこへ殺到する男塾の面々、謎の男を取り囲むと代表して伊達臣人が声をかけた。

「貴様は一体何者だ?」
「名乗るほどの者ではない」
「フッフッフ、相変わらずの男よ」

塾生たちの後ろから野太い声が架けられた、思わず後ろを振り向くとそこには光り輝く頭を持った巨漢が泰然と存在していた。

「わしが男塾塾長、江田島平八である!」

天を突かんばかりの大音声で名乗りをあげる男塾塾長、江田島平八の姿を認めた謎の男は塾長へと振り向いた。

「ご無沙汰しております、塾長」
「うむ、貴様も壮健そうでなによりだ」

突如として現れた江田島塾長とその塾長に対して折り目正しく挨拶をする謎の男、塾長はニヤリと笑うと和やかな顔で挨拶を受け謎の男もまた笑みを浮かべた、そんな二人の様子に驚く塾生たち。

「塾長が来られたのでしたら俺はこれで失礼します」
「そうか今回は済まなかった」
「塾長の頼みならば望むところです、では是にて」

挨拶を終えると闘技場の出口へと歩を進める謎の男に江田島が声をかける。

「貴様これから何処へ向かう?」
「全ては剣狼の導きのままに」

去ってゆく謎の男の背中を見送る塾長に桃太郎が声をかけた。

「塾長のお知り合いですか」
「うむ、我が友キライ・ストールの遺児よ、よく見て置け貴様ら、あの背中が真の正義を体現した背中である」

段々と遠ざかるその背中を見た男塾の闘士たちは、その背中に背負われた大いなる正義の意志を感じて滂沱の涙を流すのであった。



[16813] おとぎ話と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/20 00:23
喀什(カシュガル)ハイヴ、人類がBATEの侵攻を受ける事になった始まりの場所である、そして現在追い詰められた人類の乾坤一擲の反抗作戦〈桜花作戦〉が決行されていた。
このハイヴを攻略するに当たって、人類はそのもてる戦力の大半を投入していたが、その大部分はハイヴに到達することなくBATEの牙にかかって命を落としていた。
そんな中で人類の切り札として作られたXG-70凄乃皇を操る国連軍横浜基地の衛士白銀武、鏡純夏、社霞と姉より託された紫の武御雷を駆る御剣冥夜が、戦友たる旧207B分隊の面々の壮絶なる献身と戦死を糧に遂に最終目標である地球上のBATE全ての上位存在である喀什ハイヴのオリジナル反応炉である《あ号標的》に到達した。
尊い犠牲の元に遂に到達した武と冥夜だったが、いままで意志の疎通が叶わなかったBATEが人間の言葉を操るのに驚き冥夜の乗る武御雷が触手に捕らわれてしまった。
《あ号標的》は己の触手によって捕らわれた冥夜を蹂躙すると、武に対して攻撃を行なわせ、その冥夜は己の身体に絡みつく触手からもたらされる快楽と苦痛に顔を歪ませながらも武に己の身体ごと《あ号標的》を倒せと叫ぶ。
《あ号標的》と冥夜を前にして白銀武は苦渋の決断を迫られていた。

「人類を無礼るな!」
「冥夜-っ!」

捕らわれの冥夜の尊厳と人類の命運を賭けた最後の一撃を撃つ為にトリガーに武の指が掛かった瞬間、鋭い声が大伽藍に響き渡った。

「待てい!」

その声に反応して思わず指を止めてしまう武、そして此処まで辿りついた味方が他にも居たのかと辺りを見るが戦術機の影も形も無い。

「どんな夜にも必ず終わりは来る、闇が解け朝が世界に満ちるもの、人それを黎明という」

戦術機はおろか人影すら無いというのに何処からとも無く朗々と語りかける声だけが響いている。
その時霞がおよそ初めてとも言える驚愕に満ちた声を張り上げた。

「白銀さん上です、凄乃皇の上に誰か乗っています!」
「な、なんだってえ?!」

慌ててカメラを切り替えると確かにスサノオの上に人影が在る、その人影は青いヘルメットをかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の強化装備を着ている男であった。
しかしラザフォードフィールドを張っている凄乃皇の上に立っているなど在り得ない、在り得ないはずなのだがその男は確かに其処に存在していた。
しかも戦術機にも乗らずに単身でしかも強化装備は着ているにしても生身である。
あまりの光景に開いた口が塞がらない武、霞、純夏、冥夜の四人だがその驚愕を押しのけて《あ号標的》から声が掛かる。

「お前は誰だ?」
「貴様に名乗る名は無い!」

鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じ真っ直ぐに伸ばした指を《あ号標的》へと突きつける。

「人々を苦しめる悪魔よ、正義の鉄槌を受けるがいい、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如現れたバイカンフーと名乗る謎の赤い戦術機を脅威と取ったか《あ号標的》は冥夜の乗る武御雷をバイカンフーへと襲い掛からせる。
武御雷が操る長刀が唸りをあげてバイカンフーへと迫る、その時一機の深紅の戦闘機が何処からとも無く飛来してこれまた見たこと無いような小型の戦術機に変形すると手に持った剣を一閃させた。

「天空真剣、五月雨斬り!」

ジェット戦術機の繰り出した一刀は冥夜の乗る武御雷に絡める触手を寸断し開放すると、その小さい機体からは想像もつかないパワーで武御雷を抱えて離れる。

「彼女は助けた!」

サングラスをかけた様な顔の戦術機から男の声がバイカンフーへと伝えられ、その声に応じて《あ号標的》へと向かうバイカンフー。
しかし新たに伸びてきた触手が今度はバイカンフーを絡め取ろうと殺到する。

「天空宙心拳、招雷ッ! ライトニングスマッシュ!!」

しかし迫る触手は剣から放たれた雷によって全てが消し飛ばされた。

「今度は此方から行くぞっ、ファイアーキイィック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏って《あ号標的》に飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶ《あ号標的》をそのまま追いかけると眼にもとまらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

一撃を受けるごとに破壊されてゆく《あ号標的》へ止めの一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

中心部に突き込んだ手刀を抜き、《あ号標的》に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。

「成敗!」

決め台詞と共に跡形も無く爆発する《あ号標的》を目の当たりにしながら武たちは呆然とその光景を見ているしかなかった。
全てが終わり静寂が支配する伽藍の中で何時の間にかバイカンフーという戦術機は消えていた。
そして残った謎の男と飛行機に変形するこれまた謎のグラサンジェット戦術機から武たちに声がかけられた。

「どうやら無事のようだな」
「ふ、何よりだぜ」

その声に武が答える。

「あ、ありがとう助かりました。でも俺は此処に来るまでに大切な仲間を……」

その声に対して謎の男はすっと指を指し示した、指し示す先へ視線を向けると地面の下から何かを掘り進む音がする。
その音にはっとして戦闘態勢を整える武、何故ならBATEは地下から現れるのだから、しかし其処に現れたのはドリルであった。

「ふ~、ようやく到着したぜ」

地上に出たドリルが変形してこれまた見た事も聞いた事も無い小型の戦術機に変形するとそのドリルの開けた穴から武たちの良く知る人間が顔を出していた。

「此処は一体?」
「あ、あれは凄乃皇に武御雷だよ」
「じゃあ武さんたち無事なんですね」
「久しぶりですよ」
「委員長、美琴、たま、綾峰!」

散っていったとばかり思っていた仲間の無事な姿を見て感極まる武、しかし穴からは次々と人が這い出てくる。

「ちょっとお~此処どこな訳?」
「水月~文句いったら駄目だよ~」
「全く速瀬は」
「あはは……」
「なんとA-01の皆まで」

佐渡島と横浜で死んだと思っていた先任たちの無事な姿を見て武は謎の男たちに叫んでいた。

「あんたたちが皆を助けてくれたのか、一体何者なんだ?」
「名乗るほどの……」
「おいらはドリル族の戦士! ロッド・ド……ご、ごめんね~」

武の呼びかけに応じようとしたドリル頭に鋭い視線を向ける謎の男とグラサンジェット機、その視線に負けたのか名乗りあげようとしたドリル頭がしおしおと萎れて行く。
その様子を見てから謎の男は一つ咳払いをすると改めて口を開いた。

「名乗るほどの者ではない、衛士たちよ、この地上においてまだ戦いは続く、しかし君たちの心に正義の志があるなら必ずや勝利する事が出きるだろう」

踵を返して去ってゆく男たちの背中に冥夜が声をかける。

「どちらへ行かれるのですか?」
「全ては剣狼の導きのままに」
「総員、敬礼!」

去り行く背中に対してみちるが敬礼を行なう、そこにいた全員の胸には謎の男たちが残した不屈の炎が点っていた。

「あが~」



[16813] 狼と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/03/21 08:09
パスロエ村へ商いに行った行商人のクラフト・ロレンスは村からの帰りに狼の耳と尻尾を持つ不思議な少女を荷台に乗せる事になった。
その少女は長くパスロエ村で豊作の神として信仰されてきた狼のホロだと名乗り、そして村人の信仰が自分から離れた今、生まれ故郷のヨイツへ帰りたいという。
こうして旅の道連れとなった二人だが現在その身はのんびりと街道を行く馬車の上ではなく、港町パッツィオの旧地下水道にあった。
二人は銀貨の切り下げに係わるメディオ商会とミローネ商会の抗争に当事者として関係する事になり、その過程でメディオ商会に捉えられたホロをミローネ商会の手を借りてロレンスが何とか助け出したまでは良かったのだが、追手によりロレンスが負傷してしまう。
地下道を逃げる二人はホロの鼻に香る光の匂いを頼りに走ったが、着いた先にあったのはこの地下道が地下水道として機能していた時に使われていたのだろう高い天井にぽっかりと開いた円形の井戸から漏れる日の光であった。
しまったと思い踵を返して再び逃走に移ろうとするが、その前に手にナイフや棍棒を持ったメディオ商会の人間に行く手を塞がれる。

「く」

ロレンスが苦々しげに呻くと腰の後ろに挿してあるナイフに手を回す、行商人であるロレンスは荒事には向いていない、しかも此処まで逃げてくる間に怪我している。
ホロが止血だけはしてくれたがそれでも傷が治った訳ではない、その証拠にロレンスが動くたびにジクジクと血が滲む、それでもホロを守ろうとナイフを引き抜いて一歩を踏み出した。

「下がっていろ」
「ぬし、そんな、無理じゃろ」
「なに、まだいけるさ」

ロレンスの口から軽口が飛び出すが、嘘を聞き分けられるというホロの耳で無くても痩せ我慢だと知れる。
そんな二人の前に十人以上の追手が姿を現した、その追手の一団から身奇麗な格好の一人の男が進みでてくる、どうやらこの男が追手を率いているらしい。
身構えるロレンスだが男を見た瞬間二人は思わず目を丸くした、なにしろその男の事はロレンスもホロも知っている、二人の前に進み出てきた追手を率いていた男はパスロエ村のヤレイであった。

「まさか本当にホロがいたとはな、ロレンスそいつをこっちに渡せ」
「悪いが出来ないな、北へ帰りたいという娘とその旅に同伴する契約を結んでしまった、良い商人は契約を反故にはしないものさ」
「ぬし……」

ホロの驚いた声を聞きながらロレンスはヤレイを真っ直ぐに睨みつける、そんなロレンスの様子を理解できないとばかりに頭を振ると大きな溜息を吐いて顔を上げるヤレイ。

「残念だよロレンス、短い付き合いだった」
「行商人に別れはつきものだ」
「男は殺してかまわんが、娘は必ず生け捕りにしろ」

ヤレイの指示で武器を持った男達が殺到する、それを見たホロがロレンスの腕にしがみ付いた、だがそれは恐れからでは無い、今の娘の姿は仮初めに過ぎずその正体は巨大な狼である。
本来の姿ならばこの程度の人数など、その身に持つ牙と爪を持って排除する事など造作も無い、そしてホロが本来の姿に戻る為には麦か生き血が必要なのだ。
自分との約束を大切だと言ってくれたロレンスを救う、その為に自分の正体を晒しそのせいで恐れられても構わない。
ホロは決意を込めてロレンスの傷から溢れる生き血に口をつけようとしたその時。

「待ていっ!」

鋭い声が地下道に木霊した。

「血塗られた富と権力に集る蛆虫共よ、己が姿を見るが良い、正しき道を示す光、人それを鏡という」

滔々と語る声の主はホロとロレンスの後ろ、天井に開いた井戸の穴から降り注ぐ光の中に腕を組んで悠々と立っていた。
その声の主は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体の見たことも無い形の鎧を着ている男であった、突然現れた正体不明の男に対してヤレイが声を上げる。

「だ、誰だっ?!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は力有る言葉を紡ぐ。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、剣狼よ!」

ケンロウと謎の男が叫ぶのを聞いたホロは一瞬自分が呼ばれたかと頭の上にある耳をピクリと動かす。
しかし謎の男はホロを見てはおらず、手に持った剣を頭上へと差し上げて叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤い巨人であった、その光景にそこに居た全員の動きが止まる。
さしものヨイツの賢狼ホロでさえも見た事も無ければ聞いた事も無い赤い巨人、その巨人の体から放たれる威圧感はホロが出会った事のある力持つ古き者たちの比ではない。

「欲に狂った亡者共よ、報いを受けろ!」

バイカンフーは剣狼を頭上に構えると高速回転させる、すると風が渦を巻き激しい竜巻となった。

「天空真剣・真空竜巻!」

バイカンフーの掛け声とともに放たれた竜巻は狭い坑道内を暴れ回りヤレイたちを吹き飛ばした、壁や天井に叩きつけられ動かなくなる男達。
その光景をただ呆然と見ているしか出来なかったロレンスだがはっと我に返るとホロを自分の背中に匿って振り返る。
するとそこに立っていたのは赤い巨人ではなく初めに現れた謎の男であった、恐る恐る謎の男に向かって声をかけるロレンス。

「助けて頂いて有り難うございます、ぜひお名前を」
「名乗るほどの者では無い、あなたの勇気が剣狼を通して俺に伝わっただけの事」
「ぬし、ケンロウと言ったの、ヨイツの賢狼を知っとるのか? じゃあヨイツの場所も知っておるかや?」
「いや剣狼はこの剣の名前だが、それと申し訳ないがヨイツという場所も知らないな」

そういって手に持った剣をかざして見せてくる謎の男、その剣を良く見れば確かに柄のところに狼の紋章が刻まれており何か分からないが途轍もない力を感じる事が出きる。
それを見て勘違いをしていた事に気がついたホロは顔を赤くしながら、早口で言い募った。

「そ、そうか、ならば良い、それに助けられた事には感謝しておる」

謎の男はホロの礼を受け取ると立ち去ろうと歩み出す、そこへ向かってホロが声をかけた。

「御主、これかから何処へゆくんじゃ?」
「全ては剣狼の導きのままに」

悠々と去ってゆく男の後姿を見送る二人の胸には清々しい風が吹き渡っていた。






数日後、街道を一台の馬車がゴトゴトと進んでいた、その御者台に座っているのは怪我の癒えたロレンスと美味しそうに林檎を頬張るホロの二人である。
あの後二人はミローネ商会に保護され、その後色々とあってロレンスは多少の金を受け取り、ホロと馬車一杯の林檎を伴って旅を続ける事になったのだ。
シャクリと小気味良い音を立てて林檎を齧ったホロは何と無しに自分を見つめていたロレンスの視線に気がつくとニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「もうけ損なったの」
「そうだな、しかし何者だったんだろうな彼は?」
「さあのう、だが雄はあれくらい雄雄しくなくてはの」

そのホロの台詞にむっとした表情を浮かべるロレンスとその顔をみて「くふふ」と笑うホロ。

「そんな顔せんでも良かろう、ぬし様もわっちを庇ってくれた時は随分頼もしかったしの」

そのホロの言葉を聞いて顔を赤くするとそっぽを向くロレンスとその仕草をみて腹を抱えて笑うホロ、しばし二人の他愛ない遣り取りが続き、笑いすぎて目の端に涙を浮かべたホロがロレンスに尋ねる。

「でこれから何処へ向かうのかや?」
「それこそ『賢狼の導きのままに』だろ」

二人は顔を見合わせて声を上げてまた笑う、その楽しそうな笑い声は青く済んだ空へと溶けてゆく、二人の旅は始まったばかりだ。



[16813] 相剋と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/04/11 13:41
二巡目の世界、一巡目がデウスの出現によって崩壊の危機を迎えるにあたって作り出された新しい世界。
その世界で機械仕掛けの悪魔マスラマキーナ、黒鐵のハンドラー夏目智春とその黒鐵のべリアルドール水無神操緒、智春の契約悪魔となった嵩月奏の三人は仲間たちと騒々しいながらも楽しく暮らしていた。
しかしその新しい世界にもデウスによる崩壊の兆しが訪れた。
そんな中洛芦和高校科學部の部長、炫塔貴也は崩壊が迫る二巡目の世界に見切りをつけ世界中の人間を犠牲にする事で世界の破壊者たるデウスを倒し、新たに三巡目の世界を作り出そうとしていた。
しかしその本当の目的はこの世界で死んでしまった橘高秋希を蘇らせるためであった。
だが智春たちは今の世界に住む人たちの思いや記憶を大切にしたい、そして一巡目の世界で出会った秋希に塔貴也が間違ったことをしたら止めて欲しいと言われた。
その思いと約束を果たす為に塔貴也の計画に賛同しなかった黒崎朱浬を初めとする仲間たちに送り出された智春たち三人は、世界が崩壊を始める中で塔貴也とその契約悪魔鳳島氷羽子の二人と相対していた。

「もう止めて下さい、部長!」
「止める事なんて出来ないよ、秋希が生きてゆく世界を作るためなら僕は何だって犠牲にする」
「秋希さんはそんな事望んでなんかいない!」
「黙れ! 僕には秋希が必要なんだ、その邪魔をするなら容赦しない! 僕が作る三巡目でキチンと生き返らせてあげるから安心して殺されるがいい、おいで鋼!」

塔貴也の声に応じて塔貴也の影から現れるのは、この世界での智春の兄である直貴、一巡目の世界の智春を殺して手に入れた最強のアスラマキーナ鋼。

「く、やるしか無いのか、来い! 黒鐵!!」

声に応えるようにっして智春の影が伸び、その中から現れる存在がある。

「フフフ、フハハハハハ!」

高らかな哄笑を上げながら現れたのは青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着て腕を組んでいる謎の男であった。

「力と己の欲のみで、何時までも人の心を惑わせると思うな、硬く握り合った手は暴力では離れない、人それを絆と呼ぶ」

男の眼差しは強い光に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれた。
突如影より現れた謎の男に向かって塔貴也が驚きの声を張り上げる。

「だ、誰だ?!」
「貴様らに名乗る名は無い!」

鋭い声で答えるとヘルメットの頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は空へと跳躍した。

「天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したのはバイカンフーと名乗る赤いアスラマキーナであった、その光景にそこに居た全員の視線が集る。
何故ならアスラマキーナは本来べリアルドールが存在しなければ起動しないはずなのだが、バイカンフーはハンドラーである謎の男をその中へ内包して起動したのだ。

「馬鹿な、こんな機体、僕は知らないぞ?!」

焦った声を上げた塔貴也だが、咄嗟に自らが操る最強の存在である鋼を迎撃に向かわせる。
鋼の力である重力と空間を制御する力で倒せない者など存在しない。
咆哮を上げながら迫る鋼の攻撃を天空高くジャンプしてかわすバイカンフー。

「今度は此方からいくぞ、ボンバーキイィック!」

バイカンフーが炎を纏って鋼に飛び蹴りをあてて吹き飛ばすと、そのまま追いかけて連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

体勢が崩れた鋼に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

突き出された手刀は鋼の胸部を狙っている、そしてアスラマキーナの胸部にはべリアルドールとして捧げられた少女が眠っているのだ。

「止めろーっ!」

塔貴也と智春の声が重なる、鋼のベリアルドールは橘高秋希の妹にして智春たちの良き先輩であった第3生徒会長である橘高冬琉である。
しかしその声も空しくバイカンフーの手刀は鋼の胸を貫いた。

「冬琉ーっ!」
「冬琉会長!」
「成敗!」

塔貴也と智春の悲痛な叫びが木霊する中で胸部に突き込んだ手刀を抜き、崩れ落ちる鋼に背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。
敵を退けて駆けつけた朱理や佐伯玲士郎たちが見たのは、成敗の声とともに崩れ落ちた鋼とその前で呆然と佇む塔貴也の姿だった。

「よくも冬琉会長を、来い黒鐵!」
「待って下さい、夏目君」
「良く見なさいよ智、ほら」

嵩月と操緒に言われた智春が目を凝らせばバイカンフーの腕には冬琉が抱かれていた、差し出された冬琉を受け取って様子をみれば白い裸身の胸が上下しておりただ眠っているだけのようだ。

「生きてる、良かった~」
「ところで智、いつまで冬琉会長を抱いてるのよ?」
「……夏目君」

ほっと息を吐く智春にジト目を向けてくる操緒と嵩月の二人に慌てて冬琉を朱理へ渡すとそこへ塔貴也がふらふらと歩み寄るとがっくりと膝を付いて冬琉に縋りつき泣き崩れる。

「冬琉、良かった、本当に良かった、君にまで逝かれたら僕はどうしたらいいか判らない」

何時の間にかバイカンフーは消え去り、そこに居るのはその光景を見つめる謎の男であった。

「愛する者を失うのは辛い事、だがその負の感情に飲み込まれてはならない、見たまえ君の周りにはこれだけ君の事を気にかけてくれる人がいる、君はけっして孤独ではないのだ」

鋼を一蹴した謎の男が静かな声で語りかかる、その声に顔を上げた塔貴也の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだが憑き物が落ちたような感じを受ける。
踵を返して歩み去る謎の男の背中に智春が声をかけた。

「あの会長を助けてくれてありがとうございます、名前を教えて貰ってもいいですか?」
「名乗るほどの者では無い、強大な敵に打ち勝つには大いなる困難があるだろう、しかし君の後ろには多くの仲間がいて君を支えてくれている、恐れることなく進みたまえ」

智春の瞳を見つめて力強い言葉を残して悠然と去ってゆく謎の男、その背中に智春が声をかけた。

「何処へ行くんですか?!」
「全ては剣狼の導きのままに」

去り行く背中を見つめる智春は謎の男が言い残した強い絆を力に大いなる災厄デウスへと挑む。
その智春に操緒と嵩月が笑顔で声をかける。

「大丈夫、操緒がついてるよ」
「私も支えます」

大切な人との絆があるかぎりどんな困難にも負けることはないだろう。



[16813] 赤ずきんと兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:b35051a3
Date: 2010/05/04 16:48
麗らかな春の日差しが燦燦と降り注ぐ日、小さなバスケットを持って赤い頭巾をかぶった女の子が布団を被って寝ている者に声をかけていた。

「おばあさん、どうしておばあさんのお耳は大きいの?」
「それはね赤頭巾の声が良く聞こえるようにだよ」
「おばあさん、どうしておばあさんの目は大きいの?」
「それはね、赤頭巾の姿が良く見えるようにだよ」
「おばあさん、どうしておばあさんの口はそんなに大きいの?」
「それはね……赤頭巾、お前を食べるためさあ!」

赤頭巾の言葉に祖母の振りをして応じていた狼が遂にその正体を現した。

「待てい!」

その瞬間、春の公園に響き渡った鋭い声に反応した赤頭巾と狼が振り返る。
天から落ちる陽光の中、公園の遊具であるジャングルジムの頂上で腕を組んで立っている影がある。

「友を愛し、親を慈しみ、他人にさえも献身を惜しまぬ美しい心、人それを友愛という」
「誰なのだ?!」

浪々と語りかける影にむかって狼が声を張り上げる。

「貴様に名乗る名は無い!」

その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ! 天空宙心け、むうっ?!」

天高く跳躍した謎の男が人を襲う狼に正義の拳法を繰り出そうとした、しかし狼の姿を目にした男はその狼の姿に驚愕すると攻撃を中断して着地した。
その影の正体は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている男であった、その姿を認めた狼が興奮して大声で叫ぶ。

「おおー! かっこいいのだ、かっこいいのだ! ヒーロー登場なのだ!!」

謎の男の乱入に一番喜んでいるのは、赤ずきんを襲おうとしていた狼であった、その狼はまだ子供でキラキラと光る瞳はまるで宝石のようである。
おもわずその頭を撫で回したい衝動に駆られた謎のヒーロー(仮)だが、頭を振って気を取り直すと辺りを見回した。
その時草むらから黒いローブを着た人間が現れた。

「貴様かあっ!」

新たに現れたローブの人間に向って構えを取る謎のヒーロー(仮)だが、良く見ればそれもまた子供である。
困惑する謎のヒーロー(仮)に向って赤ずきんの女の子が声をかけてくる。

「ちょっとおじさん、私達赤頭巾ごっこして遊んでいるのに邪魔しないでよー」
「そうですよ、もう少しで猟師である僕の出番だったんですから」
「チャチャもしいねちゃんも何を言ってるのだ! 俺には分かるのだこの人はドルフィンガーやエガオンと同じヒーローの人なのだ!」

謎のヒーロー(仮)の周囲で子供達が騒ぎ出すのを生暖かい目で見守ると周囲に首を巡らせる、暖かい春の日差しが照らし出す公園には、噴水で休む人魚と話すピンクの忍者服を着た女の子、買い物帰りなのか鼻歌を歌いながら歩く黒頭巾にベンチに座っている渦巻きナルトほっぺの男の子が居るばかりだ、実に平和な春の午後である。

「それで、おじさん一体何しに来たの?」
「まさかチャチャさんに対してよからぬ企みでも」
「そんな事無いのだ、この人は絶対にヒーローなのだー!」

若干胡散臭げな目で問いかけてくる子供達に謎のヒーロー(仮)は方膝をついて視線を合わせると一つ咳払いをしてから話しかけた。

「俺は悪を追っている、君たちは何か知らないかな?」

その台詞に狼が狂喜する。

「はらほら、やーっぱりヒーローだったのだ!」
「すごーい、格好良いー!」
「えー、本当に本物ですかあ?」

謎のヒーロー(仮)がなにやら堂々巡りになってきたような予感に額に汗を浮かべた時、青空が一転にわかに掻き曇り雷鳴が轟いた。
その稲光の中から進み出てきた黒い影が赤ずきんを指差してその口を開いた。

「お前がマジカルプリンセスか、俺様は大魔王様の部……」
「貴様が悪かあーっ! 天空宙心拳、破岩拳」
「ぶべらあっ!!」

現れた影の口上が終わる前にどこかほっとした表情を浮かべながらも天空宙心拳を叩き込んだ謎のヒーロー(仮)は相手が吹き飛んだ隙に何処からともなく取り出した剣を空へと放り投げると吼えた。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

突如として出現したバイカンフーに子供達の声援が送られる。

「へ、変身しましたよ!」
「すっごっーいっ!」
「頑張れ、バイカンフー!」

その声援に後押しされてバイカンフーは天空へと飛翔する。

「バイカンフーボンバー!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏って大魔王の部下に飛び蹴りをあてる、吹き飛ぶ相手をそのまま追いかけると目にも留まらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

すでに瀕死状態の相手に向かって最後の一撃を決めるために右手の手刀を振りかぶると力を溜めるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

掛け声と共に腹に突き込んだ手刀を抜き、敵に背を向けて手を払ったバイカンフーは決め台詞を高らかに叫ぶ。

「成敗!」

突如として現れた敵を軽く一蹴したバイカンフーにキラキラと光る瞳を向けるチャチャ、リーヤ、しいねちゃん。
三人の見ている前でバイカンフーが消えたあとにその場に立っているのは謎のヒーロー(確)であった。

「ほら、ほら、やっぱり俺の言ったとおりヒーローの人なのだ!!」

狼に変身したことで千切れんばかりにブンブンと尻尾を振りながら力説するリーヤと初めとは違って尊敬と憧れの瞳で見つめてくるチャチャとしいねちゃん。
三人に向かって謎のヒーロー(確)は静かに語りかける。

「子供達よ、人は過ちを犯すもの、しかしその過ちを己が糧として正義の道を邁進するのだ」

三人の頭を優しく撫でると謎のヒーロー(確)は若干小走りに公園を後にする。

「ああっ、何処へ行くのだー?!」

その背中にリーヤが声をかけるのみならず走って追いついてくるのを脱兎の勢いで引き離す謎のヒーロー(確)。

「全ては剣狼の導きのままにー!!」

ドップラー効果でそれだけを言い残した謎のヒーロー(確)の姿は何時の間にか沈み始めた夕日の中へと消えていった。
握り拳を固めるリーヤとその背後にいるチャチャとしいねちゃんも、その背中を熱い眼差しで見送っていた。

「バラライカ、忘れないのだ」
「違うよ、バイカルコだよ」
「バイカンフーですよ、チャチャさん」



[16813] 変身と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/06/06 00:13
ベジータたちサイヤ人の襲撃を退けた孫悟空たちであったがピッコロを始め、仲間が命を落としていた、そこで生き残った孫悟空の息子、悟飯とクリリンはドラゴンボールに一縷の望みをかけてピッコロの故郷であるナメック星へと向かった。
しかしナメック星で彼らを待ち受けていたのは宇宙の支配者を名乗るフリーザとその手下たち、そしてベジータであった。
悟飯たちは数々の苦難を超えてドラゴンボールを集めて願いを叶えることに成功するが、それは不老不死を願うフリーザの逆鱗に触れる事であった、苦々しげな顔をしたフリーザが三人を睥睨しながら口を開く

「やってくれましたね皆さん、よくも私の不老不死の夢を打ち砕いてくれました」
「絶対にゆるさんぞ虫けらども! じわじわと嬲り殺しにしてくれる!!」

いままでどんな時でも絶えず余裕の笑みを浮かべていたフリーザの形相が豹変し激昂すると怒声ともに殴りかかってきた。
フリーザの拳をベジータが受け止めると二人の戦闘力がドンドンと上がりフリーザがつけているスカウターがその戦闘力を計測できずに爆発する、その爆発で一旦離れてにらみ合うフリーザにベジータが声をかける。

「変身しろフリーザ、どうせなら正体を見せたらどうだ」
「ほう私が変身型の宇宙人だと良く知っていましたね」
「ザーボンの野郎が口を滑らせやがったんだ」
「いいだろう、そんなに見たいなら見せてやる」

その言葉と同時に着ていた鎧が弾けとんで二回り以上体が大きくなり、頭の左右に生える角も伸びて折れ曲がる。
只でさえ圧倒的な力を持っていたフリーザが変身したその姿から発散される迫力は先程までの比でない。

「くっくっく、戦闘力にすれば100万以上は確実か」
「ば、馬鹿な……」
「こ、殺される……」

その迫力に気圧された三人が驚愕に声を振るわせるのを見たフリーザは余裕を取り戻すとニヤリと笑って獲物を見定めると片手を上げる。
その手を上げるという行為だけで周辺の地面が爆発したかのような衝撃を発した、咄嗟に上空に逃れた三人とクリリンに抱えられえたデンデの四人を見て高らかに笑うフリーザ。

「はっはっは、よーしよく避けた、まあこの程度のことはサイヤ人でも出来る、是で終わってしまっては変身した意味がなくなってしまうからな」

口元を歪ませながら上空にいるベジータたちに視線を巡らせると一人に視線を定めた。

「良し、決めた!」

声と共に眼にも止まらぬ速度で飛び出したフリーザがクリリンに迫る、咄嗟に抱えていたデンデを悟飯へ投げ渡すが、避ける機会を失したクリリンの腹へフリーザの角が貫こうした瞬間。

「天空宙心拳、鷹襲脚!」

鋭い声と共に急降下してきた影がクリリンの腹を貫く直前のフリーザを弾き飛ばした、弾かれたフリーザは地面に叩きつけられる直前で急制動をかけると足から降り立ち辺りを見回す。
悟飯とクリリン、べジータも辺りをキョロキョロと見回して先程の影を探すと近くの岩の頂に背中から光を受けた一つの影がすっくと立っていた、その影が発する力強い声が朗々と語りかけてくる。

「悪しき星が天に満ちる時、大いなる流れ星が現れる、その真実の光の前に悪しき星は光を失いやがて落ちる、人それを裁きという」

逆光の中に浮かび上がった影の正体は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている若い男であった。

「ピ、ピッコロさんじゃない……」
「悟空でもない、お、おいべジータお前の知り合いか」
「し、知らんぞあんな奴……」
「まだ俺に逆らう馬鹿がいたのか、何者だ?!」

その男に対してフリーザが余裕の笑みを浮かべながら声をかけるが謎の男は鷹のような目をフリーザに向けて口を開く。

「貴様に名乗る名は無い!」

フリーザに対して鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。

「とうあっ!! 天空宙心拳、南十字拳!」
「ぐあっ」

十字に交差させた腕を振り抜いた謎の男の攻撃はフリーザに傷を負わせていた。

「ば、馬鹿な! このフリーザ様に傷を? はっその鋼鉄の身体はまさかクロノス族か!」

自らの身体に傷をつけた謎の男を睨みつけるフリーザが、相対する相手をクロノス族の人間だと看破する。
クロノス人に一瞥を向けると直ぐにその口元をニタリと歪ませた。

「づあっ!」

掛け声とともにエルボーを謎の男に突き刺すフリーザ、その攻撃を受けて吹っ飛ぶクロノス人、吹き飛ばされた男は岩に激突して崩れ落ちる、しかし次の瞬間には何事も無かったかのように立ち上がるとフリーザに対して構えを取る。
フリーザは対峙しているクロノス人の前に進み出てくると、口元を歪ませたまま語りかける。

「さっきは済まなかったな、貴様を見くびっていたんだ、だが想像以上にできるようなんでな実力を見せることにした」
「俺もだ、本気で行くぞ」

余裕の笑みを浮かべたままのフリーザに対してクロノス人も負けてはいない、堂々とこれからが本番だと告げる。
しかしその台詞を聞いてもフリーザは余裕を崩さない、それどころか面白い事を聞いたとばかりに邪悪に笑うと指を2本立ててみせる。

「くっくっく、まるで本気じゃなかったような口振りだな、だがこのフリーザ様に勝てると思っているのなら大きな間違いだ」
「何?」
「あと2回」

凄みのある笑みを顔に貼り付けたままフリーザは指を二本立てて謎の男に示した。

「貴様はこの姿が変身したものだとは知るまい」
「それがどうした?」
「まあ聞け、変身型の宇宙人は変身する事で戦闘力を大幅に上げる事ができる、そして俺は変身をあと2回残している」
「なん……だと……」
「光栄に思うが良い、この変身まで見せるのは貴様が初めてだ!」

言葉と共にフリーザの肩が大きく膨れ上がり背中から突起が突き出した、さらに後頭部が後ろへ伸びて角が大きく太くなり、伸びた頭の横に新しい角が生えてくる。
良く見ればクロノス人が与えた傷も消えている。

「ふう、お待たせしましたね」
「バッバカな! こんな事が」
「ひ、ひええ」

その姿と迫力、そして放散される力に恐れおののくベジータたちだがクロノス人はマスクの奥の瞳を更に耀かせると何時の間にか握っていた剣を天に掲げて叫ぶ。

「剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」

雄叫びとともに雷鳴が鳴り響き稲妻がクロノス人を貫く、閃光の中にクロノス人が消えると同時に青い鋼の体を持つ者が現れて名乗りを上げる。

「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「?!」

出現したケンリュウから聴こえてくる声は先程のクロノス人のものである、驚愕に目を見張る一同の前でケンリュウがフリーザに向って迫る。

「天空真剣、かまいたち!」

気合の声と共に上段から振るわれた剣狼を白刃取りの要領で受け止めるフリーザだが、巻き起こった真空破までは防げずに身体の彼方此方に裂傷を負ってしまう。
ケンリュウの並々ならぬ力を感じて額に汗を浮かべるフリーザはギリギリと迫る刃を押し返して蹴りを放つと同時に後方へと飛び退いた。

「まさかクロノス族が変身型の宇宙人だったとは、良いだろうならば見せてやるぞ! このフリーザ様の真の姿を!!」

ナメック星の大気を震わせて最後の変身を終えたフリーザが真の姿を現す、一番初めの姿と比べても一回り小型であり、角のようなものも全て消え失せている。
一見迫力が無くなっているがその姿を見たベジータたちは滲み出る圧倒的なパワーに絶望していた。
しかしそのフリーザを前にしてもケンリュウは臆する事無く、手に持っていた剣を空中へと投げると力強く叫んだ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

雄叫びと共にケンリュウはバイカンフーへと姿を変えてフリーザの眼前に降り立った、その赤き巨体からは放たれる威圧感はまるで自然そのものを従える王の如くである。

「はああっ、天空宙心拳鉄指針!」

バイカンフーの鋭い手刀がフリーザへと突き出される、迎え撃つフリーザは余裕の笑みを浮かべたまま受け止めようとしたがバイカンフーの人差し指がフリーザの額に突き刺さり凄まじい衝撃を持ってフリーザを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたフリーザは空中で体勢を立て直すと両足で地面を抉りながら踏ん張ってなんとかその場に止まる。

「なっ何だこのパワーは、この僕を上回るだって……」

バイカンフーを睨みつけるフリーザが驚愕に目を見開く、そして何事かに気付いて声を張り上げた。

「はっ! そういえばクロノス星には無限の力を与えるハイリビードとかいうものが存在すると聞いた事が…… 貴様まさかハイリビードを! それならば貴様の異様な強さも納得がいく」

全身をわなわなと震わせながら悔しげに表情を歪ませたフリーザだが、次の瞬間には口元を嫌らしく歪めた。

「ふふん、ドラゴンボールは手に入らなかったが貴様を片付けたあとでクロノス星に行くとしよう、そしてハイリビードを手に入れて今度こそ不老不死を叶えてやる」
「貴様がハイリビードを手に入れることは決してない、何故なら貴様はここで倒されるからだ!」
「……世迷いごとを、良いだろう見せてやるぞ、このフリーザ様の全力を!」

全力を出すといったフリーザの言葉に嘘は無い、体全体の筋肉量が増大したかのようにパンプアップすると発散される気も倍増する。

「だああああっー!」

フリーザは全身に力を溜めるとバイカンフーへ向ってエネルギー波を放つ、その巨大なエネルギーは惑星の一つ二つは軽く消し飛ばす程の威力を秘めていた。
あまりに巨大なエネルギーの奔流がバイカンフーの体を飲み込もうとした時、両目がギラリと光る。

「天空宙心拳、ライトニング・バーストォ!」

気合いの雄たけびと共にバイカンフーが全身から光を放ちフリーザのエネルギー波を掻き消した、自身の渾身の一撃を消し去られたフリーザがその光景を茫然として見送ってしまった、その隙を見逃すバイカンフーではない。

「ストーム・キイック!」

天空高くジャンプしたバイカンフーが嵐を纏ってフリーザに向かって飛び蹴りを当てて吹き飛ばす、吹き飛ぶフリーザをそのまま追いかけると目にも留まらぬ連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

連続で叩き込まれる拳によって見る間にダメージを負ったフリーザに向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、フリーザに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフーと、その背後でグラリとよろけると地に倒れ伏すフリーザ。

「成敗!」

この瞬間が宇宙を力で支配していた恐怖の帝王フリーザの最後であった、その衝撃的な光景を見ていた悟飯たちの目の前からバイカンフーの姿がいつの間にか消えており、そこに見える姿は一番初めの正体不明のクロノス人である。
圧倒的な実力を誇るフリーザを一蹴してのけたクロノス人に向かって悟飯が恐る恐る声をかけた。

「あ、ありがとう、あの助かりました」

しかしクロノス人は警戒を解かずに鋭い瞳をべジータに向けていた、その視線に気がついたべジータもまた臨戦態勢を取る。

「何だ貴様、俺に文句でもあるのか!」
「お前からは悪の気配がする」

腰を落として構えを取ったクロノス人の姿が掻き消え、べジータに向かって拳を振るった。

「天空宙心拳、飛燕!」
「がっ」

拳を受けて吹き飛ぶべジータを追って空中へ飛んだクロノス人が続けざまに必殺の蹴りを放つ。
肉を叩く鈍い音を響かせたもののべジータを倒すはずの蹴りは逞しい筋肉によって受け止められていた。

「いっつ~っ」
「む?」

クロノス人の蹴りを受け止めたのはようやく怪我を癒やして駆け付けた孫悟空であった。
悟空を前にしたクロノス人は構えを解かないまま話しかけてくる。

「なぜ悪を倒す邪魔をする」
「べジータオラと地球での決着をつけんだ、そっちこそ邪魔すんな」
「はっ!」
「だっ!」

僅かな間睨みあった二人は同時に地を蹴って走っていた、丁度中間地点で互いの拳と拳がぶつかり、蹴りが交錯する。
互いに有効打を与えぬままに再び初めの位置へと離れた二人の視線がお互いを射抜いた、ほんの数秒睨みあったかと思うとクロノス人が視線を外して踵を返した。

「いいんか?」
「拳を交えれば正邪の判断は着く、そして貴方の拳からは清流のような清廉さと怒涛の如き強さを感じた、後はお任せしよう」
「すまねえ、名前を聞いてもいいか?」
「名乗る程の者ではない、しかし再び出会う事があるならばその時は……」
「ああ、そん時は良い試合をしようぜ、オラも腕を磨いて待ってる、それにおめえみたいなつええ奴は初めてだオラわくわくしてきたぞ、」

孫悟空の言葉に目を細めると微かに微笑を残して悠然と去ってゆくクロノス人、その背中に悟飯が声をかけた。

「何処へ行くんですか」
「全ては剣狼の導きのままに」
「あいつの拳は悪を許さねえ雷の苛烈さと人を愛する炎の優しさを持ってる、オラたちも負けてらんねえな」

ナメック星の荒野の中へ消えゆくクロノス人の背中を見送る悟飯の肩に手を置いた悟空の胸にはいつか正々堂々と勝負するという誓いと闘志が湧き立っていた。




ちなみにその頃のピッコロさんは

「俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーっ!」

ネイルと同化して有頂天になっている時でした



[16813] 拳と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/06/26 19:14
ガンダムファイト、それは各国のガンダムファイターたちが戦って、戦って、戦いぬいて最後に勝ち残ったガンダム・ザ・ガンダムとなった者の国が4年間地球の覇権を握るという代理戦争である。

F.C(未来世紀)60年、ガンダムファイト第13回大会が開催された。
しかし今大会は今までにない混迷を極める事となる、大会前にネオジャパンのライゾウ・カッシュ博士が生み出した自己再生、自己増殖、自己進化の三大理論を備えた究極のガンダム、アルティメットガンダムが地球へと落下、その衝撃で制御プログラムが暴走し恐ろしいデビルガンダムへとその姿を変えてしまう。
最強にして最凶、最悪の力を持ったデビルガンダムと地球の覇権をめぐって各陣営が戦いを繰り広げるなかでドモンは師匠である東方不敗マスターアジアと再会、拳を交わすことで友情を深めたシャッフル同盟の仲間たちと共に戦い抜き、決勝戦ランタオ島バトルロイヤルへと駒を進める。
その激しい戦いのさなか遂に明らかになった恐るべきマスターアジアの陰謀、それはデビルガンダムを使っての人類抹殺による地球再生計画であった。
この恐ろしい企てを阻止すべくドモン・カッシュとシャッフル同盟の仲間はデビルガンダム四天王を退け、ドモンの兄キョウジ・カッシュ、兄の写し身シュバルツ・ブルーダーが己の身を犠牲にすることでデビルガンダムを倒す。
そしてドモンは最終決戦にて師である東方不敗マスターアジアの怒りと悲しみ、そして世界を憂うその心を知りながらも涙を堪えて討ち果たして優勝、ガンダム・ザ・ガンダムの栄光を掴み取る。
しかし未だ世界を覆う暗雲は晴れていなかった、デビルガンダムを回収したネオジャパンのウルベ・イシカワがその牙を剥きだしドモンのパートナーであるレイン・ミカムラを生体コアにデビルガンダムを復活させて世界に対して宣戦を布告する。
復活したデビルガンダムはネオジャパンコロニーを吸収し地球へと魔手を伸ばす、デビルガンダムの恐怖とウルベの野望を止めるため、そして愛するレインを救うためにドモンはシャッフルの仲間、そして世界の危機を前にして立ちあがったガンダム連合の勇者たちと共に最後の決戦へと挑む。
巨大なデビルガンダムを倒すには内部から破壊するしか術がないと父から教えられたドモンたちは果敢にも内部へ突入、途中でウルベ操るグランドマスターガンダムをシャッフル同盟拳で倒し最奥に辿り着いた。
しかしそこに待っていたのはデビルガンダムと同化したレインの姿であった。

「レイン、いま助けてやるっ!」

必死に手を伸ばすドモンを嘲笑うかのように奥へと引っ込むデビルガンダムと立ち塞がる無数のガンダムヘッド。

「邪魔だあぁーっ!!」

行く手を塞ぐ敵をなぎ倒しながら進むゴッドガンダムだが、一歩進めば二対の敵が二歩を踏み出せば四体の敵が現れる。
近付くほどに増えてゆくガンダムヘッドの群れに遂に四肢を拘束されて宙吊りになってしまうゴッドガンダム。
拘束している触手を引き千切ろうとするドモンだが、そこへ電流が流される。

「うわあああーっ!」
「つあっ!」

ドモンが苦鳴をあげたとき天井近くから一振りの剣を持った影が降ってくると、手に持った剣を一閃させる。
その銀の光はゴッドガンダムを拘束していた触手を一瞬のうちに全て切り裂いた。
自由になったゴッドガンダムを着地させたドモンは窮地を救ってくれた影に視線を移す。
其処に居たのは青い兜と青と白、赤の三色で構成された体の浮き上がらせたファイティングスーツを着た一人の男が右手に剣を携えて立っていた。

「すまない、あんたは一体?」
「今は名乗っている暇は無い!」

突如として助太刀に現れた謎のファイターが手に持った剣を空中へと掲げて力ある言葉を叫ぶ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!! はああっ、天空宙心拳、比翼陽炎拳!」

バイカンフーと名乗る新たに現れた赤いモビルファイターは空中へと飛び出すと、その身に陽炎を纏い二体に分身すると襲いかかってくるガンダムヘッドを吹き飛ばす。

「天空宙心拳だと?! かつて師匠に聞いた事がある、流派東方不敗が王者の風ならば天空宙心拳は正義の雷と」

伝説の中の存在であった天空宙心拳を目の当たりにしたドモンが驚愕の表情を浮かべたが、そこへバイカンフーから声がかけられる

「呆けている暇は無い、ゆくぞ、キングオブハートよ!」
「おおうっ、 伝説の拳法の助力、有り難く頂戴する!」

横並びに立つゴッドガンダムとバイカンフーは同時に地を蹴って走りだす、そこへデビルガンダムのコアを守ろうとするように無数のガンダムヘッドと触手が襲いかかり、さらに
デビルガンダムコアからもビームが雨霰と降り注ぐ。

「天空宙心拳、シャイニングサンダー!」
「ゴォッド、スラァッシュ!」

バイカンフーが手に持った剣から光線を放ち、ゴッドガンダムが次々と敵を斬り倒す。
しかし自己再生と自己増殖する堅い守りを中々突破出来ない。

「くそっ、レインはもう目の前だっていうのにっ!」
「いや、これはまさか? 一旦引くのだ」

何かに気がついたのか、バイカンフーが後退するように言ってくる、ドモンも現在の堅い守りをどうにかする手立てがあるのかと一旦飛び退いて距離をとる。

「何か判ったのか?」
「ああ、どうやら彼女は君を避けているようだ」
「なんだと、急に何を言い出す?!」
「剣狼が教えてくれる、彼女の心にあるのは君を思う心、そして決して許されないという悲しみ、故にこそ君を遠ざけようとしている」
「そんな俺はレインを助けに来たんだぞ、それなのにレインが俺を避けているなんて、そんな馬鹿な話があるものか!」
「事実だ、今の彼女はデビルガンダムと一心同体、そして我々、いや君が近寄れば近寄る程攻撃が激しくなったのが、その証拠だ」
「では俺は一体どうしたらいいんだ……」

思いもよらない事実を突き付けられて膝を突くドモン、そのドモンへバイカンフーが厳しい声を叩きつける。

「なぜ膝を突くのだ、キングオブハートよ! 彼女を救えるのはお前しかいないのだぞ!」
「し、しかし……」
「彼女の心は罪悪感に満ちている、その凍てついた心を溶かせるのは炎の情熱のみ! いまこそ全ての気持ちをぶつけるのだ!!」

謎のファイターの言葉にはっとしたドモンが男の瞳を見る、そこにあった眼差しは強い意志と優しさに溢れており、まるで今は亡き師と兄を彷彿とさせる熱い瞳であった。

「そうだ、俺はレインを救う為に此処まで来た、そのレインが俺を避けていると言うのならば、俺の思いの丈をぶつけるのみ!」

その眼差しに自分を取り戻したドモンはコクピットを開けて胸の奥から湧き上がる衝動のままに叫ぶ。

「レイーンっ! 聞いてくれ俺達はこの1年ずっと一緒だった、俺が戦い続けてこられたのはレインのお陰だ、苦しいときも悲しい時も嬉しい時も俺を支えてくれたのはレインだった、俺は不器用な男だ、だからこんな言い方しか出来ない」

言葉を一旦切ると腹の其処からドモンはたった一人の女に向って己の全てをぶつける様に叫ぶ。

「お前が好きだーっ! お前が欲しーいっ!!」

ドモンの真摯な、そして熱い呼びかけによってレインの凍てついた心に皹が入る、この瞬間擦れ違い続けた二人の気持ちが一つとなってデビルガンダムの呪縛を打ち破った。

「ドモーンっ!」

生体コアとして捧げられたレインが殻を打ち破り、世界でただ一人の愛する男の胸へと飛び込む、そしてドモンもまた生涯に只一人だけの女をその腕にかき抱く。

「離れはしないわ、もう二度と!」
「離しはしないさ、もう二度と!!」

長い時間をかけてお互いを掛け替えの無い大切な存在として共に生きてゆくことを誓い合う二人を見つめるバイカンフーが静かに語りかける。

「怒りと悲しみは争いと破壊を生み、喜びと楽しさは平和と創造を齎す、争いよりも平和が勝り、破壊よりも創造が勝る、人それを愛の勝利という」
「あんたのお陰だ、俺はいま全てを取り戻した、故に恐れるものなど何も無いっ!」
「うむ、今こそあの悪魔を打ち倒す時!」
「応っ!」

鋭い眼差しを前方に向ける謎のファイターとドモン、そこには生体コアたるレインを失いながらも牙を剥き出してこちらに襲い掛かってくるデビルガンダムの姿があった
その姿を認めた二人は前方へと進み出るとバイカンフー、ゴッドガンダムの両雄が並び立ち右手を眼前で握り締める。
ドモンの甲にキングオブハートの紋章が浮かび上がり握り締められたゴッドガンダムの拳が真紅に染まる。

「我らの拳が!」
「真赤に燃える!」

バイカンフーは全ての力を集約するように腰溜めに構えた抜き手は炎を纏って灼熱する。

「悪を倒せと!」
「轟き叫ぶ!!」

己の全てを搾り出すが如く、足を踏ん張って腰を入れる2体の巨人。

「流!」
「派!」
「天空宙心拳」
「東方不敗が」
「合真奥義!!」

魂すら燃焼し尽くすような気合の声を合わせると同時に震脚をもって地を踏みしめる。

「ばあっくねっつうっ ゴォッドォハンドォッ!」

揺らめく陽炎を纏わせた二つの拳を同時に突き出す、ゴッドガンダムとバイカンフー。

「石破っ天驚ぉっ スマァッシュウゥ!!」

二人の雄叫びが天地を揺るがせると同時に真紅に燃える巨大な手刀が轟音と共に放たれた。
燃える手刀は狙い違わずデビルガンダムの中心を貫いて灼熱で包みこみ、さらにデビルガンダムの巨体を天へと差し上げて止めの一撃を叩き込む。

「ヒィィートォ、エンドォッ!!」

二人の叫びと共に爆散したデビルガンダムの燃え残った部分がゆっくりと崩れ落ちて灰になってゆくのを確認したゴッドガンダムとバイカンフー背後を振り返り手を打ち払う。

「成敗!!」

締めの声と共に遂に地球圏の全てを恐怖に陥れたデビルガンダムが全ての機能を停止し跡形も無く消滅した。
歓声と喝采をあげる全ての人々、ここに地球の危機はさったのである。

デビルガンダムが消滅した場所に残っているのは、何時の間にか姿を消したバイカンフーから降り立った謎のファイターとこちらもゴッドガンダムから降りたドモンとレインの二人である。
歩み去ろうとする謎のファイターにドモンが声をかけた。

「もう行くのか、天空宙心拳の伝承者よ」
「うむ、世界に悪がある限り剣狼の導きに従い是を討つ、それが天空宙心拳伝承者の使命」
「ならばシャッフルの紋章たるキングオブハートの名にかけて誓おう、俺もまた愛と正義の為に戦い抜くと!」

見つめあう二つの眼差し、そしてどちらからとも無く構えを取ると同時に拳を繰り出した。

「流派東方不敗は王者の風よ!」
「天空宙心拳は正義の雷!」
「全新系列 天破侠乱 見よ! 天空は赤く燃えている!!」

無数の拳と蹴りが交錯し、気合の声が全宇宙に響き渡れと高らかに謳いあげられた、一連の動作を終えた二人は背筋を正す。

「比翼の鳥は1羽では決して飛べはしない、真に心を通じ合わせたとき何処までも飛んでゆけるだろう、君たちの幸福を祈る」

謎のファイターは目を細めると寄り添い立つドモンとレインに言葉を残して踵を返し歩み去る。
その背中にレインが声をかけた。

「あの、せめてお名前を」
「名乗る程の者ではない、さらばだ戦友よ」
「ああ、また会おう戦友よ」

その背中が見えなくなるまで見送るドモンとレインの二人の手はしっかと握り締められていた。

「さあレイン帰ろう、兄さんとシュバルツと師匠たちの愛した地球へ」
「ええ、私達の思い出の場所へ」

風雲再起にまたがったゴッドガンダムは仲間たちに見送られ新たな旅へと向う。
何故ならば、どんな苦難があろうとも世界は愛と希望に満ちているのだから。

「ガンダムファイトォ! レディ、ゴォー!!」




[16813] 飴玉と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/07/19 13:27
ミシガン湖に近い孤児院「ポニーの家」で明るく元気に暮らす少女キャンディス・ホワイトはそばかすと低い鼻がチャームポイントのお転婆で快活な少女であった。
しかしそのキャンディとて幼い少女である事に違いは無い、時に辛いこともあり涙で枕を濡らす事もあるだろう。
その日は富豪の養女として引き取られた親友であるアニーから自分の出自が孤児院であることを知られることを嫌った手紙が送られてきて、これ以上の文通を断られたのであった。
親友として過ごしてきたアニーからの突然の手紙にショックを受けたキャンディは孤児院近くのポニーの丘で泣いていた。

「おチビちゃん、笑った顔の方がかわいいよ」

そのキャンディに優しく声をかけてくれた者がいる、草むらへ伏せていた顔を上げるとスコットランドの民族衣装をまとった見知らぬ金髪の少年が立っていた。

「あなたは?」
「泣くのはおよし、可愛い顔が台無しだ」

声を掛けられたキャンディは少年の優しい眼差しと言葉に慰められ、銀のバッジを落として去っていった少年を「丘の上の王子さま」と名付け、いつか彼と再会することが最大の願いとなっていた。
12歳になったキャンディは富豪であるラガン家の娘イライザの話し相手として引き取られる事になった、しかし、ラガン家で待っていたのはイライザとその兄ニールからの手酷いいじめであった。
ある日、2人の意地悪に耐え切れずにバラ園で泣き出してしまったキャンディに一つの影が近寄り声をかけてきた。

「おチビちゃん、笑った顔の方がかわいいよ」

そのかつて掛けられた言葉と同じ言葉にはっとして顔を上げると、そこには丘の上の王子様そっくりの少年が立っていた。
その少年はすぐにいなくなってしまったがバラ園の門には、あの丘の上の王子様が落としていった銀のバッジと同じ紋章が刻まれていた。
また辛い暮らしの中でもアリステア、アーチーボルト兄弟とも出会い、親しくなったキャンディはアードレー家のパーティーに招待され、そこでスコットランドの民族衣装を着たステアとアーチー、そして丘の上の王子様に似たバラ園の少年アンソニーと再会する。
アンソニーはバラの品種改良が趣味の心優しい少年であった。
3人、とりわけアンソニーと親しくなったキャンディはアンソニーから自分の誕生日を聞かれたが孤児であるキャンディは誕生日を知らない、そんな彼女にアンソニーは次に自分と会った日が君の誕生日だと約束をした。
後日キャンディとアンソニーと再会したときに、アンソニーが品種改良して作った新種のバラをプレゼントされ誕生日を祝ってもらう、そのバラの名前はスイートキャンディ。
小さな幸せを感じるキャンディであったが、ラガン家でのいじめはますます激しくなっていった。
当初は話し相手だったはずが使用人見習いにされ、次に馬屋番として馬屋での寝泊りを強要されるまでになっていた。
そんなつらい生活を支えたのがアンソニーとの幼いながらも純粋な恋心であったが、運命はキャンディに更なる残酷をもたらす。
アンソニーが落馬事故を起こして命を散らせてしまったのだ、余りの衝撃に悲嘆にくれるキャンディであったが日々の生活は容赦なく彼女を追いたてる。
この日もラガン兄妹に近くの森へと連れてこられたキャンディは二人からいじめを受けようとしていた。
イライザの右手が振り上げられキャンディの頬を叩こうする、それを嫌らしい顔でニヤニヤと眺めるニール。
思わずキャンディが目を瞑ったその時。

「待てい!」

鋭い声が辺りに響き渡った、その声は亡くなったはずのアンソニーの声に良く似ていた、アンソニーは無事だったのかとキャンディは顔に喜色を浮かべて周囲を見回す。
声を頼りに視線を向ければ滝の頂に白馬に乗った一つの影が存在した、その影に向ってキャンディが声を張り上げる。

「アンソニー、生きていたのね?!」
「滝の流れは全てを清く洗い流す、たとえ悪に生きた貴様達でも流れで身を清めれば素晴らしい未来があるだろう、人それを改心という」

馬上の影は逆光でよく見えないが、滔々と聴こえてくる声は間違いなくアンソニーの声、その声に動揺して思わず声を荒げるニール。

「だ、誰だっ?」
「貴様らに名乗る名は無い! はあっ」

人影は白馬を見事に操ると蹄の音を響かせて崖の上から飛翔すると、キャンディとラガン兄妹の間に降り立った。
白馬の主は青い兜をかぶっており青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ている謎の男であった。

「アンソニーじゃない?!」

突然の現れた謎の男に三人の目が点になるが、そんなことはお構いなしに馬上から華麗に飛び降りた男はラガン兄妹に相対し鋭い視線を向ける。

「か弱い少女を権力を笠にしていたぶる者達よ、気様らには反省が必要だな」

男は何時の間にか手にしていた剣を天高く掲げて力ある言葉を紡ぐ。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

謎の男が姿を消したかと思うと、そこにはバイカンフーと名乗る赤い巨人が立っていた、その姿に恐怖したラガン兄妹は逃げ出そうと走り出すが既に遅い。

「逃がしはせんっ、天空宙心拳ショルダースウィング! 成敗!」

二人はあっという間に捕まると肩に抱えあげられて、凄まじい回転と共に滝つぼへと投げ込まれた。

「うわあああっ?!」
「きゃあああっ?!」
「滝の清流にて邪念を洗い流すが良い、あとは頼んだぞ、二人とも」

滝つぼに落とされた二人は溺れまいと必死でもがく、その溺れる二人の手をがっしりと掴んだ手があった、九死に一生を得たかとほっとする二人だが、直後自らの手を掴んだ影と言葉に愕然となる。

「まかせろ、天空宙心拳式矯正法で腐った性根を叩き直してやるぜ」
「オイラたちはちょっと厳しいから、覚悟しな」

それは見たことも無い角ばった鋼の鎧を着こんだ二人の男であった、二人ともが目元を黒と赤の眼鏡で覆っており表情が読み取れないが雰囲気から只者ではないと分かる、それを知ったラガン兄妹は顔面を蒼白にしながら自らの行いを悔いる羽目に陥った。

何時の間にか赤い巨人バイカンフーは姿を消していたが、キャンディは今目の前で起こった事が信じられずに呆然としていた。
そこへ白馬を連れて謎の男が近付いてくると、キャンディの前で屈んで顔を覗き込んできた。
一旦はアンソニーかと思った人物、また自分の窮地を救って貰ったとはいえども先程の異様を見た後では恐怖が先に立つ。
おもわずビクリと肩を竦めるキャンディに謎の男はキャンディの目の端にうっすらと残った涙の痕を優しく拭うと声をかけてきた。

「君に涙は似合わない、笑顔こそ君を尤も輝かせるのだ」

頬を撫でる優しい指先の感触にキャンディがはっとする、自分を見つめる眼差しは在りし日のアンソニーと同じ優しさと憂いを秘めていた。
その事に気がついたキャンディが恐る恐る尋ねる。

「あ、あの彼方は?」
「名乗るほどの者ではない、健気な少女よ人生は険しい、だが己を信じて努力を続ければ必ずや素晴らしい未来が待っている、君に幸多からんことを祈る」

涙を拭いてくれた謎の男は言葉少なに立ち上がると颯爽と白馬にまたがり去ってゆく、その背中にキャンディが声をかけた。

「何処へ行くの?」
「全ては剣狼の導きのままに」

段々と小さくなってゆく背中を見送るキャンディが呟く。

「もしかして、あの人はアンソニーの生まれ変わりなの? それとも本物の丘の上の王子様? それとも天から遣わされた天使様かしら、いいえ貴方が誰でも構わない、わかりました私、強くなります!」

彼女の小さな胸には大きな優しさと決意が満ちていた。










その頃滝つぼでは

「まずは正券突き500回だあ!」
「心配するな、天空宙心拳の教えを受ければ真人間になれる」
「い、いやあああっ~」
「も、もう無理ですう~」

とことん扱かれる兄妹が悲鳴を上げていた。



[16813] 真理と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/08/31 01:10
アメストリス、強力な軍事政権を基盤に中央大陸に覇を広げんとする国家である。
その力の源ともいえるのが錬金術であり、等価交換の法則によって大いなる力を発揮する錬金術はアメストリスにおいて重要な位置を占めていた。
そのアメストリスの片田舎リゼンブールに幼い兄弟が住んでいた、兄エドワード・エルリック、弟アルフォンス・エルリック共に幼少から錬金術を嗜む天才である。
否、天才で在り過ぎた、今よりも更に幼き日に最愛の母親、トリシャ・エルリックを亡くしたエルリック兄弟は母親を生き返らせようと、錬金術における最大の禁忌である人体錬成によって母親を取り戻そうと試みるが出来上がったのはおよそ人とも呼べぬ醜怪な残骸であった。
愕然とするエドワードであったが其処にアルフォンスの姿は無い、練成の失敗によってエドワードは左脚を、アルフォンスは自らの身体全てを失っていたのである。
咄嗟にエドワードは自身の右腕を代価として練成を施し、アルフォンスの魂を鎧に定着させることには辛うじて成功したものの自分達の愚かさに気づかされるだけの結果となった。
その後エドワードは失った右腕と左脚に機械鎧(オートメイル)を装着して仮の手足を手に入れ、アルフォンスは人間としても五感全てを失った鎧の体での生活を余儀なくされる。
12歳となったエドワードは尋ねてきたロイ・マスタングから国家錬金術師と成る様に薦められる、アルフォンスと共に元の体に戻る為にエドワードはアメストリスの国家錬金術師となり二つ名「鋼」を授かり絶大な力を持つ賢者の石を探す旅へと出る。
しかし、旅先には数々の試練がエルリック兄弟を待っていた。
エドワードを「人柱」と呼ぶ人造人間(ホムンクルス)や国家錬金術師を狙う傷の男(スカー)などの謎の敵が現れ、さらには目的を同じくする異国の者達まで現れる。
そんな中で求める賢者の石は人の魂を使って製造することと知ったエルリック兄弟、そしてアメストリス建国から現在に至る全ての事件が、ホムンクルス達がお父様と呼ぶ存在の計画の一旦だと知る。
それは国全体を一つの練成陣として国民全てを賢者の石に変えるという途方も無いものであった、その計画を知ったエルリック兄弟はマスタング大佐やアームストロング少将、さらに嘗て敵対したスカーやホムンクルスのグリード、行方不明であった父ホーエンハイムを仲間に加えて計画阻止に動き始める。

そして、遂に運命の日を迎える。

国家練成陣、その中心である軍司令部の地下に広がる大伽藍にてお父様と対峙したエドワードたちであったが、その圧倒的な実力の前に劣勢を余儀なくされる。
唯一互角の戦いを演じていたホーエンハイムすら、人の皮を脱ぎ去り本性である黒い影に無数の目を持つ「フラスコの中の小人」の姿に戻ったお父様に捕らえられ体内に吸収されてしまう。
それでも最後の策に望みをかけて抵抗するエドたちであったが、直後マスタング大佐が大伽藍へと連れてこられる。

「く、ここは何処だ、真っ暗で何も見えん」
「大佐、まさか目が……」

真理の扉を潜る代償として己の持つ何かを差し出さねばならない、それは無理やりに扉を開かされたマスタングも例外では無い、彼はこの国の行く末を見つめるための目を奪われていた。

「真理は残酷だ、人間が思いあがらぬように正しい絶望を与える、それこそがお前たち人間が神とも呼ぶ存在『真理』だ」
「納得いかねえ」

「フラスコの中の小人」が傲然と言い放つ言葉に反論する人間がいた、エドワード・エルリックである。

「俺たちみたいに自発的にやらかしたのなら納得するさ、でもする気の無い奴が人体錬成に巻き込まれて視力を失うのを正しいなんて、そんなスジの通らねえ『真理』は認めねえ」

敢然と言い放つエドだが、マスタングが此処に来たことで5人の人柱が揃ってしまった、状況を打開するには、お父様を倒すか誰か一人でも逃げのびる必要があるが、当然その両方共が容易い事で無いのは全員が理解していた。

「逃げられんよ」

その言葉を裏付けるように「フラスコの中の小人」から伸びた影が大伽藍の周囲を包み込む。

「さて、人柱諸君、まだ無駄な抵抗を続けるかね?」
「あったりまえだ、こちとら諦めるって言葉は知らねえんだよ! いくぞアル」
「うん、ここでお前たちの好きにさせる訳にはいかないんだ」

エルリック兄弟が両手を眼前で合わせて「フラスコの中の小人」へ仕掛けようとしたその時。

「フフフ、フハハハハハハ! 無謀の嵐が吹き荒れようと、挫けぬ心あるならば、何時か嵐は凪ぎとなり静けさが戻る、災いは必ず去るもの、人それを禍福という」

何処からともなく大伽藍に笑い声が木霊し、続いて浪々と謳い上げる力強い声が広間に響きわたる。
声が聞こえてくる方向に全員の視線が集まる、そこには何時の間にか広間の中心にある玉座の前に一つの影が立っていた。
天井から玉座に降り注ぐ太陽の光の中ですっくと立つその姿は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧、いや肩や足の形状からすればオートメイルであろう鋼の体を持つ鋭い眼差しの男であった。
突然の闖入者に広間に居た全員の視線が注がれるなか、謎のオートメイル男に向かってお父様が誰何の声をかける。

「千客万来だな、一体何者だ?」
「貴様らに名乗る名は無い!」
「ふざけた人ですね!」

イラついたような声と同時にプライドが影を走らせる、殺到した影は不躾な闖入者を一片の情けも無く排除するべく殺到する。
しかしオートメイル男の兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に殺到する影の間を縫ってオートメイル男は空中へと飛び出して一撃を繰り出した。

「天空宙心拳、卍拳! つあっ!」
「なんですって?!」
「ほう」

四方から迫るプライドの影から両手両足を使った技で弾き飛ばしたオートメイル男、その実力に驚愕するプライドと軽く唸る「フラスコの中の小人」。

「そこそこ腕は立つようだが、私の敵ではない」
「ほざけっ、天空宙心拳、稲妻二段蹴り!」

オートメイル男はそのままお父様へと肉薄して稲妻の如き二段蹴りを放つが、その鋭い蹴りも「フラスコの中の小人」には通用しない、直撃した蹴り足がずぶりと体に沈み込む。

「なるほど、人間とオートメイルのキメラとでもいうのかな、なかなかに興味深いが今は人柱では無い者に用など無い」
「むうっ!?」

謎のオートメイル男はそのまま「フラスコの中の小人」の体の中に取り込まれてしまった。

「さて闖入者は始末した、ではお前たちを使って扉を開けさせてもらうとしよう」
「何しに出てきたんだ、あいつ!?」
「それより来るよ、兄さん」

唐突に現れてあっという間に退場した謎のオートメイル男にあきれた声を出すエドワード達に向かって「フラスコの中の小人」から伸ばされた影がエドワードとアルフォンス、マスタング大佐、そしてエルリック兄弟の師であるイズミ・カーティスの四人を捕え、自分の体の中から解放したホーエンハイムを五か所に押さえつける。

「時は来た! この力をもってして、この惑星の扉を開ける!」

人柱五人の扉が開き凄まじい力が地に満ちる、その力の中心に立つ「フラスコの中の小人」が哄笑を上げ、そして歓喜の声が上がると共に一筋の光が天地を貫いた。





エドたちが窮地に陥っている頃、謎のオートメイル男は「フラスコの中の小人」に捕らわれた事によって白い空間へとその姿を現してした。

「ここは一体? むうっ」

気配を感じて振り向けば、そこにはぼんやりとした白い影が腕を組んで立っている。

「何者だ」
「貴様に名乗る名は無い、と言いたい所だがあえて名乗ろう、俺の名は真理、貴様も真理を求めるか」

しばし睨みあうオートメイル男と白い影だがオートメイル男がくるりと踵を返す。

「どうした真理を知りたくはないのか?」
「くだらん、真の理(まことのことわり)ならば既に俺の胸に刻まれている」
「フ、フハハハハハハ、そんな答えを返されるとはな、ならばどうする」
「知れたこと、ただ己の使命を全うするのみ! 天よ地よ火よ水よ、我に力を与えたまえ、剣狼よ!!」

オートメイル男の咆哮に応えるかのように剣から光があふれ出し、白い空間を更に光によって塗りつぶしていった。





天地を貫くその光は「フラスコの中の小人」の頭頂部から突き出された一振りの剣から迸る輝きであった、その輝きの中へ飛び出した影がある。

「闇を操り、心を蝕む者を、俺は許さん!」

光の剣を手にして空中に踊りだしたのは、先程「フラスコの中の小人」の体内へと消えた謎のオートメイル男であった。

「な、なんだこれはあああっ」
「愚かなる「フラスコの中の小人」よ、真理とは己の内より開かれるもの、それを知らぬ貴様に本当の真理など掴めん!」

今の一撃でダメージを負ったのか、オートメイル男が飛び出してきた額の部分を押さえてよろめく「フラスコの中の小人」に剣を突き付けるオートメイル男。

「ば、馬鹿な、あそこから無事に戻ったというのか?」

驚愕に目を見開く「フラスコの中の小人」だが更なる、驚きを目のあたりにする事になる。

「もはや問答無用、パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」
「なあにいっ?!」
「ええっ?!」
「何だ? 何が起こっている?!」
「こりゃ魂消た」
「す、凄いです、あの巨人さんからは目玉さん以上の力を感じます!」

謎のオートメイル男が剣を空中へとかざすと名乗る真紅の巨大なオートメイルが突如として出現し、その中へと吸い込まれるようにしてオートメイル男が消える。
その等価交換を超越した存在に吃驚仰天するエルリック兄弟たち、その中でメイ・チャンが現れたバイカンフーと名乗る真紅のオートメイルから発散される強大な気配に畏怖を覚えていた。

「くっ」

プライドがバイカンフーを倒すべく咄嗟に影を伸ばす、殺到する影がバイカンフーを貫こうとした時、天から降り注ぐ光を両手に集めたバイカンフーが前方に両腕を突き出すと同時に光の奔流が掌から相手に向かって解き放たれた!

「天空宙心拳、エンジェルサンダー!」

プライドの影はバイカンフーの一撃によって全てが消し飛ばされた。

「そんなっ」
「観念の時だ、「フラスコの中の小人」よ! はあっ」

バイカンフーは掛け声と共に天高く舞い上がった、その背中に太陽の光を浴びて真紅の巨体が赤く煌めく。

「なんだと、まだ日食が晴れる時間では無いはずだ、それにその迸る力は一体? ま、まさか自然現象さえも操る事が出来るとでもいうのか、い、いったいお前は何なのだ?!」

次々と起こる事態にさしもの「フラスコの中の小人」も動揺を隠すことができない、そこへバイカンフー必殺の一撃が放たれる。

「止めだっ、サンライズボンバー!」

バイカンフーが日の光を浴びて耀くと炎を纏って「フラスコの中の小人」に飛び蹴りを放つ、咄嗟に影で防御しようとしたお父様だが光の前に影は消え去るのみ、殺到する影を尽く焼き尽くした鋭い蹴りが「フラスコの中の小人」を襲う。

「ぬああっ?!」

バイカンフーは吹き飛ばされるお父様を追いかけると左右の拳を繰り出して連続攻撃を叩きこむ。

「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」

体勢が崩れたお父様に向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。

「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」

突き出された手刀は「フラスコの中の小人」の胸を貫いた。

「貴様の中に捕らわれし哀れな魂と共に還るがいい…… 成敗!」
「お、おおおおおおおおおおおおーっ」

手刀を胸から引き抜いて打ち振るうバイカンフー、そして貫かれた胸からは無数の光が天へと消えてゆく。

「あれってもしかして」
「ああ、クセルクセスの皆の魂が天に還ってゆくんだ」

全ての輝きが消えた後に立っているのは謎のオートメイル男とその前に浮かぶ、一欠けらの「フラスコの中の小人」の本体であった。

「私はただ真理を知りたかっただけなのに……」
「言ったはずだ、真理とは知るものでは無い、己の内に開くものだ」
「それでは、私は初めから ま ち がっ……」

最後の言葉を言い残すこと無く「フラスコの中の小人」は消え去った、その無常な最後はエドたち真理を追い求める錬金術師に何を残したのか。
最後を看取った謎のオートメイル男がエド達の方へ向き直った時一筋の影がオートメイル男を襲う。
オートメイル男は難なくその攻撃をかわすと構えを取って影の出現地点に鋭い視線を飛ばす、そこに立っていたのはボロボロの姿をしたプライドであった。

「よくも父上を」

プライドに向かうオートメイル男の前にエドが割り込むと背中越しに話しかけてくる。

「悪いけど、あいつは俺に任せてくれ」

その言葉を受けてオートメイル男は腕を組んでその場に留まった。

「あんがとよ、おいセリムお前の父親はもういねえんだぞ、それでもまだやるつもりか」
「当り前でしょう、僕はプライドです、最後に残ったホムンクルスの矜持ぐらいは守らせてもらいます」
「俺はプライドに聞いてんじゃねえ、セリムに聞いてんだよっ!」
「同じですよ、父上が居ない以上僕に生きる意味などない!」

怒号と共に影を伸ばすプライドの攻撃を紙一重で交わすと顔面を鷲掴みに捕まえるとエドは自らの魂を賢者の石に変えてプライドの中へ侵入するとプライドの魂ともいうべきものを捕まえる。

「簡単に生きる意味とか言ってんじゃねえ、お前を待ってる人だって居るだろうが! その強情なプライドひっぺがしてやるあっ」
「や、やめろおおおっ」

僅かな時が流れセリムの体がサラサラと崩れていく、エドが手のひらを広げるとそこには小さな小さな赤ん坊が丸くなっていた。

「ママ」
「後でブラッドレイ夫人に謝らなきゃな」
「見事だ」
「あんたが「フラスコの中の小人」の中から出てきたからな、俺にも出来るかと思ってさ」

肩で息をつくエドにオートメイル男が賛辞の言葉をかける、その言葉を受けたエドはニッと笑って答える。
そのエドにアルフォンスやホーエンハイムが駆け寄って無事を確かめる、もみくちゃにされながらも笑っていたエドオートメイル男が去ってゆくのに気がついて声を張り上げた。

「もう行くのか、皆あんたのお陰で助かったんだ、お礼だって」
「礼など無用、俺は俺の魂のままに動いたにすぎん、錬金術師たちよ、その大いなる御業を人々を助ける為に使う事を忘れないでくれ」
「ああ判ってる、でないとまたあんたが何処からともなく現れて退治されそうだ」
「フ」
「なあ、これから何処へ向かうんだ」
「全ては剣狼の導きのままに」

オートメイル男が答えると同時に一陣の風が吹き抜け砂を巻き上げた、思わず瞑った目をエドたちが開けた時には既に謎のオートメイル男の姿は掻き消えていた。

「兄さん、あの人一体、何者だったのかな」
「さあな、でもまだまだ世界には俺たちの知らない事が沢山あるってことだな」

エドは消えたオートメイル男の背中を思い返すとまだ見ぬ世界に思いを馳せた。

「アル、また旅に出ようぜ、今度は世界ってやつを知るための旅にな」
「そうだね、でもウィンリイはどうするのさ」
「ばっお前、いきなり何言い出すんだよ」

周りの人間が微笑ましそうに見つめる中で真っ赤になって慌てるエド、その頭上を一羽の鳥が悠々と飛翔していった。


そして数年後


「ねーお父さん、また謎のヒーローのお話してー」
「してー」
「お、好きだなお前たち」

子供たちにせがまれて話を始める金髪、金瞳の男とそれを笑いながら見つめる妻がいた、謎のオートメイル男の話はおとぎ話に残るのみである。



[16813] おまけ 素敵で無敵
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/08/31 01:13
ヤアヤアヤア、突然ではありますが此処は宇宙のどこかにある惑星クロノス星だよ。
今日もデビルサターン6が悪事を働いているねえ酷い話だよ。

「うへへへへ、ワイらに逆らったらイテコマしたるでえ~」

だが安心してくれ、この星の平和を守る正義の味方の登場だ。

「ムハハハハハ」
「なんや、笑い方がいつもと違うような気がするが、とりあえず誰や!」
「ムテキーングッ!!」
「て、ほんまに誰やぁーっ?」

そう皆大好き、ローラーヒーロームテキングの登場だ。

「だからホンマに誰やねん?! まあええ邪魔する奴に容赦はせえへんで」

言い忘れたけど、ムテキングは人間だけどスーパーヒーローだから巨大メカを投げ飛ばせるし、パンチやキックで退治できるんだ。

「へ?」
「ムテキンパーンチ!」
「んなアホなーっ お手紙ちょうだーい」

哀れデビルサターン6はムテキングによって空の彼方へ飛ばされてしまったね。
しかも最後はクロダコブラザーズみたいな台詞を残していったよ、やれやれだねえ。

「ムテキーングッ!」

勝利の雄たけびを上げたムテキングは颯爽と去ってゆくよ、くう~恰好良いねえ。
おっと今日の放送は此処までだ、お相手はキャスターマンでした、センキュー!



[16813] 音楽と兄さん
Name: 小話◆be027227 ID:8fbdcd62
Date: 2010/09/24 11:18
音楽と兄さん

桜舞い散る4月私立桜ヶ丘高校に入学した平沢唯は高校生になった事を切っ掛けにして何か新しいことを始めようとするが何も思いつかず、漫然と日々を過ごしていた。
そんな折り前年度末に部員が全員卒業してしまったため、4月中に新入部員が四人集まらなければ廃部になるという軽音楽部に入部した1年生の田井中律と幼馴染の秋山澪、そして合唱部と間違えて見学に来た琴吹紬を加えた三人に出会い軽音楽部に入部するように勧められた。
「軽い音楽って書くから、口笛とかの簡単なことしかやらない」と軽い気持ちで入部届を出した唯だが、部活内容を知って自分にはバンド活動は無理だと入部を取り下げようと思い訪れた部室で、三人の演奏を聴いて心を動かされ正式に軽音楽部に入部することとなった。
こうして集まった唯、律、澪、ムギの四人は音楽教師の山中さわ子を顧問にゼロから「放課後ティータイム」というバンドを組んで活動を始め、1年が過ぎた頃には新入生の中野梓を加えて音楽と友情に華を咲かせるのであった。
その日の放課後もけいおん部の五人は部室の音楽準備室で練習に励んでいる……訳も無くまったりとお茶を飲んで寛いでいた。

「今日のお菓子は銀果堂のドラ焼きなの~」
「やたー、ムギあたし玉露な、っかし暇だな~なんか面白いこと無いかな」
「おい律、暇なら練習すれば良いだろ」
「そうです、澪先輩の言うとおりです、練習しましょうよ」
「え~こんなに良い天気なんだから、練習するの勿体無くない?」

テーブルに乗ったドラ焼きを頬張りながら、なにやら軽音部らしくない事をあっさりと言ってのけたのは放課後ティータイムではリードギターとボーカルを担当する唯である、高校2年しかも夏休み明けとあって完全にだらけている。
もっとも唯は普段からこんな調子なので誰も突っ込まない。
否、一人だけ唯に突っ込む人間が存在した、只一人の1年生でリズムギター担当の梓だ。

「何言ってるんですかっ2学期は学園祭だってあるんですから、ちゃんとして下さいっ!」
「あ~ずにゃ~ん、そんな事言わないで今日はのんびりしようよ~」
「ひゃわっ、くっ付かないで下さい」

真面目な梓が正論を説くが、だらけモードの唯は梓に抱きついて頬をすりすりと擦りつける。
唯にとって妹の憂と同じ位に可愛い存在である梓に対して過剰なスキンシップを取るのも日常茶飯事である。
そして実は梓はこの抱きつき攻撃に弱い、故に完全に毒気を抜かれてほへっとした顔になるとドラ焼きとお茶でまったりしてしまう。

「美味しいですね、ドラ焼き」
「ああ、お茶も美味しいな」
「御代わりは言ってね~」
「今日はな~んにもやる気でね~」
「ほへ~」
「だらけてるわね~」

五人以外の声が聞こえたので扉の方を振り返れば、そこに立っていたのは仕立ての良い清楚な雰囲気のワンピースを着た眼鏡を架けた長髪の美女、軽音楽部の顧問である山中さわ子であった。

「あ、さわちゃん」

さわ子の姿を見た唯がにぱっと笑って愛称で呼びかけてくるのに、軽く手を振って応じながら部室に入ってくると自分の定位置になっている席にさわ子が付くと、空かさずムギがお茶とお茶請けを差し出す。

「ありがと、皆もう2学期が始まって1週間も立つんだからちゃんとしなさい」

お礼を言ってから上品にお茶を一口飲んで、けいおん部の五人の顔を見渡して嗜める。

「いやあ~、分かってはいるんだけどさ~」
「ええ、なんか刺激が足りないというか」
「夏休みは合宿とか色々したものね」

部長でドラム担当の律が頭を掻きながら言うのに、ベースと曲によってはボーカルも担当する澪とキーボード担当のムギが追随する。
そんなけいおん部の面々を見渡したさわ子はフッフッフと一寸不気味な笑い声を漏らすと懐から紙束を取り出して突き出した。

「じゃーん、そんな皆に良い物を上げましょう!」
「おおーっ」

それは週末に行なわれる野外ライブのチケットであった、数は丁度6枚ありけいおん部の五人とさわ子の分がある。

「如何したんですか、これ?」
「……しょせん女の友情なんて儚いものなのよ……」

チケットをくれるというさわ子に澪が尋ねると、さわ子は右斜め下に視線を落としてブツブツと呟きはじめる。
その様子を見た澪は律と視線を合わせると、この話題は無しにしようとアイコンタクトを取った、ほかの面々はチケットに夢中で気が付かなかったのも幸いした。

「あ、ありがとーさわちゃん」
「と、とっても嬉しいです」
「フフ、そう言ってくれるとこっちとしても助かるわ」

微妙な空気が流れる中で話は進み、週末は六人で野外ライブへ行くことが決定した。



いよいよ週末となり、けいおん部の面々は野外音楽堂で行われたライブに来ていた、現在は最後の男三人女一人バンドがアンコールを演奏中であり「やってやるぜ!」のコールで会場も大いに盛り上がりを見せている。
ジャッジャッジャンという〆の音が鳴り響き、これでアンコールも含め全てが終了した、と思われた瞬間に全ての電源が落とされて辺りが暗闇に包まれた。

「フハハハハハハハハハ!」
「ひ、ひい~っ!」

闇の中から響いてくる哄笑に怖がりの澪が律にしがみ付くなか、暗黒を切り裂くスポットライトの光が二条、野外音楽堂の屋根へ向けられる。
その光の中に浮かび上がったのは青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形のボディースーツを着て腕を組んで立っている一人の男だった

「あ、あの方はっ!」
「さわちゃん、知ってるの?」
「口上が終わったら『何者だっ!』って叫ぶのよ、良いわねっ」

派手な衣装の男を見たさわ子が驚愕を顔に貼り付けて叫ぶのを聞いた唯が尋ねると、さわ子は五人に向き直ると満面の笑みを浮かべて指示を出す。
その意味が判らずに首を傾げる五人の耳に朗々とした声が響き渡る。

「どんなに冷たい氷でも、燃える心に勝てはせぬ、嵐にも消えぬ火、人それを情熱という」
「何者だっ!」

さわ子が言ったとおりに訳も分からず叫んだ唯たちだったが、同様に会場に集まった観衆もまた一斉に叫んでいた。

「貴様らに名乗る名は無いっ!」
「ええーっ!?」

誰何する声に対して、屋根の上の謎の男が鋭い眼差しを光らせて堂々と名乗らないと言い切る姿に驚く軽音部の5人だが、さわ子を始めとした観客の大半はその声に黄色い歓声を上げている。

「とうあっ!」

嬌声が響く中、屋根から飛び出した謎の男は危なげなくステージ上に着地すると、どこからとも無く狼形のヘッドに流星形のボディのギターを取り出した。
謎の男がギターを構えると同時に爆発音が響き、一拍開けてドラムとギターの音が鳴り出してステージに光が戻る。
光の中に浮かび上がるステージ上には既にスタンバイしていたバンドメンバーが三人おり、始めに登場した男を入れて四人組らしいと判る。
判るのだが、バンドマンの格好を見たけいおん部の五人は目を丸くしていた、只でさえ始めに現れた男のステージ衣装が奇抜だというのに残りのメンバーは輪をかけて妙なというか何というか、三人ともが子供の頃にデパートの屋上で演っていたロボットの着ぐるみショーと似たような格好である。
ベースは黒いサングラスで顔を隠した上に赤い戦闘機を模したもの、ドラムは此方も赤いバイザーで顔を隠し頭にはドリルの帽子を被った戦車をイメージしたもの、キーボードに至っては更に輪をかけて大きい上に胸の所に操縦席が意匠されている。
一瞬コミックバンドかと思った五人だが、その演奏は間違いなく一流のもので予想とは遥かにかけ離れた本格的な演奏と歌声である。
勢いのある音楽が奏でられると中央の謎の男が歌い出す、軽妙でありながら深みのある声が会場に響き渡ると観客の盛り上がりはヒートアップしてゆく、さわ子など既に立てノリで叫んでいた。

「さあっい、きょおおう、マッスイーン」
「ロオッボォォォォォォ!」

アップテンポの旋律に合わせて力強く堂々と、そして伸びやかに勝利を約束した1曲目を歌いが終わった所で、中央にいた謎のボーカルが舞台から空中へと飛び出した、明らかに人類の範疇を超えた高さまで飛んでいる事から恐らくはワイヤーアクションだろう、野外ステージでどうワイヤーで吊っているのかは謎だが盛り上がりの前では些細なことだ。
派手な演出にお祭り好きな唯や律は大喜びで、自分たちのライブでも出来ないかと言い出しそうな雰囲気だ。
澪が後でどうやって自重させるかと考えた次の瞬間、更に信じられない出来事が展開された。

「パーイル・フォーメイション!!」

ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ

「バァーイッ・カンフゥーッ!!」

謎のボーカルが空中で巨大なロボットとしか見えないものに変身したのだ。

「ほえ~っ」
「うっわー、なんか格好良いじゃん」
「す、凄いな」
「どうやってるんでしょうか?」
「イリュージョンじゃないかしら」
「ちっちっち、甘いわね、此処からが本番よ!」

突如現れたバイカンフーと名乗る巨大ロボのセットを見て感心するけいおん部の五人にさわ子がバイカンフーを指し示すと同時に2曲目が始まり、そしてセットだと思っていたバイカンフーが動き出すと聴衆から「バイッ、バイッ、カンフーッウ、バイッカンフーッウ!」とバイカンフーコールが湧き上がる。

「え、ええ~っ!?」

こんな大きなロボットのセットが動き出すとは誰も考えていなかったらしく、一緒にバイカンフーコールをしているさわ子を除いた、けいおん部五人の声が綺麗に揃って会場に木霊した。
バイカンフーはステージ前に立って謎のボーカルが持っていたのと同じ形の大きなギターを掻き鳴らし歌い踊り、いつしか会場は今日最高の盛り上がりを迎えていた。

「マッシイーン・ロボオッ!」

3曲目は自分たちに敵は無いと言わんばかりの高らかに伸びやかに男の戦いを歌ったもので兎にも角にも燃える歌詞とリズム、しかも覚えやすいので初見の面々もすでにサビの部分では拳を振り上げて叫んでいる。

「マッッシイィーン・ロボオォッ!!」

愛と勝利を目指し高らかに曲を歌い上げたバイカンフーの右手が高々と天へと突き上げられる。

「来たわっ、皆も一緒に成敗よっ!」

会場に居た全ての観客がバイカンフーと同じように右手を手刀の形にして頭上へと振り上げる。

「闇を操り、心を蝕む者を、俺は許さんっ」

決め台詞を叫ぶバイカンフーの動きに合わせて、観客が一成に右手を薙ぎ払う。

「成敗っ!!」

正しくステージと観客が一体となってステージの幕を飾った瞬間全ての証明が落とされた。
僅かな間を置いて灯りが点った時にはステージに居たメンバーどころか、あれだけ大きなバイカンフーすらも跡形も無く消え失せていた。



ライブ会場を後にしたけいおん部の面々だが、未だに興奮冷めやらぬ感じであーでもないこーでもないと話をしながら家路についていた。

「いやー、しっかし最後のバンドは凄かったよなー」
「うん、本当に凄かった」
「パフォーマンスも凄かったですけど、演奏も歌も凄かったです」
「りっちゃん、なんだか私いま凄いギー太弾きたい気分だよ」
「あなた達、運が良いわよ、あのバンドはゲリラライブばっかりで、しかも正体不明だから聞こうって思っても普通は無理なんだから」
「さわ子先生は聞いたこと、あったんですか」
「軽音部で活動してた時に一度だけね」

一発でファンになっちゃったとさわ子が続け、当時のことを教えてほしいと澪に請われたさわ子が話し始め、またその話に対してあれやこれやと皆で騒ぎながら歩いていると唯がふと足を止めて辺りをキョロキョロと見渡した。

「おーい、どうした唯」
「唯ちゃん、終電来ちゃうよ」
「聞こえる」
「え?」
「ちょ、おい唯!」
「唯先輩!」

唯は訝しげに声をかけた律とムギの声に答えずに横の路地へと飛び込んでしまう、驚いた五人も唯の後を追って路地を走り出す。
5分程走って路地を抜けた先には一寸した広場が広がっており、そこに一人の影が佇んでいた。

「やっぱり居た」
「ちょっと唯ちゃん、行き成り走り出さないでって、ええっ?」

影は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形のボディースーツを着た男、すなわち謎のバンドの謎のボーカルである。
誰も正体を知らないどころか個人的に話をしたという人物すら居ないという謎のバンドの中心人物であると目されるボーカルが目の前に居る事に驚きを隠せないさわ子を初めとするけいおん部、何故まだステージ衣装を着ているのかという疑問が浮かんだが、まあ些細な問題だとして頭の片隅に追いやった、であったが唯は恐れ気も無く近付くと声をかけた。

「あ、あのっ」

ボーカルが唯の声に反応して振り返る、近くで見るボーカルの顔はシャープな顎のラインにすっと通った鼻筋、鋭く燃える瞳の中に湖畔の静けさを同居させた美丈夫であった。

「俺に何か用かな」

自分を見つめる美女と美少女たちの視線を意に返すことなく優しげに尋ねてくる謎のボーカルに、唯が身振り手振りを交えて今日のライブについて如何に感激したかを話している。

「そういう訳で私達、放課後ティータイムってバンドを組んでるんです、だからどうしたらあんな風に歌えるか教えて下さいっ」

話の終わりにペコリと頭を下げて教えを請う唯に謎のボーカルが言葉をかける

「放課後ティータイム、【ふわふわ時間】や【筆ペン~ボールペン~】は良い歌だ」
「知ってるんですか?」
「ああ、剣狼が教えてくれる」

謎のボーカルの言葉に驚く澪に〈けんろう〉さんって誰なんだろうと妙な事を思いつく唯。

「だが、そう君たちの歌には燃える魂が不足していると思う」
「燃える魂」

謎のボーカルの指摘に対して額に一筋の汗を流す律。

「だが君等の歌にはそれを補うものが確かに存在する」
「それって一体」

ムギが身を乗り出して尋ねると、謎のボーカルはキッと放課後ティータイムのメンバーを見渡して重々しく口を開いた。

「それは……」
「それは……」

梓の呟きと一緒に息を飲む一同を前に謎のボーカルが咆哮する。

「それは…… 萌える魂だあっ!」
「も、萌える魂ですか?」

読みは同様でも字面が違うというか何と言うかな微妙な答え、何故かさわ子だけは大きくうんうんと頷いて賛意を表しているが、を聞いた唯たちが眼を丸くしたのを余所に謎のボーカルは得々として語りかける。

「うむ、燃えと萌えは似て非なるもの、しかし人々の魂に呼びかける力に違いは無い、迷うことなく自らの道を進みたまえ」
「そうよ、この方の言う通りよ皆には皆の良さが有るのよ」
「キャサリンさんの言うとおりだ、己を信じて心を真っ直ぐに歌うこと、そうすれば否そうでなければ人の心を打つ歌など歌える訳が無い」
「その通り……あの今なんて言いました?」

謎のボーカルの言葉の後を継ごうとしたさわ子がギギッとした動きで謎のボーカルに視線を移す。

「己を信じて心を真っ直ぐに歌わなければ人の心を打つ歌など歌える訳が無いと」
「いえ、その前」
「キャサリンさんの言うとおりと」
「な、なななな何で知ってるんですかあっ」

ピシリと固まったさわ子はすうっと息を吸い込むと悲鳴を上げた、謎のボーカルから自分が学生時代に参加していたバンドで名乗っていた名前を出されて驚くさわ子に謎のボーカルが何でも無い様に言葉を繋げる。

「全ては剣狼が教えてくれます、貴女の熱いソウル溢れるシャウトには痺れました」

謎のボーカルが自分の過去を知っていたという余りの衝撃に喜んで良いのか、嘆くべきかで挙動不審になるさわ子をひとまず置いておいて話を進める謎のボーカルは、放課後ティータイムのメンバー一人一人を見つめると微笑んだ

「何時の日か君たちと同じステージに立ち、共にセッションをする時を楽しみに待っていよう」
「ハイッ、頑張りますっ」

全員揃った元気の良い返事を聞いた謎のボーカルはくるりと踵を返して歩み去る、そこへようやく正気を取り戻したさわ子が色紙を取り出して呼び止める。

「待って下さい、あの良かったらサインを頂けませんか?」
「名乗るほどの者ではありません、故にサイン等は断らせてもらっています」
「そんなあ~、でもそうですか、じゃあせめて次の予定を」
「全ては剣狼の導きのままに、さらばっ!」

別れの言葉を残して跳躍した謎のボーカルの姿はステージと同じように一瞬にして消えてしまっていた。
まるでこの世界に居たのが嘘のような見事な消えっぷりに、今まで話していた唯たちですら本当に彼が居たのか判らなくなりそうだが、彼女達の心には確かにあの謎のボーカルが残した言葉が芽吹いていた。

「りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん」
「ああ」
「そうだな」
「そうね」
「はい」
「私達は私達らしくモえるバンドを目指すぞーっ!」
「おおーっ!!」

冴え冴えと青く光る月光の中、放課後ティータイムは目標を新たにこれからも楽しく音を奏でて行くことを誓うのだった。
そう楽しい音が、音で楽しむ事が音楽なのだから。




次の日。

「憂~、和ちゃん、成敗だよ、成敗~!」
「なあにそれ?」
「お姉ちゃん、楽しそう」

「とりゃ、成敗っ」
「痛っ、こら律、痛いだろ」
「ああ、ゴメン」
「ふふ、私も成敗ってしようかな」

「純、成敗って格好良いよね」
「は? いきなり何言い出すのよ」

けいおん部から話を聞いた桜ヶ丘高校生の間で「成敗!」が流行したのは別の話である。



[16813] おまけ2 パンツじゃないけど恥ずかしいもん
Name: 小話◆be027227 ID:24aa9268
Date: 2010/10/30 23:07
1939年、彼らは何の前触れも無く人類の前に出現した。
黒い体に真紅の光を纏わせた異形の存在は街を、都市をそして国を焼いて行った。
人類は彼らをネウロイと呼称し徹底抗戦に打って出たが、通常兵器ではネウロイに対して効果が薄く、人類は劣勢に立たされていた。
だが人類は遂にネウロイに対する対抗手段を生み出した、ネウロイに有効な力である魔力を増大させ、その魔力による飛行を可能にした新たなる魔法の箒〈ストライカーユニット〉とストライカーを操って空を駆ける魔力を持った少女たちウィッチである。
1944年、第501統合戦闘航空団の活躍でガリア地方が解放されて以来ネウロイの活動は世界中で弱まっていたが明けて1945年。
突如としてロマーニャ北部に大型のネウロイの巣が出現し、再び激しい戦いの火蓋が切って落とされた。
この事態にガリア戦役以降各地にて活動していた、ガリア解放の立役者、伝説の魔女たち第501統合戦闘航空団、通称〈ストライク・ウィッチーズ〉が集結した。



各国から集められた第501統合戦闘航空団の面々は精鋭のウィッチであり、戦乙女の名に恥じない美女、美少女揃いでもある。
ある日の午後、ウィッチの面々は基地の中にある大浴場にて訓練の汗を流していた、湯船に浸かった張りのある肌に弾ける水滴、陽光煌めく下で伸びやかに躍動する肢体、艶やかな髪から香る甘い匂い、大小様々な母性と頂に咲く桜色が舞い踊っていた。
過酷な訓練と戦場で懸命に生きる彼女達にとって、こうした日常の風景は疲れた心と身体をリフレッシュする機会である。

「うーんっ、やっぱりお風呂は気持ち良いなー、ねリーネちゃん」
「うん、芳佳ちゃん」

黒のショートカットで小柄で胸も小さい少女、宮藤芳佳軍曹が湯船のなかでうーんと両手足を伸ばしながら隣に座る、芳佳のそれに比べてあまりに巨大な山脈を持った親友であるリネット・ビショップ曹長と笑顔で会話を交わしながらのんびりと風呂を終えた芳佳とリーネが脱衣所の扉を開けると一つの影が棚を探っている所であった。

「あ、あの~?」

暗がりで姿形が判然としないため芳佳が恐る恐る声をかけると、影がビクッと動いて首を二人の方へ巡らせる。
此方を向いたのは四角い厳つい顔にゴマ髭の男であった、その手には白い布が握られていた、男が手に持っている白い布を見たリーネが叫ぶ。

「きゃあああーっ、そ、それ私のズボン!」
「えっ?!」
「どうしたリーネ?!」
「何があったの?!」

リーネの叫びを聞いた残りのストライク・ウィッチーズの面々が風呂場から脱衣所へ飛び込んでくると脱衣所を物色していた男が横に置いてあった鞄を掴んで逃走に移った。

「ちいっ、見つかったかっ!」
「待てっ!」
「ちょっと美緒、裸っ」

脱衣所から逃げ出した男を、黒髪をポニーテールに結って右目に眼帯をした坂本美緒少佐が咄嗟に裸のまま追いかけようとするが、基地司令官を勤めるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐に止められる。
流石に裸は拙いと追いかけるのを断念した美緒とミーナは、脱衣所でタオルを抱きしめてへたり込んでいる芳佳とリーネを立たせると全員に自分の衣服を確認するように促す。

「た、大変です坂本さん、私のボディスーツがありません!」
「わたくしのズボンも!」
「むう、お前たちもか、私のボディスーツも無くなっている」

芳佳のスクみ…もといボディスーツも無くなっており、美緒を敬愛してやまない金髪ストレートの眼鏡娘のペリーヌ・クロスマルテン中尉も自分のパンテ…もといズボンも紛失していると訴える。
自分の籠をみた美緒も白いスクみ…ボディスーツの有無を確認すると矢張り無くなっていた。

「私のも有りません……エイラはどう?」
「サーニャもやられたのか、こっちも無くなってる」

雪のように白い肌をほんのりと桜色に染めたサーニャ・V・リトヴャク中尉が同室で親友のエイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉に尋ねたが、エイラのパン…ズボンも同様に紛失している。

「にゃ~、あたしのも無い~」
「私のズボンもやられた」

黒髪をツーサイドテールにした健康的な小麦色の肌をしたフランチェスカ・ルッキーニ少尉が籠をひっくり返して見るがお気に入りの青と白のボーダー柄のパ・・・ズボンは出てこない。
沈んだ声を出すルッキーニの頭を撫でて慰めながら自分のズボンも無くなっていると申告したのはウィッチ一の巨大山脈の持ち主、シャーロット・E・イェーガー大尉である。

「ルッキーニとシャーリーもか、ハルトマンお前は?」
「右に同じ、トゥルーデは」

シャーリーの声に反応したのは隣で自分の籠を検めていた均整の取れた体つきをした長い黒髪を二つに結った女性、ストライク・ウィッチーズが誇るダブルエースの一人、ゲルトルート・バルクホルン大尉がもう一人のダブルエースに声を掛けた。
バルクホルンに尋ねられたのは金髪をショートボブにした、エーリカ・ハルトマン中尉である、普段はズボラというか余りやる気を感じさせないエーリカではあるが、流石にこの非常事態においては完全に戦闘モードである。

「御多分にもれずな、中佐は」
「私のもよ、どうやら全員のズボンが盗まれたと言う事ね」

自分のズボンも無くなっていると告げたバルクホルンが最後にミーナの現状を確認すると、やはりと言うべきかお気に入りの濃い赤紫のズボンが無くなっていると言う、つまり第501統合戦闘航空団全員のズボンが盗まれたという事だ。

「まさか、この基地に泥棒、しかもズボン泥棒だなんて」
「ミーナ、早く基地内に非常事態警報を発令させて奴を捕らえるんだ!」
「ちょ、ちょっと待って下さいまし」

形の良い唇を噛んで悔しがるミーナに美緒が基地内にエマージェンシーを流すように促すのをペリーヌが制止した。
普段であれば美緒の言うことに全面的に賛成するペリーヌが異を唱えるのは珍しい。

「どうしたペリーヌ?」
「あ、あのエマージェンシーなんてかけては、その、わたくし達が今穿いてないという事が基地の皆さんに知られてしまいます」
「そ、そうです、それはちょっと恥ずかしいです」
「わ、私も」

残っていた上着を羽織って、黒タイツを穿いたペリーヌがモジモジしながら進言するのに賛同したのは上着を着た芳佳とYシャツのボタンを留めている最中のリーネである。

「しかし時は一刻を争う、ここは基地の人間総出で対処したほうが良いんじゃないか」
「あの、私もちょっと恥ずかしいです」
「そうだぞ、サーニャが恥ずかしがってるから駄目だ」

少々軍人気質が強いためデリカシーに欠けるきらいがあるバルクホルンが着替えながら発言するが、黒タイツを引き上げたサーニャが恥ずかしがっているのを見たエイラが駄目を出す。

「そうね、これは私達の恥にもなるわね、いいわ、この騒動は私達だけで解決します」

既に着替え終わったミーナ(だが下は穿いていない)が少々思案すると自分たちだけで泥棒を捕まえると宣言する。
指揮官であるミーナの決定はウィッチたちの総意でもある、全員が力強く頷くと必ずズボン泥棒を捕縛すると誓った。

「サーニャさん、基地内に怪しい気配は感じる?」

ミーナに聞かれたサーニャは頭の上とお尻に使い魔である黒猫の耳と尻尾を生やすと哨戒用の魔道針を展開させる。

「お風呂場から高速で離脱する物体を感知、リビング方面へ向っているようです」
「それだな、良しチームを分けて追い込むぞ」

感知の出来るサーニャと予知能力を持つエイラをサポートに総指揮をミーナが執り、ズボン泥棒を確保する為に美緒、ペリーヌ組、芳佳、リーネ組、バルクホルン、ハルトマン組、ルッキーニ、シャーリー組の四チームが犯人を追い詰めて捕縛する作戦が採られた。

「ではこれより【クラウゼヴィッツ作戦】を発動します」
「了解!」

こうして第501統合戦闘航空団における大捕り物が始まった。



アレッサンドロ・アバチーノは考える、何故こんなことになったのかと。
アレッサンドロは仲間の間では有名なズボンコレクターであった、彼のコレクションは同好の士の間でも評判が高く羨む者も多く存在していたが、彼は普通のズボンでは自身の欲求が納まらなくなっている事に気が付いた。
より価値のあるズボンを、より素晴らしいズボンを、そのズボンは一体何処に存在するのかと悩み続けた彼が眼にしたのが第501統合戦闘航空団のウィッチたちであった。
ガリア開放の英雄である彼女たちのズボンこそ至高の一品に違いない、そして実に喜ばしい事にアレッサンドロが済むロマーニャに彼女たちの基地が有るではないか。
自分の技量に絶対の自信を持っていたアレッサンドロは周到な計画を練ると今日遂に作戦を決行した。
かくして目的のズボンを確保したアレッサンドロであったが、最後の最後にミスを犯してしまった、そのズボンの余りの素晴らしさに陶然となっていたところを風呂上りの芳佳とリーネに発見されてしまったのだ。
こうしてアレッサンドロはウィッチたちに追われることになり、基地内を逃走する羽目になったのだ。

「泥棒、見いーっけ!」
「下に向った、回り込め!」
「此処は通しませんわっ」

しかも行く手を読んでいるかのように次々と現れるウィッチたちに手を焼く始末である、焦りは焦りを呼び焦燥はミスを誘発する。
逃げ続けるアレッサンドロが曲がり角に差し掛かったとき、丁度一人の男がひょいと角から現れた。
速度の出ていたアレッサンドロは回避する事が叶わずに男にぶつかって倒れてしまう、その拍子に脱衣所から逃げ出した時に閉め忘れたズボンを入れた鞄が男の顔にすっぽりと嵌ってしまった。

「くそ、しまった!」

アレッサンドロは悪態を吐いて起き上がると鞄を引き剥がして再び逃走に移る、肩で息をしながら逃げ回ったアレッサンドロは近くにあった扉を開けて中に入ると息を潜めた。

「くそう、見つかっちまうとは流石はウィッチと言う事か」

暗がりで呼吸を整えていたアレッサンドロだが、眼が慣れてくると自分が居る場所がどうやら厨房であると分かった。

「ここは厨房か、逃げ回った所為で腹が減ったな、お? こんな所にお稲荷さんがあるじゃないか」

基地の中を走り回ったおかげで小腹の空いていたアレッサンドロは目の前に黄金色をした扶桑フード、稲荷寿司が一つ置いてあるのに気がついて手を伸ばす。

「ん、妙に重いな、このお稲荷さんは、それに生暖かいような」

片手に収まらないサイズの巨大なお稲荷さんをつまんで持ち上げようとするが、たっぷりとした重量感があって持ち上がらない。
いぶかしむアレッサンドロの頭上から毅然とした男の声が降って来た。

「それは私のおいなりさんだ」

近い場所から聞こえてきた男の声に恐る恐る顔を上げると、目の前に一人の男が蹲踞の姿勢で腕を組んで座っており、その足の間にアレッサンドロが顔を入れている体勢であった。
そして稲荷寿司だと思って摘んでいたのは男の逞しく盛り上がった股間のO・I・NA・RI・SANだったのである。

「ひ、ひゃああああああ!」

余りにも突然、そして理不尽な出来事にアレッサンドロが悲鳴を上げた時、芳佳とリーネは丁度厨房の前を走っていた。
そこへ誰のものか判らないが悲鳴が聞こえてきたので、二人はお互いに頷きあうと躊躇無く厨房の扉を開け放った。

「大丈夫ですかっ」
「あっ、見つけたっ」

中に飛び込んだ芳佳とリーネが見たのは扉の横の壁に背中を付けて震えるズボン泥棒の姿であった。
泥棒は厨房の暗がりを見つめながらイヤイヤと顔を左右に振り続けている。

「逃がさん」

厨房の方から男の声が聞こえてきたのを怪訝に思った芳香とリーネが視線を向けると暗がりから一つ影が進み出てくる。

「き、きゃあああああああっ」
「ひゃあああああああああっ」

影の姿を認めた芳香とリーネが思わず悲鳴を上げた、行き成り筋肉逞しいパンツ一丁の男が現れれば、うら若い乙女としては至極真っ当な反応である。

「ここだなっ」
「大丈夫かっ、宮藤、リーネ」

芳香たちの悲鳴から一拍遅れたタイミングで食堂の扉が開かれ、ハルトマンとバルクホルンを先頭に雪崩込んでくるウィッチたちの目に飛び込んできたのは怯えるズボン泥棒の傍らにへたり込んでいる芳佳とリーネの三人の前に正体不明の筋肉男が裸で立っている光景であった。

「な、何なんだ、この状況は?」

あまりの光景に茫然と立ちすくむウィッチたちの中から困惑した美緒の声が発せられたが答えるものは誰もいない。
そこではっと気がついたアレッサンドロが右手を激しくプラプラと振りたくりながらパンツ男に向かって声を荒げた。

「へ、変態め、何者だあっお前は?!」

自分が何者かと問うてくる声に対して謎のパンツ男は蹲踞の姿勢から上半身を反らせると右手を頭の後ろに回し、左手を真っ直ぐに伸ばしてアレッサンドロを指指して変態的なポーズを決めると名乗りを上げる。

「貴様に変態呼ばわりされたくは無いが、私の名は変態仮面、正義の味方だ!」

鍛え抜かれた逞しい肉体を包んでいるのはパンツ一枚に皮手袋、足に履いているのは編みタイツ、正義に燃える瞳は獲物を狙う鷹の如く鋭く輝き、しかし正体を知られぬ為か顔は小さなリボンが付いた女性用のズボン否、パンティーで隠されており、1m80センチの肉体に変態エネルギーが満ち溢れている。
アレッサンドロに向かって変態的正義の味方である謎のパンツ男、否、変態仮面が混迷極めるロマーニャの地に乙女の叫びに応じて今、舞い降りた。





変態仮面が何故ロマーニャに現れたのか、ここで皆さんにだけお教えしよう。
第501統合戦闘航空団基地に一人の青年が居た、名前を色条狂太郎といい扶桑国からやってきた優秀な軍人である。
狂太郎の両親である色条狂介と春夏は二人とも街の治安を守る刑事であり情熱を持って職務に就いていた、そんな家庭で育った狂太郎も両親を尊敬し将来は警察官になることを夢見ていたが、ネウロイの脅威が世界を席巻するなか微力ながら対ネウロイの為に働きたいと軍に志願し念願かなって最前線であるロマーニャ基地に配属されていた。
両親二人は拳法の達人であり狂太郎も幼い頃から鍛えられていた狂太郎は仕事の荷物を運ぶように言われ大量の荷物を持って基地内を歩いていたところ曲がり角から走り出てきた影とぶつかってしまう。

「うわっ」

突然目の前が真っ暗になった狂太郎は狼狽するが直ぐに目の前に光が戻る、ほっとする狂太郎だが自分の顔に何か布のようなものが張り付いているのに気がついた。

「何だこれ?」

狂太郎は自分の顔に張り付いてる布の正体を確認するべく落とした荷物の中にあった鏡を覗き込むと狂太郎の目に飛び込んできたのは、小さなリボンをあしらった白い女性用のズボンを被った己の姿であった。

「うわっ、なんて物を被っているんだ僕は!」

直ぐに脱ごうとする狂太郎だがズボンに手をかけた瞬間、背筋に電撃が走ったような衝撃に見舞われた。

「フォッ、な何だ、この肌に吸い付くようなフィット感は?」

ズボンを脱ごうとする狂太郎だが自分の意思に反して手が動かない、それどころか逆にさらにピッタリとズボンを密着させようと自然に動いてしまう。

『この刺激、ああ、これがズボンの魔力なのか、何だかズボン泥棒の気持ちが分かるような、いやそんな事は無い、ああしかし、そんな事を思うとますます感じてゆく……、はっ、今はそんな事考えてる場合じゃない、早く脱がないと……でも、僕は、僕はもう……』

狂太郎の父親である色条狂介こそ初代の変態仮面であり、狂太郎も赤ん坊の頃一度だけ、変態仮面Jr.として覚醒したことがあった。
それは記憶の彼方に追いやられていたのだが、女性用のズボン、否パンティーを装着することで彼の中に眠る最強の変態遺伝子が再び目覚めたのだ。

「気分はエクスタシーッ!!」

人間は普通、自分の潜在能力の30%しか使う事が出来ないと言われている、だが狂太郎はパンティーを被る事により父親譲りの変態の血が異常興奮に誘発され潜在能力を100%覚醒させることで変態仮面へと変身するのだ。

「フォオオオオオオッ! ひゅ~、服なんか着てられるか」

着ていた服を全て脱ぎ去りブーメランパンツ一丁になった狂太郎、いや変態仮面Ⅱ世が腰に両手を当てて大胸筋を強調しながら呟く。

「はっ、悪の匂い」

変態仮面として覚醒した狂太郎は刑事である両親譲りの勘で悪の気配を感じ取りアレッサンドロの元へ出現したのだった。






「婦女子のズボンを狙う不埒者め、うら若き乙女を辱めるとは、この変態仮面が断じて許さん!」

床を蹴って疾走する変態仮面、その威容を見せつけられたアレッサンドロは変態仮面を見た衝撃で固まっている二人、芳香とリーネを眼の端に捕えると未だに茫然と立っていたリーネを捕まえて盾にする。

「おい、変態仮面、この小娘がどうなってもいいのか!」
「むうっ」

懐からナイフを取り出してリーネに突き付けるアレッサンドロの所業を前に躊躇する変態仮面、そしてその光景にようやく思考が常態化したウィッチの面々が歯噛みする。

「く、何て卑劣な」
「へへへ、俺はこのまま逃げさせてもらうぞ、この娘は無事に逃げきるまでの人質になってもらう」
「そんな、リーネちゃんを離してっ!」
「中佐っ」
「待って、いま考えてるからっ」

ガリア復興で苦楽を共にしたペリーヌが悔しがり親友である芳佳が叫ぶ、バルクホルンがあせった声ミーナの名を呼ぶが彼女の中にも現在の状況では打開する手立てが浮かばない。

その時、変態仮面の脳裏に変態的閃きが起こった。

「ほおああああああっ」、

変態仮面は自分のブーメランパンツの中に両手を突っ込むと上下左右に手に持った何かを振り回し始める。

「ヌンチャクかっ」

変態仮面の動きを見た美緒が手に持ったものは中国の伝統武器であるニ節棍の動きに酷似している事から変態仮面の武器がヌンチャクであると見た。
演武が終了した変態仮面は臀部を引き締め、両手を頭上にあげてYの字ポーズを取ると両手を離す。
パチンという乾いた音とともに顕わになった変態仮面の手に持たれていたのはヌンチャクでは無く、変態仮面のパンツの裾であった。
パンツの裾が変態仮面の両肩にかけられており、厚い胸板の前を股間からVの字に覆ったことでより強調されたお稲荷さんはチマキのように盛り上がっているレスリングスタイルに変わっていた。
この姿こそ変態仮面【スタンダードVフォーム】である!

「ぶ、ぶわははははははっ」

余りのスタイルに思わず笑い転げてしまうアレッサンドロ、そしてその衝撃のスタイルに言葉を失うウィッチたち。

「にゃははははははっ」
「あははははは、は、腹いて~」

アレッサンドロと同じように笑い転げているルッキーニとシャーリー。

「は、恥ずかしく無いのか貴様あっ」
「は、破廉恥ですわっ」

顔を赤くして抗議するバルクホルンとペリーヌ。

「……はうっ」
「うわあああっ、サーニャしっかりしろっ」

チマキを見た瞬間に気絶したサーニャと倒れたサーニャを介抱するのに忙しいエイラ。

「でかいな」
「そうね……って美緒っ」
「へー、初めて見た」

多少頬を染めているが割と平然としている美緒とミーナ、ハルトマンの三人。

「きゃあ~」『なにあれ~、なんかチマキみたいになってる』
「いや~っ」『でも如何なってるんだろ……ス、スゴイ』

と言って両手で顔を覆ったが指の間からしっかりと見ている芳佳とリーネ。

「今だっ、変態秘奥義、地獄のタイトロープ!」

アレッサンドロが笑い転げる事で出来た隙を見逃す変態仮面ではない、何処からともなく取りだしたロープを投げつけアレッサンドロの首に巻きつける。
そして自分の持っていた端を天井の梁に結びつけるとロープを跨いだ変態仮面が腕を組んだ直立不動の姿勢でアレッサンドロの顔面めがけて股間から滑り降りてゆく。

「ぎゃあああああっ、止めてくれ~っ」

おぞましい技に捕らわれたアレッサンドロが身も世も無く泣き叫ぶが変態仮面は止まらない。
アレッサンドロの顔面に生温かいおいなりさんが激突するとそのまま後ろの壁とサンドイッチのように挟まれて後頭部を打ちつける、まさに前門のおいなりさん、後門の壁である。
シンと静まりかえった食堂の中、ウィッチたちの方に向き直った変態仮面のチマキの中にアレッサンドロの顔面が収まっていた。

「成敗っ!」

成敗したアレッサンドロを解放してもの凄く嫌な表情をしたミーナに引き渡した変態仮面がくるりと背を回し去ってゆく背中に正気を取り戻したリーネが勇気を振り絞って声をかける。

「待って下さい、あの変態仮面さん」
「何かな、お嬢さん」
「あの、あの変態仮面さんの被っているのは、もしかして私のズボンじゃ?」

リーネの訴えにその場にいた全員の視線が変態仮面の顔に張り付いたパンツに注がれる、白いローレグにワンポイントのリボンがあしらってあるズボンは確かにリーネの物に間違いあるまい。
冷や汗をダラダラと流し始めた変態仮面はゆっくりとウィッチに背を向ける。

「去らばっ」
「ああっ、逃げたっ」
「ええいっ、やはり変態仮面も変態だったか」
「そりゃ自分で変態仮面て名乗ってるし」

ドタバタと変態仮面を追いかけ始めるウィッチたちの横で、当の本人であるリーネは自分の大きな胸に手を当てて変態仮面の去って行った方を陶然と眺めていた。

『変態仮面さん……変態だけど、変態だけど…………ス・テ・キ!』

どっとはらい。


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