白の国アルビオンの都市、ニューカッスルにある礼拝堂で三人の男女が睨みあっていた。
一人は純白のマントに身を包み花で飾られた冠を頭に頂く、桃色がかった髪をした美少女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
一人はトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
そして最後の一人はアルビオン国皇太子ウェールズ・テューダー。
今朝この礼拝堂でウェールズの立会いの下ルイズとワルドの結婚式が執り行われていたのだが、ワルドはルイズを愛しているのでは無く、ルイズの才能を欲していた事を知ったルイズが直前で結婚を断ったのだ。
「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」
そんなルイズに対してワルドは唇の端を吊り上げると禍々しい笑みを浮かべて語りだした。
「こうなってはしたかない、ならば目的の一つは諦めよう」
「目的?」
「そうだ、この旅における僕の目的は三つあった、その内二つが達成出来るだけでも、良しとしなければな」
「達成? 二つ? 一体どういうこと?」
人が変わったようなワルドの様子にルイズは不安に慄きながら尋ねた、心の中で考えたくない想像が急激に膨れ上がってゆく。
そんなルイズに見せ付けるようにワルドは右手を上げると人差し指を立てて見せた。
「まず一つは君だルイズ、君を手に入れることだ、しかしこれは果たせないようだ」
「あたりまえじゃないの!」
不安にさいなまれながらも気丈にも叫ぶルイズ。
次にワルドは中指を立てる。
「二つめの目的はルイズ、君のポケットに入っているアンリエッタの手紙だ」
「ワルドあなた……」
「そして三つめ……お前の命だウェールズ!」
ワルドのアンリエッタの手紙という言葉で全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文の詠唱を開始した。
しかしワルドは二つ名の閃光のように素早く腰に下げた杖を引き抜くと呪文の詠唱を完成させた。
杖に風を纏わせて剣となす、ワルド得意のエアニードルの魔法だ。
ワルドは風のように身を翻らせて、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫こうと迫る。
「待ていっ!」
まさにウェールズの胸を貫くその瞬間、鋭い声と共にワルドの腕を飛礫が襲った、思わず杖を取り落とすワルド。
飛礫が飛んできたほうを振り向くと、礼拝堂の上部に作られたステンドグラスの前に降り注ぐ光を背に受けて一人の男が腕を組んで立っていた。
その男は青い兜をかぶり、青と白、赤の三色で構成された体のラインがでる不思議な形の鎧を着ているようだと三人の目には映る。
男の瞳は強い意志に溢れており、その口からは浪々と言葉が紡がれる。
「悪しき心を抱くものには真実の光をまともに見ることは出来ん、嘘を突き刺す光、人それを真という」
「何者だっ!」
男に向かってワルドが誰何の声を張り上げる。
「貴様に名乗る名は無い!」
その声にさらに鋭い声で答えると兜の頬の部分から飛び出したフェイスガードがカカシャンと音を立てて閉じると同時に男は宙へと飛び出していた。
「とうあっ!! 天空宙心拳、正拳突き!」
「ぐあっ」
拳をまともに受けて吹っ飛ぶワルド、突如として現れた謎の男の実力に戦慄するが閃光の二つ名にかけておめおめと引き下がるわけにはいかない。
「おのれ、このまま引き下がれるものか! せめてウェールズだけでも亡き者に」
「愚かな、己が妄執を成就させんとする者よ天の怒りを知るがいい、剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!」
何時の間にか男の腕に握られていた剣が掲げられると雷と共に青い鋼の体を持つゴーレムが現れた、その中へと謎の男が入るとゴーレムが動き出す。
「闇在る所光あり、悪在る所正義あり、天空よりの使者ケンリュウ参上!」
「なんだと、だがこの偏在の魔法を見切れるか!」
青いゴーレムからは並々ならぬ力を感じる、ならば此方も力の出し惜しみなど出来るものではない、得意の偏在の魔法を詠唱し分身を作り出す。
「それが貴様の奥の手か、ならば此方も!」
ケンリュウは持っていた剣、剣狼を空中へと投げて力有る言葉を叫ぶ。
「パーイル・フォーメイション!!」
ロムの意志を受け、剣狼が空中で光になるとき
時を超え、次元を超え、パイルフォーメイションは完成する
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし
自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ
「バァーイッ・カンフゥーッ!!」
バイカンフーと名乗る新たに現れた赤いゴーレムは腕を水平にすると回転を始める。
「はああっ、天空宙心拳竜巻旋風蹴り!」
暴風を伴なった鋭い蹴りはワルドの偏在を一蹴して消し飛ばした。
「見えたっ、バイカンフーボンバー!」
天空高くジャンプしたバイカンフーが炎を纏ってワルドに飛び蹴りを中てる、吹き飛ぶワルドをそのまま追いかけ連続攻撃を叩きこむ。
「おりゃおりゃおりゃおりゃっ!!」
体勢が崩れたワルドに向かって最後の一撃を決めようと右手の手刀を振りかぶるバイカンフー。
「奥義を受けろ! ゴッドハーンドォ・スマアッシュ!!!」
どてっ腹に突き込んだ手刀を抜き、ワルドに背を向けて手を払い決め台詞を高らかに叫ぶバイカンフー。
「成敗!」
ルイズのピンチを知って駆けつけたサイトが見たのは、成敗の声とともに崩れ落ちてゆくワルドの姿だった。
バイカンフー、ケンリュウというゴーレムは何時の間にか消えてそこに居るのは、初めに登場した姿の謎の男であった。
強敵であったワルドを一蹴した謎の男にルイズを背中に庇いながらサイトが恐る恐る声をかけた。
「あ、あの彼方はいったい何者なんですか?」
「名乗るほどの者では無い、しかし君が正義の道を行くのなら何時か轡を並べて戦う時もくるだろう」
サイトの瞳を見つめてそう言葉を残すと悠然と去ってゆく謎の男。
その背中にルイズが声をかける。
「何処へ行くの?!」
「全ては剣狼の導きのままに」
朝日の中に消えゆく背中を見つめるサイトとルイズの胸には、謎の男が残した正義の心が点っていた。