それは、とある一言から始まった。

がたんっ!

「み、見合い――!?」

特に事件も無い、平和な昼下がりのある日。立ち上げたばかりの機動六課の食堂にて家族や部隊の仲間達と揃って 食事しながら談笑していた八神はやての口から漏れた言葉に思わずシグナムは立ち上がり、叫びをあげた。

「ちょ、もうシグナム落ち着きって。みんな驚いてるやんか」

はやての言葉にハッとなり、周囲を見回してからばつの悪そうに席へと座るシグナム。 そんな彼女の代わりとばかりに、その隣でスパゲッティを食べ終わりかけていたフェイトが口を開く。

「けどはやて、お見合いって…?」

「ああうん。
ほら、今日朝の早くからリンディさんが六課の視察に来とったやろ? 後見人の一人やから、ちゅーことで」

「うん。リンディさん、訓練してるところも見に来てくれてたよ」

「お、おう。エリオとキャロは兎も角、スバルやティアナ辺りはガッチガチだったぞ」

はやての言葉になのはと、シグナムほどで無いにしろさっきの『見合い』発言に動揺しているヴィータが答える。
本人曰く『六課の現状を直接この目で把握する』とのことで今回ここを見に来たらしかったので、 これからの戦力となるスバル達新人の様子を見に来るのは当然のことであるといえるだろう。 しかし管理局でも有名な提督である彼女の来訪に、 ヴィータの言う通りガチガチに固まってしまったスバル達の姿は、なのは達から見るとなんだか微笑ましかった。
ちなみに彼女達はというと、ここにいる皆より一足先に昼食を摂り終えており、現在違う場所で午後の訓練に向け休憩中だ。

「あはは、その様子は私も見たかったなあ。
まあそれはさておき。あの視察の最後に部隊長室で私と今後の事とかについて色々話をしたんやけど、その時に……」






『へ…? お見合い、ですか?』

『ええ。フェイトもそうだけど、なのはさんやはやてさんもそろそろそういう話をしてもいい頃かなぁ、ってね』

機動六課の部隊長室。只今リインは他のところのお手伝い、部屋に居るのは彼女とリンディのみ―という状況で、 仕事の話に一段落つけたリンディが切り出してきたのがそれだった。

『せやけど私にはまだちょっと早いような』

『あら? 私が今の貴女くらいの年頃にはもうクライドさんからプロポーズされていたわよ。
それにクロノだって。エイミィさんと婚約したのはそう変わらない年頃だったじゃない?』

『まあ確かに……』

言われてみれば、とはやては思う。
自分達がそうだったように、ミッドチルダでは責任と実力が伴っていれば子供の年齢からでも仕事に就くことが可能である為、 それに従ってか平均結婚年齢も若干低めの傾向がある。 その辺りの価値基準に関しては地球…というか日本基準のはやてからすれば自分はまだまだ早いと思うのだが、 そこを考慮すれば確かにリンディの言う通りかもしれない。 実際これまでに知り合った中にも、今の自分と同じかそれより低い年齢で既に結婚している人が少なからず居たことだし。

『でも今は六課のこととかありますし。正直、結婚とかはまだ』

『そう杓子定規に考える事はないわよ。お見合いって言ったってそれでいきなり結婚を決めるってわけじゃなし、 気に入らなかったら断ってくれても全然構わないんだから。ただ私としては、そういったことを考える機会があってもいいかなぁ、って思うの。
それとも誰か好きな相手とかいるのかしら?』

『い、いや、そういうわけでもないですけど』

一応、自分の知り合いの中で相手になりそうな年頃の男性なら何人かいる。 だが彼らは既婚者だったり兄のような存在であったり仲のいい友人であったりあるいは同僚であったり。 少なくとも今のところそういう対象ではないと彼女自身思っていた。
そこまで考えたところで『そう言えば私、今までそういうこととは無縁やったなあ…』 と以前フェイトと軽く話をした時のことを思い出し、これまでの人生に少々の切なさを感じてしまう。
そんな彼女の考えを見透かしたかのように、リンディは笑顔のまま、ずい、と顔を近づけた。

『だったら、特に問題とかは無いわよね?』

『はあ……でも仕事が』

『それなら大丈夫。会場その他のセッティングは全部こちらでやるし、日にちの方もはやてさんのお休みに合わせて決めさせてもらうわ。 かかる費用に関してもこちらから言い出したことなんだからはやてさんは何も心配しなくてもいいわよ』

『………』

そこまで至せり尽くせりだと文句の言いようもない。
まあ六課の後見のみならず色々と世話になっているリンディの顔を潰すのは気が進まないし、 それに自分としてもお見合いというものに興味がないかといえば嘘になるから……。
しばし考えた後、フウ、と溜息をつくと、はやては答えた。

『わかりました。そんなら――』






「てなわけで、結局リンディさんに押し切られてしもうたわ」

「へえ……。けど、どうしてはやてちゃんになのかな。普通なら真っ先にフェイトちゃんに話を持って行くと思うんだけど」

なのはが言う。確かにリンディが昔から自分達に対して色々とよくしてくれているといっても、 仮にこういう話を持っていくのなら義理の娘であるフェイトの方が優先順位は上だろう。にも関わらず、 フェイトにではなくはやてに話を回したのは何か理由があるのではないか。

「先方がはやての事を気に入ったからじゃない? で、義母さんを経由してお見合いの申し込みが来たとか。もしはやてにそういう話を持っていくなら、 仲介役になりそうな人って義母さんかレティ提督くらいでしょ?」

「だったら有り得る話ですね。
それではやてちゃん、お相手はどんな方なんです? 写真とかありますか?」

シャマルの言葉にハッとなり、全員がはやての方へと目を向ける。特に発言者であるシャマル自身を含め、 ヴォルケンリッター達の顔は真剣そのものだ。まあもしかすると自分達の主の夫になるかもしれない相手である、 強い関心を持つのは当然であろう。
だが。

「えーと、それが、な」

【? どうしました主】

「いやなザフィーラ。それがその…
実はな、どんな相手なんか全然知らんのよ」

「「「「「「「……へ?」」」」」」」

それまで喋っていなかったリインも含め、その場で食事していた全員が目を点にする。それもそうだろう。 見合いをするというのに、その相手を知らないというのだから。

「はやて、知らないって一体」

「リンディさん曰く、「当日までわからない方がどきどきしていいでしょ?」ってことらしくてなあ。 サプライズパーティーならぬサプライズお見合いってことになりそうなんや。なんで勿論写真とかプロフィールとか無いんよ。 まあリンディさんのことやから、そう悪い相手やないとは思うんやけど」

「それは確かにそうかもしれませんが……」

それを聞いて渋い顔をするシグナム。
あの『闇の書事件』の裁判の時、自身が闇の書によって夫を亡くした被害者であったにも関わらず、 自分達の処分が少しでも軽くなるよう尽力してくれたリンディである。そんな彼女ならば、 確かに幾ら強要されてもはやてにそのような相手を紹介する事は無いだろう。恐らく彼女にとってもいい話だろう事は予想がつく。
それは納得出来る。納得できるのだが。

「そんな見合い怪し過ぎるぜ。断ろーよ、はやて」

「やめとこーよ」と反対するヴィータに、無言のままシグナムも頷く。 残る八神家の面々も直接否定こそしないものの、あまりいい顔はしていない。
まあ確かに、二人のその発言はある意味もっともであったが――。

「ええよ。もう受けるって決めてもうてるし。それにまあ、リンディさんの言う通りなんか面白そうやん?」

そう言うとぴっと人差し指を立て、軽くウインクしてみせる。

「ま、気に入らん相手やったらパッパと断ったらええだけの話やし、そこら辺に関してはリンディさんも了解済みやから大丈夫。 まあええ機会やから、お見合いってのを一回体験してみる事にするわ」

「いやー、何かちょっと楽しみになってきたなぁ」と呟くはやてを見て、互いにアイコンタクトを始める ヴォルケンリッター達。
そんな彼女達を見て――

「ねえなのは、もしかしてこの状況……」

「……うん。私達が何とかしないといけないみたい」

目を合わせ、深く溜息をつくフェイトとなのはであった。






さて、時は移り、次のはやての休暇の日…即ちお見合いの日。ミッドチルダ郊外に設けられた見合い会場にて、 相手よりも一足先に到着したはやては座っていた。その体には以前気に入って買ったもののなかなか着る機会が無く、 今日までクローゼットの肥やしとなっていた淡い水色のワンピースを着ている。
彼女は時計をチラリと見てまだ時間に余裕があるのを確認すると、自分の隣に座る仲人へと声をかけた。

「せやけど、私の方の仲人さんがレティ提督やとは思いませんでした。……でもそうすると、リンディ提督は?」

「ああ、リンディなら相手のコの仲人をね。最初は話も私の方からあなたに持って行こうと思ったんだけど、 リンディが「視察に行くついでに話すことにするわ」って言ったから任せることにしたの。 こういった話は通信越しよりも直接話した方がいいだろうから」

「はあ」

何か微妙に腑に落ちない点を感じつつも、「ミッドチルダのお見合いはそういう物なのだろう」 と取り敢えず納得しておくことにする。レティ提督も一枚噛んでいるという事はやはり悪い相手では無いだろうから、 安心材料が増えたと思えばいいだろう。それに自分にとって見合いは初めての経験なので、 知り合いが多い方が気分が楽になる。それを考えれば渡りに船、と思うべきか。

『そういえばあの子ら、ちゃんとやってるかな』

ふと、家族や仲間達のことを思う。六課の主だった面々の中で本日休みなのは自分だけなので、今頃は恐らく皆仕事中だろう。 結局ヴォルケンリッターの皆はこの見合いに賛成はしてくれなかったが、彼らはどうしているだろうか。

『私の事が気になって手ぇ付かへん、ってこと無かったらええねんけど。いや、家族としては嬉しいんやけど、 やっぱり部隊長としてはなー』

なのはやフェイトが色々フォローをしてくれていればいいんやけど…とはやては思う。
特にシグナムとヴィータは自分の事となると結構歯止めが効かなくなるところがあるので、その可能性はあるかもしれない。 見合いの数日前、シャマルとリインを加えて自分には内緒で何か話していたようだし。 「もしもの時すぐに都合がつけられるように」と言って、見合いの時間と場所を詳しく聞いてきたし。 なのはとフェイトが微妙に哀れんだ目で自分を見ていたし。

「あはは、もしかしたら今の状況監視とかしてたりしてなー。ま、流石にそんなこと無いか」

―――そう。
その、まさかだった。






「――スターズ2、問題無し。はやての様子、ちゃんと見えてるぞ」

「え、えーと! スターズ3! こっちは大丈夫です!」

「…スターズ4、こちらも問題ありません」

見合い会場の外。真剣マジな顔で応答するヴィータとそれに慌てて返事をするスバル、 そして溜息交じりでティアナが答えると、ロングアーチの司令室にいるシグナムは満足げに頷いた。

『こちらライトニング2。通信に問題は無い。そのまま主はやてに気付かれぬよう続けてくれ』

「了解!」

「えーと、了解ですシグナム副隊長」

「了解…って、それはいいんですけど、どうしてこんなことを……? 今日は特別訓練じゃなかったんですか?」

おそるおそるながら突っ込むティアナに、武装隊の服を身に纏ったヴィータは見合い会場へと先を向ける双眼鏡から 目をそらさぬまま答えた。

「ああ、特別訓練だぞ。偵察のな」

「偵察の、って」

「偵察を馬鹿にすんな。威力偵察は戦闘を行う際その事前準備に於いて最も重要な事柄の一つだ。 相手の戦力、状況を知る事はそのままこれからの戦術にひいては勝敗に関わってくるんだ。 後々お前らにもやってもらうかもしれねー事だが、これの訓練は普段じゃなかなかやれねーからな。 今日の機会にやってもらうことにする。
いいか。くれぐれもはやてに気取られんじゃねーぞ。訓練ではあるが、実戦だと思って気合入れろ」

「…………」

「いえ、どう考えてもそれは言い訳でしょう」と指で目頭を押さえながらティアナは思う。 しかしここで下手にツッコミを入れようものならグラーフアイゼンの染みにされてしまいそうなので止めておく事にした。
なので、隣のスバルに声をかけてみる。

「ねえ、スバル」

「ん? なにティア」

双眼鏡から目を離し、ティアナへと向くスバル。その目は何故か輝いてた。

「……あんた、なんか楽しそうね」

「え? なんか実戦みたいな緊張感があっていいじゃない。それにほら、八神部隊長のお見合い相手がどんな人かも気になるし」

「そ、そう」

再び溜息。相棒のこんな能天気なところが今は凄く羨ましい。自分は隣で殺気を放っている上司に戦々恐々しているというのに。
仕方なく、今度は違う場所で同じように『偵察』をしている筈であるもう一人の上司へと通信を繋げた。

『なのはさん、そちらの様子はどうですか』

『特に変化はないよ。エリオもキャロも変わりないしね。ティアナは大丈夫?』

労わりの声をかけてくれるなのはにちょっぴり涙。 純真なエリオとキャロを今のヴィータと共にさせるのはその……アレなので班分けはこれで良かったと思うが、 それでもやっぱり挫けそうな彼女である。

『……ええ、一応。色々と挫けそうですけど』

『そ、そう。覗き…じゃない、今回の偵察の関係上、ティアナ達と私達は別の位置になっちゃったから、万が一の時はその、 ヴィータちゃんをお願いね。私達もすぐに急行するつもりだけどそれまで何とか』

『それまでヴィータ副隊長を止められるでしょうか』

ぶっちゃけ、今のヴィータを自分とスバルで止めることは無理な気がする。自分が例えなのは並みの力を持っていたとしても、 やっぱり止められない気がした。

『もしかしたら…リミッター解除も申請しないといけないかも』

まだ見合いが始まってもいないのに、疲れた声のなのは。この見合いが、そしてこの一日が平和に過ぎる事を心より願うティアナであった。
――まあ結論から言えば、そんなことは無理だったのだが。






一方場所は変わって、六課の司令室。

「映像は問題ないか?」

「はい、問題ありません! 誤差修正も万全です!」

「音声は…魔法を使わないという前提ですから流石に無理ですけど」

「主とリンディ提督に加え、レティ提督まで同席するようだからな。気取られぬ為には致し方ない。 ふむ。こうなると以前、AMF対策の一環として地球から映像機器一式を購入しておいたのは正解だったようだ。
出来れば見合い会場に盗聴器や隠しカメラを設置したいところだったが、この状況を見るにそれも間違っていなかったようだ。 主はやてだけならまだしも、あのお二方まで加わっては現場に設置しておいた場合それを見つけられてしまう可能性が出てくる。 ここは望遠カメラのみで我慢するしかないだろう」

「ええ。警戒はするに越したことはないものね」

アルトとルキノの言葉を受け、シグナムとシャマルは満足げに頷く。そんな二人の隣には、顔を引きつらせるフェイトが立っていた。
彼女達の近くに立っていたグリフィスがシグナム達へと声をかける。

「しかし何故我々まで…? 
というか、如何に現在差し迫った仕事や急な任務が無いと言っても、本日の職務を放棄した上、 部隊長の承認もなくこのようなことに六課の施設を勝手に使ってもいいんでしょうか」

「部隊長であるはやてちゃんが碌でもない男の人にたぶらかさるかもしれないことが六課の危機じゃないっていうんですか!」

「いや、そんな決めてかからなくても」

「リインの言う通りだ。それになグリフィス、これは訓練の一環でもある」

ヴォルケンリッター達の殺気が篭った眼に気圧されつつも、尋ねるグリフィス。見合いの件に自分の母親も一枚噛んでいたせいか、 自分自身にも若干殺気を向けられているような気がしなくも無い。
が、それを副官としての義務感と職務意識で何とか押し退け、彼はシグナムに尋ねた。

「……訓練?」

「そうだ、訓練だ。
考えても見ろ。もし。もしもだ。主はやてが何らかの――そう、 例えば他の場所に居てすぐにはこちらに来られずまた通信も繋がらなかったり、考えたくも無いことではあるが、 病や怪我などをしている時、六課の指揮系統はどうする? ロングアーチは一体どう動く?  これはその為の訓練でもある」

『いや、その為の副官なのでは』

部隊長補佐であるはずの自分の立場は一体なんなんだろーなー、と存在意義そのものが否定されたようで空しくなったが、 心を強く持つことで何とか乗り越えるグリフィス。
一方シグナムの話は続く。

「他にもだ。万一魔法関連の技術が一切使えなかった場合、一体どうやって探査・情報収集等を行うのか?  複数の高位ランク魔道士を相手にどこまで気取られること無くそれらを遂行出来るのか?
その為の訓練なのだ。わかったか?」

「いや姐さん。それ、どー考えても出歯亀の言い訳」

ゴスッ!!

「ぐべらっ!?」

「うるさいぞ」

ツッコミを入れたヴァイスがぶっ飛ばされ、倒れる。ヘリパイロットである彼が何故司令室に居たのかは不明だ。
ぴくぴく動くヴァイスとシグナムの手に握られちょっと心もち剣先が赤い気がするレヴァンテインに目を向けないよう努力しながらグリフィスは尋ねた。

「そ、そういえばザフィーラさんは?」

見当たらないもう一人のヴォルケンリッターのことを思い出す。ここに居ないし、 よくよく思い返してみれば朝から彼の姿を見かけていない。彼の性格を考えれば真っ先にここか、 前線メンバーの居る場所で共に『偵察』していそうなものだが。

「ああ、奴なら本日は小用があると言って出て行った。一応事前に主はやてには許可を得ているらしいので何も言わなかったが……。
まったく、我等が主の危機だというのに」

「ホントです! ザフィーラ、酷いですよ!」

『いや、只のお見合いのはずでは?』

至極そう突っ込みたかったが、先程の惨劇を思い出し自重する。自分はまだ死にたくないのだ。いや、実際にはヴァイスは死んでないが。
仕方なくフェイトへと視線を向けると、彼女は「ごめんね」といった表情で小さく首を横に振っていた。 ロングアーチですらノリノリのこの状況。「味方はいないのか!?」と思っていた彼だったが、どうやら一人くらいは居てくれたらしい。

『その、万が一の時はお願いします。僕にはどうしようもなさそうなので』

『うん。……場合によってはリミッター解除の申請も視野に入れておくことにするね。はやてにバレるの覚悟で。 でないと止められそうもないから』

正直、状況的にその『万が一』が十分有り得そうなところが洒落にならない。 「彼女達が自分の立場を忘れないでくれているといいなあ」などと可能性の低そうなことを考えながら、 グリフィスは正面のディスプレイへと目をやる。
現在、お見合い開始の予定時刻まではあと五分。まだ時間はあるものの、 これがお見合いということを考えればもうちょっと早く来てもいいはずであるが……。

「全く。このような場で女性を…それも主はやてを待たせるとは一体何を考えている」

「お見合いのマナーというものがわかっているのかしら」

「はやてちゃんを待たせるなんて、ふてぇ相手なのです!」

『やっぱ問答無用にやっちまおうぜ』

「み、皆さん…」

色々とキレかけているヴォルケンリッター達を目にして思わず溜息をつくフェイトと、頭を抱えるグリフィス。 同様に画面の向こう側ではティアナとなのはが同じように色々と苦労していた。
――と。

「あ、どうも動きがあったみたいです」

シャーリーの報告に皆が正面のディスプレイへと目を向ける。
そこには、部屋へと入ってくるリンディの様子が映し出されていた。





「ごめんなさいねはやてさん、待たせちゃったみたいで」

「いえ。約束の時間はまだですし、早めに来たのはこちらの方ですから」

見合い相手に先駆けて部屋にやってきたのだろうリンディに答えるはやて。現在約束の時刻まで残り三分。 ギリギリではあったが、間に合ってはいる。
「何とか間に合ったわね」と安堵の息をつくリンディに、レティが問いかけた。

「それにしても遅かったわね。もうちょっと早く着いている予定だったのに。今日はあの子、 ちゃんとお休みをとったはずじゃなかったの?」

「管理局の仕事の方はそうだったんだけれど、学会の方で急な連絡が来ちゃったらしくて。 そこの融通を色々やってたらギリギリまでかかったそうよ」

「全く。相も変わらず忙しい子ね」

「ホントよ。補佐の子とか居るんだし、学会とかの方はまだしも局の仕事ならもうちょっとそっちに任せてもいいのに。 真面目なんだから」

『局? 学会? というか、この言い方やと昔からの知り合いの人なんやろか』

二人の会話に上がってきた幾つかのキーワードにはやては見合い相手のことを思う。 確かに仲人を引き受けるくらいなのだからそれなりの仲だろうことは検討をつけられたが、それでも相手のことを「子」と呼ぶところからして、 かなり前からの知り合いに思えた。

『え、えーと? つまりは管理局で仕事やっとる人で、かつどっかの学会に用事が…てことは口出すようなことしてる人 っちゅーことか。
となると、デバイスマイスターみたいな技術畑の人間か、魔法理論を研究してるとこの人か、 遺失物管理課辺りでそこそこ以上偉いとこにおる人か、あるいは……?』

そこまで考えたところで、とある人物のことが脳裏に浮かぶ。いや。正確には今の思考に入ったとき、真っ先に浮かんではいたが、 それは有り得ないだろうと除外した人。

「あら、来たわね」

リンディの言葉に思考を中断し、顔を上げる。
そこにいたのは―――。







『……な?』

『あ、あら?』

『……ふぇ?』

『なんであいつが』

ヴォルケンリッター達が目を点にして呟く。

『ん? 彼は確か』

『え? どうして』

グリフィスが驚き、フェイトが疑問符を浮かべる。

『あれ? あの人って前に』

『ええ。以前警備任務で行ったホテルで会った学者さん、だったはずよ』

スバルが呟き、ティアナがそれに答える。
そして。

「え、えっと…あの人は確か、なのはさんやフェイトさん達のご友人…でしたよね。何故ここに」
……なのはさん?」

「あのなのはさん。どう、し…」

びきっ。

物だけではない『何か』の割れる音に覗いていた双眼鏡から目を目を離し、エリオとキャロは恐る恐る、隣にいる上官と顔を向ける。
そこにはあまりに強く握り締めたせいだろう、両手で持って―いや、掴んでいる部分から多数の亀裂の走った双眼鏡と、 それでも尚双眼鏡から目を離すことなく目の前の光景を見つめ続けるなのはの姿。 顔の半分以上がそれで覆われているせいでよくは見えないが、取り敢えず笑顔でないことだけは確実だろう。
今にも壊れてしまいそうなほど強く双眼鏡を握り締め、彼女は『見合い相手』の名を呟いた。

「―――ユーノ、くん?」








ちゅうへんへ





















はやてお見合い絵巻・前編。短編連作です。と言っても、現時点でものすごくなっているのですが。
この前編は勿論というか導入編。ここからお話は展開です。色々とネタに走ったりして不快な思いをなさる方もいらっしゃるかもしれませんが、 そこは温かく見守って下さい。かしこ。



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