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大館市土地改良区が管理する農業用ため池・手代沼

 平成13年11月17日〜18日、大館市土地改良区が管理する農業用ため池・手代沼でブラックバスの駆除とフナ類の救助作戦が行われた。参加した団体は、大館へら鮒研究会、大館市漁協、大館市土地改良区、地域住民、大館市、水産漁港課、水産振興センター、北秋田総合農林事務所土地改良課、農地計画課である。

 手代沼は、市街地から遠く離れた農業用ため池群の一つで、農業用水路、田んぼ、市街地を流れる長木川、そして県北の大河・米代川とつながる生態系の一大ネットワークの一つだ。ところが、数年前からブラックバスが異常繁殖し、沼に生息していたエビやハゼなどが姿を消し、フナ、コイなどの稚魚が激減した。さらに、取水された用水に混じって、長木川や米代川へブラックバスが流れ込み、ため池そのものがブラックバスの供給源になっているとの指摘もあり、今回、地域住民が一丸となったブラックバスの緊急駆除が実施された。上の写真は、二日目に手代沼で捕獲された巨大なブラックバス。バケツのように大きな口、このバスを文字どおりオオクチバスと呼んでいる。このバスの胃袋から出てきたフナ類や共食いを示すバスの内容物を見て、参加者たちは一様に驚いていた。

 手代沼は、貴重な農業用水を供給するだけでなく、多様な淡水魚の宝庫として知られ、地元の太公望たちが釣りを楽しむ自然豊かな親水空間として親しまれてきた。大館へら鮒研究会は、20年ほど前から、沼を管理する大館市土地改良区の許可を得てヘラブナを放流、育てながら釣りを楽しんできた。ところが、数年前、何者かによってブラックバスが密かに放流され、爆発的に増えたという。

 この沼は、数十年もの間、水を空にしたことがなく、水を抜いて駆除しようとしたが、一番下の底の栓を抜くことができなかった。上の写真のとおり、平水よりかなり減水しているものの、水深は1m以上、貯水された面積は幅約160mと大きく、水と分厚いヘドロ、流木、ドラム缶、古タイヤなどの障害物に阻まれ、捕獲は地元のベテラン漁師も舌を巻くほど難しかった。
 手代沼が築造されたのは明治年代と古く、ため池の堤体全体から水が漏れるなど、老朽化が著しく崩壊の危険もあることから、県営の老朽ため池等整備事業で改修が予定されている。この沼からかんがいしている水田面積は41ha、貯水量は39万トン、計画満水位の面積は8.7haである。

 改修工事は、平成14年の予定だが、ため池を管理する土地改良区や地元の釣り愛好会、漁協などとブラックバスの駆除について協議。工事を行う前に、沼に生息するフナ類の救助とブラックバスの駆除を緊急に実施することで合意。(右の写真は、大館市と大館へら鮒研究会が手代沼にたてた看板。)
 もともといなかった沼にブラックバスが異常繁殖すると、バス釣りの人たちが押し寄せるようになった。これは、バス釣りの人たちが池底の流木などに引っ掛けたルアーの残骸だ。
 沼の底には、長年積もったヘドロが堆積、流木や点在する石、ドラム缶など障害物も多く、地引網の捕獲作戦は悪戦苦闘が続いた。特に巻き込む網に深いヘドロが食い込み、何度も巻き込みを中止するトラブルが連続した。ロープを懸命に引く人たちの中には、手にマメができ破ける人もいた。
 船に乗り込んだ人たちが、網に巻き込んだヘドロや障害物を取り除く。地引網を数m引いてはストップ。この繰り返しが何度も続いた。このままでは、網を引き上げることすらできない。午前中は、思考錯誤で作業はストップした。  バス捕獲作戦の陣頭指揮をとった地元のベテラン漁師・石川さんは考えた。ヘドロを巻き込まないために、どうすればよいか。網の下に付いたオモリに浮力を付ける以外にない、ということで発泡スチロールを使うことを考えた。
 急遽、大量の発泡スチロールを調達、午後から一個一個、100mを越える地引網に発泡スチロールを取り付ける作業が行われた。半信半疑で行った改良だったが、これが素晴らしい効果を発揮した。水の中で魚を捕獲するには、道具任せ、力任せだけでは捕ることができない。水中では、人間には見えないだけに、魚以上に知恵を絞らなければ捕れるものではないということを痛感させられた。
 地引網と発泡スチロールを使った浮力作戦は見事に的中、魚を巻き込む作業が格段に楽になった。しかし、それまでトラブル続きの作業中に、たくさんの魚たちが隙間から大量に逃げたのは言うまでもない。人間も必死だが、魚も必死に逃げた。
 網を丸一日かけて、やっと岸辺に上げ始めると、参加した人たちに笑顔が戻り始めた。右の写真は、フナに混じってブラックバスが入っている。しかしバスは、フナやコイなどより俊敏で賢いらしく、穴だらけの地引網の隙間から逃げたようだ。
 捕獲された47cm、約2キロもあるブラックバス。体高がひときわ大きく、餌が豊富な沼でしか見ることができない豊満な魚体だ。周りから「デケェなぁ〜。太ってるなぁ〜」の声が飛んだ。

 ブラックバスが日本に移入したのは、1925年、アメリカから芦ノ湖に放流したのが最初だった。典型的な肉食魚で、在来魚への影響が大きいことから他の水域への持ち出し、放流を禁止しているにもかかわらず、勝手な密放流が繰り返され、現在では全国に生息している。秋田県でもほぼ全域に生息が確認されている。手代沼は、人家から遠く離れ、地元の人にしかわからないような隠れた場所にあるにもかかわらず、池の中に50センチ近いバスが大量に繁殖していた。
 こんなにデカク太ったバスを見るのは初めて、という声があちこちから飛んだ。二次的自然とはいえ、数十年も沼の水を抜かず、きわめて自然な状態で管理されてきただけに、ブラックバスの繁殖は残念でならない。
 地元の人たちが大勢見守る中、大量のフナや60センチを越えるコイも次々と捕獲された。しかし、奇妙なことに10〜15センチ前後のフナやコイの稚魚は全く捕獲されなかった。
 「コイの稚魚がいねぇなんて、どう考えてもおかしい。ブラックバスがコイの稚魚を食っちまったんだろう。」との声があちこちから聞こえた。コイは、淡水魚の中でも寿命が長く、まれに70〜80年と人間並みで、昔から「コイは淡水魚の王様」と言われてきたが、それは遠い昔の話なのだろうか。
 捕獲されたバスは、水産漁港課と水産振興センターの職員によって解体調査が行われた。写真は、バスの体長を測定しているところ。  重量を測定。47cmのバスは、1.97kgもあった。パンパンに膨れ上がったお腹の中には、一体何が入っているのだろうか。
 腹部をハサミで切り裂き、内臓を調査。まるでタラコのようにデカイ卵が2つも出てきた。このクラスだと1万粒を越えるだろう。春になると、オスは水底に産卵床をつくり、近づくメスを導き産卵する。オスは、ほぼ1ヶ月間絶食状態で産卵床を見張り、卵や生まれた稚魚を保護し続ける。ブラックバスが、爆発的な勢いで繁殖した陰には、こうした徹底した繁殖行動にあると言われている。
 胃袋から何と同類のバスが出てきた衝撃的な写真。かつて沼に生息していたエビやハゼ、コイの稚魚などを食べ尽くし、果てはバスの共食いをしている事実に、見ていた地元の人たちは一様に驚いた。「バスがバスを食ってるどよ、たまげだなぁ〜!」
 胃の内容物が半分解けているが、これもバスとの判定だった。  捕獲されたブラックバスを次々に解体し、得られたデータは全て野帳に記録された。
 大量に捕獲されたフナ類は約300キロ、下流の中堤まで軽トラックで運搬、引越し作業が行われた。ブラックバスを完全に駆除し、ため池の改修工事が終了すれば、再び手代沼に戻す計画だ。
 今では珍しいナマズ。それにしても食性が似ている外国生まれの丸々太ったブラックバスに比べれば、何とも痩せたナマズだった。いや、かつてのナマズに比べても明らかに痩せていた。

 手に持っているのは、今回のブラックバス捕獲作戦を陣頭指揮した地元のベテラン漁師・石川富雄さん。1日目は、トラブル続きでブラックバスはわずか10匹しか捕獲できなかったが、ブラックバスの恐るべき生態の一端を知ることができた。地引網に発泡スチロールを付けた仕掛けの効果が確認されただけに、明日の本格調査に期待が高まった。
手代沼で捕獲された淡水魚
ゲンゴロウブナ・・・本来は琵琶湖が原産だが各地に放流されたものが自然繁殖、今ではほぼ日本全国に分布。外見的には、体高が著しく高いのが特徴。食物性プランクトンを主に食べる植物食。エラの内側にあるサイハでプランクトンをこし取って食べる。釣り魚として人気が高いフナの一種。(沼での捕獲数1位) コイ・・・温和で、口元のヒゲはどことなく威厳を漂わせる顔つき。主に小動物などを食べる雑食性。タニシやカワニナなどの底性動物を砂泥ごと吸い込み、喉にある頑丈な歯でかみ砕いて食べる。口には歯が全くない。春に20〜60万もの卵を2〜3回にわけて水草に生みつける。(沼での捕獲数3位)
ナマズ・・・扁平な頭に大きな口ヒゲ。昼は物陰などに潜み、主に日が暮れてから活動を始め、底性生物から小魚、カエルまで貪欲に食べる。食性やルアーに反応するという点では、ブラックバスに似ている。しかし、口の大きさや獲物をとらえるスピード、俊敏さ、繁殖力においてブラックバスの比ではない。この沼では、ブラックバスの出現によって、餌となる小魚やカエルが激減し、消滅の運命を辿っているように思われる。(沼での捕獲数は最下位、わずか3匹) ブラックバス(オオクチバス)・・・北米原産の肉食魚で、生態系から見ると上位に位置する生物。淀んだ水を好み、主に湖沼や川の下流域に生息している。秋田では、1982年(昭和57年)に秋田市の沼で確認され、今では、県内ほぼ全域の川や湖、ため池に生息。小魚や昆虫、エビ・カニ、カエル、イモリ、時にはネズミ、鳥などを丸飲みにして食べる動物食性。大きな口で、自分の体の1/2サイズの魚まで旺盛に捕食するといわれている。沼で捕獲された胃の内容物調査では、最も食べやすい小魚は見られず、比較的大きなフナや同類のバスを捕食していた。(沼での捕獲数2位、152匹)

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