兵器外観
名称 76.2mm野砲 ZIS-3 1942年型
[76.2mm ZIS-3 Divisional Gun Model 1942]
型式
製造国 ソ連
製造メーカー
配備国 旧ソ連、旧共産圏の多くの国、アラブ諸国など
製造初年 1942年
口径 76.2 [mm]
口径比 41.89(砲身長より計算)
砲身長 3192 [mm]
全長 約6.1 [m]
全高 約1.4 [m]
全幅 車輪間隔:1645 [mm]
全備重量 1116、1150など諸説あり [kg]
腔綫 有り
砲身材質
砲身命数 [発]
閉鎖機 垂直鎖線式上方開き
平衡機
駐退複座機
最大駐退力 [kg]
後座長 [mm]
照準具
上下射角 試作型:45deg、量産型:27degと37degのタイプ有り [deg]
水平射角 54 [deg]
最大射程 13290m [m]
装薬
公算誤差
砲口初速 OF-350:680m/sec(UOF-354M榴弾による?)
BR-350A:662m/sec(UBR-354A徹甲弾による?)
BR-350P:965m/sec(UBR-354N硬芯徹甲弾による?)
[m/sec]
発射速度 12〜25(ドイツ軍のテストでは最大25発/min) [発/min]
砲弾 UOF-354M榴弾UBR-354A徹甲弾UBR-354N硬芯徹甲弾
UBK-354成形炸薬弾、USh-354榴霰弾、UOH-354M化学弾、
UZ-354焼夷弾、UD-350発煙弾
操作人員 6〜8 [人]
布設所要時間 [min]
説明 ●開発
 第二次世界大戦の初期のソ連では、口径76.2mmの砲として、M1902/30、F-22(M1936)、F-22USV(M1939)など、多くの種類を所持していた。しかし、M1902/30やF-22は1941年までに旧式になり、F-22USVの構造は複雑で、労働集約技術によっても生産性を向上させることが難しかった。また、重量が過大で、戦場での移動に苦労するという欠点もあった。以上のような経緯から、1941年5月にGrabin設計局によって、新型師団砲の開発が開始された。新砲は、57mm対戦車砲ZIS-2の砲架を流用し、それに新しく設計された砲身を載せたものであった。最初のプロトタイプは、45degの高低射角を持っていた。一方、砲架はこのような強力な砲用に設計されていなかったため、新砲では反動のエネルギーを30%低減させる砲口制退器を装備した。また、垂直鎖栓式半自動閉鎖機、液圧式駐退器、液気圧式復座機という機構を持っていた。車輪はGAZ-AAトラックのものを流用した。小架は、1942年型小架で統一された。ただし、この小架は、従来の野砲で、時々使われていたものから、流用したものである。最初の試製砲は1941年6月に完成され、7月には、トライアルをパスした。1941年7月22日には、G.Kulik元帥の検分を受けたが、彼は、本砲の大量生産を禁止した。一方、Kulik元帥の命令にもかかわらず、Grabin設計局は秘密裏に第92工場に量産を指示することができた。このため、1941年の終わりまでは、本砲の生産は、制限を受けることになった。その後、ソ連軍では、独ソ戦初期の大敗北から、多くの師団砲を失い、スターリンは、品質や性能が低かったとしても、ドイツ軍の戦車と戦うことができるすべての砲の生産を許可した。この許可により、本砲の量産も見直された。そして、1942年2月12日に本砲は、「76.2mm師団砲1942年型」と命名され制式化された。一方、制式化までに、ソ連軍では既に少なくとも1,000門もの本砲を所持していた。制式化後、本砲は、第92工場と、第235工場で量産された。さらに、1944年には、第7工場で14門のZIS-3砲が生産された。本砲の1942〜45年までの生産数を別表に示す。1942〜45年の4年間に、48014門(牽引砲以外を含む)もの本砲が量産された。この数値は、本砲が、世界で最も大量生産された砲であることを意味している。

●構造
 本砲には、以下のような、ソ連国内においては革新的な工夫が見られた。
1)単肉自己緊縮砲身を採用した。
2)マズルブレーキが師団砲としては初めて採用された。これにより反動が軽減され砲架の軽量化が可能となった。
3)脚が軽量な管状のものに変更された。
4)脚は開脚式とし、水平射角が拡張された。
5)射撃速度の向上を目的に、自動排莢式の垂直鎖栓式閉鎖機を採用した。
6)移動目標を射撃するために、砲手が照準眼鏡から目を離さないですむように、すべての射角変更用のハンドルを砲尾の左側に集約させた。
7)その他、不必要な部分はすべて削除され、軽量化がなされた。
これらの改良により、従来のF-22USVよりも400kg近くも軽量化、小型化され、操作性は改善された。また、弾道性能も、F-22、F-22USVと同等の性能を有していた。
 本砲には、以下のような、3つタイプがあった。
1)ZIS-2からの砲架と射撃状態用のロック機構を持ち、押しボタン式の撃発装置を持つタイプ
2)簡素なロック機構と、レバー式撃発装置を持ち、高低射角が+27degのタイプ
3)簡素なロック機構と、レバー式撃発装置を持ち、高低射角が+37degのタイプ

●性能
 本砲の性能は、第2次世界大戦当時の列強各国の装備野砲と比較しても、優れたものである。特に、対戦車威力(貫徹能力)と、(ZIS-3の貫徹能力を別表Bに示す)、その生産性が特筆される点である。

●その他
 本砲を戦時生産型として、低性能、低品質と見る向きもある。一方、当時、この砲に触れた人物の中には、下記のような評価をしているものもある。
 クルップ社の砲部門チーフエンジニアであったWolf教授は、本砲について、彼の日記に次のように書いた。「ドイツの砲は一般に、ソ連を例外として他の国々の砲より優秀だった。第二次世界大戦中に、私は捕獲した英国とフランスの砲をテストした。このテストは、ドイツの砲が優秀なことを明白に示した。一方、ソ連のZIS-3が第二次世界大戦の最良の砲だったことは真実だ。誇張なしで、私は、この砲が歴史上の最優秀の武器の1つだと断言できる。」また、スターリンは、ZIS-3を見分した後に次のように言った。「この砲は、砲開発における代表作だ!」
参考文献 ・「大砲撃戦 第二次世界大戦ブックス37」 Ian V Hogg著 小野佐吉郎訳 中野五郎監修
・「PANZER」 1999年X月号(3XX号) アルゴノート社
参考WebSite ・「RUSSIAN BATTLEFIELD」 URL:http://www.battlefield.ru/
・「Fahrzeuge Gerate Waffen」 URL:http://www.militaer-museum.de/ausstellung.htm
写真 写真は自衛隊武器学校にて撮影。

別表A 76.2mm野砲 ZIS-3 1942年型の1942〜45年の生産数
1942年 1943年 1944年 1945年 合計
第92工場 10139 12269 13213 6005 41626
第235工場 0 1655 2899 1820 6374
第7工場 0 0 0 14 14
合計 10139 13924 16112 7839 48014

 

別表B ZIS-3の貫徹能力
砲弾 弾丸 弾種 貫徹能力[mm]
100m 500m 1000m 1500m 2000m
UBR-354A BR-350A APBC-HE 82 75 67 60 53
UBR-354P BR-350P APCR 111 96 77 54 44
注:貫徹能力は、RHAに対する命中角90°での数値。

 

写真(写真をクリックすると大きな写真が見られます)

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2001.8.25更新 榴弾砲format_v0.5