「AKB48」キャラ消費の進化論:斎藤 環(精神科医)

Voice2010年10月24日(日)08:00
特筆すべきは楽曲のよさ

とはいえ僕自身、ちょっと前までなら、AKB48について聞かれれば「もういったい誰が誰やら」的な答えを返していたはずなのだ。ところがこの原稿を書くにあたり、楽曲の公式PVやら『マジすか学園』の一部を視聴してみて驚いた。これはかなり、いいものだ。いずれも誠実かつ緻密に練り上げられた一級のプロダクトには違いない。少なくとも表層的なマーケティングやブームへの便乗精神だけで、これだけのものは絶対に創れない。青少年が大挙してハマっていく気持ちは、よく理解できたつもりだ。

とりわけ特筆すべきは、その楽曲のよさだ。むろん"相対評価"であるにせよ、秋元康氏の半ひねりした歌詞は、こと歌詞については絶望荒野と化したJ-POP業界においてひときわ輝いている。かつての「歌謡曲」の力を取り戻したいという、その明確な意図にも賛成だ。

いま若い世代のあいだで、ちあきなおみや山口百恵といった昭和の歌謡曲ブームがひそかに進行中らしい。歌謡曲の真髄の一つは、メロディのわかりやすさに加え、情緒や関係性に隠喩的な捻りを加えて楽曲に乗せるテクニックにあると僕は信ずるが、秋元氏の歌詞はまさにそうした伝統に忠実たらんとしているかにみえる。

いや、これはもはや他人事ではない。僕自身、個室に閉じ込められてひたすらAKB関連の画像や動画だけをみせられる拷問を受けたとしたら、翌週にはAKBの公演チケット争奪戦に加わっているかもしれない。絶対にそうならないと断言する自信はない。

もっとも現時点では、篠田麻里子はフツーによいとか、渡辺麻友は味わい深いといった程度のニワカでしかないので、個々メンバーの論評にはあまり深入りせずにおこう。ただ、個人的には板野友美の今後が気になって仕方がないことはいっておく。AKBにおける工藤静香的なポジションを担う彼女が今後どう受容されていくかは、僕が現在進めているヤンキー研究における重大な関心事の一つであるからだ。

遠巻きにしてAKBを批判するのは誰にでもできる。批評的なことを口にしたければ、せめて彼女たちの歌やダンスに接したうえで、具体的に問題点を指摘すべきだ。残念ながら数多くある批判のコメントのなかに、そうした指摘をみつけることはできなかった。

むしろ重要なのは、なぜAKB48が成功したのか、そちらの分析だ。たしかに商法としては80年代的なところも多分にある。しかし、まったく新しいリアリティーなしで、これほどの人気を集めることは難しいだろう。

秋元康氏は最近のインタビュー(『SWITCH』特別編集号「特集:AKB48」)で、彼なりにAKB人気の分析を試みている。彼はAKB劇場を自身の遊び場ととらえたうえで、ファンの変遷についてこう語る。

「この劇場は、初期の頃は3、40代の、いわゆる80年代アイドルを体験してきた人達が結構支えてくれていた。多分『大声ダイヤモンド』あたりから中高生が増えてきたのかな。つまり現在のAKBへの支持は二重構造になっている。現在の中高生には"新しい"もので、古き良きアイドルを知っている層には"懐かしい"ものとして映っている」

「アイドルって最終的には同性に好かれないとダメなんです。特に女性アイドルはそう。それから子どもに受けなければいけない〈中略〉やっぱり『一生懸命なところが好き』という声が多いですよね。今って一生懸命を向ける先がない。そうなると"託す"んだよね。〈中略〉AKBにも託している人がとても多い」

「子供たちの笑顔がそうであるように、少女達の一生懸命さには国境がないんですよ」

この説明がもし秋元氏の本音であるなら、失礼ながら、氏は自分のしていることが十分にわかっているとは思えない。支持の二重構造とか少女たちの一生懸命とか、そんなことでヒットが生まれるなら苦労はない。むろん「私の作詞が素晴らしいから」とか、正面からはいいづらい本音もあったりするのかもしれないが、なんにせよ成功者の自己分析はあまり参考にならないものだ。

よって、ここから先は僕なりにAKB人気の分析を試みてみよう。
2010年11月号のポイント
“失われた20年”以来、すっかり自信を喪く してしまった感のある日本人だが、じつはこの間も、他国の追随を許さぬ高い技術力で、人びとに夢を与えるモノやサービスを次々と産み出してきた。そこで、本号では世界に誇るテクノロジーを総力特集した。特集「『オバマの米国』の黄昏」とともに是非ご一読ください。!
詳細は、下記のリンクから「特設サイト『Voice+』へ

Voice最新号目次 / Voice最新号詳細 / Voice年間購読申し込み / Voiceバックナンバー / Voice書評 / PHP研究所 / 特設サイト『Voice+』
Voice最新号
 
 

  • ソーシャルブックマークに追加:
  • gooブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに追加
  • はてなブックマークに追加
  • Buzzurlに追加
  • livedoorクリップに追加
  • FC2ブックマークに追加
  • newsingに追加
  • イザ!に追加
  • deliciousに追加
この記事について ブログを書く

過去1時間で最も読まれたライフニュース

最新のライフニュース


注目のトップニュース
中国紙、前原外相の更迭求める
横断歩道で2度はねる、男逮捕
米国「日中は対話で緊張緩和を」
面接官の心をつかむ退職理由は?
リア・ディゾン、2年で離婚へ
柔道団体、日本女子が3位
ユンソナ「とりあえず大丈夫…」
天皇賞、ブエナビスタが快勝
投票

あなたやあなたの家族は会社を愛してる?

  • 全て熱愛している
  • まあまあ愛してる
  • そこそこ好きかな
  • 給料は愛してる
  • 仕事内容は愛してる
  • 福利厚生は愛してる
  • 上司や部下は愛してる
  • 給料が愛せない
  • 仕事内容が愛せない
  • 福利厚生が愛せない
  • 上司や部下が愛せない
  • いろいろ愛せない
  • まったく愛せない
注目のライフニュース
性暴力の被害者が実名で出版
白いご飯に最も合う調味料は?
賃貸住宅自殺 遺族に「2次被害」
30歳前半女性の市場価値は何点?
犬猫がじっと見つめる…先には?
死刑が無い国、終身刑の実情は
若年単身の手取り収入が男女逆転
医学的に見た恋人のつなぎとめ方
写真ギャラリー
写真ギャラリー
おしゃれを楽しむ
ファッションショーや最新トレンド
goo辞書とのコラボ企画「ニュースな英語」
ニュースで使われた英語フレーズを月水金にご紹介
ニュースな英語コラム一覧
流行・カルチャーカテゴリの最新質問一覧
京都弁で名前に「〜はん」と付けるのはどのくらい一般的なんでしょうか。
京都弁で名前に「〜はん」と付けるのはどのくらい一般的なんでしょうか。 京都...
「俺は普通と違うんだぜ」と暗にアピールする人は
「俺は普通と違うんだぜ」と暗にアピールする人は 何が楽しいのでしょうか。 ...
ネットをしていると「おいしいです(^p^)」という書き込みを度々見かけ...
ネットをしていると「おいしいです(^p^)」という書き込みを度々見かけます...
旬の旅行情報 - goo旅行
秋におすすめ!国内・海外旅行特集
環境goo 新着&オススメ記事
J-POWER エコ×エネ・カフェ
第4回エコ×エネ・カフェ
My Life,My Style/アトリエミツコへようこそ
Vol.21 ごめんね
グローバルコラム
第84回 アムールトラの生息するロシア沿海地方ビキン川流域のために
gooブランドセール
gooブランドセール憧れのブランドアイテムが
最大70%オフ!!

 
goo ヘルスケア:健康コラム・レシピ
いわし蒲焼きどんぶり - レシピ
いわしとレタスでシンプルでも栄養は満点。生活習慣病や物忘れが気になる方に。
コミュニケーションで損をしない - メンタルヘルス
「わたしメッセージ」で伝えてみよう
テーマで探す今週のレシピ - gooグルメ&料理
ヘルシーレシピヘルシーレシピ老化などの原因になるといわれる活性酸素を除去する抗酸化作用があるポリフェノール。上手に食事に取り入れてアンチエイジング!
goo恋人探し
私は 相手は
おすすめメルマガ
最新ニュースを、メルマガでお届け
 
おすすめコンテンツ
gooのお知らせ
「スティッチ!」版googooトップページgooに「スティッチ!」版デザインのトップページが登場!DSゲームソフトやグッズが当たるキャンペーンも
あつめてみた。あつめてみた。猫画像から都市伝説、節約術、レースクイーンまで、ヒマをつぶせてつぶやけるネタを「あつめてみた。」
gooニュースサービス説明