「AKB48」キャラ消費の進化論:斎藤 環(精神科医)
特筆すべきは楽曲のよさ
とはいえ僕自身、ちょっと前までなら、AKB48について聞かれれば「もういったい誰が誰やら」的な答えを返していたはずなのだ。ところがこの原稿を書くにあたり、楽曲の公式PVやら『マジすか学園』の一部を視聴してみて驚いた。これはかなり、いいものだ。いずれも誠実かつ緻密に練り上げられた一級のプロダクトには違いない。少なくとも表層的なマーケティングやブームへの便乗精神だけで、これだけのものは絶対に創れない。青少年が大挙してハマっていく気持ちは、よく理解できたつもりだ。
とりわけ特筆すべきは、その楽曲のよさだ。むろん"相対評価"であるにせよ、秋元康氏の半ひねりした歌詞は、こと歌詞については絶望荒野と化したJ-POP業界においてひときわ輝いている。かつての「歌謡曲」の力を取り戻したいという、その明確な意図にも賛成だ。
いま若い世代のあいだで、ちあきなおみや山口百恵といった昭和の歌謡曲ブームがひそかに進行中らしい。歌謡曲の真髄の一つは、メロディのわかりやすさに加え、情緒や関係性に隠喩的な捻りを加えて楽曲に乗せるテクニックにあると僕は信ずるが、秋元氏の歌詞はまさにそうした伝統に忠実たらんとしているかにみえる。
いや、これはもはや他人事ではない。僕自身、個室に閉じ込められてひたすらAKB関連の画像や動画だけをみせられる拷問を受けたとしたら、翌週にはAKBの公演チケット争奪戦に加わっているかもしれない。絶対にそうならないと断言する自信はない。
もっとも現時点では、篠田麻里子はフツーによいとか、渡辺麻友は味わい深いといった程度のニワカでしかないので、個々メンバーの論評にはあまり深入りせずにおこう。ただ、個人的には板野友美の今後が気になって仕方がないことはいっておく。AKBにおける工藤静香的なポジションを担う彼女が今後どう受容されていくかは、僕が現在進めているヤンキー研究における重大な関心事の一つであるからだ。
遠巻きにしてAKBを批判するのは誰にでもできる。批評的なことを口にしたければ、せめて彼女たちの歌やダンスに接したうえで、具体的に問題点を指摘すべきだ。残念ながら数多くある批判のコメントのなかに、そうした指摘をみつけることはできなかった。
むしろ重要なのは、なぜAKB48が成功したのか、そちらの分析だ。たしかに商法としては80年代的なところも多分にある。しかし、まったく新しいリアリティーなしで、これほどの人気を集めることは難しいだろう。
秋元康氏は最近のインタビュー(『SWITCH』特別編集号「特集:AKB48」)で、彼なりにAKB人気の分析を試みている。彼はAKB劇場を自身の遊び場ととらえたうえで、ファンの変遷についてこう語る。
「この劇場は、初期の頃は3、40代の、いわゆる80年代アイドルを体験してきた人達が結構支えてくれていた。多分『大声ダイヤモンド』あたりから中高生が増えてきたのかな。つまり現在のAKBへの支持は二重構造になっている。現在の中高生には"新しい"もので、古き良きアイドルを知っている層には"懐かしい"ものとして映っている」
「アイドルって最終的には同性に好かれないとダメなんです。特に女性アイドルはそう。それから子どもに受けなければいけない〈中略〉やっぱり『一生懸命なところが好き』という声が多いですよね。今って一生懸命を向ける先がない。そうなると"託す"んだよね。〈中略〉AKBにも託している人がとても多い」
「子供たちの笑顔がそうであるように、少女達の一生懸命さには国境がないんですよ」
この説明がもし秋元氏の本音であるなら、失礼ながら、氏は自分のしていることが十分にわかっているとは思えない。支持の二重構造とか少女たちの一生懸命とか、そんなことでヒットが生まれるなら苦労はない。むろん「私の作詞が素晴らしいから」とか、正面からはいいづらい本音もあったりするのかもしれないが、なんにせよ成功者の自己分析はあまり参考にならないものだ。
よって、ここから先は僕なりにAKB人気の分析を試みてみよう。
とはいえ僕自身、ちょっと前までなら、AKB48について聞かれれば「もういったい誰が誰やら」的な答えを返していたはずなのだ。ところがこの原稿を書くにあたり、楽曲の公式PVやら『マジすか学園』の一部を視聴してみて驚いた。これはかなり、いいものだ。いずれも誠実かつ緻密に練り上げられた一級のプロダクトには違いない。少なくとも表層的なマーケティングやブームへの便乗精神だけで、これだけのものは絶対に創れない。青少年が大挙してハマっていく気持ちは、よく理解できたつもりだ。
とりわけ特筆すべきは、その楽曲のよさだ。むろん"相対評価"であるにせよ、秋元康氏の半ひねりした歌詞は、こと歌詞については絶望荒野と化したJ-POP業界においてひときわ輝いている。かつての「歌謡曲」の力を取り戻したいという、その明確な意図にも賛成だ。
いま若い世代のあいだで、ちあきなおみや山口百恵といった昭和の歌謡曲ブームがひそかに進行中らしい。歌謡曲の真髄の一つは、メロディのわかりやすさに加え、情緒や関係性に隠喩的な捻りを加えて楽曲に乗せるテクニックにあると僕は信ずるが、秋元氏の歌詞はまさにそうした伝統に忠実たらんとしているかにみえる。
いや、これはもはや他人事ではない。僕自身、個室に閉じ込められてひたすらAKB関連の画像や動画だけをみせられる拷問を受けたとしたら、翌週にはAKBの公演チケット争奪戦に加わっているかもしれない。絶対にそうならないと断言する自信はない。
もっとも現時点では、篠田麻里子はフツーによいとか、渡辺麻友は味わい深いといった程度のニワカでしかないので、個々メンバーの論評にはあまり深入りせずにおこう。ただ、個人的には板野友美の今後が気になって仕方がないことはいっておく。AKBにおける工藤静香的なポジションを担う彼女が今後どう受容されていくかは、僕が現在進めているヤンキー研究における重大な関心事の一つであるからだ。
遠巻きにしてAKBを批判するのは誰にでもできる。批評的なことを口にしたければ、せめて彼女たちの歌やダンスに接したうえで、具体的に問題点を指摘すべきだ。残念ながら数多くある批判のコメントのなかに、そうした指摘をみつけることはできなかった。
むしろ重要なのは、なぜAKB48が成功したのか、そちらの分析だ。たしかに商法としては80年代的なところも多分にある。しかし、まったく新しいリアリティーなしで、これほどの人気を集めることは難しいだろう。
秋元康氏は最近のインタビュー(『SWITCH』特別編集号「特集:AKB48」)で、彼なりにAKB人気の分析を試みている。彼はAKB劇場を自身の遊び場ととらえたうえで、ファンの変遷についてこう語る。
「この劇場は、初期の頃は3、40代の、いわゆる80年代アイドルを体験してきた人達が結構支えてくれていた。多分『大声ダイヤモンド』あたりから中高生が増えてきたのかな。つまり現在のAKBへの支持は二重構造になっている。現在の中高生には"新しい"もので、古き良きアイドルを知っている層には"懐かしい"ものとして映っている」
「アイドルって最終的には同性に好かれないとダメなんです。特に女性アイドルはそう。それから子どもに受けなければいけない〈中略〉やっぱり『一生懸命なところが好き』という声が多いですよね。今って一生懸命を向ける先がない。そうなると"託す"んだよね。〈中略〉AKBにも託している人がとても多い」
「子供たちの笑顔がそうであるように、少女達の一生懸命さには国境がないんですよ」
この説明がもし秋元氏の本音であるなら、失礼ながら、氏は自分のしていることが十分にわかっているとは思えない。支持の二重構造とか少女たちの一生懸命とか、そんなことでヒットが生まれるなら苦労はない。むろん「私の作詞が素晴らしいから」とか、正面からはいいづらい本音もあったりするのかもしれないが、なんにせよ成功者の自己分析はあまり参考にならないものだ。
よって、ここから先は僕なりにAKB人気の分析を試みてみよう。
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2010年11月号のポイント
“失われた20年”以来、すっかり自信を喪く してしまった感のある日本人だが、じつはこの間も、他国の追随を許さぬ高い技術力で、人びとに夢を与えるモノやサービスを次々と産み出してきた。そこで、本号では世界に誇るテクノロジーを総力特集した。特集「『オバマの米国』の黄昏」とともに是非ご一読ください。!
詳細は、下記のリンクから「特設サイト『Voice+』へ
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