車輪[Wheels]


●車輪とは
 牽引砲の車輪[Wheels]は、砲を移動・牽引するための装置である。また、多くの火砲では、脚と同様に射撃の反動を受けたり、反動で砲が転倒しないためにも使用されている。逆に、射撃姿勢では、車輪を地面に設置させない形式の砲も多数存在する。前者は、比較的小口径で、射程が短く、軽量な火砲に多い形式で、射撃姿勢への移行への時間が短く、軽量化が可能なものの、射撃精度は低下する傾向がある。後者は、比較的大口径かつ長射程の火砲に多い形式で、射撃姿勢への移行に時間を要するものの、射撃精度が高いといったメリットがある。また、後者ような重砲では、射撃の反動が大きく、車軸が耐えられないために、この形式にしている場合も多い。前者の例としては、米国開発の75mm榴弾砲M1A1[M8A1]があり、後者の例としては、155mm榴弾砲M1が上げられる。

●車輪の材質
 砲の車輪の材質としては、木材、金属、ゴムなどが上げられる。第二次世界大戦までの牽引砲の多くは、車輪の材質に木材を使用していた。これは、当時の牽引手段が、馬または人力が主であり、移動速度が低く、衝撃が小さかったこと、また、加工性が良好なこと、軽量化が図れること、などに因るためである。第二次世界大戦に入ると、鋼製車輪や、鋼製車輪および木製車輪の周りにソリッドタイプのゴムを張ったもの、一般的な空気圧クッションによるゴムタイヤを使用した火砲が見られるようになった。鋼製車輪の火砲の例としては、日本開発の89式15cm加農砲が、木製車輪の周りにソリッドタイプのゴムを張ったものの例としては、96式15cm榴弾砲が、空気圧ゴムタイヤの例としては、米国開発の75mm榴弾砲M1A1[M8A1]105mm榴弾砲M2A1[M101A1]などが上げられる。前2者は、馬牽引が前提であり、ゴムタイヤの後2者は、自動車牽引が前提の火砲である。なお、75mm榴弾砲M1A1[M8A1]では、射撃精度を少しでも向上させるために、牽引時1.4kg/cm^2の空気圧を射撃時には、0.7kg/cm2まで下げて対応している。また、155mm榴弾砲M1も空気圧タイヤを使用しているが、射撃時は、ジャッキでタイヤを浮かせることによって、反動により車軸に破損が生じないこと、および射撃精度を向上を図っている(なお、緊急時に数発までならば、ジャッキを上げずに射撃が可能である)。
 余談であるが、第二次世界大戦当時の日本陸軍では、自動車牽引前提の火砲の呼称に、「機動」という2文字をつけている。例としては、90式野砲を自動車牽引に改造した機動90式野砲や、91式10cm榴弾砲の改良型の機動91式10cm榴弾砲などがある。前者は、板バネ懸架およびソリッドゴムタイヤの形式を採用している。

鋼製車輪の例
89式15cm加農砲
木製+ソリッドゴム車輪の例
96式15cm榴弾砲
空気圧ゴムタイヤの例
75mm榴弾砲M1A1[M8A1]

 

 

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作成:2002/05/05 Ichinohe_Takao