駐退機・復座機
●駐退機・復座機とは
初期の砲では、射撃のたびに、砲全体(砲身・砲架とも)が反動により後退し、再度射撃するには、元の位置に砲全体を戻して、再照準するという作業を行っていた。結果として、射撃精度は低く、射撃速度も遅かった。この対策として、考案された方法の一つが、駐退機・復座機である。駐退機とは、射撃の際の衝撃的な反動を、抵抗を与えながら一定の距離を後座させることにより緩衝させる機構である(なお、反動の運動エネルギーの一部は、熱エネルギーなどに変換して吸収も行っている)。これにより、砲全体は動かさないで、砲身のみを後座させることを可能にしている。一方、後座させた砲身を元に位置に戻す(これを復座と呼んでいる)機構が必要である。この機構が復座機で、復座にはバネや圧縮ガスの弾性力を利用するのが一般的である。
●液気圧式駐退復座機の構造と働き
駐退復座機の例として、一般的な液気圧式駐退復座機の構造と働きを説明する。液気圧式駐退復座機の構造概略図を図1〜3に、後復座のGIFアニメーションを図4に示す。漏孔でつながった2本のシリンダー(駐退管[Recoil Cylinder]と復座管[Run-out
Cylinder])を使用し、駐退管には粘度の高い液体(グリセリンやオレオナフタなど)が、駐退管と漏孔でつながっている復座管には、駐退管と同一の粘度の高い液体と浮動ピストンを介して圧縮ガス(通常は窒素ガス)が入っている。駐退管のピストンは、ピストンロッドを介して、砲身に連結されている。なお、駐退管は駐退筒、復座管は推進筒とも呼ばれることがある。
射撃の反動により砲身が後座すると、駐退管のピストンが砲身に連結されたピストンロッドによって引張られ、管内の液体が漏孔から復座管内に流入し、浮動ピストンを介して圧縮ガスを収縮させる。この漏孔から液体が漏れ出る抵抗により、砲が後座している間は、均一な後座抗力を砲架に伝えるようになっている。また、液体の流動による摩擦と、ガスの収縮により反動の運動エネルギーの一部は、熱エネルギーに変換され、液体と圧縮ガスの温度を上昇させ、結果として反動の一部を吸収する。
射撃の反動が収まると、復座管内の温度上昇した圧縮ガスは、元に戻ろうと膨張し、浮動ピストンを介して、油を漏孔から押し出し、最終的に駐退管のピストンと連結されたピストンロッドおよび砲身を、射撃前の位置まで押し戻す。
●液圧式駐退機−バネ式復座機
前述の液気圧式駐退復座機では、復座力に圧縮ガスの力を利用していた。一方、液圧式駐退機−バネ式復座機は、後座抗力の発生には液体の粘度を、復座には、バネの力を利用している。バネ式復座機は、圧縮ガス式と機能上に大差は無いが、同じ効力を出すためには、寸法が大きく、重量も重くなる傾向があり、口径の大きな砲では、あまり用いられなくなっている。
●バネ式駐退復座機
バネ式駐退復座機は、後座抗力や復座にバネの力を利用している。口径の小さい機関砲や機関銃では、反動が小さく、一つのバネで後座・復座が可能である。このため、機構を単純にできるというメリットから、一般的に使用されている。
図4 鎖栓式閉鎖機の閉鎖機構(アニメ) |
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作成:2002/02/17 Ichinohe_Takao