徹甲榴弾が装甲に侵徹した状態で炸裂したら?
●導入
軍事掲示板において、きっど氏は下記のような質問をされました(引用します)。
*** 引用ここから ***
投稿者:きっど氏
投稿日時:03/12/24(水) 13:43
タイトル:装甲内部での炸裂
内容:
装甲に食い込んだ徹甲榴弾(榴弾でも可)が炸裂した際の破壊状況は、一体どのような
ものになるのでしょうか? 様々な場合が考えられますが、取りあえず戦車砲弾がRHAに
食い込んだ状態でお願いします。
素人考えでは、着弾・侵徹で破壊され脆くなっている所に炸裂するのですから、かなり
激しく破壊されると思うのですが・・・・・・。
*** 引用ここまで ***
この質問から、「徹甲榴弾が装甲に侵徹した状態で炸裂したらどうなるか?」について考察しました。
●代表的な徹甲榴弾のスペック
まず徹甲榴弾のスペックを見てみましょう。
下記は、第二次世界大戦で使用されたドイツの代表的な徹甲榴弾のスペックです。
50mm Pzgr(APC-HE-T)、弾丸重量:2.06kg、炸薬重量:25g、弾丸長:178mm、射距離100mでの貫徹能力:93mm
75mm PzGr39(APCBC-HE-T)、弾丸重量:6.80kg、炸薬重量:16g
88mm PzGr39(APCBC-HE-T)、弾丸重量:10.16kg、炸薬重量:15.5g
(ソースはWebSite「戦史研究」URL:http://www.bekkoame.ne.jp/からです)
徹甲榴弾の内蔵する炸薬は、50mm Pzgrで25g、75mm PzGr39で16g、88mm PzGr39で15.5gと
非常に少ないことが判ります。
●徹甲榴弾がRHAに突き刺さった状態
次に、前述の徹甲榴弾の中でも、弾丸重量に対する炸薬重量の最も多い50mm PzgrがRHAに
突き刺さった状態の幾何学的寸法について考えてみます。
弾丸の直径を50mm、長さを178mmとし、直径20mm、長さ50mmの炸薬(密度を1.58[g/cm^3]と
すると質量が約25gになります、計算の詳細は表1参照)が後部に入っているものとします(図1参照)。
この徹甲榴弾が全く変形せずに、RHAに侵徹したと想定したものが図2〜4です。
表1 25gの炸薬の寸法計算 | |||
式 | 値 | 単位 | |
質量 | M | 25 | [g] |
密度 | ρ | 1.58 | [g/cm^3] |
体積 | V=M/ρ | 15.8 | [cm^3] |
直径 | D | 2.00 | [cm] |
面積 | S=πD^2/4 | 3.14 | [cm^2] |
長さ | L=V/S | 5.03 | [cm] |
図1 徹甲榴弾と装甲の幾何学的な寸法のモデル |
図2 徹甲榴弾が150mm厚のRHAに80mm侵徹した状態のモデル |
図2は、この徹甲榴弾が150mm厚のRHAに80mm侵徹した状態のモデルです。
50mm戦車砲KwK39/L60の初速で侵徹した状態を模擬したものです。
炸薬部分は装甲の外部ですので、爆発しても弾丸が破砕して、飛び散るエネルギーに、ほとんどが
消費されてしまうことになります。また詳しくは後述しますが、25グラム分の炸薬のエネルギーは、
極小さいものですから、図2のように装甲の裏側が厚く残っていれば、内部に被害を与えることは
まず無いでしょう。
図3 徹甲榴弾が90mm厚のRHAに80mm侵徹した状態のモデル |
図3は、この徹甲榴弾が90mm厚のRHAに80mm侵徹し、裏面にクラックが入った状態のモデルです。
このような状態であれば、炸薬爆発の衝撃波が弾丸から装甲へと伝達されて、内部に破片が飛び
散る可能性はあります。
図4 図1の徹甲榴弾モデルが178mm侵徹した状態 |
図4は、徹甲榴弾が装甲に完全にもぐりこんだ状態を模擬したものです。ただし、178mm侵徹させる
には、下記で示す実験式を使って計算しますと、
・徹甲弾の侵徹理論
http://sus3041.web.infoseek.co.jp/contents/shell_var/ap_phy.htm
1260m/secの存速が必要になります。しかし、この速度で衝突した場合、弾丸は原形をとどめること
はほとんど不可能です。弾丸は破砕され炸薬は飛び散るか衝撃で爆発するというようなことになる
でしょう。よって、このような状態になることは、実際にはほとんどありえません。
●徹甲榴弾内蔵の炸薬の威力
次に徹甲榴弾に内蔵される25グラムの炸薬のエネルギーはどの程度のものかを計算してみます。
炸薬をTNTとしますと・・・。
TNTのエネルギー/質量比:3.79[kJ/g]
炸薬質量:25[g]
エネルギー:3.89×25=95[kJ]
25グラムのTNTのエネルギーは95kJ程度であることがわかります。
比較のため、50mm戦車砲KwK39/L60の0距離での運動エネルギーを
計算してみますと・・・
弾丸質量:2.06[kg]
初速:835[m/sec]
運動エネルギー:1/2*2.06*835^2=718[kJ]
炸薬の爆発エネルギーは、砲弾の運動エネルギーの数分の一であることが判ります。
●結論
以上の内容を踏まえて結論を考察しますと。
装甲は大きな運動エネルギーを持つ徹甲弾が衝突しても破砕しないような強靭な材質で造られ
ています。よって仮に装甲に侵徹した状態で徹甲榴弾に内蔵される少量の炸薬が爆発しても、
装甲を大きく破砕するようなことはできないと推定されます。
以上
作成:2003/12/25