対HEAT用吊り下げチェーンの提案
[目的] PKO、PKF活動において、ゲリラによって携帯対戦車兵器(例えば、RPG-7のPG-7V弾頭)により攻撃される恐れが増加している。現用の73式装甲車や96式装輪装甲車の装甲は、RPG-7級HEAT弾の攻撃には耐えられるものではない。HEAT弾に対する防御能力の向上策として、装甲車の側面に吊り下げるチェーンを提案する。 |
[対HEAT用吊り下げチェーンの概要] 対HEAT用吊り下げチェーン概略図を図1〜2に示す。装甲車の側面に、T字型のハンガーを設置し、チェーンを吊り下げる。RPG-7のPG-7VなどのHEAT弾頭の攻撃を受けた際に、HEAT弾頭がチェーンに接触し起爆、スタンドオフを狂わせて装甲車や内部の人員への被害を低減させる。この方式と同様のものは、イスラエルのメルカバ戦車の砲塔後部に見られる(図3参照)。メルカバ戦車では、後方からのRPG-7級HEAT弾によって、砲塔と車体の隙間部分を貫通されないように、この方式を採用している。 |
[対HEAT用吊り下げチェーンの効果] RPG-7(PG-7V弾頭)のスタンドオフと侵徹長の関係を図4および表1に示す。PG-7V弾頭の設計は古く、そのHEATライナーの成形は精密なものではないと推測される。精密でないライナーによるスタンドオフと侵徹長の関係は、「火器弾薬技術ハンドブック」弾道学研究会(編)、財団法人防衛技術協会(刊)のP510、図2.3.10-13「スタンドオフと侵徹長の関係」中に見られる。推定では、この図の非精密設計のデータを参考としている。推定値は、PG-7Vの炸薬直径を70mmとし、最適なスタンドオフである140〜210mm(炸薬直径の2〜3倍)における侵徹長を350mm(炸薬直径の5倍)とし、スタンドオフが離れるごとに侵徹長が低下する。例えば、スタンドオフが630mmで侵徹長が210mm、スタンドオフが1190mmで侵徹長が70mmとなる。また、この値から近似式を導き近似値を推定した。近似式を下に示す。なお、相関係数であるRの二乗は0.9987である。 Hc=0.00004*L^2-0.3337*L+407.47 ただし、 Hc:侵徹長[mm] L:スタンドオフ[mm] 対HEAT用吊り下げチェーンのRPG-7(PG-7V弾頭)に対する効果の推定値を表2に示す。チェーンの効果は、着弾角度によって大きく変わる。理由は、着弾角度によって弾頭起爆位置と車体までの幾何学的な距離が変わるためである。例えば、着弾角度が0度であれば空間距離は500mm、着弾角度が60度であれば空間距離は1000mmである。RPG-7は、最適なスタンドオフで起爆するように設計(ここでは、弾先端から内蔵する成形炸薬までの距離を140mmと仮定する)してあるため、この空間によってスタンドオフが大きく狂わされることになり、侵徹長が低下する。例えば、着弾角度が0度であれば、空間距離が500mm+弾先端から内蔵する成形炸薬までの距離は140mmであるから、スタンドオフは640mmとなる。この結果、侵徹長は210mmまで低下する。装甲車の装甲をRHAとし、厚さを20mmと仮定すると、車内に貫通する侵徹長の残分は、210mm-20mm=190mmとなり、チェーンの効果により、190mm/(350mm-20mm)=58%まで低下することになる。同じく、着弾角度30度では50%に、60度では12%まで低下する。 なお本品を使用しても装甲の薄い装甲車では、RPG-7級のHEAT弾の貫徹は免れないと思われる。理由は、装甲車の装甲防御能力は、12.7mm機銃に耐えられる程度であり、その厚さは防弾鋼鈑で20mm以下、高張力アルミニウム合金で50mm以下が普通である。この厚さだと、ブレークアップしたメタルジェットでも、貫徹される可能性が高いためである。本品の目的は、車内にいる人員への被害を低減させることであり、その目的に関する限り、費用対効果は高い。貫徹を完全に防ぎたい場合は、本品を装着した上、基本装甲の上にRHA換算で250mm以上の増加装甲を装着する必要がある。 |
[対HEAT用吊り下げチェーンの材料、価格と重量] 対HEAT用吊り下げチェーンの材料は、市販品で充分である。市販の形鋼によってT字のラックを製作し、市販のチェーンを吊り下げれば完成である。よって価格は非常に安価に済む。加工を隊内で行なうとすれば、材料費は1ユニット(T字のラック1つと吊り下げられる鎖)あたり1万円以下で済むであろう。加工を隊内で行なわず外部に委託するとすれば、 1ユニットあたりの価格は、大まかに見積もって5万円(材料費1万円+加工費4万円)あればお釣りが来ると思われる。よって、1〜5万円×12ユニット=12〜60万円程度で1両の防御能力を向上できる。 重量は、1ユニットあたり、20〜30kgで、例えば図1〜図2の96式装輪装甲車の場合、これを12ユニット分設置することになるので、最大で30kg×12ユニット=360kgの重量増加で済む。 なお、図3のメルカバ戦車の場合、チェーンの材質は、より軽量の樹脂製であり、本品についても樹脂製チェーンを使用すれば重量は1ユニットあたり20kg以下にでき、重量増加は240kg以下で済む。この程度の重量増加ならば、装甲車でも充分に耐えられるものと思われる。 |
[安全性と輸送性] 安全性と輸送性を考慮するならば、チェーンの装着部にヒンジをつけ、ラックを起倒式にすることが考えられる。比較的安全な場所を移動する際には、ラックを起した状態にして、幅を車体本体と同等にすることができる(トランスポーターや輸送船による輸送の際も同じ方法で対応できる)。また、チェーンを軽量の樹脂製にすれば、不慮の事故で人員にチェーンが衝突しても、負傷の度合は非常に軽くてすむであろう。 また、ユニット重量が軽いために、より安全な戦場でチェーンが不要な場合は、取り外し易い構造にすることも容易である。 |
以上 |
図1 対HEAT用吊り下げチェーン概略図(96式装輪装甲車装着状態) |
奥付: ・96式装甲車の元図は、「制式要項 96式装輪装甲車 D8100」 防衛庁より |
図2 対HEAT用吊り下げチェーン概略図(96式装輪装甲車装着状態) |
奥付: ・96式装甲車の元図は、「制式要項 96式装輪装甲車 D8100」 防衛庁より |
図3 メルカバMk3バズの砲塔後部チェーン |
奥付: ・写真は「A World Of Military Modelling」 Jan-Willem de Boer より転載 http://krimi.tripod.com/index.html http://krimi.tripod.com/merk3baz/merk3baz.html |
表1 RPG-7(PG-7V)のスタンドオフと侵徹長の関係(推定値) | |||
スタンドオフ | 侵徹長 | 近似値 | 近似値/侵徹長 比 |
L | Hr | Hc=4E-05*L^2-0.3337*L+407.47 | Hc/Hr |
[mm] | [mm] | [mm] | |
280 | 315 | 317 | 1.01 |
420 | 280 | 274 | 0.98 |
630 | 210 | 213 | 1.01 |
910 | 140 | 137 | 0.98 |
1190 | 70 | 67 | 0.96 |
データ奥付: ・データは、「火器弾薬技術ハンドブック」弾道学研究会(編)、財団法人防衛技術協会(刊) のP510、図2.3.10-13「スタンドオフと侵徹長の関係」中の非精密設計のデータを参考とした。 |
図4 RPG-7(PG-7V)のスタンドオフと侵徹長の関係(推定値) |
データ奥付: ・データは、「火器弾薬技術ハンドブック」弾道学研究会(編)、財団法人防衛技術協会(刊) のP510、図2.3.10-13「スタンドオフと侵徹長の関係」中の非精密設計のデータを参考とした。 |
表2 対HEAT用吊り下げチェーンの効果(PG-7Vに対する推定値) | ||||||
命中角度 | 空間長さ | スタンドオフ | 侵徹長推定値 | 装甲厚 | 残侵徹長 | 残侵徹長 |
θ | La=500/SIN(90-θ) | L=La+140 | Hc=4E-05*L^2-0.3337*L+407.47 | Tc=20/SIN(90-θ) | H=Hc-Tc | Hp=H/330 |
[deg] | [mm] | [mm] | [mm] | [mm] | [mm] | [%] |
0 | 500 | 640 | 210 | 20 | 190 | 58% |
10 | 508 | 648 | 208 | 20 | 188 | 57% |
20 | 532 | 672 | 201 | 21 | 180 | 55% |
30 | 577 | 717 | 189 | 23 | 166 | 50% |
40 | 653 | 793 | 168 | 26 | 142 | 43% |
50 | 778 | 918 | 135 | 31 | 104 | 31% |
60 | 1000 | 1140 | 79 | 40 | 39 | 12% |
作成:2003/11/24