表面硬化装甲と均質圧延装甲の耐弾性の比較
[目的]
表面硬化装甲および均質装甲の耐弾性能を比較することによって、それら装甲の特性を把握する。
[比較]
37mm APC-T M51について、表面硬化装甲と均質装甲を射撃した場合に、装甲の傾斜角を変化させた際の50%貫通厚の変化を比較した。
●37mm APC-T M51の着弾角度と50%貫通厚の関係
今回の解析に使用する37mm APC-T M51の初速は884m/secである。装甲へ衝突する際の存速は853m/secで、これは射距離91mにおける存速に相当する。この存速での50%貫通厚(T50)を、装甲の角度を変化させながら、表面硬化装甲と均質装甲の場合で比較したものが表1と図1である。
図1を見ると、表面硬化装甲と均質装甲ともに、着弾角度が大きくなると、T50が小さくなる傾向にある。一方、表面硬化装甲の方が均質装甲よりも傾きが小さく、着弾角度40degで、均質装甲の線と交差する。これは、着弾角度が40degより浅い場合は、表面硬化装甲の方が防御効果が高く、それ以上では均質装甲の方が高いことを意味する。
表1 37mm APC-T M51の着弾角度と50%貫通厚の関係 | ||
着弾角度 [deg] |
表面硬化装甲 [mm] |
均質装甲 [mm] |
0 | 73.7 | 74.9 |
20 | 64.8 | 71.1 |
30 | 55.9 | 61.0 |
40 | 48.3 | 49.5 |
45 | 0.0 | 38.1 |
50 | 0.0 | 30.5 |
※存速:853m/secにおけるデータ。 |
図1 37mm APC-T M51の着弾角度と50%貫通厚の関係 |
[考察]
表面硬化装甲は、表面の硬さによって弾丸を変形〜破砕させ貫徹能力を低下させる働きがある。このため均質装甲よりも防弾効果が大きい。一方、耐弾限界近くでは、圧貫(プラグ破壊)とよばれる貫通形態になる(図2参照)。圧貫とは、装甲に衝突した弾丸ほどの大きさで、装甲材が文字通り打ち貫かれる状態である。これは、表面硬化装甲の表面の靭性が低いため、耐弾限界近くほどの運動エネルギーをもった弾丸が衝突すると、表面に亀裂が入り、亀裂がノッチ効果となって、脆性破壊(割れ)を起すためである。そして、圧貫の場合、亀裂の進行は、板厚方向と平行になるため傾斜装甲の効果が低くなる(図3参照)。このことから、表面効果装甲は、耐弾限界近くでは、傾斜角度が大きくなっても、均質装甲ほどの効果はないのである。
均質装甲は、表面硬化装甲のような弾丸を破砕させる能力は低いが、靭性が高く、耐弾限界近くでも圧貫(プラグ破壊)にはならない(図4参照)。このため、装甲を傾斜させた場合、弾丸が侵徹しなければならない長さは大きくなり、表面硬化装甲と比較すると傾斜角度が大きい場合に耐弾性能が大きくなる。また、傾斜角が大きくなると、延性の高い均質装甲は、自らが変形することにより着弾角度を浅くし、跳弾を促す効果もある(図5参照)。
図2 表面硬化装甲の圧貫概略図 | 図3 傾斜した表面硬化装甲の圧貫概略図 |
図4 均質装甲への砲弾の侵徹概略図 | 図5 均質装甲への砲弾の衝突と跳弾概略図 |
作成:20030605 Ichinohe_Takao