砲の弾丸加速効率について


●目的
 中口径榴弾砲の場合、発射薬のエネルギーの内、弾丸の加速に使われるのは、30%程度である。これは、砲の種類に関係する値なのだろうか。また、口径、初速、口径比長などの要因は関係しているのだろうか。この疑問に答えるために、砲の発射薬量と砲口エネルギーの比について分析を行った。

●砲の効率(発射薬量と砲口エネルギーの比)の定義
 ここでは、砲の効率:Xは、下式で表す。

X=E/P
ただし、
X:効率[kJ/kg]
E:砲口エネルギー[kJ]
P:発射薬質量[kg]

なお、砲口エネルギー:Eは、下式で表せる。
E=0.5*M*V^2
ただし、
M:弾丸質量[kg]
V:初速[m/sec]

●方法
 手元にある14種類の砲(弾薬)のデータから、効率:Xを算出し、相対的に比較した。また、その要因はどこにあるのかを考察した。

●結果
[砲の種類]

 各種砲の効率(砲口エネルギー/発射薬質量の比)を表1に示す。表の効率2は、155mm榴弾砲M1(M107榴弾)の効率1=100を基準とした比である(すなわち、この値が大きいほど、効率の高い砲ということになる)。判り易いので、この値で比較する。表1を見ると、まず目につくのは、106mm無反動砲M40の効率の低さである。効率25と155mm榴弾砲M1の1/4である。この値から無反動砲の効率の悪さが良くわかる。次に目につくのが、96式40mm擲弾銃の効率130である。この銃は、1996年制式化の最新の銃で、4.7gの発射薬で、245gの弾丸を235m/secまで加速するという、非常に効率の良い銃である。おそらく、発射薬も設計も最新のものに因るところであろう。同じことが言えるのが、20mm高性能機関砲(86式APDS)で、これはファランクスと呼ばれる艦載の近接防御兵装である。砲自体は、航空機関砲で有名のM61系(いわゆるバルカン)であり、それほど新しいものではないが、弾薬は最新式の86式離脱装弾筒付徹甲弾である。このことから判るように、効率は年代が新しいほど良いことが予測される。一方、105mm戦車砲L7A1は、弾薬が比較的新しいにもかかわらず、M735APFSDSで効率96、75式粘着榴弾2型で94と、あまり良くないように見受けられる。その他、表の中で唯一の滑腔砲身である68式155mm迫撃砲であるが、効率が108と、それなりの値が出ている。

表1 各種砲の効率(砲口エネルギー/発射薬質量の比)
砲/弾薬 年代 旋条 口径 砲身長 口径比長 最大腔圧 弾丸質量 初速 砲口エネルギー 発射薬質量 効率1 効率2
D L C=L/D M V E=0.5*M*V^2 P X=E/P X2=X/11.08
単位 [mm] [mm] [caliber] [kgf/cm^2] [kg] [m/sec] [kJ] [kg] [kJ/kg]
106mm無反動砲M40
(68式粘着榴弾)
1955 有り 105 2730 26 650 8.000 500 1000 3.600 278 25
96式40mm擲弾銃
(96式擲弾)
1996 有り 40 454 11 588 0.245 235 7 0.005 1439 130
68式155mm迫撃砲
(68式榴弾)
1968 無し 155 1365 9 900 24.490 290 1030 0.860 1197 108
73式54口径5in速射砲
(76式対空弾)
1953 有り 127 6858 54 3230 31.650 808 10332 8.400 1230 111
76mm62口径艦砲
(81式対空弾薬包)
1971 有り 76 4712 62 3400 6.420 914 2682 2.500 1073 97
75mm榴弾砲M8
(67式榴弾)
1936 有り 75 1196 16 2040 5.660 381 411 0.490 838 76
105mm榴弾砲M2A1
(M1榴弾)
1940 有り 105 2363 23 15.000 470 1657 1.400 1183 107
155mm榴弾砲M1
(M107榴弾)
1941 有り 155 3565 23 43.900 564 6982 6.300 1108 100
20mm高射機関砲
(86式APDS)
1980 有り 20 1800 90 4390 0.090※ 1128 57 0.042 1370 124
37mm高射機関砲
(67式榴弾)
1938 有り 37 2110 0.533 792 167 0.170 984 89
75mm戦車砲
(67式榴弾)
1940 有り 75 2813 38 2535 5.660 594 1000 0.880 1136 103
61式90mm戦車砲
(70式対戦車榴弾)
1961 有り 90 3975 44 3300 6.000 1170 4107 3.600 1141 103
105mm戦車砲L7A1
(M735APFSDS)
1965 有り 105 5355 51 4350 5.830※ 1501 6567 6.200 1059 96
105mm戦車砲L7A1
(75式粘着榴弾2型)
1965 有り 105 5355 51 2000 10.800 760 3119 3.000 1040 94
※APDSおよびAPFSDSの弾丸質量については、加速体質量、すなわち弾芯、装弾筒等すべてを含んでいる。

[他の要因]
 年代、口径、砲身長、口径比長、弾丸質量、初速、砲口エネルギー、発射薬質量の要因と効率の相関を比較した。他の要因と効率の相関を表2に示す。相関係数の絶対値が大きいほど、関係が深いことを表している。効率との関係が深いのは、1位)年代、2位)口径、3位)口径比長である。ただし、年代は、口径および口径比長との相関係数が大きい。すなわち、本データ内では、新しい年代のものには、比較的小口径−大口径比長のものが多いことによる可能性が高い。また、小口径の砲は、口径比長の長いものが多い(口径と口径比長の相関係数が-0.42であることからも、このことが判る)。以上から、年代(制式化時期)で代表されると見るべきであろう。制式化時期と効率の関係を図に示す。新しい年代の砲ほど、効率が高い傾向にあることが判る。

表2 他の要因と効率の相関
年代(砲) 口径 砲身長 口径比長 弾丸質量 初速 砲口エネルギー 発射薬質量
口径 -0.46 1.00
砲身長 -0.15 0.37 1.00
口径比長 0.27 -0.42 0.50 1.00
弾丸質量 -0.42 0.84 0.32 -0.26 1.00
初速 0.16 -0.17 0.61 0.78 -0.23 1.00
砲口エネルギー -0.23 0.56 0.83 0.21 0.65 0.43 1.00
発射薬質量 -0.25 0.59 0.83 0.18 0.61 0.43 0.96 1.00
効率 0.41 -0.24 -0.06 0.21 0.05 0.11 0.09 -0.16

 

[まとめと考察]
 以上の結果をまとめる次のようになる。
1)無反動の効率は、通常の砲に比較すると非常に悪い。これは、無反動砲では、反動を打ち消すために、発射薬の燃焼ガスの多くを、後方に排出するためにである。
2)年代が新しいほど、効率が良い傾向がある。これは、砲の設計や発射薬が新しく、性能が向上しているためである。
3)口径が小さく、口径比長の大きい砲の効率が高い傾向がある。しかし、本データだけでは、年代との相関関係が高く、判断は難しい。なお、口径比長が大きいと、発射ガスによる加速時間が長くとれるため、効率が高くなる傾向にあるのかもしれない。また、小口径砲ほど、口径比長が長い傾向があり、口径が小さいほど効率が高く見えるのかもしれない。
4)滑腔砲身砲(迫撃砲など)は、効率が高い可能性がある。これは、抜き弾抵抗が低ことに起因すると推察される。
5)最新戦車砲は効率が低いかもしれない。近年の戦車砲の効率が、あまり良くなさそうな理由は、その砲口ブラストの多さにある。すなわち、初速を第一とするために、他の砲と比較すると、腔圧が砲口付近まで高い傾向があり、発射薬の燃焼ガスが多くのエネルギーを残したまま、砲口から放出されるためと推察される。

以上


作成:20020928 Ichinohe_Takao