爆風と破片の威力範囲の比較
[目的]
同重量の爆薬と破片榴弾の威力範囲を比較し、爆風効果と破片効果の範囲を比較した。
[内容]
●C4爆薬の爆発中心からの距離とピーク過圧(爆風圧)の関係
C4爆薬(10kg、L/D=1)の爆発中心からの距離とピーク過圧(爆風圧)の関係を表1および図1に、C4爆薬(50kg、L/D=1)の同関係を表2および図2に、C4爆薬(50kg、L/D=1/16)の同関係を表3および図3に示す。なお、L/Dとは、爆薬の形状で、L/D=1とは、直径:D、長さ:Lの関係が1対1の場合を、L/D=1/16とは、直径:D、長さ:Lの関係が1対16の場合(つぶれた円筒形状)を表している。なお、表中の0°、120°、240°は、0°を北とし時計回りに120°および240°の位置での測定結果であり、平均はそれら測定結果の平均値である。近似は、距離とピーク圧の関係を累乗近似した式から算出した値である。また、グラフ中の青の菱形が実験値(平均)、黒い線が累乗近似式による曲線、図中の数式が近似式である。実験では、爆発中心からもっとも近い測定位置が50mであるが、今回はそれより近い位置での考察が必要であり、各表には、距離5m、10m、25mにおけるピーク圧の近似値を表示している。
なお、本データは、宇宙開発事業団の「固体推進薬衝突実験の爆発音被害に係る検討チーム最終報告書」(URL:http://www.nasda.go.jp/Home/Press/j/1997/199708/kotai_970827_a_j.html)より抜粋した。
表1 爆発中心距離と爆風のピーク過圧の関係(C-4爆薬10kg、L/D比=1) | |||||
距離[m] | ピーク過圧[kPa] | ||||
0° | 120° | 240° | 平均 | 近似 | |
5.0 | - | - | - | - | 94.81 |
10.0 | - | - | - | - | 38.94 |
25.0 | - | - | - | - | 12.01 |
50.0 | 5.53 | 4.26 | 5.16 | 4.98 | 4.93 |
79.5 | 3.00 | 2.32 | 2.53 | 2.62 | 2.72 |
126.0 | 1.90 | 1.47 | 1.42 | 1.60 | 1.51 |
175.0 | - | - | 0.95 | 0.95 | 0.99 |
200.0 | 1.00 | 0.68 | - | 0.84 | 0.83 |
「固体推進薬衝突実験の爆発音被害に係る検討チーム最終報告書」 宇宙開発事業団 (URL:http://www.nasda.go.jp/Home/Press/j/1997/199708/kotai_970827_a_j.html)より |
表2 爆発中心距離と爆風のピーク過圧の関係(C-4爆薬50kg、L/D比=1) | |||||
距離[m] | ピーク過圧[kPa] | ||||
0° | 120° | 240° | 平均 | 近似 | |
5.0 | - | - | - | - | 232.98 |
10.0 | - | - | - | - | 92.56 |
25.0 | - | - | - | - | 27.32 |
50.0 | 11.16 | 9.68 | 11.37 | 10.74 | 10.85 |
79.5 | 6.21 | 5.68 | 5.47 | 5.79 | 5.85 |
126.0 | 3.58 | 3.16 | 3.37 | 3.37 | 3.17 |
175.0 | - | - | 2.00 | 2.00 | 2.05 |
200.0 | 1.90 | 1.47 | - | 1.69 | 1.71 |
「固体推進薬衝突実験の爆発音被害に係る検討チーム最終報告書」 宇宙開発事業団 (URL:http://www.nasda.go.jp/Home/Press/j/1997/199708/kotai_970827_a_j.html)より |
表3 爆発中心距離と爆風のピーク過圧の関係(C-4爆薬50kg、L/D比=1/16) | |||||
距離[m] | ピーク過圧[kPa] | ||||
0° | 120° | 240° | 平均 | 近似 | |
5.0 | - | - | - | - | 193.11 |
10.0 | - | - | - | - | 83.72 |
25.0 | - | - | - | - | 27.73 |
50.0 | 12.53 | 12.00 | 11.58 | 12.04 | 12.02 |
79.5 | 8.11 | 6.11 | 6.63 | 6.95 | 6.87 |
126.0 | 4.21 | 3.47 | 4.00 | 3.89 | 3.94 |
175.0 | - | - | 2.53 | 2.53 | 2.65 |
200.0 | 2.32 | 2.42 | - | 2.37 | 2.26 |
「固体推進薬衝突実験の爆発音被害に係る検討チーム最終報告書」 宇宙開発事業団 (URL:http://www.nasda.go.jp/Home/Press/j/1997/199708/kotai_970827_a_j.html)より |
●爆風圧と人体への被害の関係
爆風圧と人体への被害の関係を表4に示す。爆風圧による人体への被害の代表的なものは、1)圧力による人体そのものの破壊(いわゆる圧死)、2)圧力の急激な変化による肺出血などが上げられる。C4爆薬の爆風のような、正圧保持時間が400msであるような比較的速い爆発については、爆圧により90%の人が圧死する圧力は379〜448kPa、この死亡率が1%以下になる圧力は241〜310kPaである。一方、圧死しない圧力でも、肺の組織は、圧力の急激な変化に耐えられず組織破壊による出血を起こし、結果として死に至る。爆圧により90%の人が肺出血で死亡する圧力は200kPaであり、この死亡率が1%以下になる圧力は100kPaである。
予断だが、爆風により、建物のガラスの90%が破損する爆風圧は6.2kPa、破損率が1%以下になる爆風圧は、1.72kPaである(表5参照)。
また、爆風圧による人体の破壊については、41kPaにおいては鼓膜破壊が、35kPaにおいては鼻からの出血が、13kPaにおいては副鼻腔の浮腫が発生する(「人間の許容限界ハンドブック1990」 朝倉書店より)。
表4 爆風圧と人体への被害の関係 | |||
1%(限界)死亡率における爆風圧 | 90%死亡率における爆風圧 | 備考 | |
圧死 | 35−45psi(241−310kPa) | 55-65psi(379-448kPa) | Glasstone:1962 |
肺出血 | 14.5psi(100kPa) | 29.0psi(200kPa) | Eisenberg等:1975 |
「産業安全工学ハンドブック」海文堂(1989)F.P.リー著、井上威恭、上原陽一監訳より |
表5 爆風圧とガラスへの被害の関係 | |||
1%(限界)破損率における爆風圧 | 90%破損における爆風圧 | 備考 | |
ガラス | 0.25psi(1.72kPa) | 0.9psi(6.2kPa) | Eisenberg等:1975 |
「産業安全工学ハンドブック」海文堂(1989)F.P.リー著、井上威恭、上原陽一監訳より |
●C4爆薬の威力範囲の推定
前述のデータ(表4〜5)から、戦闘において兵士を無力化する爆風圧は、直接的には判らない。一方、100kPa程度の圧力であれば、死に至らないまでも無力化できる可能性があると推察される。よって、威力範囲のしきい値としては、この値(100kPa)を採用することとする。近似式から算出した各爆風圧における爆発中心からの距離を表6に示す。表6を見ると、C4爆薬10kgでは、100kPaの爆風圧が得られる爆発中心からの距離は4.8m、C4爆薬50kg、L/D=1では、同9.4m、C4爆薬50kg、L/D=1/16では、同8.6mであることが判る。この結果から、10kgのC4爆薬の爆風威力範囲は5m程度、50kgのC4爆薬の威力範囲は10m程度と考えられる。
表6 近似式から算出した各爆風圧における爆発中心から距離 | ||||||||
1.72kPa | 6.2kPa | 100kPa | 200kPa | 241kPa | 310kPa | 379kPa | 448kPa | |
C4爆薬10kg、L/D=1 | 113.6m | 41.8m | 4.8m | 2.8m | 2.4m | 2.0m | 1.7m | 1.5m |
C4爆薬50kg、L/D=1 | 199.4m | 76.1m | 9.4m | 5.6m | 4.9m | 4.0m | 3.5m | 3.1m |
C4爆薬50kg、L/D=1/16 | 250.8m | 86.6m | 8.6m | 4.6m | 4.2m | 3.4m | 2.9m | 2.5m |
●破片榴弾の威力範囲
陸上自衛隊の火砲の榴弾について、弾丸重量の立方根と威力半径の関係を表7と図1に示す(なお、榴弾の威力範囲の定義については、こちらを参照のこと)。一般的に榴弾の威力範囲は、弾丸重量の立方根に比例する傾向がある。陸上自衛隊の火砲についても、同様であり、近似式は、以下で示される。
Y=12.929X-7.1001、相関係数R^2=0.9932、ただし、X:弾丸重量の立方根、Y:威力半径[m]
相関係数は、0.9932と信頼性が高いことが判る。この近似式に、前述のC4爆薬の重量である10kgおよび50kgの立方根を代入すると、威力半径はそれぞれ、約20mと約40mと計算される(表7の水色の部分)。
表7 弾丸重量の立方根と威力半径の関係(陸上自衛隊) | |||||||||||
砲名称 | 砲弾名称 | 直径 | 弾丸重量 | 弾丸重量の立方根 | 炸薬重量 | 炸薬/重量比 | 威力半径 | 威力半径(近似) | 比 | ||
正面幅 | 縦深 | 平均 | |||||||||
[mm] | [kg] | [kg] | [%] | [m] | [m] | [m] | [m] | ||||
203mm榴弾砲M2 | M106榴弾 | 203 | 90.7 | 4.5 | 16.67 | 18.4 | 75 | 30 | 53 | 51 | 1.03 |
− | 弾量50kgの榴弾 | 50.0 | 3.7 | 41 | |||||||
75式自走155mm榴弾砲 | M107榴弾 | 155 | 43.9 | 3.5 | 6.96 | 15.9 | 45 | 30 | 38 | 39 | 0.97 |
75式榴弾 | 155 | 43.6 | 3.5 | 6.80 | 15.6 | 45 | 30 | 38 | 38 | 0.98 | |
155mm加農砲M2 | M101榴弾 | 155 | 43.4 | 3.5 | 7.20 | 16.6 | 45 | 30 | 38 | 38 | 0.98 |
74式自走105mm榴弾砲 | M1榴弾 | 105 | 15.0 | 2.5 | 2.13 | 14.2 | 30 | 20 | 25 | 25 | 1.01 |
74式榴弾 | 105 | 14.2 | 2.4 | 2.68 | 18.9 | 30 | 20 | 25 | 24 | 1.03 | |
− | 弾量10kgの榴弾 | 10.0 | 2.2 | 21 | |||||||
75mm榴弾砲M1A1 | M48榴弾 | 75 | 6.7 | 1.9 | 0.63 | 9.4 | 20 | 15 | 18 | 17 | 1.01 |
●破片榴弾とC4爆薬の威力半径の比較
破片榴弾と爆薬の威力半径の比較表を表8に示す。10kgのC4爆薬の威力半径は約5m、同重量の破片榴弾の威力半径は約20mである。また、50kgのC4爆薬の威力半径は約10m、同重量の破片榴弾の威力半径は約40mである。この結果から、破片榴弾は、同重量の爆薬の約4倍の威力範囲を持つことが判る。
表8 破片榴弾とC4爆薬の威力範囲の比較 | ||
重量 | 威力半径[m] | |
C4爆薬 | 破片榴弾 | |
10kg | 5 | 20 |
50kg | 10 | 40 |
●まとめと考察
以上の結果から、破片効果と爆風効果では、破片効果方が威力範囲がはるかに広いことが判った。これは、爆風(気体)と比較して、破片の重量が大きく、空気抵抗による減衰が少ないためである。この結果から、開けた地形で、暴露されている目標に対しては、爆風爆弾より破片爆弾の方が効果的であることが判る。
以上
参考WebSite:
・「固体推進薬衝突実験の爆発音被害に係る検討チーム最終報告書」 宇宙開発事業団
URL:http://www.nasda.go.jp/Home/Press/j/1997/199708/kotai_970827_a_j.html
参考文献:
・「産業安全工学ハンドブック」 海文堂 F.P.リー著、井上威恭、上原陽一監訳
・「人間の許容限界ハンドブック1990」 朝倉書店
作成:2002/04/21 Ichinohe_Takao
更新:2002/09/15 Ichinohe_Takao