小口径砲で大口径砲と同等の侵徹能力を出せないか?


●目的
 戦車砲の口径は、高初速化を追求するために拡大を続けてきた。これにより弾丸の重量(体積)は大きくなり、搭載弾数が少なくなるという不具合も発生しはじめている。一方、最近では、APFSDS弾に代表される砲口から射出された後、侵徹体の直径が砲口径に比較して小さいものが一般的である。こうなると、小口径砲でも同一の侵徹体を発射できるのではないかと考える人もいるのではないだろうか。この疑問に対し、架空の120mmL50砲および75mmL50砲とそのAPFSDS弾薬を想定し、砲身を設計・比較することにより、可否を推定した。

●架空120mmAPFSDS弾の飛翔体質量
 架空120mmAPFSDS弾飛翔体の寸法概略図を図1に、データ一覧表を表1に示す。飛翔体は、ペネトレーターとサボから構成される。ペネトレーターは、円柱形状とし、重金属合金製という設定で比重は16[g/cm^2]とした。サボは、2つの導環部と胴部から構成される特殊な形状であるが、その寸法から体積を計算している。また、サボは軽合金製という設定で、比重は4[g/cm^2]とした。なお、このAPFSDS弾の寸法は、実際の120mmAPFSDS弾の形状を参考としている。
これらのデータから、架空120mmAPFSDS弾飛翔体の質量は、8342[g]となる。

図1 架空120mmAPFSDS弾飛翔体の寸法概略図

 

表1 架空120mmAPFSDS弾飛翔体のデータ一覧表
ペネトレーター サボ サボ導環部 サボ胴部 サボ中空部 単位
直径 D 25 120 80 25 [mm]
断面積 S=0.25πD^2 491 11310 5027 491 [mm^2]
長さ L 625 50 70 120 [mm]
体積1 V=S*L 306796 565487 351858 58905 [mm^3]
体積2 V2 307 858 565 352 59 [cm^3]
比重 ρ 16 4 [g/cm^3]
質量 M=V2*ρ 4909 3434 [g]
飛翔体質量 8342 [g]

架空75mmAPFSDS弾の飛翔体質量
 架空75mmAPFSDS弾飛翔体の寸法概略図を図2に、データ一覧表を表2に示す。飛翔体の構造および材質は架空120mmAPFSDS弾と同一とする。また、同一の砲口初速で射撃された場合、侵徹能力を同一とするために、ペネトレーター寸法および材質は、架空120mm砲と同一とする(ようするにサボの寸法が小さいだけとする)。これらのデータから、架空75mmAPFSDS弾飛翔体の質量は、6559[g]となる。

図2 架空75mmAPFSDS弾飛翔体の寸法概略図

 

表2 架空75mmAPFSDS弾飛翔体のデータ一覧表
ペネトレーター サボ サボ導環部 サボ胴部 サボ中空部
直径 D 25 75 67.5 25 [mm]
断面積 S=0.25πD^2 491 4418 3578 491 [mm^2]
長さ L 625 50 70 120 [mm]
体積1 V=S*L 306796 220893 250493 58905 [mm^3]
体積2 V2 307 412 221 250 59 [cm^3]
比重 ρ 16 4 [g/cm^3]
質量 M=V2*ρ 4909 1650 [g]
飛翔体質量 6559 [g]

●120mmL50砲と75mmL50砲の最大砲腔内圧の推定
 120mmL50砲と75mmL50砲の最大砲腔内圧推定計算結果を表3に示す。最大砲腔内圧の推定計算方法は、「砲腔内圧の推定計算」を参照してほしい。飛翔体寸法・質量は前述の表1〜2の通り、砲口初速は1600[m/sec]、砲身長さは口径長をL50とし、75mm砲で3.75[m]、120mm砲で6.0[m]としている。これらのデータから、平均砲腔内圧を計算すると、120mm砲で159.1[MPa]、75mm砲で514.6[MPa]となる。最大腔圧は、平均高圧の2倍とすると、120mm砲で318.2[MPa]、75mm法で1029.1[MPa]と計算される。

表3 120mmL50砲と75mmL50砲の最大砲腔内圧の推定
砲名 120mmL50砲 75mmL50砲 単位
飛翔体直径 Dp 0.120 0.075 [m]
飛翔体断面積 Sp=0.25*Dp^2*π 0.01131 0.00442 [m^2]
飛翔体質量 Mp=Vp*ρp 8.3 6.7 [kg]
砲口初速 V0 1600 1600 [m/sec]
砲腔内での弾丸の平均速度 Va=0.5*V0 800 800 [m/sec]
砲身長さ Lg=Dp*n 6.000 3.750 [m]
加速時間 t=Lg/Va 0.00750 0.00469 [sec]
加速度 A=V0/t 213333 341333 [m/sec^2]
加速力 F=Mp*A 1779200 2273280 [N]
抜弾抵抗 Fp 20000 20000 [N]
平均砲腔内圧(推定値) Pg=(F+Fp)/Sp 159.1 514.6 [MPa]
最大砲腔内圧(推定値) Pmax=Pg*2 318.2 1029.1 [MPa]

●砲身肉厚の推定
 肉厚円筒に内圧をかけた場合にその応力に耐えるための最小肉厚は、下式で計算できる。

t=Di/2*(((σa+P)/(σa-P))^0.5-1)

ただし、
t:円筒の肉厚[mm]
Di:円筒の内径[mm]
σa:円筒材質の許容応力[MPa]
P:円筒にかかる内圧[MPa]

 砲身の最小肉厚推定計算結果を表4に示す。仮に砲身の材質の耐力(降伏点)が、1100[MPa]とすると120mm砲では、砲身の肉厚を最小で20.8[mm]としなければならない。一方、75mm砲では、砲身の肉厚を168[mm]にしなければならず、口径よりも砲身肉厚の方がはるかに大きいという、全く実用的でないものになってしまう。また、一般的な砲身材質の耐力(降伏点)は1100[MPa]より低く、低サイクル疲労強度などを勘案すると、より低い許容応力に設定する必要がある。しかし、この式の許容応力に約1029[MPa]以下を代入すると、最小肉厚が無限大になってしまう。これが意味するところは、この内圧では、どんなに砲身の肉厚を大きくしても許容応力は約1029MPa以下にはならないということで、この内圧ではまともな砲を設計することは不可能であることを示している。

表4 120mmL50砲と75mmL50砲の肉厚推定
75mmL50砲 120mmL50砲
砲腔内圧 P 1029.1 318.2 [MPa]
許容応力 σa 1100.0 1100.0 [MPa]
内径 Di 75 120 [mm]
最小肉厚 t=Di/2*(((σa+P)/(σa-P))^0.5-1) 168.0 20.8 [mm]

●対策として75mm砲の砲身長を伸ばしてみると
 対策としては、砲身長を伸ばすことが上げられる。ただし、砲身を伸ばすことは、砲身の加工を難しくし、砲身の製造コストが上がるほかに、発射時の砲身のブレや温度差による熱膨張変形、砲身自身の重さによる弾性変形などが大きくなり、命中精度にも影響がでることを知っておく必要がある。75mm砲の砲身長を7.5[m](口径長L100)まで伸ばしたときの最大砲腔内圧の計算結果を表5に示す。平均砲腔内圧は257.3[MPa]、最大砲腔内圧は514.6[MPa]と推定される。この内圧で、許容応力700[MPa]とした場合の最小肉厚を表6に示す。75mmL100砲の最小肉圧は58.5mm、120mmL50砲の最小肉厚は38mmと計算される。これらの砲身の質量(表7 120mmL50砲と75mmL100砲の砲身質量の計算結果参照)は、75mmL100砲で1445kg、120mmL50砲で888kgとなる。なお、この数値は砲身重量としては小さく見えるが、実際の砲での砲身重量とは、砲弾が通過する筒の部分だけではなく、装薬や薬莢が入る部分も砲身質量に含むことが一般的なためである。この結果から、120mmL50砲と同等の侵徹能力を持つ75mmL100砲を造ろうとすると、120mmL50砲のおよそ2倍の重量になってしまうことが判る。

表5 120mmL50砲と75mmL50砲の最大砲腔内圧の推定
砲名 75mmL100砲 単位
弾丸直径 Dp 0.075 [m]
弾丸断面積 Sp=0.25*Dp^2*π 0.00442 [m^2]
弾丸質量 Mp=Vp*ρp 6.7 [kg]
砲口初速 V0 1600 [m/sec]
砲腔内での弾丸の平均速度 Va=0.5*V0 800 [m/sec]
砲身長さ Lg=Dp*n 7.500 [m]
加速時間 t=Lg/Va 0.00938 [sec]
加速度 A=V0/t 170667 [m/sec^2]
加速力 F=Mp*A 1136640 [N]
抜弾抵抗 Fp 20000 [N]
平均砲腔内圧(推定値) Pg=(F+Fp)/Sp 257.3 [MPa]
最大砲腔内圧(推定値) Pmax=Pg*2 514.6 [MPa]

 

表6 120mmL50砲と75mmL100砲の最小肉厚推定
75mmL100砲 120mmL50砲
砲腔内圧 P 514.6 318.2 [MPa]
許容応力 σa 700.0 700.0 [MPa]
内径 Di 75 120 [mm]
最小肉厚 t=Di/2*(((σa+P)/(σa-P))^0.5-1) 58.5 38.0 [mm]

 

表7 120mmL50砲と75mmL100砲の砲身質量の計算結果
75mmL100砲 120mmL50砲 単位
肉厚 5.9 3.8 [cm]
内径 Di 7.5 12 [cm]
外径 Do=2*t+Di 19.2 19.6 [cm]
外面積 So=Do^2*π*0.25 289.5 301.7 [cm^2]
内面積 Si=Di^2*π*0.25 44.2 113.1 [cm^2]
断面積 S=So-Si 245.4 188.6 [cm^2]
長さ L 750 600 [cm]
体積 V=S*L 184013 113173 [cm^3]
比重 ρ 7.85 7.85 [g/cm^3]
質量 M=V*ρ 1445 888 [kg]

●結論
 以上の結果から小口径砲で大口径砲と同等の侵徹能力を出すことは、砲身の設計の観点や実用上、非常に難しいことが判る。仮に小口径砲で大口径砲と同等の侵徹能力を持つ砲を製造しようとすると、砲身長を長くし、砲身肉厚を厚くする必要があり、結果としてより大きな重量(より大きな体積)の砲になってしまう。

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作成:2001/11/25 Ichinohe_Takao