砲腔内圧の推定計算


●目的
 大砲の砲身は砲弾を高速に撃ち出すために、装薬の強大な爆圧に耐えられなければならない。では、その圧力(砲腔内圧)はどの程度のものであろうか。

●計算のモデル
 砲身と弾丸のモデルを図1に示す。砲身内径をD0、砲身外径をD1、弾丸経過長(砲腔長さ)をLg、弾丸外径を砲身内径と同一のD0、弾丸質量をMp、弾丸の初速をV0とする。装薬は、弾丸底面より後部で爆発し、弾丸の底面を爆圧で押して弾丸を加速する。弾丸が砲腔内部と接触しているため抵抗が存在し、それを抜弾抵抗Fpとする。

●平均砲腔内圧の推定計算
砲腔内圧:Pgは式1であらわすことができる。

Pg=(F+Fp)/Sp ・・・式1

ただし、
F:弾丸の加速力[N]
Fp:砲弾と砲腔内の接触抵抗[N]
Sp:弾丸底面の面積[m^2]


弾丸の加速力:Fは式2であらわすことができる。

F=Mp*A ・・・式2

ただし、
Mp:弾丸の質量[kg]
A:弾丸の加速度[m/sec^2]


弾丸の加速度:Aは式3であらわすことができる。

A=V0/t ・・・式3

ただし、
V0:弾丸の砲口での初速[m/sec]
t:弾丸の加速時間[sec]


弾丸の加速時間:tは式4であらわすことができる。

t=Lg/Va ・・・式4

ただし、
Lg:弾丸経過長(砲腔長さ)[m]
Va:弾丸の砲身内での平均速度[m/sec]


砲身内での平均速度:Vaは式5で表すことができる。

Va=0.5*V0 ・・・式5

ただし、
V0:砲口初速[m/sec]


●実際の砲腔内圧と推定平均腔圧の比較
 砲腔内圧について、実際の規定最大腔圧と、推定平均腔圧を、61式90mm戦車砲の70式曳光対戦車榴弾(HEAT-T)、74式105mm榴弾砲74式榴弾および75式155mm榴弾砲75式榴弾について比較した。比較結果を表1に示す。61式戦車砲の70式HEAT-Tの推定平均腔圧は150.1[MPa]、74式榴弾砲の74式榴弾は152.1[MPa]、75式榴弾砲の75式榴弾は150.3[MPa]である。一方、実際の規定最大腔圧は、61式戦車砲の70式HEAT-Tで323.6[MPa]、74式榴弾砲の74式榴弾で313.8[MPa]、75式榴弾砲の75式榴弾で304.0[MPa]である。

●結果と考察
 表1の結果を見ると、推定平均腔圧は、実際の規定最大腔圧の約1/2の値であることが判る。この理由は、今回の推定計算が、砲腔内での弾丸の平均加速度から推定した結果であるため、平均腔圧となっているためである。一方、弾丸が砲腔内部を進む際に腔圧は常に変化しており、実際の最大腔圧は、今回の推定結果の2倍程度になると推定される。

以上

表1 砲腔内圧の推定計算と実際値
砲名 61式90mm戦車砲 74式105mm榴弾砲 75式155mm榴弾砲 単位
弾丸 70式HEAT-T 74式榴弾 75式榴弾
弾丸直径 Dp 0.090 0.105 0.155 [m]
弾丸断面積 Sp=0.25*Dp^2*π 0.00636 0.00866 0.01887 [m^2]
弾丸質量 Mp=Vp*ρp 6.0 14.2 43.6 [kg]
砲口初速 V0 1170 720 720 [m/sec]
砲腔内での弾丸の平均速度 Va=0.5*V0 585 360 360 [m/sec]
弾丸経過長(砲腔長さ) Lg=Dp*n 4.509 2.794 3.986 [m]
加速時間 t=Lg/Va 0.00771 0.00776 0.01107 [sec]
加速度 A=V0/t 151796 92770 65028 [m/sec^2]
加速力 F=Mp*A 910778 1317337 2835203 [N]
抜弾抵抗 Fp 44100 N/A N/A [N]
平均砲腔内圧(推定値) Pg=(F+Fp)/Sp 150.1 152.1 150.3 [MPa]
最大腔圧(実際値) 323.6 313.8 304.0 [MPa]

参考文献:
・「仮制式要綱61式90mm戦車砲(C) XB3002C」 防衛庁 1987年1月7日
・「仮制式要綱70式90mm戦車砲えい光対戦車りゅう弾 XC2501」 防衛庁 1970年1月21日
・「仮制式要綱74式自走105mmりゅう弾砲(B) XD8006B」 防衛庁 1987年1月7日
・「仮制式要綱74式自走105mmりゅう弾砲りゅう弾 XC2536」 防衛庁 1974年12月17日
・「制式要綱75式自走155mmりゅう弾砲(B) D8007B」 防衛庁 1987年1月7日
・「制式要綱75式155mmりゅう弾 C2538」 防衛庁 1975年10月18日

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作成:2001/10/28 Ichinohe_Takao