題目:APFSDS弾頭前部にHEAT弾頭を取付けた場合の貫徹能力への影響
作成:2001/04/29
経緯:2001年4月25日にゲストブックへ投稿頂いた、はぐれメタル氏の質問、「APFSDS
弾の先端に、APFSDSの飛翔体と同じ直径のHEAT弾を取り付けた場合、貫通能力は上昇
するのか」への回答として、以下の考察を作成した。
内容:
●技術的問題
HEAT弾頭のノイマン/モンロー効果による侵徹を有効に行わせる場合には、ジェットを
収束させるために内部コーン直径の5倍程度のスタンドオフ距離が必要である。このため
APFSDSの飛翔体と同じ直径のHEAT弾を取り付けた場合、HEAT弾頭はそれなりの長さ
が必要となる。では、どの程度の長さが必要になるか計算してみる。
近年のAPFSDS弾のpenetraterの直径は、30mm前後である。同一直径のHEAT弾内部の
コーンの直径を25mm程度とすると、スタンドオフ距離は125mmとなる。この結果から
HEAT弾頭の長さは最低でも125mm以上は必要となる。また、これ以下の場合、
HEAT弾頭の効果は限定的になり、充分な侵徹効果は望めない。
一方、APFSDS弾飛翔体の直径に対する長さには限界があるため、HEAT弾頭部分が
長くなれば、後部のpenetrater(侵徹体)長さは短くなる。HEAT弾頭が減っ
たpenetrater長さよりも侵徹効果が大きくなければ、相対的に侵徹長は短くなる。
●技術的問題と前提条件
近年のAPFSDS弾の初速は1500m/sec以上と非常に高速であり、この速度で衝突する際に
HEAT弾の侵徹作用であるモンロー効果が確実に作用するかは不明である。すなわち、
HEAT弾頭のノイマン/モンロー効果による侵徹時間が充分に速ければ、その後方の
penetraterがHEAT弾頭をerodeする前に装甲に穴をあけることができる。一方、遅い場
合は、HEAT弾頭は、スタンドオフ距離を保てないため、機能が限定的となり、無意味
にerodeするだけである。これらの前提条件によって、侵徹のモデルが変わってくる。こ
のことから、それぞれの場合について考察する。
●HEAT弾頭の作用が働いた場合
HEAT弾頭のモンロー効果による侵徹時間が充分に速ければ、その後方のpenetraterが
HEAT弾頭をerodeする前に装甲に穴をあけることができる。
近年のAPFSDS弾のpenetraterの直径は、30mm前後である。HEAT弾頭の侵徹長は最
大で弾頭直径6倍程度と言われている。これらのことから、penetraterの先につくHEAT
弾頭の侵徹長は、180mm程度となる。一方、HEAT弾による穴の径は、その最大部分(装甲表面)
でも弾頭直径より小さく、先端(装甲の奥)に行くほど小さくなる。このため、後部の
penetraterは、自体の直径よりも小さな穴のある装甲に衝突することになる。この場合、
装甲と穴の部分で衝撃インピーダンスが異なるため、penetrater高速衝突による侵徹作用に
対して阻害を起こす可能性がある。一方、阻害を起こさない場合でも、穴径が小さいため、
penetraterによる侵徹作用の助けには、ほとんどならない。
●HEAT弾頭のモンロー効果による侵徹が作用しない場合
APFSDS弾の侵徹長は、次式で計算できる。
P=K1・L・(ρP/ρA) ・・・(1)
ただし、
P:侵徹長[m]
L:penetrator長[m]
ρP:penetratorの密度[kg/m3]
ρA:装甲の密度[kg/m3]
K1:係数
この式から、APFSDS弾の侵徹長は、APFSDS弾のpenetrater長に比例することが判る。
APFSDS弾のpenetrater先端にHEAT弾頭を取り付けた場合、本来のpenetrater材質で
ある衝撃インピーダンスの高い材料は、HEAT弾頭部分には使えないため、通常のAPFSDS
弾より相対的にpenetrater長が短くなる。これによりAPFSDS弾のみの侵徹作用で見る
限り、侵徹長は短くなる。
●結論
以上の結果から、APFSDS弾の先端に、APFSDSの飛翔体と同じ直径のHEAT弾を取り
付けても、貫徹能力は高くならない。むしろ、通常のAPFSDS弾と同一長さの飛翔体
と比較すると低くなる可能性が高い。
以上