[題目]
 戦車の制動距離の推察

[作成]
 2000/12/14

[更新]
 2001/05/05

[経緯]
 戦車の制動距離っていうのは、どの程度なのだろうかとの疑問から、 単純な理論で計算してみました。

[状況]
 欧州での総合演習中、ドイツ軍第7機甲師団(架空)所属のレオパルド2A5 戦車は、装填手のシュリーフェンさんの急病(盲腸らしい)のため、野戦病院に 向って最大速度で舗装道路を走行中でした。その前方50m先のボカージュ(生垣) の陰から、牛さんが1頭ひょっこりと現れたではありませんか。運転手(操縦手)の ビットマンさんは、牛さんとの距離40mの位置で気が付き、フルブレーキングしました。 さて、牛さんはどうなったでしょう?

[摩擦力の計算]
摩擦力は一定では無く、外力に応じて種々の大きさに変ります。一方、静止摩擦力には 限度があってそれ以上大きくなれません。この限度の摩擦力を最大摩擦力といいます。 今回は、計算を単純化するためと、これ以上の制動性能は理論上ありえないという 解答を出すため、最大摩擦力で計算してみます。

最大摩擦力:Fmは、静止摩擦係数をμ、垂直抗力をNとすると次式で表せます。

Fm=μ×N

[垂直効力の計算]
レオパルド2A5の全備重量は59.7(t)=59700(kg)です。
戦車の質量をw、重力加速度をgとすると、垂直効力:Nは、

N=w×g=59700×9.80=585060(N)

となります。ただし、重力加速度:g=9.80(m/s^2)とします。

[静止摩擦係数]
戦車は舗装道路を走行する場合、通常ゴムパットを装着します(そうしないと、 舗装道路がボロボロになってしまう)。ゴムと舗装道路との静止摩擦係数は、資料が 無いので仮に0.8としましょう。

μ=0.8

以上から、最大摩擦力:Fmは、

Fm=μ×N=0.8×585060=468048(N)

となります。

[運動エネルギーの計算]
レオパルド2A5の全備重量は59.7(t)=59700(kg)、最大速度は72(km/hour)=20(m/sec)です。
全速走行中のレオパルド2A5の運動エネルギー:Eは、

E=0.5×w×v^2=0.5×59700×20^2=11940000(J)

となります。

[制動距離の計算]
制動距離:Lは、運動エネルギー:E÷最大摩擦力:Fmで計算できます。

L=E÷Fm=11940000÷468048=25.5(m)

となります。

[考察]
以上の結果から考察するに、キャタピラによる制動性能が理論上の最大値である、静止摩擦力 なみによくて、摩擦係数が0.8より大きければ、牛さんは助かります。実際は、この状況では、 静止摩擦ではなく、転がり摩擦と静止摩擦の中間の考え方が当てはまるでしょうし、 摩擦係数はもっと違う値(ずっと大きいかも、また、もっと小さいかも)かもしれません。 摩擦係数ってのは、実験してみないと出ないので。これらのことから、この値は参考程度に 考えてください。
なお、本計算は硬い路面(剛体)についてもモデル計算ですので、柔らかい路面では成り立たなくなります。その点には注意が必要です。

ちなみに減速時の加速度ですが、減速時の平均速度を10(m/sec)とすると、速度0(m/sec) までの減速時間が2.55(sec)、加速度が7.84(m/sec^2)となりますので、重力加速度Gに直すと、 0.8(G)になります。

以上

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