[題目]
 砲の侵徹長(貫徹能力)についての物理的考察
[作成]
 2000.2.16
[更新]
 2006.5.14
[経緯]
 砲の侵徹長は、砲弾の質量、初速度、断面積、材質や装甲の材質等のパラメータで
変化する。今回、砲弾の侵徹長について物理的に考察することによって、これらの
パラメーターから砲弾の侵徹長を推察するための式を考案した。また、この式の
妥当性を確認するため、第二次世界大戦のドイツの戦車砲のパラメーターをこの式に
あてはめ、実際の侵徹長と比較してみた。
なお、砲弾の種類は、最も単純な運動エネルギー弾であるAP弾について考察した。

[理論]
 砲弾の侵徹長は、運動エネルギー:Eに比例する。運動エネルギー:Eは(1)式
で表せる。
E = 1/2MV ・・・ (1)
E:運動エネルギー(単位:J)
M:砲弾の質量(単位:kg)
V:砲弾の速度(単位:m/sec)
 
 また、侵徹長は、砲弾の断面積:Aおよび装甲の引張強さ:Sに半比例する。
 砲弾の断面積:Aは(2)式で表せる。
A = πD/4 ・・・ (2)
A:砲弾の断面積
π:円周率
D:砲弾の直径(m)
 
 砲弾の侵徹長はこの他に、砲弾の素材の性能(硬さ、耐力、靭性等)に影響
されるが、それらの係数すべて含んだ砲弾係数:Kで表すこととする。
 以上から、砲弾の侵徹長:Hは(3)式で表せる。
H=K・E/A・S ・・・ (3)
H:砲弾の侵徹長(単位:m)
E:砲弾の運動エネルギー(単位:J)
A:砲弾の断面積(単位:m
S:装甲の引張強さ(単位:N/m
K:砲弾および装甲の性能による係数
 
[理論値と実際の侵徹長の比較]
 ここでは、前述した理論値と実際の侵徹長を比較してみる。実際の侵徹長は、
第二次世界大戦中のドイツの戦車砲のデータを使用する。すべてのデータを同一国
のものから使用するのは、砲弾の設計技術や冶金技術のばらつきが少なくなるた
め、砲弾係数:Kが安定するためである。
 砲の種類についてはKWK38/L42,KWK39/L60,KWK40/L48,KWK42/L70,
KWK36/L56,PAK43/L71,PAK44/L55の7種類の砲について、前述した理論式で、
侵徹長:Hを計算してみた。
第二次世界大戦中のドイツの戦車砲のデータと侵徹長を表1に示す。
なお、これらのデータは後述する参考文献および参考WebSiteから抜粋した。
 なお、注意点としては、以下4点である。
1)砲弾の断面積を口径:Dでそのまま計算していること
2)装甲の引張強さに、JIS G 3101一般構造用圧延鋼材SS400の引張強さを使用
していること
3)実際の侵徹長は、砲弾は、Panzergranate.39/42(APCBC弾)を使用し、30度傾
けた均質装甲鋼板に対する射距離100mでの侵徹長であること
4)砲弾係数は、侵徹長の理論値を計算し、実際値と比較して決定したこと
特に、砲弾自身の弾塑性変形や、砲口径イコール砲弾径ではないことなどについて、
本計算では無視をしている。しかし、すべての口径の砲弾で前記の影響は、ほぼ同程度
の比率現れることから、計算の信頼性は低下しないと考えている(すべての砲弾の設計
寸法の比率が同じだという前提条件においてであるが)。
 侵徹長の理論値と実際値は、理論値:実際値の比で0.91〜1.18と良く合うことが
判る。このことから、前述の理論式が妥当であると言える。

[結果と考察]
 砲の侵徹長の実験式は、いくつかあるが、それらは装甲の物理的性質のパラメータ
ーは考慮していない。今回、装甲の物理的性質のパラメーターを含めた理論式を考案
した。また、導き出した理論式の値と第二次世界大戦中のドイツの戦車砲の実際の貫
徹力データと比較した結果良く合うことが判った。
 この理論式に砲の性能のパラメータを入力すれば、それほど大きくない誤差で、
侵徹長が推測できる。
 
[参考文献]
出版元:(株)グランプリ出版 書名:戦車メカニズム図鑑 著者:上田信
[参考WebSite]
アドレス:
http://www.achtungpanzer.com WebSite名:Achtung Panzer!

以上

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