砲身に着弾した弾種は?
硫黄島の大阪山砲台に残る、旧日本軍の砲には、砲弾が着弾し、その砲弾が残っています。この砲弾の弾種はいったいなんでしょうか?弾種を特定するまでに、かわされた情報をまとめました。
●真相
最初に硫黄島大阪山砲台の写真を投稿してくださった「よしひろ」様
から、メールを頂きました。「よしひろ」様は、自衛隊の爆発物処理
[EOD:explosive ordnance disposal]をなさっている方で、今年
の1月〜2月初めにかけて、硫黄島支援[不発弾処理]に行った際に撮
影されたものだそうです。この砲弾は、径が75mmで、砲口から覗くと、
被帽が飛んでいますが、弾体がきれいに残っていることから、戦車砲
の徹甲弾の不発弾だと判断されたそうです。現在の状態では、不発弾
に前進力がかかることもなく非常に安定した状態であり、硫黄島の観
光スポットにもなっており、処理がなされなかったようです。
そして、どうしてあのような浸入孔になったのか、rontgen_kunst様より
解説がありました。以下、軍事掲示板に投稿されたrontgen_kunst様の
解説からの引用です。
*** 引用ここから ***
あの侵入孔破口の角度から察する限り、せん断によって破壊された状態
である事が明白です。つまり、Delayed (Front)Spallという現象こそ、あの
写真の破口生成機構に当てはまるものだと私は信じます。
この現象を若干アナログ的に説明すると、比較的脆く調整されている鋼材
や一部非金属に見られるものあり、侵入孔付近という相互作用面(=弾頭
−装甲相互作用面)にて発生する高圧力を開放する部位がペタリングの
逆方向に近い応力状況になったがために(符号が逆の応力状態になること
が多いです)、その力に耐え切れず、侵入孔付近の部材がほぼ40〜45度の
角度で離脱すること…となります。また、この現象は脆く(=硬く)調整された
鋼材もしくは、一部非金属(Ti等が代表)において良く発生します。
また傍証として、侵入孔付近の組織離脱状態を挙げておきます。
良く観察すると、その侵入孔の漏斗様破口はまるで鱗が剥がれるかのような
ポリゴナル的状態を示していますね? このことから、あの破口は1挙動で
発生したものではなく、比較的ゆっくりと形成された、せん断的組織離脱現象
が多数発生した結果である事が見てとれると思います。このマクロ破面1つ見
ただけで、侵徹現象そのものによって引き起こされたものではなく、侵徹現象
に伴う副次的な現象であることが判るでしょう。
そうです。この現象は侵徹現象中に発生するものではなく、応力開放中。つまり
は侵徹現象終了後に発生するものなのです。
*** 引用ここまで ***
ということで、弾底の形状から75mm戦車砲のM61APC弾(弾種はAPCBC-HE弾
に分類)あたりだと推察され、奇妙な弾痕は、砲身材質によるものだと推察されます。
ちなみに、該当砲は、アームストロング製の15cm砲なんで、全く同じでは
ないのですが、旧日本海軍の砲身の材質と製造方法は、下記URLに
あります。
・砲身の製造方法
http://sus304l.hp.infoseek.co.jp/gun_type/gun_make.htm
抜き出すと・・・
・G8
中小口径砲 内筒用鋼材 成分
C:0.25〜0.35
Si:<0.30
Mn:0.3〜0.7
P:<0.035
S:
<0.035
Ni:1.5〜2.0
Cr:1.0〜1.5
Mo:0.2〜0.4
Cu:<0.20
・内筒の機械的性質
降伏点:≧47[kg/mm^2]
引張り強さ:66〜82[kg/mm^2]
伸び:≧16[%]
絞り:≧25[%]
衝撃値:≧20[ft-lb]
硬さ:≧200HB
加工硬化度B':≧350
旧日本海軍の装甲鋼鈑のデータは、下記URL参照のこと。
・装甲鋼板データ
http://sus304l.hp.infoseek.co.jp/arm_var/arm_data.htm
確かに、当時の装甲鋼鈑と比較しても、機械的性質がかなり
劣りますね。
以上
作成:20030216
更新:20030617